図工は人生を生きやすくする

図工の時間、子どもは何を楽しんでいて、教師は子どもにどう寄り添えばよいのでしょうか。そして、子どもたちは図工でどのような力を育んでいるのでしょうか。水島尚喜先生に伺いました。

子どもが楽しんでいるのは「発見」

3歳くらいの子どもがかいたキリンの絵を見たのですが、キリンの首は長いということを一生懸命表そうと、四角をいっぱい組み合わせてかいていたんです。

たぶんその子がかけたのは丸や四角だったんだろうと思いますが、「どうすればキリンをかけるだろう。あ、こうすればかけるぞ!」というその子の発見がその絵にはあって、ものすごく感動的でした。

それって、知識をかいたんじゃなくて、表現だから。「自分なりの方法でキリンを表現した自分自身と出会えた」という楽しさが伝わってくる絵だから、感動したんです。

もしそこで大人が「キリンはこうやってかくんだよ、ほら上手にかけたね」と口を出してしまったら、おいしいところを根こそぎもっていってしまうことになる。

子どもに、おいしい思いをさせなきゃ!子どもたちが楽しんでいるのは、「すごいことを思い付いた!素敵なものを見付けた!」という発見であり、そんな発見をした自分自身をも見付けているのです。

子どもの「!」を一緒に楽しむ

子どもたちって、本当にいろいろなものを見付けますよね。タンポポの綿毛、ぽっかり雲、シャボン玉の表面にできた虹色。

令和6年度版教科書「ずがこうさく」1・2下p.7より

まど・みちおさんが、世界は「!」と「?」でできているとおっしゃっていましたが、本当にその通りで、まさに子どもたちはたくさんの「!」と「?」を発見しています。

世界を驚きのまなざしで見るセンス・オブ・ワンダーを、子どもたちはみんなもっている。でも、大人になるとだんだん自分の中にあるセンス・オブ・ワンダーを忘れてしまう。

センス・オブ・ワンダーを保つ秘訣は、先生が一緒になって子どもの見付けたことを「すごいね」って共感してあげることです。子どもの隣で、大人が鏡になって返してあげる。

そのためには、先生の「内なる子ども」を呼び覚ます必要があります。子どもたちが目を輝かせて世界にのめり込んでいる様子を、先生も一緒になって楽しんでください。

自分なりのやり方でいられるのが図工の時間

効率的、合理的であることが求められる場面が多い学校の中で、図工はそうではないあり方が許される時間です。

図工の時間、子どもたちはよくお話をつくっていますよね。それはとても自然なことなんです。

材料を何かに見立てたり、組み合わせたり、つながりを探したりという、その場にあるものをブリコラージュすることで新しい物語や価値をつくりだす。

そんな「野生の思考」ができるのが図工の時間です。「野生の思考」は、人間本来の思考方法なのです。

子どもたちが「野生の思考」を発揮し、新しいことをどんどん思い付くような時間にするためには、先生が「何をやってもいいんだよ」という構え、「図工の身体」のようなものをもつことが大切です。

そもそも絵って、自由なんです。自由に自分を表現できる。鼻歌を歌いながらかいてもいいし、寝そべってかいてもいい。鉛筆の持ち方だってそう。かき方はいろいろあっていい。

令和6年度版教科書「ずがこうさく」1・2下p.7より

「絵をかくのが上手になりましょう」なんて学習指導要領では言っていません。上手い下手は一つの見方。「こんなすごいことを思い付いた!という見方があるよ」と示してあげれば、子どもは「やり方っていろいろあるんだ」ということを身に付けていく。

図工は、人の数だけやり方があり、生き方があることを理解するための教科と考えてみてはどうでしょう。「こうしなきゃいけない」と思って生きるのはつらいですよね。

図工を身に付けると、生きやすくなるんです。

※今回は、「図工のみかた(01号)」で連載した「図工ってなんだ?」の記事を抜粋し、再編集して掲載しています。元記事はPDF、または電子ブックでご覧いただけます。
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/zuko-mikata/zuko-mikata01/
※水島先生との出会いに大きな影響を受けたとお話されるカメラマン、池田晶紀さん(株式会社ゆかい代表)のインタビュー記事はこちらから。
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art139/


水島尚喜(みずしま・なおき)

1957年、富山県生まれ。東京学芸大学附属竹早小学校を経て、現在聖心女子大学文学部教育学科教授。文部科学省の学習指導要領に携わり、美術教育の発展に努める。令和6年度版日本文教出版小学校図画工作教科書の監修者の一人。

「令和7年度版 中学校教科書のご案内」特設サイト:美術

「令和7年度版 中学校教科書のご案内」特設サイト:「美術」の資料ダウンロードに「内容解説資料(別冊)/CHUBI Vol.04 日文の教科書は題材ページと資料ページが一体となっています!」を追加しました。

デジタル教科書・教材サポートサイト【令和3年度版中学校】更新

デジタル教科書・教材サポートサイト【令和3年度版中学校】:「ユーザーサポート」にデジタル教科書(教材)更新データ【中学社会】を追加しました。

教育現場での生成AIの活用 第2回 ~イラストで楽しむ~

 みなさんこんにちは。
 京都橘大学発達教育学部の池田修です。生成AIの連載は2回目になりました。1回目でご案内した画像生成は楽しんでいただけましたでしょうか?人にもよるのですが、このお絵かきは、ハマる方はかなりハマります。私も結構ハマりました。
 今回も画像生成をやりましょう。画像生成の楽しみ方を、ご案内しましょう。

画像生成の活用

 生成AIは、OpenAIのChatGPT-4か、MicrosoftのEDGEというブラウザーにある、Copilotの「より創造的モード」を使いましょう。

1.自分の書いた文章をイラストにする

 *読者の皆さんの中には、学級通信を書いたり、企画書を書いたり、プレゼンテーションをされる方は多くいるかと思います。その文章にイラストを入れる場合、今はどのようにしているでしょうか?著作権フリーのイラストから、書いてある文章に合っているものを探してはめ込むということをしているのではないでしょうか。これ、結構大変ですよね。
 パラダイムシフトしましょう。探すのではなく、作るのです。その文章にぴったりのイラストを生成AIに描いてもらいましょう。*

 ということで、*から*の間にある文章を生成AIで絵にしてもらったのが、上のイラストです(*1)
 出てきたものをベースにして、自分のイメージに合うものを作ります。描かせます。私は学会の発表のプレゼンテーションの文言をイラストにしてもらったことがあります。なかなか優秀ですよ。

2.物語の登場人物をイラストにする

 「文章を描く」の延長ともいえますが、小説で描かれた登場人物をイラストにすることもできます。
 「授業で生成AIを活用する」という点でいえば、描かれたイラストを題材にクイズにしても楽しいですね。
 たとえば「国語の教科書に出てくる物語や小説の登場人物の絵を描きましょう。その絵を見て、多くの人が当てることができた作品を優秀作品にしましょう」というように。
 次のイラストは、私が国語の教科書にある、とある作品のクライマックスシーンを描いたものです。さて、何の作品でしょうか。誰を描いているのでしょうか。どの場面でしょうか。答えは、この文章の最後にあります(^^)。

3.音楽のイメージをイラストにする

 音楽もイラストにしてくれます。これをクイズにして遊んでも楽しいです。「このイラストは、誰の何という曲を描いたものでしょうか?」という問いです。
 クラシックの有名な曲をイラストにします。著作権が切れている作曲家の作品がいいと思います。例えば、「ショパンのノクターンの絵を描いて」というと、次のような絵を描きます。

 ただし、第1回にも書きましたが、ここでもAnchoringの問題を回避する必要があります。人間は、最初に見た情報を正しい情報だと思い込む脳の癖ですね。ですので、1枚だけ描かせておしまいにするのではなく、複数枚を描かせて、その中から自分のイメージに合っているものを選びます。描くのが簡単になった今、頭を使う場所は描くことではなく、選ぶことに移動したと考えても良いでしょう。
 Copilotであれば、4枚の絵を同時に描いてくれます。ChatGPT-4のデフォルトでは2枚です。このような絵から自分のイメージに合うものを選んで、作品とします。
 「ショパンのノクターンの絵を描いて」だけでも、このレベルの絵は描いてしまいます。ですが、ここに自分が解釈したノクターンの世界を「言葉」で書き加えていくと、そこには生成AIを活用する人の世界観が表現されることになるでしょう。
 私たちは、言葉を筆にして絵を描けるようになったのです。
 言葉が豊かであればあるほど、生成AIはその能力を発揮することになります。
 私は2023年の1月にChatGPTに出会い、このことを直感的に理解しました。そして、「あ、これは国語の先生のお仕事だ」と思い、ChatGPTにのめり込んでいったのでした。

 あれ?既定の文字数になりました。まだまだお伝えしたいことはあるんですけど(^^)。
 では、この「イラストで楽しむ」は第3回にも続きます。

「2.物語の登場人物をイラストにする」の答え
森鴎外作『高瀬舟』の登場人物の喜助。婆さんが行ってしまった後、「それから年寄衆がお出になつて、役場へ連れて行かれますまで、わたくしは剃刀を傍に置いて、目を半分あいた儘死んでゐる弟の顏を見詰めてゐたのでございます。」(*2)のシーンです。

*1:生成AIはその性質上、全く同じプロンプトを入力しても都度異なる回答が生成されます。
*2:青空文庫 森鴎外著『高瀬舟』より引用
https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/691_15352.html

池田 修(いけだ おさむ)
京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校の国語科教員を経て現職。「学級を楽しく経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」をテーマに研究・教育を行う。著書は『作文指導を変える つまづきの本質から迫る実践法』、『子供の「困った発言」に5秒で返す 教師の「切り返し」』(明治図書)など多数。文部科学省学校DX戦略アドバイザー。生成AI教育的活用の研究開発に取り組む。

Webマガジンまなびと:「学び!とICT」Vol.14

Webマガジン:「学び!とICT」Vol.14 “教育現場での生成AIの活用 第2回 ~イラストで楽しむ~”を追加しました。

思考を顕在化し吟味し合う道徳授業実践~Padletによる相互参照・相互交流の環境の構築~「わりこみ」(第2学年)

※本実践は兵庫教育大学附属小学校に在籍されていた際の実践です。

1.はじめに

 「考え、議論する道徳」と掲げられているように、道徳科では対話的な授業を基本とすることが多い。対話によって、子どもたちそれぞれの内面にある考えや価値観を顕在化する。そうして顕在化した考えや価値観をクラスの仲間とさらに吟味しあうことで、自分の考えとの相違点や共通点を自覚することができる。そして、自分の価値観を再構成したり、自己を見つめ、自己の生き方について考えを深めたりしていくのである。学校現場の実情としては、発達の段階や、学習の時期によって対話が難しい場合があるものの、個々の内面にある多様な考えや価値観が顕在化してこなければ、いくら個人が深く生き方について考えていたとしても、集団で学ぶ意義は薄れてしまうだろう。
 そんな課題に対して、一人一台端末、ICTの活用が役に立つ。ICTは時間的、空間的制限を取り払うことが可能である。集団の中で声をあげられなくても、端末を通して考えを共有することで、クラスの友達同士の考えを互いに見合い、交流することができる。それを相互参照・相互交流ともいう。相互参照・相互交流はICTの活用としては基本的なものであるが、発達の段階や学級の成熟度に合ったアプリやシステムでなければ、操作の難しさや機能の物足りなさから活用を避けられてしまうことがあった。そこで今回は、オンライン掲示板アプリ「Padlet」を扱う。このアプリはブラウザで起動し、子どもの端末側でインストールする必要がないため、容易に導入することができる。また、操作が簡単で、見やすくポップなUI(ユーザーインターフェイス)が特長である。そのため低学年であっても操作に混乱することなく、簡単に使用することができる。今回はその特長を活かし、2年生の授業の終末で活用した。

2.主題設定について

 本授業では、主題を「よいこと、よくないことってどうきめる?」と設定した。物事の善悪について的確に判断し、自らの正しいと思うところに従って行動するためには自律性が必要である。つまり、善悪の判断力を養うことは、同時に自律的な態度を育てていくこととも言えるだろう。自律的な態度は、子どもたちがこれから価値観の多様な未来の社会を主体的に生き抜く力となる。また、善悪の判断力を養うためには、第一に、よいことやよくないことの判断基準を知ることが重要である。加えて、よいと判断したことを実行する勇気も大切である。しかし、この学年の子どもたちは、自分の物事の判断について無意識的であることが多い。また、よいことやよくないことが分かっていても、自分の利害や自信の欠如から正しいことを明言できないことも少なくない。このような実態を踏まえると、自分の決断した物事の判断理由について考えることを通して、善悪の判断基準を自分の内に構築することが重要である。また、よいことやよくないことを判断し、行動できる喜びを感じていくことも重要である。したがって、本主題を通して、よいこととよくないことの判断の理由について考えることで、よいと思うことを進んで行おうとする道徳的な判断力を養いたい。

3.教材について

 今回扱う教材「わりこみ」は、人気のすべり台の行列に並ぶけんじと「ぼく」のところに、友達のいさむが割り込もうとする話である。後から列に来たいさむは、最初けんじに「入れて。」とお願いをする。いさむと仲良しのけんじは「いいよ。ぼくの後ろに入れよ。」と言う。しかし、けんじの後ろに並んでいた「ぼく」は、順番を抜かれたくない気持ちからけんじを睨みつける。すると、「ぼく」の気持ちを察したけんじが「じゃあ、きみの後ろならいいだろう。」と提案する。「ぼく」は一瞬迷いつつも、最終的には、「やっぱり、わりこみはいけないよ。」と割り込みがよくないことをはっきりと伝えるという話である。自分の損得を考えて判断に迷う「ぼく」と、周りの気持ちを考えて判断する「ぼく」を比較することが容易な構図であり、本主題に設定した、よいこととよくないことの判断の理由について考えることができる教材である。また、本教材は多くの子どもたちにとって似たような生活経験があると考えられる。そのため、登場人物の気持ちに自我関与しやすく、自分のこととして考えやすいという特徴もある。

4.実践報告

(1)主題名(内容項目)

 よいこと、よくないことってどうきめる? A[善悪の判断、自律、自由と責任]

(2)本時のねらい

 割り込みをしようとした友達のいさむに「自分が損をしなければ」と心が揺れつつも、「わりこみはいけないよ。」と言った「ぼく」の気持ちを考えることを通して、よいこと、よくないことの判断の理由について考え、よいと思うことを進んで行おうとする道徳的判断力を養う。

(3)展開例

学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


○(3枚のイラストを順番に見せながら)これってよいこと?よくないこと?それはなぜ?
・よい。
・よくない。
・どちらとも言える。

◇自分たちの善悪の判断基準について意識を向けるために問う。また、教材の人物の「新しい遊具で早く遊びたい。」と言うワクワクする気持ちに共感し、自我関与を促すために、3枚目のイラストでは教材場面に似たものを提示する。

学習テーマ:よいこと、よくないことってどうきめる?



(前段)

○話を読み、思ったことを教えてね。
・ちゃんと並んでいるのに、わりこんだらいやな気持ちになるな。
・けんじもいさむもよくない。
・自分だけわりこみするのはずるい。
○けんじが「きみの後ろならいいだろう。」と言った時、「ぼく」はどのような気持ちだっただろう。
・後ろだったらいいかも。
・自分の順番は変わらないからいいかも。
・ちょっとくらい大丈夫かな。

◇主体的に学びに向かうことができるようにするために、子どもたちの素直な感想や、疑問から授業を展開していく。

◇自分の損得で判断してしまうという人間的な弱さに共感し、これまでの自分の経験と重ねて振り返られるように「ぼく」の心の弱さが表れている場面の気持ちを問う。

☆心の弱さによって損得で判断したり、正しいことが言えなかったりする気持ちに共感し、「自分にもそのようなことがなかったか。」と自己を見つめて考えていたか。



(後段)

○「順番が変わらないなら……」と心が揺れつつも、なぜ「ぼく」は「わりこみはよくないよ。」と注意したのだろう。
・自分さえよければいいわけではないから。
・周りの人の気持ちも考えて判断した方がいいと思ったから。
・自分の損得で決めるよりも、みんなのことを考えて決めるほうがレベルが高いと思うから。

◇自分の損得以外の判断理由について考えることができるようにするために、人間的な弱さを表出しつつもそれを乗り越え、注意した「ぼく」の気持ちを問う。
◇「ぼく」の考えるよいこと、よくないことに対して多面的・多角的な思考を促すために、適宜問い返しを入れる。
【多面的・多角的な思考を促す問い返しの例】
・(みんなの気持ちを考えて)わりこみはよくないと言う意見があるけれど、けんじさんがいさむさんに「入っていいよ。」というのはやさしさではないのだろうか。
・みんなのことを考えて決める判断はなぜよいの?
・もし後ろに並んでいる子が文句を言っていなかったら「ぼく」は列に入れていたのかな?
☆よいこと、よくないことの判断理由について多面的・多角的に考えようとしていたか。


○ここまでの話を全て踏まえて、登場人物をほめてあげよう。
・「ぼく」さんへ。勇気を出してだめなことを伝えたことがすごいね。
・けんじさんへ。最後は割り込みがだめなことに気づけたのが素敵だね。

◇登場人物を「ほめる」活動を設定することで、授業の話し合いを経て考えた、自分なりのよいこと、よくないことの判断が自然とできる場とする。オンライン掲示板アプリ「Padlet」を活用することで、多様な意見を相互参照、相互交流し、短時間や授業時間外でも思考を深めることができるようにする。

5.授業記録

【導入】
3枚のイラストを順番に提示し「よいことかよくないことか」を判断する。

イラスト①
イラスト②

イラスト③

T 「よいこと、よくないことってどうきめる?」ノートに書きましょう。
T (イラスト①を提示して)家でお母さんが片付けしていました。それをこの子は手伝いました。これってよいこと?
C よいこと。
T よいことなんだね。ではこれは?
T (イラスト②を提示して)給食いっぱい食べたいな。なので、おかわりすること。
C よいこと。
C よくないこと。
C いいけど……。
T いいけど?
C おのこしはだめ。
C おかわりする人いるでしょ?好きなものだけはだめ?
C 子どもは小さい。どんどん成⻑する。だからおかわりはよい。
C 成長するけど、食べすぎはだめ。おなかがいたくなる。
C うんうん。
T (イラスト③を提示して)新しくて大きい遊具ができたらうれしい?
C うれしい!
C 僕はうれしくない。だって授業に遅れたり、列に並ぶ時に押し合いになったりする。
T 列って言ったけど、お友達が「間に入っていい?」って言って入るのはいいこと?
C 何にも聞かずに入るのはいけないこと。
C 並んでいて、「いいよ」って言っても、後ろの人もいいかどうか聞いてない。
C 1人だけ入ってきたらよくない。
C つけたしで、「入っていい?」って聞いて「いい。」というのはいい?まだ聞いていない後ろに並んでいる子がいやな気持ちになる。
C 〇〇ちゃんと〇〇ちゃんがいったように、後ろの人はせっかく並んでいるのにまた時間がかかる。
C 「入っていい?」って全員に聞く。
T 「よいこと」って言った人は?
C ゆずり合いだからいいこと。
C ゆずった子、ゆずられた子がうれしい。
T 「よいこと」って、自分がうれしいとか、ゆずってくれた子がうれしいからよいこと、ってことか。
C うんうん。

(考察)

よいこと、よくないことについての自分たちの判断に意識を向け、判断した理由に対して自覚的になるための導入を設定した。教材と似た場面を扱ったイラスト(イラスト③)を提示したときには、すでに「順番抜かしはよくない。」「後ろの人が嫌な気持ちになる。」というように、みんなのことを考えた判断をしている子が多かった。一方で、目の前の相手に視点を向けて、「ゆずり合い」であることと捉え、よい判断であると考える子もいた。このズレを授業の中心で扱うことで議論を呼べるのではないかと考え、授業展開を調整した。このように、導入は、子どもの実態を把握し、授業展開を柔軟に変更させる役割を担ったり、教材の状況設定に自己を重ね、主体的に学びを進めやすくしたりする機能がある。

【展開前段】
教材を読み、興味をもった部分から話を展開し、わりこみについて考えていく。わりこみについて表出した価値観をもとに、「みんなのことを考えた判断」と「自分の損得を考えた判断」を比較し、人間理解とともに、よいこと、よくないことの判断について考えていく。

T 先生が読むから、思った気持ち(よい・よくない・どちらともいえる)に印をつけて、終わったら感想を教えてね。では、読みます。(範読)
(教材範読後)
C いさむさんって、どの人?
T では、人物を確認しようか。(人物のイラストを順番に指しながら。)
T この人は?
C 「ぼく」。
C けんじ。
C いさむ。
T いさむがけんじに「入れて」と言って、けんじが「ぼくのうしろに入って」という話だね。
C 「ぼく」はちゃんとけんじさんの後ろに並んでいたのに、わりこまれていやな気持ちになったな。
T 〇〇さんは何を思った?
C いやそうな顔している
C 〇〇さんと〇〇さんにつけたしで、1人だけ入れていたからほかの後ろの人がいやな気持ちになる。
T あなたが入ったら後ろの人が困るっていうこと?
C 「ずるい」って言葉を聞いたことあるやろ?
C うん。
C 1人だけわりこんで列に入るのは「ずるい」やろ。後ろの子も入りたいはずだから。
T 「ずるい」ってプラス?マイナス?

C マイナス。
C けんじさんはいいと思うけど、周りの人がいやな気持ちになる。体でやっていい?表してみてもいい?(動作化)
T 〇〇さんどんな気持ち?
C いまの〇〇さんが前でやってくれた顔でわかるんやけど、すごくいやな気持ち。「何でそこに入ったん?」こんな感じ。
C そうそう。
T どんな顔?
C こんな顔。
C せっかく並んでたのにわりこんでくると、場所をとられたみたいになるから。
C みんなわりこみされたらいややん?それと同じで、わりこみしたらあかんからちゃんと順番に並ぶ。
C せっかくすべり台で早く並んだのにぬかされたらいや。
C 5人くらい並んでいるのになんで1人だけ?ずるい。
T わりこむことがいやな気持ちになることはよくわかった。
C もし、自分たちが遠足に行って、同じように遊んでてわりこんで来た人がいたら、だれでもいやな気持ちになる。
T いまの考えの意味はわかる?その人たちだけでなく、みんなも含め、他のいろんな人もいやな気持ちになるってことだね。
T じゃあ、わりこみはだめなんだ。
C 絶対だめ!
T でも、主人公は一度、「ぼく」の後ろだったらいいかも、って思ってたよね。これはなんで?
C 自分の後ろやったら順番が変わらないから。
C そうそう。自分は損しないから。
C あかん。
C 危険人物が2人になった!けんじさんも「ぼく」もいじわるや!
C 自分は前にいるから後ろは気にするけど、自分は気にするから後ろにしたと思う。
T こういうきめかたをしたことってある?自分は損しないからまぁいいかって。
C うん。(数人がうなづく。)
C でもさ、「入ってもいい?」って入ったら自分の負けやねん。後ろの人が勝つってなる。後ろになる人はいやな気持ちになるやろ。やさしい気持ちで心を落ち着かせてるから勝ちやと思う。
C 待っている間に楽しいとか怖いとかわかるやんか。だからぼくなら入ってもらってもいい。
T そうなの?並んでいて、自分の先にいかれたらいやじゃないの?
T 〇〇さんはいま、「先に行ったら、楽しいとか怖いってわかる」って言っているけどさ、〇〇さんはどう思う?
C それは、人それぞれ。
T なるほど、〇〇さんはプラスの考えが出来る。だけど、「人それぞれ」と言った〇〇さんのように、それがよくないって思う人もいるんだね。このようにいろいろな考え方があることがわかるのは道徳の授業でたいせつなことの一つだね。
T このときの「ぼく」は、「順番が遅くならなきゃいい」って心ゆらいじゃったんだよね。
C なんで心ゆれているか。後ろにいる人に心をパーンってされた(銃で打つポーズをしながら)。
C 「ぼく」は「自分の順番が変わらなかったらいい」って思っているけど、最後にやっぱり「周りの子はどんな気持ちだったのか」って考えたんだと思う。
T 最初「ぼく」は「後ろに入れても損しないからいい」って思ったんだけど、後で「ぼく」は気付いたんだね。「周りの人はいやな気持ちだ」って。
C この「ぼく」は人に振り回されている。例えばお城やったらけんじさんが王さまみたいになって、「ぼく」は家来みたいになっている。けんじさんの言いなりになりかけている。
T つぶやいていた〇〇さん。
C 言うことを聞かされている。
C (教科書の場面絵を見ながら)なんで最後の2人は照れているの?
C だってさ、「ぼく」が言って後ろの子が「ずるいなあ」ってつぶやいていた。その時にちゃんと言ってくれて順番が遅くならずにすんだ。だから、「ありがとう」って思っているんじゃないの?
C 結局、最後にいさむさんが「並ぶわ。」って言ったらいいんだ。
C 後ろの人に聞かずにやったらあかんって書いてるやん?教科書にある「入れて。」「ぼくのうしろに入れよ。」これはよくないってことをしている。
T やっぱり自分の損得じゃなく、周りの人の気持ちを考えてよいこと、よくないことを考えることが大事、ってことかな。

(考察)

子どもの素直な思いから授業を展開していくため、範読後に感想交流を取り入れた。多くの子どもたちがわりこみのあった事象に対して、「周りの人たちにとって迷惑である」という視点からの判断をしていた。そこで「でも『ぼく』の後ろだったらいいかもと悩んだよね?」と自分の損得で判断しようとした「ぼく」を比較対象として取り上げて問うた。すると、「わかる。」「順番が変わらないから。」などと人物の人間的な弱さの部分に共感しつつも、損得を考え判断していた自分が心の中にいたことを見つめていた。「みんなのことを考えた判断」「自分の損得の判断」を比較しながら、後者の判断に一瞬心が揺らいだ「ぼく」に対して、「危険人物」「王様みたい」「自分の負け」と表現し、物事の判断に対する重み付けを自然と行い、テーマについて吟味していたように感じた。このように、種類の違う価値観同士を比較することは、考えを深めたり、テーマについて考えることの手立てとなることがわかる。ただ、今回は、「みんなのことを考えた判断」と「自分の損得を考えた判断」を対話の流れの中で比較していたため、話についていけない子どももいた。「今はAとBを比べているよね。」などと教師が適宜、話の構造を説明する介入を行うことで、理解や対話の熱が全体に広がっていったのではないかと考える。

【展開後段】
「みんなのことを考えた判断」に焦点を当て、けんじが友達を列に入れた行為を取り上げ、「友達に場所をゆずること」はやさしさではなかったのか?と問う。そうすることで、テーマに設定している、「よいこと、よくないことのきめかた」について多面的・多角的な思考を働かせることができ、考えを深めていく。

T ちょっと聞いていい?
C いいよ。
T けんじさんはいさむくんにゆずってあげたよね?これってけんじからいさむへのやさしさじゃないの?ほら、授業の初めにも(導入で答えたことを取り上げて)「ゆずり合いならいい」って言ってるよ。
C でも、でも。(一斉につぶやく)
C 悪いやさしさ!悪いよいこと!
T つぶやきが多いね。近くの人としゃべってごらん。
(グループトーク)
T では、いま話したことを聞かせて。
C ゆずって入れてあげたら、後ろの人がどんどん後ろに回されていくやろ?それやったら最初から一番後ろにすべき。
C ゆずるのはいいことなんやけど、後ろの人がどう思うかはわからないから、後ろの人にも聞いたらいいんじゃないかな。
C 〇〇さんにつけたしで、ゆずるのはやさしくていいことやけど、後ろの人のことを考えてないとよくない。
T なんで、みんなのことを考えないとだめなの?
C 自分のことばっかりだと、後ろの人が「早くすべりたい」っていやな気持ちになる。
T けんじくんは、いさむくんへのやさしさではないの?
C わるいよいこと!いさむ。後ろの人にはわるいことをしている。
T なるほど。難しいね。よいこと、よくないことって、どう決めるの?
C いさむさんをことわって、後ろに並んでもらったらいい。
T 〇〇さん、何かつぶやいていた?
C (教科書の場面絵で後ろに並んでいる人を順番に指差しながら)そうすると、うれしい、うれしい、うれしい……正しい、ってなる。
T 正しいことはうれしい?
T うん。
T では、タブレットを出して。
T 今日お話に出てきた人を1人ほめてあげてください。
(Padletに記入)
(Padletの画面を写したTVモニターの前に集まって意見共有・ふり返り)
T 何人か当てていいかな。書いたことを詳しく教えてね。

T 「『ぼく』さんへ。『ぼく』さんは勇気をもってやっぱりだめだなと言っていたからすごいなと思いました。」これを書いてくれた人。
C はい。
T 理由を聞かせてくれる?
C 言うのがよいことでも言いづらかったりするから。
C そう。正しいことを言うのはすごいねん。
C だから勇気があるって。
T 確かに。正しいと思ったことを言うのは勇気がいることかもね。「正しいことは正しいと言おう」ってことだね。黒板に書いておこう。
T けんじさんをほめている人もいるね。「けんじさんへ。最後はいいこと悪いことを区別できていてすごい。」これは?
C あとでわりこみはよくないことって気づいていたからすごい。最後はいさむもみんな笑顔になっている。
T 確かに。顔にも注目したんだね。
T もっと聞きたかったけど、時間がきてしまったから今日はここで終わろう。またたくさん意見聞かせてね。書いてくれたのもまたじっくり見てみてね。

(考察)

子どもたちは話し合いながら、 自分の損得を考えた判断みんなのことを考えた判断 という重み付けをしていた。そこで展開後段では、「みんなのことを考えた判断」に対して多面的・多角的な思考を働かせられるよう、「けんじの行為はいさむへのやさしさではないのか。」と問うた。子どもたちは、目の前の友達にとってはよいことであっても、視野を広げてみると、周りの人たちにとってはよい判断ではない、ということを考えていた。そのことはイラストを順番に指差し、「うれしい」と言う姿や、最終的に笑顔になった、いさむ、けんじの表情への着目からも読み取れる。このように、子どもにとってよいと思われる価値観同士を比較することによって多面的・多角的な思考が働き、考えを深める手立てとなった。
しかし、一方で、「なぜ、みんながうれしいことがよい判断だと思うのか」の明確な理由については話し合うことができなかった。議論が足りないと感じる点についてはしっかりと立ち止まり、全体で考える時間を取らなければ学びは浅くなる。そのためにも、教師が授業分析の段階で、子どもたちと考えたいことについて核となる部分を明確にもっておく必要があるだろう。

6.板書例

7.授業への工夫など

(1)多面的・多角的な考えを働かせるための比較思考を用いた問いの設定
 道徳科の目標には「物事を多面的・多角的に考え」という文言がある。多面的・多角的に考えることを通して、道徳的価値の意義や意味を様々に捉えたり、唯一絶対の解がない問題に対しての柔軟な思考力を養ったりできる。今回は、そのために「みんなのことを考えた判断」「自分の損得を考えた判断」「目の前の友達へのやさしさの判断」の3つを比較対象として取り上げた。子どもたちにとって共感し得る価値観であるため、よいこと、よくないことの判断の理由について精緻に比較・吟味することができたと考える。また、比較は、共通項を見出すことができることから、道徳的価値についての普遍的でたいせつなものを見つめることができるだろう。

(2)相互参照・相互交流を容易に促すオンライン掲示板アプリ「Padlet」の活用
 “はじめに”でも述べたように、道徳科授業においてICTを上手く活用し、相互参照・相互交流を行うことは有効である。しかし、ICTの活用に慣れていない学級や低学年の場合、操作や作業が複雑になり時間がかかることなどの課題もあって、子どもたちが相互参照・相互交流のよさを感じる前に使用を控えてしまいがちとなる。つまり、操作や作業が簡単かつ、相互参照・相互交流のための共有性に優れたツールが必要になる。今回活用した「Padlet」はまさに、それらの課題を解決してくれるものである。具体的な特徴としては、子どもが入力した投稿が自動で整理され画面に配置されること、「いいね」やコメントをつけるなどの相互交流の機能が充実していること、アプリを特別にダウンロードしなくても、教師がQRコードを提示し子どもが端末のカメラから読み取るだけで使用できること、などである。今回、これらの機能により、相互参照・相互交流を短時間で行うことができた。

8.考察

 今回は、オンライン掲示板アプリ「Padlet」を活用した実践を紹介した。本授業での活用場面は終末のみにとどまったが、子どもたちの学習状況に応じて、導入や、展開前段、または1時間を通して活用することもできるだろう。今回、子どもたちにとって「Padlet」を使用するのは初めてに近い状態であった。しかし、2年生の子どもたちでも、自分なりの考えを素早く入力・投稿し、友達の投稿をたくさん読み、さらには自然と「いいね」やコメントをつけるなどしていた。端末に反映された友達の投稿を読みながら、「へー。」「〇〇くんはいさむくんをほめているんだ。」「これはぼくも同じ気持ちだ。」などとつぶやいている姿も見られた。また、授業が終わってからも数日間は友達の投稿に対するコメントが付け加えられていた。これらはまさに相互参照・相互交流を容易に行うことができ、かつそのよさを堪能している姿である。そしてそれは1時間の授業にとどまるものではない。
 ICTの活用を考えるときには、そのよさを子どもたちが十二分に感じられる環境デザインが最も重要なのだと改めて感じた。今後は、終末以外で活用するなど、さらに実践を積み重ねていきたい。

※QRコードはデンソーウェーブの登録商標です。