こんなときどうしよう?⑦ 見学活動ができないときはどうしたらいい?

(1)現地での見学ができない場合の方法

 「社会科が好き・楽しい」という児童の多くは、「見学できるから」、「体験できるから」という理由をあげています。フィールドワークは児童の意欲を高め、より主体的に、そしてアクティブに学習を展開することができます。
 主体的・対話的で深い学びを実現していくためにも、見学や調査・聞き取りなどの体験的な学習にできるだけ多く取り組ませたいと願う教師は多いと思います。
 しかしながら、学ぶべき内容が盛りだくさんなのに比べて、指導時間数が限られていること、感染症対策等のために行動が制限されていることなど、現地での見学・体験的な学習ができないことが現状です。

 では、現地での見学活動ができないときはどうすればよいのでしょう。ここにいくつかの方法を紹介します。
 ただし、どの方法にもあてはまることですが、その場での思いつきでの活動や時間つなぎの活動にならないようにしましょう。指導計画を作成し、授業のどの段階・場面で、何を目的として、どのような内容を取り上げるのかを明確にするなど、学習を意図的・計画的に進めることが大切です。また、学習内容や時間設定など見学先との連絡・調整をしっかりとしておく必要があります。そして、お礼の手紙や成果物を送付するなど、受入側にも「協力してよかった」と感じていただけるような心がけを忘れないようにしましょう。

1.自主教材の作成(事前取材・撮影など)

 教師の世代交代が進み、デジタルカメラやスマートフォンを自在に使うことのできる人が増えています。鮮明な映像や音声が記録できるだけでなく、簡単に編集することができるなど、高性能で使いやすくなり、授業に活用している方も多いのではないでしょうか。
 学習への動機づけや知的好奇心を高めるためにも、また、とらえさせたい内容や認識を深めるためにも、教師が意図的に作成した写真資料や動画は大きな力を発揮します。見学先と十分な連絡・調整が必要ですが、事前に教師が取材し、目的に応じた写真や動画などを撮影し、授業で活用しましょう。授業者の意図に沿った取材ですので、比較的短時間で資料を作成することができます。とはいえ、時間のゆとりは必要ですから、長期休業日や学年研修の時間などを利用しましょう。
 取材のときに、児童向けのパンフレットやポスターなどをもらっておくと、授業に役立てることができます。また、見学を受け入れている企業の多くは、オリエンテーション用に動画資料を作成しています。これまでの受け入れ経験から児童向けに作成されているので、そのデータを授業でも活用できるようお願いしてみましょう。双方の時間の節約にもなります。
 ところで、教師が個々に取材したり動画を編集したりすることは、いくら簡単にできるようになったとはいえ、研究授業でもない限り気軽にできるものではありません。また、大きな市町では、見学先の担当される方には相当な負担となります。そのような場合、特に3・4年生の地域学習においては、隣接する学校や地域の社会科担当者会などで協力して作成されることをおすすめします。
 姫路市小学校社会科教育研究会(以下姫小社研)では、Googleサイトに姫小社研のコンテンツ(姫路市教育委員会内限定のサイト)をつくり、そこに副読本「資料ひめじ」に掲載している写真をアップしています。児童はタブレットを用いて教室や家庭などからアクセスし、学習に活用することができます。そのコンテンツの中に、例年であれば見学に行くことのできていた姫路市内の施設について、姫小社研のメンバーが分担して取材し、児童が実際に見学に行っているかのように撮影した動画がアップされています。

姫小社研がアップしているコンテンツ例
3年生:「わたしたちの住んでいるところ」「かまぼこ工場のしごと」「スーパーマーケットのしごと」
4年生:「ごみのしょりと活用」「くらしをささえる水」

2.バーチャル見学

 教科書に掲載されているような企業は、児童向けの広報活動にも力を入れています。
 見学したい企業のホームページを見てみましょう。「バーチャル見学」「こどもサイト」などのグローバルナビやコンテンツが見つかります。適切なサイトが見つからない場合は、「バーチャル工場見学 企業名」などで検索し、目的にあったサイトを見つけましょう。多くの企業が魅力的な動画を掲載しています。また、動画ではありませんが、写真資料で丁寧に説明しているものもあります。(ただし、期待するサイトが閉じられている可能性もあります。)

例)
機械工業:トヨタ自動車、三菱自動車、HONDA、日産自動車など
食品工業:ヤマサ蒲鉾、ロッテ、森永製菓、カゴメなど

 その他、市役所・水道・消防署などについて調べる場合、自分たちの市町村のホームページに目的とするものはなかなか見つけることはできません。しかしこの場合、どこの市町村であっても内容はほぼ共通しているので、目的にあったサイトを見つけて活用することができます。

例)
市役所:よなごキッズページ
https://www.city.yonago.lg.jp/kids/
水 道:和歌山市キッズページ
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/suido/1032420/1033063/index.html
消 防:大阪市中央消防署 キッズルーム
https://www.city.osaka.lg.jp/shobo_chuo/category/3968-0-0-0-0-0-0-0-0-0.html

 バーチャル見学を授業で活用する場合、教師はあらかじめ動画を視聴し、内容と時間を確認しておきましょう。そして、どの場面をどのように視聴させると効果的かを考えましょう。また、動画の多くは「どのように作られているのか」「どのような仕事をしているのか」などが紹介されていることが多く、「なんのために」「どんなことに気をつけているのか」などには触れられていないことがあります。それも含めて、児童から出てくるであろう疑問や質問について、どうすればよいかを考えておきましょう。
 例えば、企業のホームページの「企業理念」「社会貢献」などを閲覧し、関係するページや問いに対応する回答に該当する記述を把握しておきましょう。また、ホームページへの問い合わせが可能か、その場合どれくらいで回答がいただけるか、もしくは、質問事項をあらかじめ問い合わせておくことができるかなど、担当の方と確認できればなおいいですね。

3.リモート見学

 展示物の見学が主な歴史博物館や民俗資料館などの場合、学芸員の方にライブ映像を送っていただきながら、必要に応じて質疑応答ができると、学習が深まります。もちろん、生産工場やごみ処理場など一般的な見学でも高い学習効果が期待できます。
 この活動の最大のメリットは、案内する方との距離によって説明が聞こえる、聞こえないという差がないことです。一般的な見学では、前方の児童は説明をうなずきながら聞いているけれど、後ろの児童はただぞろぞろついて歩いているだけという状況が課題ではないでしょうか。個々人で視聴できるタブレットを活用したこの方法であれば、見学する人数に関係なく、どの児童も同じレベルで説明を聞くことができます。また、実際に見学地を移動するのは案内する方一人で、見学先の関係者ですから、普段の見学では入れないような場所も見学することができるかもしれません。
 しかし、なんと言っても見学先の担当者の方の協力が必要です。学校と近ければ、教師が事前に見学し、授業に即した見学ができるように打ち合わせておきたいものです。学校から遠くて実際に伺うことができない場合は、授業のねらいや見学したい場面、知りたい内容などを丁寧に伝えるなど、しっかりと打ち合わせをしておきたいものです。
 そしてこの場合、担当の方の手間と時間を多くいただくのですから、児童の対応が大切となります。もちろん、本コラムで紹介しているどの方法をとったとしても大切なことですが、気持ちのよい挨拶やていねいな言葉づかいができるように、事前指導をしっかりとしておきましょう。できれば、後日、お礼の手紙や成果物を届けるなどすると、授業へ協力したことの喜びを味わっていただけます。

4.デジタル教科書・教材の活用

 例えば、日本文教出版のデジタル教科書・教材には、アイコンをクリックすると動画が視聴できる資料などが掲載されています。また、ホームページにデジタルコンテンツが掲載されています。(https://www21.nichibun-g.co.jp/2020dc/sha/
 3・4年生は、それぞれの地域教材を学習するので、そのままでは授業に使えないことが多いのですが、自分たちの地域と比較したり、見学の視点づくりに活用したりすることができます。
 5・6年生では、日本の産業や国土の様子、政治や歴史事象など、タイムリーに動画資料を活用することで、児童の学習意欲を高めたり、理解を深めたりすることが期待できます。

○日本文教出版の場合(令和2年度版『小学社会』指導者用デジタル教科書(教材)より抜粋)

5年生

6年生

サトウキビの収穫の様子
稲作の様子と生産者の話
自動車工場での生産の様子 など

三内丸山遺跡の出土物など
大正時代の東京のにぎわい
1964年東京オリンピックの入場行進などの様子 など

5.「NHK for school」などの学習サイトの活用

 見学してみたい企業や見たい産地そのものを検索できないこともあります。その場合、同じような企業の生産活動を見ながら、類推したり一般化したりすることが可能です。(ただし、期待するサイトが閉じられている可能性もあります。)
 文部科学省の学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)の「小学校 各教科」から「小学校社会における学習支援コンテンツ」(https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00041.html)では、学習指導要領の内容項目や使用している教科書に応じた「NHK for school ばんぐみ一覧」へと進むことができます。
 また、国立研究開発法人 科学技術振興機構のScience Portalサイトの中にも製造業の動画が収録されています。(https://scienceportal.jst.go.jp/featured/channel_kids.html)「THE MAKING 企業名(または製品名など)」で検索し、目的のものを探すことができます。
 ただし、コンテンツによって放映時間の長短があります。また、同じ素材を取り上げている番組が複数ある場合があります。あらかじめ、どの動画を視聴するか、何をとらえさせるかを明確にしておく必要があります。
 授業形態としては、電子黒板に投影して一斉に視聴し、意見を交換したりまとめたりする活動に向いています。また、教師が視聴する動画を指定し、児童が個別に視聴した上で考えをまとめ、その後、意見交流をしながら考えを深めていく活動も効果的です。

6.出前講座・教室、ゲストティーチャー

 例えば、姫路市では、市政や市民生活上の身近な問題などについて、市の職員を講師として派遣しています。小学生に向けては、「『ごみ』から『資源』へ」「みんなで減らそう 『食品ロス』」「クイズで学ぼう!『下水道のはたらき』」「水道教室 ~安全でおいしい水道水~」などの出前講座が用意されています。これらを学習場面に応じて活用することは、見学と同じように有意義な学習活動となります。また、電力会社やガス会社など、出前教室を実施している企業もありますので、それらを適宜活用したいものです。
 また、地域の方や専門家にゲストティーチャーを依頼してみましょう。3・4年生は地域素材の学習ですから、身近な人から教えられることもたくさんあります。5・6年生も、単元によってはふさわしい方がおられるかもしれません。学校や市町村によっては、学習を支援するための人材バンクを備えているところもありますので、学校の社会科担当や生活科担当などに確認してみましょう。
 さらに、Google‐MeetやZoomなどを活用することで、遠く離れたところのゲストティーチャーと繋がることも可能です。例えば、姫路市立城陽小学校では、5年生「情報を生かして発展する産業」の単元(令和3年2月)で、東京の「羽田市場株式会社」の担当の方とライブでやり取りをして、考えを確かめたり深めたりする実践もおこなわれました。

 さて、出前講座やゲストティーチャーなどに依頼する場合には、以下のことに留意してください。

1 学習のねらいや協力いただくことの意義や効果をきちんと伝えましょう。

2 学習の内容や指導計画について、ポイントを整理して伝えましょう

3 お話いただく内容や時間配分について、十分に打ち合わせておきましょう。

4 「皆さんのために」「喜んで」でも「お忙しい中」来てくださっていることを、児童にしっかりと意識させましょう。

5 学習を終えたら、お手紙や成果物などで感謝の気持ちを伝えましょう。

(2)まとめとして

 おおまかに六つのアイデアを紹介しましたが、どの方法がいいのか、どの段階で取り入れるのかなどについて、同僚に相談したり先輩のアドバイスをもらったりしましょう。そして、校長や教頭にも相談してみましょう。これまでの経験からの示唆はもとより、立場上培った幅広い人間関係もありますので、地域の人材やより専門性をもった人ともつながることができるかもしれません。
 また、実際に見学に行く場合は、児童に「見学する必然性をもたせる」「見たいこと・聞きたいことをはっきりさせる」など、事前指導を丁寧に行っています。同じように、諸事情により見学に代わる活動をとる場合においても、「何のために」「何を調べるのか」などの事前指導は重要です。そうすることで、社会的事象の見方や考え方を身につける問題解決的な学習とすることができます。
 そして何よりも大切にしてほしいこと。それは、児童の意欲を高めたい、楽しくて魅力的な授業にしていきたいなどの思いをもってこのサイトを見ておられるあなたの熱意です。思いをもつことは成長の第一歩です。そしてその思いは、自然と児童にも伝わります。児童の確かな学びを目指して前向きに頑張っておられるあなたは、素敵な先生です。

連載してきました「こんなときどうしよう?」は、今回で終了となります。次回の連載もお楽しみに!

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.28

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.28 “算数・数学からインクルーシブ教育を考える”を追加しました。

算数・数学からインクルーシブ教育を考える

 今回は、算数・数学という教科からインクルーシブ教育への対応について考えてみたいと思います。
 最新の小学校・中学校学習指導要領では、その総則において「特別な配慮を必要とする児童(生徒)への指導」(第1章第4)に言及しています(*1)。それを受けて、学習指導要領解説各教科編では、「障害のある児童(生徒)などの指導に当たっては,個々の児童(生徒)によって,見えにくさ,聞こえにくさ,道具の操作の困難さ,移動上の制約,健康面や安全面での制約,発音のしにくさ,心理的な不安定,人間関係形成の困難さ,読み書きや計算等の困難さ,注意の集中を持続することが苦手であることなど,学習活動を行う場合に生じる困難さが異なることに留意し,個々の児童(生徒)の困難さに応じた指導内容や指導方法を工夫すること」を示しています。この概要については、すでに第25号で紹介しました。
 具体的に見ると、算数については「小学校学習指導要領解説【算数】」の第4章「指導計画の作成と内容の取扱い」の「(5)障害のある児童への指導」にその記述が認められます。算数における困難さの状態や指導上の工夫の意図、手立ての例は、表1のように示されています。(*2)

表1 小学校算数(小学校学習指導要領解説【算数】327-328ページ)

例えば,算数科における配慮として,次のようなものが考えられる。

「商」「等しい」など,児童が日常使用することが少なく,抽象度の高い言葉の理解が困難な場合には,児童が具体的にイメージをもつことができるよう,児童の興味・関心や生活経験に関連の深い題材を取り上げて,既習の言葉や分かる言葉に置き換えるなどの配慮をする。

文章を読み取り,数量の関係を式を用いて表すことが難しい場合,児童が数量の関係をイメージできるように,児童の経験に基づいた場面や興味ある題材を取り上げ,場面を具体物を用いて動作化させたり,解決に必要な情報に注目できるよう文章を一部分ごとに示したり,図式化したりすることなどの工夫を行う。

空間図形のもつ性質を理解することが難しい場合,空間における直線や平面の位置関係をイメージできるように,立体模型で特徴のある部分を触らせるなどしながら,言葉でその特徴を説明したり,見取図や展開図と見比べて位置関係を把握したりするなどの工夫を行う。

データを目的に応じてグラフに表すことが難しい場合,目的に応じたグラフの表し方があることを理解するために,同じデータについて折れ線グラフの縦軸の幅を変えたグラフに表したり,同じデータを棒グラフや折れ線グラフ,帯グラフなど違うグラフに表したりして見比べることを通して,よりよい表し方に気付くことができるようにする。

 中学校の数学については、中学校学習指導要領(平成29年告示)解説【数学編】第4章第4の1の(4)の「障害のある生徒への指導」の中で表2のように示されています(*3)

表2 中学校数学(中学校学習指導要領解説【数学】165ページ)

例えば,数学科における配慮として,次のようなものが考えられる。

文章を読み取り,数量の関係を文字式を用いて表すことが難しい場合,生徒が数量の関係をイメージできるように,生徒の経験に基づいた場面や興味のある題材を取り上げ,解決に必要な情報に注目できるよう印を付けさせたり,場面を図式化したりすることなどの工夫を行う。

空間図形のもつ性質を理解することが難しい場合,空間における直線や平面の位置関係をイメージできるように,立体模型で特徴のある部分を触らせるなどしながら,言葉でその特徴を説明したり,見取図や投影図と見比べて位置関係を把握したりするなどの工夫を行う。

 小学校・中学校の学習指導要領において、「障害のある児童生徒」への具体的な対応の工夫例が記述されたこともあって、算数・数学の指導に関連して、ユニバーサルデザインやインクルーシブ教育を扱った書物も多数出版されています。具体的に、通常の学級での授業において個別的な対応や配慮が必要な児童生徒を含めたインクルーシブ教育の実践に関する知見については、こうした書物を大いに参照していただきたいと思います。近年発行された類書の中では、とくに松島充・惠羅修吉著による『算数授業インクルーシブデザイン』(明治図書刊)(*4)は、巻末に国内外の文献が充実しており、指導法の開発や教材研究に役立つのではないかと思います。

 さて、このように算数・数学に関しても、インクルーシブ教育への対応が着実に進められているわけですが、その枠組みは、学習に困難がある児童生徒に補足的な指導や配慮をすることにより、通常の学級において効果的な一斉指導ができるようにするという方向で考えられています。現状の「インクルーシブ教育システムの構築」がこの論理の上に立っているので仕方のない面もあるのですが、そこには、いわゆる「健常な」児童生徒とインクルーシブ教育を結び付ける記述は認められません。
 2012年に示された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」では、「『共生社会』とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。」(傍線筆者)と提言されています。
 こうした観点に立つと、インクルーシブ教育は、「障害がある子ども」のためだけでなく、全ての子どものためにもあるものだととらえる視点も大切にしていきたいものです。とくに、いわゆる「落ちこぼれ」を生みやすいといわれる算数・数学では、「障害のある児童生徒」のために工夫された指導法や配慮が、「健常な」児童生徒にとっても有効な場合があるのではないかと思います。双方向での活用とそれをきっかけとしての相互の学び合いをより推進していきたいものです。
 また、算数・数学に関して言えば、「障害」があると思われる児童生徒の中には「特異な才能」を有しているケースもあります。こうした存在を学校や学級で認めることは、互いに育ち合うという機運の情勢にもつながります。
 さらに、筆者の専門領域で言えば、算数・数学は、必ずしも視覚障害者にとって制約の大きい教科ではありません。視覚を使わないで算数・数学を指導する方法や教材の開発も進んでいます。ところが社会一般ではそうはとらえられていません。筆者が国立特別支援教育研究所に勤務していた頃、算数教育で活躍している数人の先生と懇談する機会がありましたが、視覚障害教育の立場から小学校の算数教育について提言しても門前払いに近い形で相手にされなかったという苦い経験を思い出します。恐らく、視覚障害教育のノウハウなど意味がないと思われていたのでしょう。しかし、大学の数学科に進学する視覚障害学生は少なくありませんし、数学教師や数学者として活躍している人も一定数存在します(*5*6)。それは、視覚を活用しなくても算数・数学が極められることの証左でもあります。筆者は、視覚障害教育における算数・数学のノウハウが、通常の教育に寄与でき、これを追究することは、様々な「違い」を有する子どもたち一人一人が、教科の学習においても互いに刺激を受け、充実した学びができるようにするという「インクルーシブ教育」の双方向性の理念の実現にもつながっていくのではないかと感じています。

*1:小学校学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf
中学校学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/1413522_002.pdf
*2:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説【算数編】
https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf
*3:中学校学習指導要領(平成29年告示)解説【数学編】
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_004.pdf
*4:松島充・惠羅修吉著『算数授業インクルーシブデザイン』(明治図書刊)
https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-422628-9
*5:佐藤将朗・田中仁『全盲の数学者事例から考える触覚的技能と特別支援教育』
https://juen.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=8501&item_no=1&attribute_id=22&file_no=2
*6:広瀬浩二郎『バリアフリーからフリーバリアへ 近代日本を照射する視覚障害者たちの“見果てぬ夢”』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcanth/70/3/70_KJ00004582384/_pdf/-char/ja

日本の諸地域/中部地方(第2学年)

1.単元名・教材名

単元名:中部地方―活発な産業を支える人々の暮らし
教材名:活発な産業を支える人々の暮らし① 工業の発展と地域の変化

2.単元の目標

(1)中部地方の産業が地域に果たす役割やその動向が、交通網の整備や外国との関係によって変化していることを理解することができる。【知識・技能】

(2)人と自然とのかかわりや地域どうしのつながりに着目して考え、中部地方の産業の課題に対して多面的・多角的に考察し、その変容を捉えることができる。【思考・判断・表現】

(3)中部地方の自然環境、人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心をもち、地域的特色を意欲的に追究することができる。【主体的に学習に取り組む態度】

3.評価規準

知識・技能

思考・判断・表現

主体的に学習に取り組む態度

中部地方について、自然環境や人口、産業などの特色を大まかに捉えている。

中部地方について、産業を中核とした考察の仕方を基に地域的特色を理解し、その知識を身に付けている。

中部地方の地域的特色を、産業を中核とした考察の仕方を基に多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している。

中部地方の産業の地域的な違いについて、地形や気候などの自然的条件と、交通網や外国との関係など社会的条件との両面から考察して、各地域の特色を捉えている。

中部地方の自然環境や人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心を持ち、設定した追究テーマを基に地域的特色を意欲的に追求している。

4.指導にあたって

(1)単元について

中学校学習指導要領(地理的分野)
C 日本の様々な地域
(3)日本の諸地域

次の①から⑤までの考察の仕方を基にして,空間的相互依存作用や地域などに着目して,主題を設けて課題を追究したり解決したりする活動を通して,以下のア及びイの事項を身に付けることができるよう指導する。

①自然環境を中核とした考察の仕方
②人口や都市・村落を中核とした考察の仕方
③産業を中核とした考察の仕方
④交通や通信を中核とした考察の仕方
⑤その他の事象を中核とした考察の仕方

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア)幾つかに区分した日本のそれぞれの地域について,その地域的特色や地域の課題を理解すること。
(イ)①から⑤までの考察の仕方で取り上げた特色ある事象と,それに関連する他の事象や,そこで生ずる課題を理解すること。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)日本の諸地域において,それぞれ①から⑤までで扱う中核となる事象の成立条件を,地域の広がりや地域内の結び付き,人々の対応などに着目して,他の事象やそこで生ずる課題と有機的に関連付けて多面的・多角的に考察し,表現すること。

(太字・下線は筆者による)

 以上のことを基に、今回取り扱う中部地方では、中部地方の盛んな産業を、自然環境、歴史、交通網、文化的背景などの多様な視点から捉えることで、地域によって特色のある産業に対する関心を高める。また、産業と地理的条件の関係性を考察し、その地域に根付いた産業の必然性を見いだすことで、地理的な見方・考え方を養っていきたい。

(2)題材のねらい、達成に向けた指導計画の構想
 本単元は、中部地方の産業が地域に果たす役割やその動向が、交通網の整備や外国との関係によって変化していることを理解させることをねらう。その際、中部地方の地域的特色について、東海、中央高地、北陸の各地域の違いを、自然的条件と社会的条件の両面から考察して捉えさせる。中部地方の自然環境、人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心をもち、設定した追究テーマを基に地域的特色を意欲的に追究する。
 設定したテーマは、次のようなものである。「北陸地方でお米の生産が盛んなのはなぜだろう。」、「北陸地方の農業で稲作が有名なのはなぜだろう。」、「中央高地で果樹栽培や高原野菜の栽培が盛んなのはなぜだろう。」、「中央高地で精密な機械がつくられているのはなぜだろう。」、「二輪車の製造が多いのはなぜだろう。」、「静岡で茶の栽培が盛んなのはなぜだろう。」、「東海地方で施設園芸農業が盛んなのはなぜだろう。」
 また、本時では、北陸地方の伝統工業と地場産業について、品物ごとに分かれて調べ活動を行い、お互いが調べたことを教え合い、北陸の産業に共通する地理的条件を見つけ出したい。調べたことや教え合ったことをワークシートに記入しておくことで、調べたことを整理して、知識として定着させたい。授業では、すべての生徒が見通しを持って学習ができるように、本時の課題や本時や活動の流れを黒板に明確に示す。さらに、仲間との意見交換を通して、多面的・多角的な見方を基に授業のまとめを記述することができるように、個人学習の場面とグループ学習の場面を分けて設定する。
 さらに、主体的・対話的で深い学びの姿を可視化するために、新潟県立教育センター作成の「主体的・対話的で深い学び実践ハンドブック」中のNITS【実現したい子どもの姿】ピクトグラムを取り入れた。

5.題材指導と評価の計画(5時間 本時4/5)

時間

主な学習内容

学習目標

評価規準

1

1 中部地方の自然環境と人々のかかわり
(p208~209)
・「日本の屋根」のある中部地方
・三つの地域の気候の特色

・地図帳を使って、中部地方の地形の様子とその交通への影響を捉える。
・中部地方を三つの地域に分けて、その気候の特色の違いを雨温図から捉え、その理由を地形などと関連付けて捉える。

・中部地方の自然環境の特色と、東海、北陸、中央高地の気候的な違いを、地図や雨温図を使って読み取っている。(知識・技能)
・中部地方の地域による気候の違いを、地形などの自然環境と関連付けて理解している。(知識・技能)

1

2 日本を支える工業の中心地,東海
(p210~211)
・自動車工業の盛んな東海
・なぜ東海の工業が発展したのか
・自動車工業の課題

・東海で各種の近代工業が発展し、変容した理由を理解する。
・東海の産業の変容と課題、その解決方法について考察する。

・東海の工業の特色を、自然的条件や社会的条件と関連づけて多面的に考察して捉えている。(思考・判断・表現)
・中部地方の産業について意欲的に追究している。(主体的に学習に取り組む態度)

1

3 交通網の整備による中央高地の産業の変化
(p212~213)
・地形や気候に適応した特色のある農業
・中央高地の工業の変化
・リゾート地としての発展

・中央高地の産業が発展し、変容した理由を理解する。
・中央高地の工業の様子を示す写真やグラフなどから中央高地の産業の姿を捉える。

・中央高地の農業の特色を、自然環境の特色や交通の発達などを示す資料と関連づけて読み取っている。(知識・技能)
・中央高地の産業の特色を、自然的条件や社会的条件と関連づけて多面的に考察し、捉えている。(思考・判断・表現)

1
本時

4 自然環境からみた北陸の農業や工業
(p214~215)
・水田単作の米作り
・伝統産業・地場産業の課題と取り組み
・日本の電力を支えてきた中部地方

・自然環境のほか、社会的条件やその変化を表す資料から、中央高地、東海、北陸各地域の農業の特色を捉える。
・北陸の地場産業の変容と課題、その解決方法について考察する。

・写真や農業生産額のグラフから北陸の農業や工業の特色と各農家の工夫と努力を読み取っている。(知識・技能)
・中部地方の地場産業の課題に対して多面的・多角的に考察し、その変容を捉えている。(思考・判断・表現)

1

5 消費地と結びつく農業・漁業の戦略
(p216~217)
・静岡県の茶の生産と消費地との結びつき
・温暖な気候と交通網を生かした園芸農業
・焼津港の漁業と消費地との結びつき

・東海の農業や漁業について、他地域との結びつきに着目する。
・東海で、特色のある農業や漁業が発展した理由を考え、理解する。

・東海で特色のある農業や漁業が発展した理由を、自然環境、交通網の整備の面から理解し、説明している。(知識・技能)
・中部地方の地域的特色について、他の消費地との結びつきに着目して、自分なりに工夫して、地図や図表を適切に活用して理解している。(知識・技能)

6.本時の指導(本時4時間/全5時間)

(1)本時のねらい

北陸地方の工業を、気候と歴史的背景から考察することを通して、北陸地方に根付いた産業の特色を見いだす。【思考・表現・判断】

三条市で作業工具の製作所を営む兼古さんと交流することで、職人の意匠に触れ、身近な地場産業に関心を持つ。【主体的に学習に取り組む態度】

(2)読解力育成を踏まえた指導のポイント
本時の展開では、以下の読解力を育成するための手立てを講じる。

「推論」…三条の鍛冶に関する資料を読み、三条市で鍛冶産業が盛んになった背景には、多発する洪水などの気候条件が関わっていることを捉える。さらに、北陸地方の他の地域でも、同様に気候条件が産業に関わっていることをあげて、気候条件が北陸地方の産業に影響を与えていることを説明できるようにする。

(3)本時の展開

時間

○学習活動 ・予想される反応

●教師の支援 ※評価

導入
(5分)

○金物・洋食器の写真を見せ、どこで生産されているものか探す。
・両方とも北陸地方(三条市と燕市)で盛んに作られている品物だ。
○前時をふりかえり、東海の工業との違いを問う。
・東海は自動車の生産が盛んだが、三条市と燕市で盛んな品物が金属製品なのはなぜ?

●実物も用いて教材に注目を集める。

●必要に応じてヒントを出す。

展開①
(17分)

○本時の課題を提示する。

北陸地方の三条市・燕市で金物・洋食器の生産が盛んなのはなぜだろう?

○いつから、どのようなきっかけで金属産業が盛んになったのか考える。
・100年くらい?もっと昔から?
・スプーンは洋食に使うから明治以降?

●燕市のスプーンはいつから作られるようになったのか発問する。

○個人で、どちらかの品物について調べてワークシートに記入する。
・スプーンは江戸時代の和釘作りで培った金属加工の技術が活かされているようだ。

●資料から探すことが難しい生徒には、助言や問答など机間指導をする。
※資料を読み取ることができる。(知識・技能)

○調べたことを班内で共有し合い、共通している地理的条件を見つける。
・どれも、雪や雨がたくさん降る北陸ならではのものだ。

※調べたことを班のメンバーに説明できる。(思考・判断・表現)

展開②
(18分)

○Zoomによる配信で、三条市で地場産業に携わっている兼古耕一さん(株式会社兼古製作所社長)から、話を聞く。
・使いやすいドライバーなどの工具には、職人さんの努力や工夫が深く関わっていたのか。
○話を聞いて、兼古耕一さんに質問する。

●Zoomによる配信の準備をする。
※話を聞き、資料で調べたことと重ね合わせて考えることができる。(主体的に学習に取り組む態度)

※積極的に質問する。(主体的に学習に取り組む態度)

まとめ
(10分)

○北陸地方の産業は冬の豪雪や秋の多雨といった気候条件に大きな影響を受けていることを、具体例を挙げて説明する。
・北陸の産業は、冬に雪が多く降ることや、秋に降水量が多いことが影響している。例えば、三条の金物は、冬に家の中でできる副業としてはじまり、職人の情熱によってよいものを作り続ける地場産業に発展した。

●北陸地方の地場産業を紹介する。
●助言や問答など机間指導をする。
※北陸の産業の特色について、自分の言葉でまとめることができる。(思考・判断・表現)
【推論】
複数の地場産業から、その成立過程は気候条件に影響を受けていることを捉え、説明することができる。

7.ワークシート

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8.資料プリント

○北陸地方の工業①「三条市・燕市の工業」

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○北陸地方の工業②「福井県鯖江市のメガネフレーム」

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