この絵を再現して(させて)ください ―Adobe Fireflyを用いた対話型協創鑑賞活動―(第1学年)

1.題材名

この絵を再現して(させて)ください ―Adobe Fireflyを用いた対話型協創鑑賞活動―
実施学年:1学年(美術1)
時間数:1時間(45分)

2.題材設定の理由

 「楽しく、ゲーム感覚で、共通事項ア(木を見る視点)、イ(森を見る視点)を培うことはできないか」。本題材はこのような問いから出発した。個性や主体性、対話や傾聴、共感や受容などは、教育の域を超えて広く求められるものであろう。これらを並存させながら、先の問いを達成するために、本題材では、Adobe社が提供する生成AI「Firefly」の特性をいかして、対話型協創鑑賞活動を行うこととした。

3.準備(材料・用具)

教師:Google Classroomの開設、Adobe Fireflyのアカウント、HP(Adobe Firefly)のURL、Adobe Fireflyで生成した鑑賞用の画像、大型モニターもしくはプロジェクタ、ふりかえりシート
生徒:Google Classroomの登録、端末(OSは問わないが、Wifiに接続可能な状態であること)

4.学びの目標

【知識及び技能】(技能は評価対象としない)

  • 鑑賞画像に見られる造形の要素の働きを理解する。
  • 鑑賞画像に見られる造形的な特徴などを基に、全体のイメージや作風、様式などで捉えることを理解する。

【思考力・判断力・表現力等】

  • 鑑賞画像の主題や作者の意図について、グループで対話的かつ多角的に解釈を深める。
  • 鑑賞画像の造形的な特徴や表現の意図を分析し、具体的な再現計画を協創的に構築する。

【学びに向かう力・人間性等】

  • 鑑賞活動を通して、美しさや作者の思いを主体的に感じ取ろうとする。
  • グループでの対話や協創を通して、多様な意見を尊重し、鑑賞活動に意欲的に取り組む。

5.評価規準

【知識・技能】(Fireflyへのプロンプト入力は技能と見做さない)

知識

A:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを正確に捉え、再現のために意図的に活用している。
B:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを概ね捉え、再現のために活用している。
C:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを捉えたり、再現のために活用したりするために、さらなる指導・支援が必要だと思われる。

【思考・判断・表現】

鑑賞

A:鑑造形的な特徴や表現の意図について多角的に考察し、再現する上での課題をグループで主体的に探究し、解決策を協創的に見出している。
B:鑑造形的な特徴や表現の意図について考察し、再現する上での課題をグループで探究し、解決策を見出している。
C:鑑造形的な特徴や表現の意図について考察したり、再現する上での課題をグループで探究したり、解決策を見出したりするために、さらなる指導・支援が必要だと思われる。

【主体的に学習に取り組む態度】

態度 鑑賞

A:態鑑賞活動に主体的に取り組み、美しさや作者の思いを感じ取ろうとするとともに、グループでの対話を通して多様な意見を尊重し、協創的に深く関わっている。
B:態鑑賞活動に意欲的に取り組み、美しさや作者の思いを感じ取ろうとするとともに、グループでの対話を通して協創的に関わっている。
C:態鑑賞活動に主体的に取り組んだり、美しさや作者の思いを感じ取ったり、グループでの対話を通して競争的に関わっていくために、さらなる指導・支援が必要であると思われる。

6.指導のポイント

①教材について
 本授業の主教材は、教師が事前にFireflyで作成した鑑賞用画像である。そのため、鑑賞用画像は生徒が共通事項ア・イの視点を働かせながら、再現のプロセスを深く考えられるよう、以下のような特徴を持たせるとよいと思われる。

  • 色のグラデーション、独特な質感(とりわけ、光の効果)、複雑な構図など、いくつかの造形要素が絡み合っているもの。
  • 鑑賞者(生徒)が物語を想像したり、作者の心情やメッセージを考えたりしやすいもの。
  • Fireflyのプロンプトだけでは簡単に再現できない、試行錯誤が必要なもの。
  • 多様な解釈が生まれる可能性があるもの。

②学習過程について
 50分授業や55分授業で実践する場合は、展開の時間を長く設け、生徒がグループ間を往来し、他のグループの視点(プロンプト)や生成された画像などを鑑賞しあう段階を設定するのがよいと思われる。

③指導と評価について
 指導においては、導入で生徒の興味・関心を高め、展開の序盤(ソフトウェアの体験)で生徒が思い切り楽しめるようにすることが重要である。
 Fireflyは、プロンプトの入力順によって生成される画像が大きく異なる場合があるため、適宜、その旨を生徒に伝えるとよいと思われる。
 共通事項ア・イの視点を理解するために、観賞用画像と生成された画像の共通点や相違点などについて考えたり、発見したりすることにつながる指導助言を適宜挟むことが重要である。

④生徒の実態について
 本校の生徒は、実に真面目で、意欲的に学習活動に取り組む(私語も全く見られない)。一方で、筆者が兼務する他の学校には、私語がやめられない、自席に留まることが難しい、といった生徒が多数在籍する学級もある。学習指導要領には「生徒の実態に応じて」という文言が見られるが、あまり深く考えず、当該文言を逆手に取るぐらいの気楽さで、「楽しく、ゲーム感覚で、鑑賞の目を少しでも養ってもらえたらいいな」程度の気持ちで実践していただけると有難い限りである。

7.題材の指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法



5

・本時の活動を知る。

◆今までとは異なる方法で、鑑賞活動を行うことを伝える(ここでは具体的な流れは示さない)。

・グループ(1グループ=3~4名)に分かれる。

◆生徒の特性に配慮しながら、グループを構成する(年度初めに、自己分析や不安点、配慮希望などに関するアンケートを実施しておくと、グループを作成する際に役立つ)。



20

・「これ1」を鑑賞する(1分程度)。

これ1

活動の様子①

◆「これ1」を大型モニターに映し出し、無言で「これ1」を鑑賞するよう伝える。

・Adobe Fireflyに登録する。

・Adobe Fireflyの特性を知る。

活動の様子②

活動の様子③

◆Adobe Fireflyには無料生成可能な回数(クレジット)に制限があるため、3回ほど体験したら止めるよう伝える。

・本時の具体的な活動を知る。

◆グループで対話的、共感的、受容的に協力しながら、「これ1」の再現に取り組むよう伝える。
◆一人ひとりが自分の端末を用いる、または、クレジットを節約するために、輪番形式で端末を用いる、何れの方法でもよいと伝える。

・Adobe Fireflyを用いて、「これ1」を再現する・させる。

活動の様子④

活動の様子⑤

活動の様子⑥

活動の様子⑦

活動の様子⑧

活動の様子⑨

◆グループを見て回りながら、プロンプトを確認し、そこにみられる特徴をもとに助言を行う。
◆適宜、全体に対して、共通事項ア・イの視点に関わる問いかけを行う(例:「一部分だけを見ていませんか?」、「画像全体からどんな印象を受けますか?」など)
◆プロンプトの入力順を変更すると、結果が異なることを伝える。
◆対話的、共感的、受容的に進められるよう、適宜、全体に対して問いかけを行う(例:「いろんな人の考えに耳を傾けましょうね」、「全員の考えを共有できていますか」、「まだ発言していない人がいたら、ぜひその人がどんなことを感じたのか聞かせてもらいましょう」など)。

・生成した画像の中から、よいと思う画像を数点ダウンロードする。




20

・Google Forms「プロンプト」に用意された問いに答える。

・同Formsに完成画像を提出する(代表者1名)。

・全員で完成画像を鑑賞し、気づきや感動を共有する。

◆完成画像を大型モニターに表示する(可能であれば、観賞用画像と各グループの完成画像を並列表示する)。

・見た目が最も近しいと思う完成画像を選出する。

◆選ばれたグループに、こだわった点や苦戦した点などを質問する。

・各グループが活動を振り返り、学びや感動を言語化する。

◆上記と同様の質問を、各グループに行う。



◎ふりかえりシート【知・鑑・態】

8.授業を終えて

 本実践は、Adobe社のAI画像生成ソフト「Adobe Firefly」を教材として活用し、楽しく、ゲーム感覚で【共通事項】の視点を培うことを目的とした。
 Fireflyは、アカウント登録をすることで一定回数まで無料で利用でき、プロンプトと呼ばれるテキスト入力によって画像が生成される。
 本実践では、教師(筆者)がFireflyで生成した鑑賞用画像を生徒に提示し、グループで協力してその画像をFireflyで再現させるという課題を設定した。画像を再現するためには、単に色や形といった造形の要素を認識するだけでなく、それらの要素から連想される作者の心情や意図といった、より深い解釈を言語化し、プロンプトとして入力することが求められる。筆者は、この過程で【共通事項】の2つの視点(「木を見る視点」と「森を見る視点」)が自然と働くと予想した。しかし、プロンプトを分析した結果、生徒の多くは視覚的な情報の言語化に留まっており、主題に関するプロンプトはごく僅かであった。これは、筆者の指導助言が適切でなかったからであると思われる(生徒が表層的な情報から内面的な解釈へと踏み込むための助言が乏しかった)。この点については深く反省するところである。
 一方で、本実践では、AI画像生成ソフトが、その活用方法によっては、鑑賞の視点を活性化させる有効なツールとなる可能性が確認された。例えば、生徒は、プロンプトが瞬時に画像生成されるという過程で、自身の視点(要求)と生成された画像(結果)との間に生じた相違や違和によい意味で執着していた。また、それ故に、再現(相違や違和の修正)のために、さらに作品を深く鑑賞し、感じたことや見つけたことを言語化するといったサイクルが生じていた。さらには、グループでプロンプトを考案するという過程が、他者の多様な視点に触れ、自身の見方を相対化する良い機会にもなっていた。
 今後は、本実践で得られたプロンプトの傾向や生徒の対話の様子を詳細に分析し、生徒一人ひとりの見方・考え方がさらに深まるような指導助言のあり方について考察を重ねていきたい。
 下記は、生徒が入力したプロンプトとその生成画像である。なお、プロンプトは生徒が入力した文章を原文のまま掲載している。

生徒作品①

プロンプト「赤子を抱き抱える母親だけがいてその母親は黒いヒジャブを着てます。その奥には湖を隔ててインドの宮殿がありさらにその奥から夕陽が差し込んでいます。赤子は白人で母親は少し黒い肌です。画像は少しリアルです。お互いに目を瞑っていて母親は抱き抱えている赤子に視線を落としています。」

生徒作品②

プロンプト「左奥に少し大きくインドの建物のタージマハルがあり、その裏から逆光が差し込んでいて手前にいる赤ちゃんを抱えたお母さんが、赤ちゃんのほうを見て微笑んでいて、お母さんは黒いヒジャブを着ていて、赤ちゃんは白い布にくるまれて寝ている。また、タージマハルと親子の間に湖があり、男性はいない。」

生徒作品③

プロンプト「白いローブに身を包む赤ちゃんを抱くイスラム教徒の黒のローブを身にまとう女性 水辺のアラジンの宮殿の後ろに夕日 赤ちゃんは女性の腕の中で寝ている 空に鳥のシルエット」

生徒作品④

プロンプト「真ん中大きくに黒人女性が肌が白くて白い帽子を被った白人の赤ちゃんを抱いていて、黒人の女性は赤ちゃんを見ている。赤ちゃんは寝ている。服はヒジャブ。 実写化 川を挟んで左に小さくアラビア宮殿があり、夕焼けがかかっている。その奥にアラビア宮殿より低い山があり、少し小さいカラスが夕焼けに向かって飛んでいる 太陽はアラビア宮殿であまり見えていない」

生徒作品⑤

プロンプト「お母さんと子供がいてヒジャブをきていて、お母さんが右側にいて黒を着ていて子供が左側で白を着ていてお母さんが子供を抱っこしている。左側にインド風の城がある。夕日をバックにカラスが飛んでいる。湖が下の方にある。お母さんと子供が画像の近くにいる。少しマットな感じ。」

生徒作品⑥

プロンプト「宮殿と夕日と湖をバック背景に黒いヒジャブを着た女性が微笑みながら白いヒジャブを着た寝ている赤ちゃんを見ているその女性は目を瞑っていて赤ちゃんを胸近くで抱えている夕日は眩し宮殿側から出ていてその上に小さな黒い鳥がいる夕日と宮殿は左側にある。親子との別れを感じられるように湖必要」

生徒作品⑦

プロンプト「右に母親黒いヒジャブ左に白いヒジャブの赤ちゃんを抱っこしている左上に黒い鳥夕日近くにインド風な城大きな湖」

生徒作品⑧

「左側にあるアラビア宮殿から夕焼けが沈んでいて夕焼けの近くで黒い小さい鳥が飛んでいるそして建物と人の間に湖があって黒いヒジャブを着た黒人の女の人が色白の白いヒジャブを着た生まれたばかりの赤ちゃんを抱いている黒人と白い肌赤ちゃんは下を向いて目をつぶっている」

生徒作品⑨

プロンプト「中央に黒色のヒジャブを着ている女の人と白色のヒジャブを着ている赤ちゃん、女の人が右、赤ちゃんが左どちらもお互いを見合って、目を瞑ってる。後ろの背景の左側にタージ・マハルという宮殿があり、それに少し隠れた夕陽が全体を照らしているような感じ 空には上の方に小さくカラスが飛んでいる」

生徒作品⑩

プロンプト「背景の左上にインドの建物のタージマハルがあって後ろから夕陽が見えて手前の右側に白い布に包まれた寝ている赤ちゃんを抱えて赤ちゃんのほうを微笑みながら見ている黒いヒジャブを着た女性」

生徒作品⑪

プロンプト「インドのお城のタージ・マハルとと夕焼けをを背景として、正面にはインド系の黒色のヒジャブを着た女性が赤ちゃんを愛おしそうに抱っこしている様子を描いてください。赤ちゃんの服の色は白色でお願いします。背景は左側にインドのお城を背景にお願いします。絵のタッチはリアル風にお願いします。女性と赤ちゃんは向き合っている様子でお願いします。」

ボックスアート(第1学年)

※本実践は情報科と連携した取り組みです。情報科としてのmy実践事例はこちら

1.題材名

「ボックスアート」(高校1年/1回2時間×全9回=18時間)

ボックスアート作品写真

2.題材設定の理由

 絵を描く際には、絵具や図案といった層の重なりを意識することが重要である。これはアナログ、デジタルを問わず共通するプロセスであり、ボックスアートの制作では、それを直感的に体感しながら、工作や色塗りを学ぶことができる。
 それぞれが発想したイメージに奥行きや空間を視覚的に再現するため、箱の内部に切り抜いたマットボードを階層的に配置して表現する。液晶タブレットやレーザーカッターといったツールを用いることで、アナログ作業とデジタル作業の融合を図り、表現の可能性を広げていく。

3.準備(材料・用具)

教師:コラージュボックス、マットボード4枚、WacomMovink(液晶タブレット)、レーザーカッター、木工用ボンド、その他端材

生徒:Macブック、Photoshop、アクリルガッシュ

4.目標

【知識及び技能】
 箱の中に配置するレイヤーの形状をイメージし、図と図の重なりを意識して原画を制作する。原画は液晶タブレットとPhotoshopを使い、レーザーカッターに出力するために必要なデータ条件で作成する。

【思考力・判断力・表現力等】
 切り取られた形状の豊かさや、重なりで生じる空間の見え方、関係性から生み出されるイメージの展開を考察しながら作図する。アクリルガッシュの特性を活かして、各自の主題に合わせた色合いに着彩する。

【学びに向かう力・人間性等】
 作業のプロセスを撮影しながら、自分の作品を客観的に評価し、作品としての秩序と発想の良い意味での裏切りや破綻を考える。

5.評価規準

【知識及び技能】
知識 切り抜いた複数枚のレイヤーを活用し、遠近感や奥行きをあらわしている。切り抜いたレイヤーを箱の中に設置する場面を想定した図になっている。
技能 液晶タブレット、Photoshop、illustratorの基本的な操作の過程を通して、適切なデータに変換することができる。Googleドライブ上に保存したデータを確認する。

【思考力・判断力・表現力等】
思考力・判断力 レーザーカッターで切り抜いた素材と、絵具による着彩との組み合わせについて、それぞれの良さが作品に結びついている。
表現力 素材のひとつひとつに形や色彩のこだわりが見られ、意図を感じられる表現になっている。各自のねらいがユニークで動きのある構成で表現されている。

【主体的に学習に取り組む態度】
 各自のテーマ設定を考えるうえで必要な資料を集め、制作するプロセスを段階的に写真に記録したり、思いを言語化したりしている。各自でGoogleスライドを編集し、計画を時には修正しながらより良くする方法を模索している。

6.指導のポイント

 ボックス内の空間をどのようにデザインさせるかは、各自の体験から得られた景色をイメージさせ、自由な発想で進めたい。図の作成には手描きのアナログ感を大切にするため、液晶タブレットを使用している。直感的に線画を作成できる液晶タブレットはそのコンセプトに合致するので、生徒の自由で豊かな発想の線を図案として残したい。
 デジタルで原画を作成する手順について、始めから液晶タブレットを使用して描き進められる生徒もいれば、紙に鉛筆で描く方がやりやすい生徒もいるので、ツールとして導入しやすい選択肢を準備しておく。併せてPhotoshop上で、紙に描いた絵や手持ちの写真資料から線画に起こすためのトレースの方法もレクチャーする。
 ボックスアートはレイヤー構造を活かした立体作品であるため、構想を考えるうえで、近景、中景、遠景を意識させることが大切である。そのため、事前に「レイヤーの彫刻」という教材を使って、レイヤー構造を視覚的に学ぶ。透明な塩ビ板にマジックで絵を描き、一定間隔で重ねてゆく作品で、描いた図と図の重なりで立体を表現する。さらに、切り取られた図と背景、下地の色と関係性をとらえるため、平面上の重なりを利用した「切り絵」制作も実施している。
 レーザーカッターは、手作業には困難な形状を短時間で綺麗に出力することができるツールで、線データを指示通りに精密に素材を切り抜く。したがって、線の途切れや線の交差がカットにどう影響してしまうのかを想像する必要がある。切り取られた時にどのような部品と端材が残るのか、空間に配置した状態をイメージしながら元の図案を考えさせたい。
 Photoshopの操作には、必要な知識と習得すべきツールが多い。そのため、適度に生徒同士が学び合いながら、互いをサポートする環境がほしい。授業担当者が個別に対応するには限界があるため、パソコンのスキルに長けている生徒に協力を仰ぐ。レーザーカッターの操作も同じで、皆が自分の得手、不得手を補完し合える関係性が構築されるのが理想的である。
 ボックスアート制作は、本校では、美術と情報との教科が横断したSTEAMという独自科目を設定して実施していて、美術と情報の教員がチームティーチングを行っている。ものづくりの知識と、ICTスキルを融合させながら、生徒の創造力の幅を最大限に広げてゆきたい。

液晶タブレットによる作図からレーザーカッター出力

着彩と組み立て

7.題材の指導計画

 1回4時間のプログラムで、テーマをもとにした「創作ワーク」で自己との対話、「鑑賞ワーク」で他者との対話を行い、「自己認知・自己肯定」「他者理解」「主体性」「創造的コミュニケーション力」を高める。本校では3回のプログラムと全体の振り返りの計14時間を実施している。

時間

学習活動

指導上の留意点

導入
1時間

ボックスアート制作の導入・レイヤーについて

必要な素材、テーマや趣旨を説明する。参考作品や実物を見せながら、創作を具体的にイメージできるようにする。
複数枚のレイヤーが重なり、作品が形成されることを意識させる。事前に作成した「レイヤーの彫刻」をふりかえる。
切り抜かれたマットボードがボックスの中にどう配置されるかもイメージさせる。併せてボックス内の側面に切り抜いたものをボンドで貼る方法や、浮かび上がらせるための工夫を事前に指導する。
線画がレーザーカッターにどのように出力されるかを事例を通してわかりやすく説明する。

制作
1時間~
2時間

構想

紙とデバイスの両方を使い、各自の自由な発想で作品のための構想を練る。導入で話をした留意点を意識させる。

実習
2時間

液晶タブレットの使い方と実践

授業提携をしているWacomの専門家を招いて液晶タブレットのドライバインストール、Photoshopのレクチャーを受ける。Photoshopで線画を描くにあたり、新規レイヤーの作成方法、写真の透過方法、ショートカットキーの知識などを学び、必要最低限のスキルを習得する。
チームティーチングを活かして、個別に対応しながら、不具合やインストールに対応する。
必ずレイヤー毎に分けて図案を作成する方法を実践させる。レーザーカッターで切り抜くマットボードと、Photoshopのレイヤーが紐づくことをイメージさせる。

制作
4時間

液晶タブレットによる線画の作成

線画のための台紙の解像度、使用するブラシツールの大きさなど、細かい条件を伝える。
出力に最適な方法で線画を作成する。
Photoshop上で直線を引く方法を指導する。

1時間

レーザーカッター出力用のデータ変換

レーザーカッターに出力するためのデータに変換する方法の詳細を説明する。
線画の作成に個人差が生じるため、レクチャーのタイミングは様子を見て行う。
googleclassroomにやり方の詳細を掲載しておく。

1時間

レーザーカッター出力

マットボードをレーザーカッターで切り抜く。

2時間~
4時間

着彩と組み立て

切り抜いたマットボードをアクリルガッシュで着彩する。
各自のテーマで箱の中に部品をマウントする。

1時間

ふりかえり

仕上がった作品を写真に撮り、Googleスライドに貼り付けて各自で解説文を入れたり、学んだことをふりかえったりする。

1時間

他者のサポート

評価規準・評価方法

【知識・技能】
レーザーカッター用のデータが正しく作られているか、それぞれのデータを確認する。生徒同士のサポートも得ながら、適切なデータづくりについてアドバイスする。
【思考力・判断力・表現力】
レイヤーの配置と着彩が全て完了し、完成した作品について評価する。
【主体的態度】
・Googleフォームや作品用の説明スライドを作成することで適宜、自分の作品についての自己評価を行い、その各自の文章のこだわりポイントや内省の部分を評価する。
・学期末に展示会を行い、客観的に自分の作品を評価する。

8.授業を終えて

 STEAMの授業で行うボックスアート制作は、生徒たちが多くのスキルを習得しながら進めてゆく。美術と情報の知識技能が複合的に展開するが、担当教諭が全ての技能に特化する必要はない。逆に生徒と一緒にやり方を工夫し、考えながら進行した方が生徒の成長に繋がることが分かった。私たちは授業を考える時、あらゆる場面を想定するが、考えすぎず、余白を残すことも大切である。思考するのは生徒であって、教員はその思考を形にするために必要な窓口でありたい。また、教員側もドキドキワクワクしながら生徒と一緒にイメージや浪漫を膨らませ、お互いにモチベーションを高めたい。
 ボックスアートの制作は、生徒によって進行のペースが大きく異なるため、授業の構成や準備には柔軟な工夫が求められる。ある程度作業が進んだ段階で、作業空間を分けることが有効である。特に、デジタルデータの作成工程は個人差が出やすいため、テクニカルなサポートを行う場と、工具を用いて組み立てや着彩を行う場とに分けることで、生徒にとって最適な作業環境を提供することが可能となる。これは、チームティーチングの体制による大きな利点である。
 授業全体の構成を考えるうえで、最も重視したのは、ボックスアートの制作に至るまでのストーリーや発展の流れである。日常で見ている風景とは異なる視点や体験を通じて、生徒に新たな気づきを与えたいと考えた。卵テンペラの実習や混色の実験、色彩感覚を広げるストレッチなど、手触りや感覚を大切にしながら、新しい表現の可能性を探っていきたい。

未来を描くプログラム「EGAKU」(第1学年)

1.題材名

未来を描くプログラム「EGAKU」

2.学年

1学年

3.時間数

4時間
※1回4時間のプログラムを、異なるテーマで3回実施する。

4.領域・分野

A表現 (1)絵画・彫刻 ア(ア)(イ) イ(ア)(イ)
B鑑賞 ア(ア)

5.題材設定の理由

 本題材は一般社団法人ELABの提供するプログラムである(*1)。自身の内面と向き合い個々の感じ方や考え方を活かしつつ、制作や鑑賞の活動を行い、自己認知や自己肯定へとつなげることを目的としている。また、互いの作品鑑賞を通し多様な価値観を知り、コミュニケーションの基盤となる他者理解を目指している。令和2年度から令和3年度にかけて部活動の生徒がプログラムに複数回参加し、その後の変化や成長の様子から、多くの生徒に体験してもらいたいと考え、令和4年度より授業に導入することとした。

6.準備(材料・用具)

教師:オンライン接続環境、大型モニター、EGAKU用Google Classroomの作成、EGAKUプログラム用画材セット、下敷き用A3用紙、ウェットティッシュ、ふせん

生徒:タブレット端末、筆記用具

7.目標

【思考・判断・表現】

  • テーマをもとに自己を見つめ、感じたことや考えたことを基に、形体や色彩、構成などについて考え、創造的な表現を行おうとしている。
  • 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】

  • 自己の内面を探り、テーマから感じ取ったことや考えたことなどを基に表現の創造活動に主体的に取り組むことができる。
  • 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組むことができる。

8.評価規準

 プログラムの特性上、作品自体の評価は行わない。

【思考・判断・表現】
 テーマをもとに自己を見つめ、感じたことや考えたことを基に、形体や色彩、構成などについて考え、創造的な表現を行っている。
 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態表 自己の内面を探り、テーマから感じ取ったことや考えたことなどを基に表現の創造活動に主体的に取り組もうとしている。
態鑑 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組もうとしている。

9.指導のポイントと資料

 本プログラムにおいて、教師はサポート役に徹し、指導は行わない。

資料

「EGAKUプログラムの学び」「リフレクションの大切さ」

10.題材の指導計画

 1回4時間のプログラムで、テーマをもとにした「創作ワーク」で自己との対話、「鑑賞ワーク」で他者との対話を行い、「自己認知・自己肯定」「他者理解」「主体性」「創造的コミュニケーション力」を高める。本校では3回のプログラムと全体の振り返りの計14時間を実施している。

主な学習活動

【評価の観点】

評価規準
記録に残す評価(評価方法)

知・技

1
2

1 前回の振り返り(25分)
・振り返りの大切さを知る。
・考えた事、感じた事の言語化を習慣づける。

態鑑

態鑑 プログラム①の活動を振り返り、自身について気付いた事・感じた事、他者について気付いた事・感じた事、その気づきを今後どう活かすかについて考えた事を自分なりに言語化しようとする。(活動の様子、ワークシート記述)

2 制作ワーク(40分)
・設定時間内は試行錯誤を繰り返し、自身のやり抜く力を引き出す。

態表

 目的や意図に応じて画材の特性や効果を生かすとともに、表現方法を創意工夫し、主題を追求して創造的に表わしている。(活動の様子、ワークシート記述)
 テーマをもとに自己を見つめ、感じたことや考えたことを基に、形体や色彩、構成などについて考え、創造的な表現を行おうとしている。(活動の様子、ワークシート記述)
態表 自己の内面を探り、テーマから感じ取ったことや考えたことなどを基に表現の創造活動に主体的に取り組もうとしている。(活動の様子、ワークシート記述)

3 自分の作品の画像化(10分)

4 額装、自分の作品鑑賞(20分)
・鑑賞ワークシートを記入することでテーマや創作プロセスを振り返り言語化する。

態鑑

態鑑 主体的に作品を鑑賞して、造形要素の働きや全体のイメージ、作風などを理解している。作者の表現について考え、見方や感じ方を深める鑑賞の創造活動に取り組もうとしている。(活動の様子、ワークシート記述)

5 片づけ(5分)

3
4

6 鑑賞ワーク(10分)
・改めて自分の作品を鑑賞し、テーマに対してどのように考え、感じながら描いたのかを振り返る。

態鑑

態鑑 主体的に作品を鑑賞してテーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組もうとしている。(活動の様子、ワークシート記述)

7 グループ鑑賞(10分)
・多様な作品を鑑賞することで表現の違いを楽しむ。感じる力を高める。

態鑑

態鑑 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組もうとしている。(活動の様子、ふせん記述)

8 グループ対話鑑賞(35分)
・他者の見方や感じ方の多様性、他者の視点からの新たな気づきを体験する。

態鑑

態鑑 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組もうとしている。(発言)

9 全体での共有(10分)
・各班、他の班に紹介したい作品を1点選び、全体発表を行う。

態鑑

態鑑 作者の意図や造形的なよさや美しさを感じ取り、テーマについて考え、見方や感じ方を深める鑑賞活動に主体的に取り組もうとしている。(発言)

10 振り返り(25分)
・学びや気づきを振り返り、ワークシートを記入する。
・発表を通して、互いの学びや気づきを共有する。

態鑑

態鑑 プログラム②の活動を振り返り、自身について気付いた事・感じた事、他者について気付いた事・感じた事、その気づきを今後どう活かすかについて考えた事を自分なりに言語化しようとする。(活動の様子、ワークシート記述)

11 ワークシートの回収、片づけ(10分)

(授業外:題材の終了後)

 (ワークシート:再確認)

11.授業を終えて

 生徒の振り返りからは、言語化できるようになったことで自身の考えや思いを表現する力が伸びたことや、日常生活においても学びを生かそうとする様子が読み取れる。現段階では美術Ⅰ選択者のみの実施であるが、ゆくゆくは1学年全体での実施を推進していきたい。
 「自分の発表する力や言語化能力が高くなり、美術の時間だけでなく日常生活でも自分の成長を感じたことができた。」「気持ちを伝えることが苦手だったが、対話を通して言語化力が身についた。」「今までは作品の完成度やうまさにこだわりすぎていたけど、EGAKUの授業を通して作品に込めた思いが伝わることが一番大事だと思いました。」「今まではただ『すごい』『きれい、上手だ』という感想しか持たなかったことが、『この作品にはどのような空間が広がっているのか』や『作者は何を描きたかったのか』など様々な観点から考えるようになった。」「鑑賞が面白いと思えるようになった。」「誰かに伝わりやすいように言葉を選んで、わかりやすくまとめられる力が付いたかなと思います。日々の会話の中でそれを活かしていきたいなと思います。」「決めつけをせずに鑑賞することで柔軟な視点を持つことができたので、物事を多様な視点から考えることに活かしていきたいと思った。」「相手とは考えていることが違うことがほとんどなので、そういう意見を受け止められるようにしたいと思ったし、自分の想いが伝わるように言葉や絵で表現したいと思った。」(生徒の振り返りより)

*1:一般社団法人ELAB公式ホームページ
福島県立葵高等学校 今期で3年目となる美術の授業での「未来を描くプログラム」を実施(2024.12.05)
https://elab.jp/topics/2024-12-05.html

「未来を描くプログラム」で生まれた生徒作品の一部(ELAB公式HPより)

ペーパーシューズデザイン(第1学年)

1.題材名

「ペーパーシューズデザイン」

2.目標

【知識及び技能】

 モチーフをよく観察し、構造や特徴を理解する。さらに靴の形やデザインをよく分析する。

【思考力,判断力,表現力等】

 靴の構造を理解し、製品の製作過程を模倣しながら、材料の特性や色や形を創意工夫して立体表現する。

【学びに向かう力,人間性等】

 全工程に計画性をもち、主体的に発想、工夫し、制作を進めようとする。

3.準備(材料・用具)

教師

第1次 課題説明のプリント、ワークシート、スケッチブック、鉛筆、台紙、参考作品
第2次 ワークシート、ダンボール、はさみ、カッターナイフ、カッターマット、ボンド、セロハンテープ、定規、メジャー、ビニール袋、参考作品
第3次 ワークシート、ボール紙、靴の材料、色画用紙、カラー波ダンボール、ハトメパンチ、ハトメ鋲、はさみ、カッターナイフ、ボンド、セロハンテープ、カッターマット、定規、台紙、参考作品
第4次 ふりかえりシート

生徒

第1次 普段使っている靴、教科書、筆記用具
第2次 普段使っている靴、教科書、筆記用具、参考資料
第3次 普段使っている靴、教科書、筆記用具、参考資料、靴の材料
第4次 普段使っている靴、教科書、筆記用具

4.評価規準

【知識及び技能】

 材料の特性を活かして表現の工夫ができている。道具を適切に使用し、素材を活かした表現ができている。

【思考力,判断力,表現力等】

 モチーフをよく観察し形や明暗の変化をとらえることができている。独創的な表現ができている。

【学びに向かう力,人間性等】

 興味関心をもって話を聞き、題材の意図を理解し、計画的、積極的に取り組もうとしている。表現意図に応じて新しい用具や材料の使い方を発見し、積極的に活用している。自己の作品を振り返るとともに、友人の作品の工夫を読み取り、理解しようとしている。

5.本題材の指導にあたって

◆生徒の実態と教材について
 これまでの課題の制作過程を観察してみると、奥行きを捉えた立体物の再現を苦手にする生徒が多く見られたように感じた。ものづくりにおいて、立体造形力は欠かすことのできない力である。今回の課題では、視覚から受ける様々な情報をキャッチする感受性とその情報をまとめて自己表現できる力を養いたい。
 「靴のクロッキー」では、靴の構造と特徴をしっかり観察して次の活動に生かす表現をさせたい。
 さらに「靴底の造形」では、素材を生かした立体的なデザイン、造詣表現を工夫し、レリーフ表現の面白さを感じてほしい。
 最後に「靴本体の制作」では、靴の型紙を取り、製品の製作過程を模倣しながら立体表現を創意工夫することで立体へと変換する技能を習得させたい。
 今回の題材のモチーフとして選んだ靴は、生徒にとっては身近なものであり、靴のもつ立体的構造が造形するときに理解しやすく、ファッションとしてもデザイン性があるため、興味や関心をひくものと考えて選んだ。画用紙やダンボールなどの身近な材料を使って自由に表現することで、表現の面白さ、夢中になってつくる楽しさを味わってほしい。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点

評価基準,評価方法

第1次
導入
(1時間)

●靴のクロッキー

・クロッキーとはどのような技法か学ぶ

◎興味関心をもって話を聞いている。【授業の様子を観察】

●かたちをとる
・5分×6ポーズ(右側面、左側面、上、下、前、後)

・靴の奥行きの説明で靴箱を用いて靴が立方体に収まる事や側面、前面、上部からどのように見えるかを考えさせる。

▲モチーフをよく観察し形や明暗の変化をとらえることができているか。【クロッキー作品】

第2次
展開
(3時間)

●課題説明
・クロッキーした靴をもう一度立体に造形する

・靴底を型取り、ダンボールを並べて造形する

◆材料の特性を活かして表現の工夫ができているか。【作品靴底の状況】
▲独創的な表現ができているか。【作品靴底の状況】【完成作品】

●靴底のデザインと制作

・机間指導を積極的に行い、工夫している表現を取り上げて紹介し、独創的なデザインを促す。

第3次
展開
(6時間)

●靴本体の制作
・養生テープを用いて自分の靴から型紙を取る

・養生テープを工夫して使えているかを確認する。
・養生テープを靴からはがした後に、開いて型紙を取る作業は難しいので、ゆっくり丁寧に進めるよう心がける。

◎題材の意図を理解し、計画的、積極的に取り組もうとしているか。【観察法】
◆道具を適切に使用し、素材を活かした表現ができているか。【作品の過程】

●型紙で切り取った紙を組み立てる

・貼る順番や接着する場所によっては道具類の選択が必要なことに気付かせる。

第4次
まとめ
(2時間)

●オリジナルの装飾を施す

・素材や道具を使い分けて独創的な表現をする。

◎表現意図に応じて新しい用具や材料の使い方を発見し、積極的に活用している。【完成作品】

●鑑賞
・お互いの作品を鑑賞する
・各作品の工夫した点をふりかえりシートにまとめる

・生徒の作品をお互い鑑賞し、各作品の工夫した点をふりかえりシートにまとめるように指示する。

◎自己の作品を振り返るとともに、友人の作品の工夫を読み取り、理解しようとしている。
【ふりかえりシート】

◆は【創造的に表す技能】 ▲は【発想や構想】 ◎は【学びに向かう力,人間性等】

7.授業を終えて

 「靴のクロッキー」では、集中力を発揮する生徒が多く、自分の靴をよく観察して描くことができた。靴の制作につなげるために、布の縫い目や、パーツごとの形を意識させることに重点をおいたが、生徒は描くことに必死で立体制作に続くことまでは意識させることができなかった。平均的にクロッキーの枚数は4枚までが調度良いように感じた。
 「靴底の造形」では、板ダンボールと巻きダンボールの2種類を用意した。靴底は自由にデザインして良いことにしていたが、自分の靴を見本に制作していた生徒の方が多かった。中には、ダンボールの特徴である波上の模様やダンボールの厚みをうまく生かして靴底をデザインする生徒もいた。
 「靴本体の制作」では、型紙を取る作業に苦労した。今回は養生テープを自分の持ってきた靴に巻きつけ、それに切り目をいれて丁寧にはがし、切り込みをいれて開いて紙に貼り、開いたテープの形に紙を切り取って型紙を作る方法を用いた。養生テープを靴に巻きつける作業に生徒の興味をひきつけることはできたのだが、それが遊びにつながってしまったところもあったので、今度行うときは「テープを使い、型紙をとる」理由や、ねらいを生徒に示したいと思う。そして、型紙を利用しての本体作りでは、生徒によって完成の着地点が大き2つに分かれた。ひとつは自分の靴をそっくり忠実に制作する生徒と、型紙を元にオリジナルの構造を持った靴に変形させる生徒である。これはどちらも、目標である靴の構造を理解し、製品の製作過程を模倣しながら、材料の特性や色や形を創意工夫して立体表現するに当てはまると考え、同等の評価をつけた。
 この「ペーパーシューズデザイン」では、段階的な作業工程があるため生徒にとっては進めやすく、私にとっても教えやすい題材のように感じた。今後も今回の靴作りのような、1つの題材の中に平面・レリーフ・立体など、要素が分かれていて、最終的に総合して1つの題材となるような課題を行い、興味をひきつけながらも生徒の集中力を伸ばせるような授業作りをしていきたい。

ちいさなしかけ絵本づくり(第1学年)

※本実践は平成30年度版学習指導要領「第4節 美術Ⅰの2.目標」に基づく実践である。

 美術の幅広い創造活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,美的体験を重ね, 生活や社会の中の美術や美術文化と幅広く関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)対象や事象を捉える造形的な視点について理解を深めるとともに,意図に応じて表現方法を創意工夫し,創造的に表すことができるようにする。
(2)造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考え,主題を生成し創造的に発想し構想を練ったり,価値意識をもって美術や美術文化に 対する見方や感じ方を深めたりすることができるようにする。
(3)主体的に美術の幅広い創造活動に取り組み,生涯にわたり美術を愛好する心情を育むとともに,感性を高め,美術文化に親しみ,心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

1.題材名

ちいさなしかけ絵本

生徒作品

2.サブタイトル

‐1850年以降に書かれた1篇の詩をもとに‐(第1学年)

3.目標

【知識及び技能】

  • 詩の鑑賞活動を通して,作品が個々にもつ世界感を知り,楽しむ。
  • 製本やしかけ絵本の表現に関心をもち,創造的に表すことができるようにする。

【思考力,判断力,表現力等】

  • 絵コンテを制作することにより,プロット(筋立)を考え,構想する力を養う。
  • しかけ表現の目的や機能を理解し,その特徴を活かした表現の工夫をする。
  • 自他の表現に触れ,そこからイメージを膨らませて,さらなる自己表現を追求する。

【学びに向かう力,人間性等】

  • 自他の作品を鑑賞し,分析的にじっくりと鑑賞する活動を通して表現の工夫を感じとり,絵本に託した思いに触れながら,その世界の楽しさを実感し,学んだことの意義を実感できるようにする。

4.準備(材料・用具)

教師:近・現代詩プリント,参考になる仕掛け絵本や詩集,絵本制作用具※1,書画カメラ,絵コンテ用紙2枚(B4サイズ)
生徒:教科書,美術資料(*1),筆記用具,製本キット※2,色鉛筆,絵の具,クレヨン,パステルや色紙,アルミ箔,毛糸など任意の画材

※1 絵本製作用具の内容
ハサミ,カッターナイフ,定規,カッティングマット,輪ゴム,目玉クリップ,へら,古新聞,木工用ボンド,カネダイン
※2 製本キット内容
キット内容が入る袋,SPケント紙もしくは白画用紙(12cm×26cm)10枚,見返しのためのミューズコットン(12cm×26cm)同色2枚,ボール紙(12.6cm×27cm),しかけ用画用紙(中身と同じ紙でもよい),スティックのり,寒冷紗,花布(はなぎれ),しおり紐(必要であれば),表紙用クロス(18cm×34cm)

表紙完成版製本道具・材料

5.評価規準

【知識及び技能】

  • 詩の鑑賞活動を通して,作品の背景にある生活や社会,時代背景などを分析的に読み解いたか。
  • 絵画表現やレタリングの技法など,それまでの美術の授業で得た知識をもとに判断し,想像力を生かしながら,創造的に展開できているか。

【思考力,判断力,表現力等】

  • 絵コンテを制作することにより,プロット(筋立)を考え,自己の表したいことを具現化できるように計画を立てることができたか。
  • しかけ表現の目的や機能を理解し,制作過程で気付いた課題に対して効果的で,新しい工夫を加えることができたか。
  • 自他の表現に触れ,生徒が関心をもって具体的によさや美しさを感じ取り,そこからイメージを膨らませて,さらなる自己表現を追求できたか。

【学びに向かう力,人間性等】

  • 自他の作品を鑑賞し,分析的に鑑賞する活動を通して表現の工夫を感じとり,絵本に託した思いに触れながら,その世界の楽しさを実感し,意欲的に授業に参加しているか。

6.本題材の指導にあたって

■課題設定の理由とねらい
 本校では1850年以降の近・現代詩をもとに製本,プロット(筋立)を考えさせる絵コンテ制作,中身(しかけを含む)の制作という段階的な絵本制作を通じて,実践的かつ分析的アプローチの手法によって得た学習課題を生徒一人ひとりが価値意識を持って主体的に制作していくことで,発見から導かれる認知活動によってさらなる創造的思考力が刺激されると考えている。1850年以降に作られた「詩」はそれ以前の旧詩体を中心にしたものから解放され,口語体を中心とした自由詩が主流になり,現代に生きる我々でも精通できるものが多く,少ない文字数でも詩人たちの深い精神性を汲み取りやすくなっているので,高校の授業でも扱いやすいと感じ,授業に取り入れている。実践においても本文のプロット(筋立)は決まっているので,物語を1から創り出す必要はなく,生徒の思いに応じた詩を選び出すことさえできれば,自由な主題の生成が可能である。そこに絵やしかけ,画材選びなど造形的な表現の工夫は許容する範囲で自由に選択できる強みがある。
 あくまで実践することの重要性を根底に置き,自他の作品の鑑賞を取り入れながら実践させることにより,お互いの価値観の発見や共通点や差異などに気づくことができる。また,作業展開の方法も含めた編集・構成方法の理解は,エディトリアルデザインの理解を深めるとともに,学習の取り組みにより,美術以外の学習全般や発見から導かれる認知活動によって創造的思考力が刺激され,授業で得た創意工夫する体験が日常生活の中での活きて働く力となり,新たな創造的活動へと結び付いていくのではないかと考えている。
 本課題の「しかけ絵本」とは,言葉が持つ伝達手段に視覚表現を加え,複数の画面を一定のシークエンスで構成したものである。生徒自身が選んだ詩に挿し絵やしかけが組み合わされることにより,絵本の中のページ設定は生徒が選んだ言葉や文字をイメージしたり,そのイメージを具現化したり,しかけの効果を使い広げたりすることが目的になるもので,常に表現と鑑賞の一体化を図りながら授業を展開していく必要がある。この学習を通して培われる能力は,絵やしかけなどの表現力を発揮し,全体の意味をより効果的に伝えるため工夫しながら取り組むので,構成や編集能力の開発を期待でき,製本・しかけ制作作業に関わってはペーパークラフトの技法を含み,様々なジャンルを横断しながら幅広く実践する。また,この絵本は「しかけ」という独特の表現形式によって特徴付けられ,作り手を含め,読んでもらいたいターゲットも自由に設定でき,「絵本は子ども向け」という通念に縛られるものではない。我が校は1篇の詩を元に絵本制作を授業展開しているが,題材設定次第で,例えば「SDGs」「異文化理解」「人権問題」等を考えさせるきっかけにし,総合的な学びを表現する形にすることも考えられ,他の学習活動への活用も含め,題材展開の可能性が非常に大きいと考える。

■制作上の留意点
 しかけ絵本の実践は,扱う内容・段階的な制作手順や想像力の展開など,行程の複雑さから,作品を完成させた時の生徒の達成感も大きいが,事前段階での下準備を含めて,相当な制作時間が必要となってくる。主題にする詩のほとんどは短いものが多いが,ストーリー展開がハッピーエンドやバッドエンドではなくオープンエンドで終わるため,ページ割をして展開を考える絵コンテの制作時など,多岐にわたる能力を過不足なく発揮しなくてはいけないということが苦手意識を持った生徒に対してはかなり高い要求になる。表現形式の特徴の理解に基づく視覚表現のねらいが不明確な場合や多岐にわたる表現技能が習得不充分な場合,断片的な達成に終わることも少なくない。そのため,絵コンテの制作時には教師はもちろんのこと,生徒間でも互いにアドバイスやアイデアを出し合い授業展開していくことが重要になってくるだろう。詩の世界は私的な世界が展開され,1~3人称のいずれかで表現されることが多い。制作上,誰のどの視点から描くのかが画面構成上重要になってくるのだが,登場するのが人物の場合,「動きの痕跡」や「擬人化したキャラクターを登場させればよい」と伝えることによって,人物表現が苦手な生徒でもページ展開を容易にさせる。また,イラストやアニメーションの影響を多く受けている世代でも,画材やその描き方に工夫を加えれば絵本として成立させることも困難ではないと考えている。加えて,絵本のような複雑な作業工程を理解させるためには,書画カメラの活用が有効である。教師は常に手元を映し出して,作業工程を順序立てて説明することが望ましい。また,絵本の大きさも作業に無理が出ないようCDジャケットサイズ(たて12cmよこ13cm)に設定している。

7.題材の指導計画

Ⅰ 授業までの準備・指導計画(前学期の1~2時間を使って)

授業までの学習活動の流れ

指導の流れ・留意点,評価

【実読による鑑賞】

・配布されたプリントを実読する。

<留意点>

・実際に詩人やその作品について多くの生徒はほとんど知識がないために,著名な詩人の作品に触れさせるところから始める。
(例)金子みすゞ,中原中也,萩原朔太郎,高村光太郎,寺山修司,吉野弘,石垣りん,茨木のり子,谷川俊太郎など

・時間に余裕があれば,北園克衛,新国誠一などが参加したコンクリート・ポエトリーなどの視覚的実験詩の世界にも触れる。

・まずは作品から感じ取った第一印象(直感的な印象)を大切にして,感じたことや考えたことを自分の言葉で発表し,それに対しての感想を述べる。

※この時は詩の解釈を自分たちに考えさせるため,教師は先入観を与えないためにも,極力情報を与えないようにする。

・生徒たちが感想を述べた後に,詩人によってその特徴や読み取った時の印象が違うので,選び出した詩人の生い立ちや詩が書かれた時代背景,詩の特徴を具体的に示すようにしている。

【しかけを知る】

・しかけ絵本を書画カメラで鑑賞する。「しかけ」を駆使し,より印象深いものにしていることを知る。

・分析的な視点で作品を読み解く。本課題に使用できそうな「しかけ」を画面に描かれている様々な情報を,造形的な視点から分析する。

・他の生徒の意見を聞き,様々な考えを知ることで,改めて自分の感想をまとめる。

・実際,絵本の中に使う「しかけ」は分量の問題ではなく,各場面で効果的に使用すれば良いということを伝える。
(例)はらぺこあおむし(*2)や不思議の国のアリス(*3)など

・実物の「しかけ」を書画カメラで紹介する。しかけの中には見開き(ページの両面),片面それぞれでしか表現できないものもあるので,その違いを見せる。
例)実物で学ぶ仕掛け絵本の基礎(*5)

 

<評価>

・詩を1篇選び鑑賞し,吟味できたか。

・授業に積極的に参加し他者の意見を聞き,差異を感じながらも,造形的な感覚を持ってイメージの交感の実践できているか。

【1篇の詩を選ぶところから始まる】

・夏期課題として,1篇の詩を選び出し,暗唱できるようにすること」と実際に使えそうな「しかけ」を考え,調べる。

・できる限り題材は自分で選び,配布されたプリントからは選ばないように呼びかける。

・美術資料(*1)やYouTubeなどで「しかけ」の作り方を調べておくように呼びかける。

Ⅱ 「しかけ絵本」の授業展開

 

主な学習活動・内容

指導の流れ・留意点,評価

導入
(2時間)

・選んだ詩(題材)を確認する。

・図書館と連携して題材選びをさせてもよい。

・夏期休暇課題「詩の暗記テスト」

 

◇題材から読みとった印象や自身が制作した絵本を読んでもらいたいターゲットを決める。

・同じ用紙に題材から読みとった印象や自身が制作した絵本を読んでもらいたいターゲットと伝えたい箇所を書かせる。

◇この絵本で一番,伝えたい箇所を課題ワークシート(添付資料)に書く。

・生徒のモチベーションを下げないためにも,教師はワークシートに対してのコメントを記入し,返却する。

「製本の方法」(添付資料)(*4)プリント配布。

・製本キット配布。

 

 

〈評価〉

・夏期休暇中の暗記テスト。

展開

・プリントを見ながら,中身を制作する(実際に絵や文を描く紙)。

・製本作業は「本の顔」となるので,全ての工程において丁寧に作業するように伝える。

製本作業
(中身)
(2時間)

・プリント本文(中身)づくりの①~⑩の手順に従って製本作業を進める。これは,いわゆる「白い絵本」の制作。

・本文用ケント紙をすべて,丁寧に2つ折りする。(表面を内側に)

・束ねたケント紙は輪ゴムでまとめておく。

・×と○を交互に印をつけていく。
(×のページに絵や文字を描くので,のり付けしてはいけないという意味。○はのり付けするという意味。)

・見返しを忘れずに束ねたケント紙の表と裏(計2か所)に貼る。

・見返しを貼った後,寒冷紗と花布を木工ボンドで付ける。

※本文(中身)づくり⑩

小口をめくって×と○を交互に印をつけていくのだが,この段階では,しかけを入れることを前提とした製本作業の場合,小口の○の部分はこの段階ではのり付けしない方が良い。これは中身を制作する時に,各ページに切り込みを入れ,しかけを裏からテープやカネダインなどで固定でき,最終的に美しい本を作れるからである。○の,のり付けは中身の制作後でも良い。

※見返しもページの枚数が決まってから貼り付ける。

※寒冷紗や花布は既にこの段階で本のサイズに合わせて切っておくと作業が早くなる。

・製本作業が始まったら,絵コンテでのページ割りと使用する「しかけ」を考えるように伝える。

絵コンテ
制作
(4時間)

・題材のページ割りを決める。

・ページ設定は極力,ケント紙7~10枚の範囲(14~20ページ)の範囲で考える。

・タイトルページ,奥付ページを含め,プロット(筋立)を考える絵コンテの制作をする。

・絵本は文字がなくても,視覚表現のみでストーリー展開がわかるものだということを伝えておく。

※CDサイズの本を制作するのであれば,絵コンテ用の用紙はB4サイズのざら紙,コピー用紙を準備すればよい。その紙を6等分に折れば,丁度CDジャケットサイズ6枚分ができるので,表と裏の両面を使えば,24ページ分の絵コンテが描ける。

・できれば,絵コンテにも色鉛筆などで色付けをし,同時に使用する「しかけ」も考える。(「しかけ」は赤ボールペンなど,わかりやすい形で表現させる。)

・絵コンテを提出する。

・絵コンテを回収後,評価する。教師がアドバイスを書き込み,その後返却する。

※絵コンテの評価に時間を要する場合は,平行して製本作業を進めていけばよい。

 

〈評価〉

・絵コンテが指定したページ数を満たし,ページ割りができているか。

・しかけのアイデアや展開の工夫を考えて書き込めているか。

中身の制作
(8時間)

・しかけ用画用紙を使用し,中身の制作と同時進行で「しかけ」を作る。(2〜3か所)

・本制作の下書きの段階で,使用する画材や,素材のイメージを膨らませておくよう伝える。

・あらかじめカッター,マット,定規は配布しておく。(扱いに注意)

※pop-upやプルタブなどの「しかけ」は×の表面から切り込みを入れてから,しかけを差し込み,中身の○面(絵や文字を書かない裏面)で剥がれないようにテープかカネダインで貼って固定すると美しく仕上がる。

・完成間際,中身の○部分ののり付けをする。

 

製本作業
(表紙)
(2時間)

・プリント右側の表紙づくり①~⑨の制作工程に従い,表紙作りを行う。

・制作した中身の本の厚みによって背幅のサイズなどが変わるので注意する。

製本
(中身と表紙の結合)
(1時間)

・表紙のミゾにボンドを表紙の天地や小口にボンドがはみ出ないように塗る。

・見返しの中身と表紙の接合面をスティックのりで貼り付ける。

・位置が決まったら,外側からミゾをへらや定規で押さえ輪ゴムで圧をかける。

・念のため,目玉クリップでも輪ゴムの上から圧をかけるようにクリップで挟む。

・まず,中身の方がひとまわり小さいことを意識させる。

※作業中はむやみに開かせない。(ズレが生じるため,90度以上,本を開かない)

・表紙のミゾではなく見返しにボンドを塗る生徒がいないか注意する。

・見返しはスティックのりで片面ずつ表紙裏に貼り付けさせる。

※表紙の天地や小口にボンドがはみ出ないように塗らせることが重要。(中身の天地の高さに合わせる)

完成

・輪ゴムとクリップをつけたまま提出する。

・ボンドが乾くまで約1日かかるので,乾燥後に開くように注意する。

 

〈評価〉

製本作業は美しくできているか。

・ページ割りによる,読みやすさを考えているか。

・しかけ表現の目的や機能を理解し,制作過程で気付いた課題に対して効果的で,新しい工夫を加えることができたか。

・自他の表現に触れ,生徒が関心をもって具体的によさや美しさを感じ取り,そこからイメージを膨らませて,さらなる自己表現を追求できたか。

・自他の作品を鑑賞し,分析的に鑑賞する活動を通して表現の工夫を感じとり,絵本に託した思いに触れながら,その世界の楽しさを実感し,意欲的に授業に参加しているか。

8.授業を終えて

 本課題は多くの複雑な工程を経るが「1冊の本ができるまで」の過程を実制作により知ることができ,充実感を味わえる課題だと思う。生徒間でのやり取りも自然と生まれ,題材になる詩の世界に対しての理解や製本に対しての知識が深まる。また,題材を魅力的に伝えるための編集努力を経験することにより,本のそのものにも興味を持たせる効果や造形要素などの知識が深まるなど,より高次元の実践学習となることが期待できる。準備段階での教員側の苦労は大きいが,慣れてくると他の課題と大差のない感覚で取り組めるようになってくる。教師が書画カメラを活用することで,手元を部分拡大しながら複雑な工程を見せることができるので,教室の後ろの席まで指導が行き届く。板書では気づきにくい様々なものが見えてくる。授業導入時から活用すれば,鑑賞や素材研究によって生徒自身で様々な発見をすることできる。また授業の中で生徒同士,お互いが感じたことや考えたことなどを素直に発表し合うことで,共通点や相違点があることに気づき,そこに新たな発見が生まれ,様々な価値観を創出できる。生徒の反応も良好で,苦労が多い分,本課題に対しての思い入れが深く,卒業した後も作品を愛蔵し,課題に取り組んだ多くの生徒が作品を自分のポートフォリオの1ページに加えているようだ。

ワークシート
製本の仕方
(しかけの例)しかけ1 しかけ2 しかけ3
(絵コンテから作品への展開)絵コンテ1 絵コンテ2 絵コンテ3

*1:美術資料 秀学社
*2:はらぺこあおむし 偕成社 エリック・カール
*3:不思議の国のアリス 大日本絵画出版 ローバート・サブダ
*4:実物で学ぶ仕掛け絵本の基礎pop–up 大日本絵画出版 デビッド・A.カーター、ジェームズ・ダイアス
*5:手作りの絵本 楽しみ方・作り方・考え方 草土文化 北川幸比古、増村王子、西内ミナミ

「校内案内(ピクトグラム)をデザインしよう」~デザイン思考による探究型学習とICTを活用して~(第1学年)

課題設定(整理・分析)の様子
創造(アイデア出し・試作)の様子
検証(改良)の様子

1.題材名

「校内案内(ピクトグラム)をデザインしよう」

(A表現 デザイン)
~デザイン思考による探究型学習とICTを活用して~
(1年/5時間)

2.題材設定の理由

 ピクトグラムとは、言葉による説明を用いず、伝えたい内容やイメージを視覚的に記号化したものである。「デザイン思考」を基に探究型学習を実践し、ピクトグラムデザインの形や色彩など造形要素がもたらす単純化された美しさや、感情の効果を適切な視点で捉え、分かりやすい校内案内のサインデザインを表現させたい。デザインニーズを整理する課題設定やアイデアの創造、また作品制作の場面においてGoogleのアプリケーション《Classroom、Jamboard(オンラインホワイトボード)、スライド、図形描画、Chrome Canvas》を効果的に利用し協働的・創造的活動を促したい。

3.準備(材料・用具)

教師:電子黒板、タブレット端末(Chromebook)
生徒:タブレット端末(Chromebook)、教科書、筆記用具
※使用アプリケーション(Google Classroom、Google Jamboard、Googleスライド、Google図形描画、Chrome Canvas)

4.目標

【知識及び技能】
・ピクトグラムの形や色彩などの造形要素の働きを理解し、主題に合わせて作品に取り入れる。
・ピクトグラムの目的や意図に基づいて、画材やタブレット端末等の特性を活かしながら表現方法を工夫し、計画を基に創造的に表現する。

【思考力・判断力・表現力等】
・伝達する目的や条件などを基に、伝達する相手や内容、取り巻く環境や周囲との関わりから課題を見いだし主題を生み、伝達の効果と美しさなどを考えて表現の構想を練る。
・ピクトグラムの目的や良さと美しさを感じ取り、作者の思いと表現の意図と工夫について考え伝達デザインに対する見方や感じ方を深める。

【学びに向かう力、人間性等】
・グループでの協働活動を取り入れたデザイン思考による探究型学習〔現状理解(情報収集)、課題設定(整理・分析)、創造(アイデア出し・試作)、検証(改良)、発表(意見交換・振り返り)〕を通して探究・創造する態度を養い、目的や内容をピクトグラムで伝える表現活動に主体的に取り組む。
・デザインの調和のとれた美しさや良さを感じ取り、制作者の表現の意図と創造的な工夫について見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に主体的に取り組む。

5.評価規準

【知識・技能】
 ピクトグラムの形や色彩などの造形要素の働きを理解し、主題に合わせて作品に取り入れている。
 ピクトグラムの目的や意図に基づいて、画材やタブレット端末等の特性を活かしながら表現方法を工夫し、計画を基に創造的に表現している。

【思考・判断・表現】
 伝達する目的や条件などを基に、伝達する相手や内容、取り巻く環境や周囲との関わりから課題を見いだし主題を生み、伝達の効果と美しさなどを考えて表現の構想を練っている。
 ピクトグラムの目的や良さと美しさを感じ取り、作者の思いと表現の意図と工夫について考え伝達デザインに対する見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態表 グループでの協働活動を取り入れたデザイン思考による探究型学習を通して、探究・創造する態度を養い、目的や内容をピクトグラムで伝える表現活動に主体的に取り組んでいる。
態鑑 主体的にデザインの調和のとれた美しさや良さを感じ取り、制作者の表現の意図と創造的な工夫について見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に取り組んでいる。(B鑑賞)

……「知識・技能」の知識に関する評価規準
……「知識・技能」の技能に関する評価規準
……「思考・判断・表現」の発想や構想に関する評価規準
……「思考・判断・表現」の鑑賞に関する評価規準
態表 ……表現における「主体的に学習に取り組む態度」に関する評価規準
態鑑 ……鑑賞における「主体的に学習に取り組む態度」に関する評価規準

6.指導のポイント

(1)デザイン思考の授業を実施するにあたって
 デザイン思考による協働的活動を通して身近な生活の中にある問題解決につながるデザインの“探究型学習”ができないかと考えたことがこの授業の始まりである。美術の創造的活動における探究型学習について、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科教授、高大連携推進部長の柚木泰彦先生よりオンライン研修会等で様々なアドバイスをいただき、授業を実現することができた。また、秋田県の授業研修会で発表するにあたり、事前の研修会、事後の協議会等で秋田県内高校美術科の先生方よりアドバイスをたくさんいただき、授業の実施と見直しを図ることができた。全ての方々の御協力に感謝したい。

(2)タブレット端末とアプリケーションの活用について
 また、もう一つこの授業の取り組みを創造的に発展させたものとして秋田県高校教育課の「e-AKITA ICT学び推進プラン事業」で県立学校に1人1台端末が整備されICT環境が充実したことが挙げられる。端末はChromebookで、Google Workspaceのオンラインアプリケーションを活用できたことがデザイン思考の様々な過程や手順を容易にし、Google Jamboardを活用したブレーンストーミングやKJ法、現状理解のための写真や動画の撮影、試作制作(プロトタイプ制作)ではGoogle図形描画を利用して描くなど、一連の活動や造形をタブレット端末で可能にすることができた。しかし、すべてタブレット端末の活用で済ませるのではなく、試作制作の場面では紙と鉛筆でサムネイルを描かせる選択肢の準備もあった方が良かったと反省している。
 アプリケーションの活用について、普段の美術の授業でGoogle Classroom、Google Jamboard、Googleスライドなどを頻繁に活用している。今回初めてGoogle図形描画をサムネイルと作品制作で使用した。Google図形描画に詳しい生徒にティーチングアシスタントをお願いした。すると、生徒達の間で互いに協力し学び合う雰囲気がみられた。結果、グループ間でサポート体制が生まれスムーズな活用ができていた。

生徒によるティーチングアシスタントの様子《美術の授業におけるアプリケーションの活用例》

  • Google Classroom(課題の配信、提出)
  • Google Jamboard(アイデア出しや整理・分析、相互鑑賞、日々の授業の振り返り記録)
  • Googleスライド(教師側の教示資料、プレゼン活用、日々の授業の振り返り記録)
  • Google図形描画・Chrome Canvas(サムネイル、アイデアスケッチ、作品制作)

7.題材の指導計画

学習活動

知・技

評価方法・留意点等

0.5

①導入
・ピクトグラムについての鑑賞

出典:J-CAST会社ウォッチ
そうだったのか! 効果的な色使いでプレゼン力をアップさせる資料づくり(入澤有希子)
https://www.j-cast.com/kaisha/2020/07/02389032.html

出典:国土交通省
公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドラインP.49 案内用図記号(JIS Z 8210)
https://www.mlit.go.jp/barrierfree/public-transport-bf/guideline/guidelinesisetu.pdf

ピクトグラムの造形要素についての確認

態鑑

 ピクトグラムを鑑賞し、伝達デザインに対する見方や感じ方を深めるとともに、ピクトグラムの形や色彩などの造形要素の働きを理解している。
態鑑 主体的にデザインの調和のとれた美しさや良さを感じ取り、表現の意図と創造的な工夫について見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に取り組んでいる。
【活動の様子、ワークシート】

0.5

②現状理解(ニーズを探る)
・校内観察(校地内ウォッチング)を実施しデザインニーズを探る。
「ピクトグラムで学校利用が良くなりそうなことを探してみよう。」

態表

 伝達する目的や条件などを基に、伝達する相手や内容、取り巻く環境や周囲との関わりから課題を見いだしている。
 協働的な活動を通して現状理解(情報収集)をしている。
【活動の様子、Googele Jamboard、Googleスライド、ワークシート】

0.5

③課題設定(ニーズを整理する)
・アイスブレイク(Yes,And法)実施。
・観察から得られたニーズを整理する。Google Jamboardを活用し付箋紙に書き出したアイデアを基にグループで話し合いグルーピングして課題を焦点化する。(ブレーンストーミング・KJ法)

態表

 課題を見いだし主題を生成している。
協働的な活動を通して課題設定(整理・分析)をしている。
【活動の様子、Google Jamboard、ワークシート】

0.5

④創造(アイデアを出す・試作する)
・前半で焦点化した課題に基づいてピクトグラムデザインのサムネイルを描く。
「どうすれば自分達のピクトグラムで○○できるだろうか?」

態表

 ピクトグラムの形や色彩などの造形要素の働きを理解し、主題に合わせてサムネイルに取り入れている。
 伝達の効果と美しさなどを考えて表現の構想を練っている。
 協働的な活動を通して創造(アイデア出し・試作)をしている。
 ピクトグラムの目的や意図に基づいて、画材またはICTを選択し表現方法を工夫している。
【活動の様子、サムネイル、ワークシート(Google Jamboard、Google図形描画、Chrome Canvas等)】

2

⑤検証(検証する・改良する)
・実際に掲示する現場に掲示してピクトグラムデザインの効果を確認する。
・サムネイルの相互鑑賞を実施し良いところや改善点についてフィードバックを受ける。
・改良し作品制作する。

態表

態表 デザインの表現活動に主体的に取り組み、コミュニケーションデザインを意識しグループでの協働活動を通して探究・創造する態度を養っている。
 協働的な活動を通して検証活動をしている。
【活動の様子、ワークシート、サムネイル、作品】

検証の様子

1

⑥振り返り(プレゼンテーション)
・改良後の作品制作を全体に発表する。
・意見交換し活動を振り返る。

態鑑

態鑑 主体的にデザインの調和のとれた美しさや良さを感じ取り、制作者の表現の意図と創造的な工夫について見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に取り組んでいる。(B鑑賞)
【活動の様子、ワークシート、サムネイル、作品】

8.授業を終えて

タブレット端末での制作風景 デザイン思考による探究型学習とICTを活用して「ピクトグラムデザイン」の授業を実施した。他者と協働して課題を創造的に問題解決する「デザイン思考」のプロセスの面白さを味わわせたいと思い授業を設定した。
 美術室から離れ自分達の視点で現状把握をし、それぞれのグループで「自分ごと化」した課題設定をすると、座学で個々にアイデアを発想させて制作させる授業とは異なり、リアルな現状を踏まえたデザインアイデアがたくさん出てきたことが新鮮であった。グループで実際に現場を確認し共感理解し、課題を設定、問題解決に向けて実際に試作し発表する。生徒にとって自分が考案したアイデアが形になる過程を協働で体験することも大切な学びであると感じた。似通ったアイデアやデザインが見られる場面もあるが、生徒達自身が体験したことを基に自分達の身近な問題を形や色彩など造形要素を用いていかに美術的問題解決を図るのかを大切にし、デザイン活動の面白さや本質を探ることができていた。授業の導入時は、教師側の説明と教示が多くなってしまったが、後半の創造、検証あたりからグループ毎の活動が活発化していく様子がみられた。
 教師はファシリテーションの役割を担い全体を見渡す立場で進めたほうが良かった。“現状理解(情報収集)、課題設定(整理・分析)、創造(アイデア出し・試作)、検証(改良)、発表(意見交換・振り返り)”というプロセスの流れに当初は忠実に実践しようと気をとらわれていたが、実際には、検証までの流れのあとに生徒達の様子をみながら必要に応じ創造と検証のサイクルを繰り返すようにアドバイスをした。
 今後の反省としては、デザイン思考について一連の流れをより簡潔に説明することや、校内を観察しグループの課題を設定し、アイデア発想して有効なピクトグラムデザインを制作していく一連の活動をもっとスムーズにできるように教示内容を精選していきたい。また、話し合いを活発化させるアイスブレイクや創造的な活動を行いやすい雰囲気づくり(クリエイティブ・マインド)をより見直していきたい。
 以下、令和3年11月に行った秋田県の授業研究会でいただいた指導助言やアドバイスと授業終了後の生徒の感想を紹介する。

《指導助言とアドバイス》

  • 話し合いの際のジャムボードの雛形を事前に準備する。
  • 教師側の説明時にタブレットを閉じる指示。(授業のメリハリ)
  • ブレーンストーミングでのアイデアスケッチはデジタルだと記録が残らない。
  • 指導案の目標はもう少しシンプルで具体的にし、教師・生徒が達成でき評価できる目標設定にすべきである。

《生徒達の授業の感想》

  • グループで校内を観察したり、ブレーンストーミングで意見を出し合うことで自分ひとりでは気付けない課題に気付くことができた。
  • 実際にデザイン思考を用いたピクトグラムを制作して、机に向かって想定するだけでは効果を発揮できないことが分かった。実際の現場に行って様々なシチュエーションから掲示する場所を決めて、デザインの調節をすることがとても大切だと感じた。
  • 図書館のピクトグラムを考える際に現状理解で図書館を確認したときに、木の材質の壁とテーブルの色に対して青が目立つことに気が付いて、マークは青の指示を採用することにした。注意喚起や場所の観察から気付くことがあった。
  • こまめに窓閉めを呼びかけるピクトグラムデザインを制作して、実際に現場で検証すると教室の壁よりも窓に掲示したほうがより換気を促すことにもつながり良いことが分かった。掲示するときにラミネート加工が必要であることに気が付くことができた。
生徒のまとめ1

生徒のまとめ2

※JISでは「JIS Z 8210:2017案内用図記号“静かに”」として規定されているものがあります。

「個性が浮かび上がる!? 油彩グリザイユ静物」 ~実物大で体育館シューズを描く~(第1学年)

1.題材名

「個性が浮かび上がる!? 油彩グリザイユ静物」
~実物大で体育館シューズを描く~

2.目標

【知識及び技能】
特性を理解した上で,油彩絵の具を工夫して扱う。
モチーフを観察し,光や陰影,面などを把握して形態を表す。

【思考力・判断力・表現力等】
モチーフを観察し,感じ取ったことを工夫して表現する。
自身および他者の見方や感じ方について味わう。

【学びに向かう力,人間性等】
学んだことを生かして主体的に制作や鑑賞に取り組む。
作品制作が個性の発見につながることを理解する。

3.準備(材料・用具)

教師:キャンバス(F6号),油彩絵の具(チタニウムホワイト,アイボリーブラック),筆,水性クリーナー,溶き油,パレット,イーゼル,筆洗器,ペインティングナイフ,マスキングテープ,コピー用紙,生徒参考作品,ワークシート
生徒:教科書,筆記用具,白衣,トイレットペーパー,体育館シューズ,鉛筆

モチーフ:体育館シューズ,コピー用紙,鉛筆)
※コピー用紙は1枚を台に置き,もう1枚を自由に変形して組み合わせた。

4.評価規準

【知識・技能】
ペインティングナイフを用いた表現など,工夫して油彩絵の具を扱うことができる(技能)。
モチーフを観察し,光や陰影,面などを把握して形態を表現することを理解している(知識)。

【思考・判断・表現】
モチーフの質感や存在感を観察し,感じたことを表現することができる(発想・構想)。
生徒同士で互いの作品のよさや美しさを感じ取り,創造的な表現の工夫などについて考え,見方や感じ方を深めている(鑑賞)。

【主体的に学習に取り組む態度】
モチーフを観察し,その形態を理解して表現を追究しようとしている(知識)。
油彩絵の具の扱い方を工夫して表現を追究しようとしている(技能)。
対象を観察し,感じたことを表現しようとしている(発想・構想)。
生徒同士が作品のよさを感じ取り,制作を通じて生徒自身の個性を発見することに興味を持ち,考えを深めようとしている。(鑑賞)。

5.本題材の指導にあたって

 本題材は観察と表現について学びながら,制作を通じて自身の見方や感じ方を発見したり追究したりできることを理解していく。高校生活を通してこれからの生き方を模索していく生徒たちには,まだ知らない様々な能力が自分自身にあり,可能性に満ちた存在であるということを感じてもらいたい。対象を観察して,表現を追究することの楽しさを十分に味わえるように授業を進めていくとともに,制作によって自身の内面を追究していくことを学習の意義として共有していく。
 また主体的で対話的な深い学びを展開するために,次の工夫を行う。

①主体的な学びのための工夫
○何度も修正ができる油彩絵の具の利点を活かして,のびのびと制作できるようにする。
○絵具を白黒のモノトーンに限定し,明暗に集中して描けるようにする。
○自然光がモチーフの横からに当たるように照明を消して,机といすの配置を調整し,陰影を捉えやすい環境をつくる。
○定規で対象の長さを計測した上で原寸大でキャンバスに描くようにし,構図のバランスをとりやすくする。
○場合に応じて,教員が補助線を描き入れ,生徒が自信を持って制作できるようにする。
○コピー用紙をモチーフとして加えることで,影を観察しやすくする。また床との接地面を捉える手がかりを増やす。
○始めは筆による厚塗りに限定し,油彩絵の具の特質を掴みやすくする。
○授業ごとに活動のポイントや達成すべき課題を明確にすることで,活動がイメージしやすいようにする。

②対話的な学びのための工夫
○授業の始めと終わりに美術室に全員のキャンバスを並べることで,相互鑑賞がしやすい環境をつくる。
○中間講評を実施することで,互いの作品から互いの作品から見方や感じ方,表現の仕方を学び合う。
○廊下にキャンバスを掲示することで,友人同士での相互鑑賞がしやすい環境をつくる。
○作品を校内に展示することで,多くの人の鑑賞を想定した制作を心がけるように指導する。

③深い学びのための工夫
○自身の内面の追究を学習の意義とすることで,絵画表現の習得だけにとどまらず,日常生活における自身の成長と結び付けて制作を進めていけるようにする。
○制作後にワークシートに取り組むことによって,自身の学びについて振り返ることができるようにする。

6.題材の指導計画

16時間(2時間×8回)
※事前の単元で鉛筆デッサンに取り組む。

時間

学習活動

指導上の留意点

評価規準,評価方法

下地づくり
(2時間)

①単元や用具について説明を受けて,準備する。
②筆の洗い方について理解する。
③混色して灰色をつくり,キャンバスの全面に塗る。(中間色下地)

①下地を塗りながら,油彩絵の具の特性について説明をする(乾燥のしくみ,可塑性,濡れ色の保持など)。
②使用する筆は1本のみとし,筆洗油,水性クリーナー,水の順に丁寧に洗う。

【知識・技能】(技能)
観察

おつゆ描き
(2時間)

①モチーフの組み方や構図について理解する。
②おつゆ状の絵具(黒)で形をとっていく。

①構図はF6号キャンバスに,実物大に体育館シューズを描くことで自然とバランスが整う。シューズが収まる長方形の長さを計測し,長方形を画面に配置してから描いていく。
②おつゆ状の絵具は拭きとると線を消すことができる。
③必要に応じて教員が形の狂いの有無を確かめたり,ガイドとなる線や点を描き入れたりして,生徒が自信を持って描けるようにする。

【知識・技能】(知識)
作品,観察

【主体的に学習に取り組む態度】(知識)
作品,観察

下塗り
(2時間)

①シューズから描き始め,徐々に画面全体に色の調子を付けていく。
②おつゆ描きの線の両側から絵具を塗りこみ,線を残さずに色と色の境界となるようにして描き進める。

①筆を使って厚塗りで色の調子を付けていく。
②色調を豊かにするために,画面上で混色して調子をみつけていく。
③形は何度も取り直していく。

【知識・技能】(知識)
作品,観察

【主体的に学習に取り組む態度】(知識)
作品,観察

固有色について
(2時間)

①画面全体に色調を付けていく。
②固有色に注意しながら全体の明暗を整えていく。

側面のラインや靴底のゴムなど色がついた部分は,モチーフの写真とその白黒コピーを比較して説明する。

【知識・技能】(知識)
作品,観察

【主体的に学習に取り組む態度】(知識)
作品,観察

質感について
(2時間)

①質感について理解する。
②ペインティングナイフなどを用いて,工夫して絵の具を扱い,描き込んでいく。

①モチーフの手触りや重さなど目に見えない情報について確認する。
②ペインティングナイフや,溶き油を用いて,描画方法を工夫しながらモチーフを描いていく。
③マスキングやグレージングについても実演して紹介する。

【知識・技能】(技能)
作品,観察

【主体的に学習に取り組む態度】(技能)
作品,観察

中間講評会
(2時間)

①教員や生徒同士による講評を受け,気づいたことなどをワークシートに書く。
②自身で気づいたことをもとに描き進める。

①キャンバスを並べ,良いところや足りないところを学び合えるように講評する。
②それぞれの見方や感じ方が表現に現れていることを確認する。

【思考・判断・表現】(鑑賞に関する資質・能力)
ワークシート,観察

【主体的に学習に取り組む態度】(鑑賞)
ワークシート,観察

絵づくりについて
(2時間)

①絵づくりについて理解する。
②題名やサインについて考えながら,描き進める。

①鑑賞者の視点を意識して,色調を整えることで強調したい部分が明確に伝わるように画面を整えていく。
②自由に廊下に持っていき,距離をとって眺める。

【思考力・判断力・表現力等】(発想・構想の能力)
作品,観察

【学びに向かう力,人間性等】(発想・構想の能力)
作品,観察

仕上げ
(2時間)

①気になるところを描き込み,最後にサインを入れる。
②題名を決め,キャプション,裏書を書く。
③ワークシートで制作を振り返る。

①ワークシートで振り返り,感想や学ぶことができたことなどを考察する。
②教科書を用いて,これまで学んできたことを確認する。

ワークシート(89.4KB)

【思考・判断・表現等】(鑑賞に関する資質・能力)
ワークシート,観察

【学びに向かう力,人間性等】(鑑賞)
ワークシート,観察

7.授業を終えて

 始めは教員の指示による活動が多かったものの,授業が進むにつれて始める前から自主的に準備をするなど,生徒が主体的に授業に参加する様子が見られるようになった。また生徒からは,どのように制作を進めていくかを考えながら,最後まで一生懸命に制作に取り組む様子が伺えた。
 序盤において生徒の実態に合わせつつ,活動に適度な制限を設けながら進めたことが,生徒全員が制作に前向きに取り組むことにつながったのではないかと思う。段階に応じて自由に選び取れる要素を増やしていくことで,個々の表現へと自然に移行し,様々な作品が出来上がった。生徒の学ぶ力や意欲をいかに引き出せるかが,授業の学びの成果を大きく左右する。扱う題材に精通することや,生徒の実態を把握することを追究した上で,活動の内容や順序,その組み立てを工夫して,さらに学ぶ力や意欲の向上につなげていきたい。
 また並べてあるキャンバスを見比べたり,友人と話をしながら感想を言い合ったりなど,生徒が楽しみながら対話的な学びに取り組む様子が見られた。これらの活動は学びや気づきが生まれることにつながるため,今後も大いに盛り上げていきたい。教員が自己の表現を追究し高めるように指導をしていくと,対話的な学びも自ずと活発になっていくように感じられた。これらはまさに両輪のような関係で,授業の原動力となっていったと考える。
 作品のタイトルは,制作中に追究したことや自分と向き合ったときに見えてきたものなどが伺える。生徒によっては,遊び心を発揮してつけたタイトルも見受けられる。タイトルのつけ方を含めて表現になっており,全員がそれぞれの表現することができたことは教員にとって大きな喜びである。自身の内面を見つめることや,また他人の良さについて認め合うことは、美術を学ぶ基本的な姿勢であり,次の単元の学びにつながっていって欲しい。

(生徒作品)

「影と白」「あれ?私のもう一足どこやったっけなー?」「誠実」

「差」「untidy」「ハック」

デザイン:サインのデザイン ―季節に関する行事のマークをデザインする―(第1学年)

1.題材名

デザイン:サインのデザイン

生徒作品。梅を中心に配置し,背景の色を変えることによって昼夜の長さが同じことを表現している。生徒作品。満月と中国の建物をモチーフに月見を表現している。生徒作品。海を土台に植物と花火が配置され,中心の大きな太陽は昼が長いことを表現している。

2.サブタイトル

季節に関する行事のマークをデザインする

3.目標

【知識及び技能】
造形的な見方・考え方を働かせて,社会で使われているマークの特徴から役割や働きを読み取り,学んだことを自らの作品を通して美しく表現している。

【思考力,判断力,表現力等】
日本で四季折々に行われてきた行事について知り,その特徴から主題をとらえて創造的な表現の構想を練っている。

【学びに向かう力,人間性等】
造形的な見方・考え方を働かせて生活や社会の中の美術の働きを理解しようとしたり,主体的に主題を示しつつ表現や鑑賞の活動に取り組んだりしている。

4.準備(材料・用具)

教師:アクリルガッシュ,ケント紙(B4サイズ)
生徒:鉛筆,消しゴム,定規

5.評価規準

【知識・技能】
社会におけるデザインの役割や働きについて理解し,自らが構想したマークを丁寧に表現している。

【思考・判断・表現】
日本で四季折々に行われてきた行事の特徴から自ら主題を作り,個性豊かなマークのデザインを構想している。

【主体的に学習に取り組む態度】
生活や社会の中のデザインの働きを考察したり,そこから学んだことを自らのデザインに主体的に取り入れ表現したりしようとする。

6.本題材の指導にあたって

ア 指導上の工夫
 生徒たちが,絵の具を扱うために必要な技能を身に付けた上で,本題材に取り組めるようにカリキュラムを工夫した。
 前題材では,春夏秋冬から発想・構想し,自らがイメージした通りに色を塗る活動を通して,色彩について学んだ。授業では,それぞれの季節から感じる温度や匂いや雰囲気,その季節だからこそ出会える植物や食べ物等からイメージを広げるように指導した。
 本題材では,形について学ぶことを目的とする。生徒にはコンセプトに沿った1色のみで塗ることを求めたり,形を工夫したりすることで,自らの意図を示すように指導した。

前課題「春夏秋冬からイメージした配色」前課題のワークシート

イ 生徒の実態
 本校は単位制普通科の昼夜間定時制課程である。美術が好きで多くの支援がなくとも取り組めてしまう,不登校経験があり十分に学べていない,外国で学び美術の授業すらなかったなど,多様な生徒が在籍している。それゆえに生徒によって高等学校の美術に必要な学力の習得段階に違いがある。美術Ⅰではそれらの生徒全てに対して美術の楽しさを教え,美術Ⅱ及び美術Ⅲで必要となる基礎的な能力を育むことを重視している。

ウ 題材設定のねらい
①丁寧に取り組む姿勢の育成【知識及び技能】
 本校の生徒は定規を用いて決められた長さを測り曲がらないように線を引く,絵の具を自分が意図した通りに混色しムラなくはみ出さずに塗る,字体の見本を見ながら正しくレタリングするなど,基本的な作業でつまずいてしまうことがある。しかしこれらの方法を理解し丁寧に取り組む姿勢があれば,よりイメージに近い作品を仕上げることができる。本題材は創造することの楽しさを味わうとともに,必要な技能を養うことをねらいとした。

②自己肯定感の醸成【思考力,判断力,表現力等】
 生徒からよく聞く発言として「自分には才能がないから…」というものがある。美術教師であればこの言葉は誰もが聞いたことがあるのではないだろうか。本題材を通じて生徒が,一つ一つ手順を追って論理的に考えることで,自らの意図に沿ったデザインを発想・構想できることを経験し,生徒たちの自己肯定感を高めたいと考えた。近年,社会において「デザイン思考」の必要性が強く言われている。美術教育を通じて,社会で必要とされる思考力,判断力,表現力等を養うことを目的とした。

③社会への興味・関心【学びに向かう力,人間性等】
 最近は生活の中で日本の伝統を感じることが減りつつある。そのため,子どもたちは日本で四季折々にどのような行事が行われてきたのか知る機会が少なくなっている。また本校の場合は外国から来日して学んでいる生徒もおり、日本について知らないことがまだまだ多い。本題材を通じて,日本古来の風習や伝統文化について学ぶことにより,社会への興味・関心をもち,豊かな人間性を育むことをねらいとした。

7.題材の指導計画

授業数

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

評価規準,評価方法

1時間

導入①
マークについて学ぶ。都道府県のシンボルや有名企業のマークを活用した。
http://www.nga.gr.jp/pref_info/index.html
(全国知事会 都道府県情報)

① 団体や企業はマークを定めており,そこには意味や意図が込められていることを理解できるようにする。
② デザインには論理的な思考が必要なことを理解できるようにする。

「デザイン課題」見本書体(55.0KB)

【知識・技能】
【思考・判断・表現】
発言,態度

1時間

導入②
季節に関する行事について学ぶ。
<取り上げた行事>
正月,節分,七夕,お盆,月見,春分,夏至,秋分,冬至

① 日本の伝統的な行事は,どの時期にどのようなことが行われているのか,理解できるようにする。

「デザイン課題」(指導用)(36.5KB)

【知識・技能】
【主体的に学習に取り組む態度】
ワークシート,発言

4時間

展開① 発想・構想
マークのデザインを考える

① 取り上げた行事から1つ選び,使用する物やイメージすることを箇条書きにする。
② ①で箇条書きにした内容の事物の形を考える。
③ ②の形を組み合わせて新たなデザインを考える。形を工夫してコンセプトを伝えるために、使用できるのは1色だけとする。

① 手順を追って構想するように指導する。
② できる限り多くの物や事を箇条書きできるように支援する。思いつかない場合は,その行事について調べさせる等して理解を深められるようにする。
③ 1つの物や事だけを表現してもデザインにはならない。複数の要素をどのように組み合わせることができるか考えることが必要である。

マークワークシート(15.0KB)
板書計画(46.3KB)

【発想や構想】
【学びに向かう力,人間性等】
ワークシート,アイデアスケッチ

5時間

展開② 制作
① 枠線を引く。
② マークを描く。
③ レタリングをする。
④ コンセプトを書く。

評価について以下の3点を重視することを生徒に伝える。
① ムラなくはみ出さず丁寧に塗られているか。
② 個性豊かなデザインであるか。
③ デザインからコンセプトは伝わるか。

【知識・技能】
【主体的に学習に取り組む態度】
作品

1時間

まとめ
互いの作品を鑑賞する。

互いの感性の違いから生まれた作品を鑑賞し,よさを味わえるようにする。

【思考・判断・表現】
【主体的に学習に取り組む態度】
発言,態度

8.授業を終えて

 本題材は2学期に美術Ⅰで取り組む。興味深い点は,熟考した結果それぞれの生徒が,他者と異なるデザインをすることである。多様な生徒がいれば発想・構想もそれぞれ違う。以上からこの題材は生徒が他者との違いを楽しむことができる課題であると考える。
 前述したように本校の生徒は多様である。美術の授業を通じて多様性を受け入れ,自らの人生を幅広く豊かなものにできる生徒を育成したいと日々考えている。

「ホタル池」のあるまちづくり ~造形的な視点を通して世界のことを考える~(第1学年)

1.題材名

「ホタル池」のあるまちづくり

2.サブタイトル

~造形的な視点を通して世界のことを考える~

3.目標

【思考力・判断力・表現力等】
スライドや活動を通して造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考え、価値意識を持って美術や美術文化に対する見方や感じ方を深める。

【学びに向かう力,人間性等】
主体的な活動を通して社会や世界の諸問題を発見し,造形的な視点を通して問題解決を考察できるような感性を高め,美術文化に親しみ,心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

4.準備(材料,用具)

・ワークシート 参考資料(4.1MB)
・模造紙(B2程度。ポスターの裏紙などでも可)× 班数分(一班4,5人)

・指示プリント 参考資料(71.8KB)
・振り返りプリント 参考資料(1.2MB)
・マーカー(12色程の太字のものが使いやすい)

5.評価規準

【思考・判断・表現】
世界各地の文化遺産としてのまちづくりの特徴を主体的に学び,感性や美意識,想像力を働かせながら,造形的な視点を通してランドスケープデザインや都市計画について思考することができる。

【主体的に学習に取り組む態度】
チームとなって他の生徒と議論しながら一つの図を作り,そこで生じた新たな問題に気付き,持続可能な社会や世界を築くための問題解決方法を,造形的な視点を通して考察することができる。

6.本題材の指導にあたって

教材について
 本校の裏に広がる林には首都圏では珍しくホタルが生息する小川が流れている。そのためハイシーズンになると,近隣住人以外にも多くの観光客がホタル観察に訪れる。しかし近年周辺の急速な宅地開発によってホタルが減少し,林そのものの存続も危惧されている。
 美術の授業の中でこの身近な問題を発展させたワークショップを用いて環境問題に触れ,そこから造形的な視点を通してSDGsの中の「住み続けられるまちづくりを」という目標について考えるきっかけを作りたいと考えた。
 ワークショップの前段階として,ユネスコ世界遺産に登録されている文化遺産としての町をいくつか紹介する。その中で日本の町についても取り上げつつ,ランドスケープデザインや都市計画についても触れる。そして指導要領(※1)の各項目を意識しながら,それらのまちづくりについての造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考えさせる。
 それらを踏まえながら,ワークショップを通して身近で起きているリアルな出来事を世界の縮図として自分自身にも関わることであると捉え,「住み続けられるまちづくりを」という目標に向けて今何をすればよいのか生徒自ら課題を発見し考察することによって,SDGs実現に向けた諸問題解決のための第一歩となることを目指す。

※1:
高等学校学習指導要領(平成30年告示)抜粋
・美術Ⅰ 2内容 B鑑賞(1)イ(イ)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから,美意識や創造性などを感じ取り,日本の美術の歴史や表現の特質,それぞれの国の美術文化について考え,見方や感じ方を深めること。
・美術Ⅱ 2内容 B鑑賞(1)イ(イ)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから表現の独自性などを感じ取り,時代,民族,風土,宗教などによる表現の相違点と共通点などから美術文化について考え,見方や感じ方を深めること。
・美術Ⅲ 2内容 B鑑賞(1)イ(ア)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから伝統や文化の価値を感じ取り,国際理解に果たす美術の役割や美術文化の継承,発展,創造することの意義について考え,見方や感じ方を深めること。

7.題材の指導計画(50分×2)

授業数

時間

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

1
(50分)

5分

・出欠確認
・アイスブレイク

・出欠確認
・グループワークをしやすい雰囲気を作る。

15分

・スライドを観賞する

・ワークシートを用いてまちづくりの特徴や工夫を考える

・スライドを用いて世界各地の文化遺産としての町を紹介し,それぞれのまちづくりの特徴や工夫を考えさせる。
参考資料(3.0MB)
・日本の町についても取り上げつつ,ランドスケープデザインや都市計画についても触れる。
・時代,民族,風土,宗教などによる表現の相違点や共通点などを思考させる。
解説 参考資料(1.5MB)

30分

・ワークショップの説明を聞く(5分)
・制作(25分)
動画(Youtube)

・ワークショップの説明を行う。
参考資料(1.3MB)
解説 参考資料(4.8MB)
・ワークシートと指示プリントを配る。
・休み時間をまたぐ場合は,他班の目に触れないように用紙を裏返させる等の配慮をする。

2
(50分)

15分

・制作(15分)

30分

・各班が制作した町について特徴や工夫を発表する(8分)

・一班1分程度で全体に向け発表させる。
動画(Youtube)
・発表を受け,各班のポイントについて簡潔に解説する。

・展開と議論(5分)

・全ての班の発表終了後【展開】を行う。
動画(Youtube)
・【展開】を受けて班内で自由に話し合う

・SDGsの説明を聞く(5分)

・SDGsの説明をする。

・振り返り記入(12分)

・振り返りをさせる。

5分

・使用した道具等を片付ける
・本時の振り返りを行う

・片付けの指示を出す。
・本時の振り返りをさせ,目標が達成できたか確認させる。
・本時のまとめと次時の連絡を行う。

目標

【思考力・判断力・表現力等】
スライドや活動を通して造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考え,価値意識を持って美術や美術文化に対する見方や感じ方を深めたりすることができるようになる。

【学びに向かう力,人間性等】
主体的な活動を通して社会や世界の諸問題を発見し,造形的な視点を通して問題解決を創造的に考えるための感性を高める。美術文化に親しみ,心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

評価基準
評価方法

【思考・判断・表現】 観察・発表
世界各地の文化遺産としてのまちづくりの特徴を主体的に学び,感性や美意識,想像力を働かせながら,造形的な視点を通してランドスケープデザインや都市計画について思考することができる。

【主体的に学習に取り組む態度】 振り返りシート
他の生徒と意見を共有し理解し合いながら一つの形にまとめ,そこで生じた新たな問題に気付き,持続可能な社会や世界を築くための問題解決方法を,造形的な視点を通して考察することができる。

8.授業を終えて

 通常の授業ではあまり扱わない内容であったため,生徒は新鮮な気持ちで真剣に取り組んでいた。生徒の振り返りを読むとこちらのねらいは概ね達成できたように思う。今後も社会や世界の動向をしっかりと見極めながら「美術の教育」のみならず「美術を通した教育」において何ができるかを探究していきたい。
 本題材は短時間で実施できるため,長期休業前後や学期末などの時間に用いやすい。また,その時々の問題に応じて目標や落とし所,前半のスライド部分の内容等を設定することで,他教科や道徳,総合の時間,地域の問題解決などにも応用できるだろう。

生徒の振り返り(抜粋)

◆美術,美術文化について
・美術とは絵や彫刻だけだと思っていたが,身近な社会や生活の中にも様々な形で美術は存在していることに気づいた。美の基準は多種多様で,人は「美」と共にあると感じた。
・美術を学ぶことで今までとは違った視点で物事を見たり考えたりするようになった。今回の課題を通してその視野が更に広がった気がする。伝統や文化を大切にして後世に残さなければ,と改めて思った。
・ランドスケープデザインという言葉を初めて知り,美術にはこんな活かし方もあるのだと感動した。
・様々な国の美意識や美術的な魅力を知れたのと共に,改めて日本の良さを知れた気がする。
・美術を通して文化や考え方を学び,学校の授業になぜ美術があるのかわかった気がする。

◆他者理解・異文化理解,環境問題,SDGs等について
・目的が同じでも人によって様々な手段をとっていた。皆考え方が違っていてとても面白かった。
・それぞれが互いのことを考えなければ,結局その町の良さが潰れてしまう。自分も周りもよくするために独りよがりな考え方をせずに広い視野を持つことが大切だと思った。
・どれだけ暮らしやすい町にできるかのみを考えていたが,その自分の町の外のことを考えていなかったので反省した。無意識に自分の周りしか考えていなかったのは怖いと思う。
・環境問題について考えることはあったけど,まちづくりという観点からは考えたことがなかったので環境問題の解決方法がたくさんあることに気づけたと思う。私にできることを探していきたい。
・一人一人が関心を持つことが重要だと思った。人間だけでなく,植物や生物など他の生命のことも視野に入れて考えていかなければゴールにたどり着くことはできない。これからの生活を守っていくために何ができるのかを考えるいい機会になった。
・今までSDGsと言われても遠い外国の話で自分には関係ないと思っていたが,実は自分にも深く関係しているし,その解決方法も意外と身近にあるのかもしれないと思った。

「フォトリアリスム ~有名人の顔~」(第1学年)

1.題材名

「フォトリアリスム ~有名人の顔~」
鉛筆デッサンの表現を追求しよう

生徒作品《財津和夫》

2.目標

【知識及び技能】
意図に応じて材料や用具の特性を生かしたり,表現方法を工夫したりして表すといった創造的な技能を身に付ける。

【思考力,判断力,表現力】
作品や写真などを様々な観点から鑑賞した上で,伝統的かつ創造的側面から美術の働きや美術文化を深く捉え,そのよさや美しさを創造的に味わう。

【学びに向かう力,人間性等】
造形的な見方・考え方を働かせて,創造活動の喜びを味わい,多様な表現方法や,生活や社会の中の美術の働き及び美術文化と幅広く関わり,主体的に表現や鑑賞の創造活動に取り組む。

3.準備(材料,用具)

教師:白象紙(B4),鉛筆(4H~8Bまで),練ゴム,羽箒,字消板,ワークシート
生徒:鉛筆(様々な濃さ),消しゴム,有名人の写真のコピー(A4で印刷したもの)

4.評価規準

【知識及び技能】
鉛筆や練ゴムなどの特性を理解して,表現したい内容に応じた道具を選択しながら制作できている。

【思考力,判断力,表現力】
世の中にある有名人の写真を鑑賞し,その色や構図,被写体の表情等から自分が一番魅力的だと感じた作品を選択できている。選んだ写真をよく鑑賞しながら自分の作品に結び付けることができている。

【学びに向かう力,人間性等】
写真から自分の興味のある有名人を選び,自分の主観も活かしつつ,豊かに表現できている。造形的な見方・考え方を働かせ,他者の作品や世の中の作品を鑑賞することができる。

5.本題材の指導にあたって

 使用する主な画材は画用紙と鉛筆であり,描く対象が人物の顔であることからも,同様の題材は多くの学校で既に行われているだろう。以下4点から,このようなクラシカルな題材を高校1年生に実施する理由を説明する。

①基礎的なデッサンを学ぶ
色や形を重視する美術において,基礎となるのはデッサン力である。実践を通して鉛筆のグレーの階調を理解することで,美術の基本となる描写する力が身に付くと考えられる。スマートフォンなどが普及した現代社会において,高校生にアナログな体験をさせることは重要である。カッターで鉛筆を削るなど,手先を使う動きは美術教育において意識して教えたいと考える。

②多くの情報から主題を選択することを学ぶ
現代において,多くの情報から必要なものだけを選び取る能力は重要である。一昔前に同様の題材を行った際,生徒達は雑誌を用いて主題を選択していた。しかし現在はほとんどの生徒がインターネットを活用して,主題となる写真を選び出している。ある情報を探し出し,選択する能力は主題の生成に不可欠である。

③フォトリアリスムという芸術のジャンルを学ぶ
一説によると,フェルメールはカメラ・オブスキュラを用いることで,リアリズムに富んだ新たな画面構成を行った。20世紀に入ると「フォトリアリスム」という新たなジャンルも出現した。写実的かつ平面的なフォトリアリスムの絵画表現は,カメラの仕組みを学び直すことで生まれたのである。発明品を改めて分析し,新たなアイデアを生む姿勢は現代においても重要である。本題材を取り組むことを通して生徒たちは,各メディアの特徴を把握し活用することを学ぶ。メディアの分析と活用は,本題材のテーマであるといえる。

④自己肯定感が向上する題材とする
制作過程において生徒たちは,多かれ少なかれ他者と比較して劣等感を感じ,自分の力量に苦しむ。その劣等感が膨れ上がると美術への苦手意識が増し,さらに劣等感に苛まれるという負のサイクルに陥ってしまう。この負のサイクルから脱するためには,作品を褒められるという体験が必要である。本題材の最後の1時間は合評を行い,他の生徒作品の素晴らしい部分を互いに褒め合うという活動を行う。また校内展示を行うことで,授業に参加していない生徒や他の教員から評価を受ける機会が生まれる。本題材は万人にわかりやすいリアリティがあるため,他者から褒められることが多い。褒められることで生徒たちは自己肯定感や幸福感を持ち,美術の活動を楽しく感じるだろう。美術Ⅰの導入として取り組むのにふさわしい題材と言える。

6.題材の指導計画

時間

学習活動の流れ

指導上の留意点

評価規準,評価方法

1

導入
①プロの仕事を見る
・shtt4881さん(youtube
・三重野慶さん
・ゲルハルト・リヒター 等
②高校生の作品をみる
・先輩の失敗例を紹介する
③準備物の留意点を伝える

仕上がりのイメージをもてるようにする
①「フォトリアリスム」の作品の魅力や素晴らしさを動画や画像で理解する。
②高校生ではどの程度まで追求できるのか具体的なイメージをもつ。
③写真を選ぶ際,解像度の低い作品,顔の小さい作品,光と影がわかりにくい作品を避ける。

【学びに向かう力,人間性等】観察
【思考力・判断力・表現力】観察

1

技法の演習
①鉛筆の使い方
・カッターで削る
・濃さの確認
・ハッチング等の技法確認
・ティッシュで擦る
②練ゴムの使い方
・たたく
・擦る
・ローラーのようにする
・白い線を描く
③消しゴムの使い方
・字消板
・羽箒

本題材で用いる技法を演習する。
①鉛筆の動かし方は手首,肘,肩などを使用する感覚をつかむようにトレーニングする。また鉛筆を倒したり,擦ったり,立ててハッチングしたりと様々な表現があることを体感する。
②練ゴムを駆使すると,微妙なグレーが表現できることを体験する。
③字消板や羽箒などの道具を使うと,快適に制作ができることを知る。

【知識及び技能】スケッチブック(観察)

6

制作
①転写する
・印刷した画像の裏を真っ黒にして転写する
②目から描く
・眼球やまつ毛から描く
③顔全体を描く
・肌はこすりながら描く
④髪の毛を描く
・尖らせた鉛筆を立てて描く

①転写後,余白の汚れは練ゴムで取り,きれいな白にしておいた方が良い。
②眼球やまつ毛は6~8Bのとがった鉛筆で描き,強い黒を表現する。これによって他の色が付けやすくなる。
③肌はH~HBの鉛筆を用いる。鉛筆は倒して,きめ細かく描く。ティッシュなどで擦ると良い。
④髪の毛は旋毛からの流れを意識すると良い。また光は気にせず,髪の黒をとがった鉛筆で表現し,その後に練ゴムや消しゴムで光沢を表現する。

【思考力,判断力,表現力】作品,観察
【知識及び技能】作品,観察
【学びに向かう力,人間性等】観察

1

まとめ
①合評を行う
・全作品を並べて鑑賞する
・合評として,自評と他者の作品へのコメントを発表する
②感想を記入する

合評では自分の作品と他者の作品のコメントを発表するが,抽象的な言葉は避け,具体的に述べるようにする。

【思考力,判断力,表現力】観察,ワークシート
【学びに向かう力,人間性等】観察,ワークシート


6.授業を終えて

 大きく分けて3つの成果があった。1つ目は展示した時の他者からの反応である。本作品の仕上がりは,本物の写真と見間違うほどである。そのため,校内展示をした時に他の生徒や教員からたくさんのお褒めの言葉をいただいた。自分の作品が褒められる体験は,制作者にとって最もモチベーションが上がることである。2つ目は制作に没頭できることである。生徒達は思い入れのある有名人の顔を扱うことで自分の作品に愛着が増し,リアルを追求したくなる。このことにより,提出のための作品ではなく自身を満足させるための作品を目指すことが出来た。3つ目は,生徒達の観察眼や鑑賞の力が鍛えられたということである。細部まで観察しながら制作することで,自然と観察眼が鍛えられる。この観察する能力は鑑賞することにも繋がると考えられる。
 描写の基礎として,鉛筆デッサンを用いる学校は多く存在するだろう。本題材の特徴は初めて鉛筆で描く生徒にとって熱中できるものであり,また完成度,満足度の高い作品が仕上がるということである。美術教育の導入として有用な題材といえるだろう。