世界を変えるのは私たち! 各国で注目されるテラ・カルタの絵本

世界が注目するテラ・カルタ絵本

 第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)のサイド・イベントで素敵な絵本に出会いました。
 「学び!とESD」Vol.24及びVol.25でお伝えしたとおり、COP26は教育が主要なテーマとして位置づけられた画期的な会議でした。メイン会場で行われる議論と平行して、学習や教育をテーマにしたサイド・イベントも積極的に開催され、その中にCOP26に合わせて刊行された絵本の紹介企画がありました。それが今回、ご紹介する『イッツ・アップ・トゥー・アス~自然と人々と地球のための子どものテラ・カルタ~』(原題 It’s Up to Us: A Children’s TERRA CARTA for Nature, People & Planet、邦題は仮訳)です。
 主題を直訳すると「私たちしだい」。つまり、世界を持続可能にできるのは私たち自身なのだ、という希望のメッセージを子どもたちに届け、実際にアクションを起こしていこうという思いのもとで創られた絵本です。すでにイギリス、オーストラリア、米国、トルコで翻訳・刊行されており、イタリア、オランダ、ギリシャ、クロアチア、スペイン、台湾、ドイツ、デンマーク、フランス、ベトナム、ベルギー、日本などでも発刊予定です。
 副題を見てわかるとおり、前号でお伝えしたテラ・カルタの重要性について描かれた絵本でもあります。著者はクリストファー・ロイドさん。子ども向けのノンフィクション作家であり、日本でも『137億年の物語』などの著者として知られています。世界各地から33人のアーティストが選ばれてイラストを描き、物語を読み進めると、ページごとに異なる表現の世界が広がる構成です。
 本文の目次は次の通りです。カッコ内は各部で扱われている主なトピックです。

第1部:自然
(動植物、微生物、空気・土・海、生命の星)
第2部:人々
(豊かさの両面、地球を汚す人間たち、絶滅する動植物)
第3部:地球
(地球の誕生と二酸化炭素、森林火災や洪水など地球温暖化がもたらす問題)
第4部:テラ・カルタ
(地球のための行動計画、再生エネルギー、生き生きとした動植物、賢い消費、先住民の叡智、自然を中心に考えるということ、「変えるのは私たち!」)

 以上の本文に続いてテラ・カルタの前文が再掲され、イラストを描いた世界中のアーティストの紹介ページもあります。
 第1部の直前にはチャールズ皇太子みずからが序文を寄せており、自然に対してユニークな好奇心を抱いている子ども時代のことや、私たち自身が自然の一部であるということ、そして「世界に必要とされていることは、各地の子どもたちがどんな未来を創りたいのかを想像してもらうこと」などが綴られています(関連のウェブサイトのビデオも参照)。

子どもに未来を描いてもらうということ

 ロイドさんも数々のインタビューで語っているように、特に若者をエンパワーするため、つまり地球温暖化など相当に厳しい状況にある世界情勢の中でも自分たち自身が世界を変えられるんだという思いをもってほしい、という願いのもとに、この絵本は作られました。
 ロイドさんもテレビ局のインタビューで語っているように、世界の持続可能性を実現するのに大事なのは、植樹や節水などのアクションにとどまりません。この世界はどのように成り立っていて、いかなる問題があり、またどう解決できるのかを子どもたちに伝えること、そして望ましい未来を共に想い描くことができるようにすることが重要であると言えましょう。
 確かに、絵本の第2部で描かれているような食料やゴミの問題、つまり世界の持続不可能な現実を園児や小学生に見せてしまうと、希望が持てなくなり、成長してから環境に関心さえ持たなくなるという主張もあります。しかし、この絵本の妙味は、世界の現実について説いても、不思議と希望へと導かれるところにあると言えましょう。おそらくその背景には、ロイドさんの文章や世界中のアーティストの優しい眼差しを通して彼(女)らの地球への愛が伝わってくることがあるのかもしれません。
 チャールズ皇太子は、絵本紹介のビデオで、ご自身も絵を描くのが好きであることに触れた上で、ひとつの提案をしています。「1枚の紙で、あなた自身が目にしたい未来の絵を描いてみてください」と。皆さんもいかがでしょう?!

*ここで紹介した絵本は本年度内に山川出版社より刊行される予定です。

【関連の英文ウェブサイト(ビデオ)】

ノンフィクション教材を活用した授業づくり(第6学年)

1.はじめに

 小学校学習指導要領「特別の教科 道徳」において、多様な教材の活用の視点として、「生命の尊厳、自然、伝統と文化、先人の伝記、スポーツ、情報化への対応等の現代的な課題など」が挙げられている。
 また、スポーツに関する教材の活用については、「例えば、オリンピックやパラリンピックなど、世界を舞台に活躍している競技者やそれを支える人々の公正な態度や礼儀、連帯精神、チャレンジ精神や力強い生き方、苦悩などに触れて道徳的価値の理解やそれに基づいた自己を見つめる学習を深めることが期待できる。」と示されている。
 ノンフィクション教材は、多面的・多角的に考えることができる一方で、多様な道徳的価値が含まれているため、ねらいが曖昧になってしまうことも考えられる。そこで、導入を工夫したり、発問を精選したりすることで、ねらいを明確にした授業を展開できると考えた。

2.実践報告

(1)主題名

生きる喜びを感じて D[よりよく生きる喜び]

(2)教材名

「真海のチャレンジ―佐藤真海―」 (出典:文部科学省『私たちの道徳 小学校5・6年』)

(3)本時のねらい

 佐藤真海さんの生き方を考えることを通して、人間は心の弱さと同時に心の強さや気高さをもっていることを理解し、夢や希望をもち、喜びのある生き方をしようとする態度を養う。

(4)学習指導過程

学習活動

○主な発問
・予想される児童の反応

◇指導上の留意点
☆評価


1 「よりよく生きる」ことの意味について考える。

○「よりよく生きる」とはどういうことだと思いますか。
・目標に向かって努力すること
・仲間と助け合って頑張ること

◇事前アンケートの結果を提示し、ねらいとする価値への導入を図る。


2 教材「真海のチャレンジ―佐藤真海―」を読んで話し合う。

①大学へ復帰したとき、真海さんはどんな気持ちだっただろうか。
・また大学に戻れてうれしい。
・これからの自分はどうなってしまうのだろう。
・友達は楽しそうでうらやましい。

◇範読する前に、佐藤真海さんのプロフィールを簡単に紹介し、教材への興味・関心を高められるようにする。
◇右足を失い、悩み苦しむ真海さんの心情を共感的に捉えさせる。

真海さんがパラリンピックを目指したのはどんな考えからだろうか。【中心となる発問】
・このままではだめだ、何とかしなければいけない。
・目標をもって頑張れば、自分を変えることができる。
・つらいことにも負けず強くなりたい。

◇目標に向かってチャレンジし続けることに生きる喜びを見出した真海さんの思いについて、多面的・多角的に考えられるようにする。

③真海さんはどんな生き方を大切にしてきただろうか。
・目標に向かってチャレンジする。
・どんな困難にもめげない。
・前向きに生きようとする。

◇展開後段の学びがより効果的に進められるように、教材を通して考えたことをまとめられるようにする。

3 自分自身の生活を振り返る。

○「よりよく生きたい」と思ったり考えたりして、頑張ったことやくじけそうになったことはありますか。
・サッカーの試合に勝つために毎日練習した。
・目標に向かって学習すると決めたのに、ついさぼってしまった。

◇学習シートを活用する。
◇ペア学習による学び合う場を設定する。
☆自分なりの「よりよく生きる」について考えることができたか。


4 教師の説話を聞く。

◇困難や障害と向き合いながら生きる喜びを味わった教師の経験を話し、余韻をもって終わらせるようにする。

(5)指導の工夫

○導入の工夫
 本教材は、A[希望と勇気、努力と強い意志]、D[生命の尊さ]などの内容項目と関連していると考えた。内容項目D[よりよく生きる喜び]を明確にした授業を展開するために、「よりよく生きる喜び」についての意味について考え、課題意識をもたせる。展開前段以降の活動時間を確保するために、事前にアンケートをとり、その結果を紹介する形にとどめ深入りはしない。

○板書の工夫
 教材の場面絵やプロフィールなどを提示することで長文の教材の理解を助ける支援を行ったり、主人公の心情の変容を捉えやすくするための工夫を行ったりする。
 また、題名「真海のチャレンジ」を中心に書くことで、本時で中心的に考えたいテーマが明確なものとなるようにし、構造的な板書となるような工夫を図る。
 さらに、教材に関する授業展開の板書の他に、補助黒板を活用する。補助黒板には、導入で活用したアンケート結果と展開後段での活動を結び付けて考えられるように示すことで、本学習を通して道徳的価値についての理解がどのように変容したのか実感し、道徳的価値の自覚を深められるようにする。

板書(展開前段での教材「真海のチャレンジ」における学習内容)

補助黒板(「よりよく生きる」をテーマとした事前アンケートの結果、展開後段における学習内容)

○発問の工夫

第1発問では、真海さんが悩み苦しんでいる場面の心情を問う。内容項目D[よりよく生きる喜び]には、強さや気高さだけではなく、自分の弱さを意識し、乗り越えるという側面も示されている。道徳的価値の深い理解につなげるために、誰しもが「弱い自分」を内包して生きていることに気付かせたい。
中心発問では、困難と向き合い力強く生きようと決断した真海さんの思いについて考える。真海さんにとっての「よりよく生きる」とは、自分の決めた目標に向かってチャレンジし続けることだと捉えた。真海さんにとってのチャレンジについて多面的・多角的に考えられるようにするために、補助発問として「普通のチャレンジとはどのように違うのか」と投げかける。
第3発問では、展開後段を効果的に進められるようにするために、真海さんの生き方について考える。教材における道徳的価値の理解と自己の生き方とを結び付けて考え、展開後段での学習がより主体的なものとなるようにする。

○話し合いの工夫
 展開後段では、感染症対策を十分にした上で、ペア・トリオの意見交換、「伝え歩き」による学び合いなどの対話型の学習の場を設定し、友達の感じ方・考え方との共通点や相違点を比べながら、道徳的価値についての理解を一層深められるようにする。

○書く活動の工夫
 展開後段では、適切な時間を確保した上で、学習シートを活用し、自分自身の生き方について深く考えられるようにする。事前アンケートを実施し、授業後にどのような変容が見られたかを把握するなど、児童の道徳性に係る成長の様子を継続的に把握していくことが重要である。

(6)児童の反応

児童の学習シートから

バレエの発表会までの間、自分の役に入り込めるように毎日努力をした。

水泳記録会に向けて練習した。よい記録が出ず、目標が高すぎたかなと思ったが、本番は目標を達成できた。

英語を習っている。何回もまちがってしまいやりたくないと思う時もあった。けれど、英検に受かりたいので毎日続けている。

サッカーの試合で負けたとき、もうだめだと思ったときもあった。だけど、前を向いてがんばろうと思っている。

書道を習っていて、最初は全然上手に書けなかったが、「もっと級が上がりたい」と思って努力してたくさん級が上がった。今でももっと上手になりたいと思って頑張っている。

3.おわりに

 ノンフィクション教材を扱う際の留意点として、登場人物の生き方を自分事として捉えることの難しさがあると考えている。発問や話し合い等の工夫を通して、自分自身の経験と照らし合わせながら、自己の生き方について考えを深められるようにすることが重要である。

※本実践は前任校での取り組みをまとめたものである。

対談:「コミュニティ・オブ・クリエイティビティ ひらめきの生まれるところ」(前編)

日本体育大学 教授 奥村高明 先生筆者

はじめに

 今回は私、東京学芸大の西村德行が、奥村高明・有元典文・阿部慶賀・編著「コミュニティ・オブ・クリエイティビティ ひらめきの生まれるところ」について編著者の一人である奥村先生にいろいろ話を聞きたいと思います。

なんで「ひらめき」?

筆者:とっても読みやすかったのですが、同時に、いろいろな疑問もたくさん生まれました。今日はそこにお答えいただきたいと思います。まず、表紙を見て「あれ?」って思うのは、なぜ脳科学の人じゃないのかなと、なぜ阿部先生や有元先生等心理学の研究者と一緒に書くことになったのですか? 「ひらめき」を語るために「心理学」というのがよく分からないです。
奥村:今、脳科学者の知人がいないので(笑)。でも、かつて著名な脳科学者から「奥村さん、脳は信じたらだめですよ、何も分かっていないから」と言われたのは心に残っています。脳科学の研究は別として、それを引用する人々の話は我田引水になるという警鐘でした。その教えを守っています。また、本書では、脳から語ったら個体主義から出てこれないだろうと阿部先生が指摘していますね。ひらめきはどうやら、個人の頭の中で突然啓示のように生まれるという「ある種の錯覚」(※1)らしいですよ。
筆者:けっこう身近な理由なんですね(笑)むしろ納得しました。次に、気になったのが、「創造性」を「ひらめき」と置き換えた理由です。私には、「ひらめき」って素朴で、素敵なもので、即興的で、個人的に起因するところが多いと思います。でも、「創造性」は、飛び抜けた天才に宿る創造性とか、長期の鍛錬によって育まれるなどのイメージがあります。それでも「創造性」=「ひらめき」なんですか?
奥村:まず、創造性の個人性を否定したいというのは、本書の主張の一部です。天才も市井の人も切り離せないというか、天才の創造性をすべて一人の業績に集約することはできないということです。有元さんは、それをダーウィニズムとしてとらえています。天才の発明は多くの創造性が淘汰された結果にすぎないというわけです。
 私はクーベルタン(※2)の例を出して、全体がないと天才は存在しないと述べています。クーベルタンは山の喩えを持ち出して、人々の健康のためには、多くのスポーツに親しむ人がいて、一部に専門的にスポーツする人がいて、その頂点にトップアスリートが必要だと言っています。トップアスリートも、まちの人々も、すべて大事なんですね(※3)。それは、体育の世界ではスポーツマネジメントとして、わりと共通理解されていますが、図画工作とか美術とかは、作家の天才性、個体主義的子どもの創造性とか、過度に重宝しすぎるきらいがあるとは思っています。
 アートについても同じ見方はできます。マルセル・デュシャンは、ずいぶん前に、芸術家だけで創造活動を完遂することはできないと言って、アーティストと普通の人が同じ地平でつながっていることを指摘していますよね(※4)
 同じように長期の鍛錬によって育まれた創造性というのがあったとしても、それは即興的で個人的なひらめきと切り離せないでしょう。それが「ひらめき」という日常的な言葉を用いた理由の一つですね。
 それに、とびぬけた天才という「個体主義」的なとらえ方をすると、それは教育では応用のできない話になってしまいます(※5)。天才だけを育成するために学校教育が行われているわけではないですよね。クリエイティビティが天才の個体内にあるというのは、どうにも実際の教育現場でやっていることとは、そぐわないでしょう。学校教育という実践からも、市井の人々の姿からしても、創造性を行為的に表した「ひらめき」という言葉を選んだのが二番目の理由かな?

図画工作・美術と「ひらめき」

筆者:創造性を人々の日々の実践と分けたくない、私たち教師の言葉で言えば子どもの姿と切り離したくない、だから「ひらめき」という言葉を用いたというのは分かります。確かに、「ひらめき」という言葉であれば、図画工作の授業で、新しい「ひらめき」が子どもたちの中でどんどん生まれていく場面に出会うことをすぐ思い出しますね。図画工作は、それが起こりやすい教科なのかなと思うのですがどう思いますか。
奥村:「図画工作で起こりやすい」と言ってしまうと、「ひらめきは図画工作の専売特許だ」みたいな主張に聞こえてしまいそうで慎重になってしまいますが、図画工作で子どもたちの「ひらめき」が「どんどん生まれていく場面に出会う」というのは、その通りだと思います。なかでも造形遊びですね。やっぱり造形遊び。
 編集の過程でも「図画工作とかアートとかが得意なところじゃない?」と再三、話題になりましたね。この本は全教科、学校教育以外もターゲットにしているのですが、図画工作・美術の事例がたくさん載っているのはそういうわけです。
筆者:奥村先生は図画工作・美術の「ひらめき」を紹介する時に、「造形遊び」をよく使っていますよね。私などは「なるほど」と思うんですけど、でも教育現場では造形遊びが理解されているかというと、そうではありません。
 すると、出版したばかりの本を前に申し訳ないのですが、同じ理由で「ひらめき」も理解されないというか、学校現場や人々が「ひらめき」を大事に思うことはないんじゃないかと思うんですけど……。
奥村:実は、私たち自身もそうだったんです。本書の編集を始めたとき3人とも考え方はバラバラで、有元さんにいたっては「創造性かぁ……あまり面白くないな」と思っていたらしいです。でも、対談したり、お互いの原稿を読んだりしていくうちに、いろいろひらめいて、「ひらめき」の楽しさや大事さに気付いて、みんな変化して、いい歳して「発達」できたんですね。最終的には「ひらめき」こそ「教育の新展開かも」と思うようになりました。
 つまり、最初は編著者自身が「ひらめき」自体を評価してなかったので「ひらめきが学校で重視されていないことは問題だ」と主張するつもりはないですね。本書は「私たち自身がひらめきの大切さが分かってなかった」という宣言かもしれない(笑)。
筆者:本書自身が、人と人との関わりの中で何かが生まれる場所であったのかというのは面白いと思いますが……けっこうな冒険ですね(笑)。他にも今まで本を作ってきたことと違う関わり方などありましたか?
奥村:今だからいえる話ですけど、当初は「ひらめき」を現場に持ち込みたいという上から目線のスタートだったんです。はじめに目指したのは「ひらめきが生まれる授業とは?」みたいな内容でしたから。まあ、よくある啓発本や教育書のたぐいでしたね。
 でも、今は、普通の人が「ひらめき」なんだよって変わりました。本書の用いている言葉で言えば「ひらめき」は「リ・クリエーション」、「ひらめき=創造性」というよりは「ひらめき=再創造」と言い換えてもいいかもしれません。
筆者:フィリピンの学校壁画制作で、図画工作の題材「魔法の種」を実施して、現地の子どもたちがさまざまに「ひらめき」ながらかいていったことが書かれていました。その「ひらめき」に新規性はないけれども、子どもたちにとっては大切な「ひらめき」であると語られていましたが、そこはとても共感しました。
 教師にとって、子どもたちの発想などはある程度想定できますが、その子たちにとってははじめての経験であり、子どもたちにとっては大切な発見や気付きです。そんな場面に出会うことを、私たち教師は楽しみにして授業をしています。教員間で、そんな場面を紹介し合うこともたくさんあります。私たち教師はそんな場面に出会うために教師をしているのではないかとすら思いますね。
奥村:まったく同感です。あの味は蜜の味で、あれを味わったら、もう教師はやめられません。先生たちは子どもと一緒にひらめいている。それが図画工作や造形遊びを通して実感できると思います。
 ただ、もう一つの視点として、教育課程としての図画工作というのもあります。図画工作・美術は単独の教科という役割があるだけではないという意味です。例えば、先日「図画工作のプログラミンングについて考えないといけないので困っているのですが……」という質問がきたのですが、「『図画工作のプログラミング』を考えるのではなく、『プログラミングに図画工作を』って考えたらいいんじゃないですか?」と答えました。相手は喜んでいましたが、図画工作には図画工作の教科特性がありますから何でもかんでも取り込むわけにはいきません。でも図画工作の「ひらめき」が教育課程に役立つとすれば、それは本書の願いでもありますね。

 ひらめきをめぐる対談は、さらに深まり、本書の核をなす「縁起」の話へと続きます。(次回は12月に掲載予定です)。

■新刊のお知らせ
コミュニティ・オブ・クリエイティビティ ~ひらめきの生まれるところ~

編著:奥村高明、有元典文、阿部慶賀
→書籍の詳細情報はこちら

<学び!と美術 関連リンク>
■奥村高明先生と有元典文先生との対談
Vol.98 対談:生存価としての図画工作・美術
Vol.99 対談:ともにかなでる教育実践
■奥村高明先生が阿部慶賀先生の書籍を紹介
Vol.103 「ひらめき」が生まれる授業

西村 德行(にしむら・とくゆき)
東京学芸大学教職大学院准教授
1971年、京都市生まれ。都内中学校、筑波大学附属小学校を経て、2014年より現職。専門は美術科教育学、鑑賞教育。日本文教出版小学校図画工作科教科書編集委員

※1:「「ひらめき」って結局のところ個人の主観的体験でしかなくて、それはある種の錯覚みたいなものではないかということは、心理学の世界でもわりと合意を得られていますね。」奥村高明・有元典文・阿部慶賀 編著「コミュニティ・オブ・クリエイティビティ ひらめきの生まれるところ」日本文教出版 p24
※2:ピエール・ド・クーベルタン 1863~1937。近代オリンピックの父と呼ばれるフランスの教育者。
※3:「百人が体育をおこなうには、五十人がスポーツをおこなわなくてはならない。五十人がスポーツをおこなうには、二十人が専門のスポーツに専心しなければならない。二十人が専門スポーツに専心するには、五人が素晴らしい技能を完成する能力をもっていなければならない」 前掲註1 p32
※4:デュシャンについては「学び!と美術 <Vol.114> 美術鑑賞の現在地 後編(2010~)第2回「ビジネスと美術鑑賞(1)」」2022、https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art114/
※5:個体主義については、前掲註1 用語解説 p236及び「学び!と美術 <Vol.98> 対談:生存価としての図画工作・美術」 https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art098/ を参照。

「米作りのさかんな地域」(第5学年)

1.単元名

「米作りのさかんな地域」(第5学年)

2.目標

 米作りについての資料を読み取って意見交流をすることや調べ学習を通して学ぶことで、自ら課題を見出し解決する探究的な学びが行えるようにする。食料生産に関わる人々が自然条件を生かしながら生産性や品質を高める努力をしていることについて理解し、それらが国民生活に果たす役割について考え表現する。また、現在の食料生産の課題を見出して多面的・多角的に考えながらその解決方法を協働的に考える。

3.評価規準

知識・技能

  • 米作りに適した自然条件や生産工程・輸送手段や販売方法について知る。
  • 表、グラフ、写真、インタビューなどの各種の資料を適切に読み取り、考察する。

思考・判断・表現

  • 米作りに関わる人々の工夫や努力を捉え、その働きを考える。
  • 読み取った資料の内容を関連づけて考えたり、必要に応じて資料を探し出したりする。
  • 米作りの課題を見出し、SDGsなどの目標と関連づけて解決方法を考え、表現する。

主体的に学習に取り組む態度

  • 学習のねらいを把握し、自らのめあてや振り返りを適切に行い、学び方を調整する。
  • 自分と他者の意見を比較して考えたり、取り入れたりして学習する。

4.本単元の指導にあたって

 本単元は身近な米という食材を扱いながら、日本の農業や世界の食糧問題にまで子どもの興味関心を広げ深められる単元になっている。単元の構成としては、まず、米作りの条件や生産方法・生産者の工夫や努力を知識・技能として学んだ上で米作りにおける課題を見出し、解決方法を考える思考力・判断力・表現力等の育成へとつなげられるような構成にしている。学習方法では、ジグソー法やタブレット端末を用いた学習を取り入れることで、児童の実態に応じた資料の活用や、協働的な学びが実施できるようにしている。基本的には教科書の資料を活用しながら必要に応じてSDGsの目標や他の食料生産に関する資料などを提示できるように用意しておきたい。

5.単元の指導計画

学習のねらい

子どもの活動と内容

1

普段食べている米の種類や生産地について知り、米作りについてのアンケートをまとめる。

・家で使っている米のラベルを持ち寄って白地図にまとめる。
・白地図を見ながら、米作りについて知っていることをブレインストーミングする。
・学習した内容をもとに米作りについて知っていることをアンケートにまとめる。

2

アンケートをもとに学習の観点を考え、マップを作る。米作りの盛んな都道府県を予想しその理由を考える。

・アンケートの内容の似たものなどを集めて共通点を考え、その共通点を学習上の観点にする。
・理由を考えながら、白地図に米作りの盛んな地域を予想して色を塗る。
・実際の米作りの盛んな地域を知り、その理由(自然条件等)について知る。

3

庄内平野の地形や気候について資料を読み取り、米作りに必要な自然条件について知る。

・地図から地形の特徴を読み取り、米作りに適している条件を見つけ出す。
・グラフから気候の特徴を読み取り、米作りに適している条件を見つけ出す。

4

田の様子の変遷を知り、圃場整備がどうして行われたのか理由を考える。

・昔と現在の航空写真を比較して、気づいたことを交流し合う。
・圃場整備について知り、なぜ行われたのか昔の様子を考える。
・圃場整備の効果と行われた理由をまとめる。

5

品種改良や合鴨農法について知り、米作りを支える人々の工夫や努力について考える。

・品種改良について知り、品質向上に携わる人々の工夫や努力について考える。
・合鴨農法について知り、米作りに携わる人々の工夫や努力について考える。
・人々が米作りに対して抱いている思いをまとめる。

6

複数の資料を読み取って、意見交流を行い、米作りについてまとめる。(本時)

・資料からわかることについて意見交流を通して読み取る。
・読み取った内容を交流する。
・複数の資料を合わせて読み取れることについて話し合い、米作りについてまとめる。

7

これからの米作りの課題を見出して、その解決方法について意見交流を通じて考える。

・これからの米作りの課題について考える。
・SDGsなどの目標について知り、米作りが目標に沿ったものになっているかを考える。
・これからの米作りについて意見交流を行う。

8

これまでの学習を振り返って、米作りについて新聞にまとめる。

・これまでの学習を踏まえた上で新聞作りを行う。
・自身の考えも盛り込むようにする。

(*1)

6.本時の目標

  • 資料を適切に読み取って、意見交流を行う。
  • 複数の資料を関連させて、米作りについて多面的・多角的に考える。

○主な学習活動・内容
◇児童の反応

指導の工夫と教師の支援

資料

○本時のねらいを知り、自身の学習のめあてをたてる。

・本時のねらいを示し、達成に向けて児童一人ひとりが行う学習のめあてを考えるようにする。

資料を読み取ってわかったことを伝え合い、米作りについてまとめる。

○資料を正しく読み取るようにする。
○話し合いの時に、相手の話を聞きながら大事なところのメモを取る。

○グループでどの資料を読み取るかを決め、資料ごとに集まって読み取りを行う。(*2)
◇1年間、ほとんど仕事があるんだね。
◇広い外で作業していて大変そう。
◇10aあたりの生産量はほとんど変わっていないけれど、耕作時間はたくさん減っているよ。
◇人件費や農機具代が費用の半分もあるね。

・グループ内(4人)でどの資料を担当するか決めるようにする。
・資料の読み取りやすさを示して、児童が選びやすいようにする。
・個人で資料を読み取った後、同じ資料を読み取っている児童同士が集まって資料の読み取りを深められるようにする。

教科書(現行)
・P82①
・P82②~⑩
・P84①②
・P84③

○グループに戻って読み取った内容を交流し合う。(*2)

・Xチャートを使って考えをまとめられやすいようにする。

・Xチャート

○交流した内容をもとに米作りについてまとめる。
◇作業が大変そうだから、農機具はとても便利だと思う。
◇農機具のおかげで、作業時間が昔よりも減ったんじゃないかな。
◇農機具は便利だけどその分、費用もかかっているね。

・多面的・多角的に考えられるように複数の資料を関連づけて考えられるようにする。
・たくさんの資料を読み取るのが難しい場合は2つの資料を関連づけるところから段階を経て考えられるようにする。

○学習のまとめをマップ(*1)に書き込む。
○振り返りを行い、自身の学びが適切だったかを考える。
◇しっかりと話を聞くことができた。
◇大事なところをメモしながら話し合うことができた。

・振り返りを行うようにする。
・次回の予告としてSDGsについて触れ、学習してきた米作りを目標に沿ったものにするにはどのような工夫をすればよいか考えるようにする。

(*2)