授業にお役立ち!③ 社会科とESD(3)

(1)立ち止まって、考えてみる

筆者 前回までに、「何ができるだろうか」という問いについて、見つめ直してみました。価値観と行動の変容を目指すESDではありますが、子どもたちの認識や問題の捉え方が深まらないうちに、安易に「できることを探す」取り組みにならないよう注意する必要があります。できることは何か、と探す前に学習のなかでしっかりと準備をしていくことが必要です。
 同じく前回の記事のなかで、思いがけず優等生的な答えを求めてしまっていないかという問題提起をしてみました。SDGsの認知度が上がったことで、子どもたちも何が問題なのか理解した状態で教室にいることが多くなりました。しかも地球規模で取り組むべきとされているわけですから、なかなか反論することが難しくなっています。しかし、重要な問題だからこそ、授業では子どもたちと一緒に立ち止まる時間、そして自分たちの生活を批判的に吟味する時間が大切になると思います。

(2)「何ができるだろうか」の前の準備

 授業では十分理解しているような発言や記述があるのに、日常生活に戻ると学習が生かされていない、ということがしばしばあります。私は何度もそういった経験をしました。そのたびに「意見が言いにくいのかな」「正解を言わせるような授業になっているのかな」と悩むことも多くありました。同じような経験をされた先生もいらっしゃるでしょうか。しかし、(私の場合はさておき)必ずしも子どもたちは、先生のご機嫌を伺うためにその場限りのウソをついているわけではないようです。
 私たちは日常生活のなかで、その人なりの特有な経験則(見方や考え方と言ってもいいと思います)を学んでいます。この日常生活のなかで育まれる見方や考え方は、正しいかどうかよりも「どれだけ有効か」「役に立つか」という基準でその人に採用された、非常に実用的なものです。これらの見方・考え方は、誤りを含んでいることもあります。しかし、経験的に信頼に値するものとして培われていますから、実感を伴わない授業では、なかなか科学的に正しい考え方に転換することは難しいものです。その人にとって見れば、これまでその考え方でうまくやってこれたわけで、「こっちのほうが正しい」と言われてもなかなか改める必要性を感じることはできません。しかもやっかいなことに、自分にとっては至極当然な見方や考え方ですから、わざわざ「これで良いのかな」などというように吟味する機会はほとんどありません。本人にとっては正しいかどうかということはあまり気になる問題ではなく、なんとなくそう思っているにすぎません(“なんとなく”すら思っていないかもしれません)。
 そのため、授業で習うことと日常生活で培ったことが、子どもたちのなかに並存するということが起こります。授業中に尋ねられたから、プラスチック製品は環境負荷が高い、と答えたけれども、普段の生活でプラスチック製品に囲まれた生活を改善しようとする取り組みをそこまで積極的に実践するわけではない、という状態です。

(3)認知的葛藤をつくり出す

 こうした状況を打開する方法として、葛藤状態をつくり出すということは、やはり重要だと思います。これまで授業研究のなかでは、「概念くだき」とか「ゆさぶり」といった言葉で重視されてきました。つまり無意識のうちに並存する見方・考え方を意識的に実感させ、その二つが相容れない場面を設けるということです。
 先ほどのプラスチックごみの例でいえば、私たちがプラスチック製品をすすんで購入しているということに気づかせることも一つでしょう。プラスチック製品のすばらしさに着目して探究していくことは、葛藤状態をつくり出すには効果的かもしれません。なにしろプラスチックは軽い、安い、安全という非常に優れた物質です。私たちがプラスチック製品を購入することはごく自然な選択なのかもしれません。逆に、分別回収してもらえるようプラスチックのトレイなどを、同じく貴重な資源である水で洗うことも葛藤を生むかもしれませんし、分別されたプラスチックごみがその後どうなっていくのかということを探究することも、思考を促す手立てになりそうです。
 日常生活のなかで育まれた強い見方や考え方を転換するためには、まず自分たちが無意識のうちにしたがっている見方や考え方がどのようなものなのか、しっかり見つめ直すことが必要です。現代社会に生きる私たちの生活は、まだまだ経済中心の捉え方が多くあります。正しいことはわかっているのに、その通りの行動はできていない、そんな場面を切り取って見せてあげることができれば、葛藤状態を引き起こすヒントになるのではないでしょうか。

(4)価値観変容のきっかけづくり

 価値観はそう簡単に変わるものではありませんし、容易に変えられるものだと思うべきではないとも思います。その上で、なぜ変わらないのかと追究し、そのきっかけづくりをしていくことはESDの実践では重要ではないかと思います。葛藤状態を設定したとしても、変容が見られないことも十分あり得ます。想定していたこととは違う変容が見られるかもしれませんし、もともともっていた考え方がより強固になる可能性もあります。しかし、価値判断の主役はあくまで子どもたちですから、日常生活のなかで身に付けてきた考え方と新たな考え方とを比較吟味して、彼らなりの答えを見いだしてもらいたいと思っています。そのような活動を繰り返し行って、何度も自身の見方や考え方を思考の俎上にあげていくことで、より良い判断に近づいていくのではないかと思います。まずは、子どもたち自身が自分なりに納得のいく、一貫性のある答えを見いだす力を育むことが重要だと考えています。
 これは私たち自身にも言えることだと思います。持続可能な社会への道のりはまだまだ遠く、残されている猶予もわずかです。抜本的な解決策が見いだせない現在では、私たちも子どもたちと一緒に探究していくことが求められていると思います。

Webマガジンまなびと:「学び!とICT」Vol.06

Webマガジン:「学び!とICT」Vol.06 “主体的・対話的に深く学ぶために 第2回 〜情報活用スキルを視覚化する〜”を追加しました。

主体的・対話的に深く学ぶために 第2回 〜情報活用スキルを視覚化する〜

 情報活用能力の知識及び技能を高めるということは、子どもたちが情報活用スキルを身につけることであると考えます。情報活用スキルとは、タブレットPCなどのICTを使いこなすことができる力であるとともに、情報そのものを集めたり、整理したり、まとめたり、伝えたりする力でもあります。このようなスキルを高めることにより、子どもたちはそのようなスキルを発揮して自ら課題を解決し、主体的に学ぶことができるようになるのです。

情報活用スキルを習得するには

 それでは、情報活用スキルを身につけるにはどのような指導・支援が必要なのでしょうか。情報活用スキルなどのスキルは、スキルを発揮して学ぶ経験をすればするほど高まり、短時間で多くの情報を効率よく処理することができるようになります。これは、武道や茶道、スポーツなどと同様で何度も繰り返して練習することが能力を高める上で重要なことなのです。つまり、情報活用スキルを高めるために情報を活用する活動を授業や家庭学習で何度も経験することが大切だということです。
 しかし、これまでの授業においても子どもたちは、情報を活用する活動をほぼ毎時間、何度も経験しています。にもかかわらず、子どもたちの情報活用スキルは必ずしも高いとは言い切れません。それはなぜなのでしょうか。その理由は、子どもたちが情報活用スキルを十分に認知しておらず、学習中に情報活用スキルを発揮することが意識されていないことにあると考えます。このことはとても大切なことで、何事も繰り返すだけでは上手くならず、うまくなる・できるようになることを意識して練習するからスキルが身につき高まっていくのです。

情報活用スキルの視覚化

 そこで、子どもたちが情報活用スキルを意識化するために考えたことが、情報活用スキルの視覚化でした(図1)。

図1 情報活用スキルカード
※クリック or タップでPDFが開きます。

 学校では、学期の終わりに教科学習の成果を通知票で視覚化して、子どもたちや保護者に知らせています。子どもたちは、通知票に視覚化されることによって、「国語はできた」「算数はいまいちだった」という判断ができ、「次の学期は算数を頑張ろう」といった目標設定ができるのです。私は、子どもたちが主体的に学ぶことが重要視されている今日においては、教科だけでなく情報活用スキルも視覚化すべきであると考えます。
 私が小学校で教鞭をとっていたときは、情報活用スキルを一覧表にまとめた「情報活用スキルカード」を子どもたちに配付し、情報活用スキルを視覚化していました(図1)。このカードでは、探究的な学習過程を「集める」「整理する」「まとめる」「伝える」と表現し、それぞれの過程で情報活用スキルを発揮して学ぶ学習活動を示しています。また、チェック欄を設け、子どもたちが経験した活動を記録することができるようになっており、自らの情報活用スキルを視覚化することができます。私は、このカードを授業や家庭での自主学習の際に参照したり、経験した活動を記録したりするように指導し、子どもたちは自ら情報活用スキルを意識しながら学習を進め、スキルを高めていました。
 情報活用スキルカードを活用して学習を進めることで、子どもたちは授業はもちろん家庭での自主学習においても創意工夫をしながら、主体的に学ぶ姿が見られるようになりました。図2は、情報活用スキルカードを活用した自主学習への取り組み方をまとめたサイトです。

図2 情報活用スキルカードを活用した自主学習を提案するサイト Self-Study

 このサイトには、子どもたちが情報活用スキルを発揮し、探究的に取り組んだ自主学習ノートの静止画を掲載しています。探究的に学ぶ際のヒントになると思います。情報活用スキルを発揮する授業、家庭学習を実現するために、ご活用いただけたら幸いです。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領
  • 木村明憲(2021)主体性を育む学びの型、さくら社

【参考情報】

【本稿について、さらに深めたい方は以下に解説動画を掲載しておりますのでご視聴下さい。】

香川大学教育学部附属高松小学校 初等教育研究発表会(文部科学省:令和4~7年度 研究開発学校(1年次)・ 令和3~4年度 実社会との接点を重視した課題解決型学習プログラムに係る実践研究校(最終年次))

香川大学教育学部附属高松小学校 初等教育研究発表会(文部科学省:令和4~7年度 研究開発学校(1年次)・ 令和3~4年度 実社会との接点を重視した課題解決型学習プログラムに係る実践研究校(最終年次))を追加しました。

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.34

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.34 “「超福祉の学校2022@SHIBUYA」に学ぶ”を追加しました。