こんなときどうしよう?① 地域教材が見つからない!

今回から、先生方が普段社会科をご指導されるうえでの素朴な疑問やお困りごと解決をテーマに、「こんなときどうしよう?」を連載いたします。

(1)地域教材開発への意欲と地域素材の調査

 最近、中学年の教材について、「地域教材が見つからない」といった声を耳にすることがよくあります。平成29年告示の学習指導要領において、第3学年内容(4)、第4学年内容(3)、同内容(4)、同内容(5)などの内容が新しく示されことによって、地域副読本の作成や学習での地域の資料活用において地域教材が必要になってきたことが、大きな要因であろうと考えられます。
 学習指導要領の内容には、その内容を根拠づけて説明する具体的な資料は示されておらず、地図や統計グラフ、写真、実物、かかわった人の話など、地域の資料が必要になります。これらの資料の発掘は、地域教材の教材化にとっての一番の問題になっています。
 地域教材を教材化するにあたっては、教師自身が新たな資料・教材を発見・開発しようとする意識をもち、地域社会に向き合うことが第一歩です。そして、地域の土地や産業、人々の様子を見て歩き、地域の人の話を聞くことによって、学習指導要領の内容とかかわる地域の事象を自分の目でとらえることができ、地域教材の開発が進むと考えられます。
 こうした意識をもち、まずは過去の副読本やその指導書に目を通すことが大切です。現行の学習指導要領に示された内容と全く同じではなくとも、似た内容で教材化された地域教材があります。それをヒントに改善を図り、現行学習指導要領の趣旨にそった教材にすることができます。また、市町村史や都道府県史を調べて素材を発掘することや、地域にある博物館や資料館の人たちに聞くことなども考えられます。いずれの場合にも、自らの五感を通し、足で地域教材の教材化に向けた努力をしていかなければなりません。

(2)素材となる統計資料や地図などの発掘と教材化

 教科書に掲載されているグラフや地図などの資料を参考に、地域教材の素材となる資料を見つけることが、地域教材の開発にとって大きな問題となります。
 都道府県や市町村では、毎年それぞれの統計書を発行しています。その中には、地域の人口や産業、安全など、中学年に関わる単元の大部分の統計資料(素材)が掲載され、地方自治体の図書館やインターネットで閲覧することができます。また、明治期における都道府県や郡などの古い統計資料は、国立国会図書館のデジタルコレクションで多くの統計書がインターネットで見られるようになっています。その他に、水やごみ、消防、警察に関する資料は、それぞれの管内の白書や年報が該当当局から毎年発行されています。
 地図資料については、地方自治体と国土地理院などが作成したものがあります。国土地理院の地図は、明治時代から現在までの縮尺の異なった多くの地形図や土地利用図などが作成されていて、インターネットで閲覧、購入も可能になっています。
 地域や県内の災害や祭り・先人などを紹介する本やパンフレットなどについては、図書館やインターネットなどで多くのものを閲覧することができます。
 この他にも、地域の調査で、土地や産業の特色や記念碑などに気づいたり、地域の人から話を聞いたりして、素材を見つけることもできます。また、子どもたちに資料収集への関心をもたせておくと、子どもたち自身が家の人に話を聞いたり、図書館などに行って、新聞記事や本などの素材となる資料を集めたりすることもできます。
 しかし、これらの資料のほとんどは、素材であって、学習にそのまま使用できる教材ではないことに注意しなければなりません。例えば、グラフ資料であれば、グラフの種類や数量の単位、割合(%)、地図では、情報量が多い地図から必要な内容を取り出すことなど、子どもたちの発達の段階や単元の内容を考え、素材を加工し教材化することが大切です。

(3)高学年における地域教材の教材化

 高学年においての教科書事例は、学習指導要領の内容や着目点に準拠し、全国的な視点から典型的で重要だと見なされる地域の事例を取り上げていることから、高学年における地域教材の教材化には限界があると考えます。
 5年の産業や災害、情報の単元や6年の政治のはたらきの単元などで、自分たちの地域の事例を学習指導要領にあった内容に教材化されれば取り上げることも可能かと思います。
 6年の歴史単元においては、地域の歴史的事象の小単元全体の教材化は難しいところです。しかし、日本の歴史に関係の深い地域の事象や人物との出来事を、教材化することは大切なことだと考えています。例えば、地域の縄文・弥生の遺跡、地域としての奈良・京都・鎌倉・江戸の遺跡、地域での蘭学や自由民権運動の広がり、戦争中の人々のくらし、また、行基、千利休、伊能忠敬、与謝野晶子などの地域での出来事をもとに、歴史学習のねらいに即し教材化された資料を活用し、授業を展開することは、子どもたちに歴史に興味もたせることからも教材化の推進が期待されます。
 高学年における地域教材のいずれの教材化においても、中学年で述べた地域教材発掘への姿勢と調査、素材資料の教材化、そして、学習指導要領の内容に準拠し全国的・典型的な視点からの教材化がかなめになると考えます。

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.22

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.22 “海外におけるインクルーシブ教育の動向―EU諸国―”を追加しました。

海外におけるインクルーシブ教育の動向―EU諸国―

 前回、SDGsの動きとインクルーシブ教育の関係について記しました。この二つに共通するのは、どちらも唯一の正しい方法があるわけではなく、明確なゴールを目指したそのプロセスこそが重要な意味を持っているということです。
 これまで本連載では、共生社会の実現を目指したインクルーシブ教育の取組について国内の話題を中心に取り上げてきました。共生社会の実現を目指したインクルーシブ教育のプロセスを追究するためには、国外の取り組み状況を知ることも大いに参考になるのではないでしょうか。そこで海外の状況についても紹介していくことにしました。
 今回はEU圏の状況を探ってみます。EU諸国のインクルーシブ教育への取り組みについては、European Agencyという組織がデータを収集・分析してその結果を公表しています。直近では2020年にこれまでの調査をまとめた報告が示されています。

European Agencyとインクルーシブ教育に関する欧州機関統計(EASIE)

 European Agencyは、EU加盟国の教育省が連携協力するためのプラットフォームとして機能している独立組織です。この機関の使命は、加盟国がインクルーシブ教育の政策とその取り組みを改善していくことを手助けするところにあります。その業務は、教育における公平性、機会均等、権利をすべての児童生徒に実現するという国連の障害者権利条約第24条やEUの政策イニシアチブに沿っています。
 European Agencyでは、インクルーシブ教育に関する統計(EASIE;European Agency Statistics on Inclusive Education)をとりまとめています。EASIEは、加盟国におけるインクルーシブ教育へのアクセスに関連するデータを収集、集計し、それらを比較検討したもので、各国の取組状況が把握できます。現在31の機関加盟国がEASIEに参加しています。

これまでのEASIEの統計調査から得られた知見

 2020年の報告(*1)によると、これまでの統計調査から次のような状況が明らかにされています。

  • データは、インクルーシブ教育がすべての加盟国の政策ビジョンになっていて、SEN(特別な教育的ニーズ)を公的に認定しインクルーシブ教育の機会を提供していることを示している。
  • SENの認定基準や児童生徒の割合は加盟国によって異なっている。障害者権利条約で定義されている障害のある児童生徒だけでなく、他の教育ニーズを持つ児童生徒を含めている国もある。
  • すべての対象児童生徒が、100%通常の学級に在籍する完全なインクルーシブシステムを取っている国はない。すべての国で、学校、学級、ユニットなどのさまざまな形態が取り入れられている。
  • 通常の学級外(日本の特別支援学校、特別支援学級、通級による指導など)に在籍する児童生徒の割合は、国ごとに異なっている。
  • すべての国で、SENが認定されている男子の数は女子の約2倍になっている。
  • 初等教育と中等教育での割合は国によって異なっている。各国がさまざまな方法で対応していることを示している。
  • さまざまな理由や状況で学校を休んでいる(正式に在籍しているが登校していない、またはどこにも在籍していない)児童生徒の実態は、すべての国で明らかになっていない。
  • データは、SENに認定された児童生徒の割合が全体的に変化していないことを示している。ただし、一部の国では、その割合が明確に増加している。
  • データは、完全な分離教育環境(特別支援学校、特別支援学級)で学ぶ児童生徒の割合がわずかであるが減少していることを示している。

2018クロスカントリーレポートの主な結果

 グラフは、2018年の調査結果(*2)を基に筆者が作成したものです。各国における初等教育と中等教育の義務教育段階でSENが公的に認定された児童生徒の割合について、インクルーシブ教育を受けている児童生徒とインクルーシブ教育を受けていない児童生徒について分けて示しています。SENが公的に認定された児童生徒の割合は、平均4.75%(31か国)でした。そのうち、インクルーシブ教育を受けていない者の割合は、23か国の平均で1.55%でした。
 このグラフから、EU圏では、国によって支援を必要とする児童生徒の割合が大きく異なっており、それぞれの国情に応じて対応していることがわかります。また、いくつかの国を除いて多くの国では特別支援学校など特別な場に分離されて学んでいる児童生徒数の割合が低くなっており、インクルーシブ教育の理念が浸透していることに気づかされるのではないでしょうか。

図1 EU各国における義務教育段階でSENが認定されている児童生徒でインクルーシブ教育を受けている者と受けていない者の割合