デジタル・ストーリーテリング──現代の「自分語り」

1.育たない当事者意識

 プロジェクト「地方創生イノベーションスクール2030」は「OECD東北スクール」のスピリットを継承するもので、生徒の一人ひとりが主体的に地域課題を発見し、その解決のために活動することが目的です。しかし、プロジェクトの展開とともに、様々な形で課題が見えてきました。最も大きいものは、生徒たちがなかなか自分たちで動き出さないということです。課題を考えさせて、そのやり方についても様々に例示するのですが、すぐに動きが止まってしまいます。
図1 テンションマップ 2016年の夏、クラスタースクールに大勢の生徒たちが集まったので、東北スクールの時と同じように、震災以降の心の動きを表現する「テンションマップ」に取り組ませました。すると、ある地域の生徒の曲線は──津波の直撃を受けた地域であるにもかかわらず──、震災直後からテンションは右上がりのままになっています。「直接の被害はなかったし、芸能人とかいろいろな人が来て、いろんなものがもらえたので学校が楽しくなった」と言います。その夜、先生方で集まって翌日以降の計画について話し合いました。
図2 大学生によるサポート 被災地の生徒たちがみな問題意識をもっている、というのは大人の勝手な思い込みで、現実の生徒はむしろ逆の傾向も示しています。確かに震災から5年以上が経過しており、当時の生徒と同じはずがないのです。「1日で終わらせる予定だったデジタル・ストーリーテリングを2日間に延ばし、じっくりと自分語りをさせませんか? 問題を自分事にするプロセスがないと、これからも宿題をこなすだけのプロジェクトになってしまう。」との私の提案に、先生方はみな同意してくれ、次に進めるステップを今回は諦め、自分自身を見つめさせることに徹することにしました。

2.デジタル・ストーリーテリング

図3 ワークショップの坂本旬教授(左から2番目) デジタル・ストーリーテリングは、1990年代半ばにアメリカ・カリフォルニアで誕生した自分語りの方法で、生徒の一人ひとりが日常生活をテーマにした身近な経験や想いを、スマートフォンやタブレット等のデジタルメディアを使って、動画で物語るものです。(小川明子『デジタル・ストーリーテリング 声なき想いに物語を』参照)現代の「生活綴り方」と呼ばれるほど優れた教育方法と考えられており、私たちのスクールではメディア論の第一人者である法政大学の坂本旬先生の指導でワークショップを行いました。
図4 アメリカ人に説明する中学生 この方法の優れている点は多々ありますが、私が注視したのは、「自分語り」という個人的な作業であるにもかかわらず、他の参加者がアドバイスしながら関わっていくという点です。個人がテーマを決め、数分のストーリーラインができたところで、参加者同士で批評し合います。これによって人に伝える中身と、伝え方がより鮮明に意識化されることになります。ある生徒は、ちょうど来ていたアメリカ人に必死で説明しています。ある生徒は、優秀であるにもかかわらず「自分語り」を嫌い逃げ回っています。大学院生が説得し、文章を綴らせることに成功しますが、書き手同士、書き手と援助者の間に緩やかな信頼関係を生みだしていく、という点に強い興味を持ちました。

3.「自分語り」から見えてくるもの

 これをもとに各自で原稿(シナリオ)を書き、自らの声でナレーションを録音し、これに関係のある写真やイラスト、映像をタイムライン上に並べ、2~3分の動画に編集します。ワークショップには中学生もいましたが、大学生がサポートしてくれたので、全員が完成させることができました。現代の若者たちはデジタルデバイスの扱いに慣れており、とてもマッチした方法だと思います。
図5 無気力だった自分が演劇との出会いで目的を見出す 最も重要なのは、これを全員で上映会を開くということです。私たちは二つのグループに分かれて、全員の作品を全員で鑑賞し合いました。時間内に収まりきれなかったものや、やや形式的にまとまってしまったものもありましたが、多くは、被災した自分がなぜ頑張るようになったのか、自分は将来何をしたいのか、自分が変わるきっかけになったのは何だったのかを、それぞれの語り口で切々と訴えてくるものばかりです。ほとんどの作品で、日常の姿とは異なる意外な一面が表現されていました。
図6 被災地の実家に数年ぶりに戻る。ふるさとのためにできることを自分の将来の目標に。 もちろんこれらの活動によって、即主体性が生まれたかと言えばそうではありませんが、大人と生徒たちの間の距離が縮まり、指導しやすくなったという点は大きな成果です。
 デジタル・ストーリーテリングは、マスメディアにかき消されている社会的弱者の「小さな声」を発信する方法として注目されました。パーソナルな語りから見えてくるのは、リアルな社会の一部分です。語り手と聞き手がともに創造する社会の一断面ということもできます。さらには、自分の語りによって自分自身が定義され、自分自身が生まれていくということでもあります。
図7 タイの同性愛者を見てかっこいいと思った。自分に素直になりたい。 この方法は、現代社会に生きる生徒たちに必須の教材だと私は考えています。学校で行う場合、それが国語の時間であろうが、美術の時間であろうが、技術の時間であろうが、そんなことは全く関係ありません。むしろ教科の枠組みばかりを気にして、本当に必要な教育がなされていないのではないか、そんなことすら考えさせられた強烈な経験となりました。

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」の「オリエンテーション向け動画」「自習に役立つ資料」更新

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」の「オリエンテーション向け動画」「自習に役立つ資料」にコンテンツを追加しました。「臨時休業期間における児童生徒用コンテンツの紹介」からもご覧いただけます。

令和3年度版 中学校教科書のご案内:数学と美術と社会「内容解説資料(別冊)」追加

「令和3年度版 中学校教科書のご案内」特設サイト:数学「資料ダウンロード:内容解説資料(別冊)」美術「資料ダウンロード:内容解説資料(別冊)/持続可能な社会を目指す SDGsと日本文教出版の「美術」」社会 地理・歴史・公民「資料ダウンロード:内容解説資料(別冊)」を追加しました。

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」に「自習に役立つ資料」追加

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」に「自習に役立つ資料」を追加しました。「臨時休業期間における児童生徒用コンテンツの紹介」からもご覧いただけます。

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」に動画追加

中学校 美術:「みんなの美術室」の「美術の先生のコンテンツ」に「出会って広げよう/中学1年生・オリエンテーション『美術1』P.2-4(東京都・花里裕子先生)」を追加しました。「臨時休業期間における児童生徒用コンテンツの紹介」からもご覧いただけます。

「ホタル池」のあるまちづくり ~造形的な視点を通して世界のことを考える~(第1学年)

1.題材名

「ホタル池」のあるまちづくり

2.サブタイトル

~造形的な視点を通して世界のことを考える~

3.目標

【思考力・判断力・表現力等】
スライドや活動を通して造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考え、価値意識を持って美術や美術文化に対する見方や感じ方を深める。

【学びに向かう力,人間性等】
主体的な活動を通して社会や世界の諸問題を発見し,造形的な視点を通して問題解決を考察できるような感性を高め,美術文化に親しみ,心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

4.準備(材料,用具)

・ワークシート 参考資料(4.1MB)
・模造紙(B2程度。ポスターの裏紙などでも可)× 班数分(一班4,5人)

・指示プリント 参考資料(71.8KB)
・振り返りプリント 参考資料(1.2MB)
・マーカー(12色程の太字のものが使いやすい)

5.評価規準

【思考・判断・表現】
世界各地の文化遺産としてのまちづくりの特徴を主体的に学び,感性や美意識,想像力を働かせながら,造形的な視点を通してランドスケープデザインや都市計画について思考することができる。

【主体的に学習に取り組む態度】
チームとなって他の生徒と議論しながら一つの図を作り,そこで生じた新たな問題に気付き,持続可能な社会や世界を築くための問題解決方法を,造形的な視点を通して考察することができる。

6.本題材の指導にあたって

教材について
 本校の裏に広がる林には首都圏では珍しくホタルが生息する小川が流れている。そのためハイシーズンになると,近隣住人以外にも多くの観光客がホタル観察に訪れる。しかし近年周辺の急速な宅地開発によってホタルが減少し,林そのものの存続も危惧されている。
 美術の授業の中でこの身近な問題を発展させたワークショップを用いて環境問題に触れ,そこから造形的な視点を通してSDGsの中の「住み続けられるまちづくりを」という目標について考えるきっかけを作りたいと考えた。
 ワークショップの前段階として,ユネスコ世界遺産に登録されている文化遺産としての町をいくつか紹介する。その中で日本の町についても取り上げつつ,ランドスケープデザインや都市計画についても触れる。そして指導要領(※1)の各項目を意識しながら,それらのまちづくりについての造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考えさせる。
 それらを踏まえながら,ワークショップを通して身近で起きているリアルな出来事を世界の縮図として自分自身にも関わることであると捉え,「住み続けられるまちづくりを」という目標に向けて今何をすればよいのか生徒自ら課題を発見し考察することによって,SDGs実現に向けた諸問題解決のための第一歩となることを目指す。

※1:
高等学校学習指導要領(平成30年告示)抜粋
・美術Ⅰ 2内容 B鑑賞(1)イ(イ)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから,美意識や創造性などを感じ取り,日本の美術の歴史や表現の特質,それぞれの国の美術文化について考え,見方や感じ方を深めること。
・美術Ⅱ 2内容 B鑑賞(1)イ(イ)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから表現の独自性などを感じ取り,時代,民族,風土,宗教などによる表現の相違点と共通点などから美術文化について考え,見方や感じ方を深めること。
・美術Ⅲ 2内容 B鑑賞(1)イ(ア)日本及び諸外国の美術作品や文化遺産などから伝統や文化の価値を感じ取り,国際理解に果たす美術の役割や美術文化の継承,発展,創造することの意義について考え,見方や感じ方を深めること。

7.題材の指導計画(50分×2)

授業数

時間

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

1
(50分)

5分

・出欠確認
・アイスブレイク

・出欠確認
・グループワークをしやすい雰囲気を作る。

15分

・スライドを観賞する

・ワークシートを用いてまちづくりの特徴や工夫を考える

・スライドを用いて世界各地の文化遺産としての町を紹介し,それぞれのまちづくりの特徴や工夫を考えさせる。
参考資料(3.0MB)
・日本の町についても取り上げつつ,ランドスケープデザインや都市計画についても触れる。
・時代,民族,風土,宗教などによる表現の相違点や共通点などを思考させる。
解説 参考資料(1.5MB)

30分

・ワークショップの説明を聞く(5分)
・制作(25分)
動画(Youtube)

・ワークショップの説明を行う。
参考資料(1.3MB)
解説 参考資料(4.8MB)
・ワークシートと指示プリントを配る。
・休み時間をまたぐ場合は,他班の目に触れないように用紙を裏返させる等の配慮をする。

2
(50分)

15分

・制作(15分)

30分

・各班が制作した町について特徴や工夫を発表する(8分)

・一班1分程度で全体に向け発表させる。
動画(Youtube)
・発表を受け,各班のポイントについて簡潔に解説する。

・展開と議論(5分)

・全ての班の発表終了後【展開】を行う。
動画(Youtube)
・【展開】を受けて班内で自由に話し合う

・SDGsの説明を聞く(5分)

・SDGsの説明をする。

・振り返り記入(12分)

・振り返りをさせる。

5分

・使用した道具等を片付ける
・本時の振り返りを行う

・片付けの指示を出す。
・本時の振り返りをさせ,目標が達成できたか確認させる。
・本時のまとめと次時の連絡を行う。

目標

【思考力・判断力・表現力等】
スライドや活動を通して造形的なよさや美しさ,表現の意図と創意工夫,美術の働きなどについて考え,価値意識を持って美術や美術文化に対する見方や感じ方を深めたりすることができるようになる。

【学びに向かう力,人間性等】
主体的な活動を通して社会や世界の諸問題を発見し,造形的な視点を通して問題解決を創造的に考えるための感性を高める。美術文化に親しみ,心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

評価基準
評価方法

【思考・判断・表現】 観察・発表
世界各地の文化遺産としてのまちづくりの特徴を主体的に学び,感性や美意識,想像力を働かせながら,造形的な視点を通してランドスケープデザインや都市計画について思考することができる。

【主体的に学習に取り組む態度】 振り返りシート
他の生徒と意見を共有し理解し合いながら一つの形にまとめ,そこで生じた新たな問題に気付き,持続可能な社会や世界を築くための問題解決方法を,造形的な視点を通して考察することができる。

8.授業を終えて

 通常の授業ではあまり扱わない内容であったため,生徒は新鮮な気持ちで真剣に取り組んでいた。生徒の振り返りを読むとこちらのねらいは概ね達成できたように思う。今後も社会や世界の動向をしっかりと見極めながら「美術の教育」のみならず「美術を通した教育」において何ができるかを探究していきたい。
 本題材は短時間で実施できるため,長期休業前後や学期末などの時間に用いやすい。また,その時々の問題に応じて目標や落とし所,前半のスライド部分の内容等を設定することで,他教科や道徳,総合の時間,地域の問題解決などにも応用できるだろう。

生徒の振り返り(抜粋)

◆美術,美術文化について
・美術とは絵や彫刻だけだと思っていたが,身近な社会や生活の中にも様々な形で美術は存在していることに気づいた。美の基準は多種多様で,人は「美」と共にあると感じた。
・美術を学ぶことで今までとは違った視点で物事を見たり考えたりするようになった。今回の課題を通してその視野が更に広がった気がする。伝統や文化を大切にして後世に残さなければ,と改めて思った。
・ランドスケープデザインという言葉を初めて知り,美術にはこんな活かし方もあるのだと感動した。
・様々な国の美意識や美術的な魅力を知れたのと共に,改めて日本の良さを知れた気がする。
・美術を通して文化や考え方を学び,学校の授業になぜ美術があるのかわかった気がする。

◆他者理解・異文化理解,環境問題,SDGs等について
・目的が同じでも人によって様々な手段をとっていた。皆考え方が違っていてとても面白かった。
・それぞれが互いのことを考えなければ,結局その町の良さが潰れてしまう。自分も周りもよくするために独りよがりな考え方をせずに広い視野を持つことが大切だと思った。
・どれだけ暮らしやすい町にできるかのみを考えていたが,その自分の町の外のことを考えていなかったので反省した。無意識に自分の周りしか考えていなかったのは怖いと思う。
・環境問題について考えることはあったけど,まちづくりという観点からは考えたことがなかったので環境問題の解決方法がたくさんあることに気づけたと思う。私にできることを探していきたい。
・一人一人が関心を持つことが重要だと思った。人間だけでなく,植物や生物など他の生命のことも視野に入れて考えていかなければゴールにたどり着くことはできない。これからの生活を守っていくために何ができるのかを考えるいい機会になった。
・今までSDGsと言われても遠い外国の話で自分には関係ないと思っていたが,実は自分にも深く関係しているし,その解決方法も意外と身近にあるのかもしれないと思った。