希望のプラネタリウム

1.「福島」を伝えるイベントを

図1 大きなドームをつくる 福島市高校生フェスティバルの議論が活発になりかけた春の終わり頃、知り合いのイベント会社から、福島の復興をテーマとしたワークショップをやってくれないか、という依頼が来ました。お盆になってもどこにも行けない東京出身の子どもたちを対象としている「キッズジャンボリー」という、数万人が集まる大きなイベントです。創作的で活動的なものであればなおいい、ということなのでこれまでのアイディアをうまく活かし、しかもこれを高校生フェスティバルにつなげることはできないか、頭を巡らせました。高校生たちと話し合ったところ「ぜひやろう!」ということなので、学生や高校生と一緒にワークショップをすることになりました。

2.「希望のプラネタリウム」

図2 直径3.5mのプラネタリウムドーム完成 発想の核になったのは、「震災の日の夜は、停電で街の光が消えて真っ暗な中、星の光が煌々と照っていた」という被災者の証言でした。すぐに思いついたのは、それより20年近く前に学生たちとつくったダンボールの「プラネタリウム」(学び!とPBL <Vol.03> PBLのはじまり② 参照)でした。サッカーボールの32面体をさらに細かく分割すると180面体ができ、球に近い形ができあがります。このうち上3分の2ほどを円筒の上に載せれば、天井が球形のドームとなり、ここに蛍光色の色紙で星をつくり貼って、これにブラックライトを当てると星が輝きます。復興への希望を星の光で表すので、「希望のプラネタリウム」と名付けました。
図3 イベント当日、みんなで準備作業 今回は、イベントの後に福島市高校生フェスティバルでも使いたいので、使い捨ての紙のダンボールではなく、少々値は張りましたがポリカーボネート製のダンボールを用い、頑丈なものをつくることにしました(学び!とPBL <Vol.34> 希望のヒカリ 参照)。2種類の形の異なる三角形を計100枚以上も手でカットして、折り曲げて、ドリルで穴を空けて部品をつくります。
 教室の中で仮に組み立てたところ、直径3.5メートルのドームの巨大さに圧倒されました。これに下半分の円筒形を加え、短時間で組み立て、子どもたちの表現活動につなげる方策を検討しました。

3.福島からの発信

 しかし本題は、ここではありません。福島の人たちが東日本大震災をどう経験し、今に至っているのか、震災や原発事故をほとんど知らない子どもたちに伝えなければなりません。このテーマ性が生きてこないと、プラネタリウムもただのレクリエーションになってしまいます。

図4 福島の物語

 子どもたちに見せるスライドを、紙芝居のようにつくりました。美しい豊かな自然の福島県、少ないけれども、有名人も輩出しています。そこに東日本大震災と原発事故が起きました。そのときの風向きと降った雨のために、広い範囲で放射能が地面に定着してしまい、ふるさとを失ってしまいます。避難者たちは転校先で様々ないじめに遭い、とてもつらい思いをします。しかし、福島の人たちは負けてばかりはいません。汚染を取り除く人たち、安全な食べ物を供給する人たち、風評を払拭しようとがんばる人たち、そして、若者たちの力で教育を変えようとする人たち(OECD東北スクールのこと)、様々な人たちが以前の福島を取り戻そうと努力しています。震災の夜、停電のために街の灯りは消えてしまい、夜空には見たこともないような星の光を多くの人たちは見ました。そして星の光に救いを求め、希望を見出そうとしました。
 そのようなストーリーを考えました。

4.福島の人たちを思って星空をつくった

 8月中旬、高校生、中学生、小学生、大学生、スタッフら計10人ほどでチームを組んで東京に向かいました。半日ほどで準備を済ませ、打ち合わせをし、本番に臨みます。わずか90分の中で、テーマを説明し、100人近くの子どもたちがそれぞれ星空をつくり、それをドームに貼り合わせて完成し、照らし出した星空を鑑賞しなければなりません。10人のチームワークが肝心となります。
図5 福島を想って星空をつくる ワークショップが始まります。「福島に行ったことのある人は?」と聞くと、意外にも半分近くが行ったことがある、と答えました。「原発事故のことを知っている?」と尋ねると、わずかに数名が手を挙げただけでした。冒頭から想定外となります。
 しかしストーリーを話すと、子どもたちも、親たちも予想以上に食いついていき、黒い三角の画用紙に蛍光色紙を貼っていくという表現活動も、みんな真剣でした。わずか30分ほどで作業が終わり、これを高校生や大学生がドームの内側に貼っていきます。すべてができあがったところで、円筒形の部屋の上にドームを載せて、固定します。子どもたちから大きな歓声が上がります。
 内部に組み込んだブラックライトを当てると、100人ほどでつくった星空が美しく浮かび上がりました。子どもたちも親たちも、空を見上げ、被災地に思いを馳せました。
 後にもらった子どもたちの感想では、「福島の人たちにがんばってもらいたいと思いながら星空をつくりました」「震災や原発事故のことをほとんど知らなかったので、今日の話はとても印象に残りました。」「福島の今のことをもっと知りたいと思いました。」など、星空をつくった楽しさよりも、圧倒的に福島への思いを切々と綴ってくれた子どもが多いのが印象的でした。これを読んだメンバーは満足感で一杯になり、この取組を高校生フェスティバルに活かしたいと、エンジンがかかりました。

図6 希望のプラネタリウム内部

Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.41

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.41 “希望のプラネタリウム”を追加しました。

「命を守るハザードマップ」(第2学年)

1.題材名

「命を守るハザードマップ」(第2学年/7時間)

2.題材設定とねらい

 東日本大震災から10年目となる節目の年に、「いわての復興教育」副読本『いきる・かかわる・そなえる』を基にして自分たちの住む地域の安全を考察し、防災のピクトグラムを制作することで、美術の力を生かした街づくりを行う。なお、デザイン制作には、アプリ『SketchBook(スケッチブック)』(Autodesk社)を使用する。自らデザインした作品をプレゼンテーションで発信することで、地域の安全・防災への意識を高める教育を展開したい。

3.準備(材料・用具)

教師:タブレット端末(iPad)、ハザードマップ、モニター、スクリーン
生徒:タブレット端末(iPad)、教科書、美術資料集、スケッチブック、筆記用具
※使用アプリ『SketchBook(スケッチブック)』(Autodesk社)
 無料の描画アプリ。写真を取り込みその上から作業できるため、アイデアスケッチからデザイン制作に移りやすい。

4.評価規準

知識・技能
 形や色彩などの性質及びそれらが感情にもたらす効果、住んでいる地域、造形的な特徴などを基に、全体のイメージで捉えることを理解している。
 材料や用具の特性を生かし、意図に応じて表現方法を追求して、制作の順序などを総合的に考えながら、見通しをもって創造的に表している。

思考・判断・表現
 自分たちの住む地域の安全のために、伝える相手や用いる場所などのイメージから主題を生み出し、形や色彩などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和、統一感などを総合的に考え、表現の構想を練っている。
 目的や機能との調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどして、美意識を高め、見方や感じ方を深めている。

主体的に学習に取り組む態度
態表 美術の創造活動の喜びを味わい主体的に主題を生み出し、ピクトグラムの統一感などを総合的に考え構想を練り、意図に応じて創意工夫し見通しをもって表す表現活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に、目的や機能との調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図、創造的な工夫などについて考えるなどして、鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

5.本題材の指導にあたって

 岩手県は、2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた。常に防災や災害に目を向けていく大切さを感じてもらいたい、発信してもらいたいと考え、本題材を設定した。“あの大震災”を風化させないことにもつながると考えている。デザインの伝達では、第1学年は対象を身の回りの人たちに設定しているが、第2・3学年では対象を広げて、社会一般の方々(国籍や年齢などにかかわらず様々な人)の立場に立ち、受け手の感じる印象を考えながら、「何のために」、「どのような方法で」「誰に伝えるか」を考えた制作を行っていきたい。
 私たちの住む盛岡市は、過去に台風などによる川の増水で度々被害を受けてきた地域である。過去の盛岡市内の災害情報を調べる中で、命を守ることへの重要性を感じ取った生徒から「自分の住む場所が実は5mの浸水想定区域ということを知らなかった」という意見が出てきた。まず、現在のハザードマップの情報を確認して足りない情報は何かを考えさせ、そこから美術の力を生かした取り組みとして、ピクトグラムの制作によりハザードマップや自分たちの住む町の情報を分かりやすく整理していきたいと考えた。
 「赤い円に斜線」は禁止、「黒枠のある黄の三角」は注意、「青い円」は指示(秀学社『美術資料』p.67「日本工業規格(JIS)のピクトグラム」)といったことからマークのルールや原則を学習し、デザインや配色計画などを行い、形や色彩で分かりやすく情報を直感的に伝えるためにはどのようにしたら良いかを考察させる。

生徒作品。「日本工業規格(JIS)」の原則に基づいて制作している。
左)災害が起きたら家に戻らない。浸水区域に戻らない。〈禁止〉
中央)ここは浸水区域である。家の高さまで水が来る可能性がある。〈注意〉
右)川が増水したときは、低いところから高いところへ移る。〈指示〉

 ピクトグラムの制作ではICTを活用した。器用でなくても思い通りにデザインを進めることができること、作業をレイヤーごとに区分けできるため制作の見通しが立てやすいこと、様々な配色を試したり、やり直したりするのも容易であること、作業の中で自然に単純化が進むことなど、デザイン分野では大きな利点がある。

 最後に、ハザードマップ上に完成したピクトグラムを載せて「命を守るハザードマップ」を制作し自分の伝えたい情報を整理する。また、Google「ストリートビュー」や現地の写真の上にも載せることで、標識としての適切な活用の仕方も考える。完成したハザードマップは、校内に掲示すれば、活動を通して知ることができた危険をより多くの人に周知する手立てとなり得る。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

・盛岡市のハザードマップの読み取りを行い、自分の住む地域の危険性を知る。

◆浸水区域やその他の災害の危険性が無いかを確認するよう促す。

・ハザードマップ上に必要だと思うピクトグラムを4人グループで話し合う。

◆ハザードマップから感じた視覚的に足りない点などを中心に話し合うようにする。

・「JIS」のピクトグラムの原則を基にしながら、視覚的に分かりやすい作品にはどのような特徴(形・構成要素・色彩など)があるかを考察する。

視覚的に分かりやすい作品の形や、色彩の特徴から受ける印象を捉えるよう促す。
 造形的な視点から、伝達のデザインに関して、統一感などについて理解しているかどうかを見取る。形や色彩などの効果を具体的に示しながら指導を行う。【発言の内容、ワークシート】
▶発問例「求める行動が伝わりやすい形(構成要素および全体)は、どのようなものが良いだろうか?」「伝わりやすい色遣い・配色は,どのようなものだろうか?」
 ピクトグラムの表現の意図と創造的な工夫について考えているかを見取る。見方や感じ方を深めるために 〔共通事項〕の視点をもたせた鑑賞となるようにする。【発言の内容、ワークシート】

2

・アイデアスケッチを描く。禁止、注意、指示それぞれの違いが分かるよう分類する。
・配色計画を立てやすいように色鉛筆で試し塗りを行う。

◆禁止マーク、注意マーク、指示マークに分類しながら相手にとって伝わりやすいデザインはどのようなものであるかを確認するようにする。
◆見やすいかどうか、伝わるかどうかなどの印象や、アプリでの作業を見越して、配置やレイヤーの区分けなどを考えるようにする。
 伝える場面や場所などのイメージなどから主題を生み出せているかどうかを見取る。必要な生徒には、伝達デザインの目的や意味、自分たちの住む地域の特色などを再度確認するように促す。【アイデアスケッチ】
態表 主題を生み出そうとする態度を見取る。【アイデアスケッチ、活動の様子】

3~5
(本時)

・描画アプリ『SketchBook』にアイデアスケッチを取り込み、デザイン制作に移る。主題を定め、アプリ内機能を使用して直線や曲線を描く中で単純化や省略を行いながら、デザインをまとめていく。塗りつぶし機能で彩色をしてピクトグラムを完成させる。

◆主題が相手に伝わるデザインであるかを常に意識するように促す。
◆タブレット端末を生かした制作となるよう、正確に描いていくよう指導する。
◆制作中は友達と相互鑑賞し、さらに伝わりやすくするためにはどのようにすればいいかを考えるようにする。
 形や色彩が感情にもたらす効果を生かし、意図に応じて表現方法を創意工夫しているか、制作の順序などを適切に考えられているかを見取る。必要な生徒には、発想や構想を確認するなどして表現の工夫などについて考えるよう促す。【作品】
▶発問例「表現の意図を正確に伝えるために工夫できることは何だろうか?」
「形の単純化や省略、要素の配置、配色などについて判断する上で大切な視点は、どのようなものだろうか?」
態表 主体的に表現方法を創意工夫したり、見通しをもって表そうとしたりする態度を見取る。必要な生徒に対しては、形や色彩における印象の違いなどに気付かせながら、表現の工夫を高めていくような指導を行う。【作品、活動の様子】

6

・過去の災害などの事例を基に、現在使われているハザードマップ上に作成したピクトグラムを載せて「命を守るハザードマップ」を制作する。

・Google「ストリートビュー」や現地の写真を活用し、標識として掲示する場合の適切な場所や配置の仕方も考える。

◆命を守るためという視点で、自分がどのような意図をもって制作し、どのような効果が期待されるかなどを改めて考えるよう促す。
 ピクトグラムの効果や、全体のイメージで捉える必要性を理解しているかどうかを見取る。必要な生徒には具体例を示すなどの指導を行う。【ワークシート、発言内容】
態表 作品の造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えることなどができているかなどを、取り組む態度とそれぞれ見取る。必要な生徒に対しては、主題から作品を見つめ直すなど作者の心情に迫るよう指導する。【発言の内容、ワークシート、活動の様子】

生徒作品。浸水の危険を伝えることで早い避難を促す。

・自分の制作意図や主題についてプレゼンテーションを行う。

◆プレゼンテーションでは、声の大きさに気を付けるように指導する。分かりやすい発表内容となっているかに注目するよう促す。

7

・作品の相互鑑賞を行う。
・事後活動の中で、自分の制作したピクトグラムが他の地域でも運用可能かどうかを考える。
・自分の制作したハザードマップについて事後アンケートに答えながらまとめの活動を行う。

◆盛岡市と他地域(例えば沿岸地域)との、人口や地理的条件、想定される災害などの違いに着目するように促す。
◆「禁止」のマークばかりでは抑止力となるのかという問題や、現在法律で規定されている標識の位置は適当かなど、発展的な見直しを促す。
態表 作品の造形的なよさや美しさを感じ取っているか、作者の心情や表現の意図を考えているかを見取る。自分の制作したピクトグラムがどの地域にも生かせるかなど、さらに見方を広げるように指導する。【作品、ワークシート、活動の様子】

7.本時の学習(3~5時間/全7時間)

①目標
 自分たちの住む地域の命を守るという視点をもった制作活動であることを確認させる。タブレットを使用して、他者に伝わりやすいピクトグラムの制作を行う。主題を意識し、視覚的に伝達するためのデザインとしてより多くの人に伝わるよう単純化や省略などを行い、意図をもって丁寧に色塗りをし、ピクトグラムを完成させる。

②学習展開

主な学習活動・内容

◇:指導の工夫や教師の支援
◆:評価の留意点

・タブレット端末の準備を行い、グループごとにアイデアスケッチの鑑賞を行う。どのようなデザインが視覚的な効果があるか、意味が理解できるかなどの話し合いを行う。
・デザインの制作を進める上で必要な知識や考え方をクラス全体で確認する。

◇アイデアスケッチの鑑賞の際には、どの場面で使用されるものか、情報が伝わりやすくするには、どのようにしたら良いかを考えるよう促す。
◇ピクトグラムの原則やグループ内での話し合いの内容を基にしながら、災害時に使用するデザインとして視覚的に訴えるための形や色彩を考察するよう指示する。
◆主題を基に制作をする中で、伝える相手や地域の特徴など、具体的な内容について考えているかを確認するようにする。

・アイデアスケッチを写真で撮り、アプリ『SketchBook』に取り入れた上からピクトグラムの制作を行う。
・単純化や省略が自然に行われていくように、アプリ内の機能(「直定規」や「円定規」、塗りつぶし機能)を生かしながら制作を進める。
・配色などの効果を試しながら、より多くの人に伝わりやすくするためにはどのようにしたら良いかをさらに考える。

生徒作品。増水時は川に近づかないよう促すピクトグラム。川岸の看板に書かれていた内容を視覚的に表した。

◇写真は、角度の調整やトリミングなど、制作しやすいかたちに整えるよう伝える。
◇線の適切な太さなども考えるよう促す。
◆主題を基にした発想や構想を確認する。形や色彩が感情にもたらす効果を生かし、意図に応じて表現方法を創意工夫しているか、制作の順序などを考えて表しているかどうかを確認する。
◇グループ内での対話を活発化させるようにする。

(Autodesk screen shots reprinted courtesy of Autodesk, Inc.)
『SketchBook』の操作画面。取り込んだ写真の上から作業できる。

◆国籍や年齢にかかわらず、誰に対しても伝わりやすいピクトグラムとなっているか確認する。

・まとめとして自分が制作した作品を考察し、友達の意見などを参考にしながら次の時間へとつなげていく。

◇友達の考えも取り入れ、次の時間の見通しをもってもらう。

【重要】サーバメンテナンスのお知らせ

2021年8月18日(水)14~17時の間の20分~1時間、メンテンナンス作業に伴い、弊社が運営するWebサイトおよびサービスがご利用いただけなくなります(一部を除く)。大変ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようよろしくお願い申し上げます。

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.20

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.20 “ESDと気候変動教育(その3) すべての科目で気候変動を!”を追加しました。

ESDと気候変動教育(その3) すべての科目で気候変動を!

急展開する脱炭素社会に向けた動向

 昨秋に菅首相が2050年までに「脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と所信表明で伝えて以来、気候変動対策等のめまぐるしい程の展開が続いています。2021年3月には地球温暖化対策の推進に関する法律の改正が閣議決定され、我が国として2050年までに脱炭素社会の実現を目指すことが法律に明記されました。
 教育行政では「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について(通知)(*1)」が本年6月2日に出されました。文部科学省総合教育政策局長と文部科学省初等中等教育局長と環境省総合環境政策統括官の連名で、各都道府県教育委員会教育長や各指定都市教育委員会教育長、各都道府県知事などに充てて出された通知です。「国民一人一人のライフスタイルを脱炭素型へと転換していくことが重要であり、持続可能な社会の創り手となることが期待される子供たちが、地球環境問題について理解を深め、環境を守るための行動をとることができるよう、地球環境問題に関する教育(以下「環境教育」という。)を今後ますます充実していく」ことの重要性が伝えられ、ESDにも言及されています。
 「ESDと気候変動教育(その1)」で指摘したように、気候変動に取り組む際に、ESDの知見を最大限に活かすことが求められ、特に「ホールスクール・アプローチ」は国際的に共通の重要課題です。ESD for 2030(「学び!とESD」Vol.18)でも強調され、上記の通知にもこのアプローチが言及されています。
 ここでは「その1」の表1で示した「学校全体のコミュニティを気候アクションに巻き込む」チャレンジに続いて、各教科で何ができるかについて考えます。

すべての科目で扱う気候変動

 「学習」は「ホールスクール」の一部と見なされるとはいえ、最も重要な気候変動教育の領域です。「学校まるごと」で臨むので、そこでは全ての科目で気候変動を扱うことが求められるのです。
 ユネスコはパリ協定の前から国際セミナー等でその重要性を訴えてきました。具体的には表1のようになります。

表1 科目ごとの気候変動教育の可能性

科目

実践例

農業/ガーデニング

◆校内菜園やコンポスト(堆肥)を設計し、維持する
◆農業に従事する地元の人(男性及び女性)をインタビューし、気候変動がいかに彼(女)らに影響を与えるのかを学ぶ

芸術(映像及びパフォーマンス)

◆気候変動の影響を示すポスターを創る
◆環境がテーマの歌やメッセージを分析する

生物

◆気候変動がいかにマラリアなどの病疫を広めるのかを調べる
◆地元の地域や校内で生物多様性に関する計測を行う

公民/シチズンシップ

◆地元の市役所職員に気候変動に取り組むアクションについてインタビューする
◆地元のビーチや公園での清掃活動を計画する

地理

◆街並みができた理由とその影響について調べるフィールド・トリップを行う
◆気候変動のせいで危機的状況にある世界の諸地域を示すマップを創る

保健・体育

◆学校周辺のトレイルをハイキングし、自然環境への敬意を示す
◆大気汚染などの環境問題を要因とする健康被害について調べる
◆アクティブ・トランスポーテーション* など、健康によい実践の環境的な利点をリストアップする

歴史

◆歴史を通していかに諸々の社会が環境課題に応え、困難を解消してきたのかを調べる
◆伝統的な生態系に関する知識を研究し、地元の持続可能な開発問題にいかに応用し得るかを考える

言語・文学

◆ローカルかつグローバルな問題について発表するのに必要なコミュニケーション技能を磨く
◆気候変動に関する写真やビデオに応答する詩や物語を書く

算数・数学

◆学校のエネルギー利用における変化を示すグラフを作成する
◆ローカル及びグローバルなレベルで見られる性差別や貧困、栄養失調に関する統計をもとに計算する

理科・技術

◆気候に影響を与える自然界及び人間による影響を調べる
◆よく使用されている化学物質の社会・環境・経済的な影響について評価する

職業・技術教育

◆男女の労働者の健康及び環境を守ることを目指し、職場の安全性を評価する諸々の手段を用いる
◆社会・環境的な課題解決にむけた技術的な手段は何かを明らかにする
◆製品やデザインに関する環境・社会的責任を採り入れる

訳注)*「アクティブ・トランスポーテーション」:健康増進にもつながる自転車通勤など、移動以外の価値も付与された移動手段。
出典)‘Teaching Climate Change in Every Subject. UNESCO(2016, p.12) 訳:筆者。

 表1はユネスコが作成した「全ての科目で気候変動を教える」の邦訳です。国際的に標準的な教科名が用いられているため、日本のカリキュラムでは馴染みのない名称がリストされているかもしれませんが、例えば日本の場合は「農業/ガーデニング」を総合的学習の時間として、「言語・文学」を国語として柔軟に捉えていただければと思います。
 表全体を見てみると、気候変動は理科や地理などで扱えば良いというわけではなく、ありとあらゆる科目で扱えるトピックであることが分かります。

 表1の実践例はあくまでも例示であり、各教科で何ができるのかについてはカリキュラム策定の担当者や現場の教師がそれぞれの現場に適した内容を自身で作成し、学年や学校全体に相応しい実践例を同僚の教職員や生徒たちと話し合って開発していくことが望ましいですし、そのプロセス自体が「ESDらしさ」だと言えます。
 来月号の「その4」では、エネルギーやゴミなどのトピックごとの気候変動アクションについて考えます。

*1:「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について(通知)」(ESD-Jウェブサイトより)
https://www.esd-j.org/wp/wp-content/uploads/2021/06/ClimateChangeE-s.pdf

【参考文献】

  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之(2019)『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社.
  • 『気候変動と教育に関する学際的研究:適応と緩和のためのESD教材開発と教員研修』(平成27-29年度科研費(挑戦的萌芽研究)研究課題 No.15K13239 研究代表者:永田佳之)2018年.(本稿の一部はこの報告書の記述に基づいています)