情報Ⅰ「第2章 コミュニケーションと情報デザイン 3節 情報デザイン」(第2学年)

1.はじめに

 本校は千葉県北東部の成田市に所在する私立学校であり、一学年は原則、付属中学校からの内進クラス3クラス、高校からの入学者クラス5クラスの計8クラス(1クラス40名程度)で構成されている。高校新課程情報科の授業は、「情報Ⅰ」を2年次に2単位で実施している。
 2つあるコンピュータ教室は令和5年度にリニューアルを行い、両教室のコンピュータには主なアプリとしてGoogle Chromeブラウザ、Googleドライブ、MS-Office、Minecraft Education、Python環境などをインストールしている。第1教室はWindows 11のデスクトップを導入し、秀丸エディタ、Visual Studio、VirtualBOX(Ubuntu仮想マシン)などをインストールしており、プログラミングに関する実習だけでなく、Linux環境を通じたネットワーク環境構築の実習もできるようにした。第2教室ではMacBook Airを導入し、Apple純正のアプリに加えて、Adobe Creative Cloud(Adobe CC)も取り入れることでクリエイティブな作業の実習環境を充実させた。同時に、移動式の生徒机を導入して生徒がグループワークを進めやすい設備を整えている。これにより、これまでのプレーンなWindows PC環境とは一線を画した、単元に応じた教室の使い分けが可能になっている。なお、当校の付属中学校では、技術科においてLEGOマインドストームやポスターセッションの実習を行い、高校情報科との連携を図っている。さらに、1人1台必須購入のiPadにはGoogle for Educationがインストールされており、他教科でもICTを活用した授業を行っている。
 情報科はiPadと教室のPC環境をうまく使い分けられるように、授業を展開している。
 例えば、Googleドライブを導入して校内生徒用のファイルサーバーを廃止し、実習用ファイルはすべて、クラウドのGoogleドライブにアップするようにした。そして、実習で作成したファイルは、Google Classroomを通じて提出させるようにしている。さらに、Google Classroomでは日々の授業の連絡を発信しており、当日の授業内容も予告することで、授業の導入部分の説明時間の削減に努めている。なお、Googleアプリは他にも活用している。
 旧課程時も実施していたグループワークのプレゼン実習では、作業はPCで行い、実際の発表で提示するときはiPadを活用するなど生徒は自発的に機器を使い分けている。アプリについてはPowerPointとGoogleスライドのどちらを活用してもよいと指導したところ、こちらは多くの生徒がGoogleスライドで作業を進めていた。理由としては、共同作業のしやすさはGoogleスライドの方がよいとのことであった。
 しかしながら、課題も感じている。直感的に扱えるコンピュータが今日の世の中には溢れていることで、コンピュータに対する技術的なハードルは過去の生徒と比較して明らかに下がっているが、PC環境でのファイル保存やフォルダ(ディレクトリ)の概念、キーボード操作など、昔からコンピュータを扱っている大人であれば体得しているであろうスキルや知識が身についていない生徒が多い。消費者として情報の活用はできても、発信者となるための基礎的なスキル・知識が不十分なまま次のステージに送り出すわけにはいかない。消費者と発信者両方の立場を理解した、バランス感覚を持つデジタル・シティズンシップの指導が欠かせないと考えている。
 本実践で紹介する情報デザインは、プロのクリエイターも活用しているAdobe Photoshopを取り入れたものである。「防犯ステッカーの作成」を実習課題として設定しており、防犯ステッカーの目的や組み込むべき情報をコンパクトにまとめるにはどうすれば効果的かを考える時間としている。

2.単元名

「第2章 コミュニケーションと情報デザイン 3節 情報デザイン」(実施学年:第2学年) 4時間

3.単元の目標

【知識及び技能】
 情報デザインの考えを通じ、情報技術の活用により問題の発見・解決する力を身につけていく。

【思考力・判断力・表現力等】
 問題の発見・解決に向けて、集めた情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を身につけていく。

【学びに向かう力・人間性等】
 情報や情報技術を適切かつ効果的に活用し、社会の発展に寄与していく態度を育み、資質・能力を高めていく。

4.単元の評価規準

ア 知識・技能

イ 思考・判断・表現

ウ 主体的に学習に
取り組む態度

・情報デザインの意味について理解している。
・情報デザインの作業手順、問題発見の重要性を踏まえ、デザインの要件に必要な事項を理解している。
・作品を製作するソフトウェアを操作する技能を身につけている。

・情報デザインの考えをもとに、伝えたい情報を表現することができる。
・身近な問題を考え、その解決方法として、情報デザインの手法を適切に選択できる。
・要件の定義など情報デザインの視点から考えることができる。

・情報デザインを通じ、問題解決に取り組もうとしている。
・グループの話し合いに積極的に関与しようとしている。
・積極的にアイディアを出し、他者の意見を尊重しながら問題を解決しようとしている。
・問題への当事者意識を持っている。
・評価・改善の取り組みの重要性を理解し、よりよいものをつくろうとしている。

5.単元の指導と評価の計画

学習活動・内容

評価の観点

評価の方法

1

・情報デザインとは
・情報デザインのプロセスと問題の発見
―3人1グループで「防犯ステッカー」を作成することを説明する。

行動観察
・抽象化・可視化・構造化の3つの手法を理解しているか。
・情報デザインの活用例に関心があるか。
・作業手順を実践しようとする意欲はあるか。

2

・デザインの要件と設計・試作
・評価と改善・運用
<3人1グループでの話し合い活動>
―iPadアプリGoogle Jambordでグループ用のボードを作成する(内容は話し合い用のボード、各々のラフスケッチ用のボードを1ファイルで作成)。
<情報収集→意見の集約→デザインのラフスケッチ作成(まとめた意見をもとに個人で作成)>

行動観察
・デザイン要件を理解しているか。
・情報収集と分析を通じ、解決すべき問題は何かを捉えることはできるか。
・iPadアプリを効果的に活用しようとする意欲はあるか。
・主体的・積極的に話し合い活動に参加しているか。

3

・前時の続き
<3人1グループでの話し合い活動と作成の実習>
―ラフスケッチの意見交換→Photoshop(MacBookを使用)を使ったデザインの組み立て。

行動観察
・主体的・積極的に話し合い活動に参加しているか。
・要件定義を理解しているか。
・PCでの作業における保存とファイル管理を理解できるか。

4

・前時の続き
<作成の実習>
―前時の続きとして、Photoshop(MacBookを使用)を使ったデザインの組み立て。

同上

5

・前時の続き
<実習で作成した作品の完成と提出>

行動観察
・期限を守り完成させることができたか。
・アップロード作業が難なくできるか。

6.本時の目標

 学んだ情報デザインを効果的に表現するための考えと技術を向上させる。

7.本時の流れ

時間

学習活動・内容

指導上の留意点

評価

導入
5分

・前回までの知識の確認。
・本時で使用するアプリへのログイン。

・3人1グループ体制で作業を進めていくことを確認する。
・成果物となる作品は話し合い活動で得た見解を各々でデザインすることを確認する。

ア、イ、ウ
行動観察

展開1
10分

・話し合い活動の続き。
―話し合いにはGoogle Jamboardを使用し、意見の集約や方向性をまとめていく。
―ラフスケッチから各々で話し合った内容を設計していく。

・クラウドベースのアプリはiPadでもMacでもどの端末でも利用できることを再確認する。
・ラフスケッチから、各々が話し合いを通じてデザインをどのようにイメージしているかを可視化していくことを確認する。

イ、ウ
行動観察

展開2
10分

・Mac端末によるPhotoshopの活用。
・ファイルの生成と保存。

・Photoshopの起動とファイル保存について説明する。
・ファイルの保存先はクラウド内の領域であることを説明する。

ア、ウ
行動観察

展開3
15分

・ラフスケッチをもとに本番デザインの組み立て。

・作業はMac、ラフスケッチの参照やチュートリアルの確認はiPadを使用することを説明する。
・何らかのトラブルが発生しても被害を最小限にできるように、上書き保存はこまめに行うよう指導する。

ア、イ、ウ
行動観察

まとめ
5分

・ファイルを保存する。
・次回の作業の展望を確認する。

・保存は各々で対応する。
・グループで次回に向けての意思や方向性を定める。

ア、イ、ウ
行動観察

8.まとめ

 作業で使用するAdobeのアプリはPhotoshopとした。画像編集等はスマホアプリを上手に活用している者も多いが、プロも使用する高度な画像編集アプリを使用させることで、デザインの編集などがなぜ職として成り立つのかを考えるきっかけにもなると考える。
 たとえば、画像の明るさの変更など、近年はスマホアプリのおかげでボタンを押せば簡単に実現できることが増えているが、ゼロベースで作業を行うことがいかに難しいかを知ることも重要である。そのため、今回の授業における成果物の出来不出来は問わない。伝わりやすいデザインを考察し、今後の社会生活にどう寄与していくかを考えるきっかけにさせたいと考える。
 2単位という限られた時間の中で、授業展開における他の単元とのバランスやつながり、また、共通テスト対策までを意識すると、どの程度この内容を深く掘り下げるべきかを考える必要もある。情報デザインそのものは日常生活にあふれているものであり、それを学問的見地から掘り下げるということには少なからず違和感も抱かれる。さらに設定した課題は、一見、適当にデザインすればなんとなく完成しそうなくらいシンプルなものである。しかし、自分で目的を持って創作しようとすると難しいものであることにも気づく。問題解決の手順を活用し科学的にひも解くことで、情報をわかりやすく発信することのできる担い手になってほしいものである。
 コンピュータを実務的に使用することにおいて、高校生世代のスキルは大人世代よりも低いことを実感している。教科情報の学びを通して情報と情報技術を適切に扱える人材を輩出したいという想いを込めて今後も授業の質を向上させたい。

9.大学入試との関連

 従前から本校では大学入試科目として情報を選ぶ者はいない状況であるが、大学入学共通テストにおいて情報Ⅰが追加されることから、教科として以下の対応を行っている。
 まず、教科書とは別に、副教材として共通テスト対応のワークを授業の携行品としている。また、オンラインの教材として「ライフイズテック レッスン」、「スタディサプリ高校講座」を導入している。これらを活用し、実習と座学のバランスを取っている。
 普段の授業を大学入試に特化した展開で行っているわけではないため、座学の内容については教科書に準拠した学習内容の定着とその充実を図っている。座学の定着度を測るために、Google Classroomと連携したGoogleフォームによる小テストを行うことで、基礎的な知識が定着するようにもしている。

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.53

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.53 “ノンヒューマンをデザインする ~ヒューマンとノンヒューマン~(その3)”を追加しました。

ノンヒューマンをデザインする ~ヒューマンとノンヒューマン~(その3)

<出典:「Medium」ホームページ>
“Tools for environment-centered designers: Actant Mapping Canvas”より
https://uxdesign.cc/tools-for-environment-centered-designers-actant-mapping-canvas-a495df19750e

デザイン学におけるノンヒューマン

 人間以外の「アクター」(全体にとって不可欠な役割を担う人やモノのこと)を「ノンヒューマン」として捉え、それらも含めた大きな関係性の中で社会や環境を捉え直そうとする動きが「デザイン」という分野においても大きな潮流となっていることは、前号の学び!とESD <Vol.52>で紹介したとおりです。一見、人間の生活をより良くすることを目的として展開されてきたデザインが「人間中心主義」であることは当然ではないかと思えます。しかし、私たち人間がモノをつくるということは、同時に私たちが(つくった)モノによってつくられていることを意味し、「人間とモノ」の間に関係性が構築されます。こうした存在そのものの根拠について規定する見方は「存在論」(*1)と呼ばれるもので、「世界がどのようにできているか」ということを考える手段となります。ひいては、ノンヒューマンも含めたアクターを同列化した「脱人間中心主義デザイン」を目指すことを可能にしてくれます。
 日本の「ACTANT FOREST」というデザイン・リサーチ・コレクティブのチームが、モニカ・シュネルというポーランド人デザイン人類学者がつくった「アクタント・マッピング・キャンバス(Actant Mapping Canvas)」というデザイン・ツールを紹介しています(*2)。一般的なビジネス型のステークホルダーマップ(*3)があくまで人間のみを利害関係者として終わらせてしまう一方、環境中心設計(ECD)のために改良した「アクタント・マッピング・キャンバス」では、ノンヒューマンも利害関係者の立場に据え、彼らに共感するためのデザイン・ステップを踏みます。

ステップ
  1. 課題や問題から始める
  2. それらから直接的に影響を受けるアクタントをマッピングする
  3. 次はあまり目立たない間接的な影響を受けるアクタントをマッピングする
  4. 最後に、人間とノンヒューマンのさまざまなアクタントの因果関係を示す

<出典:「Medium」ホームページ>
“Tools for environment-centered designers: Actant Mapping Canvas”より
https://uxdesign.cc/tools-for-environment-centered-designers-actant-mapping-canvas-a495df19750e

 このプロセスを経ることで、人間とノンヒューマンというアクタント同士の「相互関連性」と、それらがデザインの目的(プロジェクト/製品/サービスなど)に与える影響に私たちが気づくことができます。また、図の左側には「ライフサイクル」や「プラネット・アース」、「サーキュラー・エコノミー」などの基本概念が示されており、ルールとして「みんなのことを考える」ことが推奨されています。「みんな(人間とノンヒューマン)」が対等な関係を持つバランスの中でプランを導きだすマッピングの方法です。
 人間が自分たちだけを世界の中心やピラミッドの頂点に置き、何かを構想したりデザインしたりするこれまでの状態を続けていては、何も変えることができません。ここまで悪化してしまった環境問題を本気で解決するには、このデザイン・ステップのように、目に見えないものや普段考えることもない対象の存在に気づき、それらとの関係性を認め、思いやることが重要なのではないでしょうか。いつまでも私たち人間の目的達成のための「資源」として自然を道具化・対象化するのではなく、それを超えた犬のジェイクや空気のようなノンヒューマンの声に耳を傾けることができれば、私たち人間が自分たちのエゴを超えて社会をデザインできるようになるのではないかということを示唆してくれます。

世界中の大人がノンヒューマンの声を聴くとき

 前号で紹介した『空気はだれのもの?』には姉妹本があと2冊あり、3部作のシリーズになっています。『ジェイクと海のなかまたち』と『森が海をつくる』という絵本でも、犬のジェイクがウミガメやイルカといった海のなかまたちの声や、川や森の声を読み手である私たち人間に伝えてくれます。

作・絵:葉 祥明 英訳:リッキー ニノミヤ 出版社:自由国民社

 2017年、ニュージーランド政府は、「川は生きた存在である」という原住民マオリ族の主張を認めて法制化しました。また、世界的ベストセラー本となった『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』では、森(木)は互いにつながり合って会話する「インターネット」であり、菌類がつくる「巨大な脳」であると紹介されています。川や森がまるで生きている人間のように人格(人権)をもつという考えは、決して受け入れがたいものではなくなってきていると言えます。
 子どもの頃と比べ、人は大人になると、どうしても目に見えるものしか信じなくなりがちです。こうした「ノンヒューマンの声」を聴かせてくれる絵本は、そうした私たち大人たちにこそ、何かの気づきを与えてくれるのかもしれません。人間とノンヒューマンが共に持続可能な未来をデザインしていくためには、「声を聴くセンス」がキーワードになっているのです。

*1:『存在論』とはもともと哲学用語で、現実、もしくは世界がどのようにできているかを指す概念
*2:「アクタント(ACTANT)」はブルーノ・ラトゥールの「アクターネットワーク理論(ANT)」で紹介された用語。「アクター」が人間のみを意味してしまうことを避けるため、「アクタント」としている。
ACTANT FOREST「人間中心のデザインでいいんでしたっけ?01:アクタント マッピング キャンバス
https://note.com/actant_forest/n/n0f11dbd80f03
*3:事業やプロジェクトを取り巻く人や組織とその関係性を図式化したもの

【紹介した絵本】

  • 葉 祥明(1997年)『森が海をつくる―ジェイクのメッセージ』自由国民社
  • 葉 祥明(1998年)『ジェイクと海のなかまたち―ジェイクのメッセージ』自由国民社

【参考文献】

  • アルトゥーロ・エスコバル(2024年)『多元世界に向けたデザイン ラディカルな相互依存性、自治と自律、そして複数の世界をつくること』ビー・エヌ・エヌ
  • スザンヌ・シマード(2023年)『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』ダイヤモンド社
  • ブリュノ・ラトゥール(2019年)『社会的なものを組み直す: アクターネットワーク理論入門』法政大学出版局
  • 「マオリの聖なる流れ」(2020年)『ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年3月号』日経ナショナルジオグラフィック社
  • THE SUSTAINABLE UXホームページ:https://thesustainableux.com/
  • ACTANT FORESTホームページ:https://forest.actant.jp/
  • The Mediumホームページ:https://medium.com/
  • Actant Mapping Canvasのダウンロード先(フリー素材):
    https://drive.google.com/drive/folders/1tygZrD7GVb_sek-K5rIxcnzsn3lmweFz