ファシリテーション

(※2022年6月執筆)

 過去に大流行したスペイン風邪などは3年経つと公衆衛生の徹底や集団免疫ができ収まったようですが、新型コロナの感染もようやくピークを越えてきたようです。マスクの着用や海外への渡航制限なども緩和され通常の生活が戻りつつあります。
 そのような中、ロシアが突如としてウクライナに侵攻し、住宅・学校・病院などをことごとく破壊し、多くの罪のない一般市民を虐殺するという国際法にも抵触する前時代的な蛮行を行っています。このような行為に対して世界中から非難の声が沸き上がり、ウクライナへの支援が起きていますが、ロシア国内では多くの国民がプーチン大統領を支持し、さらに世界にはロシアの侵攻を認める国もあります。
エミール・デュルケム 
写真提供 ユニフォトプレス
 フランスの社会学者で教育学の分野においても多大な功績を残したエミール・デュルケムは著書『道徳教育論』の中で「過去や現在を問わず、われわれの教育理想は、その細目にいたるまで、じつは社会のなせる業なのである。われわれが則るべき人間像を画いて見せるのは社会であって、社会組織のあらゆる特性は、この人間像のうちにいきいきと反映されているのである。」と述べています。
 ロシアの侵攻は国際社会のなせる業であります。我々は、世界平和を具現化するには、人間はどうあるべきか社会を通して考えていかなければならないと思います。
 参考までにデュルケムは著書の中で、道徳的な生活の根底をなす基本的なものとして3つの道徳性を上げています。

①規律の精神…………道徳的行為には規則性が認められる。規則には従わなければならない権威があり、人間は自己抑制の義務が必要である。
②社会集団への愛着…道徳的行為は個人を超越した集団目標である。すなわち社会的存在としての活動である。
③自律の精神…………道徳規則には命令性とともに自発性がある。自由意思によって受け容れられることが必要である。

 ロシアの侵攻が早く終了して、ウクライナが平和な生活を取り戻すことを、切に願っています!!

 さて、今回は前回の中で出てきた教師のファシリテーションの在り方について、実践事例をもとに進めていきたいと思います。

1 ファシリテーション

「今回は宿題となっていた道徳の授業におけるファシリテーションについて考えていきましょう。」
道子「ロンドン大学の教育研究所に留学した先輩が、これからの先生は教えることよりも生徒の学びを支える良いファシリテーターにならなければいけないと話していました。」
「皆さんはどう思いますか。」
真理「学習指導要領が求める『主体的・対話的な深い学び』を進めていくには、ファシリテーションは必要なスキルだと思います。」
「ファシリテーターは会議や議論がうまく進むように、議事の進行を管理する人のことだから、生徒が『対話的な学び』を行うためにはファシリテーションは必要な授業技術だが、道徳の授業にいつも必要とするかな……?」
「響君が言うように、ファシリテーションは会議を効果的に行うための働きかけのような支援をする技術のことですが、現在では幅広い分野で応用されています。教育の分野では、学習において生徒が持つ考えや能力をうまく引き出したり、こんなことをやってみたらどうですかと投げかけたりして学習の進行を促進する技術として使われています。」
道子「進行を促進する技術以外にどのようなものがありますか?」
「以前学んだ話し合いのルールや進め方(Vol.16を参照)を設定することもそうではないかな。」
「そうですね。ほかにありますか。」
「コミュニケーションスキル!」
真理「コミュニケーションは、先生にとって当然必要なスキルでしょ。」
「……。」
「確かに生徒に問題を投げかけ対話したり、生徒の活動や発言を称賛したりする声かけは大切ですね。」
道子「コミュニケーションスキル以外にはどのようなものがありますか?」
アーヴィン・D・ヤーロム 
写真提供 ユニフォトプレス
「生徒が学習しやすい活動形態、班活動のメンバーや人数、活動時間などの設定をすること。そして、生徒の学習活動を支援し促進していくために、構造化された学びのプログラムの作成などがあります。スタンフォード大学の精神医学者であるアーヴィン・D・ヤーロムはファシリテーターの役割として、次の4点を挙げています。
1.配慮(支援、受容、関心、賞賛)
2.意味づけ(説明、解釈、枠組みの提示)
3.情緒的刺激(自己開示を迫る、挑発)
4.実行機能(目標設定、時間管理)
この4点で、1と2は徹底するが、3と4は無理強いをしないと述べています。」

2 事例研究

「それでは実際に授業でどのようにファシリテーションすればよいか考えてみましょう。皆さんは『夜のくだもの屋』という教材を知っていますか?」
「合唱コンクールの練習で遅くなり、暗い夜道を一人、合唱曲を歌いながら下校する女子中学生に対して、店を開けて道を明るく照らしているくだもの屋さんのおばさんの心温まる話ですね。」
真理「思いやりへの感謝を主題にした教材です。」
「一般的に道徳科の授業は、まず教材を読み、教材の内容について考え、話し合い、主題とする価値に気づき、納得し、自己を振り返り、自覚を深めますが、この流れの中でどのようにファシリテートするか考えてみましょう。」
道子「教材を読むときは先生が範読して、生徒は黙読しますが、何かすることがあるのかな……。小学校では場面絵を黒板に貼ったりしますが。」
「それは教材への関心を高める配慮ですね。範読する前に中学生の少女とくだもの屋のおばさんの絵を貼り、二人に注目して読むように指示すると二人の関係について理解が深まりますね。」
真理「なるほど、主題について考えるヒントになる!」
「発問についてグループで話し合うときのルールを決めておくこと以外にどのような支援があるかな?」
真理「班の人数を4人にすると活動に参加しない生徒がいなくなると実習で学びました!」
「生活班からメンバーの構成を考えて新たに道徳の学習班をつくることもあります。」
道子「主題とする道徳的価値に気づかせ、納得させるにはどうすればよいですか?」
「中心発問としてくだもの屋のあかりの本当の理由を知ったときの少女の気持ちを考えたり、話し合ったりすることでねらいに迫りますが、生徒の理解力や発達の段階などにより難しいことがあります。そのために、補助発問として夜道を一人歩く時の気持ちやくだもの屋のあかりを見た時の少女の気持ち、そして見舞い物を買いに行ったとき少女が思わず息をのんだ理由などを用意します。また、ワークシートに友だちの意見の欄を作り、話し合いで良いと思った友だちの意見を書かせることにより、自分とは違う考えがあることや自分の考えの問題点に気づかせたり、道徳的価値とそれにもとづく道徳的行為に納得させたりすることもできます。」
道子「自覚を促すために、展開の終盤で自分自身の考えや行為を内省させることがありますが、授業が白けてしまいます。どうすればよいでしょうか?」
F・コルトハーヘン 
写真提供 ユニフォトプレス
「反抗期の中学生に『あなたはどうですか』と自己開示を迫る取組はヤーロムが述べる情緒的刺激であり、無理強いする必要はないでしょう。それよりも、『人の思いやりに気づくには何が大切か』と中心発問とは別視点から考えさせるような工夫をするとよいでしょう。最近、ユトレヒト大学のF・コルトハーヘンが述べるリフレクション理論の『Do』『Think』『Feel』『Want』の視点で授業を振り返らせ、自分に求めること(Want)を『今日学んだこと生活の中でどう生かしたいと思いますか』と考えさせる方法も使われています。」

 今回の「ファシリテーション」はいかがでしたでしょうか。多くの先生方は意識せずに行っていることもあると思いますので、一度あらためて授業を振り返ってみてはいかがでしょうか。なお、最後に取り上げたコルトハーヘンの「リフレクション(振り返り)理論」は、教育(評価、教員の授業力の向上など)、看護、保育、スポーツ、企業の人材育成など様々な場面で、より深い、より主体的な学びを引き出す方法として近年活用されています。

【参考文献】

  • 「道徳教育論」著:エミール・デュルケム/訳:麻生 誠、山村 健/講談社学術文庫/2010年5月13日
  • 「図解 組織開発入門 組織づくりの基礎をイチから学びたい人のための「理論と実践」100のツボ」著:坪谷邦生/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2022年2月18日
  • 「リフレクション入門」編:一般社団法人 学び続ける教育者のための協会(REFLECT)/著:坂田哲人、中田正弘、村井尚子、矢野博之、山辺恵理子/学文社/2019年1月30日

コロナから学んだこと

(※2021年5月執筆)

 新型コロナの感染が落ち着いたように思いましたが、変異種がまた全国的に流行し始め、各地で非常事態宣言やまん延防止等重点措置が出されています。そのような中、皆様はいかがお過ごしでしょうか。今回の流行は10代の子どもにも感染が広がっているようですので、ご注意ください。
 私が勤務する早稲田大学は、昨年はいち早く全授業をオンラインで実施することになり、その対応に右往左往していました。今年は7割の授業は対面で実施することになり、感染の恐怖におびえながら授業を実施しています。
『肥後国海中の怪(アマビエの図)』
(京都大学附属図書館所蔵)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000122/explanation/amabie
 人間はペスト・天然痘・結核などの感染症に対して、昔は無力でどうすることもできず、ただ神に祈って病気退散を願っていました。しかし、科学の進歩とともに病原菌に打ち勝つ方法を開発して、感染症を克服してきました。いつ感染するか心配しながら新型コロナウイルスとともに生活する「Withコロナ」はこりごりです。早く新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬が開発され、平癒されることを多くの人々が願っていると思います。
 さて、そのような状況において中断されていた「学び!と道徳2」をこの度再開することになりました。今回も「早稲田大学道徳教育研究会MOS」の3人(道子、真理、響)に参加してもらい、ともに考えながら進めていきますのでご期待ください。

1 全体道徳

「昨年はオンライン授業で皆さんと対面で話したり、学んだりすることができませんでしたが、今年は授業とともにMOSなどの活動も対面で行うことができるようになりました。また、楽しく道徳を学んでいきましょう。」
道子、真理、響「よろしくお願いします。」
「皆さんは学年や学校全体で道徳の授業を受けたことがありますか。」
「3年生の時、校長先生が授業をしてくれました。」
「どんな内容でしたか。」
「高校受験を前に目標に向かって頑張ることの大切さ、『克己』がテーマでした。校長先生のお話を緊張して聞いていたので内容はあまり覚えていません。」
真理「眠っていたのでは……。」
「校長先生の前では眠れません!」
「昨年の9月、ある中学校で頼まれ全生徒に道徳の授業をすることになりました。しかし、コロナで全校生徒が集まって授業をすることは、危険だということで、学年ごとに授業を行いました。授業のテーマは『新型コロナウイルスから学んだこと』で、コロナ患者に対する思いやりや医療従事者への感謝をねらいにしました。

 授業は私から一方的に話をするだけではなく生徒たちに質問を投げかけ発言を促して、コミュニケーションを取るようにして、生徒たちが主体的に授業に参加するような雰囲気づくりに心がけました。また、生徒たちが発言しやすいように座席が扇型になるような工夫もしました。時には先生方の意見も聞いてみました。」
「全体の中で生徒は発言しましたか。恥ずかしがって発言しないのでは……。」
「初めは恥ずかしがっていましたが、授業が進むにつれて運動会のクラス対抗競技のように発言するようになりました。」
道子「私も先生の授業を受けてみたいな。」

2 利己と利他

「授業はまず、コロナの感染防止のために『自粛』ということが叫ばれましたが、自粛とはどのようなことであるか聞いてみました。」
「自粛は、自ら進んで行いや態度を慎むことです。」
「それでは新型コロナウイルスの対応で、私たちはなぜ行動を自粛するのでしょうか。」
「コロナにかかりたくない、死にたくない、コロナにかかると入院して自由がなくなる、部活動に参加できなくなる、学校に行けなくなるなどです。」
真理「自分がかかって祖父母にうつしたくない、家族に心配をかけたくない、コロナを広めたくない、人に迷惑をかけたくない、自分のために学校が休みにしたくないなどです。」
「響君と真理さんの自粛の理由には違いがありますが、わかりますか。」
道子「響君の自粛は、自分のために自粛することで、真理さんの自粛は他の人のために自粛することだと思います。」
岡山県「ダメ!コロナ差別」啓発キャンペーン「そうですね。自分の利益のために行動することを『利己』といい、他者や社会の利益のために行動することを『利他』といいます。今回の新型コロナウイルスの流行とともに利他的な考えや行動が注目され始めています。その事例として、わが身への感染を恐れず新型コロナウイルスの治療に携わる医療従事者がいます。しかし一方ではコロナ患者と同様に医療従事者に対する差別や偏見の問題があります。患者を救うために働いている人々を差別するのでしょうか。」
真理「医療従事者はコロナに感染しているかもしれない。もし感染していたらうつされるのでそばに来るなという利己的な考えの現れだと思います。」
「そういえばコロナ患者が入院している看護婦さんの子どもが保育園で預かりを拒まれたというニュースがあった。」
「皆さんは『自粛警察』という言葉を聞いたことがありますか。」
真理「遅くまで開いている飲食店を取り締まる自警団のような活動のことです。」
「なぜそのようなことをするのでしょうか。」
真理「コロナ感染を広げないためにという利他的な考えからだと思います。」
「そうかな? コロナが流行したら自分も感染するから取り締まるという利己的な考えではないかな。」
「利己と利他は対義語のように見えます。しかし、『自粛警察』のようにコロナの無い社会を作るという一見すると利他的な行動には、自分だけはコロナに罹りたくないという利己的な考えが潜んでいます。」
道子「人間には利己と利他の両面を持つということですね。」
「そうですね、人間には自分のことばかり考え行動するような利己的な面と他者のために行動するような利他的な面があります。道徳教育を通して利他的な心を育てたいですね。」

3 共感と感謝

「それでは医療従事者は差別や偏見を受けながらも、なぜ自分が感染してしまうような危険を冒してまで利他的な行動をするのでしょうか。」
「医療従事者としての使命感や責任感からだと思います。」
真理「苦しんでいる患者を放ってはおけない、助けたいという思いからだと思います。」
道子「人間愛ではないかな……。」
横山令奈様 提供「授業では最後にコロナ患者の治療に奔走する医療従事者の行動について考えさせました。そのために医療従事者が働く病院の屋上でヴァイオリンを演奏する横山令奈さんの動画を見せました。横山さんはヴァイオリンの勉強のためにイタリアのクレモアに留学し、現在は演奏家として活動するとともに、クレモアを代表するヴァイオリニストとして市の観光プロモーションにも参加しています。コロナが大流行してクレモアの町全体が静まりかえっている時、観光協会からヴァイオリンの演奏で皆を励まして欲しいと頼まれ、市の許可を得た上で、大聖堂の鐘楼で演奏しました。その演奏を偶然通りかかった病院関係者が聴き、病院でも演奏して欲しいと頼まれ急遽実施したそうです。」
「その演奏をYouTubeで見ました。コロナ患者を収容するテントを眼下に見ながら演奏する横山さんを見つめる医療従事者たちの姿と演奏したモリコーネの『ガブリエルのオーボエ』がとても感動的でした。」
「演奏の様子を実際に授業で見せると、中学生たちも食い入るように真剣に聞いていて、中には涙ぐむ生徒もいました。音楽が持つ力を改めて再認識しました。響君、立派な音楽の先生になってください。
 視聴後、中心発問『横山さんはどんな思いで演奏を引き受け、ヴァイオリンを弾いていたのだろうか』に対して、ワークシートに自分の考えを記入させてから意見の共有をしました。皆さんは、生徒たちがどんな意見を発表したと思いますか。」
「医療従事者に対するお礼、感謝です。」
真理「医療従事者への応援もあると思います。」
道子「医療従事者の行動に対する共感と自分も互いに助け合い苦難を乗り越えていきたいという考えだと思います。」
「その他に医療従事者の行為に対する感動、差別や偏見をなくしたいという思い、早くコロナが収束して欲しいなど多様な意見がワークシートに書かれていました。学年全体で行う道徳の授業では参加者が一体となって考え、発表者の意見を真剣に聞いているように感じました。皆さんも一度挑戦してみてください。」
道子「先生のように上手にファシリテートできるか心配です。」
「先生が話すのではなく、生徒の考えを引き出すようにしていけばいいと思います。」
「難しい!」
「そのことは次回の勉強にしましょう。」

 コロナ禍で対面の授業をすることが難しい中、学年の生徒・先生が一堂に集まって授業をする機会を与えていただいた学校・校長先生に感謝します。生徒みんなが同じテーマを考え、互いの意見を共有しながら道徳性を深めていく授業の素晴らしさを痛感しました。
 コロナの流行のために、経済の停滞、医療の崩壊、福祉の破綻など様々な社会問題が起こっています。デュルケムが提唱するように社会学の視点から道徳教育を考えることも忘れてはならないと実感しています。

第3回中学校道徳教育セミナー

 記録的な暖冬で東京では梅の花や河津桜などが咲き、例年より早く春の訪れを感じます。「一月往ぬる二月逃げる三月去る」といわれる様に時間はアッという間に過ぎ、学校では3学期もわずかとなりました。先生方は3年生の進路指導、学期・学年評定の作成、卒業式の準備、さらに学校評価、新年度の準備など多くの仕事を抱えて多忙な日々を過ごしておられるのではないかと思います。そのような中、政府は新型コロナウイルス感染拡大防止のために学校の臨時休校を要請しました。その対応のために、先生方はさらに多忙になられると思われます。インフルエンザなどとともに罹患しないようにご自愛ください。
 さて、前回予告したように今回は、1月19日に早稲田大学で実施された第3回中学校道徳教育セミナーについて報告します。今回は大学院の授業の関係で日曜日に実施することになりました。遠方から来られる先生方には参加しづらいのではないかと心配していましたが、定員60人をはるかに上回る80人のお申し込みがあり、当日は77人の参加がありました。参加者の中には毎回参加しているリピーターもいて、セミナーへの期待を感じました。
 セミナーの内容は、午前中に二つの模擬授業と実践報告、午後には島先生の講演と三つの分科会と盛沢山でしたが、「1,000円の参加費でこれだけ学べるのはありがたい」と喜んでいる先生もいました。前回同様に、早稲田大学道徳教育研究会(MOS)の院生がセミナーを主催し、当日の企画と運営を行うとともに、分科会では院生たちの取組も発表する機会をいただいて学びを深めることができました。
 MOSのメンバーとして活動した道子、真理、響の感想をもとに「第3回中学校道徳教育セミナー」について報告したいと思います。

1 模擬授業

「第3回中学校道徳セミナーご苦労様でした。今回もMOSがセミナーを主催し、企画運営しましたが、実際に活動してみてどんなことがありましたか。」
道子「今年から教科となったためか、参加されていた先生方がセミナーに求めるものがより実践的な内容になったと感じました。先生方の質問や意見が授業実践に基づいたものが多く、司会をしていた私がたくさん学ばせていただきました。」
「今回はそのような先生方に対して二つの模擬授業を企画しました。一つは筑波大学附属中学校の多田義男先生の授業、もう一つは福島県会津若松市立第六中学校の中島誠太郎先生の授業です。参加されている先生方が生徒役になり、実際に授業を受ける体験をしてもらい、実践報告で授業を振り返ってもらうようにしました。」
真理「私は多田先生の授業に参加しました。『相手の気持ちを考える(内容項目 相互理解、寛容)』を主題として、教材『言葉の向こうに(文部科学省 中学校道徳読み物資料集/日本文教出版 中学道徳 あすを生きる3)』を用いて授業をしました。導入では自分の思いが相手に伝わらなかったことを数人に聞いた後、教材を読み、発問『主人公が忘れていた大事なことは何か』を考えさせてから隣の人と意見交換させた後、中心発問『相手に思いを伝える時に大切にしなければならないこと』について4人のグループで話し合いをさせ、結果を全体で共有しました。最後に今日の授業で気づいたことや学んだことをワークシートに書いて終了しました。」
「教材はネットでのトラブルを題材にしたものですね。多田先生は授業でどんな工夫をしていましたか。」
真理「教材を読んだ後、あらすじなどを確認するのではなく、すぐに教材についての感想を聞くことにより教材が取り上げている問題を把握させていました。」
「発問は2問ありましたがどんな工夫をしていましたか。」
真理「初めの補助発問は中心発問につなげる発問でした。両発問ともまず自分の考えをワークシートに書かせた後、補助発問では隣の人とのペアワークで意見交換を、中心発問では4人のグループワークで話し合いをさせていました。ともに話し合いの結果は全体に共有するようにしていましたが、補助発問は多田先生が聞いてポイントを板書し、中心発問では班ごとに小さなホワイトボードに考えを書かせ黒板に貼り出し、主題に迫る考えを引き出していきました。」
「他に指導上で気づいたことはありましたか。」
真理「多田先生は生徒の意見への対応がとても上手だと思いました。必ず理由を聞いたり、コメントを加えたり、他の者へ広げたりしていました。私も見習いたいと思いました。」
「道徳では生徒の発言への対応の方法として、広げる『同じ意見の人は』深める『どうしてそう思うの』揺さぶる『他の意見はある』投げかける『…のような意見はある』があります。また、カウンセリングを応用して、発言をなぞったり、促したり、言い換えたり、さらに気持ちを汲んであげる方法もあります。中島先生の授業はどのような内容でしたか。」
「教材『いのちをいただく』を用いて、『いのち(内容項目 生命の尊さ)』を主題にした授業でした。この授業の一番のポイントは絵本『いのちをいただく』(文:内田美智子、絵:諸江和美、発行:西日本新聞社)を教材化したところです。教材のあらすじは、食肉加工センターで働く坂本さんのもとに、おじいさんと女の子が飼っている牛を連れてくる。坂本さんは複雑な気持ちで牛の命を奪う。おじいさんに諭され、女の子は泣きながら牛の肉を食べるという内容です。女の子がかわいがっていた牛の肉を食べるときの気持ちを考えるとかわいそうで涙ぐんでしまいました。」
「教科指導は主たる教材である『教科書』を用いて行うことが基本ですので、良い教材を使うことが大切です。教材にもいろいろな種類がありますが道徳では読み物教材が多いです。読むことにより道徳的な疑似体験して道徳性を養いますが、より直接体験に近い読み物教材が望ましいです。涙がひとりでに流れるような心に響く体験ができる教材です。」
「中島先生は絵本の文を教材とするとともに、絵を場面絵として活用していました。また、授業前や生徒がワークシートに書いているときにBGM『手紙(上松美香)』を静かに流して雰囲気作りをしていました。」
「授業の展開はどのようでしたか。」
「導入で絵本を紹介してから、二つの補助発問『女の子はどんな気持ちで牛のお腹をなでていましたか』『坂本さんはどんな気持ちで牛をなでましたか』について答えさせた後、中心発問『どんな思いで、女の子は食卓についたのかな』では、ワークシートに自分の意見を書いてから班で意見交換しました。最後に、『今日の授業で命について気づいたこと、学んだこと、考えたこと』をワークシートに書きました。」
「補助発問で牛の命を奪うことについて、女の子の視点と坂本さんの視点から多面的・多角的に考えさせることで命の尊さへの理解を深めていますね。」

2 講演

「今回も畿央大学の島先生の講演がありましたが、どのようなことを述べられていましたか。」
道子「『考え、議論する道徳の実現に向けて』というテーマでお話がありました。道徳科では、中学生にとって分かりきったことを聞く授業、登場人物の心情理解を中心として国語のような授業が行われているという課題があると指摘されていました。」
「島先生は、道徳科ではどのような授業を行えばよいとお話になっていましたか。」
道子「『考え、議論する道徳』とは生徒が自ら考え、友達と話し合い考えをさらに深めていくこと、つまり学習指導要領で求められている『主体的・対話的で深い学び』のある授業であると述べられていました。先生から教えられる受け身の授業ではなく、生徒自身がどう在るべきか・どう生きるべきか考え、納得できる答えを発見し話したくなるような能動的な学びが生まれるような授業を行うことが大切だと述べられていました。また、学びには人と人との間で行われる対話が必要であるが、学びの無い話し合いにならないように注意してほしいとも話されていました。」
「そうですね、ただ話し合いをして何も学びの無い授業を時々見かけます。学びがある授業をするためにはどうすればよいと述べられていましたか。」
道子「先生は『学びをデザイン』『問いをデザイン』『環境をデザイン』が大切だと述べられていました。『学びをデザイン』とは、道徳性を育てるのが道徳であることを外さない、教師がゴールを持つ、発達の段階をしっかりと考えるということ。『問いをデザインする』とは、思わず考えたくなる問いと必然性を、問いを示すめあてで授業に1本の軸を、しっかり追及させて生徒の手柄にということ。『環境をデザイン』とは、友達の考えに関心を寄せる集団づくり、教師は陰の最大の理解者となり役割を演じる、普段から育てて道徳科で確かな認識にということです。先生はこのことを教材『二通の手紙(文部科学省 私たちの道徳 中学校/日本文教出版 中学道徳 あすを生きる3)』を用いて具体的に解説されました。教材のねらいは、『規則を守るという道徳的価値を自覚させる』であり、そのためには、『元さんがこの歳になって初めて考えさせられたことは何か』という中心発問を通して、規則は命を守るために自分たちが作ったものであるから、固すぎるのではなく、固くしたものであることに気づかせることが重要である。さらに、広く深いつながりの中で生きている中学生には自分の弱さについても考えさせることが大切である。また、生徒からキーワードを引き出し、考えを引き出してほめるような教師のファシリテートや、上を見て自己を見つめ、横を見て友達と対話できる集団作りも道徳科には必要であると述べられていました。」

3 分科会

「反転学習とドラマによる主体的・対話的で深い学び」
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「分科会は『つくろう分科会』『みとろう分科会』『ひろげよう分科会』に参加者が分かれて実施しました。初めにMOSで研究に取り組み、本年度代表をしている矢野雄大君が第94回日本道徳教育学会で発表した『反転学習とドラマによる主体的・対話的で深い学び』を各グループ内で発表しましたがうまくできましたか。」
「僕は指導案の検討やMOS内での授業には参加しましたが、実際に中学校で実施していないので、塾や部活で忙しい中学生は反転学習をやる暇があるか、ルーブリックを事前に与えてどのような効果があったかなどといった具体的な質問に答えられなくて困りました。」
真理「私のグループでは役割演技に取り組んでいる先生がいて、ドラマと役割演技の違いを聞かれ、詳しく説明ができませんでした。」
道子「私たちの発表は研究を実践と往還したものにしなくてはいけないと思いましたが、各グループで話し合いをする雰囲気づくりにはなったと思います。」
「皆さんの発表後、講師の先生の下に分科会が行われましたが、どんなことが行われましたか。」
「僕は『つくろう分科会』を担当しました。この分科会は麗澤大学の鈴木明雄先生を講師に道徳科の発問づくりについてグループワークを行いました。吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』の中から『石だんの思い出』を教材として、学習指導案を各グループで作成し、全体で発表してから、鈴木先生よりご指導・助言をいただくという内容でした。MOSのメンバーがグループの司会をすることになっていましたが、僕は発表もすることになり、とても緊張しました。」
「それは貴重な経験でしたね。先生になると生徒はもとより保護者や地域の人々の前で話す機会が多くなります。『みとろう分科会』はどのようなことを行いましたか。」
真理「『みとろう分科会』は筑波大学附属中学校の多田先生を講師に、道徳科の評価の在り方について考えました。まず、本年度より実施された道徳科の評価を先生方はどのように行っているか情報交換をしました。先生方のご苦労されている様子がうかがわれ参考になりました。その後、実際に評価文を作成するグループワークを行いました。午前中に行った模擬授業『言葉の向こうに』における生徒の様子を基に評価文を作成したのですが、字数が決められた中で、学習状況の様子と成長の様子をともに記入するという課題が出され、先生方は苦労していました。」
「心の中の道徳性は見えないので、授業における生徒の学習状況と発言や反応などのパフォーマンスを評価することになりますね。『ひろげよう分科会』はどのようなことを行いましたか。」
道子「『ひろげよう分科会』は福島県二本松市立渋川小学校の渡邉真魚校長先生を講師として、道徳教育を学級・学年はもとより学校全体に広げていくにはどうすればよいか、さらには他校種や家庭地域との連携の在り方、そして、道徳教育を推進していくための校内システムをどのように作るかなどについて考えました。この分科会は参加者が10人ほどでしたが皆熱心に話し合っていました。また、講師の先生から全校道徳や保護者と連携した道徳の授業、道徳だよりや学校だよりなどの広報活動など貴重な実践報告があり、とても参考になりました。」
「道徳教育を推進していくためには欠かせない視点ですね。最後に第3回中学校道徳教育セミナーを行ってどのようなことを思いましたか。感想を述べてください。」
「自分の未熟さを感じました。もっと勉強しようと思いました。」
真理「本当に勉強するの? 私は先生方の道徳への意気込みがすごいと思いました。私も先生方に負けず、授業力を身につけたいと思いました。」
道子「私は道徳教育や道徳科の奥深さを感じました。今後も研究テーマとして学んでいきたいです。」
「最後に参加者の多くの先生方から、皆さんの活動についてお褒めの言葉をいただきました。ご苦労さまでした。」

 第3回中学校道徳教育セミナーの報告はいかがでしたでしょうか? 次回のセミナーでまた先生方と再会できることを楽しみにしていますので、多くの先生方の参加を願っています。
 次回「学び!と道徳2」は道徳科の様々な指導方法について取り上げていこうと考えています。ご期待ください。

道徳科の学習 ―話し合い活動―

 12月になりましたが、先生方は師走の字のごとく多忙な日々を過ごしておられるのではないかと思います。今年は、5月には元号が平成から令和に変わり、秋には記録的な台風が何度も襲来して各地で大きな被害を出すなど大きな出来事が続きました。
 道徳教育においても「特別の教科 道徳(道徳科)」が中学校で始まるという歴史的な1年となりました。そのような中、11月になって連続して道徳の校内研修会に講師として呼ばれ、道徳科における「話し合い活動」をテーマに話すことになりました。昨年や一昨年の研修会では、教科となる道徳科の意義やねらいなどのテーマが中心でしたが、今年になり指導や評価の方法など具体的・実践的なテーマが多くなりました。これは各学校において道徳科が実施され、様々な課題が見えてきたのが理由ではないかと思われます。この本連載もそのような先生方のお役に少しでも立てればと考えています。
 そこで今回は、道徳科の学習における「話し合い」について考えていきたいと思います。「話し合い」といっても、学習指導要領などでは「議論」「討論」「対話」など様々な言葉が使われています。それぞれをどのようにとらえ、実際の授業ではどのような学習を行えばよいか述べたいと思います。

1 道徳科における「話し合い」

「岡田先生。道徳科の学習は『考える道徳・議論する道徳』であるとよく耳にします。しかし、学習指導要領には『自分の考えを基に討論したり書いたりするなどの言語活動を充実すること』とあり、『議論』ではなく『討論』という言葉で書かれています。なぜ『討論する道徳』と言わないのですか?」
真理「学習指導要領の解説には、『協働的に議論したり』『互いに建設的な議論をする』と『議論』という言葉も使われているよ。」
「すごいことに気づきましたね! 皆さんは『討論』というとどのようなイメージを思い浮かべますか?」
「『討論会』です。自分の考えを述べ話し合いをするようなイメージです。」
道子「私の社会科では『ディベート』です。アマゾン川流域のジャングルを開発するか、保存するかのような問題を開発派と保存派にクラスを二つに分けて討論します。」
真理「数学では『討論』よりも、この問題はどのようにして解けばよいか話し合います。どちらかというと『議論』というイメージだと思います。」
「道徳の授業において話し合いとはどのようなものであるか考えてみる必要がありそうですね。道徳の時間が創設された昭和33年の中学校学習指導要領の第3章第1節第2内容の出だしには『道徳教育の内容は、教師も生徒もいっしょになって理想的な人間のあり方を追求しながら、われわれはいかに生きるべきかを、ともに考え、ともに語り合い、その実行に努めるための共通の課題である。(下線は筆者)』とあります。道徳の時間では、先生も生徒もいっしょになってどう生きるか考え、みんなで『語り合い』をするような授業を実施しなさいということです。」
真理「『話し合い』は考えの結論を出すが、『語り合い』は結論を出すことよりも考えを深めていくために行われるのではないかと思います。」
「恋人が語り合えば愛が深まるが、話し合えば今後も付き合うか別れるかの結論を出すということか!」
「愛とはすごい例ですね。どう生きればよいかというような哲学的な問題に対しては、そんなに簡単に答えが出せるものではありません。プラトンは哲学を『対話』の形で語っていますが、道徳でも教材や資料との対話、自分自身との対話、そして、先生や友達と対話を通して道徳的価値について理解を深めていくことが大切です。」
真理「しかし、最終的にはどうすればよいか決めなければいけないと思いますが?」
「そのことについては、道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議の報告『「特別の教科 道徳」の指導方法・評価等について』の3.道徳教育の質的転換の中に『将来の変化を予測することが困難な時代には、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要になる。そのためには、自らの人生や社会における答えが定まっていない問いを受け止め、多様な他者との議論を重ねて探求し、「納得解」(自分が納得でき周囲の納得も得られる解)を得るための資質・能力が求められる。』と述べられています。つまり、いろいろな考えを持つ人々と『議論』をして、自分はどうするべきか道徳的価値への自覚を促し、自分もみんなも納得できる答え(納得解)を創り出すということです。当然、この『議論』は社会科のディベートのようにAかBかどちらかに勝敗を決めるような話し合いではなく、みんなが自分の考えや見方を述べ、話し合って、答えを探し出すような話し合いです。」

対話 talk, dialogue
 お互いの考えを知る、思考を交流し共通理解を進める、哲学的な思考
  →道徳的価値の理解を深める
議論 discussion, argument
 意見を論じ合う、意見交換をして結論(納得解)を出す
  →道徳的価値の自覚を促す
討論 debate, discussion
 意見を戦わせる、異なる意見について勝敗を付ける

2 話し合い活動の方法

道子「授業では実際にどのように話し合い活動をすればいいですか?」
「話し合いの形態としては、『先生と生徒』、『生徒間』、『学級全体』の三つあると思います。先生と生徒の話し合いでは、ソクラテスが弟子のプラトンたちと行った『ソクラテスメソッド』が古典的な話し合い方法ですが有名です。先生が質問を続けることにより、生徒から答えを引き出したり、生徒の理解を深めたりする方法で産婆術ともいわれています。イギリスの学校では理科や数学の時間によく使われているようです。」
「禅問答みたいな方法かな。」
「そうですね。ソクラテス式問答法ともいわれています。道徳においても先生が質問して、生徒の発言に対してさらに質問をする『切り返し』といわれる方法があります。
①深める切り返し 「どうしてそう思うの」「もう少し詳しく説明してください」
②広げる切り返し 「同じ意見の人はいますか」
③揺さぶる切り返し 「反対の意見の人はいますか」「他の意見はありませんか」
④投げかける切り返し 「~のような意見の人はいないかな」
の『切り返し』があります。②③④の切り返しは、話し合いを学級全体に広げるのに有効です。また、④の切り返しは、予想していた意見や主題となる考えが生徒から出なくて困ったときに使うといいです。」
「先生も自分の考えを語ってよいのですから、今度実際に使ってみよう!」
真理「初めから投げかけたら、価値の押し付けになるわよ。」
「……。」
真理「指名しても恥ずかしがって、答えてくれなかったり、小さな声でボソボソ答えたりする生徒にはどうすればいいですか?」
「発言しやすいい学級の雰囲気を作ることが一番大切ですが、カウンセリングの手法を使うこともよいでしょう。心理学者のトマス・ゴードンの『親業』では子どもの発言に対しては、子どもが発言しやすくなる受動的な接し方と子どもの心を開く聞き方があると述べています。具体的には、
①受動的な聞き方
・生徒のそばに寄り添う、生徒を見る
・黙って発言を聞く、途中で割り込まない
・微笑む、うなずく、驚く (表情や身振りで表す)
・相槌を打つ、ほめる 「なるほど」「そうなんだ」「すごい」
②能動的な聞き方
・発言を繰り返してあげる、なぞる
・生徒の気持ちを酌み言い換えてあげる 「~というようなことだね」
・発言をさらに促す 「それでどう思うの」「もっと話して」
のような方法があります。」
道子「生徒とのコミュニケーションの取り方も話し合いの重要な視点ですね。」
「次に生徒間の話し合いについてです。『バズセッション』と『グループワーク』があります。『バズセッション』は座ったままで隣の人や前後の人と意見交換する方法で、班を作らず短時間でできる良さがあります。『グループワーク』は班を作って話し合いを行いますが、全員が参加して意見を言えるには4人班が良いといわれています。しかし、このような活動は時間がかかることを留意して実施してください。また、生徒たちの多くはグループワークを行うと他の班ではどのような意見が出たのか気になるようですので、学級全体で共有することも大切になります。
 最後に学級全体で行う話し合い活動です。先ほど道子さんから社会科で行われた『ディベート』が紹介されましたが、道徳の授業でも実施されることがあります。教室を半分に分けて向かい合って座って意見を述べるときと、コの字型に座り左右の間に座る生徒が左右の意見を聞いて最終的にどちらがよいか判定する方法(写真参照)があります。道徳の授業では勝敗をつけるよりも理解や考えを深めることが目的なので、各人の心情の変化に着目したいですね。最近、P4C(philosophy for children 子どものための哲学)という新しい授業の方法が実施され始めています。道徳的諸価値に対するテーマを一つ決めて、全員が椅子で輪を作って話し合いをします。話し合いの形が円形になるので、サークルゲームとも言われています。」
「みんなが丸くなって、一つのテーマについて話し合うなんて、学級が一つになるような感じがしますね!」

3 話し合い活動の工夫

真理「実際に話し合い活動をさせると話し合いが進まないとか、話し合いに参加できない生徒がいるなどの問題が起きます。うまく話し合いをさせるにはどうすればいいですか?」
「急に話し合いをしなさいと言っても生徒たちは何を話していいか困惑してします。班によっては私語をするところも現れます。話し合いの前には必ず個人考察させることが大切です。その時、自分の考えをワークシートや付箋に書かせておくことも上手く話し合いをさせるポイントです。また、話し合いを円滑に進めるためには話し合い活動をする前に、司会者・発表者・記録者などの役割を決めさせたり、話し合いのルールを決めたりしておくことも重要です。MOSの先輩は、次のようなルールを書いたカードを話し合いの前に生徒たちに配布していました。

★司会カード★
話し合いの流れ
①司会者「これから自分の考えを発表してください。○○さんお願いします。」
②発表者が順番に発表する。※話し合いを深めるために次のキーワードを使おう!
 キーワード
 発表者に対して
  ・「もう少し詳しく教えて?」
  ・「なぜそう思ったの?」
 聞き手に対して
  ・「今の発表を聞いて、○○さんはどう思う?」
  ・「今の発表を聞いてみんなはどう思う?」
③司会者「他に質問があればお願いします。」
 ①②を繰り返す
④最後に司会者が自分の考えを発表する。
 発表後、司会者「私はこのように考えましたが、みんなはどう思いますか?」

☆聞き方カード☆
①友達の発言を最後まできちんと聴こう。
②話す人の立場になって、その言葉によりそって聴こう。
③友達の発言に耳を傾け、しっかり受け止めよう。
④質問や意見についてどう思うかなどを積極的に発言しよう。

話し合いで出た多様な意見をワークシートや小型のホワイトボードなどに記録させて班内で共有させるとともに、学級で発表させて学級全体で共有させるようにもしましょう。」
真理「話し合い活動をする授業を計画するにあたり、考慮しなければならないことはありますか?」
「授業の展開を考える時、どこでどのような話し合いをさせるか、話し合いの時間はどのくらいとるかなどを考えることです。特に班によるグループワークは、班づくりや話し合いに時間がかかります。50分間で授業をするには、グループワークは主題に迫る中心発問の1回だけにして、他の補助発問ではバズセッションで短時間に意見交換を行うような工夫が必要だと思います。」
「今日はとても勉強になりました。早速実践してみたいと思います。」
「授業力の向上には実践が一番です。計画したことを実際に行って、評価して、改善するPDCAサイクルを実施してください。」

 今回は話し合い活動についての具体的な指導方法を取り上げましたが、如何でしたか。初めにも述べましたが、今後は実践事例や新しい指導方法の紹介を中心に連載を進めていこうと考えています。1月には、早稲田大学で実施される「第3回中学校道徳教育セミナー」の取組について紹介しますのでご期待ください。
 よいお年をお迎えください。

道徳科の指導 ―人間としての生き方についての考えを深める―

 二学期になっても厳しい残暑が続いていますが、皆様は如何お過ごしでしょうか。クオーター制を実施している早稲田大学は9月26日まで夏休みで、校内はひっそりしています。しかし、教職大学院だけは9月から始まる学校臨床実習のために旧盆明けから事前指導や特別講座が始まり、学生・教員共に多忙な日々を過ごしています。
 そのような中、私事ですが敬老の日に父を連れて温泉に1泊してきました。8月のお盆に会ってから一か月ぶりでしたが急に歩けなくなり、衰えに驚かされました。父も来年の4月には91歳になりますが、日に日に身体が弱ってきました。私自身も高齢者の仲間入りをして、若いときの無理(登山)がたたって膝痛に悩まされています。このように高齢化が進む日本ですが、先日、NHKで「延命治療と人生会議(ACP)」という番組がありました。老いや病気で食事ができなくなったとき、胃ろうを作り栄養物を人工的に流し入れるような延命医療を実施するかしないかを、事前に本人と家族・医師・看護師・保健福祉士などと話し合いをするという内容でした。誰にも訪れる人生の終末をどのように迎えるかを考えさせられる番組でした。私は、人生の終末とはその人がどのように生きてきたかを表すものだと考えます。「あの時ああすればよかった」「あんなことをしなければよかった」などと悔い憂いるような終末を迎えたくありません。自分の生きてきた人生ドラマを飾るように幕を下ろしたいと思います。

 さて、今回は新しい学習指導要領に示された道徳科の目標にある学習の在り方にあげられている「人間としての生き方についての考えを深める学習」とはどのようなことか考えていきます。人間としての生き方とはどのようなことか、そのような生き方についての考えを深める授業はどのようにすればよいかについて述べたいと思います。

1 人間としての生き方についての考えを深める

「今日は道徳科の学習の最後の視点である『人間としての生き方についての考えを深める』について考えていきましょう。『人間としての生き方』とはいったいどのような生き方なのでしょうか?」
「人間としてということだから動物のように本能で生きているのではないということかな。」
真理「どうすれば良いか悪いかを、考え判断して生きることではないでしょうか。」
道子「自分さえよければいいのかな?」
イマヌエル・カント 画像提供:PPS通信「皆さんはイマヌエル・カントというドイツ人の哲学者を知っていますか? カントは『実践理性批判』という本の結びに『ここに二つの物がある、それは――我々がその物を思念すること長くかつしばしばなるにつれて、常にいや増す新たな感嘆と畏敬の念とをもって我々の心を余すところなく充足する、すなわち私の上なる星をちりばめた空と私のうちなる道徳的法則である。』(『実践理性批判』岩波文庫による)という言葉を書いています。これは若い頃に天文学をめざしていたカントが星を眺め心ときめかしていたこと。そして、常に規則正しく道徳的な生活を送っていたことを表しています。毎日、決まった時間に散歩するカントを見ていれば、周りの人は時計がいらないというエピソードまであります。人間は他の動物と同じ生き物で、自然の法則のもとに生きていますが、同時に社会の中で道徳や倫理、社会の規範などに基づいて生きています。カントが言う道徳法則とは、人間としてそうあるべき普遍の原理に基づいた法則です。つまり、困っている人がいたら人間として助けるのが当然、人間としての義務として行動することが道徳的だという考え方です。」
「台風で屋根を壊された老人をだましてお金を巻き上げる人がニュースになっていましたが、このような人は人間として最低、不道徳な人ということですね! カントの考えに同感です。」
道子「改訂前の学習指導要領では『道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深め』とありましたが、今回『自覚』という言葉が『考え』という言葉になりました。どうして変えたのですか?」
「大切なところに気づきましたね! 今回の改訂ではこれまで道徳の時間の指導で大切にしていた『道徳的価値及び生き方の自覚を深める』が『生き方の考えを深める』になりました。その理由は中学生という時期、発達の段階にあると思います。中学生は義務教育の最後であり、卒業後は進学するか、就職するかを考えなければなりません。また、キャリア教育として実施されている職場体験活動やいろいろな進路指導などを通して自分の将来・人生についても具体的に考え始めます。このように、中学生の時期は人生について考え、どのように生きればよいか、人間としての生き方を主体的に模索し始める時期です。『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編』では『人間としての生き方についての自覚は、人間とは何かということについての探究とともに深められるものである。……(中略)人間についての深い理解と、これを鏡として行為の主体としての自己を深く見つめることを接点に、生き方についての深い自覚が生まれていく』とあります。これは考えることにより自覚が深まるということです。このためには、人間の本質についての理解を深め、よりよい生き方とはどのような生き方か考える授業を行うことが大切になります。」
真理「『道徳的価値の自覚』はどうなりますか?」
「新しい学習指導要領の『道徳的諸価値についての理解を基に』と、かかわっていると考えればよいのでは……。」
「道徳的価値をどのくらい理解しているかは問題です。生命が大切であることは小学校1年生でも知っていますが、トンボの翅を取って遊んでいる子どもを見かけます。道徳的価値を観念的な知識として捉えるのではなく、自らのかかわりを通して理解し、人間としてどうあるべきか考えさせることが重要です。」

2 人間としての生き方についての考えを深める学習①

「それでは『人間としての生き方についての考えを深める学習』とはどのような学習か実際に考えていきましょう。初めに『道徳的価値の自覚』を深める指導の在り方について考えて見ましょう。皆さんは『オーストリアのマス川』という教材を知っていますか?」
平成31年度版中学校道徳科教科書
「中学道徳 あすを生きる 2」 P134-135
「日本文教出版の教科書『中学道徳 あすを生きる 2年』にあります。オーストリアで釣りをしていた日本人がせっかく釣った魚を解禁日1日前のためにリリース(放流)するという話で、主題名は『法やきまりの意義』です。」
「そうですね。響君ならばどうしますか?」
「誰も見ていなければ、こっそり持ち帰ってしまうかな……。」
「響君は正直ですね! 人間には、赤信号はみんなで渡れば怖くないとか、誰もいなければ渡るというような弱さや醜さが誰にもあります。この教材の主人公も釣ったときは分からないように持って帰るとか、監視人が見ていなければいいかという考えが心によぎったと思います。授業では自分も含め人間には誰しもそのような思いを持つことに気づかせ、人間の本質についての理解を深めることがとても大切です。さらに主人公のように自らの判断できまりを守るようなことができることを通して、人間には弱さや醜さを乗り越えることができる素晴らしさ・尊さがあることに気づかせます。そして、自分もそのように道徳的価値に基づいた行為ができるようになりたいという実践意欲や態度を育てることが重要です。」
真理「中学生がいつも道徳的価値に基づいた行動ができるかな?」
「そうですね。しかし、中学生の頃は他者からどう思われているかとても気になる時期です。監視人の『ブラボー、ヘル ヤパーナ!(日本のお客さん、素晴らしい!)日本の釣り人に敬意を表しますよ!』という言葉から、監視人は『どんなところに敬意を表したのか』と別の視点から聞いてみたらどうでしょうか。さらに、『皆さんにも道徳的価値に基づいて行動したことはないでしょうか』と聞いてみてらどうでしょうか。」
真理「なるほど。規則を守った経験は誰にもあると思います。他者から認められたり、褒められたりすることは、中学生はもとより誰でもうれしいことですね!」

3 人間としての生き方についての考えを深める学習②

「今日はもう一つ別な教材で人間としての生き方についての考えを深める学習の在り方について検討してみましょう。教科書『中学道徳 あすを生きる 1年』にある『いつわりのバイオリン』という教材を読みましたか?」
平成31年度版中学校道徳科教科書
「中学道徳 あすを生きる 1」 P188-189
真理「はい、読みました。バイオリン工房のフランクが弟子のロビンの作ったバイオリンに自分が作製したというラベルを張って演奏者に売り、名声を得ることになる。しかし、弟子が作製したバイオリンを自分が作製したものにしたという行為に対する良心の呵責で元気をなくしていたフランクのもとにロビンから手紙が届くという内容です。人間として恥ずかしい行いをしたことを反省し、正しい生き方をしようとするフランクを通して、主題名『人間として生きる喜び』について考えさせる教材です。」
「そうですね。この教材の主人公は、『オーストリアのマス川』のきまりを守った主人公とは違い、ロビンのバイオリンを盗み取り、演奏者をはじめ多くの人々をだますという道徳的価値に反する行為をします。授業ではロビンのバイオリンに自分のラベルを貼る時のフランクの気持ちをしっかりと押さえて、人間には弱さや醜さがあることに気づかせることが大切です。そして、そのような場面を乗り越える人間としての生き方、つまり道徳的価値に基づいた生き方の大切さを考えさせることが一般的な指導展開です。」
「展開の最後にロビンへの手紙の内容を考えさせたり、実際に手紙を書かせたりすることをよく行います。しかし、ロビンへの謝罪がほとんどで、ねらいとする『人間としての生き方についての考え』について書いてくれる生徒が少ないです。どうすればよいでしょうか?」
「ただロビンに手紙を書きなさいと指示しても、何もかかわりのないロビンへ心のこもった手紙を書くことは難しいでしょう。指導者が、ロビンに対しての思いとフランク自身への思いについて書くように一言アドバイスしてあげることが必要です。」
道子「他の指導展開はありますか?」
「バイオリンにいつわりのラベルを貼るかわりに、もし『私には作ることができなかったが、弟子のロビンが素晴らしいバイオリンを作製しました』と本当のことを演奏者に伝えて購入を進めていたらフランクはどうなっていたか考えさせてみたらどうでしょうか。」
「諺『後悔先に立たず』ですね! 後悔するようなことをはじめから行わないで、真実を正直に話していたら演奏者や多くの人々から信頼されて、ロビンはもとよりフランクの工房自体の評判が上がる。」
真理「ロビンに刺激されて、フランク自身もさらによいバイオリンの作製に取り組む。」
道子「哲学者カントが述べている『我が内なる道徳法則』に基づいた人間としての生き方の素晴らしさに気づくことになりますね。」

 4回連続して、道徳科の目標にある道徳性を育成する学習の在り方について取り上げてきましたが、如何でしたか。紹介した学習の方法は一例であり、今後さらに実践的な研究を進めて、新しい学習指導要領が求めている『主体的・対話的で深い学び』である学習を開発していかなければならないと思います。

道徳科の指導 ―多面的・多角的に考える―

 長雨が続いた今年の梅雨も学校が夏休みになるとともにやっと終わり、暑い夏がやってきました。皆様は如何お過ごしでしょうか。夏休みになりホッとされている方もおられるのではないかと思います。
 最近、海外の大学への留学や海外からの留学生を受け入れるために1年を春・夏・秋・冬の4つに区切ったクオーター制を取り入れ、9月卒業・入学ができるようにしている大学が増えてきています。早稲田大学ではこの制度を率先して導入したので、夏クオーターが8月の第1週まであり、小学生・中学生・高校生が夏休みである7月も授業を行っています。このためか留学生の在学数が日本一であり、外国籍の教員も増えています。私が所属する教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)では2年前から中国籍の方が国語教育を担当して、国語の先生を目指している学生の指導を行っています。これからの日本はますますグローバル化が進み、多くの外国の人々とコミュニケーションを取り、互いに尊重し、協働して生活する社会になっていくのではないかと思います。

 さて、今回も前回に引き続き道徳科の授業の在り方について考えていきます。「物事を広い視野から多面的・多角的に考える学習」とはどのようなことか、特に、道徳科における『多面的・多角的』とはどのようなことを言うのかについて述べたいと思います。

1 「多面的・多角的に考える学習」とは

「今日は道徳科の学習の視点である『物事を広い視野から多面的・多角的に考え』について考えていきましょう。ここでのポイントは『多面的・多角的に考える』ということがどのようなことを提言しているかです。先日、夏に実施される教員採用選考試験で行われる集団討論の練習を行いました。討論は『授業中、寝ている生徒がいたらどうするか』というテーマで行いました。みんなはどんな意見を述べますか?」
真理「まず机間指導して起こします。」
「生徒が寝るということは授業が面白くないからだと思います。楽しい授業、わかり易い授業を行います。」
真理「興味や関心を高める授業も大切だと思う。」
「練習の時も響君・真理さんと同じく、教科指導の在り方について討論しましたが、10分もすると話題がつき、話し合いが続かなくなりました。練習だったのでよかったですが、本番の試験だったら困ります。どうすればこのような事態を打開することができますか?」
道子「教科指導ばかりではなく、生徒の学校生活や家庭での生活について考えてみるとよいと思います。」
「なるほど、部活動で朝練習をして疲れていたとか、夜遅くまでゲームをしていて寝不足だとかいろいろな事例が考えられる。」
「そうですね。教科指導だけでなく生徒指導や家庭との連携など別の視点で考えることが大切です。試験ではそのようなコーディネートをすることができる人が高く評価されます。『多面的・多角的に考える』ということは、視点や場面を変えることにより別のことが見えてくる。つまり多様な視点や場面を通して物事を考えることです。」
真理「数学で学ぶ多面体や多角形の学習に似ていますね。円錐を上から見ると円、横から見ると三角形に見えるというようなことですね。」
道子「どうして多様的な見方や考え方をしなければならないのですか?」
「それはこれからの時代はグローバル化の進展、科学技術の発展などによって社会が大きく変化し、多様な価値観の人々が互いに相手を尊重して生きていかなければならなくなるからです。中央教育審議会答申(2014年10月)『道徳に係る教育課程の改善について』の中では『人としての生き方や社会の在り方について、多様な価値観の存在を認識しつつ、自ら感じ、考え、他者と対話し協働しながら、よりよい方向を目指す資質・能力を備えること』が求められています。このためには『多面的・多角的に考える』ことにより、道徳的諸価値に対する概念的な理解や自己中心的な見方から、多様で豊かな見方や考え方を育てることが大切とされています。」
「前回学んだメタ認知を進め、自己を見つめることにもつながりますね。」
「そうです。そして『多面的・多角的に考える』には、答申に述べられているように他者と対話することが必要になります。」

2 道徳科における「多面的・多角的に考える学習」

「次に、道徳科における『多面的・多角的に考える学習』とはどのような学習か、具体的に考えてみましょう。皆さんは『臓器提供意思表示カード』を知っていますか?」
道子「脳死後または心臓停止した死後、自分の心臓や肺などの臓器を、移植を必要としている人へ提供するかしないかを意思表示したカードです。臓器提供者のことを『ドナー』と呼び、日本文教出版の教科書の教材にもなっていますね。」

臓器提供意思表示カード

表面裏面

「運転免許証の裏面に同じ内容のものがついています!」
「そうですね。響君は提供にサインしましたか?」
「はい、偶然にも自分に与えられた命と体ですが無駄にはしたくないので、移植することにより救える人たちへ臓器を提供して役立ててもらいます。」
「立派ですね! しかし、提供するには本人以外に家族の同意が必要であることを知っていますか? 本人の意思が、家族に伝えられておらず、不明のときには、家族は判断に思い悩むことになります。」
「運転免許証には家族の記入欄が無いです。なぜ家族は反対するのですか?」
「本人の意思が家族にも伝えられているときには、家族は本人の意思を尊重しての判断がしやすくなります。一方で、本人の意思が不明なときには、脳死の場合でも脳の動きが停止していていずれはなくなりますが、しばらくは機械や薬の力を借りて心臓をはじめとする臓器は働いて、まるで寝ているような状態に見えます。この様子から提供することを拒む家族の人もいます。どうしてだと思いますか?」
道子「脳の働きが治るかもしれない、それまでは死を認めたくないと考えているからだと思います。」
「そうですね。臓器を取り出すということは愛する人の死を認めることになります。このため、家族の人は提供を拒否しますね。」
「本人は、脳は死んでいるのだからまだ生きている臓器を役立てたいと思っているが、家族は、愛する者の死を認めることができないと考えているということですね。」
「では教材にはありませんが、移植を担当する医師はどう思っているでしょうか?」
真理「家族の気持ちは十分にわかるが、脳死からは回復する見込みがないことを家族には理解してほしい。」
「そうですね。臓器提供は終末期の選択肢の一つですが、家族の思いを尊重します。本人、家族、医師と立場を変えてみることにより、生命尊重という価値には、生命の偶然性・有限性・連続性という三つの考え方があることが分かります。さらに、臓器移植には、家族愛・人間愛・社会貢献などの道徳的諸価値も関わっていることに気づかせてくれます。『多面的・多角的に考える学習』とは、このように多様な視点から総合的に考えさせることによって生徒たちの道徳性を育む学習です。」
「キャリア教育として働いている人の話を聞いたり、実際に職場体験をしたりすることが行われていますが、このような活動を通して、働くことの意義や大切さを考えることも『多面的・多角的に考える学習』と考えてもよいですか?」
「響君は、今日は冴えていますね! 道徳科の授業の中で、他教科や体験学習などの教育活動での学びを生かしていく横断的な学習も考えられますね。」

 今回は道徳科の学習の一つである「物事を広い視野から多面的・多角的に考える学習」について述べました。中学生は自分の利害だけで物事を見るのではなく、他者のこと、自分が所属する集団のことを考え行動することができます。『多面的・多角的』な視点で考える学習を通して道徳性を養ってください。次回は、「人間としての生き方についての考え方を深める学習」について述べたいと思います。ご期待ください。

道徳科の指導 ―自己を見つめる―

 5月だというのに北海道で39.5℃を記録したり、屋久島では記録的な集中豪雨が起きたりと地球温暖化の影響ではないかと思われる異常気象が発生しています。私たちは科学の発展とともに、空調システムによってコントロールされた快適な住居、地球のどこにでも簡単に行ける自動車や飛行機などの交通手段などの手に入れて豊かな生活を送っています。この流れはコンピュータや人工知能(AI)の進歩と人間の欲望によってますます進行するのではないかと思います。しかし、このまま進むと人間や地球の未来はどうなるのでしょうか? 持続可能な社会を維持することができるのでしょうか?
2001年宇宙の旅(監督:スタンリー・キューブリック) アメリカの未来学者レイ・カーツワイルは、2045年になるとコンピュータ能力が人間の知能を越えて、発明なども行うようになり、人間は進歩の予測ができなくなると述べています。高校生の時、「2001年宇宙の旅」(監督スタンリー・キューブリック)というSF映画を見て衝撃を受けたことを覚えています。とても難解で見るたびに新しい発見がある映画ですが、物語は人類の進歩のカギを握っている「モノリス」という黒い石柱を調査するために木星に向かった宇宙船での出来事が中心です。宇宙船はスーパーコンピュータ「ハル」で管理されていて、ボーマン船長ともう一人の船員以外は人工冬眠しています。しかし、突然ハルが冬眠中の船員や船外活動している船員の生命維持装置を切り、宇宙船を支配しようとします。一人残ったボーマン船長が邪心を抱いたハルの思考部分を停止させるという内容です。
 最近、自動車の自動運転やロボットの開発でAIの技術が驚くような勢いで進歩しています。一部の研究者は「心」を持ったAIの開発に取り組んでいます。心を持った人工知能やロボットは、欲望で自分をコントロールできない人類を救ってくれるのだろうか? それともハルのように邪心を抱いて人類を絶滅へと導くのだろうか? ただどちらにも共通していることは、人工知能がどのような「心」を持つか、そしてAIを開発する科学者が同様な道徳性を持っているかがそのカギを握っていると思います。

 さて、前回から道徳科の学習の在り方について考えています。今回は「自己を見つめる」とはどのようなことか、またどうしたら「自己を見つめる学習」ができるかについて述べたいと思います。

1 自己を見つめる

「今日は道徳科の学習の視点である『自己を見つめる』について考えていきましょう。『自己を見つめる』という言葉から皆さんはどんなことを想像しますか?」
「キャリア教育で行う自己理解です。自分の進路を考えるとき、自己理解が大切だと学びましたが、自分の悪い点は理解しているが自分の良い点と言われるとなかなか答えられず困りました。」
真理「響の良いところはいつも元気なところかな……。」
「それはいつも能天気ということ?」
真理「……。」
「皆さんは学部の教職課程の教育心理学で、『メタ認知』を学んでいると思いますが、覚えていますか?」
「認知を認知することだと習いましたが、言葉遊びのようでどういう意味なのかよくわからなかった。」
道子「認知とは認識や学習のことなので、自分が何を学んでいるかどのような経験しているかなどを認識することではないかと思います。」
「『メタ認知』は、ジョン・H・フラベルというアメリカの心理学者が唱えた概念です。『メタ』とは『高次の』という意味で、高次の視点から自分を認知する。これは自分で自分を客観的に見つめる、つまり『自己を見つめる』ことです。『メタ認知』は認知心理学の中では重要な分野であり、うつ病や依存症の治療として行われる認知行動療法や私たちの教育学では学習理論の自己調整学習として、さらに近年めざましい勢いで進歩しているAIの開発に応用されている認知工学や会社で行われている人材育成などにも活用されています。この『メタ認知』は、響君が上げた自己理解をはじめ、内観・内省、自己反省、自己内対話などにも関係する概念です。しかし、客観的に『自己を見つめる』ことは、実際にはなかなか難しいことです。『メタ認知』を促すためには基本的な知識やスキルが必要でありますが、教師からの支援(足場づくりや動機づけ)、目標や価値の設定、意見の異なる他者とのコミュニケーション(対話・討論)などが必要だと言われています。」

2 自己を見つめる学習

「次に『自己を見つめる学習』について具体的に考えてみましょう。皆さんは『二通の手紙』という教材を知っていますか?」
道子「動物園で退職後も臨時採用で働いていた元さんが弟の誕生日祝いとしてやってきた幼い姉弟に同情して、入園時間が過ぎていたにもかかわらず動物園に入れてあげる。しかし、いつまでたっても姉弟が戻ってこなくて大騒ぎなる話ですね!」
「そうですね。元さんはこの騒動の後、姉弟の親から子どもたちへの温かい心遣いに対する感謝の礼状を受け取ると同時に、上司からは動物園の規則を守らなかったことに対する解雇処分の通知書という二つの手紙を受け取ることになる話です。個人の感情や都合で行動すると、社会の秩序や規律を乱し、多くの人々に迷惑をかけることになるという規則についての理解や規則を守る義務について考えさせる教材です。授業では二つの手紙を受け取った時の元さんの気持ちを聞くことが多いですが、なぜ元さんの気持ちを聞くのでしょうか? 『自己を見つめる』学習ならば『あなたならば二つの手紙をもらったらどう思いますか。』と聞く方が自己を見つめることになるのではないでしょうか?」
真理「変な意見を言ってみんなから呆れ返られるのを恥ずかしがり、生徒たちがあまり発言しなくなるからだと思います。」
「先生が言いたいことを忖度して発言するか、なんだ、先生は結局『規則を守りなさい。』と言いたいんだと反発するからだと思います。」
真理「響は後者でしょ。」
「はい、今でも反抗期です!」
「さすが、中学校の教員を目指している皆さんですね! 中学生の気持ちをよく理解していますね。ドイツの教育学者で日本の道徳教育に大きな影響を与えているシュプランガーは、教育には3つの概念があると述べています。
 第1は『発達の援助』としての教育です。人間は未熟な状態で生まれてくるので、身体的な発達に対する援助と精神的な発達に対する援助の両面から教育的援助をすることが必要であるという考えです。このことはピアジェの発達心理学でも言われていますが、中学生の時期は第二次反抗期・思春期にあたります。響君が言うようにわかっていても反発したくなる時期でもあり、真理さんが言うように他者の目が気になる時期でもあります。
 第2は『文化財の伝達』としての教育です。シュプランガーが言う文化財とは、教育的価値があり、教育上効果のあるものです。そして伝達とは単に文化の内容を理解させることではなく、文化が持つ意味を理解し、その意味に即して行動し、その文化に基づき新たな文化を創造していくことを求めています。日本では多くの学校における『チャイム着席』という規則(学校文化)があります。生徒たちはその規則の意義を理解し行動することを通して、規則を守ることの大切さを習得しています。『元さんの立場だったらあなたはどうしますか。』と問われたら生徒たちは響君の考えのように一般的に正しいということを答えるでしょう。
 第3は『良心の覚醒』という教育です。シュプランガーは、良心とは、人間の心の奥にあり、善悪の判断を行い、自身の行為を正す倫理的なものであると言っています。教師は『発達の援助』や『文化財の伝達』を通して、子どもの内にある良心を『覚醒』させなければなりません。そのためには、自己吟味をしたり、自己を批判的に検討したりすることと、行為によって社会と実践的にかかわっていくことが大切であると述べています。子どもが自らの行動を見直し、良心を覚醒することができるように教師が支援することが重要となります。」
道子「子どもが自ら良心を覚醒するということは、先ほど学んだ『メタ認知』に近い考え方だと思います。」
「そうですね。それではそろそろメインテーマである『自己を見つめる学習』とは、どのようなものか考えてみましょう。」
「『あなたはどう思いますか。』と質問したら、中学生はなかなか本音を言わないから『登場人物はどう思っていますか。』と質問したらよいと思います。」
真理「しかし、登場人物の心情ばかり聞いても、国語の読み取りのようでなかなか自分のことへと考えが深まらないのでは……。」
道子「メタ認知を深めるには、意見の異なる人と対話するとよいと学びました。『元さんは二つの手紙を前にして、どのようなことを思ったのか。』について、まず各自に考えさせてからグループで意見交換や話し合いをさせればいいのではないかと思います。」
「そうですね。自己を見つめるには、個人考察させるという足場づくりをすることが有効でしょう。さらに、グループの中で他の人と対話をすることによって、自分の考えがしっかりしたり、自分にはないものに気づいたりすることもできます。また、小さいグループだとあまり他人の目も気になりませんので、自分の思っていることを自由に話すことができますね。」
「なるほど、道徳科が『考える道徳』『議論する道徳』と言われる理由が少しわかったような気がします。」

 今回は道徳科の学習を行うにあたり考えていかなければならない視点「自己を見つめる」について述べました。反抗期の真っただ中にいる中学生に冷静に自分自身を見つめさせることはとても難しいことだと思います。次回は、「物事を広い視野から『多面的・多角的に』考え」について述べたいと思います。ご期待ください。

道徳科の指導 ―道徳的諸価値―

 新年度が始まりあっという間に一か月が経ちました。元号も平成から令和にかわり時間の経つ速さにいつも驚かされますが、先生方は如何お過ごしですか。
 さて、本年度は「特別の教科 道徳(以下、道徳科)」が始まるという中学校の道徳教育にとっても大きな節目の年となりました。新しく配布された教科書を手にして、生徒も先生も気持ちが引き締まるのではないでしょうか。始めが肝心と言われますが、この一年の取組が道徳科の今後に大きな影響を与えるとても大切な年になると思います。考える道徳・議論する道徳が円滑に実施され、生徒たちの道徳性が高まることを願っています。本シリーズも道徳科の指導や評価の在り方について、先生方に少しでも参考になるように具体的に取り上げていきたいと思っています。
 今回からしばらく「中学校学習指導要領」の道徳科の目標にある「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、人間としての生き方についての考えを深める学習」という学習指導の在り方について考えていきたいと思います。
 まず、「道徳的諸価値」について考えていきたいと思います。道徳的諸価値とはどのようなものでしょうか。これは、「中学校学習指導要領」の「第3章 第2 内容」に示されている22の「内容項目」と考えてよいでしょう。どの内容項目もよりよく生きていくためにどうすればよいか考えたり、感じたりする時の大切な道徳的価値です。内容項目の数や分類は、生徒の実態や社会の状況に合わせて学習指導要領の改訂ごとに少しずつ変化していますが、中には変化しないものもあります。
 先日、オックスフォード大学のオリバー・スコット・カリー博士が世界の60地域の文化を多くの資料を基に調査し、全ての文化には共通する7つの普遍的な道徳的規範を共有しているという研究成果(注1)を発表しました。7つの道徳的規範とは、「家族愛(Family Values)」「集団への忠誠(Group Loyalty)」「相互扶助(Reciprocity)」「勇敢・勇気(Bravery)」「尊敬・敬意(Respect)」「公平・公正(Fairness)」「所有する権利(Property Rights)」でありますが、論文中では「勇敢」と「尊敬」は鷲と鳩にたとえて一つにまとめています。これは、鷲のように強く勇敢であるが相手に対しては常に尊敬と敬意を忘れない者が真の勇者であるということではないかと思います。この7つの道徳的規範は、我が国の道徳教育の内容項目の中にも必ず含まれています。
 カリー博士は「あらゆる文化において、類似する基本的な価値があることが判明した」「今回の研究が、異文化間の共通点、相違点を正しく認識し、相互理解を促す一助となることを願っている」(注2)と述べています。
 このような世界中の人々が共有しているとされる普遍的な道徳的価値に基づいて判断し行動できる生徒を、道徳教育を通して育てることが、世界で尊敬される国際人の育成につながるのではないでしょうか。

1 道徳的諸価値の理解

「今年のMOSの活動は『道徳科の指導と評価』をテーマにしようと思います。道徳科の学習は『道徳的諸価値の理解を基に』とありますが、子どもたちは道徳的諸価値をどのように理解していると思いますか。例えば誰でも知っている『生命の尊さ』という道徳的価値はどうでしょうか。」
真理「小学校4年生でギャングエイジである私の甥っ子は、日ごろから生命は大切だと生意気なことを言っていながら、捕まえたトンボの翅をむしって遊んでいました。昆虫にも大切な命があることが分かっていないようです。」
「以前テレビで、教室にゴキブリが出てきたら先生はどうするべきかと話し合う番組がありました。学校は生命の大切さを教えるところだからゴキブリを逃がすべきだという意見と、昆虫には益虫と害虫があり、病原菌を媒介するゴキブリは衛生上・管理上殺すべきだという意見がありました。これでは人間に役立たない生き物や害になる生き物の生命は殺してもよいということになるのではないかなと思いました。」
真理「牛、豚、ニワトリなどは食用として人間に役立つために殺されている。ただ、食べるときに『(生命を)いただきます』と言われているが……。」
道子「人間以外の生き物の生命の大切さは、人間の判断により決められているのではないかと思います。しかし、人間の生命は本当に尊重されているのだろうか。犯罪・事故・戦争・テロなどで毎日のように多くの生命が奪われたニュースが報道されています。そのような状況を当たり前のように見ている子どもたちは、人間の生命は尊重されなければならないと本当に思っているのかとても心配です。」
「人権教育では、生命(生きること)は自由や平等と同じく人間の権利『基本的な人権』として尊重されます。しかし、時には家族や同胞の人権を守るために、他者の人権(生命)を奪ってしまうことがあります。
 このように道徳的諸価値は、『生命の尊さ』という道徳的価値一つをとっても、子どもの発達の段階や社会環境などにより捉え方が違っています。道徳的諸価値を単に大切だと一方的に押し付けて指導するのではなく、多様な見方・考え方や実態があることに気づかせ、生命とは何か、生命を尊重するとはどういうことか深く考えさせることが大切です。
 写真は『友情』を主題として実施した授業の様子ですが、事前に友情とはどのようなものか生徒たちにアンケートを取り、内容を集計したものを模造紙にまとめて黒板の左端に掲示してあります。授業の導入でアンケートの集計を基に友情に対していろいろな考えがあることを共有してから、展開で西野カナの『Best Friend』の歌詞を用いて真の友情とは何か考えさせていました。」

2 道徳的諸価値を基にする

道子「道徳諸価値の理解を深めることの重要性は納得しましたが、その道徳的諸価値を基に考える学習とはどのようなことを言っているのでしょうか。」
「国語の学習と道徳科の学習の違いが時々問題になります。ともに読み物教材を読んで書いてある内容や登場人物の心情を読み取りますが、何処が違うかわかりますか。」
「国語は教材をしっかり読み取ること。そのために漢字や難しい言葉を覚え、読解力を育成することが目標だと思います。道徳は……、心を育成することが目標です。」
「なるほど学習の目標が違いますね。学習指導要領では、道徳科の目標は『よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、(中略)道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。』とあります。ここで述べられている道徳的な判断力・心情・実践意欲・態度とはどのようなものでしょうか。」
真理「判断力はどうすればよいか考える力、心情はどちらが良いか悪いか感じる力、意欲や態度は良い行動をとろうとする心構えのようなものだと思います。いずれも何が良くて何が悪いか考える基準や原点となるものが必要だと思います。」
「さすが、道子さんは数学科的な発想ですね。数学と同じように道徳科にも思考するときに基準となるものが必要で、それが道徳的諸価値です。教材の登場人物の言動のもとになっている心情を単に読み取るのではなく、その心情の根底にある道徳的価値レベルを考えることが道徳科の学習です。前回紹介した中学校道徳教育セミナーで実施した模擬授業(教材:帰郷)では、皆さんが演じた登場人物の台詞の基になっている道徳的諸価値を、次の展開でしっかりと押さえておくことが大切です。例えば、『母さん、東京で一緒に暮らそう。』という息子の台詞には『どのような思いで言ったのだろうか。』という発問に対して、『母の看護をしなければならない。』と多くの生徒が答えると思います。しかし、ここでは『なぜ母を看護しようと考えたか』その理由を問うことにより、母を思う心という道徳的価値(内容項目:家族愛)や一人で育ててくれた母に対する感謝の心という道徳的価値(内容項目:感謝)に裏付けられていることに気づかせることができます。また、『この町がいいんだよ。』という母の台詞から住み慣れたふるさとから離れたくないという思い(内容項目:郷土を愛する態度)と共に、俳優として頑張っている息子に迷惑をかけたくないという息子のことを思う母の心(内容項目:家族愛)にもしっかりと気づかせたい。さらに、『研ちゃん。私たちはまだ元気だから、私たちでよければ、佐知子さんのリハビリや身の回りのことは手伝うけど……。』や『研ちゃん、私らだけじゃないんだよ。さっき見舞いに来た連中だって、ちょくちょくのぞくって、言ってるんだよ。』というおばさんとおじさんの台詞からは、相手を思いやる親切な言葉(内容項目:思いやり)を学ぶことができます。このように多くの登場人物の言葉の奥にある道徳的諸価値を考えさせることにより、筆者の心情を考えさせるだけではなかなか迫ることが難しい授業のねらい『人は多くの人々に支えられて生きていることに気づき、感謝する心を育成する』ことについての学習に達することができます。」
道子「中学校道徳教育セミナーでは、ドラマの後どのように授業を展開するのかという先生方から質問があり、十分に答えられず困りました。まだまだ勉強不足ですね。」
「授業をする前に教材を十分に読み分析して、どのような道徳的価値が含まれているか教材研究・教材解釈をすることが大切です。」
響・真理・道子「勉強頑張ります!」

 今回は道徳科の指導を行うにあたり考えていかなければならない道徳的諸価値(内容項目)について述べました。「内容項目B(5)は…。」などと話すと道徳おたくのように思われますが、道徳科の指導には常に道徳的価値を押さえて指導することが大切だと思います。次回は「自己を見つめ」とはどのようなことかについて述べたいと思います。ご期待ください。

注1:Oliver Scott Curry, Matthew Jones Chesters, Caspar J. Van Lissa (2019) “Mapping morality with a compass: Testing the theory of ‘morality-ascooperation’ with a new questionnaire” Journal of Research in Personality, 78, pp.106-124
注2:「七つの道徳規範、すべての社会に共通 オックスフォード大報告」2019年2月17日

【連載再開!!】第2回中学校道徳教育セミナー

 先生方お久しぶりです。しばらくお休みをいただいていた「学び!と道徳2」の連載を再開することになりました。以前に増して先生方のお役に立つ内容にしたいと思います。さて、初めてお読みになる先生もおられると思いますので、簡単な自己紹介をしたいと思います。私は現在早稲田大学の教職大学院で教員を目指す学生や教育力の向上を目指す現職教員の指導を行っています。以前は東京都の公立中学校に勤務する数学科の教員でした。
 初任時代はちょうど校内暴力がはやり病のように全国に広がり始めたころで、私の学校でも次から次へと問題行動が起き、毎日生活指導に明け暮れるような状態でした。しかし、先生方がいくら指導しても、生徒自身が変わらなければ良くならない、どうすればよいのか悩んでいました。そのような中、出会ったのが道徳教育でした。図の記事は広島県教育委員会の調査で、道徳教育を行うと校内暴力やいじめが減少し、学力も向上するという結果です。生徒の心を育て、先生から言われてやめるのではなく(他律)生徒自ら行動を律すること(自律)ができる教育が必要だと思いました。その後、学級経営も学校経営も道徳教育を重点にして行うと、不思議なことに生徒たちは落ち着き、学校は本来あるべき姿になりました。4月からいよいよ「特別の教科 道徳」が始まります。道徳教育の要である道徳科を充実して、生徒たちの心を育て、世界の人々から尊敬される国際人を育てて欲しいと思います。
 前シリーズ同様に、早稲田大学道徳教育研究会(MOS)のメンバーである道子、真理、響とともに道徳教育について考えていきたいと思います。今号は昨年の12月23日早稲田大学で、MOS主催で企画運営して開催された「第2回中学校道徳教育セミナー」について報告したいと思います。

1 第2回中学校道徳教育セミナー

「第2回中学校道徳セミナーご苦労様でした。今回はMOSが主催し企画運営しましたが、実際に活動してみてどんなことがありましたか。」
真理「第1回に比べ、先生方がセミナーに求めるものが、道徳科の指導や評価は具体的にどうしたらよいかなど、より実践的な内容になったと感じました。先生の中にはすでにいろいろな取り組みを始めていて、話し合いの内容が授業実践に基づいたもので、司会をしていた私がたくさん学ばせていただきました。」
「昨年は多くの中学校で道徳を校内研修のテーマにして、講師を招いて勉強会をしたり、研究授業を行ったりしていました。先生方の道徳教育への関心が高まり、知識や授業のスキルが向上してきているということでしょう。道徳科にとっては良い兆しですね。」
道子「グループワークでMOSのメンバーが模擬授業を行いました。セミナーの前にみんなで練習して臨みましたが、現職の先生方の真剣な眼差しを前にしてとても緊張し、思うように演技することができなくなりました。グループワークの話し合いでは、模擬授業は展開の最初の10分の部分だったので、その後はどのように授業を展開するか、どのような発問をするかなど具体的な質問が多くありました。」
「模擬授業はグループワークにおける話し合いの話題づくりをねらいに行いましたが、授業の意図を事前に伝えておいたほうがよかったかもしれませんね。模擬授業については後で詳しく話しましょう。セミナーの運営上の課題はありませんでしたか。」
「会場の政経学部3号館は大学の中心部にあり、一番新しく目立つ建物なのでするにわかると思い、学バスの終点がある正門と地下鉄の駅に近い南口に案内を置きましたが、中心部から遠い西門や都電に近い北門に案内を置かなかったために迷った人がいたそうです。」
「今回のセミナーは東日本の先生を対象に実施しましたので、関東近県はもとより東北や甲信越からも総勢60人ほどの先生が参加しました。中には初めて早稲田大学に来られた先生もいたと思いますので、丁寧な案内は大切ですね。島恒生先生の講演、谷島竜太郎先生、多田義男先生の実践発表と渡邉真魚先生による指導講評はどうでしたか。」
「島先生の講演『4月からスタートする道徳科~授業と評価~』は前回同様とてもわかり易く勉強になりました。『考え、議論する道徳』を目指し、どのように生徒が主体的に対話的に深い学びをする授業を作ればよいか具体的に話していただき有意義でした。特に、僕は『道徳では下(教材など)を見て考えるのではなく、天井を見て考えます。』というお話に感銘しました。」
真理「響は天井を見ながら寝ているのでは……?」
道子「二つの実践発表がありましたが、昨年の4月から特別の教科となり実施している茨城県筑西市立川島小学校の谷島先生の発表は『授業づくりと評価について』というテーマでした。長年にわたる特別活動の研究実践をもとに、授業改善と授業づくりを目標に研究実践し、さらにそれが評価につながることを目指し、ワークシートの改善やマイボード(簡易ホワイトボード)の開発に取り組んでいました。特に研修通信を発行して、学校全体で研修に取り組んでいるところが素晴らしいと思いました。」
「評価をどのようにすればよいか悩んでいる先生がいますが、川島小学校のようにまず授業を充実することが評価につながりますね。」
道子「筑波大学附属中学校の多田先生の発表は、真理の探究を主題にした授業実践でした。IPS細胞で難病を治したいという思いで、それを世界で初めて作り出した山中伸弥先生を教材とした授業でした。偉業を成し遂げた方の話は、ときに生徒にとって身近な存在ではなく、葛藤も少ないですが、山中先生にも人間としての「弱さ」があり、それを乗り越えた「強さ」があることを押さえて授業をされていました。人間には誰にもそのような面があることを生徒自身に気づかせることが大切だと思いました。」
「道子さんの専門である数学は、常に真理を求め学んでいますね。生徒たちにはそのことに気づかせてもよいでしょう。」

2 模擬授業

「それでは皆さんが行った模擬授業について考えてみましょう。今回使用した教材は文部科学省が作成し、平成24年5月に発行した『中学校道徳読み物資料集』に収録され、その後『私たちの道徳』にも収められている『帰郷』という読み物資料です。東京で俳優をしている息子のもとに、田舎で一人暮らしている母の急病の知らせが届くというところから話が始まります。母を東京に連れていき面倒を見るという息子に対して、迷惑をかけたくないという母の思い、息子に代わって母の面倒を見ると提案する夫婦や母の店の常連たちを通して、息子は多くの人に支えられて生きていることに気づき、感謝するという内容です。時折、オリンピックのメダリストのインタビューで『金メダルが取れたのは、皆さんのお陰です。皆さんに感謝します。』という言葉を耳にします。一方、最近の成功者の中には『自分の能力や努力で頑張って成功したのだ。他人の助けは何も無い』といった自己中心的(ジコチュウ―)な発言をたまに耳にします。そのような風潮に対して、今の自分が楽しく安心して生活できているのは、多くの人々の支えがあるからだと気づき、感謝を忘れないことの大切さを考えさせることができる教材です。」
「僕も田舎に親がいるので、この教材は自分のことのように思います。」
真理「しかし、私たちのような大学生には身近な内容ですが、まだ家族と生活している中学生には理解できないのでは……。」
道子「体験がないと自分のこととして考えることが難しいと思います。」
「それにこの教材は長く、読むのに時間がかかります!」
「以前、イギリスの学校で『ドラマ』という教科があることを紹介したことを覚えていますか?」
道子「シェイクスピアなどの劇の一部を使って、台詞を国語的な視点で正しく読み取り、さらにセリフの中に込められている心情を考え、実際に演じて評価するアクティブラーニングです。国語と演劇が一緒になったような学習ではないかと思います。」
真理「道徳で行われている役割演技(ロールプレイ)に似ているように思いますが……。」
「そうですね。『ドラマ』はイギリスでは教科として行っています。劇の台詞の読み取りから始まり、台詞に込められている心情を考える、その心情を表現する演技方法を考え練習する、全体で演技を発表する、全体で評価するなど何時間もかけて行っています。もちろん大学の入試科目でもあり、試験があります。今回の模擬授業では中学生には体験することが無いような内容なので、ドラマをすることにより教材を読むという間接体験から自分で考え実際に演技して直接体験をさせることを考えました。しかし、このような活動は時間がかかりますし、響君の言うようにこの教材は長文で、読むのに時間がかかるという問題があります。そのような課題を解決するために前時の授業で教材を渡し、演技することを宿題にしておく指導計画を考えました。皆さんは大学院の授業で『反転学習』を習っていますね。」
道子「先生から授業で学ぶことに関する本や論文、課題が事前に出され、それらを読んだり、課題に対する考察をしたりして授業に臨む学習です。予習が宿題のような学習で、習ってもいない専門書を自分の力で読むことはすごく大変です。しかし、授業では先生の話がとてもよく理解でき、納得します。」
「今回の模擬授業はグループワークの時間の都合で、文中の息子・母・おばさん・おじさんの四人の台詞の一部、
息子『母さん、東京で一緒に暮らそう。』『だって、しばらくリハビリも必要なんだろう。もう遠慮しないでいいんだよ。』
母『この町がいいんだよ。』
おばさん『研ちゃん。私たちはまだ元気だから、私たちでよければ、佐和子さんのリハビリや身の回りのことは手伝うけど……。』
おじさん『研ちゃん、私らだけじゃないんだよ。さっき見舞いに来た連中だって、ちょくちょくのぞくって、言ってるんだよ。』 
息子『ありがとうございます。母とゆっくり話し合ってみます。』
を演じてもらうことにしました。実際の授業では演じた後に、生徒にどのような意図で演じたのか発表させたり、見ていた生徒にはどのようなことを思ったかを尋ねたりして、多様な見方や考え方に気づかせ、その後に行う中心発問『帰りの電車で主人公はどんなことを思っていたかを考えよう。』で議論を深めたいと考えています。」
道子「他者の体験を再現することは、自分が体験することになるということですね。」
真理「時間があれば役を入れ替えて行ってもよいのではないかな……。」
「4人の視点から考えることは、多面的・多角的な学習になりますね。」
「しかし、生徒たちは事前に指示しても考えてくるかな……。」
真理「宿題忘れの響とまじめな中学生を同じレベルで考えないこと!」
「今年も冬休みに第3回の中学校道徳教育セミナーを予定していますから、皆さんも今からさらにしっかりと道徳科を勉強しておいてください。」

 今回は中学校道徳教育セミナーの報告が中心でしたがいかがでしたでしょうか? 次回からは4月から始まる道徳科の指導方法について実践をもとに考えていきたいと思います。ご期待ください。

カリキュラム・マネジメント

 1学期が終わり、夏休みになりホッとしておられる方が多いと思いますが、運動部の顧問をしている先生方は、記録的な猛暑が続き、熱中症が心配で十分な活動ができずにいるのではないでしょうか。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海 ダイヤモンド社

 夏の風物詩の一つに甲子園で熱戦が繰り広げられる高校野球があります。各地の予選を勝ち抜いてきた高校生たちが全力で試合に向かう姿には感動させられることが数多くあります。そのような高校生の姿をモデルにした小説に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』があります。都立高校の野球部の女子マネージャーである川島みなみが、ドラッカーの経営学書『マネジメント』を読み、ドラッカーの経営理論を実践して甲子園をめざす物語です。主人公のみなみは「顧客」「マーケティング」「イノベーション」の視点から野球部を見つめ、顧客でもある自分たちが感動する野球を、ノーバント・ノーボール作戦という常識を覆す新しい戦法を実践させることで、甲子園出場という目標を達成します。小説の最後には、甲子園の開会式で「あなたは、どんな野球をしたいですか?」というテレビ局の質問に、キャプテンの二階正義が「あなたはどんな野球をしてもらいたいですか?(中略)ぼくたちは、それをマーケティングしたいのです。なぜなら、ぼくたちは、みんながしてもらいたいと思うような野球をしたいからです。ぼくたちは、顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから、野球をスタートしたいのです。」と答えます。
 高校生の青春物語ですが、マネジメントとはどのようなものであるかをわかり易く具体的に述べた経営学書でもあります。夏休みの推薦書です! 是非、お読みください。(ビデオもあります。)

 今回でこのシリーズは最終回となります。今まで考えてきた道徳教育・道徳科が効果的に行われ、成果を上げるためにはどうすればよいかを「カリキュラム・マネジメント」の視点から考えていきたいと思います。
教員採用試験の勉強で忙しい響・真理・道子たちにもいつものように参加してもらいます。

1 カリキュラム・マネジメント

「今日は、学習指導要領の改訂で新たに取り上げられたカリキュラム・マネジメントについて考えてみたいと思います。さて、カリキュラム・マネジメントとはいったいどういうことでしょうか?」
「言葉通りに解釈するとカリキュラムは教育課程で、マネジメントは運営だから、教育課程と運営ですが……。」
真理「教育課程の編成をして実施していくことかな?」
「確かに教育課程を編成することも運営の一つですが、他には何を運営するのかな?」
道子「学校で行われる全ての教育活動だと思います。」
「そうですね、中学校学習指導要領の第1章総則の第1の4には『各学校においては,生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努めるものとする。』(下線は筆者)とあります。つまりカリキュラム・マネジメントとは、学校で行われている様々な教育活動を、教育課程に基づき組織的に計画的に実施することにより学校教育の質の向上を図っていくことです。また、カリキュラム・マネジメントを三つの側面(下線箇所)から考えていくことが求められています。」
「教育活動の質の向上はいつも取り組まなければならないことなのに、なぜ今回の学習指導要領の改訂で新しく取り上げられたのですか?」
「そこは大切なポイントですね! 学習指導要領が求める新しい時代に必要となる資質・能力(三つの柱)を育成する『主体的・対話的で深い学び』を、現行の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持したままで行うためには工夫が必要とされるからです。」
道子「ということは、『教科等横断的な視点で組み立てていく』ということは総合的な学習の時間を増やすということですか?」
「いいえ、総合的な学習の時間の時間数は変わりません。総合的な学習の時間の学習内容や方法を検討したり、各教科等で横断的に取り組むことを考えたりすることが求められます。」
真理「カリキュラム・マネジメントを実施するにあたり配慮していかなければならないことはどのようなことですか?」

「総則の『第5 学校運営上の留意事項』の『1 教育課程の改善と学校評価,教育課程外の活動との連携等』のアには『各学校においては,校長の方針の下に,校務分掌に基づき教職員が適切に役割を分担しつつ,相互に連携しながら,各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネジメントを行うよう努めるものとする。また,各学校が行う学校評価については,教育課程の編成,実施,改善が教育活動や学校運営の中核となることを踏まえ,カリキュラム・マネジメントと関連付けながら実施するよう留意するものとする。』とあります。特に、一部の者だけでなく全教職員で取り組むことが大切です。留意事項はさらに、学校の全体計画と各分野の計画の関連を図ること、教育課程外の活動と教育課程との関連を図ること、家庭や地域と連携して『社会に開かれた教育課程』にすること、学校間連携を図ることなどが述べられています。」

2 道徳教育におけるカリキュラム・マネジメント

「次に皆さんが研究している道徳教育におけるカリキュラム・マネジメントについて考えてみましょう。」

「中学校学習指導要領の『第3章 特別の教科 道徳』には、カリキュラム・マネジメントという言葉はありませんが……。」
道子「総則にあるのだから道徳教育・道徳科でも実施するの!」
「道徳教育の教育課程は、学習指導要領が求めている道徳教育のねらいや内容を実施していく計画です。そのために各学校ではどのような指導計画を作成することになっていますか?」
真理「道徳教育の全体計画と道徳科の年間指導計画です。」

学級における指導計画(例)

「そうですね。指導計画については中学校学習指導要領の『第3章 特別の教科 道徳』の『第3 指導計画の作成と内容の取扱い』の1に、『各学校においては,道徳教育の全体計画に基づき,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動との関連を考慮しながら,道徳科の年間指導計画を作成するものとする。なお,作成に当たっては,第2に示す内容項目について,各学年において全て取り上げることとする。その際,生徒や学校の実態に応じ,3学年間を見通した重点的な指導や内容項目間の関連を密にした指導,一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を行うものとする。』とあります。道徳教育は道徳科を要として学校教育全体を通じて行うので、道徳科はもとより、各教科・総合的な学習の時間・特別活動等で行われる道徳教育を組織的に計画した全体計画が必要となります。さらに、道徳教育の要として、すべての内容項目を計画的に指導し、各教科・総合的な学習の時間・特別活動等で行われる道徳教育の足りない部分を補ったり、より一層深めたり、内容項目の相互の関連を捉えなおしたり発展させたりする道徳科の年間指導計画が必要となります。」
道子「全体計画は学校全体の道徳教育の計画ですが、学年ごとの計画や学級ごとの計画を作成する必要はないですか?」
「なかなか良い質問ですね。全体計画は、教育目標・生徒や学校の実態・家庭や地域の実情などにより違っています。同じように考えると、学年も発達段階や生徒の実態などにより道徳教育の目標も違いますので、学年ごとの計画もある方がよいでしょう。また、資料のように学級ごと道徳教育の計画を作成する学校もあります。」
真理「全体計画を作成するとき、私の専門である数学科ではどのような道徳教育をすればよいか、いつも悩みます。」

「図のように縦軸に内容項目、横軸に各教科・総合的な時間の学習・特別活動等にした表を作り、該当する箇所を埋めていくと道徳教育との関連がわかり易くなります。なお、縦軸を4月から3月に、横軸を教材名・主題名・内容項目・その他にすると道徳科の年間指導計画になります。」
「年間指導計画を作成するにあたり配慮することは、学習指導要領に書かれている以外にありますか?」
「学校生活・地域行事・季節などを考慮して主題を配列する、中学生の発達の段階を考慮して1年生では視点AやBの内容を、3年生には視点CやDの内容項目を増やす、中学校3年間だけでなく小学校との関係も配慮する、いじめなどのテーマを重点化して関係する主題をまとめて実施する、学校行事や職業体験などと関連した指導を計画する、思いやりから人間愛へと道徳的価値が広がるように計画するなどが考えられます。」
道子「指導計画の作成・実施以外でカリキュラム・マネジメントにかかわることはありますか?」
「今回の学習指導要領の改訂では『社会に開かれた教育課程』が新しく提言されています。道徳教育も保護者や地域住民への授業公開や道徳だよりなどの広報活動を通して、道徳教育に対する保護者や地域住民の理解を深めるとともに、その願いや要望を受け入れ協働して道徳教育を進めていくことが求められます。また、道徳教育の目標を達成するために、道徳教育推進教師を中心に全教職員が一致して道徳教育に取り組める体制や互いに指導力を高めていける研修制度を作ることも大切です。そして、道徳教育の充実に向けた『イノベーション』を創造することです。教職大学院で学んでいる皆さんは期待されていますよ!」
「頑張らなくては……。」

 「道徳とは何か」から始まり、学校における道徳教育の在り方、道徳科の指導と評価、そしてカリキュラム・マネジメントと進んだこの連載も今回で終了します。大学院生の響・真理・道子との対話方式で説明がわかり易くなるように工夫しましたがその分内容が浅くなった、もう少し事例や指導案などを紹介すればよかったなど反省することも多いです。読者の皆様にはご満足いただけましたでしょうか?
 先日、ロシアで行われたサッカーのワールドカップでは、前回のブラジル大会で行われた日本のサポーターのごみ拾いが話題を集め、それが各国のサポーターにも広がりました。良い行為・人間としてするべき行為「MOS(モラルの原語)」は国や民族が違っても誰でも認めることです。そのような道徳的行為を自然にできる人が、世界中から尊敬される真の国際人だと思います。今後もさらに道徳教育を充実して『世界から尊敬される国際人』を育成してください。