[ここに注目!]GIGAスクール構想の実現がもたらすデジタル時代の学び

【お詫び】
社会科NAVI vol.27のP.12に掲載している地形図につきまして、以下の出典の記載が抜けておりました。
USGS(アメリカ合衆国地質調査所)発行 Quadrangle Topographic Map (1:24,000)Lexington East・Lexington West

モンテッソーリ 子どもの家

© DANS LE SENS DE LA VIE 2017

 ドキュメンタリー映画「モンテッソーリ 子どもの家」(スターサンズ、イオンエンターテイメント配給)の資料に、国際モンテッソーリ協会の公認教師である深津高子さんのコラムが掲載されている。その中で、従来の教育とモンテッソーリ教育との違いが、端的に示されている。
 「子どもはバケツか球根か」という設問がある。もし、大人が子どもを空のバケツとして見た場合、大人はたくさんの情報を空のバケツに注ぐ。そして、バケツがどれくらい一杯になったかをテストして、子どもを評価する。これを私たちは教育と呼んでいるのかもしれない。ところが、モンテッソーリ教育では、子どもを球根として捉える。球根は、いつ、どんな色で咲くかといった成長計画を、すべて球根の中に持っている。モンテッソーリは言う。「子どもには内なる教師が住んでいる」と。つまり、大人の役割は、多くの知識を子どもに与えるのではなく、子どもに豊かな土壌の環境を準備し、子どもの内なる教師の仕事を邪魔せずに見守ること、という訳だ。
 映画の舞台は、北フランスにあるモンテッソーリ教育を実践している幼稚園。ここには、2歳半から6歳までの多くの幼児が学んでいる。学んでいるというより、みんな、自分の好きなことをしているように見える。クリスティアン・マレシャル先生は、幼児たちの動きをじっと観察している。先生の仕事は、子どもの教具を用意したりの環境作り。そして、助言は最小限で、子どもの能力が自然に伸びるよう、手助けする程度だ。
© DANS LE SENS DE LA VIE 2017 教室には、多くの教具が、キチンと整理されている。絵を描く。リンゴを切る。ミルクピッチャーの水を交互に移し替える。絵本に見入る。花の枝を切り活ける。小さなハンカチにアイロンをかける。大きさの異なるブロックを積み重ねる。数字のプレートと指で引き算の練習をする。マットを丸めようと試みる。何もせずに歩き回っている子どももいる。それぞれ、一人で取り組んでいるが、年長さんが教えていたりもする。
 ジェロという4歳の男の子が、印象的だ。当初は、教室のあちこちをうろうろしていたが、やがてジェロは、ハサミを使って、線を引いた紙を切っていく。慎重に、線に沿ってハサミを動かすジェロの集中力は、はんぱではない。
 子どもたちは、なにをしていても、真剣そのもの。この真剣さで教具に取り組み、集中力を高めることが、モンテッソーリ教育の原点らしい。
 モンテッソーリ教育は、1870年、イタリアで生まれたマリア・モンテッソーリの開発したメソッドだ。子どもの活動は、すべて「仕事」である。それは、自分自身を育てる仕事、とされる。映画は、子どもたちが、さまざまな仕事に打ち込むシーンが続く。もちろん、校庭で、体を動かすこともある。
 五感を高め、数や言葉の概念を自然に身に付ける。だから、主役はあくまでも子どもで、教師はその黒子役だ。
© DANS LE SENS DE LA VIE 2017 自身の幼稚園の頃をふと思い出す。映画のジェロのように、教室のあちこちをうろうろしていたようだ。なにかに集中することもなく、とにかく落ち着きのなかった子どもだったらしい。自身の空のバケツに、先生たちは、いろんな知識を詰めてくれたようだが、あまり役立ったような記憶がない。
 このモンテッソーリ教育は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス、グーグルの創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、ウィキペディアの創始者ジミー・ウェールズらが受けたという。みんながみんな、モンテッソーリ教育を受けたからの大成功とは思わないが、子どもの個性を尊重することから始まるメソッドは、日本を始め、いま多くの国で実践されているようだ。日本では、将棋の藤井聡太さんが、この教育を受けている。
 映画では、女優の本上まなみさんが、マリア・モンテッソーリの言葉のかずかずを紹介し、男優の向井理さんが、監督のアレクサンドル・ムロのナレーションを担当する。監督自身の小型カメラが、子どもたちの自然な振る舞いを捉えて、見事。なによりも、モンテッソーリ自身の残した言葉の数々が、傾聴に値する。構成はいたってシンプル、だからこその説得力に富む。
 知識を詰め込むことに格段の異存はないし、これも必要な教育かもしれない。だが、子どもの個性を尊重し、集中力を高めるメソッドのほうが優先されるようになれば、これにこしたことはない。
 教育関係者は、必見のドキュメンタリー映画だ。

2021年2月19日(金)より、新宿ピカデリーイオンシネマほか全国公開

『モンテッソーリ 子どもの家』公式Webサイト

監督・撮影・録音:アレクサンドル・ムロ
日本語吹替:本上まなみ、向井理
2017年/フランス映画/105分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Le maître est l’enfant/英題:LET THE CHILD BE THE GUIDE/日本語字幕:星加久実/日本語字幕監修:田中昌子、大原青子
提供:スターサンズ、イオンエンターテイメント
配給:スターサンズ、イオンエンターテイメント

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.14

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.14 “ESDと気候変動教育 その1”を追加しました。

ESDと気候変動教育 その1

 自然環境のみならず、人間の社会や経済をも包括するESDは、その守備範囲の広さの裏返しとして曖昧性が指摘されてきました。「国連ESDの10年」(2005-2014年)では、筆者もメンバーであったユネスコ本部内での国際事業の専門家会議でもこの問題が議論され、先行型の国際事業である「万人のための教育」EFA(Education For All)事業の「先輩」から具体的な領域にフォーカスを当てる戦略が必要であるとの助言を受ける場面もありました。その結果、地球規模課題の中でも深刻度を増している「気候変動」「生物多様性」「防災(災害リスク削減)」がESDの具体的な重点領域、つまり「ESDへと誘う扉」として位置づけられるに至ったのです。
 以上は上記の「10年」の後半に差し掛かった頃の話。その後、これらに加え、「10年」の最終年に採択された「あいち・なごや宣言」では「持続可能な消費と生産」及び「子どもの権利」も加えられました。さらに、ESD for 2030(「学び!とESD」Vol. 7 8 9 参照)では、SDGsのすべての領域を担う教育としてESDは位置づけられ、その領域は再び拡大する傾向にあるという見方もできるでしょう。
 今回取り上げるトピックは、「国連ESDの10年」で一貫してその重要性が強調されてきた気候変動に関する教育です。気候変動は常にESD傘下のトピックの「1丁目1番地」だったと言えます。その背景には上記の「10年」の時分から温暖化に関して不可逆的な事態になりかねない現状が続いており、それは特に近年深刻化しているという危機意識の高まりが指摘できます。新型コロナウイルス感染拡大のために昨年延期されたCOP26も今年は開催予定であり、気候変動教育はこれまでにも増してその重要性が指摘されるようになりました。
 そこで、今号以降、ESDならではの気候変動教育について幾度かにわたり取り上げます。第1弾として、いかにして学校全体で気候変動教育を実践するのかについて述べます。
 従来、学校で行われる気候変動教育は、理科や地理で温暖化について扱うものが主でした。ところが、ESDの影響のもとで構築されてきた気候変動教育は「ホールスクール・アプローチ」と呼ばれる手法をとります(図1)。
 次の図を見てわかるように、ユネスコは、「教授と学習」のみならず、「学校ガバナンス」「地域連携」「施設と運営」の各領域を学校全体で取り組み、その基盤として「持続可能性の学校文化」を浸透させる手法を提唱しているのです。

図1 気候変動に向けたホールスクール・アプローチ
出典)UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action. p. 3.

ホールスクール・アプローチを経験した学校には次のような効用が見られると報告されています。

  • 生徒と職員は学校へのより強い帰属意識を持つようになる。
  • 生徒が意味を見出し、実感を持てるような学習機会が増える。
  • 専門的で新たな学びの機会を教師が持つようになる。
  • 学校生活における地球への負荷が目覚ましいほどに減る。
  • 効果的に資源を活用することで資金を節約できる。
  • 学校のキャンパスが緑化され、綺麗になる。
  • 教材や専門知、財政的な支援へのアクセスを得られるようになる。

 気候変動という地球規模課題を学校全体で取り組むことにより、気候変動のみならず学校活動全般への好影響が見られるというのです。そこでは、学校を構成するメンバーの誰もが演じる役割を持ち、各自の持ち場で同じ課題の解決に向けて行動することが求められています。実際には、表1に示すような役割がそれぞれに期待されています。

表1 気候アクション ― 学校の誰もが役割を担う

学校コミュニティ
のメンバー

役割の例

生徒

  • クラスやクラブで気候アクション活動を計画しリードする
  • 学校がサスティナブルになったかどうかの進捗を図るための評価を実施する(ゴミやエネルギーの査定)
  • 気候アクションに参加することを学び始めたばかりの年少児のメンターに年長児がなる

教師

  • 気候変動の知識を得る手助けとなる授業を行い、アクションの様々な可能性を探求し、解決に向けた行動を起こす
  • 学校コミュニティのメンバー全員に気候変動に関連した学校主導の活動に参加するように促す
  • 使っていない電気を消すなどの行動を褒めることを通して気候に優しい暮らし方への期待をより高めていく

校長
及び管理職

  • 気候アクションに向けた学校のビジョンや価値観を讃える
  • 教職員が効果的な気候アクションのプロジェクトをリードするのに必要な資源や専門性の向上、時間の確保などの機会を提供することにより支援する
  • 新たに教職員を雇用する際、気候アクションに関した知識や経験、価値観を持っていることを考慮する

用務員
及び建物管理人

  • 学校のエコロジカル・フットプリント(*)を減らすために校舎の運用に関して提案をする
  • 校内の庭の手入れやゴミの適切な分別を生徒ができるように教える
  • 学校の冷暖房や電気関連システムを節電型に変える

カフェテリア職員

  • 地域の食材で作られた健康に良いスナックや食事を用意する
  • キッチンから出るゴミを堆肥にできるものとそうでないものとに分別する
  • 校内庭園で育てて校内カフェテリアで使用できるような植物は何かについて提案する

事務職員

  • 両面コピーや必要な時だけの使用など、より持続可能な事務室での実践を採用する
  • 気候アクションに関して学校が達成したことや学んだことついてのメッセージを広める手助けをする
  • 訪問客に挨拶をする際、気候アクションに関する学校の価値観を示すようにする

家族

  • 節水や家庭菜園など、気候に優しい家庭内実践を採用する
  • 学校主導の気候アクション・キャンペーンにボランティアとして参加する
  • 学校の気候アクション・プロジェクトを支援するための募金や必要な物の収集をする

地域社会の人々
及び団体

  • 学校が取り組めるような、地域の持続可能な開発に関する課題を明らかにする
  • 気候変動に関する技術的な専門性や取り組み方を共有する
  • 気候変動に関して実際の世の中の文脈を提供するフィールド学習に来る生徒を受け入れる

出典)‘Involving the Whole School Community in Climate Action’. UNESCO(2016, p.7) 訳: 筆者.

 皆さんの学校でも、上記の項目の中で取り組みやすいアクションに着手してみてはいかがでしょうか。また、学校以外の組織でも参考になる項目は少なくないはずです。
 繰り返しになりますが、地球温暖化について理科や地理などの教科を通して教えてきたのが伝統的なスタイルですが、ESDの影響のもとでの気候変動教育はライフスタイル全般の変容へと大きく変わりました。気候危機と呼ばれる現代において気候変動教育に求められるのは、教室で教わる知識や技能を足元で実践することです。誰もができることから楽しみながら持続的に取り組み、ひいては学校のライフスタイルそのものを変容させていく ―― そんな実践が世界中で求められているのです。

*エコロジカル・フットプリント
私たちが消費する資源を生産したり、社会経済活動から発生するCO2を吸収したりするのに必要な生態系サービスの需要量を地球の面積で表した指標(『平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』より)

【引用・参考文献】

  • 『気候変動と教育に関する学際的研究:適応と緩和のためのESD教材開発と教員研修』(平成27-29年度科研費(挑戦的萌芽研究)研究課題 No.15K13239 研究代表者:永田佳之)2018年.(本稿の一部はこの報告書の記述に基づいています)
  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之編著『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社