白方小学校のESD(子ども・学校とPBL①)

 Vol.57から前号Vol.61まで、ふたば未来学園高校を中心に、高校におけるPBLを授業との関連で述べてきました。今回から数回にわたって、鹿又悟先生(現福島大学大学院人間発達文化研究科)の報告による小学校の実践を通して、子ども・学校とPBLについて考えていきたいと思います。

1.東日本大震災と白方小学校

 福島県須賀川市立白方小学校(以下、「白方小」)は、福島県の中央部にある須賀川市の西部に位置します。田園地帯の中に立ち、近くには里山もあり、豊かな自然に恵まれています。また、校地内には農村公園や学校農園、ビオトープ等があり、東日本大震災前は生活科や理科の観察学習、総合的な学習の時間の環境学習をユニークに展開していました。
図1 白方小学校上空からの様子 2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県内の学校の教育活動は、程度や期間の差こそあれ、大きな制約を受けることになります。白方小では2014年の夏、ようやく校地内の全面除染が終了し、3年ぶりに正常な教育活動が可能になりました。
 当時、ほとんどの屋外活動ができず、登下校時も含めて様々な制限がある中、子どもたちは毎日元気に登校し、一生懸命に学習活動を続けていました。そのような中だからこそ、現状をしっかり見つめ、未来を切り拓くたくましい児童を育てたいと考え、ユネスコスクールへの加盟を目指しました。これまでの教育活動をESD(持続可能な開発のための教育:Education for Sustainable Development)の視点から見直すとともに、制限された状況の中でも、日常的に実践できるESDを追求していきたいと考え、実践を進めていきました。
 2015年5月にユネスコスクールに加盟することができ、以来、福島県内のESDの拠点の一つとして大きな役割を担ってきました。

2.白方小のホールスクールアプローチ

 ESDのホールスクールアプローチは、学校内での教育内容やカリキュラムの方向付けだけでなく、学校外の連携先団体や地域の人材の協力を得ながら、学校に関わるすべての人々が持続可能性について学び合うことができるようにするための考え方、手法です。あらゆる機会を通して持続可能性を実現する学校へと変革し続けていくことが重要となります。
 白方小では、このホールスクールアプローチを進めるにあたって、学校教育を四つの側面(「学校の運営」、「教室内外の学び」、「設備と環境」、「地域との連携」)から見つめ直し、中心となる「ビジョン」に向けて一体的に進めていくことが大切と考え、以下のような体系化されたシートを作成しました。周辺には、それぞれの側面に関連する内容を配置し、学校内外が一体的に運営されている全体像が見えるように工夫されています。

図2 白方小のホールスクールアプローチ・デザインシート

3.ESDカレンダーの作成と年間を見通した授業づくり

 「ESDカレンダー」は、ユネスコスクールの先進校である江東区立東雲小学校で開発された年間指導計画です。これを参考に白方小でも作成し、これによりひと目で、いつの時期に、どのような視点を持って、どのような学びを、どのような教科・領域と関連付けて取り組むのかが、だれにでも分かる年間指導計画にすることができました。
 ESDカレンダーの作成では、教科・領域間の関連に担任が意識を持つこと、そして、どのようにつなげると児童の実践的な態度に結びつくのか、実践を重ねながら修正していくことが必要だと考えます。各担任は、5月末までに1年間の見通しを立て、日々修正を加えながら年度末に完成を迎えるような形でESDカレンダーを作成しています。
 鹿又先生が着任した最初の年は、どの単元とどの単元をどのようにつなげていけばいいのか、どんな関係性があるのかよく分からなかったといいます。しかし同じブロックの先生とESDカレンダーを中心に話し合うことで、年間を通して軸となる学習活動と教科のつながりを理解することができるようになりました。「この単元とこの単元は関係性がある」、「この国語の書くことは、発信に活用できる」、「社会のこの単元は環境とつながっていく」と実感を持てるようになり、子どもたちも授業の中で、「あ!これは、社会のこの単元に関係してるね。」などと、教師が声を発するより早く気づく児童も出てきました。

図3 白方小のESDカレンダー

4.育てたいスキル

 各ブロックの発達段階、学習事項に応じた「育てたいスキル」の一覧表を作成し、その学年の子どもたちにどんなスキルを体験させたいのか、どの程度身についたかを把握できるようにしています。年度末には育てたいスキルを見直し、修正を行っています。
 評価は、毎回の授業で振り返りを集約し、ポートフォリオ評価を行っています。

図4 白方小で育てたいスキル

5.総合的な学習の時間の実践

 総合的な学習(探究)の時間では、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という探究のプロセスがスパイラルに連続し、その連続が右肩上がりに高まっていくことが重要です。活動で終わってしまうのではなく、何のための学びなのか、どのような「資質・能力」が育つのかという視点から、プロセスのゴールを明確にする必要があります。
 特に、子どもたちがどのような概念を形成するかという、認識の高まりをゴールとして描いておくことが大切だと思います。

図5 学習の発展概念図

 子どもたちの学習で、鹿又先生は以下の2点を大事にしています。1点目は子どもたちの「問い」です。学習しながら抱く「問い」を大事にすることで、自分事として探究し続けることができます。2点目は、「人」との出会いです。出会う・出会わせる「人」を誰にするか、どの場面にするかは、単元を構成していく中で重要な部分になります。この探究のプロセスを何度か行い右肩上がりとなれば、学習した探究課題から自分の在り方を見つめ、自分の生き方を考えることができるようになると考えています。
 白方小のこれまでのESDの実践を振り返ると、大きく三つの取り組みを挙げることができます。最初の実践としては、ビオトープの学習です。
 トンボ研究家のご指導をいただきながら、子どもたちはビオトープの小川でオニヤンマの産卵から羽化までを自らの目で観察し感動を味わいました。これをもとに、トンボの不思議や特徴、オニヤンマの短い一生、オニヤンマの生活、そしてオニヤンマの歴史へと視野を広げ、探究活動が深まっていきます。そしてトンボの絶滅の危機にも気づき、その原因が私たち人間の生活にあることを知り、自分たちの生活だけを考えるのではなく、すべての生き物の共存を願うようになります。子どもたちは、ここ白方の水の流れを守っていくことの大切さを学び、自分たちにできそうなことを考え、学習したことを発信していきます。
 これらの学習で培われた環境に関する関心は、その後の学習や児童会活動にも広がっていきました。
 これ以外の取り組みは、次号以降でご紹介します。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.62

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.62 “白方小学校のESD(子ども・学校とPBL①)”を追加しました。

令和6年度版 小学校教科書のご案内:社会資料ダウンロード「内容解説資料(別冊)/令和6年度版『小学社会』 単元の構成と評価」追加

「令和6年度版 小学校教科書のご案内」特設サイト:社会の資料ダウンロードに「内容解説資料(別冊)/令和6年度版『小学社会』 単元の構成と評価」を追加しました。

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.41

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.41 “ミャンマーの持続可能な開発と起業家精神”を追加しました。

ミャンマーの持続可能な開発と起業家精神

 前回執筆したVol.06では、ミャンマーのESDとローカル製品について少し触れました。今回は、改めてミャンマーの現状と変化について述べたいと思います。
 環境の持続可能性と開発は、21世紀の最も差し迫った世界的な関心事の1つです。世界中の国々が、経済成長と環境の持続可能性のバランスをとろうと努力しています。ミャンマーも例外ではありません。発展途上国であるミャンマーは、環境の持続可能性と開発を両立するために対処しなければならない多くの課題に直面しているのです。

 ミャンマーは世界でも有数の多様な生物が生息する国の1つですが、国の発展を重視するあまり、環境問題は優先事項ではありませんでした。一方、今回取り上げる持続可能な開発における起業家精神は、経済成長を促進させ、ミャンマーの生活水準を向上させる上で重要な役割を果たします。

最近の環境問題に対する起業

 ミャンマーが直面している大きな課題の1つは、電力へのアクセスの欠如です。全人口の約35%しか電気を利用できず(*1)、調理や暖房用のエネルギーの大半は木材や木炭などの資源に依存しています。持続可能な起業家精神が大きな影響を与えることができるもう1つの分野は、農業分野です。ミャンマーは多様な生態系をもつ豊かな生物多様性と肥沃な土地で知られていますが、伝統的な農業の慣行が土壌の劣化と生産性の低下につながる場合もあります。
 ミャンマーは、他の国と同様に、新型コロナウィルスの影響を受けています。また、クーデターによる国内での動乱など最悪の事態に見舞われたことは、読者の皆様もご存じかと思います。これらのことが、国の経済や健康、教育に深刻な影響を及ぼし、環境保護活動にも支障をきたしました。しかし、こうした苦境のなかでも小さな民間企業がビジネスを展開していることは注目に値します。

 2018年に設立されたBokashi Myanmar(以下、「ボカシ・ミャンマー」という)という会社を紹介したいと思います。ボカシ・ミャンマーでは、食品廃棄物や台所廃棄物を適切に管理し、肥料として再利用しています。食品廃棄物は保存されているだけでなく、廃棄物の発生率も抑えています。これに加えて、肥料は簡単にすぐに使用できるため、肥料を使ってマイクログリーンを栽培する環境づくりが奨励されています(マイクログリーンは新芽野菜で、通常は発芽から7~14日以内に収穫され、栄養価が高く、料理に風味、食感、色を加えるために使用されます)。さらに、ボカシ・ミャンマーは、他の起業家と協力して、無料で自然廃棄物の管理と堆肥化に関するトレーニングも提供しています。 現時点では、こうしたビジネスを拡大させることで、環境を保護するだけでなく、トレーニングの提供を通じて人々に環境保護に対する意識を広めているのです。
 ミャンマーの起業家は、持続可能な開発への関心が高まることによって、国全体の持続可能な開発に貢献すると強調しています。
 ESDに関しては先進国からの情報発信の方が多いように思われますが、ここで紹介したように、発展途上国における持続可能性のための起業の動向に、教育や訓練も視野に入れながら今後も注目していきたいと思います。

ボカシ・ミャンマー商品堆肥化に必要な、窒素(緑色)、炭素が豊富な物質(茶色)、土壌(黒色)の存在を表しています。

【参考文献】

*1:Energy Assessment, Strategy, and Road Map (ADB. 2016. Myanmar: Energy Assessment, Strategy, and Road Map. Manila.)
https://www.adb.org/documents/myanmar-energy-assessment-strategy-road-map
Power Network Development Project: Sector Assessment (Summary) – Energy
https://www.adb.org/sites/default/files/linked-documents/50020-002-ssa.pdf