主体的・対話的に深く学ぶために 第1回 〜資質・能力の三本柱と学習の基盤となる資質・能力〜

 本稿では、「主体的・対話的で深い学び」の実現について、「情報活用能力の育成」「単元を縦断した授業づくり、主体的・対話的に学びを進めための自己調整学習」の視点からICTを活用した授業改善について連載していきます。

以下、連載の順番です

第1回 〜資質・能力の三本柱と学習の基盤となる資質・能力〜
第2回 〜情報活用スキルを視覚化する〜
第3回 〜思考・判断・表現するスキルを鍛える〜
第4回 〜自己調整スキルを発揮することをねらった教材を提案する〜
第5回 〜スキルを発揮して学ぶ単元・授業づくり〜
第6回 〜探究プロセス、情報活用スキル・思考スキルを軸とした単元・授業づくり〜
第7回 〜自己調整プロセス、スキルを軸とした単元・授業づくり〜
第8回 〜主体的・対話的に深く学ぶために〜

資質・能力の三本柱と情報活用能力

 現行の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」を実現させる授業改善が大きなテーマとして掲げられています。そして、これらの学びを実現させるために、子どもたちに育む力を、資質・能力の三本柱「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」として示しています。さらに、教科・領域等を横断して発揮する資質・能力として「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」が学習の基盤となる資質・能力として示されています。教科・領域/資質・能力の三本柱/学習の基盤となる資質・能力の関係を整理すると図1(*1)のようになると考えます。

図1 各教科・領域/資質・能力の三本柱/学習の基盤となる資質・能力の関係

 上図を基に、これらの関係を考えると、各教科・領域等の授業は図の上底にある「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」で、目標を設定したり評価したりすることがわかります。これは、通知票等がそのようになっていることもあり、ほとんどの先生方がご承知のことでしょう。次に、各教科・領域等と学習の基盤となる資質・能力の関係に着目すると、「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」が教科横断的に育成・発揮される必要があることがわかります。このことについても、カリキュラム・マネジメントを行う際に、教科横断的な視点を意識する必要があるため、学校現場において周知されている事柄であると思います。最後に、資質・能力の三本柱と学習の基盤となる資質・能力の関係は、どのようになっているのでしょうか。これらの関係について図1を基に考えると、学習の基盤となる資質・能力においての「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」があるということがわかります。ここでは、タブレットPCをはじめとするICT活用について着目して話を進めるため、資質・能力の三本柱と情報活用能力の関係を例に挙げて考えを深めていきます(図2)。

図2 資質・能力の三本柱と情報活用能力

情報活用スキル

 「情報活用能力の知識及び技能」とは、どのような力なのでしょうか。これは、タブレットPCを活用してプレゼンテーションを作成し、実施する活動を例に挙げて考えると、プレゼンテーション資料を作成するために、プレゼンテーションソフトの使い方を知っていることが「情報活用能力の知識」に当たり、プレゼンテーションソフトを使って、プレゼンテーションを作っていく力が「情報活用能力の技能」に当たると考えます。このような力は情報活用スキルと呼ばれています。

思考スキル

 次に、「情報活用能力の思考力・判断力・表現力等」です。これは、情報を活用することを通して思考・判断・表現することであると考えます。例えば、現在思考ツールやシンキングツールを搭載した学習支援ソフトがあります。探究的な学習の「整理・分析」するプロセスでは、思考ツールやシンキングツールを活用して、集めた情報を比較(思考)し、比較したことを根拠にそれらの情報を分類(判断)します。そして、情報と情報の関係性を明らかにしたり、多面的に見たりして、自らの考えとして表す(表現)活動を行います。このような思考ツールやシンキングツールを活用した情報を整理する活動の中で発揮される力が「情報活用能力の思考力・判断力・表現力等」に当たると考えます。このような力は思考スキルと呼ばれます。

自己調整スキル

 最後に、「情報活用能力の学びに向かう力・人間性等」についてです。これは、学びに向かうために情報を活用するということです。学びに向かう力とは、自らの学習の見通しをもつために計画を立てたり、学習を振り返って次の学習に活かしたりするといった「学習の調整」に関する力です。このことについては、文部科学省(2019)「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」において示されています。
 物事を調整することについて考えると『調整することは主体になる』ということではないかと思います。例えば、何かのイベントを行おうとした際、イベントの日時や実施する場所を調整したり、協力してくれる人を集め、役割分担を調整したりする人は、そのイベントを主体となって進めている人ではないでしょうか。このようなことからも、子どもたちが自らの学習の計画を立て、学習を調整しようとすることが、学習を主体的に進めることにつながると考えられます。それでは、学習を調整するための情報活用能力とはどのような力なのでしょうか。それは、学習計画表を作成し、学習の目標や計画を明らかにしたり、カレンダーを使ってスケジュールを管理したり、発信した学習結果についての評価をアンケートなどで集め、課題を見つけたりする力が「情報活用能力の学びに向かう力・人間性等」に当たると考えます。

 今回は、各教科・領域と資質・能力の三本柱、学習の基盤となる資質・能力の関係を明らかにし、情報活用能力における「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」について考えを深めました。次回以降では、これらを踏まえ、子どもたちが情報活用能力を発揮して学ぶ上で必要な3つのスキルについて話を進めていきます。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領
  • 文部科学省(2019)児童生徒の学習評価の在り方について(報告)
  • AK-Learningサイト(2020)

    https://www.ak-learning.info
  • 木村明憲(2021)主体性を育む学びの型、さくら社

*1:詳細については下記の動画をご参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=nEtUAfVmy7c

【本稿について、さらに深めたい方は以下に解説動画を掲載しておりますのでご視聴下さい。】

「みんなの命を守ろう大作戦」を行って

 2020年春、新しい学習指導要領により、教科の枠を超えて社会と繋がり、社会全体で子どもの生きる力を育てる教育がスタートした。同時に社会は新型コロナウィルスにより大きく変化し始め、子どもたちは制限ある学校生活を強いられていた。

 そんな中、横浜市立新橋小学校3年2組は、テクノロジーを活用し、東京や岐阜の開発者や医療関係者と繋がり、ICT・プログラミング教育と命の教育を中心に据えた合科関連的な総合学習を行なった。

 それはまさに、教科の枠を超え、物理的な制約も超え、今直面する問題を題材にしながら新しい時代に目を向けて、生きる力を育む教育となった。

「スマホアプリをクラス全員で開発し、リリースする」

 この大きく掲げた目標をどのようにして可能にしたのか、またそれがどのような教育的意義をもったのか、そして単元全体を通して実感したICT活用の意義と可能性について、前・後編に分けて記述する。

前編:合科関連的な総合学習としての学びの位置付け
後編:実践におけるICTの価値付け

前編
1.実践の概要,背景と子どもたちの思い,課題設定に至るまで
2.外部の協力者との交流,人となりの紹介
3.使用したツールやICTに関する基本的な説明
4.どんなことができそうか,となって実際に実践が動き出す

1.実践の概要、背景と子どもたちの思い、課題設定に至るまで

 自分たちのアプリが世に出ることはとても嬉しい。しかし、クラスでアプリをつくることはとても有意義なことだが、それ自体が目的ではない。子どもたちは、コロナ禍で学校生活でも日常生活でもマスク着用、一定の距離を保つ、手洗いの徹底などといった制限のある生活の中で、
「どうしてマスクをしなければいけないのだろう。」
「どうして友だちと距離をとった生活が必要なのかな。」
「毎日検温するのはどうしてかな。」
「命を守るというけれど、実際の病院ではどうなのかな。」
といったさまざまな疑問が生まれる中、自分の命も人の命も大切。命を守っていくには、命を守っている人(医療関係者)に直接関わって学びたいという思いが子どもたちの中に湧き上がってきた。

実践スタート時の子どもたちの思い(健康状態を知るとともに、どのような人に関わったら良いかを表したもの)

「じゃあ、病院では実際にどのような感染対策をしているのだろう。」
「私たちができることは何かないかな。」

 そこで、子どもたちは、実際に医療関係者から現場の様子や行われていることなどを聞き、学ぶことで、学校や日常生活で取り組んでいる感染対策が意味のあるものであることを実感した。
 また、担任の「命の授業」から、生きる喜び、命を大事にすることを間近に感じ、命についてより自分のこととして取り組み、このコロナ禍において、より命と真剣に向き合う姿が見られるようになってきた。

総合立ち上げ時のストーリー。状況把握からリリースまで。

 このような中、
「今、学校で取り組んでいること、総合的な学習の時間で学んでいることをどうしても伝えたい。」
「自分たちの保護者に、同じように感染対策をしながら頑張っている全国の小学校のみんなに、そして、世界中の人たちに発信したい」
という思いから、クラスみんなの思いの詰まったアプリづくりが本格化した。

 さらに、自分たちも、医療関係者も、それ以外の人もみんな不安に思って苦しんでいる。このような世の中でも楽しいと実感できること、心がほっこりするものをたくさんつくって、みんなを励ましたい。たくさんの人が幸せになってほしい、という願いを発信したい気持ちが強くなっていった。

子どもたちの実際の取り組みをまずは簡単なクイズアプリにして体験することで、ますます発信意欲が高くなり、やるべきことが明確になった瞬間。

目的意識をはっきりともつことで、子どもたちに変容が見られるようになってきた。 「今できることを守ろう!」
 子どもたちはアプリ作成のために、目的意識、相手意識をしっかりともち、zoom授業での本物(ゲストティーチャー)との関わりを通して、日常生活での顔つき、行動面において明らかに変容が見られるようになった。

 アプリの制作が目的ではない。「みんなの命を守ろう大作戦」というテーマのもと、「命」について自分のこととしてとらえ、実際に子どもたち1人ひとりがよく考え、できることを発信するのが目的である。世の中を良くするために、小学生の思いを社会に投げかける。そのためには、アプリとして世界中に発信したい、そんな思いをクラスみんなが一つにしてアプリ開発を行なった。

2.外部の協力者との交流、人となりの紹介

 ゲストティーチャーを招へいするのは、「何もないところから普段より地道に足を使って関係をつくり、探し当て、依頼しなければならない、ハードルが高い。」と考えている先生も多いと思う。でも実はそうでもない。自分の知り合いを思い返してみれば、必ずつながる人はいるはずである。それが、自分の友人であり、先輩であり、家族であるかもしれない。自分とは違った人生経験を送り、自分とは違った見方に特化していることがあれば、それだけでゲストティーチャーとして十分機能するはずである。まずは、身近な知り合いから声をかけてみてはどうだろうか。

 アプリを作成するにあたり、私の場合も一から新しい人材を開拓するのではなく、知り合いのプロに声をかけ、授業を一緒につくってもらった。授業に参加して下さったのは以下の方々である。それぞれに私と人生経験が異なり、それぞれの分野において最前線で活躍されているプロの集団である。

<内容面でサポート(医療関係者の皆さん)>

◇ 大森 泉さん
 慢性疾患看護専門看護師。私の病気について心身ともにフォローしていただき、今回のアプリ作成に真っ先に賛同してくださった方。病院の現場や、医療関係者目線の話や、今回のアプリにおいて、授業で深まっていく子どもたちの考えを最大限に引き出すような配慮のみならず、私が子どもたちに行った「命の授業」においても、子どもたちの心のフォローをしてくださった。

◇ 田端 恭兵さん
 精神看護専門看護師。訪問看護ステーション勤務。大森さんの呼びかけで「命のプロジェクト」に参加。実際にコロナ感染者と関わっていても必要な感染対策をすることで子どもたちに安心感を与えてくださった。また、実際の現場や、生の声、服装やマスクなどを見せてくれた。

◇ 松村 麻衣子さん
 精神看護療育専門看護師。大森さんの呼びかけで「命のプロジェクト」に参加。主にストレス、心といった目に見えないことについて具体的にご教授してくださった。また横浜から遠く離れた奈良より、子どもたちの心のケアをしていただいた。

◇ 菊池 亜季子さん
 急性・重症患者看護専門看護師。大森さんの呼びかけで「命のプロジェクト」に参加。東京都の医療が逼迫した状況下で、日々重傷患者と直接関わっているにも関わらず、常に笑顔を大事にする方。子どもたちに、医療現場の様子から、看護師の仕事に至るまで幅広くご教授して下さった。

<デザイン、プログラミング、音づくりにおける専門的な立場からのサポート>

◇ 松原 正享さん
 Webデザイナー。有限会社インビジョン代表。国内外において数々のデザインコンテストで表彰された方。私が闘病時の休職中に出会い、一緒にアプリ作成やweb作成を行う。今回の「命のプロジェクト」のコアメンバーの1人。アイコンやデザインの作成の仕方だけでなく、子どもたちの心に寄り添った活動を常にしてくださった私の同志。

◇ 藤 治仁さん
 組み込みエンジニア(FWエンジニア)。オリンパス(株)で長年デジタルカメラの開発を行う。闘病時に私がプログラミングの勉強を始め、勉強会に参加したときに意気投合。以後、プログラミングを私に教授しながら、一緒にアプリ開発を行う。「命のプロジェクト」のコアメンバーの1人。子どもたちには、アプリ開発のノウハウから、プログラミング的思考に至るまで丁寧に教えていただいた。

◇ MASAKingさん
 アットプロダクション所属。ミュージシャンで音楽教育家。10数年前からの付き合いがあり、教育について意気投合。今回のアプリ作成において、プロのミュージシャンの立場から、ボディパーカッションを通したプログラミング教育、iPadのGarageBandでの音楽づくりにおいて子どもたちに直接教授してくださった。

 他にも打ち合わせ会議や、個人的な連絡などにてたくさんの方たちの支援を得て、実践を行った。

3.使用したツールやICTに関する基本的な説明

zoom(テレビ会議、コミュニケーションツール)
 Web会議ができるシステムは数多くあるが、zoomは国内トップシェアのWeb会議システムで、多くのユーザーが利用している。また、zoomは人や場所を選ばずに、手軽にWeb会議を始められるのが最大のメリットである。また、画面共有や録画機能など、会議を円滑に進められる機能がある。実際にその場で作成した授業計画を「画面共有」でプレゼンしたり、時間の都合上、授業への参加が難しい方でも、「画面録画」でその場でインタビューしたりできる。遠く離れたゲストティーチャーとも、まるでその場にいるかのように授業ができるため、今後、会議や授業においても主流になっていくのではないかと思われる。
 今回のアプリづくりにおいても、多くの医療関係者、プロのデザイナー、プログラマー、ミュージシャンなどたくさんのゲストティーチャーと繋がり、本物から学ぶ授業が実践できたと思う。

slack
 今回のアプリづくりにおいて、課題設定の段階からリリース後の今日に至るまで、ゲストティーチャーの皆さんや間接的に関わっていただいた方々とはslackというSNSコミュニケーションツールで繋がっている。
 slackは,情報を共有するツールで,子どもたちが今何を考え、何に疑問をもっているのかを全体で共有したり、授業ごとの子どもの変容を共有したりできる。zoom授業の概要や成果を共有することも容易である。こういった学習ログの共有はもとより、制作においてはポートフォリオ代わりにもなる。チャンネルを無制限で増やすことができるため、「進捗状況」「zoom全体会議」「子どもたちへのメッセージ」「自己紹介」など、用途に分けて情報を共有できる。
 また、認証性のため、slacへアクセスできるのは「みんなの命を守ろう大作戦」をサポートするメンバーのみのである。1人が発信したことを全体共有することもできるし、メンバーに直接ダイレクトメッセージを送ることもできる。今回関わったメンバーはそれぞれが違う仕事をし、生活スタイルも違う。そのようなメンバーがアプリ開発において、心を一つにして「みんなの命を守ろう大作戦」を学んでいる子どもたちをサポートする。

 学校でのslack活用として、
・学校ごとに情報を共有する。
・研究会で情報を共有する。
・家庭と教室をslackで共有する。
など用途は無限大である。
 LINEなどのSNSと異なり、管理者を必要とするビジネスチャットツールなので、トラブルに対しても適切に対応でき、内容もより親密なものになる。ぜひ皆さんも活用し、子どもたちにとって有意義な授業、質の高い授業を実践してほしい。

slackを活用した情報共有。画像などの添付も簡単にできる。

iPad
 学校に常備しているタブレット端末のうち、iPadを20台、一時的に借り、授業の中で活用した。主に使ったアプリは「GarageBand」。先述のミュージシャンであるMASAKingさんをゲストティーチャーに迎え、アプリ開発において「音づくり」で使用した。詳細は後編で紹介する。

ノートPC
 教室に子どもが自由に使えるPCを10台設置した。スタンドアローンのPCでタイピングやPCの基礎技能(マウス操作、クリックなど)を身につけることが目的。使用したCDは「ポケモン」ICT活用の効果は、具体的な子どもの姿は後編で紹介する。

ジャストスマイル8
 PCルームおよび、各教室に「ジャストスマイル8」を導入。先生による一括管理ができるだけでなく、児童相互の活動、協働作業もできる。個人のペースに合わせて、タイピング技能、マウス操作だけでなく、お絵かきや、プログラミング教育の基礎も学ぶことができる。ジャストスマイル8の、ICT活用としての効果は後編で紹介する。

4.「命の授業」および、医療関係者との交流

 今回のアプリ開発において、実際にアプリを作成し、指導できるプロ集団がいても、アプリの内容が充実していなければ価値が薄れてしまう。そのため、zoom授業において、医療関係者の認定専門看護師の方たちと繋がり、「命の大切さ」「医療現場の生の現状」「子どもたちに期待すること」を伝えてもらった。

 私自身も障害者手帳1級の身体であり、母親より腎移植をして今、生きていることができている。「命の授業」で、子どもに自分の体について伝えるに当たって、医療関係者の皆さんに背中を押してもらい、子どもにも精神的な負担がかからないように配慮していただいたことは感謝に耐えない。

 大森さん(慢性疾患看護専門看護師)は医療現場の現状や取り組みを具体的に紹介され、自分の体について、専門分野からのフォローをしてくださった。
「先生はこのまま死ぬかもしれない」
 多くの児童が泣き崩れ、絶妙のタイミングで大森さんがフォロー。
「先生の体専門の私が保証します。先生は絶対に死にません。必要な治療もしているし、完全な感染対策をしています。安心してください。」
 不安でいっぱいの泣き顔が、今度は嬉しい笑顔の泣き顔に変わり,子どもたちの声が教室中に響いた。

「先生の話を聞いて、絶対命を大切にしたいと思った」
「命について、今だからこそもっと考えなければいけない。そして、今こそ私たちの気持ちをたくさんの人たちに知ってもらいたい」
「一番身近で元気いっぱいだと思っていた先生が実は、コロナで重症化しやすい体だと初めて知った。何がなんでも私たちが今できることを守って、先生を助けたい。そして、命を守ることの大切さをアプリで発信したい」

 この状況下だからこそ取り組んでいる「命を守る取り組み」が意味を深め、価値付いた瞬間である。
 松村さん(精神看護専門看護師)からは、目に見えない心についての話や、コロナ禍でのストレスについてフォローをしていただいた。
 田端さん(訪問医療看護師)からは具体的な治療現場の様子や服装など、普段見ることのできない様子を伝えていただいた。
 菊池さん(重傷病患者専門看護師)からは、コロナ禍で実際に重傷病患者と関わる様子や、その時の気持ちなど伝えていただいた。
「看護師になりたい気持ちが強くなった」
「困っている人がいたら、菊池さんのように笑顔で関われる人になりたい」
「先生をずっとサポートできる医療関係者になりたい」

 普段見ることのできない現場の様子に触れ、命について、学校生活の現場から、医療現場から、深く考えアプリの内容を底上げすることができた。子どもたちがzoom授業を通して学んだことは、普段の授業では体験できない本物の体験だったと思う。テレビの世界でも、映画の世界でもない、医療現場ならではの生の声を聞くことで、身近の問題として感じることができ、ますますアプリとして発信したい気持ちが湧き上がっていった。総合的な学習の柱である「命」について今、まさしく発信したくてたまらない状態だ。
 大森さんは、「子どもたちの顔つきがどんどん変わっていく様子がよく伝わった。アプリ作成においても、内容が自分たちのものになっている。クラスがまさに一つになって命を守ろうという気持ちが伝わってくる。」と語る。実践をずっと見守ってくれた大森さんの言葉はグッと胸に突き刺さるものがあった。

<後編予告>
 アプリ作成において、多くのプロと繋がり、実際に実践が動き出したところまでまとめた。「命」を柱に総合的な学習を立ち上げ、クラスみんなで1つのアプリを仕上げていくための1台の車が走り続けるイメージだ。年間の取り組みの「学級目標」と「命」、各教科の学びを乗せて、情報活能能力、プログラミング教育という車輪を回しながら走っている「命の車」だ。後編では、いよいよアプリづくりが本格化する。
 デザイナー、プログラマーと出会い、アプリ開発の現場を擬似体験しながらアプリをリリースするまで、「命の車」は走り続ける。プロと関わることでのメリット、子どもの具体的変容や日常化を掘り下げていく。その他にも、ICT活用での実際の場面(情報活用能力、プログラミング教育の具体的実践)、アナログとの共存、ICT活用の利点や留意点なども挙げていきたい。

藤井 隆志(ふじい たかし)
横浜市立瀬谷小学校教諭。2002年横浜市教員として採用され現在に至る。校内において、理科主任、視聴覚主任、研究部長、評価部長、重点研究推進委員長、人権主任など各校において歴任。校外において理科区部長を10年継続。その他初任研講師、野外研講師、学習状況調査作問委員、教科書教師用指導案集作成などに参加。生体腎移植を経て教員に復帰。

昨年度、横浜市立新橋小学校で子どもたちと共にiOSアプリを作成
教育新聞
https://www.kyobun.co.jp/news/20210205_06/
https://www.kyobun.co.jp/close-up/cu20210206/
朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASP3J6TXNP3CULOB01T.html
Newsゼロ
https://twitter.com/ntvnewszero/status/1361697629122404357
YCV、タウンニュースにて取材を受け、広く紹介される。
https://www.townnews.co.jp/0107/2021/02/11/561664.html
タウンユース「人物風土記」にて人物紹介
https://www.townnews.co.jp/0107/2021/03/04/564123.html
NPO野口英世顕彰会 理事
神奈川県教材勉強会「北斗教材勉強会」において、理科、プログラミング教育の専属講師
ARアプリ「ARIZAR」開発

個別最適な学びや協働的な学びを創るために

令和の日本型教育が目指す学びとは

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって,いっそう不確かで予測困難な時代になりました。そのような時代を生き抜くためには,身のまわりの出来事に目を向け,課題を見いだし,主体的・対話的に考えながら最適解や納得解を生み出せるような協働的な学びが求められています。一方,新型コロナウイルス感染症の拡大によって,社会全体におけるデジタル化の必要性も顕著になりました。もちろん学校教育も同様で,これからは,学習の目的に応じて,対面授業と遠隔・オンライン授業を組み合わせていくことが重要となります。図1の資料に示された「令和の日本型学校教育」の目指す『個別最適な学びと協働的な学びの往還』は,これからの時代に求められる学びなのです。

図1:「令和の日本型学校教育」中間まとめ概要 【引用】中教審特別部会資料

 図1左上「指導の個別化」や下部「子どもの学びや教職員を支える環境」等の記述にもあるように,これらの学びを支える学習の基盤ツールとしてICTが欠かせません。また,それを有効活用した授業の進め方も多様化すると想定されます。だからこそ,求められる授業実践を行うためには,学校全体での授業改善が必要なのです。ちなみに,私が勤務する新宮小学校のある兵庫県では,各校でのICT活用における先導的役割を担う教員の育成を目指した「HYOGOスクールエバンジェリスト」事業を実施しています。私もその一人ですが,これは,県立高校と市町立の小中学校から希望する教員を公募し,IT企業の専門家と連携した研修プログラムを受けたり,16チームに分かれて実践研究に取り組んだりしながら,「個別最適な学び」や「協働的な学び」を進める授業実践に必要なスキルを身に付けるというものです。

個別最適な学びを進めるために

図2:個別最適化学習 では,それらの学びを進めるための授業デザインをどのようにすればよいのでしょうか。例えば,学習者一人ひとりが「個別最適な学び」を進めようとする学習を「個別最適化学習」とします。この個別最適化学習には,パーソナライズド・ラーニングアダプティブ・ラーニングがあり,前者は,子どもたちの課題を明らかにし,子どもたち自身が興味・関心に応じて主体的に学習する方法を選択したり,解を導く際に子どもたち自身が選択した方法でアプローチしたりできるようなプロセスを重視した学習であり,後者は,子どもたち一人ひとりの学習の進捗や理解度に合わせて学習内容を調整し,その子に合った学ぶ機会を提供する学習です。図2に示す通り,縦軸を思考,横軸を学習内容として整理すると,これらの学習の関係が見えてきます。注目すべきは,ICTを活用すると,授業時間以外でもオンデマンド学習を実施できるということです。例えば,子どもたちが家庭にある端末を用いて,算数の苦手なところに取り組んで見たり,クラウド上にある同時編集が可能なシートに自分の考えを書き込みながら友だちとの協働的な学習を展開したりすることを想定すると,図2のピンクで示した部分のように,学習が広がります。(この点については次回紹介します。)

パーソナライズド・ラーニングから「主体的・対話的で深い学び」を生み出そう

写真1:遠隔授業とコラボノートを組み合わせた学習の流れ

 学習者主体の学習によって「主体的・対話的で深い学び」を生み出すことを目指すにあたっては,パーソナライズド・ラーニングが中心となると言えるでしょう。なぜなら,既存の知識を用いたり,既存の知識と新たな知識を結び付けたりする機会でもあるからです。写真1に示す遠隔・オンライン授業とクラウドを用いた協働学習ツール(以下コラボノート:ジェイアール四国コミュニケーションウエア)を組み合わせた理科学習(昆虫のつくり:3年生)を紹介します。子どもたちは,卵から飼育するアゲハチョウについて継続的に観察し,その過程での気付きや疑問を学習ノートや付箋に書き出していました。個々の疑問のうち,全体で共有すべき疑問については,問題解決のプロセスに基づいて,みんなで図鑑で調べたり,NHK for Schoolを視聴して調べたりしました。その調査の過程を経て,新たに高次の問いが生まれたので,専門家(今回は大学の研究者)との遠隔・オンライン授業を複数回仕組んだのです。子どもたちのチョウに関する既有の知識と好奇心の高まりは,初対面の専門家との対話をスムーズにします。そしてコラボノートには,その対話で理解したことが記述されます。新型コロナウイルス感染症拡大防止のための臨時休業中からコラボノートを用いたオンデマンド学習を実施していたこともあり,子どもたちは,放課後,自宅に帰ってからも,個別の考えや感想などをコラボノートに書き込みました。このような学びの連続性が,既有の知識と新たな知識を結び付け,さらに記述を通じて思考をアウトプットすることで確かな知識を獲得することにつながっているのです。特に自宅での記入は,体験活動から得た情報を整理し記述することになるため,このメタ認知的な営みによって,深い学びへと結び付くのだと判断できました。
 ICTの活用によって,子どもたちの学びの機会がどんどん広がります。その結果,個別最適な学びや協働的な学びへとつながっていくのだと思います。

石堂 裕(いしどう ひろし)
兵庫県たつの市立新宮小学校主幹教諭。
令和元年度文部科学大臣優秀教員、平成28年度兵庫県優秀教員、大阪教育大学大学院連合教職実践研究科 非常勤講師、NHK for school番組企画委員、ひょうごスクールエバンジェリスト、文科省消費者教育指導者用啓発資料作成部会委員、第28回全国生活科総合的な学習研究協議会兵庫大会研究部長、日本文教出版 生活科教科書編集委員。主な著書は、「総合的な学習の時間の指導法」、「アクティブ・ラーニングのABC」。その他、授業づくり、カリキュラム・マネジメント関連本に寄稿多数。

特別なニーズのある児童生徒に対するデジタル教科書の活用

 現在、公立小中学校の通常学級には、行動面もしくは学習面において著しい困難を示す(発達障害の可能性のある)児童生徒が約6.5%在籍している(文部科学省, 2012)。この数値について、学校現場の実感としては、「もっと多いのでは?」というのが正直なところではないだろうか。実際、「著しい困難」とまではいかずとも、それに近い困難さのある児童生徒はかなりの割合いることが指摘されている(文部科学省, 2012)。また、特別支援学校や特別支援学級に在籍している児童生徒、また通級による指導を受けている児童生徒を合わせると、全体の約4%になる。特別なニーズのある児童生徒に対して教育的支援を行うことは、もはや学校現場において「特別なこと」ではないのである。
 これら特別なニーズのある児童生徒に対して効果的な学習指導を行うために、デジタル教科書は一つの有効な手段となり得る。文字の大きさや背景の色の変更、音声読み上げによって、視覚障害のある児童生徒に対するアクセシビリティを高めるのに役立つだけでなく、通常学級に在籍する発達障害のある児童生徒へも有効な支援となり得る機能が複数ある。以下では、特に通常学級において、学級全体と同時に発達障害のある児童生徒に対しても効果的な学習指導を展開するために、デジタル教科書をどのように活用できるのかについて述べる。
 活用できる機能の1つ目として、「拡大機能」が挙げられる。「教科書の○○を見て」などの口頭指示だけでは理解しにくい児童生徒も、教科書の見るべき箇所を拡大して提示されれば、どこに注目したら良いのか理解しやすくなる。教師からすると指示が通りやすくなり、児童生徒からすると指示が理解しやすくなることによって、どちらにとっても授業中の無駄なストレスを減らすことに繋がる。また、注目すべき箇所だけが表示されることで、普段は集中を保つのが難しい児童生徒も、気が散りにくくなるといった効果も期待できる。
 活用できる機能の2つ目として、「動画・アニメーション機能」が挙げられる。これも口頭での指示や説明に加えて、視覚情報を手軽に加えることができるのが利点である。特にデジタル教科書によって、児童生徒がこれから行う活動の「お手本」を示せる場合には、積極的に活用すると効果的である。「お手本」を示すことによって、児童生徒は具体的にどのように活動したら良いのか理解しやすくなる。また、教師が直接お手本を示すよりも、ビデオでお手本を示したほうが、発達障害のある児童生徒は真似しやすいことが研究によって示唆されている。
 活用できる機能の3つ目として、「ペン機能」が挙げられる。これは、教科書の注目すべき部分を強調するために使用したり、答えを書き込んだりするのにも活用できる。特に、児童生徒の発言・発表内容を書き込むことは、発言・発表したことに対するフィードバックとして機能し、学習意欲を高めることに繋がる可能性がある。このようなフィードバックは、児童生徒の積極的な授業参加を促すうえで重要であるが、発達障害のある児童生徒にとっては口頭でのフィードバックだけでなく、視覚的なフィードバックもあったほうがわかりやすくなる。
 以上述べてきた機能は、デジタル教科書の基本的な機能ばかりである。しかし、これらの機能を上手く活用することによって、学級全体はもちろんのこと、特別なニーズのある児童生徒にとっても、わかりやすい授業を展開できる可能性がある。デジタル教科書を効果的な学習指導のための手段の一つとして用いながら、子どもたちの「わかった!」「できた!」を引き出すにはどうしたらよいか、一人ひとりの授業中の様子をよく観察し、それに基づいて柔軟に指導・支援方法を改善し続けることが大切である。

庭山 和貴(にわやま かずき)
大阪教育大学・大学院連合教職実践研究科・准教授
専門分野は特別支援教育(特に応用行動分析的アプローチを用いて)。日本ポジティブ行動支援ネットワーク副会長。2016年関西心理学会研究奨励賞、2017年日本教育心理学会優秀論文賞受賞。

指導者用デジタル教科書(教材)で日々の授業を改善しよう

1.進む環境整備と学校現場

 学校において,ICT機器の普及が進んでいる。費用面において,自治体間の格差が見られるが,ハードウェアの整備については,すでに児童・生徒用コンピュータの導入に関心があたっている。(編集部注:2019年12月、文科省が「GIGAスクール構想の実現」を公表)
 一方,学校現場に目を移してみると,教師によるICT活用さえ日常化していない例も見受けられる。忙しくて準備する時間がない,とか「今までにできなかったことをICTで実現しよう」と考え,なかなか日常的なICT活用が進まないといったところがその理由となっている。
 いくら「主体的・対話的で深い学び」の充実といっても,多くの場合,教師が授業の進捗についてはコントロールしていることが多い。このような中で,児童・生徒の活動の充実,それにしかもICTを活用した学習場面をいきなりイメージすることは難しい。
 まずは,教師が普段とっている授業スタイルに,無理なくICTを導入することから始めたい。今までICTがなくても行っていた授業をどのように改善できるか,という視点からICTを取り入れたい。

2.指導者用デジタル教科書(教材)の活用

 そこで効果的に機能すると考えられるもののひとつが,指導者用デジタル教科書(教材)である。実際に,導入されている学校では,多くの教師が活用しており,強力なコンテンツのひとつとなっている。2018年度の調査によると(文部科学省 2019),小学校では56.6%の学校で,中学校では61.4%の学校でなんらかの形では導入されている。ICT活用に長けていなくても,かんたんに利用できる。もし,なにかの教科のデジタル教科書・教材が導入されている場合は,授業で使うことを考えよう。
 指導者用デジタル教科書(教材)は簡便に利用できる。確かに,Web上にも教材となりうるデジタルコンテンツはたくさんある。こうした教材では,何を使うか考えるのに時間がかかるが,指導者用デジタル教科書(教材)の場合,基本的に教科書紙面と同じものが用意されているので,準備に手間取ることが圧倒的に少ないというのがメリットだ。

3.効果的な活用の工夫

 活用としては,まずは単純に提示をすることから始めてみたい。普段,教師として説明をしているつもりでも,児童・生徒には伝わっていない,あるいは伝わりきっていない授業場面があまりに多い。教科書のどのページやどの図を見るか,そのように些細に思われることが全員に伝わっておらず,それが積み重なることで,彼らの集中力をそいだり,授業目標の到達に至らないケースをよく目にする。まず,児童・生徒が活用しているそのものを一斉提示し,誰が見ても理解できるような指示や説明をしたい。そうすることで,実際の説明時間も短縮でき,児童・生徒の活動により多くの時間をあてることができる。
 その次に,授業で児童・生徒の興味や関心を高めるための活用を考えたい。教科にもよるが,指導者用デジタル教科書(教材)で取り上げられている部分のひとつひとつの要素に注目をしてみよう。例えば,グラフや写真,図表については拡大できるものが多い。大きく見せて,よりわかりやすくなる授業を意識しよう。
 中には,紙の教科書で扱うことができない,動画等の素材が含まれるものもある。文字だけではイメージ化をはかりにくいものについて,こうした教材で補うことも考えたい。通常は,教師が探して提示するものであるが,指導者用デジタル教科書(教材)ではこうした素材が教科書と連携しているのでより充実した授業の展開が考えられる。

文部科学省(2019)学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1287351.htm

寺嶋 浩介(てらしま こうすけ)
大阪教育大学・大学院連合教職実践研究科・准教授。
専門分野は教師教育学(特に教育工学,メディア教育)。主な著書に『初等中等教育におけるICT活用』(ミネルヴァ書房,共編著)など。