Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.22

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.22 “ESDと気候変動教育(その5) 気候変動教育の評価”を追加しました。

ESDと気候変動教育(その5) 気候変動教育の評価

 前号まで「ESDと気候変動教育」について4回にわたって取り上げきましたが、すでに実践を試みておられる学校の先生から評価について質問をお受けするようになりました。今回は、ESDの知見に基づく気候変動教育の評価について述べてみたいと思います。
 ESD for 2030(「学びとESD!」Vol.08)の公式文書にも明記されているとおり、ESDでは「自律的な学校運営」が求められています。それと同様に、気候変動教育の実践も自律的に自らの実践をよりよくしていく営みを作ることが求められます。
 具体的にそのための工夫を見てみましょう。以下の表はユネスコが気候変動教育を学校全体(ホールスクール)で取り組むための重要な要素をあげ、自らの実践を客観的に捉えることができるようにした表です。「学校運営」「教育と学習」「施設と運用」「地域パートナーシップ」という大項目は一部の訳出を変えていますが、以前に紹介した気候変動教育のホールスクール・アプローチの項目に対応しています(「学びとESD!」Vol.14参照)。

ガイドライン

できて
いない

改善の
余地あり

できて
いる

学校運営

 1.気候アクション・チームを立ち上げる

教育と学習

 2.持続可能な開発と気候変動を全教科で教える

 3.批判的・創造的・未来志向の思考法を教える

 4.行動を起こすように生徒をエンパワーする

施設と運用

 5.学校を気候アクションのモデルにする

地域パートナーシップ

 6.学習と教育のための協力体制を地域と築く

出典)UNESCO (2016) GETTING CLIMATE-READY A Guide for schools on Climate Action.
https://www.unesco.de/sites/default/files/2019-03/Getting_Climate-Ready-Guide_Schools.pdf

 一見、分かりづらいかもしれない、いくつかの項目について補足的に説明をします。例えば、「教育と学習」の「2.持続可能な開発と気候変動を全教科で教える」という項目について、「うちの学校では理科と総合的学習の時間で気候変動を扱っているから気候変動教育をしている」という校長先生のお話を聞いたことがありますが、ESDの観点、特にホールスクールの観点からすれば、それでは不十分であり、「改善の余地あり」にチェック印を記載することになります。一方、国語から音楽や体育に至るまで全ての教科で1学期に一定の時間、気候変動をテーマに授業を行っている場合は学校全体での取り組みと見なされ、「できている」となります(各教科で何ができるのかについては「学びとESD!」Vol.20を参照)。
 また「5.学校を気候アクションのモデルにしている」については、例えば、校舎の一部で使うエネルギーを自然エネルギーにしたり、ゴーヤカーテンを設置したりするだけでは「改善の余地あり」となります。気候に合った服装を推奨して冷暖房を控えめに使用したり、給食で出す野菜を地元農家の有機野菜にしたり、校内のプラスチックに関する指針を共有したりする、つまり校内の衣食住すべてにおいて気候に優しい(クライメート・フレンドリー)実践に取り組んでいる場合は「できている」にチェックできることになります。
 以上2つの例を取り上げましたが、要は「学びとESD!」Vol.14で紹介したホールスクール・アプローチ(学校まるごとESD)、つまり、学校のどの場面を切り取っても気候変動への配慮や対応が見いだせるかどうかなのです。ただ、それは目指す姿であって、「改善の余地あり」と言っても、すでに大きな意義のある一歩を踏み出していると評価されてしかるべきです。
 特に最近、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの影響もあって重視されるようになったのは、「4.行動を起こすように生徒をエンパワーする」ことです。ユネスコは、気候変動教育はアクション志向の教育であると捉えており、第1に気候変動を緩和したり、それに自らの生活を適応させたりするための「アクションに関する学び」、第2に生徒みずからがアクションを計画し実際に行動に移していく「アクションを通した学び」、第3に生徒が学んだことをふり返り、次のチャレンジを構想する「アクションからの学び」という流れを重視しています。未来世代の若者にとって学校のキャンパスは、安心してアクションを試みることのできる格好の場であることを忘れてはならないでしょう。
 また「地域パートナーシップ」について、ユネスコは次のように述べています。「地域社会の人々を学校に招き、持続可能性に関連する実践を見てもらうツアーを催したり、地域の人々に環境に関するインタビューをしたり、地元の生物多様性について評価したり、地域のためのプロジェクトを設計して実施したりするなど、生徒の家族や地域の人々を巻き込んで生徒主導でできることは枚挙に暇がない。」この通り、学校にとっても地域にとっても切実な共通問題である気候変動は両者の垣根を低くするチャンスでもあります。
 なお、永田研究室では、気候変動教育の枠を広げ、ESDの概念を生かして「自然・経済・社会・文化」という観点から作成した、40項目から成る自己評価表を開発しています。(『気候変動の時代を生きる』pp.156-57)。これらは自分たちの実践を客観的に見る「手鏡」として活用することができるでしょう。また、これらを用いて、校内研修など、ワークショップ形式の対話の時間を先生同士で、または生徒や保護者と一緒に設けることもお薦めです。

【参考文献】

  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之(2019)『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社.

機関誌・教育情報:「その他の教育資料」No.58、デジ教サポートサイト

デジタル教科書・教材サポートサイト:中学社会ページに「中学社会 実践ファイル【デジタル教科書版】」を追加しました。このコンテンツは機関誌・教育情報「その他の教育資料 No.58」でもご覧いただけます。

THE MOLE(ザ・モール)

© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

 「THE MOLE(ザ・モール)」(ツイン配給)は、北朝鮮の国際的な闇ビジネスに迫ったドキュメンタリー映画だ。
 デンマークのコペンハーゲンに住む元料理人のウルリク・ラーセンは、北朝鮮の実情に多大の興味を抱いている。ウルリクは、かつて、「ザ・レッド・チャペル」や「誰がハマーショルドを殺したか」を撮った、デンマーク出身の映画監督マッツ・ブリュガーに、ドキュメンタリー映画を撮ってもらえないかと持ち掛ける。ジャーナリストでもあり、潜入取材を得意とするブリュガーは、ウルリクの依頼を引き受ける。
 並みのスパイ映画を凌駕するほどのサスペンスで、全編、「これ、ほんと?」と思いながら、映画に引き寄せられてしまう。事実は小説より、はるかに奇なのだ。映画は、2011年からほぼ10年ほどの顛末を、元MI5局員のアニー・マションという女性のインタビューと、監督自身のナレーションをはさみながら描いていく。
 2011年。ウルリクは、コペンハーゲンにある北朝鮮友好協会に加入する。翌年、ウルリクは協会のメンバーとともに、北朝鮮のピョンヤンを訪問する。ここでウルリクは、スペイン人で、KFA(朝鮮親善協会)の会長、アレハンドロと出会う。アレハンドロは、北朝鮮の政府高官とも親しく、かなりの大物である。
 2013年。スペインのバルセロナで、ウルリクは、アレハンドロと再会し、KFAのデンマーク支部の代表になる。
© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS 2015年。スペインのタラゴナで、KFAの総会が開催される。アレハンドロは、ウルリクに持ち掛ける。「北朝鮮とのビジネスに関心のある投資家を探してほしい」と。
 ブリュガーは、かつてフランスの外人部隊にいたジムという男を、ウルリクに紹介し、ジムをジェームズという名の投資家役に仕立てる。
 2016年。ノルウェーのオスロ。ウルリクはアレハンドロを招き、石油王としてジェームズを紹介する。アレハンドロは、なんと北朝鮮の武器や覚せい剤の取引を持ち掛けてくる。
 スペインのマドリード。ジェームズは、「イスラエルにも武器を売りたい」とアレハンドロを喜ばす。
 2017年。アレハンドロの計らいで、ウルリクとジェームズはピョンヤンに向かう。ふたりはVIP待遇を受け、3日目、ピョンヤン郊外の貧しい人たちの住む一角に連れて行かれる。古ぼけたビルの地下は、豪華な部屋だ。北朝鮮の武器工場の責任者たちと顔を合わせる。ふたりは、武器や覚せい剤を作る工場を、国外で建設する提案を受ける。
 アフリカのウガンダ。ビクトリア湖に浮かぶ小さな島が、工場建設の候補にあがる。ウガンダ政府の要人の計らいで、計画はとんとん拍子に進む。さらに、北朝鮮の武器商人のダニーが、ジェームズに仕事を依頼する。「北朝鮮の武器をシリアに運んでほしい」と。
 2018年。ヨルダンのアンマン。ジェームズは、アレハンドロの提案で、石油の密輸にも協力することになる。そして、この闇ビジネスは、とてつもなく大きなものになっていく。
© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS 国際的にさまざまな制裁を受けている北朝鮮である。その闇ビジネスの底は深い。
 ウルリクとジェームズは、北朝鮮の闇ビジネスの実態を暴こうとする、いわばスパイである。いろんな人物と出会うが、どこでどんなふうに盗聴、盗撮されているか分からない。また、ウルリクたちも、場合によっては盗聴し、盗撮する。「武器」とか「覚せい剤」とは言わず、別の言葉に言い換える。そういった、スパイ行為につきもののテクニックが、詳細に描かれる。
 また、武器や石油を運ぶ複雑な手口も登場する。物流には、ロシアの影も見え隠れする。
 北朝鮮製の武器の説明書が登場する。核兵器以外、なんでも売ろうとしている。日本まで射程圏に入る大型ミサイルは1400万ドル。驚くしかない。
 ちなみに、タイトルの「ザ・モール」とは、もぐらを意味する。転じて、スパイのこと。
 フィクション、ドキュメンタリーを問わず、北朝鮮の内情を描いた多くの映画があるが、これは傑出した面白さ。わが日本は、北朝鮮とは、ほとんど、外交交渉も出来ず、拉致問題は、何の進展もない。新しい政権は、北朝鮮と交渉しようと言うが、どうなることやら。日本政府は、北朝鮮を描いた映画たちから、学ぶこと多々。
 心配なのは、監督やプロデューサー、主人公のウルリクたちに及ぶかもしれない、北朝鮮からの圧力だ。平気で外国人を拉致するような国である。関係者の今後の無事を祈るしかない。

2021年10月15日(金)より、シネマート新宿シネマート心斎橋ほか全国順次公開

『THE MOLE(ザ・モール)』公式Webサイト

監督:マッツ・ブリュガー『誰がハマーショルドを殺したか』
2020年/ノルウェー、デンマーク、イギリス、スウェーデン/英語ほか/120分
原題:「THE MOLE – UNDERCOVER IN NORTH KOREA」
協力:NHKエンタープライズ
配給:ツイン