人物や風景の絵の指導、どうすれば?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第5回】~

発想が浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


絵のかき方の指導が難しいです。人物のかき方や風景の遠近感など、どのように子どもに教えればよいのか分かりません。絵をかくことに苦手意識がある子どもも、上手なかき方を知ることで自信につながると思うのですが…。


まず、先生が「上手な絵をかかせたい」「かかせなければ」と心のどこかで思っていませんか。また、子どもが心から「目に見えるとおりに表したい」と望んでいるというより、「そういう表し方がいい」と思い込んでいるのかもしれません。

子どもは周りの大人の反応にすごく敏感です。幼少期から「写実的な絵=いい絵、うまい絵」という価値観に多く触れてきたとすれば、自然と刷り込まれてしまったということも考えられます。

そして、その価値観にとらわれたまま大人になり、また同じように子どもの絵を評価してしまう…ということが、繰り返されているのではないでしょうか。

年齢によって描画も変わる

まず大前提として、年齢が上がるにつれて描画も発達していく、ということを知っておきましょう。

1年生の担任の先生から、こんな相談を受けたことがあります。

「人をかくとき、腕を細い線でかいてしまうんです。棒人間みたいな。線を二本をかいて、その間を塗るってことができないみたいで…」

大人は、腕や体の厚み、立体感、空間の奥行きなどを認識できます。でも、それは子どもの頃からそうだったわけではありません。ましてや絵で分かるようにかくとなるとさらに難しいはずです。

1・2年生は、形の「輪郭」を認識し、それが描画にも表れ始める過渡期に当たります。

(教科書1・2上p.20-21「みてみて あのね」/令和2年度版)

こちらは1年生の絵の題材のページです。クレヨンの色でそのまま形を表している子もいれば、左下の玉入れの作品のように輪郭をとってから中に色をつけている子もいます。

例えば輪郭について「まだ意識にない」「まだそういう描画をする発達の段階ではない」という子もいることを知っておき、その子の表し方を認めていきましょう。

対象や空間の認識能力や描画の発達にはもちろん個人差があります。「この年齢になったら、このかき方ができていないとダメ」ということではありません。

子どもは、いくつもの題材の中で友だちと交流したり、新しい表し方を試したりして、自分の思いに合った表し方をだんだん見付けられるようになっていきます。いろいろな表し方があることを知った上で、どんな表し方をしたいかを自分で選んでいけるように支援することが大切です。

★【注】描画の発達段階について
子どもの描画の発達についてはさまざまな研究があり、もちろん個人差があります。時代とともに子どもたちを取り巻く環境も変化するので、一概に「この年齢だったらこのくらいかける」ということはいえません。しかし、実際の子どもたちの絵を研究した資料や書籍がありますので、それを知ることで「なんでかけないんだろう」「どう指導すればかけるようになるんだろう」というお困りや不安が少し楽になるかもしれません。
本ページの最後に参考書籍を紹介しています。Web上で見られるものもありますので、ぜひ参考にしてみてください。

【支援の例】学校の風景をかく絵の指導

「じゃあ、絵の授業で必要な指導ってなんだろう?」と思われた先生もいらっしゃるかもしれません。

6年生のこちらの作品を見てみましょう。みなさんはこの絵を見て、どんなふうに感じましたか?

(教科書5・6下p.26-27「わたしの大切な風景」/令和6年度版)

作者の児童は、この場所をかいた理由を次のように語っています。

毎朝、友だちが登校してくるのを、3階のあの場所からのぞいて待っている時の景色が心に残っていたのでかきました。なるべく遠近感がでるように、近くの右側の手すりの色をこくして、遠くの色をうすくしました(以下略)。

作者の児童にとって、思い入れのあるこの場所を表すために、階段の奥に下っていく感じや友だちとの距離を表すことがどうしても必要なことだったのだと分かります。まず何よりも最初に「その子の思い」があることが大切です。

では、この絵の作者のように、「階段が下っていく感じ、遠近感をかきたい」という子どもがいたとしましょう。複雑な階段の形や、遠い感じ・近い感じを表すのは、高学年でもとても難しいことです。どのような支援が考えられるでしょうか?

あくまで支援の一例ですが、私だったら一緒に階段のところに行き、その時の話を聞きながら実際に手すりに触ってみるよう促してみます。曲がっている感じ、だんだん下がっていく感じなどの形の特徴を、触ってみることで捉えられるように支援します。

★支援の例:一緒に触りながら形を確かめる

「(一緒に手すりを触りながら)ここまでまっすぐで、ここでガタンって落ちてるね」
「今はここの線をかいてるんだよね?この続きはどうなっているかな?」
「平らなところと、ちょっと出っ張ってるところがあるんだね」
「(子どもがかいた形を見ながら)あ、なんか下っている感じになってきたね」
「手すりの太さをだんだん細く表したんだね」

このように、子どもがかきたい対象とじっくり向き合い、自分の実感とともに形を見付けていけるように支援しましょう。子ども自身が「こんな感じがいいかも」と気付ければ、あとは自分で線や形を見付けてかいていけると思います。

■message 「あなたにしかできない表し方」ができるのが絵

私はいつも子どもたちに、「絵ってあなたにしかできない表し方ができるよ。とってもすてきだね」と伝えています。見たままそっくりなら、写真でもできますよね。

図工で育てたい「技能」は「大人にとって上手な絵、目で見たとおりの絵がかける力」のことではありません。“創造的な”「技能」なのです。その子が感じたことや見付けたことを、その子なりの線や形や色を選んで工夫して表していく力です。

子どもの絵を見るときは、子どもが感じ取ったことや表したかったことなどの「思い」に共感し、心を重ねるようにして見てみましょう。そうすれば、先生も子どもも楽しくてもっとやってみたくなる図工の時間になっていくのではないでしょうか。

★【参考】子どもの描画の発達に関する書籍
◎「子どもの絵の発達と道筋 子どもの絵の作品と説明」(東山明、清田哲男/著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/e-other/e-other013/
幼児期から小学生くらいの時期の描画の発達について解説しています。HP上で全ページ読むことができます。

◎「子どもの絵の世界 絵から読み取る発達の道筋とその指導」(東山明、清田哲男/編著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/books/search/?free_key=子どもの絵の世界
幼児期から18歳ごろまでの描画の発達について解説しています。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

思いはあるのに技能が追いつかない…。不器用な子どもにどう指導する?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第4回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


表したい思いはあるのに、手先や指先が不器用で、技能面で追いつかずいら立っている様子の子どもがいます。どのように支援すればよいでしょうか。


用具の使い方を言葉や映像だけで伝えようとしていませんか?先生が用具に手を添えていっしょにやるなどして、感覚を体で覚えられるように伝えましょう。

「ちょうどいいぐらい」が分からない

大人も同じだと思うのですが、用具を使うときの体の動かし方や感覚は、実際にやってみて「なるほど、こういう感じか」と分かるものです。「ちょうどいい力加減」を言葉だけで説明するのは難しいです。

子どもたちも同じで、特に初めて出会う用具であれば「どのくらいがちょうどいいのか」が分からないことがよくあります。微調整の具合が難しいのです。

例えば彫刻刀であれば、持ち手と反対の手を添えて刃を押し進める感覚や、彫りやすい「深さ」というのがありますが、自分でやってみないとその感覚はなかなか分かりません。

彫る角度が深すぎて刃が前に進まないと、無理に彫ろうとして力を入れすぎてしまうことがあります。反対に、刃が怖くて力を入れられずうまくいかない、という場合もあります。

そうなると表したいことが思うように表せず、「彫刻刀は嫌い!」「怖い」となってしまいます。

そんなときは、先生が手を彫刻刀に添えて一緒に刃を動かし、「このぐらいの角度で」ということを身体感覚とともに伝えるようにしましょう。

「ほら、できたね!」
「いい音で彫れたね」
「さっきと比べてどう?」
「きれいな彫り跡になったね」

…と声かけしながら、「ちょうどいい角度で彫れば、力を入れなくてもちゃんと前に進むんだ」ということが分かるように伝えましょう。

そうすれば子どもたちは、「そうか、この感じでいいんだ」と分かり、今度は自分でやってみよう、と安心して活動へ進むことができます。

左右の手の使い方と力加減

図工で使う用具は、右手と左手が違う動きをするものが多くあります。

例えばはさみやカッターを使うとき、どうしても子どもは「切る」ほうの手に意識が向きがちです。

例えばはさみで紙を切るとき、はさみを切りたい方向に動かして切ろうとしている子どもがいます。でも実は、紙を動かしながら切ったほうがスムーズに切ることができます。

また、カッターで紙を切るときは、カッターを持っていないほうの手で紙をしっかりと押さえることが大切です。

このように、意識が向きづらいほうの手にコツがある場合も少なくありません。

また、「力を入れれば切れる」と思っている子もいます。
「カッターはやさしく軽く持つといいよ」「しっかり材料を押さえるといいよ」など、左右の手の使い方や力加減、意識が向きづらいほうの手に注目させる声かけも大切です。

6年間を通して繰り返し使う

用具は繰り返し使うことで、感覚を体で覚えていくことができます。

一つの題材で終わりではなく、6年間を通して繰り返し使うことで身に付けられように計画しましょう。

例えば6年生の題材「1まいの板から」(5・6下p.32)では、3~5年生で学んできた金づち・のこぎり・電動糸のこぎりの技能を総動員して取り組みます。

描画材も同様で、繰り返し使うことで技能が身に付き、自分の表したい感じに表せるようになっていきます。すでに使ったことがある描画材は、子どもが使いたいときにすぐに手に取れるように準備しておくとよいでしょう。

例えば高学年の絵の題材で、

  • 物語から想像を広げて絵に表す題材(5・6下p.34「言葉から想像を広げて」)
  • 生活の中で心に残っていることを絵に表す題材(5・6上p.24「あの時あの場所わたしの思い」)

…のように、絵の具をメインとする題材でも、低中学年で学習しているそのほかの描画材も用意しておくとよいでしょう。クレヨン、コンテ、パステル、色鉛筆、金網、歯ブラシなどです。

手に取れる場所にあることで、「そうだ、あれが合いそうだな」と自分のイメージに合う表し方を思い付くことにもつながります。

とくに高学年では、自分の表したいことに合った用具や表し方を自分で考え、選ぶことが大切です。そうした経験を6年間を通して自然に積んでいけるような環境を整えましょう。

用具と出会うワクワクに寄り添う

私がのこぎりを使った授業をしたとき、子どもたちは「ひし形に切りたい」「ハート形に切れるかな」など、まっすぐ切る以外の切り方にもチャレンジしたいという声がたくさん出てきました。

大人の感覚からすると「それはちょっと難しいんじゃ…」と心配になることもあるかもしれません。けれど、子どもたちは初めて出会う用具にワクワクしていますから、いきなり否定するのではなく、「それはすごいアイデアだね。チャレンジしてみる?」と気持ちを応援してあげたいですね。

自分でやってみて、「この用具を使うとこんなことができる。でもこれは難しい」と用具の特性を実感を通して学んでいくことも大切です。

安全面に十分気を付けながら、子どもたちの挑戦を見守りましょう。

■message コロナ禍を経て変化した子どもたちを取り巻く環境

手をかざすだけで水が出たり、ワンタッチで絵の具のフタが開けられたり…。日常生活のさまざまな場面で、両手を使う動作が減ってきています。コロナ禍を経て、その傾向はますます加速したように思います。

また、熱中症対策で外遊びを制限される日が増え、全身を使って遊んだり運動したりする機会も減っています。成長期の子どもたちにはとても重要なことです。

子どもたちの体は、学年が上がるにつれて発達していきます。体の軸が安定していくとともに、肩・ひじ・手首・指先までがスムーズに連動し、左右で異なる動きに対応したり力の入れ具合を調節したりできるようになっていきます。

図工では、低学年ははさみやカッター、中学年は金づちやのこぎり…というように、各学年の体の発達に合わせて、その時期に適した用具を学んでいけるように設定されています。

危ないから、不器用だからやらせない…ではなく、安全面に気を付けながら、子どもが「表したい形」や「いいなと思う形」にどんどんチャレンジできるようにしましょう。

実際にやってみることで、子どもたちは「今まで使ったことのない体の使い方」を掴んでいくはずです。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

発想が苦手な子どもになんて声をかけたらいい?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第3回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


発想することが苦手な様子で、ずっとかたまっている子どもがいます。どんな声かけをすれば、動き出せるでしょうか。


一見「かたまっている」ように見える子どもも、もしかすると「考え中」なのかもしれません。かたまっている理由もそれぞれ異なります。これまでの図工や学級での様子も思い出しながら、「なぜかたまっているのかな?」と理由を考えてみましょう。

かたまっている理由を考えよう

★子どもの様子をよく見て考えよう

  • 導入の「楽しかったこと何かあったかな」「そのときどんな気持ちだったかな」という問いかけが漠然としていて、イメージが沸きにくいのかも。
  • 表したい思いはあるけど、それを言葉にしたり絵にかいたり、表に出すことが不安なのかも。
  • イメージはあるけど、どんなふうに表したらよいのか困っているのかも。
  • この子はスロースタートなことが多いから、今はじっくり考えている段階なのかも。
  • 材料を触りながら思い付く題材はすぐに動き出していたな。手を動かしながら考えるほうが、表したいことを見付けやすいのかも。
  • よく見るとキョロキョロと友だちの様子を見ているな。手がかりを探しているのかも。
  • もしかして…忘れ物をしたことを言い出せなくて困っているのかな?

かたまっている理由が違えば、必要な支援も変わってきます。
「この原因ならこの手立て!」と一つに決まるわけではもちろんありません。

ここでは、私が実践している支援の例をいくつか紹介したいと思います。

①言葉+具体物で伝える

特に低学年では、言葉だけで何かを理解したり、自分の思いや考えを言葉で表現することが難しい場合が多くあります。また、抽象的な「楽しい」「うれしい」「思い」「気持ち」といった概念をイメージすることが苦手な子どももいます。

材料を実際に操作して見せながら説明する、作品例を見ながらいいなと思うところや気になるところをいっしょに話す、など言葉+○○で伝えることをまずは意識してみましょう。

②具体的な選択肢を示す

長時間かたまっている様子だったら、なにか一つ行動できそうなことを提案してみましょう。例えば、クレヨンや色画用紙などの色を選んでみるように促す、などです。

★例えば:クレヨンの色を選んでみるよう提案する

T「どの色を使ってみたい?」
T「好きな色、教えて?」
T「いくつか選んでみてもいいね」
T「ほかの色も確かめてみる?どの色が合いそうかな」

このとき気を付けたいのは、「これを使ってみたら」と先生が決めてしまわないことです。それだと本人の意思とは関係がなくなってしまいます。

小さなことでもいいから、子どもが自分で選ぶ・決めることを大切にしましょう。小さな「選べた」「できた」の積み重ねが、次の活動のエネルギーになります。

③丁寧に、共感的に聞いてみる

例えば、生活の中で楽しかった、心に残った出来事を絵に表す題材で、「かきたいことがない」と言っている子どもがいたとしましょう。

「楽しかったこと、ある?」という漠然とした問いかけでは思い浮かばなかったのかもしれません。そんなときも、ちょっとずつ共感的に聞いていくと、その子の中にある自分の気持ちに気付くことがあります。

★子どもとお話ししながら、共感的に少しずつ聞いてみる

T「楽しかったこと、最近何かあった?」
C「うーん、別にない…」
T「そうなんだ。休み時間、友だちと何してるの?
C「教室でなんか、じっとしてる」
T「へぇ。じっとして、何してるの?
C「友だちのこと見てる」
T「へ~、そうなんだ!面白そうだね。みんなどんなことしてたの?

…これはあくまで一例ですが、こんなふうに、子どもと話しながらいっしょに見付けていくことから始めてみましょう。

④お試し紙を用意する

「材料を触って手を動かしながら考えた方が思い付きやすい」
「計画的に見通しをもって進めたい」
「友だちの活動を見て考えたい」

子どもによって、自分に合った学び方はいろいろです。
自分の学び方で進められることで、安心して活動に入っていける場合があります。
子どもが自分に合った学び方を選択できるように準備しておくことも大切です。

支援の例として、私はどの授業でも、お試し用の小さめの紙を用意しておいて、使いたい子はすぐ手に取れるようにしています。

子どもによって使い方はさまざまで、

  • 大きな画用紙にかく前に、構図などのイメージを確かめたい
  • 工作の題材で、つくりたい形や設計図をかいて考えたい
  • コンテ、パステルなどの描画材でかいたときの感じを確かめたい
  • 切ったり貼ったりしながら考えたい

…など、発想の手がかりを見付けるためのアイテムとして使うことができます。
写真はいろんな色の紙を用意していますが、題材によっては白い紙だけにするなど、大きさや色を考えるとよいでしょう。

自分に合ったやり方が違うのは、大人も同じですよね。
日頃から子どもたち一人ひとりの様子をよく見取って特性や個性を理解することで、その子に合った声かけや支援が徐々に思い浮かぶようになっていきます。

■message 「待つ」ことも大事

私は、「かたまっているな」というより、「何か考えているんだな」と思って子どもたちを見ています。

子どもに「今、何か考えているところ?」と尋ねてみることもあって、「うん」と答えてくれることが多いです。今まさにすてきなことを考えている最中なんだなと分かるので、安心してしばらく見守ります。

何もしていないように見えると心配で、「みんなと同じように動き出せるように支援しなきゃ!」と焦ってしまいがちです。先生自身が時間と心に余裕をもち、「待つ」「見守る」姿勢でいることも大切です。

「待つ」=「放置」ではありません。視界の端で、その子の様子をよく見ておきましょう。隣の子の活動を見ている、友だちの様子や材料置き場を見に行くなど、何かしらのアクションが見られるかもしれません。

そのタイミングで声をかけてみたり、また離れたり、「つかず離れず」の距離で見守ったり、思いに寄り添ったりしましょう。

それでも何の動きも見られないときは、困っていることを丁寧に聞くことから始めてみましょう。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

お手本を見せるとまねしてしまう…。~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第2回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


作品例やお手本を見せると引っ張られてしまい、「まね」で終わってしまう子どもがいるのではないかと心配です。見せないほうがよいのでしょうか。見せるとしたら、どんなところに着目させるとよいでしょうか。


作品例を見せるときに、「こういう作品をつくろう」と子どもたちに伝わってしまっていませんか?見せる場合は、題材のねらいに合った問いかけをすることが必要です。

見せることで、何に気付いてほしいのか

活動の見通しをもたせたいときや、発想のヒントにできるように、作品例を見せることが有効な場合はもちろんあると思います。ただ、「今日はこれをつくるよ」と伝わってしまうと、当然子どもたちは「そうか、こういうのをつくるんだな」と思ってしまいます。

「見せる/見せない」が重要なのではなく、「なんのために見せるのか」をしっかり考えましょう。見せることで、子どもたちにどんなことに気付いてほしいのかが大切です。

私も、授業のはじめに教科書の作品を子どもたちと一緒に見ることがよくあります。
そのときは、「どんなことを考えながらかいたのかな」「どんな工夫をしているのかな」など、その題材で発揮してほしい資質・能力につながるような質問をします。
そうすることで、子どもたちが「こんなことを頑張りたいな」と思えるようにしています。

教科書を例に:「こんなことあったよ」

たとえば、教科書の「こんなことあったよ」(1・2下p.26-27)を例に考えてみましょう。2つくらい作品を取り上げて、子どもたちといっしょに見ながらお話しするといいかもしれません。

★子どもたちとお話ししながら絵を見よう

◎「すいすいペンギン」を見ながら

T「お友だちのかいた絵を見てみよう。どんな楽しいことがあったのかな
C「ペンギンだ!私も見たことあるよ」
C「すべり台をすべって水中に飛び込んでる」
T「ほんとだね。なんでペンギンさんをかこうと思ったのかな
C「ペンギンのいろんな動きが面白かったからじゃないかな」
T「そうかもしれないね。ほかにも見つけたことはあるかな
C「みんなで見ているよ。きっと友だちといっしょに見たんだ」

◎「かぞくでりょかんでおひるねをしたよ」を見ながら

T「じゃあこっちの絵はどうかな?どんなことがあったのかな
C「旅館に泊まって、寝たときが楽しかったから、かいたんじゃないかな」
Tなんで楽しそうって分かったの?
C「顔がなんだかうれしそうだから」
T「ほんとだね。周りはどうかな?
C「リュックやかばんだ。旅行に必要ないろんな荷物が入ってるんだ」
T「きっとそうだね。この黒いのは何かな?
C「テレビだ!電話もある」
C「知ってる!旅館に泊まったとき、テレビがあったよ」
C「布団にもなにかかいてある。かわいい布団だね」

…こんなふうに、子どもたちは見つけたことをお話しするのが大好きです。

この題材で大切にしたいのは、「楽しかった」「おもしろかった」「頑張った」といった子どもたちの「気持ち」そのものです。

作品例を見せるときは、作者の「気持ち」が絵のどんなところから感じられるか、子どもたちといっしょに見付けることを楽しんでみましょう。「どんなことが楽しかったと思う?」と問いかけたり、「周りにもなにかかいてあるね」とメインではないところにも気付けるよう促すとよいと思います。先生が気付いていなかったことを子どもたちが見付けてくれることもたくさんあります。

絵を見ながらお話しする中で、子どもたちは自分が実際に体験したあんなことやこんなことを思い出し、「私はあれをかきたい!」とうずうずしてきます。そうなれば、ほとんどの子どもは「作品例のとおりにかこう」とはならないのです。

「まね」から始まってもいい

「友だちのまねばかりしている」と不安に思う先生もいらっしゃるかもしれません。まず、「まねする」こと自体は決して悪いことではありません。友だちの発想やアイデアをよく観察できている証拠ですね。

また、なんとなく「まねしている」ように見えても、お花の色だけ変えているとか、ちょうちょをかき足しているとか、よく見ると「その子らしさ」が絵に出てきていることがあります。それをめざとく見付けて、「ちょうちょがいるんだね」「そんなことも考えてたんだね」など、認める声かけをどんどんしていくと、もっと自分の思い付いたことをかきたいという気持ちになっていくはずです。

最初はまねから始まってもだんだん変わっていくので、それを見付けてほめる声かけをどんどんするとよいでしょう。

■message
「まね」は、自分を表に出すことへの不安が根底にある場合が多いと感じています。

たとえば、「同じキャラクターばかりかく子どもがいて気になる」というお悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。もしかすると、「そのキャラクターならかける」という安心感があるのかもしれません。きっと、そのキャラクターをかくことで周りからほめられた経験があるのだと思います。

図工の時間は、「それいいね」「すてきだね」「そんなこと考えたの?すごい!」とお互いを認め合う言葉がたくさん聞こえてくるといいですね。そういう雰囲気づくりが、すべての活動のベースになります。

先生や友だちから認めてもらう声かけをたくさんもらうことで、子どもは「自分の思ったことをかいていいんだ」と自信をもてるようになっていきます。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

「先生、これでいいですか?」~【新連載】畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


子どもが「先生、これでいいですか」と作品を持ってくるときがあります。なんと答えたらいいか分からず、悩んでしまいます。自分なりの表現をもっと追求したくなるような言葉をかけられたらいいなと思うのですが…。


子どもはなぜ先生に聞いてきたのでしょうか。「これでいい」を決めるのは「先生」だと思っているからかもしれません。授業中の言葉が「指示」ばかりになっていませんか?振り返って考えてみましょう。

作業手順だけを伝えていませんか?

授業中、子どもたちにどんな言葉で活動内容を伝えているか振り返ってみましょう。たとえば「はじめに輪郭線をかいて、次に絵の具で色を塗って、最後に背景を塗りましょう」なんて作業手順を伝える言葉や板書ばかりになってしまっていませんか?

もしそうなら、子どもたちは先生に言われたとおりに「作業」をこなすだけなので、当然「これでいいか」を決めるのは先生、ということになってしまいます。

図工は、大人がいいと思う作品をつくらせるための時間ではありません。

子どもたちが自分の中にある思いに気付き、表したいことを見付けられるように促す声かけを一緒に考えていきましょう。

子どもに問い返し、お話ししよう

もし子どもたちが「これでいいですか」と聞いてきたら、いっしょに作品について話をしてみましょう。

★子どもとお話ししながら、思いを引き出そう
「いちばん好きなところはどこかな?理由も教えてくれる?」
「そのとき、どんなことがあったのかな?」
「こだわったところを教えて?」
「なるほど!○○のイメージを表したかったんだね。それならどんな色や形がいいかな?」

本人も、自分の心の中にある表したいことやイメージをうまく掘り起こせていないときがあります。子どもとお話ししながら「自分はどうしたいのか」という思いを聞き出し、「そうなんだね」と思いを受け止めてあげましょう。そうすることで、子どもは自分の気持ちに自信をもち、次の「やりたいこと」が少しずつ出てくるはずです。

「手順」をやめたら、子どもたちの「言葉」が変わった!

知り合いの若い先生から、「『うごいて楽しいわりピンワールド』(教科書3・4上p.12-13)をやるんですが、どのように授業を進めたらいいか悩んでいて…」と相談を受けたことがありました。

その先生は、「作品例を見せて、割りピンの使い方を説明して、つくり方を説明して…」と手順を示していく授業をイメージしている様子でした。

そこで、「いろいろな大きさや形の紙を用意しておいたらどうかな?」「割りピンを使ってできる動きを試す時間をとったらどうかな?」とアドバイスしたんです。

授業後、その先生が「これまで聞いたことのないような言葉が、子どもたちからたくさん出てきたんです!どんどん自分たちで工夫していくんです!」とうれしそうに報告してくれました。聞くと、次のような言葉だったそうです。

★「手順」をやめて、変化した子どもたちの言葉
「先生、○○を使いたいんだけど、ありますか?」
「先生、ここをこうしたいんだけど…」
「先生、こんなこと思い付いたよ!見て見て!」

実際に動かしたり試したりする中で、それぞれの思いやアイデアが生まれてきたのですね。子どもたちの心からの主体的な言葉が自然と出てきたのだと思います。

その先生は、これまでは「最初に見せた作品例と同じような作品ばかりができあがってしまう…」と悩んでいたそうなのですが、今回は「子どもたちの動きも言葉も全然違って、すごく楽しかったです!」と話してくれて、私もうれしく思いました。

「手順」で進める授業はたしかに「安心」なのですが、子どもも先生も実はぜんぜん楽しくないんです。授業をする先生自身が楽しんでいるということも子どもに伝わりますから、とても大切なポイントです。

■message
実は、先生に言われたとおりに作業するだけのほうが子どもたちはとってもカンタンなんです。だって、あんまり考えなくてもできちゃいますよね。

「じょうずな作品をつくらせなきゃ、かかせなきゃ」と焦ってしまっていませんか?図工で大切なことは、子どもがめいっぱい心を動かして「やってみたい、表してみたい」と思いながら活動することです。

どの子も頑張りたい気持ちでいっぱいです。最初はうまくできないのが当たり前。試したり、友だちと交流したりする中で、「いいこと見付けた!」「こんなことを表してみたい」「もっとこうしたい」という気持ちが生まれていきます。

子どもが見付けたことをしっかりと受け止め、応援し、支えていきたいですね。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

教科書づくりで受け継がれてきた「思い」 ~過去の教科書を振り返って~

今回は、日本文教出版の70年以上にわたる図画工作科教科書の歴史を振り返ります。変わったこと、変わらないこと、そして、これからの教科書づくりで大切にしたいことを考えます。

◎話す人

  • K(図画工作科教科書の元編集担当)
  • N(図画工作科教科書の編集担当)
  • U(「学び!と美術」Vol.149担当)

表紙で伝えたかったこと

U:初めに、歴代教科書の表紙を見ながらお話ししたいと思っています。初期の教科書は現在のA4判とは判型も異なり、児童作品の扱い方も違っていますね。昭和38年度版は、シンプルでおしゃれな印象です。

昭和38年度版教科書。上下巻に分かれず、学年ごとだった。

K:児童作品を切り抜いてデザインしていますね。2年生は1年生より色を使っているとか、3年生のモチーフは身近なものから外に向かっているなとか、5年生は工場だから社会とのつながりですね。学年が上がるにつれて、子どもの興味関心の対象が広がっていくことを意識してモチーフを選んでいることが感じられます。
N:そもそも横長だったんですね。自分が子どものころに使っていたものや、入社したときにはすでに縦長でしたので、初めて見たときには驚きました。サイズも小さいですし。
U:初期はA5判でした。A5判からB5判(昭和55年度版)になって、A4判変型(平成23年度版)を経てA4判(令和2年度版)になっています。

判型のうつり変わり(昭和38年度版、昭和55年度版、平成23年度版、令和2年度版)。

K:昭和48年度版では、写真を複数ならべています。

昭和48年度版教科書(1・3・5年)。

N:作家作品も、けっこう載せていますね。
K:5年生、6年生はそうですね。作家作品の鑑賞。日本美術、西洋美術があって……。
N:あとは身の回りのものとか、お花、動物、昆虫……。
U:それと、子どもの作品。
K:子どもの作品と作家作品の割合は、学年によってかなり変えている。教科書の中で取り上げている要素からピックアップして見せているんでしょうね。平成8年度版の表紙は、全体の流れの中で印象が違いますよね。コンセプトが「子どもの造形宇宙」だから。
N:子どもの造形宇宙って、どんなイメージですか?
K:一人の子どもが、いろいろなものを発想するよねってことを表したかったんです。

平成8年度版教科書(1・3・5年)。

プロセスの重要性を伝える情景写真

U:いろいろな発想を大切にする題材を扱っていたということでしょうか。
K:そういう見せ方にしたということかな。例えば、この立体のページと工作のページは、どちらも教科書の題材を考えるときに大切にしていたキーワードである「材・行・想(材料・行為・想像)」の行為からの活動です。立体の「のせて みると」という題材は、最初に何をつくるか考えるのではなく、粘土をたたいたり丸めたりという行為をした上で何を発想できるかという流れになっています。工作の「おと みつけ、おと づくり」も同じで、さまざまな材料で音を出し、何を発想するか。プロセスの中で子どもがどういう発想をして、表現していくかが大事ということを見せたかったんです。
N:今は「図工は過程に学びがある」というのは共通理解されていますが、当時はどうだったのですか。
K:まだまだ作品主義が強い時代でしたね。プロセスの重要性を伝えるために必要だったのが、「情景写真(=子どもの活動風景の写真)」です。今だったら、こんなふうに教科書に情景写真が載っているのは当たり前だと思いますが、当時は「分からない」と言われることもありました。
N:当時はそれぐらい、新しい見せ方だったってことですよね。
K:「なんでこの写真がいるの?」「これより児童作品なんじゃないの?」って。多くの人に言われました。
N:でも一方で、「これが大事」という先生もいらっしゃったということですよね。
K:「この場面がないと、この題材をやる意味がない」と強くおっしゃって、ここには絶対に情景写真が必要だと考える先生もいらっしゃいました。でも、情景写真の意味がうまく伝わらない。
U:それでも、このあと、だんだん情景写真が増えているのは、どうしてでしょうか。
K:情景写真で子どもの姿を見せること自体を否定されたわけではないということでしょうね。これよりも前、昭和50年代に「造形遊び」が入ってきたことで、子どもたちの活動情景を載せることに違和感がなくなったというのはあるかなと思います。その傾向があって、さらに子どもが行っている活動の価値を伝えるために、子どもがどういう活動をしているのかが分かる写真を載せたわけです。そこから増えたのかなという気はしますね。
N:平成8年度版って、転機の改訂なんですね。

「造形遊び」をどう位置づけるか

N:造形遊びへの思い入れというのは、日文の図工の教科書でずっと強くありますよね。
K:日文としては、図工の領域・分野としての「造形遊び」の誕生にかかわった先生方を著者に迎えて、「造形遊びとは?」というところから何度も議論を重ねながら教科書をつくってきました。もともとなかった分野なので、学習指導要領で示された当初は分かりにくい部分もありました。例えば木片の大小を考えながら並べていく、並べながら、ああしたい、こうしたいと発展させていく……というのなら分かる。でも、この活動(共同でかいている様子=平成元年度版教科書)の意味やねらいを理解するのが難しい。
N:子どもたちがみんなで、地面にチョークでクジラをかいていますね。
K:そう。「これは絵のページじゃないの?」ってなりませんか。
N:確かに、一見すると絵に表す活動のように捉えられそうです。
U:目次を見ると、これは造形遊びと絵の両方の題材になっているんです。今では考えられないのですが、平成元年度版では、「造形遊びと絵」、「造形遊びと工作」が一つの題材の中に混ざっているような状態でした。
K:このころって、移行期……「造形遊び」をどう扱うのかを、著者の間でも何度も議論しました。造形遊びは最初、「造形的な遊び」といわれて、子どもの自然発生的な遊びの中から出てくるような造形活動として出てきた。それを教科書の中で位置づけようとすると、教科の体系から考えたときにうまくいかない。だから絵や工作につながる造形遊びならいいだろうと、教科書の中では複合的な扱いにしたということです。
N:例えば「立体」の題材でも、針金を手で曲げたりねじったりしながら考える……というように、造形遊び的な要素が含まれますもんね。こういう見せ方をしていた時代もあったんですね。

子どもの「思い」を大切にしていく

N:Kさんが編集担当をしていた頃の先生方は、図工の教科書づくりでどんなことを大切にされていましたか。
K:子どもの「思い」を大切にしていくと。それは強く言っていたかな。
N:今も大切にしていることですね。そのころから言われはじめたんでしょうか。
K:うーん。ずっと前から意識としてはあったけど、ようやく言語化されたということだと思います。例えばこの作品(お風呂で子どもが父親の背中を流している様子=昭和61年度版教科書)なんかは……。
N:いい絵ですね。
K:いい絵だと思うよね。それはやっぱり子どもの思いがあるから。
N:ああ、そうですね。お父さんが好きなんだろうな。
K:「楽しいとか嬉しいとかが、よく表されている絵だよね」とか。そういう会話というのは、いつの時代も当たり前のようにあるわけです。
N:会話というのは、先生との間や編集者どうしで、ということですね。
K:そう。たくさんの作品の中から選んでいく中で「これ、いい絵だよね」という話は出てきますよね。そういう時間は、著者と編集者の間でいつも共有していました。
U:先生方と編集者が「いい絵だ」と思う作品は共通していたということでしょうか。
K:そうですね。
U:ということは、みんなに「思い」が伝わってきたということなんですよね。
N:だから今、Kさんは私に「やっぱりいい絵だと思うよね」って、聞いたんですね。
K:そう、そう。
N:確かに、昔の子どもたちだし、選んでいる人も違うのに、教科書の、どの作品を見ても「いいな」「好きだな」と感じます。自分とは違う時代を生きていた子どもたちや先生と「思い」がつながったみたいに感じられて、うれしいです。
K:そのへんがもしかしたら、続いてきていることなのかもしれないね。著者の絵のみかた、会議のときに話されていたことは、僕の中にもあるし、それを引き継いだ著者の先生方がいて。そこから新陳代謝があって、編集メンバーは新しくなっていくけれども、しっかりと引き継がれているところはあるかなと思います。
N:関わってくださった先生方、編集部もそうですけども、脈々とこう。教科書づくりの過程で、実際に子どもの作品を目の前にしてたくさん話し合っていたから、それこそ「思い」が引き継がれたんだろうなと思います。

子どもの話が聞こえてくる作品

N:Kさんから見て、先生方が選ばれているいい作品の共通する点、方向性みたいなものって、ありましたか。
K:子どもがお話ししたいことがいっぱいあるんじゃないかな、と思える絵かな。
N:お話ししたいことがいっぱいありそうな絵、ありますよね(笑)。
K:ありますね(笑)。
N:以前、ある著者の先生が「子どもがいっぱいしゃべっている絵がいい絵です。けれど先生の声ばかりが聞こえてくる絵を見かけることがあります」という表現をされていたんです。子どもの「思い」を見取る大切さは、著者の先生どうしでも受け継がれたんだろうなと思いました。そうやって図工の世界ができているなと感じます。
K:言葉にすると、抽象的な「子どもの話がいっぱい聞こえてくる」というような表現にしかならない。私も最初からたくさんのお話が聞こえてきたわけではなくて、教科書編集にかかわる中でたくさんの子どもの作品に出会ううちに、だんだん聞こえるようになってきたんだと感じます。だから、子どもと接している人だったら分かるんじゃないかと、僕は期待しているんです。やっぱり作品の奥には子どもがいるので、作品を通して子どもを見ることができれば、図工の授業はもっと楽しくて素敵な時間になっていくんじゃないかと思います。