「2020年度版 小学校教科書のご案内」社会 資料DL:年計・評価規準追加

「2020年度版 小学校教科書のご案内」特設サイト:「2020年度版教科書『小学社会』のご案内」に「資料ダウンロード:年間指導計画案・評価規準(Excelファイル)」を追加しました。

人生、ただいま修行中

©Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018

 もう30数年前になるが、看護婦(当時は看護師という呼称ではなかった)の仕事を取材したことがあった。印象深い発言があった。「人の人生の最期に立ち会うことができる。こんな職業は、ほかにはあまり、ない」と。
 40数年前に、長く入院していたことがある。看護婦の仕事を間近で眺めていた。週に夜勤が2回、多いときは3回。朝、寮に戻って、また夕方から勤務と聞き、たいへんな職業と思った。ベテランの看護婦さんもいたが、新人もいて、注射など、あきらかに技術の違いがあった。入院中のまま、亡くなった患者が何人もいた。
 フランスの映画監督ニコラ・フィリベールの「人生、ただいま修行中」(ロングライド配給)というドキュメンタリー映画を見て、昔のことが、あれこれとよみがえってくる。
 およそ人は、なんのために働くのだろうか。生きるため。家族のため。自己実現のため。さまざまな答えがあると思う。「誰かのために働くこと」の職業のひとつが、看護師だろう。
 「パリ・ルーヴル美術館の秘密」や「音のない世界で」、「ぼくの好きな先生」などを撮ったフィリベールは、2016年、塞栓症で倒れ、救急救命室に運ばれる。なんとか一命をとりとめたフィリベールは、医療関係者、ことに看護師といっしょに映画を撮ろうと決心する。選んだテーマは、看護師を目指す人たちが、看護学校でどのような教育、指導を受けて看護師となるのか、だ。
©Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018 パリ郊外にあるサンシモン看護学校に、看護師を目指す40人ほどの生徒がいる。年齢、国籍、出身地、宗教はさまざま。
 全体は3部構成で、冒頭に詩の一節が提示される。第1章は「逃げるからこそ捕らえる」。
 看護学校での、さまざまな訓練ぶりが、細かく紹介される。手の消毒。血圧の測定。ベッドから患者を抱え上げる。技術的なことばかりではない。教官が、看護師の心得を読み上げる。「看護師は全ての人々に対して 耳を傾け助言し 教育および看護をする 出自や慣習 社会的地位や 家庭環境 信仰 宗教 障がい 健康状態 年齢 性別 保険の有無にかかわらず 平等に看護を提供する」。看護師に限らず、どのような職業にも共通する心得だろう。
 授業は続く。長く入浴していない患者への対応。不当な謝礼は受けない。多くの患者に対応することで看護の質を落とさないなどなど。
 さらに、注射器の扱いや注射の方法。人工呼吸。新薬など薬の授業。採血の実技や血液型や輸血の知識。乳児の吐かせ方。酸素吸入。点滴の準備などなど、実技や勉強が続く。
 第2章は、「暗くなるからこそ見る」。
 実技が続いている。病室のベッドメーキングや、手術前の準備や心得を学ぶ。「患者とどう対応するかを、あらかじめ整理しておくこと」と指導官。
 抜糸する患者や、ギプスのとれる患者がいる。すべて実習の一環だ。採血実習もある。教官は「あせらないで、リラックスして」と言うが、うまくいかない。
 患者さんと話すのも実習のひとつ。庭を散歩しながら、話し相手になる。愉快な患者さんは、救急車の音を聞くたびに、「フランソワーズ・アルディの歌を思い出す」と言って、唄い出す。
©Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018 圧巻は第3章だ。「死ぬからこそ求める語り 引き裂かれるからこそ」。
 実習の報告書を出し、資格テストを前にして、指導官との面談が始まる。合計13名が登場し、悩み、希望、現実を語る。その一言一言が、重い。
 末期がんの患者を見送った男性は、「最期の瞬間に立ち会い、いろんな話が出来たし、お別れも言えた」と感慨を語る。実習の5週間で、5、6人が亡くなったという女性は、「逃避していたかも」と反省する。辛い経験に泣く人。成績のいい人。技術に自信のない人。アラビア語の通訳で医師に協力した人。看護師の適正がなく、別の進路を考えたらと助言される人……。現場に精通する指導官の対応が、ことごとく見事。実習生のもろもろに、深い理解を示し、助言し、導く。
 いったいに、人は、他人が喜び、他人を救うために働くことを学ぶ、という気持ちがあるはず。看護の労働環境は、どの国でもそう恵まれているわけではないと思うが、それでも、他人のために、他人が喜ぶために、人は学び、学ばなければならない。
 エンドロールに、ボブ・ディランの「ドント・シンク・トゥワイス・イッツ・オール・ライト」のカバー曲が流れる。「考えてもしょうがない ベイビー くよくよするな これでいい」。
 監督ニコラ・フィリベールの、学び、指導するさまざまな人間を見つめる暖かなまなざしに、心がほんわか。すてきなドキュメンタリーだ。

2019年11月1日(金)より、新宿武蔵野館他全国順次公開

『人生、ただいま修行中』公式Webサイト

監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
配給:ロングライド
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
文部科学省特別選定(青年、成人向き)
文部科学省選定(少年向き)

ふたば未来学園──未来を取り戻すための学校②

1.アクティブラーニング「未来創造探究」

 ふたば未来学園高校のカリキュラムの特徴は、「未来創造探究」に集約されています。東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故によって大きく傷ついた自分たちの地域を、高校のカリキュラムの中で高校生自らの手によって再生していくことを目的とした、類を見ない授業です。
図1 授業の様子 同校が編集した「未来創造探究ノート」の冒頭には次のような文が掲げられています。
 「震災と原発事故という、人類が体験したことのないような災害を経験した私たちには、これまでの価値観、社会のあり方を根本から見直し、新しい生き方、新しい社会の建設をめざし、変革を起こしていくことが求められており、それは、未来から課せられた使命ということもできる。
 私たち人間は、理想とする未来の姿を思い描きながら、いま、ここにある現実を、少しずつ、少しずつ変えることができる存在である。それは未来を創造することにほかならない。
 ふたば未来学園高等学校は、まさに、未来への挑戦である。この学校は、双葉郡の方々の「ふたばの教育の灯火を絶やすことなくともし続けたい」という強い願いと、復興を実現し、先進的な新しい教育を創造しようとする国など関係機関の熱い想い、そして何より、震災後、子どもたちの中に芽生えた、復興を成し遂げようとする強固な意志、夢を実現しようとする意欲、新しい価値観、創造性、高い志として、誕生した。……(後略)」
 まさに、「熱い想い」がそのまま伝わってくるようです。「未来創造探究」では、様々なアクティブラーニングの方法が紹介されており、また、地域の現状や全体の計画がていねいに記述されています。カリキュラム全体の構成は以下に示すとおりです。

図2 3年間の探究活動の全体像

2.廃炉に向けた議論を高校生から

 いくつかの例を具体的に紹介しましょう。
図3 クラスタースクールに参加していた頃の生徒たち 原子力防災研究班の一人の生徒は、自宅が原発から3kmの距離にあり原発事故後しばらくの間自宅に帰ることも許されませんでした。2年後に初めて目にした自宅は、雑草に覆われた変わり果てた姿でした。彼は、このような悲劇を繰り返してはならないと強い志を持って原子炉の廃炉について探究を始めます。しかし、事故から3年もたつと原発事故に対する発言は地域の分断を深めるものとされ、次第に一部の特定者の発言だけに限定されるようになっていきます。地域の人たちと話していくうちに、原発事故の被災者ですら原発問題から関心が薄らいでいく事実が鮮明になりつつありました。
 彼はJSTの「サイエンスアゴラ」などのイベントに参加し、「科学と社会の間の距離は、どちらか一方からのアプローチだけでは埋まらない」ということを実感します。そして、「非専門家である一般市民が原発事故処理の技術的に難解な問題についてどう理解を深め、意思決定に参画すべきか」というテーマで社会的探究を始めます。
 様々な活動を積み重ね、最終的には「高校生と考える廃炉座談会~日常に潜む廃炉に関連した問題、あなたはどう思っている?~」を企画し、あらゆる世代の地域の方々との対話を進めます。意見交換の中で重要と感じたのは、「知ることを相手に任せっきりにしないこと」が大切と述べています。そして、廃炉に向けて「住民が主体的に判断を下すこと」という結論を得るに至ります。

3.ArtとWorkが交差する高校

図4 FMふたばプロジェクト 次のような生徒もいます。アグリビジネス探究の生徒です。
 彼はどこにでもいる野球好きの高校生でした。2016年の夏に参加した渡米プログラムで、彼はロサンゼルスのファーマーズ・マーケットに出会いました。そこはまるでマーケットが生活の一部のようで、農家の生産者と子どもから年配の方までが楽しく交流している様子を目にして、彼はとても大きな衝撃を受けました。「これを地元でも開催したい!」そう思ったのがそもそものきっかけでした。
 日本に戻った彼は、自分で交渉して農家から畑を借り、自分たちのグループ「FMふたば」を立ち上げ、マニュアルやインターネットに頼らずに自分で土をいじりながら野菜作りの研究を進めます。実際に開催したファーマーズ・マーケットは大雨にたたられてしまいましたが、それでも参加した農家からは様々な意見をもらい、話題を集めました。自分で農業に取り組むことで、農業のイメージを「野菜を買いに行く」ではなく「農家の○○さんに会いに行く」という流れを作りたいと考えています。彼は、大学入学後も、アパート近くに畑を借り、野菜を作っています。
図5 演劇の授業の一場面 彼らはいずれも、地方創生イノベーションスクール2030に参加し、大学に進学した今もプロジェクトをサポートしてくれています。
 ふたば未来学園高校にはさまざまな分野の著名人が応援団を組織して協力してもらっています。授業では1回切りのゲストスピーカーではなく、学校や生徒の実情をすり合わせた「編集授業」をめざしています。中でも演出家の平田オリザ氏は一貫して、同校に演劇の授業を提供しています。生徒たちは原発事故の被災者や東京電力職員から様々なエピソードを聞き取り、それを読み解きながら脚本を作り、加害者であると同時に被害者でもあるなどの事実に触れさせ、原発事故の持っている複雑さを単純化せず、ありのままに表現し、観客に考えさせようとします。実際生徒たちの演じる演劇は、言葉の一つ一つがとてもリアルで、原発事故経験の有無にかかわらず心に突き刺さってくる言葉ばかりです。
 「ArtとWorkがコンセプトの学校になればいい」という夢想が、いつの間にやら本当に実現されていました。
図6 ふたば未来学園の生徒たち

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