おじいちゃんの里帰り

(C)2011 – Concorde Films

 1960年代のドイツ。戦後の復興が進むなか、労働力が不足したドイツは、ヨーロッパのあちこちから、働き手を招く。約2500キロも離れたトルコもその国のひとつである。
 映画「おじいちゃんの里帰り」(パンドラ配給)は、そのような背景で生まれた傑作コメディである。シリアスな時代背景であり、現実はさぞ過酷だったと想像されるが、映画は、背景の過酷さをほのめかしながらも、笑いと涙を、たっぷり用意する。
 フセイン・イルマズ(ヴェダット・エリンチン)は、単身で、トルコの東からドイツにやってくる。フセインは、隣の人に入国審査の順番を譲ったために、100万人目の移住者の名誉を逃したが、真面目に働く。やがて、妻とまだ幼い子供たちをトルコから呼び寄せ、家族を守り、働き続ける。

(C)2011 – Concorde Films

 フセインは、大家族である。妻のファトマは村長の娘で、ドイツへの帰化をなによりも望んでいる。長男のヴェリは、腕白少年で、今は離婚問題を抱えている。次男のモハメドは、何かにつけて不器用、現在は失業中。長女のレイラは、小さい頃から清掃員に憧れ、今は、チャナンという22歳の女子学生の母親だ。三男のアリは、兄弟で唯一人、ドイツで生まれて、妻のガビは、ドイツ国籍である。アリとガビには、6歳になる息子のチェンクがいるが、チェンクは、トルコの言葉が話せない。
 そのような家族の長フセインは、いまや70歳、孫が二人もいるおじいちゃんだ。見た目には、移民ながらも、なんとか生き抜いてきた普通の家族のように見えるが、それぞれに、さまざまな問題を抱えていることが分かってくる。チャナンはまだ学生だが、つき合っているイギリス人との間に、赤ちゃんが出来たことが分かる。6歳のチェンクは、いったい自分は、ドイツ人なのかトルコ人なのか、真剣に悩んでいる。ヴェリとモハメドは、大人になっても仲が悪く、いがみあいばかり。
 ある日、フセインは突然、家族に告げる。「トルコに行こう。故郷の村に家を買った。休暇だ」と。妻をはじめ、みんなは乗り気ではない。それでも、おじいちゃんの気力に押されてか、みんなはしぶしぶトルコに出かけることになる。そんな時、おじいちゃんに政府から手紙が届く。なんと100万1人目の移民として、メルケル首相の前でスピーチをして欲しいという内容だ。スピーチなどはしないというおじいちゃんだが、まんざらでもなさそう。家族それぞれの思惑を乗せて、フセイン一家のトルコへの里帰りが始まるが…。

(C)2011 – Concorde Films

 日本と外国とのつき合いについては、いろいろ情報も入ってくるが、外国同士のつきあいについては、日本ではなかなかわかりにくいことが多い。本作では、トルコからのドイツへの移民の実態や、妊娠したチャナンの相手がイギリス人であることから、トルコがいかにイギリスを嫌っていたかが分かるシーンもある。こういった外国同士のつきあい、歴史がどうであったかが分かるのも、映画を見る歓びのひとつだろう。
 過去のシーンを、チャナンとチェンクの孫ふたりが狂言回しを務めて、振り返る。22歳と6歳である。それぞれの視点が、本質を言い当てて、笑いを誘うし、重みがある。ドイツという国やキリスト教について、可愛い表情を示すチェンクの表現は爆笑ものだ。
 ドイツ人のなかでも、外国からの移民を極端に嫌う人もいるかもしれない。また、移民でも、フセインの家族のような、善人たちばかりでもないだろう。それでも、本作は、たとえ国や場所はどこであろうと、人間には、本来、きちんと働く権利があり、働いている国にちゃんと住める権利があることを伝える。
 監督は、トルコ系ドイツ人2世になるヤセミン・サムデレリ。脚本は、ヤセミンとその妹になるネスリン・サムデレリと共同で書かれた。写真で見たが、美人姉妹である。9・11以降、トルコを嫌うドイツ人が増えているらしい。そのような今、映画の果たす役割は、まだまだ多いと思う。

2013年11月30日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ico_link ほか全国順次公開!

『おじいちゃんの里帰り』公式Webサイトico_link

監督:ヤセミン・サムデレリ
脚本:ヤセミン&ネスリン・サムデレリ
撮影:ニョ・テ・チャウ
音楽:ゲルト・バウマン
製作:アニー・ブルンナー、アンドレアス・リヒター、ウルズラ・ヴェルナー
出演:ヴェダット・エリンチン、ラファエル・コスーリス
2011 年製作/ドイツ映画/ドイツ語・トルコ語/デジタル/カラー/101分
日本版字幕 間淵康子
配給:パンドラ/宣伝協力:エスパース・サロウ

日常に芸術を

 文化庁長官の任を退き,しばらくのんびりするつもりが,講演や取材依頼など予定は年末までギッシリだと苦笑する近藤誠一さん。そんな多忙極める近藤さんに,富士山の世界文化遺産登録の際にも発揮された外交手腕についてはもちろんのこと,芸術の担う役割や昨今の美術・社会科教育に至るまで,忌憚なく語っていただいた。その模様を2回に分けてお届けする。

心が豊かになる瞬間

 「先日,新幹線で移動する際に,赤ちゃんを抱く若い母親と隣り合わせました。にぎやかな道中になるだろうかと身構えたところで,不意にその母子と上村松園の『母子』とが重なって見えた。もちろん,母親が着物姿だったわけでも,ましてや髪を結っていたわけでもありません。赤ちゃんを慈しむ母親の穏やかな表情が,昭和初期から平成へ,時代を超えてつながって見えたのです」
 『母子』を知らず,脳裏に浮かばなければ,近藤さんは身構えたままの車中となったかもしれない。いつの世も変わらない子を思う母の佇まいが,近藤さんの心に温かい火を灯したのだ。“ 芸術は人生を豊かにする”とはよく言われる言葉だが,こうした瞬間にこそ“豊かさ”が潜んでいる。
 「今,学校現場では,図画工作や美術の授業時間は減る一方です。英語や数学などの比重が高まり,芸術に触れる機会が減っている。そんな状況だからこそ,むしろ積極的に芸術に触れる時間を作るようにしてほしいと思いますね。家庭でも気軽に芸術の話ができるように,親も普段から芸術に接する機会を持つようにするといい。幸い,テレビやインターネット,雑誌やCDなど,芸術を取り扱うメディアは私たちの身の回りにあふれていますからね」

芸術が内包する力

 芸術とひとくちに言っても,その内容はさまざまだ。詩や小説などの文芸,絵画やデザイン,写真,映像,建築などの美術,音楽や書道など多岐にわたる。マンガやアニメも芸術だ。
 「私も昔は,マンガやアニメなどに眉をひそめる大人でした。初めてしっかりとアニメを見たのは,娘とフランスで見た『千と千尋の神隠し』でしたね」
 映像が醸し出す日本の空気感と,文芸の素晴らしさ。近藤さんの中で凝り固まっていたアニメに対する偏見は,ふわりと溶けて消えた。そして,国外で初めて肌で感じた,日本のマンガやアニメに対する熱狂。
 「日本語は“感性の言語”です。一方,フランス語は“理論の言語”の最たるものと言えるでしょう。そんな理論派のフランス人が,日本のマンガやアニメを通して,日本人特有のあいまいでわかりにくい自然観や思想を理解し,価値観を共有している。これはすごいツールだと目からウロコが落ちる思いでした」
 固定観念や常識から自由になれる。感動を分かち合い,社会を変える力になる。それが芸術の内包する力だと近藤さんは言う。表現することでコミュニケーションが生まれ,互いを高め合い,才能を認められることで自己を肯定し,生きる意欲にもつながっていく。
 「日本には才能ある人が多く,文化財も多数存在し,成熟した文化を抱えています。しかし教育現場では芸術を学ぶ時間が減っているように,一人ひとりの才能を磨く場が少なく,そもそもその才能に気付かない。また文化財に触れたり,学んだりする機会もシステムも不十分です。せっかく外国人も感嘆する文化芸術をはぐくんできたのですから,国際的な競争力としてもっと活用していくべきですよね」

→「まなびとプラス 日常に芸術を」全編は、当サイトの機関誌・教育情報「まなびとプラス」にて公開中です!

近藤誠一
1946年神奈川県逗子市に生まれる。1971年東京大学教養学部教養学科イギリス科を卒業。同年東大大学院法学政治学研究科に進むが,在籍中に外務公務員採用上級試験に合格。1972年大学院を中退し外務省に入省。1973~1975年イギリス・オックスフォード大学に留学。広報文化交流部長を経て,2006~2008年ユネスコ日本政府代表部特命全権大使。2008年9月より駐デンマーク特命全権大使。2010年7月30日,文化庁長官に就任。2013年7月8日に退官。著書に『ミネルヴァのふくろうと明日の日本』『外交官のア・ラ・カルト』など。

新島襄とキリスト教-Godの世界はどう説かれたか【大河を読み解くシリーズ6】

 新島襄は、キリスト教に出会い、その世界を伝えようとしたとき、大文字のGodを「ゴッド」と単に表記するのでなく、God像を日本語で具体的に説くことに苦慮し、この「神」を「天上独一真神」「天上真神」「真神」「万有之造物者」「見て不得、取れとも不可取の霊神」「帝中の帝」「王中の王」「唯不可見のゴッド」「我輩及び天地万物を造れる天帝」等々、多様に表記しております。キリスト教のGodを伝えることは、日本の精神文化、かみがみの世界をどのように理解しているかにもかかわることでした。そこでGodがどう描かれているかを読み解くこととします。

新島襄が伝えようとしたGod像

 アメリカに密航した新島が父民治に無事を伝える最初の手紙は、1866(慶応2)年2月のもので、「少年の狂気業若し成らざれば死すとも帰らず」と決心し、生命に拘る国禁をも恐れず、「義すて難き主君を棄て、情わかれ難き親族をも不顧」、密かにアメリカ船で「万里之外に跋渉」、一家一族を悲哀に沈めた「多罪」は何れへも謝まってすむものではないが、この企ては「飲食栄華」のためではなく、「全く国家の為に寸力を竭」さんと「中心燃るが如く遂に此挙に及ひ候」と、密航の心意を認め、目下は「神の加護」で健康であり、日々学問修業に励んでいるので安心してほしいとの旨を認めた後、この「神」について追記しています。

此神は日本の木像金仏とはちかひ世界人間草木鳥獣をつくりし神にて永世不朽、実に我等之尊敬祈祷すへき神なり

 ついで1867年3月には、学んでいる神学校の生徒像を描き、「独一真神の道を修め」ることの道義的優位性を論じ、己が求めている世界を知らせます。

書生は多分正直信実にして一切酒煙草等を不用、強而邪淫を避け決し而女色の事杯は不談、唯天地人間草木鳥獣魚虫を造りて永々存在こゝにもかしこにも被為在候あらたかなる神、乃ち以前に申せし天上独一真神の道を修め、此世の罪を償へる聖人ジイエジユスの教を守り日夜不怠祈祷致し、其恩恵扶助をのそみ、己に克ち欲を禦き、父母に孝を尽し、兄弟姉妹朋友隣人を愛する事己に斉しく、偽詐佞弁を辱ち、悪口怒口を嫌ひ候、其風俗の美し事、何卒我朝放蕩之諸生酒をのみ自ら英雄とか称し、世間の人を見さげ豚犬とかよひ、親兄弟をけつけ、情の知れぬ女郎になじみ遂に癰毒(ようどく)に染まり、其業を失ふのみならす大切なる身を亡し、父母に難義をかくる輩に見せ度そんし候。小子も昔の七五三太とは大に違ひ深く此聖人の道を楽み、日夜怠らす其聖経をよみ、道を楽しみ善を行ひ、偏に他日の成業且国家の繁栄、君父朋友の幸福をのみ神祈仕候。

 かつ、家族が病気等で神仏へ願かけ、まじない等は無用となし、日本の神仏を論難し、「独一真神」とは何かを説き聞かせたのです。

一切神仏への願かけ、まじない等は被成間敷候様奉存候、なせならば日本の神仏は木、銕、銅、石、紙等にて造り、目あれ共見得ず、耳あれ共聞得ず、口あれ共食ひ得す、手足あれ共働く能ず、是其内に魂のなきは明白に御座候、且神仏は古の人にし而矢張当時の人間と同しく太神宮の如きも大人と斉しき人に御座候間、神棚へ崇め尊び天照宮と申頭をさげ拝みを上候等之事は愚之至りにして論を用ひす共、其利益のなき事は相分り申候、但し天照宮も八幡宮も春日大明神も矢張我々と同しく独一真神より造を受たる人間に御座候間、何卒大人御目をひらき如此手に製したる偶像に御迷ひ被成ぬ様、去なから此天上独一真神は天にも地にも只独り(釈迦如来の如き銕石の仏とは相違いたし候)の神に御座候はゝ天地、星辰、人間、鳥獣、魚類等をつくり永々御存在こゝにもかしこにも被為在、世人の善悪を御覧被成、善をなす者には未来の幸福不朽の生命を賜ひ、悪を為せし者に必らす罪を加へ、永々も困苦を賜ひ候間、其神を信仰し而日夜敬而祈祷を呈し

「偶像教」に寄せる眼

 日本の神仏は、木、銕、銅、石、紙等で造型されたもので、天照大神をはじめ八幡神、春日明神等にしても、造物主の手になる偶像にすぎないと徹底的に論難されました。このような論難は、日本にきた耶蘇教―プロテスタントの宣教師が説く論理であり、日本がアジアの野蛮国の証とみなしたものです。ここには、木、銕等々にすぎない日本の神仏を野蛮な偶像教とみなし、キリスト教こそが日本が野蛮から文明に歩むための日本文明化の器であるとの思いが読みとれます。新島は、このような日本を変革するためにも、偶像が支配する秩序からの脱皮し、善悪を裁く独一真神の道に入ることを説いています。ここには、日本の儒教的世界を超える文明の秩序をささえる道義への期待があり、精神の覚醒を偶像教批判でめざすものにほかなりません。
 この「天上独一真神」等等と聖書が説くGodをどのように伝えるかは、新島のみならず、日本宣教に従事した宣教師にとり難題でした。プロテスタントの聖書和訳では、Godを「天主」「上帝」「神」のどれにするかが議論され、イギリス系が「上帝」、アメリカ系が「真神」とすることを主張。しかもギュツラフは、『約翰(ヨハネ』福音之伝』で「ゴクラク」と約しています。この「ゴクラク」は、ヨハネ福音書3章5,6節の「神の国」の説明で「ゴクラクノクニ」と理解したことから、「ゴクラク」を至高の実在とみなしたことによりましょう。
 このように人格神であるGodをどのように理解させるかは、偶像神批判を野蛮の証として、批判すればするほど日本におけるキリスト教伝道を躓かせることともなります。やがてプロテスタントの聖書は、「天主」「真神」をして、「神」とします。この「神」は、「真神」なる表現が示していますように、日本の神godをして、偶像にすぎない偽の神とみなしたことによります。このことは、Godとgodの根深い対立を生みますが、日本のキリスト者をしてgodの世界に捕囚させる遠因ともなりました。それは、文明の宗教としてキリスト教を受け入れ、道徳経と理解したがために、「此世の罪を償へる聖人ジイエジユスの教」を己のものにすることに大きな躓きの石となったのです。

私たちの生活と経済「日本に増税は必要か考えよう」(第3学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

私たちの生活と経済「日本に増税は必要か考えよう」

2.指導計画(概略)と本時のデジタル教科書・ICT活用

指導計画(20/21時間)

本時のねらいとICT活用の意図

1

単元の学習問題をつかみ、学習計画を立てる。

●教科書に付録しているデジタル教科書とインターネットを利用した。教科書に載っている図やグラフを読み取った後の発表・解説などを、生徒の視線を上げて反応を確認しながら行うことができる。
●インターネット上のホームページを提示することで、生徒の興味関心を高め、本時の主題へ取り組みさせたいと考えた。

2~10

経済について考える。「ものやお金はどのように生み出され、使われているのだろう。」

11~13

労働について考える。「私たちの働きやすい理想の職場とは、どんな職場だろう。」

14~20

財政・社会保障について考える。「豊かな暮らしを支えるために、政府はどんな働きをしているのだろう。」

21

学習をふりかえり、単元の学習のまとめをする。

3.本時の展開(主な学習活動)

学習の流れ

主な学習活動と内容

ICT機器・教材、コンテンツ等

導入

0~15

●日本の財政赤字について考える。
●本時の学習問題をつかむ。
●日本の税率について考える。
●日本の景気について考える。

●インターネット上のホームページ
●デジタル教科書

展開

15~35

●増税したとき、増税しないときのメリットとデメリットについて、自分の考えをワークシートに記入する。
●増税すべきかそうでないかグループで話し合い、グループの意見をまとめる。

●ワークシート
●資料集

まとめ

35~50

●グループの代表が意見を発表する。
●学級全体で話し合い、自分の考えをワークシートに記入する。

●資料集を参考に作成した提示用資料

4.活用したICT機器など

デジタル教科書、電子黒板、インターネット、黒板・ホワイトボード、その他(ワークシート・資料集)

5.主に活用したデジタル教科書などの教材、コンテンツ等とそのねらい

●教材、コンテンツ等
デジタル教科書、インターネット「借金時計」、資料集の資料をもとにした自作コンテンツ
●活用のねらい
・インターネットの借金時計を電子黒板で提示することで、1秒ごとに負債額が増えるのがわかり、興味関心を高めさせる。
・デジタル教科書のグラフを提示することで、生徒の反応を確認しながら、授業を進めることができる。

6.活用場面の学習・活用スタイル

●学習スタイル:一斉学習
●活用スタイル:教師説明型

7.参考にしてほしいポイント

 準備の時間を必要とせずにすぐに教科書を映し出すことができるデジタル教科書は、図やグラフを解説したり、生徒がそれらを用いて説明したりするときに、大変便利である。

8.ICT活用への児童生徒の声、反応

 教科書のグラフに矢印などを書き加えて説明してくれるのでわかりやすかった。

9.活用効果

●評価の観点
社会的な思考・判断・表現
●具体的変容
 小単元のまとめとして、発展的問題として取り上げた。導入での借金時計では、その額の増え方に驚いて声が上がり、本時への興味を高めることができた。その後の話し合いでは、真剣に、しかし楽しそうに話し合い、考えを練り合うことができた。

10.実践の手応え

 電子黒板を利用して教科書の内容を考えさせると、生徒の目線が上がり、反応がよくわかる。また、復習として既習した図やグラフをすぐに提示することができるので、活用しやすい。

1枚の絵から生まれる多彩なストーリー(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

 「表現」に比べ「鑑賞」では授業中や授業後「疲れた」,「鑑賞つまらない」など生徒からネガティブな発言を聞くことがあった。作品に関する知識習得や1つの作品の見方に教師が導く授業形態であるため,生徒が受動的に授業に参加させられていた点が最大の要因と推察する。生徒が能動的に授業に参加できるための工夫が必要と感じて来た。
 改善の方策として対話型鑑賞法を用い,生徒が主体的に活動に参加できれば,「鑑賞」の授業に対する意識がポジティブなものへ変容するのではないだろうか。しかし,美術館等で実施される対話型鑑賞(1人の学芸員が少人数グループを対象として実施する鑑賞)では1人の教員が38人の生徒を相手にするのは困難である。
 そこで,1995年Juanita Brown(アニータ・ブラウン)とDavid Isaacs(デイビッド・アイザックス)によって、開発・提唱された話合いの手法「World Café」(以降,WCと記述)を取り入れることで38人の生徒を対象とした対話型鑑賞を成立させることができるものと考えた。WCでは,生徒が他者と意見交換し多様な考え方を知るとともに,創造的に自己の考えを深めることができるとされている。
 本稿では「鑑賞」活動を通して生徒の言葉から紡ぎ出される言葉を通して,その有効性を探ることとした。

1.題材名

「美術作品に込められたメッセージを読み取ろう」

2.題材の目標

 他者と交流しながら山口晃「新東都名所東海道中『日本橋改』」(以降,山口作品と記述)を鑑賞し,自己の考えを明らかにするとともに,美術作品は観る人によって多様な捉え方があることに気付く。
 本題材における「分析的に鑑賞する」とは,作品を鑑賞して感じたこと,考えたことを述べるだけでなく,そのように感じたり考えたりしたか根拠をもとに述べることとする。
 美術作品の鑑賞は国語科の授業でも実践されている。本題材では美術科ならではの視点,美的観点(形や色彩)に意識的に着目させ活動展開する。

3.題材の評価規準

(1) 関心・意欲・態度
 山口作品を分析的に鑑賞する活動を通して,よさや美しさを感じ取り,美術文化に対する興味・関心を高めることができる。

(2) 発想・構想の能力
 山口作品に表現された形や色彩などの特徴をもとに作品に込められた作者の心情を豊かに発想し,表現の工夫や意図を推測することができる。

(3) 鑑賞の能力
 山口作品に込められた物語やメッセージを分析的に捉え,自他の意見を比較するなどして,自分の考えを口頭又は文章でまとめることができる。

4.題材と指導の構想

(1) 題材のとらえについて
 山口作品を取り上げた理由は,モチーフの日本橋は知名度が高く,生徒は親しみを持てると考えたからである。山口作品に描かれた形や色彩のみで作品解釈すること,与えられた資料や自分の知識をもとに「熟考・評価」することが可能であるため,生徒は多様な方法で作品に迫ることができる教材であると考えた。
 現代アートの表現手段は多様である。それらの作品の一つに触れることは,生徒が美術作品の多様性,自分の感性に響く作品を見いだすきっかけとなるのではないだろうか。

(2) 生徒の実態と題材のかかわり
 生徒は表現活動との関連の中で,教科書や資料集,視聴覚教材などを通してさまざまな美術作品に触れる活動を行ってきた。また,2ヶ月前に実施した「阿部展也」の版画図版を用いた対話型鑑賞活動で生徒は,作品を注意深く鑑賞し,それらが何を表しているか気付くことができるようになった。作者が美術作品に込めたメッセージを推測できる生徒はわずかであった。自分が獲得した情報をもとに,イメージを膨らませ言語化する経験が初めてであったことと,鑑賞するための視点が曖昧であったからと推察する。
 本題材では,山口作品に表現された形だけでなく色彩の特徴ももとに,何が描かれているか推測するために,他者と交流しながら言語化する活動を行う。自他の考え方を共有することを通して,美術作品の多様な捉え方に気付く。その後,さまざまな意見を取捨選択し,自己の考えを深め美術作品にどのようなメッセージが込められているか(作者が社会に対しどのようなメッセージを発信しようとしているか)生徒が推測する。

5.題材の流れ

(1) ねらい
①形や色彩を観点とし山口作品が社会に対し発しているメッセージに気付く。
②美術作品には多様な見方があることに気付く。

(2) 本時について
①授業時数…1時間(50分) ②授業者…筆者 ③生徒数…38名(1学年)

(3) 本時の展開と評価

学習内容・活動

時間

主な教師の働きかけと生徒の反応

指導上の留意点と評価

本時の学習の準備と確認

6

・ワークシートを配布
・本時の活動の確認

板書「作品に込められたメッセージを読み解こう」

◯山口作品の「情報の取り出し」

12

WC1回目(1グループ4人又は3人で実施)

【発問1】
「作品に何が表現されているのだろう。」

【指示1】
「形や色彩の特徴を見てお互いに感じたことを意見交換しなさい。」


補助発問
・人物に着目しよう
・橋に着目しよう
・建物やその他に着目しよう

<評価規準・観点>
◯WC1回目
美術作品の形や色彩の特徴を基に,言語表現できたか。
【評価方法】
・観察,ワークシート

◯山口作品の「解釈」又は「熟考・評価」

12

WC2回目(グループの半分のメンバーが入れ替わる)
異動直後,新しく参加した者は,他のグループで出た意見を紹介し,グループに残留していた生徒はグループ内で出た意見を紹介する。

【発問2】
「いつの時代を表現しているだろう。」
他者の意見を参考としつつも自分の考えを根拠をもとに述べる。

<評価規準・観点>
◯WC2回目
山口作品(写真内最上段),明治・大正の日本橋の写真。現在の日本橋の写真(写真内2段目),広重の浮世絵の日本橋(写真内3段目)との比較や,発問1の結果や他者のさまざまな意見をもとに,自分の考えを述べることができる。
【評価方法】
・観察,ワークシート

◯山口作品の「熟考・評価」

12

WC3回目(グループの半分のメンバーが入れ替わる)
異動直後,新しく参加した者は,他のグループで出た意見を紹介し,グループに残留していた生徒はグループ内で出た意見を紹介する。

【発問3】
「自他のさまざまな考えをもとに,作者は作品を通して社会に対し,どのようなメッセージを発信しようとしているのだろう。」

【指示2】
「自分が推測した作品に込められたメッセージを自分ワークシートにまとめなさい。」
生徒は自他の考えを交流させながら,ワークシートに記入する。

<評価規準・観点>
◯WC3回目
・自分の意見をまとめることができたか。
・山口作品に込められたメッセージを文章にまとめることができたか。
【評価方法】
・話合いの観察
・ワークシートの記録内容

◯まとめ

8

【指示3】
「他の人と交流したり,意見交換する活動を通して,気付いたことや,本時の活動を振り返って感じたことをまとめよう。」

<評価規準・観点>
・他者と意見交換することで自己のイメージが膨らませることができることに気付くことができる。
・分析的に鑑賞し,山口作品に込められたメッセージを推測する活動の面白さに気付くことができる。
【評価方法】
・ワークシート

 本稿における「情報の取り出し」とは,形や色彩などを通して作品に何が表現されているか事実をつかむこと,「解釈」とは作品に表現された形や色彩を基に美術作品に込められたメッセージや物語を推測すること,「熟考・評価」とは作品上に表現された形や色彩,他教科等で学んだ本題材で扱う美術作品以外の知識等をもとに作品のメッセージや物語を推測することとする。

(4) 評価規準
①形や色彩に着目し作品が社会に対して発しているメッセージに気付くことができたか。
②他者との交流を通して,美術作品の多様な見方があることに気付くことができたか。

6.結果と考察

(1) 結果
 生徒の読み(作者が発信しようとしているメッセージの推測)の結果は細部の文章表現の違いはあるが「多様な文化の違いの尊重」「歴史遺産の重要性」「過去の人に学ぶものの存在」「歴史の積層」「平和への希求」の5種類に分類できる。それぞれの代表的な事例を以下の表(枠)内に示す。

①多様な文化の違いの尊重

生徒A
 今も昔もどちらにも良いところがある。昔は不便だったかもしれないけど,排気ガスを出したりしないし,今は排気ガスやCO2などの問題があるけど,すごく便利になっている。だから,昔も今もどちらも大事で,いらないものはないということを社会に伝えたいのではないだろうか。日本橋も,最初の木材でできた橋より,今の橋のほうが丈夫だけど,昔は昔で,それに合った橋になっていると思う。

生徒B
 この絵には今の時代と昔の時代の風景が描かれているので,作者は,日々進化していく時代もいいけど昔のすてきな時代のことも忘れないでいてほしい…というメッセージを発信したかったんじゃないかなぁと思いました。まん中の橋の下の車は人力車など形が古いものですが,まん中から上の車は大型トラックなど現代的な車ばかりでした。

生徒C
 過去の物で良いものもあるし,現代でも良い物はある。古いからって何でも無くしていってしまうのは良くない。「ならば,どちらも取り入れてみよう」というメッセージ。

②歴史遺産の重要性

生徒D
 この作品の中に3つの時代の橋が描かれている。「江戸」「明治」「昭和」この3つを一緒の絵に描くことで,時代がだんだん変わってきて,日本橋が新しくなってその上に高速道路がある。新しくできた物の方が便利でなおかつ時間も短縮できる。だけど,古いものにもそれぞれいい所が必ずある。そこで,この作品を描いた人は,同じような橋を3つ絵の中に描いたんだと思う。新しい物ができれば,古いものは使われなくなって,最後には壊される,そういったことがなくなるように描いたんだと思う。

生徒E
 「時代が進んでも昔のものを活用していくことができる」このように考えた理由は,時代が変わり,身の回りには次々と新しいものが出て来ているけど,昔から使われている物を活用することができる。でも,新しいものがどんどん使われなくなり,消えていってしまっているから時代が進んでも昔のものを活用していくことはできるのではないかと伝えたいのだと思う。

生徒F
 昔のことを忘れないようにというメッセージ…新しいものが出るとすぐそちらの方を向いてしまったり,他の国の文化を取り入れようとして,昔のものとかがなくなってくることがあるから,日本の文化,建物を忘れないようにという想いが込められていると思います。

③過去の人に学ぶものの存在

生徒G
 新しいことばかりでなく,昔のことにも目を向けてみるといいというメッセージ。江戸時代はゴミが出なくて環境にいい暮らしをしていたと聞きます。現代は,たくさんの便利なものがあるけど,環境が悪化していると思う。そこで,昔の人に学び,環境にいい暮らしをしてみてはどうかということで,江戸の人の暮らしを描いたんだと思います。

生徒H
 作者は「未来ばかりでなく,過去を振り返ったり,見つめたりすることが大切だ。だからといって未来を見ないのはだめ。だから過去をときどき振り返りながら未来にすすむ」…そんな社会を作っていきたいというメッセージを発信しているのだと思いました。理由は,社会はどんどん機械化していき,いつの間にか過去の事を忘れている。必死に未来ばかり見ている。そんな社会が今,現在なのでは?と思います。だから「いつかは人の温かさや想いが分からなくなる社会」にならないように,少しずつなおしていって,いつかは自分の思いに近づけたらと思いながらこの絵を描いたんだと思います。

④歴史の積層

生徒I
 古い時代と現代の橋をくっつけて,昔と今とを比較してみて,そこに昔の人を現代の橋に描いたり,現代の橋にはあるはずのない車を描いたり,どんどん技術も進歩して,いろんな人が考えて日本がこれだけ進んできたということを伝えている。今の橋と古い橋をくっつけて,比較して見るとそのように感じる。

⑤平和への希求

生徒J
 この世が平和になって欲しい…このような事故(車が少なく)やケンカがないような平和でにぎやかな街を山口さんはのぞんでいるんだと思う。

(2) 考察
 生徒は山口作品を鑑賞するための視点として,形や色彩を入口としつつも,他者の考えや自分の持っている知識を引用しながら山口作品に込められたメッセージを読み解いた。その結果,以下の①〜③の生徒の姿を確認できた。

①山口作品を他教科で得た知識等と照らし合わせながら鑑賞する生徒
 生徒A,生徒F,生徒Gは,他教科で習得した知識をもとに作品のストーリーを推測している。生徒Gを事例とし,細かく観ると,環境問題に関する知識や小学校6年社会科で習得した江戸時代の民衆の暮らしの知識(江戸時代はゴミが出なくて環境にいい暮らしをしていた)を活用し,推論を展開している。作者の心情や意図と表現の工夫,作品などに対する思いや考えを説明し合う活動の中で,他教科で学んだ知識を整理,統合する思考が働き,対象の見方や感じ方を広げていることが分かる。

②描かれたものを通して,文化遺産の存在意義に気付く生徒
 生徒Dの「新しい物ができれば,古いものは使われなくなって,最後には壊される」,生徒Eの「新しいものがどんどん使われなくなり,消えていってしまっているから時代が進んでも昔のものを活用していくことはできるのではないか」,「日本の文化,建物を忘れないように」は,作者のメッセージとして生徒らは述べている。それは,作られては次々に壊されている文化遺産に対する問題意識があるからこそ出てきた言葉といえよう。作品を鏡とし,自分の内面に潜在的にある意識を写し出している様相が見て取れる。それは,文化遺産への関心の高まりを引き出すことに結びついたといえるのではないだろうか。

③山口作品の形や色彩から受ける感覚的印象をもとに読み解く生徒
 生徒Jは,浮世絵の技法(単純化された,形や色彩)を取り入れた本作品から穏やかな雰囲気を感じとった。それをもとに,作者がこの作品に込めたメッセージを推測した。

7.成果と課題

 WCの手法を取り入れたことで多様な意見を知るだけでなく,他者の意見をもとに自分の考えを深めることにつながった生徒がいた。生徒はWCの活動の中で次々と新たなメンバーに接することで新たな情報に接したり,自分の意見を発信したりした。それは,生徒が主体的に活動に取り組む姿であり,作品に対し興味を持ち続けることへつながるもととなったのではないだろうか。
 50分で実施する題材としては,発問が多過ぎた感がありあわてて自分の考えをまとめている生徒がいた点は今後改善すべき課題である。生徒にじっくりと考えさせるための発問の精選が必要である。

「苗ドームをヘーンシン!」(第2学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「苗ドームをヘーンシン!」

2.題材の価値とねらい

 苗ドームとは,育成中の苗が鳥に食べられることを防いだり,苗を寒さから守ったりするためのものであり,ホームセンター等で購入することが可能である。苗ドームは,子どもが頭にかぶって自分を何かに変身させたり,ひっくり返して回したりなど,子どもにとって遊ぶ行為が広がる材料である。また,ドーム自体が曲面の形状をしておりかつ透明なので,下から見たり斜めから見たりすると形状が変わって見えたり,透明性のある材料をつけると見え方が変わったりなど,子どもの表現を広げる可能性を持っている。

苗ドーム

苗ドーム

かぶったら,別な世界に見えた!

かぶったら,別な世界に見えた!

3.題材の観点別評価内容

①関心・意欲・態度
 苗ドームの動きの面白さに気付き,進んで身の周りから材料を集めて,楽しんで表そうとしている。

②発想や構想の能力
 苗ドームの動きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりしながらイメージを膨らませて,表し方の工夫を考えようとしている。

③創造的な技能
 色や形,大きさなどを考えて,自分の思いを表現できる装飾材料を効果的に使い,思いにあった表し方をしようとしている。

④鑑賞の能力
 苗ドームを回して遊ぶ活動を通して,苗ドームの動きを生かした面白さやよさに気付いている。

4.学習の流れ

<用具・材料>
教師:苗ドーム,装飾材料(例:スズランテープ,お花紙,色セロハン,マスキングテープ),苗ドームを動かして遊ぶコーナー(鏡,ドームをぶら下げる棒,色水の入ったペットボトルなど),マーカーペン
児童:装飾材料(例:リボン,わた,ミラーテープ,キラキラクッションなど)

<導入時の工夫>
 導入時には,「苗ドームを回すと面白い!」と子どもに思わせる手立てを取り入れる。最初に,苗ドームを子どもに提示し,苗ドームで触れ合う時間を設定して遊ばせる。

巨大ゼリーだ!

巨大ゼリーだ!

T:苗ドームを使って,遊んでみましょう。
C:巨大ゼリーみたい。
C:宇宙人の帽子みたい。
C:UFOみたい。
C:亀の甲羅みたい。

 子どもが,苗ドームを回して色々な見立てが出来たところで,体育館や集会室などの広いスペースに,以下のコーナーを準備する。

1.カラフルコーナー
 このコーナーでは,色水の入ったペットボトルの上にドームを置いて眺めさせる。子どもが,回して眺める・下から眺める・ドームをひっくり返して眺める,などの行為を通じて,何かをイメージしていく。例えば,お花の観覧車みたいでキレイ,扇風機が回っているようで面白い,などである。

カラフルコーナー

カラフルコーナー

2.クルクルコーナー
 このコーナーでは,棒にドームを指して回転させて眺めさせる。子どもが,クルクルと回転させながら,上から眺める・横から眺める・斜めから眺める,などの行為を通じて,何かをイメージしていく。例えば,コマがクルクル,泡立て器が回っている,などである。

クルクルコーナー

クルクルコーナー

3.ブラブラコーナー
 このコーナーでは,高さの異なる場所にドームをまっすぐぶら下げたり,斜めにぶら下げたりして眺めさせる。子どもが,下から眺める・横から眺める,上から眺める,などの行為を通じて,何かをイメージしていく。例えば,ロケットが飛んでいく,マンボウが泳いでいるよ,宇宙船が下りてきた,などである。

ブラブラコーナー

ブラブラコーナー

4.どれどれコーナー
 このコーナーでは,鏡の前でドームをかぶったり,人型の箱にドームをかぶせたりさせる。子どもは,回しながら鏡に映った自分を眺める・ドームをかぶった自分を眺める,などの行為を通じて,何かをイメージしていく。例えば,UFOに吸い込まれている,帽子みたい,透明な世界,などである。

どれどれコーナー

どれどれコーナー

5.デコボココーナー
 このコーナーでは,高さの異なる棒にドームを指して眺めさせる。子どもが,ステージの上から眺める・横から眺める・下から眺める・斜めから眺める,などの行為を通じて,何かをイメージしていく。例えば,お花が咲いている,みんなのドームを乗せたら,虫みたい,亀がぶら下がっている,などである。

T:今度は,体育館に用意した五つのコーナーに行って,遊んでみましょう。
C:カラフルコーナーでドームを回したら,ルーレットがまわっているみたい。
C:ブラブラコーナーに行ってドームを回したら,宇宙船が目をまわしたよ。

 子どもは,複数の場で試し,様々な角度から眺めることにより,色々なことを感じたり,思い付いたりしていく。

デコボココーナー

デコボココーナー

どんな感じかな?

どんな感じかな?

<活動の広がり>
 「苗ドームを回すと面白い!」「苗ドームを回したら,○○みたい!」というように,ドームを回すことの面白さや色々な見立てが出来た状態の子どもに,テーマ(例:2-2フェスティバル~魔法を使って○○に変身~)と材料コーナーを提示する。子どもは,前時までの活動を想起し,5つのコーナーの中から気に入ったコーナーに行き,つくりたいものを考えてつくっていく。

C:わたとリボンを付けて,ぶらぶらコーナーでドームを回したら,クラゲの足みたいに見えたよ。
C:ドームにスズランテープを付けて,カラフルコーナーで回したら,「レインボーなゆりかご」に見えたよ。もっとレインボーになるようにしよう。
C:キラキラクッションを付けて回したらキラキラしてオシャレになったから,「キラキラクラゲ」にしよう。

 子どもは,色々なコーナーで苗ドームを動かし,「動きの面白さ」に気付き,色々な視点(形や色,動きなど)からの見立てをしたことで,つくりたいものを表すことができた。

完成作品例1

完成作品例1

完成作品例2

完成作品例2

完成作品例3

完成作品例3

<評価>
 学習過程の児童のつぶやきや様子などを踏まえて,一人ひとりのつくりたい思いを継続させる評価を心がける。①~④は,題材の観点別評価内容の具体の姿である。

①苗ドームを回したり,色々な角度から鑑賞したりして,苗ドームの動きの面白さに気付く。そして,意欲的に材料を集めて,楽しみながら面白い形を表そうとしている。

②苗ドームの動きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりして,苗ドームの動く様子から何かを見立てている。そして,見立てたことに基づき,装飾材料の組み合わせを考えている。

③つくりたいものを表現するための装飾材料を効果的に使って,つくりたい思いに近付く表し方をしている。

④友だちの製作途中の作品や,つくった作品を回して遊ぶ活動を通じて,苗ドームの動きを生かした面白さやよさに気付いている。

【情報の流儀】玉川学園高等部 登本洋子教諭 ほか

Web限定コンテンツ

「登本先生の準備室」

玉川学園

丘の上の豊かな緑に囲まれた一つのキャンパスの中に,幼稚部から大学院までが収まっている玉川学園。初等部から高等部までは4−4−4制となっており,中学校3年生(9年生)から高校3年生(12年生)までが高等部の校舎で学ぶ。平成20年よりSSH(Super Science HighSchool)に認定されているほか,日本では数少ない国際バカロレア(IB)認定校でもある。

MMRC

登本先生が「設備も人も揃っているので,これがないからできない,という言い訳ができなくて」という高等部のハイスペックな環境。その一つ,MMRC(Multi Media Resource Center)は,子どもたちがさまざまな情報へアクセスするための学習拠点となっている。MMRCには60台のMacBookが用意され,子どもたちは常時自由に使うことができる。ゼミ形式の授業などで使われるアトリエとよばれる部屋は「学びの技」や自由研究の活動で活用されている。本棚のそばには,「学びの技」で利用されているシンキングツールが置かれるなど,生徒の探究をサポートするための細かな配慮も随所に見られる。

CHat Net

玉川学園が導入しているCHaT Netは,教職員,児童生徒,保護者が学校でも家庭でも利用できるグループウェアで,学校に関するあらゆる情報がここに集約されている。子どもたちの欠席連絡や通学路線の遅延情報の把握といった校務をサポートするだけでなく,ここにデータを保存しておけば家でも見ることができるので,クラウドのような使い方もでき,授業で使う教材を入れておけば利便性も高い。

先生の一日

必修科目の「社会と情報」だけでなく,選択科目や「学びの技」,学級担任も受け持っている登本先生は,朝から夜まで授業に会議に生徒の相談と,忙しく校内を動き回る。そんな合間を縫って一息つくコーヒーは,プレス式のメーカーで淹れたこだわりの一杯。
そんな忙しい登本先生のリフレッシュ方法は料理。学校からの帰り道,毎日欠かさずスーパーに立ち寄り,夕食の支度をする。作ることも好きだが,みんなで一緒に食べたり飲んだりすることが何よりの楽しみなのだそうだ。

(*1) おもに海外生活をしながら現地校に通う子どもたちを対象とし,大学入学資格を付与するための国際的な共通カリキュラム。玉川学園では,この条件を満たしたカリキュラムで編成されたIBクラスを設けている。
(*2) 電子情報技術産業協会(JEITA)が開発・提供している,人形が旗を効率よく取るためのアルゴリズムを組み立てる課題解決型のゲーム。Webサイト(http://home.jeita.or.jp/is/highschool/algo/index.html)上で利用できる。
(*3) LINEで友だちに送ったメッセージを友だちが読むと「既読」と表示される。この既読表示がなかなかつかない,あるいはついているのに返事が来ないことで不安を感じたり,メッセージをすぐに返信しなければならないといった強迫観念を抱いたりしてしまうこと。

「開国と明治維新」(第6学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「開国と明治維新」

2.目 標

 黒船の来航,明治維新,文明開化などについて調べ,日本が廃藩置県や四民平等などの諸改革を行い,欧米の文化を取り入れつつ近代化を進めていったことを理解できるようにする。

3.評価規準

社会的事象への関心・意欲・態度
①黒船来航の開国がきっかけとなり,日本が近代化を進めていく過程に関心をもち,それを意欲的に調べている。
②近代化に向けた諸改革に対して、自分なりに考えようとしている。

社会的な思考・判断・表現
①明治維新・文明開化など日本が近代化を進めていく過程について学習問題や予想・学習計画を考え表現している。
②江戸幕府と明治政府の政治を関連付けながら,欧米の文化を取り入れつつ近代化を進め,その影響を適切に表現している。

観察・資料活用の技能
①教科書や資料集などの資料から日本が近代化を進めていく過程について必要な情報を集め,読み取っている。
②鎖国が終わり新しい時代が始まっていく様子について調べたことを,まとめている。

社会的事象についての知識・理解
①黒船来航により日本が開国したこと,近代化に向けた諸改革について理解している。
②日本が欧米の文化を取り入れつつ,近代化を進めていったことを理解している。

4.本単元の指導にあたって

 本学級の児童は,歴史上の人物に興味をもち,その人物の活躍や生い立ちなどを積極的に調べ,わかりやすく新聞にまとめることができるようになってきた。しかし,学習中の「調べる」段階では,文書資料を活用する児童が多く,絵図やグラフからの読み取りは苦手である。また,学習全体を通して,自分の意見を発表することが苦手な児童が多く,発表する児童に偏りがある。隣やグループと自分の意見を伝える場を設けてはいるが,考えが深まるところまではなかなか至っていないのが現状である。
 本教材は,黒船の来航をきっかけに,約700年続いた武士の世の中が終わり,新しい時代が始まる様子がわかる教材である。そして,幕末から明治維新にかけては,政治や経済の状況,社会の変化,国際関係と,複雑で急速な展開を見せるため,十分理解し進めていく必要がある。
 そこで,「つかむ」段階では,絵図や写真等の資料を提示し,気付いたことを発表することで関心を高め,学習への意欲付けになるようにする。「調べる」段階では,苦手な児童が多いため,調べる観点を明確に示し,机間指導を行いながら助言を行うようにする。「話し合う」段階では,隣やグループと自分の意見を伝える場を設定し,自分の意見だけでなく,友だちの考えも受け入れ,共有することができるようにする。そして、一人ひとりの考えを広げると共に,日本の近代化についての理解を進めていきたい。

5.単元の指導計画

小単元名

時数

子どもの意識の流れ

○目標 ●評価

黒船の来航

2
2/2

本時

大きな船がこっちに向かってくるよ。どうして日本にきたのだろう。

○黒船の来航について調べ,これから日本がどう変わっていくのか関心をもって予想することができるようにする。
(関心・意欲・態度①)
●黒船の来航について調べ,これから日本がどう変わっていくのか関心をもって予想することができたか。
(行動観察)(学習ノート)

黒船の来航で日本の鎖国が終わったんだね。日本はこれからどうなっていくのだろう。

○日米和親条約と日米修好通商条約について調べ,日本とって不平等な条約であったことを理解できるようにする。
(知識・理解①)
●日米和親条約と日米修好通商条約について調べ,日本とって不平等な条約であったことを理解できたか。
(行動観察)(学習ノート)

外国と結んだ条約は,日本にとって不平等なものだったんだね。開国によって人びとのくらしは,苦しくなっていったんだね。

渋染一揆(1)

1

岡山藩が出した「倹約の御触書」「特別な御触書」には,どんなねらいがあったんだろう。

○岡山藩の御触書について調べ,岡山藩が農民や町人からも差別された人たちに「特別な御触書」を出したねらいについて考えることができるようにする。
(技能①)
●岡山藩の御触書について調べ,岡山藩が「特別な御触書」を出したねらいについて考えることができたか。
(行動観察)(学習ノート)

渋染一揆(2)

1

農民や町人からも差別された人たちは,不当な要求を撤回してもらおうと強い決意をもって,渋染一揆を行ったんだね。

○渋染一揆の経過について調べ,「特別な御触書」の取り下げを勝ち取るまでに大きな犠牲や苦労があったことを理解できるようにする。
(技能①)
●渋染一揆の経過について調べ,「特別な御触書」の取り下げを勝ち取るまでに大きな犠牲や苦労があったことを理解できたか。
(行動観察)(学習ノート)

江戸幕府の終わり

1

日米和親条約・日米修好通商条約から幕府への不満が高まり,倒幕への動きが広がっていったんだね。これで,700年続いた武士の世の中が終わったんだね。

○幕府がたおれるまでの動きについて調べ,鎌倉時代から続いた武士の時代が終わったことを理解できるようにする。
(技能②)
●幕府がたおれるまでの動きについて調べ,鎌倉時代から続いた武士の時代が終わったことを理解できたか。
(行動観察)(学習ノート)

新政府による政治~版籍奉還,廃藩置県~

1

新政府は,天皇中心とした国の仕組みを作るために,版籍奉還や廃藩置県を行ったんだね。

○明治政府の取り組みについて調べ,天皇を中心とした新しい政治の仕組みを作ろうとしたことを理解できるようにする。
(思考・判断・態度①,知識・理解①)
●明治政府の取り組みについて調べ,天皇を中心とした新しい政治の仕組みを作ろうとしたことを理解できたか。
(行動観察)(学習ノート)

新政府による政治~四民平等~

1

今までの身分制度が廃止され,新しく四民平等という身分の仕組みができたんだね。農民や町人からも差別された人も解放令から平民になったけど,差別は残ったんだね。

○四民平等と解放令について調べ,新しい身分制度が確立したことを知るとともに,差別が根強く残った原因を考えることができるようにする。
(関心・意欲・態度②)
●四民平等と解放令について調べ,新しい身分制度が確立したことを知るとともに,差別が根強く残った原因を考えることができたか。
(行動観察)(学習ノート)

豊かで強い国をめざして

1

富国強兵のための政策で国民の負担は大きくなったんだね。不満が高まるのを分かりながら,豊かで強い国を作ろうとしたんだね。

○明治政府が行った学制・徴兵令・地租改正について調べ,国力の充実を図ったねらいを考えることができるようにする。
(技能①,知識・理解②)
●明治政府の具体的政策について調べ,学制・徴兵令・地租改正などを行ったねらいを考えることができたか。
(行動観察)(学習ノート)

文明開化

1

江戸時代と明治時代では,街の様子が全然違うよ。文明開化でよくなったこともたくさんあるけど,急激な変化に対応できず困ったこともたくさんあったんだね。

○欧米諸国から取り入れた文化や制度について調べ,文明開化が人びとに与えた影響についてとらえることができるようにする。
(思考・判断・表現②,知識・理解②)
●欧米諸国から取り入れた文化や制度について調べ,文明開化が人びとに与えた影響についてとらえることができたか。
(行動観察)(学習ノート)

討論会を開こう

1

幕末から明治維新にかけて多くの出来事があったね。これらの出来事についてみんなで話し合いたいな。

○幕末から明治維新までの日本の様子について振り返り,日本の社会の変化について自分の考えをまとめることができるようにする。
(思考・判断・表現②)
●幕末から明治維新までの日本の様子について振り返り,日本の社会の変化について自分の考えをまとめることができたか。
(行動観察)(学習ノート)

6.本時の学習

①目 標
 黒船の来航について調べ,これから日本がどう変わっていくのか関心をもって予想することができるようにする。そして,黒船来航後に結んだ日米和親条約,日米修好通商条約について調べ,日本にとって不平等な条約であったことを理解するとともに,開国が日本に与えた影響について理解できるようにする。

②展 開

 

○学習活動 ・学習内容

○指導上の留意点

・資料等



○黒船が来航した時の様子について話し合う。
・船の大きさ
→大…アメリカ 小…日本
・人びとの様子
→あわてている、俵を積んでいる、大砲や槍を持っている

○絵図から,黒船と日本の船の大きさの違いや,海岸であわてる人びとの様子などに気付くようにする。
○黒船を見物している絵図やペリーの似顔絵,写真も見せ,黒船やペリーに対するとらえ方の違いに関心をもつようにする。

・絵図「黒船の来航」
(教科書)
・絵図「黒船見物」
・絵図「ペリー」
(写真、似顔絵)

黒船来航によって日本や人びとの生活はどうなったのだろう

調

○黒船来航以降のできごとについて調べる。
・1853年アメリカからの手紙
→船員の保護
 食料、水、石炭の補給
 貿易
・1854年日米和親条約
→下田・函館開港
・1858年日米修好通商条約
→5か国と結ぶ
 (米・英・露・仏・蘭)
 不平等条約
  治外法権を認める
  関税自主権がない

○ペリーが預かって来た手紙の内容を提示し,日本にやって来た目的について気付くことができるようにする。
○日米和親条約(1854年)と日米修好通商条約(1858年)について,「いつ」「どんな内容」だったのか簡単にまとめるようにする。
○開港された港を地図でおさえるようにする。
○アメリカと条約を結んで,幕府が横浜や神戸などを開港したことによって長く続けてきた鎖国政策が終わったことに気付くようにする。

・大統領からの手紙
・文書「黒船の来航と鎖国の終わり」
(教科書)
・地図帳「通商条約で開かれた港」

●前時に調べたことを発表する。 ●発表内容を黒板に掲示し、出来事の年表にする。



○開国によって、日本の世の中にどのような影響があったのかについて考える。
・外国の物がたくさん入ってきた
・日本の物がなかなか売れない
・品不足になった
・物の値段が上がった
・日本の産業がおとろえる
・生活が苦しくなる
・一揆や打ちこわしが起きた
・外国人に不満をもつ人が増えた
・幕府に政治を任せておけない
など

○武士,町人や農民などの立場から考えられるようにする。
○物価の上昇と農民一揆や打ちこわしを関連づけて考えるようにする。
○幕府に不満をもつ人びとが増えていったことに気付くようにする。
○日本国内では外国人を追い払おうとする動き(攘夷運動)と積極的に進んだ欧米文化を取り入れようとした動きがあったことを補説する。

・グラフ「米と生糸の値段の変化」
・グラフ「農民一揆と打ちこわしの件数」
(教科書・資料集)




○開国後の人びとの暮らしの様子について話し合う。
・生活に苦しむ庶民
・倒幕に動く下級武士

○生活に苦しんだ人びとがどんな行動を起こしていくのか,関心をもつことができるようにする。

 

7.板書計画

子ども理解 (1)「友達関係の変化」

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.130」PDFダウンロード(360KB)

■「先生! 親友が分業しています。」

 秋になって、中学3年生が部活動を引退し、野球部も2年生が中心になった。
 放課後、「オーイ、部活に行こうー!」と声をかけながら、新しいチームでバッテリーを組むことになった2人は、いつも肩を組むようにしてグランドに急いだ。
 「この子らは、たまたまクラスも同じで、日頃からとても仲良しなんです。」
 中学校で数学を教えている先生が私にこんな話をしてくれた。
 「プリントを配って数学の問題を解きなさいと言って机間巡視をしていたんです。ピッチャーの子が、“分からん”と私の方を見るので、同じ班にいたキャッチャーの子に、“おい、分からんと言うてるぞ、なんとかしたれ、君ら親友やろ!” と言ったら、“ウン、野球の親友”と言うんです。勉強の親友は塾にいて、遊ぶ親友は家の近所におると言うんですよ。先生、この頃は親友が分業してますよ。」と教えてくれた。
 子どもと子どもの友達関係・つながり方が部分的、断片的なものになってきたのかなあ、全人格的、運命共同体のような親友という関係も残っていて欲しいなあと数学の先生はつぶやいていた。

■一緒に遊んでるやん

 少し前の話だが、私の一人娘が小学校の6年生の時、こんなことがあった。
 「お母さん、今度の土曜日、お友達が3人遊びに来るよ!」
 「はいはい、おやつ買っとくね。」
 土曜日の午後、私が帰宅すると玄関にクツがいっぱいあった。
 「あー、もうお友達が来てるんだ」と奥へ行くと、子ども部屋におやつを持って行ったお母さんが出てきて、「チョットお父さん、あの部屋のぞいておいで!」と言う。
 私も子ども部屋をのぞいて、「なるほど、お母さんが驚くはずだ」と思った。
 娘は入口のそばで、下を向いてマンガの本を読んでいた。一人はピィッピィッと音のでるゲームをしていた。一人はテレビを見ていた。皆、一人ずつ別々に遊んでいるではないか。
 「せっかくお友達が、たくさん来てくれているんだから、一緒に遊べば?」と私が言うと、娘が顔をあげて、「一緒に遊んでるやん!」と言う。
 「いや、一緒に遊んでへん。一人ずつ別々に遊んでる。4人で一緒にトランプでもすれば?」と言ったら、「楽しいよ」と言われて、「アー、ソー」と引きさがった。
 10年余り前の話だが、最近ますます一人遊びの傾向が強くなってきている。群れて遊ぶ機会が減ってきている。
 友達と群れて遊んで、時には友達を怒らせてしまったり、もめてしまったりという体験を通じて、友達と仲良くできる距離感覚などが身についていくのに…。

■さみしい子が増えた

 私が高等学校の校長をしている時、毎日立ち寄った部屋がある。保健室だ。
 「おなか痛い」「しんどい」「頭痛い」などと生徒たちが寄ってくる。本当は養護の先生に話を聞いて欲しいのだ。
 「家がおもしろくない」、「つきあっている男の子に冷たくされる」、「学校へ来るのが嫌」、養護教諭からの情報は、私の想像を超える深刻なものが多かった。
 中学校での不登校生の数もなかなか減少しない。
 各県にある児童自立センターや、DVなど、家庭にいられないで施設にあずけられている子どもたちも年々増加していると聞いている。
 最近、仲間の女の子を車の中で殺害し、山の中に遺棄した事件があったが、家出をくり返し、ネットでつながった子ども同士の生活の実態は深刻なものである。
 あたたかい、ぬくもりのある、愛情いっぱいの家族や友人に囲まれた子どもたちも多くいるが、その逆に、さみしい、孤独、愛情不足という人間関係が切れた環境にいる子どもたちが増えている。

■環境を変える工夫を

 「子どもは環境によってつくられる」と言われるが、人間は「環境を変える力をもっている」のも事実である。
 子ども同士の関係が希薄になってきた要因は、インターネット社会の広がりだけでなく、少子化の進行や高齢化、社会構造の二極化など様々である。
 21世紀が生みだした子どもの環境を、家庭も、学校も、地域も、行政も、それぞれの立場で、もう一度あたたかい絆で結び合えるように工夫したい。


著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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失敗の連続

 「失敗ばかりしています」という話をすると、決まって「ご謙遜でしょう」と言われます。いや、事実そうなのです。学生達には申し訳ないのですが、今でも授業がうまくいくのは年に二、三回です。でも、「それでいい」と思っています。なぜ? それが今回の話です。

1.三割成功

 本連載Vol.06で書いた二十代の頃、自分の出身小学校の同窓会が行われました。恩師もたくさん来ていたので「生徒とうまくいっていません」と相談しました。恩師は「子供が全員付いて来てくれるって思ってない? 三割で成功だよ。五割も慕ってくれれば大成功だ。」と答えました(※1)。「三割で成功」という考え方に驚きました。でも、少し考えれば世の中はそんなものです。全員同じ方向を向くはずがありません。相手は人間、そもそも生き方も違うし、相性もあります。「そうか、三割でいいんだ」そう思いました。それから「何が何でも」という無理をしなくなりました。そっぽを向いている子にも笑顔で接することができるようになりました。心にゆとりが生まれたのかもしれません。

2.二割の法則

 平成6年頃から何らかのメーリング・リストに参加しています。50人だったり、400人だったりですが、発言する人はその二割だなと感じています。残りは聞きっぱなしの、いわゆるサイレント・マジョリティです。でも、その八割がいなければ、二割は発言しないだろうと思っています。全員勤勉そうに見える働き蟻も、実際に働いているのは二割だそうです。働いている二割を集めると、やはりその八割は働かないとか。この「二割が推進する、八割が傍観している」を勝手に「二割の法則」と呼んで、会議や組織などいろいろな観点に応用しています。
 言いたいのは、それが普通の姿だということです。二割が発言すれば十分、三割発言したら成功です、五割も発言したら大変なことになるかもしれません。残りの人々も、発言者からしっかり学んでいます。日々の授業をそうとらえてみてはどうでしょうか。

3.子供達は別なところで学んでいる

 若い頃、ベテランの先生がうらやましくてしょうがありませんでした。保護者の信頼はある。授業はうまい。子供達も落ち着いている。「明日、目が覚めたらいきなり20歳くらい年をとってないかな」とも思いました。でも、ベテランと言われる年になると、そうでもないことがわかりました。子供達と微妙な距離が生まれるのです。確かに授業はうまくなっています。保護者とのやり取りも慌てません。しかし、若い頃の自分にかなわない感じがするのです。周りをみると若い先生達がまさにそうです。授業は下手で、学級経営はうまくいかず、悩んでいます。でもそれを克服しようと必死にがんばっています。その一点で、子供達とつながっています(※2)。一年後には、しっかり成果も出しています。きっと子供達は、教育的な技術や、表面的な成功とは別なところで学んでいるのだろうと考えています。

 私たちは多数決とか世論調査などで「大勢同じじゃないといけない」と思い込んでいます。でも、二割で十分、三割成功、五割は大成功です(※3)。子供達には申し訳ないけど、毎日うまくいくわけではありません。もちろん、手を抜けばすぐしっぺ返しをうけます。一生懸命に、情熱を忘れずに、ああでもない、こうでもないと努力します。たまに成功すると、それが何より嬉しい、だからそれを目指して頑張ります(※4)。それが、先生という仕事のような気がします。図画工作や美術の授業も、そんなところから考えてみませんか。

 

※1:研修会や発表会では、うまく解決する方法しか語ってくれない。
※2:今でも連絡をくれるのは若い頃受け持った子供達だ。子供達は情熱を食べてくれる生き物なのかもしれない。
※3:平均や統計、到達度などとは別な話である。算数のテストが全員2割では困る。
※4:私は慣れが生まれると情熱をなくす方なので、常に新しい方法に取り組むようにしている。もちろん逆にコツコツと同じことを続けながら改善していくタイプもあるだろう。