Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.60

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.60 “クロス・カリキュラムの授業(授業とPBL④)”を追加しました。

クロス・カリキュラムの授業(授業とPBL④)

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の4回目です。今回と次回の2回にわたって、「総合的な探究の時間」の探究学習から派生した教科横断の学びを紹介します。今回は「教科×教科」のクロス・カリキュラムの実践を紹介していきます。

1.教科横断的な学び

 ふたば未来学園高校では、開校した2015年当初から探究活動を軸としたコンピテンシーベースの教育を展開してきました。年数を重ね徐々にアクティブ・ラーニングの認知度こそ高まってはいたものの、いざ探究学習となると「えっ!本当にできるの?」、「総合的な学習の時間と同じような変遷を辿るのでは?(2つ目のLHRとなってしまい期待した効果が得られないのではないか?担当者だけの過度な負担となってしまわないか?)」といった声が外部はもちろん、同僚の中にもありました。しかし、すでに偏差値の向上だけを目的とする教育には戻れないことは明らかです。それは、教員が実際に探究学習を通して、生徒の成長を目の当たりにしたとき、本来求められている思考力・判断力等の育成につながる教育が「何」であるかを実感したからです。
図1 総合的な探究の時間の授業風景 探究学習の過程では2つの課題が生じました。一つは「コンピテンシーベースの教育に寄りすぎていて、これまで丁寧に行われてきた知識を獲得するための学びが疎かになっているのではないか?」という指摘です。もう一つは、生徒が協働学習を尊重するあまり、ディスカッションの方法ばかりに気を取られ、「学習内容を関連付けて、汎用的な知識に高められていないのではないか?」ということです。
 こうしたコンピテンシーベースの教育を従来の学校教育に取り入れるためには、教員同士の同僚・協働性(*1)がとても重要であると考えました。つまり、子どもを軸とした教員同士の“対話“です。

2.数学で身近な社会問題を分析する

 地歴・公民科のS先生と鈴木先生には、「現代的なテーマを教科学習で扱えないか」という共通の問題意識があり、2018年度に高校2年生を対象に、全3時間のクロス・カリキュラムの授業を実践することになりました。普段探究学習には主体的に取り組むのに、教科学習にはなかなか意欲的になれない生徒、探究学習に授業の学びを生かせない生徒がいたからです。それらの原因は、教科学習の学びと身の回りの社会とが結びついていないからではないかという仮説がありました。そこで、授業のテーマを「数学で身近な社会問題を分析する」とし、最後の3時間目の授業では、グループごとに分析に基づいて身近な地域の課題解決の提案を行わせることにしました。
図2 総合的な探究の時間の授業風景 単なるイベントで終わってしまわないように、授業に入る前に到達目標と評価基準を明確化し、授業にルーブリック評価を取り入れることにしました。「地域の課題を捉えようと探究学習を通して学んでいるか」、「他地域や海外のことも考えることのできる汎用性を持ち合わせているか」、「数学的な見方・考え方を取り入れて事物を考察できているか」といった到達目標と5段階の評価基準を設定しました。
 授業の1時間目ではS先生が、北海道のY市の人口は、1960年の107,972人をピークに減少を続け、2010年には10,922人と急激な人口減少・少子高齢化が進んでいることなどの講義をしました。その際、S先生はA3用紙に予め記された特徴的な数字をどんどん紹介し、黒板に掲示していく紙芝居形式で授業を展開しました。こうした効果的な教授法を体験的に学べることもクロス・カリキュラムならではだと思います。
図3 総合的な探究の時間の授業風景 2時間目には、双葉郡の人口の変遷から、人口減少に対する解決策を模索し、続く3時間目の授業で発表してもらいました。印象的だったのは、教科で培った知識が、私たちの想定を超えて有機的につながっていたことです。人口の変化を分析する際には、数学Ⅰ・「データの分析」で学んだ知識が活用されると想定しました。しかしあるチームは、ディスカッションで人口の変化に演繹性を見いだし、数学B・「数列」(等比数列)で表せるのではないかという仮説を立て、計算してみると、実際の人口と近似した値を求められることがわかりました。これまで現実の事象は複雑な変数で統制されていて、高校で学ぶ数学だけでは明らかにできないという思い込みがあったのですが、生徒だけでなく、教員も実際に活用できることを実感しました。
 一方、いくつかの課題も残りました。その一つは、クロス・カリキュラムは教員にとっても想定外の学びにつながるチャレンジであったために、実践した教員は学べても、それを言語化して他の教員と共有できなかったことです。そこで翌年度からは、教員でグループを組み、体験的に実践していったことで、更に様々な効果を蓄積することができました。

3.コロナ禍でのクロス・カリキュラム

 2019年度は今回取り上げた「地歴・公民科×数学」だけでなく、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等これまでの私たちの社会生活を起因とした様々な問題に迫ろうと、学校全体で取り組みました。しかし、2020年2月のコロナ禍以降、教員同士が対面で話し合うことが難しくなったり、互いの教室を参観することが憚られたりしたため、学校全体の取り組みは弱まってしまいました。
 一方で、2021年度にはコロナ禍で生まれたオンラインでのつながりを生かし、他校の先生と教科横断の学びを実践するきっかけとなりました。同じ学校に勤める教員同士だと発想が似てしまいがちですが、こうした経験を通してより多様な先生と対話することで、これまでにはない示唆を得ることができました。こうして得られた知見を再度校内での授業実践に活かせば、より高度な授業実践も可能になるのではないでしょうか。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

*1:教員相互の信頼関係と義務感を重視する「同僚性」と、2000年代以降の説明責任とその成果を重視する「協働性」といった2面を合わせて、同僚・協働性とする。

絵本をきっかけにはじめてみよう(1) ~ハーモニーの教育~

 今月は、これまでの連載でも何度かご紹介したハーモニーの教育(Vol.1, Vol.12, Vol.13)に関係する、素敵な絵本をいくつかご紹介したいと思います。
 ハーモニーの教育は、イギリスのチャールズ国王が皇太子時代から提唱してきた「ハーモニーの原則」にのっとった教育的なアプローチです。自然界に見られる様々な特徴を「多様性」「相互依存」「健康」「適応」「幾何学」「循環」「ひとつらなり」というキーワードで整理して、これらをハーモニーの原則として挙げています。この7つの原則は独立して存在しているのではなく、それぞれが関連性をもって成り立っているという点も重要です。現在、ハーモニーの原則に沿って、イギリス国内ではさまざまな実践が取り組まれています。本連載でも、ハーモニーの教育を実践するイギリスの公立小学校(アシュレイ小学校)の実践が取り上げられています(Vol.12, Vol.13)。
 このハーモニーの教育実践の広がりを支えているプラットフォームの一つが、「ハーモニープロジェクト」です。そのホームページには、「持続可能性と自然を学びの中心に据える」というモットーが示されており、ハーモニーの教育を実践するさまざまな現場を支え、それらをつなげる役割を担っています。例えば、多様な年齢層の子どもたちを対象とした教材や、具体的な教育計画についても紹介されています。
 そこで、今回はこのハーモニープロジェクトのホームページで取り上げられている教材の中から、ハーモニーの原則に触れ、探求を深められるような絵本をいくつかご紹介したいと思います。このホームページでは、それぞれの原則に関連した絵本が数冊ずつピックアップされています。その中でも日本の絵本も取り上げられている「多様性」の原則に着目して、今月号と来月号で二冊の絵本をご紹介します。
 まず一冊目は、『All Are Welcome』(作:アレクサンドラ・ペンフォールド、絵:スーザン・カウフマン)です。こちらは、『ニューヨークタイムズ』の絵本部門でベストセラーに選ばれています。絵本の中では、授業、休み時間、ランチタイムなど学校のさまざまな場面で、生徒たちみんなが、あたたかく受け入れられていることが描写されています。ページをめくるごとに、「みんな歓迎されている(All Are Welcome)」というお馴染みのフレーズが繰り返されます。例えば、イスラム教のヒジャブを着けた女の子が朝お祈りをしたり、みんなと遊んだり、世界地図の前にみんなと立っているイラストには、次のような言葉が書き添えられています。「どんなふうに1日をはじめても、遊ぶときにどのようなものを身につけていても、遠くから来ていても、みんなここでは歓迎されています」

多様性について(出典:ダン(2020, p73))

 多様性ということを子どもたちと探求するとき、みなさんはどのようなことを意識するでしょうか。私たちの暮らす地球には人間だけでなく、さまざまな生命が存在し、お互いに関係し合いながら複雑な生態系を形作っています。人間にも同じことが言えますが、自然界に存在するものはそれぞれ異なっていて、多様性があると同時に、そのすべてが大切でかけがえのない存在であることを子どもたちに感じてもらいたいと思います。
 みなさんが関わる子どもたち一人ひとりに「あなたは歓迎されているよ」「あなたはここにいていいんだよ」と伝えるために、あなただったらどのようなことをするでしょうか。園や学校など子どもたちが集まるさまざまな場で、子どもたち一人ひとりが、自分はこの場に受け入れられているのだと感じてもらいたいものです。今回ご紹介した『All Are Welcome』は、このようなことをみんなで感じ合ったり、話し合ったり、考え合ったりするきっかけになるような絵本でしょう。
 次号では、ハーモニーの原則の1つでもある「多様性」に関する絵本をもう一冊ご紹介します。絵本の持つ魅力やESDを実践する上でのポイントについても考えたいと思います。

【参考文献】

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.39

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.39 “絵本をきっかけにはじめてみよう(1) ~ハーモニーの教育~”を追加しました。

一般書籍:造形っておもしろい!

一般書籍:『造形っておもしろい! 子どもと先生が楽しむ 幼児から小学生までの造形実践集』(2023年3月10日発売)を追加しました。

子どもから学ぶことを楽しもう!! ~4月から先生になる、先生を目指す皆さんへ~

 中学校教員として8年、小学校教員として13年間の勤務を経て、現在は大学の教育学部で教員を育てる立場にもある西尾正寛先生。これまでの経験をふまえて、教員は子どもたちとどう向き合えばよいのか、語っていただきました。

いろいろな人との関わり

 僕はのんびりした高校時代を過ごして、小学校教員を養成している大学を受験しました。結果は不合格。でも、1年浪人したおかげで、大阪教育大学の美術科を受けるチャンスができました。それが、今につながっていると思います。
 大学卒業後は、大阪府の中学校に赴任しました。前任の先生もよい先生で、地域全体も美術教育がさかんでしたから、非常にいい環境に入ることができたと思っています。
 学生のときから自分で新しいことをしたいという思いがあって、新任のころから自分で題材をつくっていました。今から思うと粗削りだったんですが、「おもしろい」と言ってくれる先生がいて、地域の研究会に声をかけてもらいました。「美術教育をさかんにせなあかん」と非常に熱心な先生で、研究会には同じような考えの人がいっぱいいました。そういう人たちに囲まれていたから、のびのびとやらせてもらえたんだと思います。
 他の学校の先生方と月に1回くらい集まって、夜な夜な教材について話をしていたのも、新任5、6年目までの時期です。この時期にいろいろな人たちと関われたことは、教員として成長するために、とてもよかったと思っています。

子どもと育ち合う

 若いときはできないことが多い。それでも昔の保護者には、慌てている若造の姿をおもしろがるみたいなところもありました。今は社会全体が、「失敗しないように」という感じになっていますよね。だからなのか、いわゆるハウツーを求める人もいるように思います。けれど、目の前の子どもたちは一人ひとり違う人間だから、ハウツーでは当然うまくいかないですよね。もちろん授業は一回一回がとても大事ですから「なんでもやっていい」とは言えませんが、焦らずにいてほしい。先輩の先生方や保護者の方々も、温かく見守って、励まし合えるようになるといいですよね。
 親子関係で、「子どもと親は育ち合い」という言葉がありますね。子どもが育つと親も育つ、親が育つと子も育つ。子どもから学びながら親として成長していく。子どもと教員も同じで、最初から完璧な先生がいるわけではなくて、子どもに指導する中で自分も育っていくんだ、という感覚をもつといいと思います。

小さい幸せが生まれる授業

 図画工作や美術は、子どもとの育ち合いを実感しやすい教科だと思います。子どもに「ここにおいで」って言って、やって来たら「ああ、来れたね、がんばったね」というものじゃなくて、子どもを見ていて「え、そっちに行くの?! すげえ」って思える教科です。つまり、子どもが自分の想像を超えてくることを喜べる。そこに教員としての成長があると思うんです。
 よく、「図画工作って、答えが一つじゃないんです」っていいますが、それはたぶん図画工作の答えって「幸せ」だからだと思います。何を「幸せ」と感じるかって一人ひとり違うじゃないですか。図画工作で「こうしたい」という思いをもつことや、それを実現していくことって、その子の「幸せ」なんだと思います。その手伝いをわれわれがするわけです。「先生はこれが幸せやと思うからやってごらん」ではなくて、「みんなが幸せやと思うことをやってごらん。困ったことがあったら言ってね」と。ある子は小さい幸せを実現し、別の子は実現できなくても「ええこと思いついた!」って言う。本当に小さい幸せかもしれませんけど、そこに立ち会えた自分がよかったなと思うんです。
 子どもが困ったときに、困ったことを乗り越えることが、その子の育ちになる。子どもがちょっと背伸びしようと思ったら、困るときも絶対出てきますから、そのときに、背中をきちんと押してあげられる先生でいてほしいなと思いますね。

自分を豊かにするために

 大学に入学したての学生には、「今からまっすぐ先生にならんでいいよ」という話はしますね。「先生になるために何が必要ですか」「採用試験を通るためにどんな勉強をしたらいいですか」というような質問をしてくる子もいるんです。そんなときは「今は自分を豊かにすることを考えたほうがいいよ」と言います。
 実際、30人の子どもがいたら、30通りのパーソナリティがあるわけですから、自分がその30通りのパーソナリティを受け入れられるような豊かさをもってないといけないだろうと思います。採用試験の勉強は3年生からでも十分間に合う。音楽を好きになったり、美術を好きになったり、たくさんの景色を見に行くとか、歴史のことを知るとか、そういう、自分が幸せになれるような可能性をたくさんつくってほしい。小さな幸せを見つけて、「いいな」と思う瞬間をたくさんつくれるといいねという話をしています。

「縁」を大切に

 これから先生を目指す学生の皆さんも、この春から先生になる皆さんも、人との「縁」を大切にしてほしいですね。いろいろな人との関わりが、自分を豊かにしていくと思います。先輩の先生や、保護者、そして一人ひとりの子どもたちとの出会いの中で、少しずつ「先生」になっていくんだと思います。
 もちろん「運」もあって、どうしてもしんどいということもあると思います。でも教員は異動で環境を変えられますから、いざとなったらそういう選択肢もあります。
 ただ、いずれにしても一人で閉じこもっていては広がらない、先輩の先生に相談したり、いいなと思う勉強会に参加したりして「縁」を広げていってほしいですし、何より、子どもとの「縁」は本当に一期一会です。最初から100点じゃなくてもいいから、目の前の子どもたちと一緒に学んで、ともに成長していくことを楽しんでほしいと思います。


西尾 正寛(にしお・まさひろ)
畿央大学教育学部現代教育学科教授
大阪府河内長野市出身。兵庫教育大学大学院修士課程修了 修士(教科教育学)。大阪府公立中学校、大阪教育大学附属平野小学校勤務を経て、2006年より現職。小学校教育実習指導、幼児の造形表現、図画工作科指導法などの授業を担当。日本教育美術連盟事務局長、文部科学省「図画工作科で扱う材料や用具」の作成協力者、大学がある奈良や出身の大阪で現職教員の力量形成のための学習会の代表を務める。図画工作科の教材開発、授業の導入の在り方などを研究。趣味は散歩のようなユルいランニングとスマホでの風景写真。著書は『かく たのしむ ひろがる クレパスのじかん』(サクラクレパス、2021)、「初めて学ぶ教科教育6 初等図画工作科」(ミネルバ書房、2018、共著)など。日本文教出版小学校図画工作科教科書編集委員。