幼児期のESD 〜ドイツ・ハンブルクの取り組み〜

ハンブルクの教育計画

 5月の学び!とESD<Vol.29>では、持続可能な社会の実現に向けたドイツ・ハンブルク(*1)の取り組みについて紹介しました。今回は、このハンブルク州の教育計画やESDの手引きについて紹介します。なかでも、学びのスタートである幼児期に焦点を当てて見ていきたいと思います。

図1.ハンブルク州の教育計画表紙(出典:Behörde für Arbeit, Soziales, Familie und Integration(2012))

 ハンブルク州の教育計画では、2012年に改訂版が出されていますが、「持続可能性」に関して詳しく記述されています。なお、この教育計画は0歳から6歳の幼児が対象となっていて、ハンブルク州のすべての保育施設に対して法的な拘束力を持った文書です(*2)
 この教育計画の中では、「持続可能な社会とは何か」についての説明、ESDの制度的な背景や目的、幼児期のESDの理念と実践について、詳しく説明されています。以下に、その一部を紹介します。

 特に園では、ESDの理念における価値教育を通して、子どもが現在と未来の生活の中心的な問題について、持続可能な発展の価値を学び、その意味を考える機会を与えられる。アセスメント・コンピテンシー(Bewertungskompetenz)とは、さまざまな文脈の中での知識、共感、違いを認識する能力であり、それは具体的な試みを通して育成される。
 子どもは、自分の意見を真剣に受け止められ、園生活を形成するプロセスに参加することを通して、アセスメント・コンピテンシーを伸ばす。日常生活の中で持続可能な価値観を志向するとき、他者から伝えられるのではなく、価値とはそもそも何を意味し得るのか、そして何を意味しているのかを体験することを通して、子どもがこうした価値観に意識的に取り組む機会を持つべきである。子どもは、この世界で生きることや人と共存することの価値、意味、働きについて熟考できなくてはならない。その意味で、園の設備や園生活を持続可能な発展の原則に従って設計することが基本となる。食料、エネルギー、水の責任ある使用、他の人々との交流、自分を尊重する体験は、良い生活モデルとなり得る。

 このように教育計画の中では、持続可能な発展の価値について体験を通じて学んでいくことや、ESDに取り組む中で育まれるコンピテンシーについても言及されています。さらに、持続可能性の理念だけでなく、日常生活の中で体験を通して実践していくことが目指されています。そこで重要になるのが「ホールスクール・アプローチ(ホール・インスティテューション・アプローチ)」です。園全体で持続可能な生活を営んでいくことが求められているという意味が、このアプローチには込められています。他にも、この教育計画には、具体的な保育内容と関連させた記述が多く見られます。

ESDの手引き

 それでは、実際にどのような実践が行われているのでしょうか。次に、ハンブルク政府が中心となって作成した保育施設向けのESDの手引きからその一部をご紹介します(*3)。そこでは、ハンブルクの園で実際に行われた保育事例が紹介され、実際の子どもや保護者の声も取り上げられています。

図2.ESDの手引き表紙(出典:Save Our Future–Umweltstiftung; Behörde für Arbeit, Soziales, Familie und Integration (2019))

 まず事例としては、以下の、3つの園での取り組みが紹介されています。

実践例1:「Tシャツの旅」(ドイツ・中国幼稚園)
実践例2:「知識と意志を行動に移す」(ヴィーベン・ペーター通りこども園)
実践例3:「少ないことは、多いこと」(シャッツキンダーこども園)(*4)

 ここでは、その中から「実践例3」を紹介してみたいと思います。
 シャッツキンダーこども園では、長年にわたって持続可能性というテーマに取り組んでおり、園全体としてESDの理念を実践しています。「少ないことは、多いこと」というモットーのもと、資源を大切にした経営や調達など数々の取り組みが行われています。園の中で何が必要となり、どのように取り揃えるのかについては、可能な限り子どもたちの意見も取り入れられてきました。そうすることで、ESDの理念に向けた長期的な変化を数多く実現することができるようになります。
 例えば、動物性食品と植物性食品を「持続可能性のメガネ(Nachhaltigkeitsbrille)」で見ることによって、卵、牛乳、既製品がどこで作られたものなのかが見えてきます。その結果、ベジタリアンやビーガンの食事の提供が多くなり、卵はほとんど避けられ、牛乳の代わりに植物性の代替品も提供されるようになりました。この施設では、全粒粉製品を中心に、有機栽培の地域食材や旬の食材を購入しています。また提供される飲料は、水道水とガラス瓶に入った水です。園の畑では、子どもたちがハーブを育て、鳥の巣箱やミツバチや蝶の家もあります。畑で過ごす子どもの声も次のように紹介されています。
 「私たちの畑で、ちょうちょうやミツバチがどのように働いているのかを観察しました」(4歳エリーザ)
 ほかにも、ゴミ問題に取り組むことで、包装されていないものを購入することが増えているようです。園では、子どもたちとノンパッケージ・ショップに出かけたり、自分たちでパンを焼いたり、夏にはジャムを作ったりします。夏には手作りジャム、秋には手作りリンゴソースなど、季節に合わせていろいろなものを作りますが、これは包装の節約にもなります。また、包装物が出た場合には、子どもの製作物に使われます。パーティーがあるときは、保護者が食器を持参します。園内のプラスチック製のおもちゃは、少しずつ木のおもちゃに置き換わっています。他にも、ペーパータオルの代わりにタオルを使用し、ハンドソープと洗浄液がマイクロプラスチックフリーの製品になりました。紙とトイレットペーパーは再生紙のみを使用しています。園のリフォームの際も環境に配慮した塗料のみを使用しています。エネルギーとサステナビリティを重視し、すべての電化製品にスイッチ式の電源タップが装備され、全館で省エネタイプの電球のみを使用しています。
 このように、シャッツキンダーこども園は、園生活に関わるさまざまな点で環境に配慮した取り組みを実践しています。
 さらに、保育者と子どもだけで取り組むのではなく、保護者を巻き込んだ活動が行われているという点も重要でしょう。ESDの手引きには、保護者との関係性について次のように書かれています。

 こども園は、子どもたちやそこで働くスタッフにとってだけでなく、家庭や全ての人にとって学びの場となりますので、 誰もがここに参加できることが理想です。定期的で信頼に満ちた交流を通じて、保護者が園生活に参加することによって、保護者自身が真剣に、ロールモデル、専門家、学習者として自分を認識するようになります。
 保護者会やお手紙、掲示板やプロジェクトのドキュメンテーション、家庭訪問、また、遠足や活動、お祝い会への保護者の参加など、どの園でも保護者の関わりが重要な役割を担っているので、保護者による協力の基本的な柱はすでに確立されていることが多いのです。保護者同士が交流し、保護者自身が興味や能力を発揮することができれば、保護者も含めた形で、全体的かつ持続可能な発展という視点から教育が実現されるようになります。
 例えば、ある父親は次のように言っています。
 「KITA21(*5)をきっかけに、私生活でも持続可能性について積極的に取り組むようになりました。園の遠足に同行でき、子どもたちを自分の職場に招待しました。みんなにとって大変勉強になり、保護者同士の連絡も密になりました。(3歳児レニーの父オーレ)」

写真3.持続可能性の学びの場であるこども園(出典:Save Our Future–Umweltstiftung; Behörde für Arbeit, Soziales, Familie und Integration (2019))

 ハンブルクの事例からは、家庭や地域とつながりながら、子どもの活動が社会とリンクしていく姿を見て取ることができます。実際の子どもたちの園や家庭での生活が、持続可能性の視点から具体的に見直され、さらに園や家庭といった子どもにとっての社会が変容している点は重要なポイントでしょう。
 教育計画や手引きの中には、単に持続可能性について抽象的にその理念が記載されているのではなく、幼児期の子どもたちと実際の園生活の中でどのように持続可能なライフスタイルを実践していくか、既存の保育内容と持続可能性がどのように関連づくのかについて、詳しく説明が加えられています。また、ハンブルクに限らずドイツでは、保育者向けの学びの機会をさまざまな形で保障する仕組みが構築されています。
 今回紹介したハンブルクの園の取り組みのいくつかについては、すでに日本の園でも実践されているものもあるでしょう。また、日本にもさまざまな地域で、ESDの取り組みが広がっています。しかし、まだ現場を支える仕組みづくりが追いついていないようにも思われます。このままでは、持続不可能な社会に追従するような教育を続けていくことにもなりかねません。持続可能な社会を子どもたちとともにみんなで作っていく、そのような教育を幼児期から始めていくことができるはずです。教育が社会を変えていく、教育から持続可能な社会を創造していく、そのような仕組みの構築が幼児期から目指され、きめ細やかなガイドラインや実践の手引きが存在するドイツの取り組みから学ぶ点は少なからずあるのではないでしょうか。

*1:ハンブルクは、ドイツ北部の港湾都市で「自由ハンザ都市ハンブルク」と呼ばれています。行政区画上単独で州(都市州)となっています。ドイツは16の州から構成される連邦制国家であり、各州に大きな権限が委ねられています。そのため、州ごとに、文部科学省や厚生労働省に相当する省があり、それぞれの州が独自の教育計画や手引きを出しています。
*2:Behörde für Arbeit, Soziales, Familie und Integration(2012). Hamburger Bildungsempfehlungen für die Bildung und Erziehung von Kindern in Tageseinrichtungen.
 このハンブルク州の教育計画については、下記拙稿にその詳細が記されています。
木戸啓絵(2023)「持続可能な社会への変容と行動を促す保育―ドイツ・ハンブルク州の教育計画分析―」日本保育学会『保育学研究』第61巻(2022年10月9日受理、2023年発行予定)
*3:日本の文部科学省、厚生労働省にそれぞれ相当する省庁の手引きが刊行されていますが、ここでは後者の手引きの方を取り上げ見ていきたいと思います。

  • 文部科学省に相当する省庁の刊行した手引き:
    Behörde für Schule und Berufsbildung (2020) KLEINE KINDER –Bildungsprogramm für Vorschulklassen in Hamburg. Lehmann Offsetdruck und Verlag GmbH.
  • 厚生労働省に相当する省庁の刊行した手引き:
    Save Our Future–Umweltstiftung; Behörde für Arbeit, Soziales, Familie und Integration (2019). Kitas auf dem Weg in die Zukunft–Bildung für eine nachhaltige Entwicklung in Kindertageseinrichtungen gestalten.PerCom Druck- und Vertriebsgesellschaft mbH.

*4:シャッツキンダー(Schatzkinder)とは宝物の子どもたちという意味。
*5:KITA21とは、北ドイツを中心に広がる持続可能性をテーマにしたプロジェクト。

世界を変えるのは私たち! 各国で注目されるテラ・カルタの絵本

世界が注目するテラ・カルタ絵本

 第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)のサイド・イベントで素敵な絵本に出会いました。
 「学び!とESD」Vol.24及びVol.25でお伝えしたとおり、COP26は教育が主要なテーマとして位置づけられた画期的な会議でした。メイン会場で行われる議論と平行して、学習や教育をテーマにしたサイド・イベントも積極的に開催され、その中にCOP26に合わせて刊行された絵本の紹介企画がありました。それが今回、ご紹介する『イッツ・アップ・トゥー・アス~自然と人々と地球のための子どものテラ・カルタ~』(原題 It’s Up to Us: A Children’s TERRA CARTA for Nature, People & Planet、邦題は仮訳)です。
 主題を直訳すると「私たちしだい」。つまり、世界を持続可能にできるのは私たち自身なのだ、という希望のメッセージを子どもたちに届け、実際にアクションを起こしていこうという思いのもとで創られた絵本です。すでにイギリス、オーストラリア、米国、トルコで翻訳・刊行されており、イタリア、オランダ、ギリシャ、クロアチア、スペイン、台湾、ドイツ、デンマーク、フランス、ベトナム、ベルギー、日本などでも発刊予定です。
 副題を見てわかるとおり、前号でお伝えしたテラ・カルタの重要性について描かれた絵本でもあります。著者はクリストファー・ロイドさん。子ども向けのノンフィクション作家であり、日本でも『137億年の物語』などの著者として知られています。世界各地から33人のアーティストが選ばれてイラストを描き、物語を読み進めると、ページごとに異なる表現の世界が広がる構成です。
 本文の目次は次の通りです。カッコ内は各部で扱われている主なトピックです。

第1部:自然
(動植物、微生物、空気・土・海、生命の星)
第2部:人々
(豊かさの両面、地球を汚す人間たち、絶滅する動植物)
第3部:地球
(地球の誕生と二酸化炭素、森林火災や洪水など地球温暖化がもたらす問題)
第4部:テラ・カルタ
(地球のための行動計画、再生エネルギー、生き生きとした動植物、賢い消費、先住民の叡智、自然を中心に考えるということ、「変えるのは私たち!」)

 以上の本文に続いてテラ・カルタの前文が再掲され、イラストを描いた世界中のアーティストの紹介ページもあります。
 第1部の直前にはチャールズ皇太子みずからが序文を寄せており、自然に対してユニークな好奇心を抱いている子ども時代のことや、私たち自身が自然の一部であるということ、そして「世界に必要とされていることは、各地の子どもたちがどんな未来を創りたいのかを想像してもらうこと」などが綴られています(関連のウェブサイトのビデオも参照)。

子どもに未来を描いてもらうということ

 ロイドさんも数々のインタビューで語っているように、特に若者をエンパワーするため、つまり地球温暖化など相当に厳しい状況にある世界情勢の中でも自分たち自身が世界を変えられるんだという思いをもってほしい、という願いのもとに、この絵本は作られました。
 ロイドさんもテレビ局のインタビューで語っているように、世界の持続可能性を実現するのに大事なのは、植樹や節水などのアクションにとどまりません。この世界はどのように成り立っていて、いかなる問題があり、またどう解決できるのかを子どもたちに伝えること、そして望ましい未来を共に想い描くことができるようにすることが重要であると言えましょう。
 確かに、絵本の第2部で描かれているような食料やゴミの問題、つまり世界の持続不可能な現実を園児や小学生に見せてしまうと、希望が持てなくなり、成長してから環境に関心さえ持たなくなるという主張もあります。しかし、この絵本の妙味は、世界の現実について説いても、不思議と希望へと導かれるところにあると言えましょう。おそらくその背景には、ロイドさんの文章や世界中のアーティストの優しい眼差しを通して彼(女)らの地球への愛が伝わってくることがあるのかもしれません。
 チャールズ皇太子は、絵本紹介のビデオで、ご自身も絵を描くのが好きであることに触れた上で、ひとつの提案をしています。「1枚の紙で、あなた自身が目にしたい未来の絵を描いてみてください」と。皆さんもいかがでしょう?!

*ここで紹介した絵本は本年度内に山川出版社より刊行される予定です。

【関連の英文ウェブサイト(ビデオ)】

持続可能な未来へのテラ・カルタ

マグナ・カルタからテラ・カルタへ

 1215年、マグナ・カルタ(大憲章)がイングランド王国で承認されました。専制君主に苦しむ人々が自らの権利を国王に認めさせた、人権史における画期的な憲章です。普遍的な人権の基礎を築いたと言われるこの憲章の誕生から800年以上の時を経た現在、諸々の権利は人間だけでなく自然にも付与されるべきである、と英国のチャールズ皇太子は力説していることに注目したいと思います。
 チャールズ皇太子がこうした構想をテラ・カルタ(Terra「地球」 Carta「憲章」)と名づけて公表したのは2021年1月のワン・プラネット・サミットでした。その前年1月のダボス会議で皇太子は「持続可能な市場イニシアティブ(Sustainable Markets Initiative: SMI)」を立ち上げ、持続可能な未来に向けて世界のCEOや民間企業が力を結集するように呼びかけています。SMIを更なる推進へと導く提言として生み出されたテラ・カルタは、皇太子によれば、人間によって壊されつつある「地球のリカバリープラン」なのです。
 テラ・カルタ誕生の背景には、国家に負けず劣らず地球温暖化の責任を担うべきグローバル企業をはじめ、民間セクターの本格的な協力なしには救いの道はない、という英国王室の判断があるようです。テラ・カルタは、SDGsの実現を政府や国連まかせにするのではなく、急成長するグローバル企業をはじめとした民間を巻き込みながら、持続可能な未来への展開を一気に加速させるための王室戦略であると言えましょう。

自然を経済活動の中心に

 テラ・カルタはマグナ・カルタと同様に複数の条項から成っています。全体の構成は3部(第1~10条)の構成から成りますが、各々の標題と概要は次のとおりです。

  • 第1部「未来を再想像する」(第1~3条)
    第1条「サスティナブルな産業の創造」
     グローバルな価値創造の中心に置かれるべき「自然と人々と地球」
    第2条「デフォルトとしてのサスティナブル」
     ビジネスモデルや意思決定、行動の前提条件としての持続可能性
    第3条「消費者のパワー」
     持続可能な市場に対して人々がもつボトムアップの力
  • 第2部「ネット・ゼロ及び自然重視への移行に向けた再設計」(第4~5条)
    第4条「産業界のロードマップの促進・調整」
     2050年までに脱炭素の目標を達成する流れの加速
    第5条「ゲームを変革する主体とそのバリア」
     新たな産業構造を変える技術やソリューションの促進と阻害
  • 第3部「持続可能な投資に向けて再びバランスを取り戻す」(第6~10条)
    第6条「持続可能な投資」
     持続可能性のための新たな資産や資金の調達
    第7条「経済の真のエンジンとしての自然」
     サーキュラー・バイオエコノミーやエコツーリズムのように自然の有限性を前提とした経済活動の在り方
    第8条「市場のインセンティブの創造」
     持続可能な市場を想定した税や政策や規制
    第9条「共通のメトリックスや標準の活用」
     SDGs関連の投資を強調したESGなどの世界標準化
    第10条「科学・技術・イノベーションの変化の促進」
     持続可能な未来へのブレークスルーを促進するための研究と開発などの更なる促進

 以上から、社会のあり方を従来の地球資源の無限性を前提とした成長型から、その有限性を前提とした持続可能な開発型へと本格的にシフトさせていくような変革であることが分かります。チャールズ皇太子の言葉を借用すれば、テラ・カルタは「持続可能な未来へのロードマップ」なのです。

試される本気度と教育の可能性

 テラ・カルタの背景には、チャールズ皇太子の自然界に見られる「ハーモニー原則」という思想があります(「学び!とESD」Vol.01Vol.12Vol.13 参照)。現在、私たちが直面する地球規模課題の解決のために、自然界に見出されるハーモニーの諸原則、すなわち「循環」や「多様性」「相互依存」等々の智慧から学び、科学や技術、デザインや生産活動に活かすべきであるという思想です。テラ・カルタはこうした思想に裏打ちされた憲章なのです。
 テラ・カルタを支持する「サポーター」は現在、400社以上に上り、地球の持続可能性にコミットすることが期待されています。具体的には、地球規模の気候、生物多様性、健康を脅かす問題に対して行動すること、人々の健康をはじめ地域や経済、地球資源(土や空気や水)の健康を回復すること、脱炭素社会を2050年までに、できればさらに早期に実現すること、などが目指されるべき努力の方向性です。
 グローバル化の時代においては、地球温暖化に大きく加担しているグローバル企業をはじめとする民間の活動の影響力を無視できないことは明らかです。おそらくその勢力は今後も増していくことでしょう。テラ・カルタはこうした趨勢に対して再考を迫り、経済活動の中心に「自然・人々・地球」を据えることを提唱するチャレンジであると言えます。
 しかし、こうした「覚悟」を経済活動の基軸に据えた企業はどれほどあるのでしょう。わずかな例外として、パタゴニアのように「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」ことを公然と標榜する企業はありますが、そこまでの倫理的なスタンスもしくは生きざまをどれほどの企業が打ち出せるかは未知数であり、サポーターを表明したグローバル企業はその本気度が問われていると言えるでしょう。
 気候危機の脅威が迫る中、そんな気長なことは言っていられない、とお叱りを受けるのを承知で言うならば、上記のような倫理は中長期的に育まれてこそ、持続可能な形で社会にしっかりと根付くと言えましょう。ESDのチャレンジもこの点に見出されます。持続可能な社会の基盤をつくるにはまずは幼児期からの育みが重要であり、次号では、このテラ・カルタのスピリットを受け継いだ絵本を紹介します。

【参考文献及びURL】

ユネスコの最新報告書 2050年に向けた「教育のための新たな社会契約」

これまでのユネスコの報告書

 2021年11月に国際教育科学文化機構(以下、ユネスコと表記)によって報告書“Reimagining Our Futures Together: A New Social Contract for Education”(『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』)が刊行されました。これまで、ユネスコによる報告書は約四半世紀に一度の期間で刊行されており、1972年の報告書“Learning to be”(『未来の学習』)と1996年の報告書“Learning: the treasure within”(『学習:秘められた宝』)に続く、重要な報告書として公表されました。
 “ESD for 2030”(*1)のように10年前後を想定した教育論が通例であるのに対し、より長期的な未来を見据えた内容であることや委員長としてアフリカ出身の女性が選ばれたこと、欧州中心主義から脱した脱植民地主義の価値観が反映されていることなどが報告書の興味深い特徴として挙げられます。

最新報告書『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』

 私たちの世界は、気候変動や感染症などの世界規模の諸課題によってさらに不確実性が増しています。そのような現実に直面している中で、どのように持続可能な未来を実現していく必要があるかを問い直す提案がされています。SDGs(*2)のその先の未来を視野に入れた2050年の教育について論じられており、すべての人たちが持続可能な未来を再想像するための対話の契機として位置付けられた報告書です。

図1 『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』表紙
出典:UNESCO Digital Library
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379381

教育のための新たな社会契約

 では、報告書の副題である「教育のための新たな社会契約」とは何でしょうか。これは、「人との関わり」「地球との関わり」「テクノロジーとの関わり」という3つの関係性を再構築することを目的としています。この社会契約を支える原理原則として、「生涯を通じて質の高い教育の権利が保障されること」及び「公共の取り組みや共通善として教育を強化すること」の2つが示されています。

報告書の構成

 報告書は、次のような9つの章と3つのパートに分かれて構成されています。

第1部 過去の約束と不確実な未来のつながり

第1章 より公正な教育の未来に向けて
第2章 ディスラプションと立ち現れる変容

第2部 教育の刷新

第3章 協力と連帯の教育学
第4章 カリキュラムと進化するナレッジ・コモンズ
第5章 教師の変容
第6章 学校を守り、学校を変容させる
第7章 異なる時空を超えた教育

第3部 教育のための新しい社会契約への触媒

第8章 研究とイノベーション
第9章 グローバルな連帯と国際協力への要請

 第1部では私たちが置かれている世界の不確実性について、第2部では第1部で示された時代背景に求められる教育の諸課題や刷新などについて、第3部ではさらなる研究や変革、国際協力への提言などが述べられています。また、第2部以降の各章末では、その章の「教育のための新たな社会契約」における原理原則についてまとめられています。
 例えば、第5章では、教師が知識の生産者及び教育と社会の変革の重要な担い手として認められるために、さらなる教育の変革が提案されています。その原理原則として次の4点が挙げられています。

教師という仕事をコラボレーションとチームワークによって特徴づけること
教師が知識、反省、研究を生み出すこと
教師の自立と自由に向けた支援をすること
教育の将来についての公開討論や対話に教師が参加すること

3つの「根本的な問い」

 「教育のための新たな社会契約」をみんなで練り上げるということは、未来を再想像するための重要な一歩であると報告書では強調されています。そのため、「教育のための新たな社会契約」において提言されている2050年に向けて問われるべき3つの根源的な問いを最後に共有します。

What should we continue doing?
私たちは何を継続するべきなのでしょうか。
What should we abandon?
私たちは何をやめるべきなのでしょうか。
What needs to be creatively reimagined?
何を創造的に再想像する必要があるのでしょうか。

 この3つは答えを提示するためではなく、対話を促すための問いです。まずは、何を残し、何をやめ、どのようなことを新たに創造していくのかについての対話をしてみるのはいかがでしょうか。

*1:“Education for Sustainable Development: Towards Achieving the SDGs”(「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて」)の略称。2019年12月の第47回国連総会で採択された2030年までの枠組みであり、SDGsを実現するための教育としての位置づけをこれまで以上に強調されている。
*2:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2030年までに達成すべき17目標と169の指標からなり、持続可能な社会の実現を目指した世界共通の目標として位置づけられている。

【参考文献】

  • UNESCO (2021) “Reimagining our futures together: a new social contract for education”,
    https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379381 (2022年6月29日閲覧)
  • 永田佳之, 国際理解教育学会編著 (2022) 「私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約」『現代国際理解教育事典 改訂新版』, 明石書店, 312-315頁.

「フリースペースえん」の実践 ~「いのち」に寄り添う「居場所」づくり~

「生きている」ただそれだけで祝福される場

 「誰もが『生きている』ただそれだけで祝福される、そんな場をみんなでつくっていきたい。」このような思いをもちながら、30年もの間、学校や家庭、地域に居場所を見出せない子どもたちに寄り添ってきた場所があります。「フリースペースえん(以下、「えん」)」と呼ばれる公設民営のフリースペースです。神奈川県の「川崎市子ども夢パーク」の一角にあり、認定NPO法人フリースペースたまりばが運営しています。冒頭の言葉がまさに体現される「えん」の姿は、SDGsの掲げる「No one will be left behind.(誰一人取り残さない)」と大きく重なります。実際に「えん」での活動は、SDGsゴールの4(質の高い教育をみんなに)の観点から、神奈川県の紹介する「SDGsアクション in かながわ」で取り上げられています。優良なESDの事例として、「ESDグッドプラクティス10事例」の一つに選ばれたこともあります。今回は、この「えん」の実践をご紹介します。
 「えん」の子どもたちは、来る時間も帰る時間も、どのようにして過ごすかも、すべて自分で決めることができます。一見すると、様々な子どもたちが様々なところで様々なことをしている、「混沌」とした場です。なぜ「えん」での実践が、持続可能な社会の実現につながると言えるのでしょうか。

「いのち」を中心に据えた場

 第一に、「えん」では「いのち」が何よりも尊重され、すべての子どもたちが否定されたり排除されたりせずに、ありのまま「存在」しています。土台にあるのは、既存の制度に子どもを押し込めようとするのではなく、「子どもの『いのち』のほうに制度や仕組みを引き寄せる」という考え方です。学校的な評価のまなざしはもちろん、世間の当たり前による比較も区別も存在しません。障害の有無や国籍の違いを超えて、多様な個性があたかかく受け入れられています。「いのち」や多様性の尊重は、ESDの中でも大切にされる価値観です。このような場は子どもたちの安心・安全を保障し、「やりたいこと」への一歩を後押しする力ももっています。
 子どもたちの最善の利益を守るために、「えん」が拠り所としているのは、「川崎市子どもの権利に関する条例」です。この条例は子どもの権利条約を土台として、市民や子どもを巻き込んだ話し合いのもとにつくられました。

写真1 「川崎市子ども夢パーク」や「えん」の至る所に「川崎市子どもの権利条例」についての掲示がある(筆者撮影)

① 安心して生きる権利
② ありのままの自分でいられる権利
③ 自分を守り、守られる権利
④ 自分を豊かに、力づけられる権利
⑤ 自分の決める権利
⑥ 参加する権利
⑦ 個別の必要に応じて支援を受ける権利

表1 「川崎市子どもの権利に関する条例」が保障する子どもの権利

「えん」での学びを支える「つながり」

 第二に、「えん」にはたくさんの「つながり」があります。「つながり」はESDでも重視される観点です。「えん」の「混沌」の中に居心地の良さがあるのは、異質な個性が緩やかにつながり合っているからでしょう。子どもたちと過ごしていると、「どんなこともできる自由な存在」、「どこかに弱さを抱えた存在」として、お互いを認識し合っている感じがします。それは大人に対しても、動植物のような人間以外の存在に対しても、例外ではないようです。「えん」では日々の暮らしを丁寧に積み重ね、夢中になって遊ぶことを通して、五感を存分に使い学んでいます。その中には、「えん」に出入りする大人たちも参加します。多様な立場や世代の人と共に参加体験型で学ぶことは、ESDでも推奨されている学びの方法です。日常の暮らしや多様性、五感など、従来の学校教育からこぼれてしまったものとの「つながり」が、「えん」での学びを支えています。

食に見る「えん」での「ケア」

 第三に、「えん」には「ケア」が行き渡っています。持続可能な開発に「ケア」は不可欠な概念です。「えん」で特に大切にされる「食」は、最も「ケア」に溢れていると感じられる一場面です。「えん」での昼食は、誰でも250円で食べられます。食材には、買い出しに行ったり畑で採れた野菜を使ったり。寄贈された物を使うこともあります。その日の食材を眺めながら「どうやって食べようか。」と対話が始まり、栄養バランスも考えながら献立が決まります。完成すると子どもたちが集まってきて、机を囲いながらみんなでいただきます。食べ終えた後の生ごみは、コンポストへ入れられます。一連の様子から、自分や他者、そして環境にも配慮しながら、日々の暮らしの中心である「食」が営まれていることが分かります。
 「えん」では子どもと大人で話し合って、毎月11日を「震災めしの日」と決めています。その日は買い出しをせずにあるものだけでつくり、昼食代を被災地への支援に充てます。どこまでも「いのち」に寄り添う姿勢が伝わります。

写真2 畑の横に置かれたコンポスト(筆者撮影)

 ESDの課題として、環境面でのケアに比べて社会・経済面でのケアが弱いという指摘もありますが、「えん」では子どもの「いのち」を出発点に、奥深いバランスのとれたESDが展開されています。全国に20万人近くいると言われる不登校の子どもたちを含め、「誰一人取り残さない」教育へ向けて、「えん」の実践には多くのヒントがありそうです。

  • 「えん」をはじめとする認定NPOフリースペースたまりばの活動については、次のリンクをご覧ください。
    https://www.tamariba.org/
  • 7月に『ゆめパのじかん』という映画が公開されます。「川崎市子どもの権利に関する条例」に守られ、「川崎市子ども夢パーク」で自分らしく過ごす子どもたちの姿から、さらに多くを学ぶことができるでしょう。公式ホームページは次のリンクから見ることができます。
    http://yumepa-no-jikan.com/

ホールシティ・アプローチの展開 ~ドイツ・ハンブルク市の取り組み~

ESD先進都市~ハンブルク~

 ドイツ北部に位置する自由ハンザ都市ハンブルク(*1)(以下、ハンブルクと表記)は、ドイツ最大の港街であり、国際会議や見本市も開催されるなど、工業とサービス業の重要な中心地です。ハンブルクでは、持続可能な社会の実現に向けた様々な取り組みが続けられています。こうした活動が評価され、ハンブルクは、2019年にユネスコ学習都市に関するグローバルネットワーク(UNESCO GNLC:Global Network of Learning Cities)のメンバーとなりました(*2)。さらに、同年にESDグローバル・アクション・プログラム(GAP)のキーパートナーにも指定されています。今回は、持続可能な社会を目指してESDを街全体で推進しているドイツ・ハンブルクの取り組みを紹介します(図1参照)。ハンブルクの取り組みは、持続可能性について街や市全体で実現していく「ホールシティ・アプローチ」の活動そのものです。

図1.ハンブルクにおけるESD(*3)(出典:ハンブルク市作成資料より筆者訳出)
https://www.hamburg.de/contentblob/13946516/a47014acbe1d83f1364fd0b64f052fcc/data/vortrag-1-hamburger-masterplanbne-ralf-behrens-bue.pdf ](2022年5月3日閲覧、以下同じ)

街全体で持続可能性を学び実現していく~HLNの存在~

 ハンブルクには、ESDの活動や団体(アクター)が集まる大きなネットワークが存在しており、その中心的な役割を担っているのが「HLN」(Hamburg lernt Nachhaltigkeit)「ハンブルクは持続可能性を学ぶ」という自治体と市民との共同イニシアティブです。HLNは、2005年にハンブルク政府により設立され、ESDに取り組む行政当局、様々な施設、団体、ネットワーク、個人等を構成員とする団体です。多岐にわたる関係者が連携し、市全体で持続可能性に取り組む実践が評価され、HLNは2019年のユネスコ/日本ESD賞(*4)を受賞しています。HLNに見られる行政と市民のこのようなネットワークは、ドイツ国内だけでなく世界中の自治体のモデルとなっています。

ハンブルク・マスタープランESD 2030

 2021年9月ハンブルク市は、2030年に向けて「ハンブルク・マスタープランESD 2030(Hamburger Masterplan BNE 2030)」を策定しました(以下、マスタープランと表記)。この計画は、2017年から2019年にかけて作成され、139名もの人々が計画策定に関わりました。そのうち、省庁・学校・大学といった公的な機関からは49名、教会・財団・連盟・NPO・保育施設といった様々な領域の市民が関わる団体からは90名が集結しました。このマスタープランでは、教育によってハンブルクを持続可能な社会にしていくことが目指されています。この計画文書は全体で44ページにわたり、幼児期から生涯にわたるあらゆる場面で、ESDを学び実践するためにどのような対策を講じていくかについて具体的に提示されています。教育分野を「幼児教育」「学校教育」「職業教育」「高等教育」「学校教育以外の学び(außerschulische Bildung)」「地域での学び」という6つに分けて、それぞれの分野におけるESD推進に関する目標と目標達成に向けた具体的な対策がまとめられています。

図2. ハンブルク・マスタープラン ESD 2030表紙(出典:ハンブルク市ホームページより)
https://www.hamburg.de/contentblob/15185278/1330dfec0260370d6eb591789abc5dd0/data/masterplan-bne.pdf

 マスタープランでは、各教育分野において、複数の行動フィールドが設定され、それぞれのフィールドにおける目標と目標達成に向けた具体的な対策が示されています。例えば、1つ目の教育分野である「幼児教育」では、行動フィールドが5つ示され、フィールドごとに目標と対策に関する説明が続きます。ハンブルクでは、2012年に改訂された「ハンブルク州教育計画」(Hamburger Bildungsempfehlungen für die Bildung und Erziehung von Kindern in Tageseinrichtungen)の中に、すでにESDに関する記載が盛り込まれています。しかし、教育計画に文言として記載するだけでなく、より実践レベルで子どもたちの生活と関連づいた形でESDを展開していくために、マスタープランでは、教育計画、教員研修、園運営における持続可能性などについてさらなる目標と具体的な対策が掲げられています。なお、「ハンブルク州教育計画」は、日本の幼稚園教育要領等にあたるもので、州内の幼児教育施設を対象とした法的な拘束力を持った文書です。

ESDをチャンスに!~教育現場や地域社会の課題解決へ~

 ドイツ・ユネスコ国内委員会によって2014年に出された資料には、教育の現場や自治体レベルにおけるESDの捉え方として次のような考え方が示されています。

  • ESDは重要なチャンスを提供する。
  • 教育は「現場で」だけでなく「現場のために」行われることで、地域の社会構造に直接影響を及ぼす。
  • 「自治体はESDのために何ができるか」ではなく、「自治体のためにESDは何ができるか」が第一に問われている。
  • 自治体の政治戦略や開発戦略にESDを結びつけることは、自治体が持つ喫緊の課題の解決に向けた重要な視点やチャンスとなる。

 つまり、教育現場においても、地域社会においても、課題解決に向けてESDが提示するアイディアを活用するという考え方がはっきりとあらわれているといえるでしょう。ESDのために、教育現場や地域が存在するのではなく、私たちの教育現場や地域をよりよいものにしていくために、ESDを活用していくという発想の転換が、行政や教育などあらゆる場面で市民生活全体に広がっていくことで、ESDは新たな価値を生み出す可能性を持っているのではないでしょうか。
 今回紹介したハンブルクの取り組みからは、教育によって、自分たちの地域を環境的にも社会的にも経済的にもよりよいものにしていくという気概が感じられます。コロナ禍も完全に収束する見通しがまだ立っていないところに、ウクライナ危機が勃発したことにより、地球の将来になかなか希望を持てない社会情勢が続いています。ウクライナ危機を受けて2022年4月に、ハンブルク市はウクライナの首都キーウ市と「連帯と未来のための協定」を締結し、人道的支援を行っています。持続可能な社会には、平和と公正が全ての人に保障されていることが重要な要となります。これまでのハンブルクのホールシティ・アプローチの実践からも、教育は決して無力な営みではないことが示唆されています。このような社会情勢にあるときだからこそ、教育によってできることを足元から探していきませんか。

*1:ハンブルク市は、行政区画上単独で州(都市州)となっています。なお、ドイツは連邦制国家であり、各州に大きな権限が委ねられています。
*2:この国際的なネットワークは、持続可能な社会の構築を生涯学習を通じて実現していくことを目指し、ユネスコ生涯学習研究所が中心となり、学習都市の国際的なプラットフォームとして構築されました。
*3:訳注:BNE(Bildung für nachhaltige Entwicklung)は、ESDのドイツ語表記。
*4:ユネスコ/日本ESD賞は、2015年より日本政府の財政支援のもとユネスコにより創設されました。2019年は、国際審査の結果115件の候補案件から、HLNとボツワナ、ブラジルの3団体に同賞が授与されました。

【参考文献】

橋を架ける教育 第11回世界環境教育会議(WEEC)の報告

 第11回世界環境教育会議(World Environmental Education Congress: WEEC)が2022年3月14日~18日の期間でチェコのプラハにてオンサイトとオンラインのハイブリッド形式で開催されました。WEECはユネスコや国連環境計画の政策決定のキーパーソンが登壇するパネル討議を仕掛けるなど、「ESDの10年」やその後のグローバル・アクション・プログラム(以下、GAPと略記)や‘ESD for 2030’(「学び!とESD」vol.18)の方向性を後押しし、教育運動の質を高めることに少なからぬ影響を与えてきたと言えます。本年は新型コロナウィルス感染症や世界情勢が危ぶまれる中での開催となりましたが、400以上のオンサイトでの参加者と170以上のオンラインからの参加者が集いました。特に、WEEC開催前から本会議のプラットフォームであるホームページ上ではウクライナ侵攻に関する声明を表明しており、会議の冒頭においても平和を求める声とともに環境教育やESDが担う役割の可能性についても言及されました。
 今号では第11回WEECの発表の中から具体的な実践研究について紹介します。

出典:WEECのホームページ

WEECとは?

 WEECは2003年に環境教育の領域に関わる世界各国の関係者をつなぐ会議として第1回目が開催され、本年で11回目となります(表1参照)。本会議には主に環境と持続可能性に関する教育に関心を持ち取り組んでいる世界各国の大学教授・政府関係者・国際機関・ジャーナリスト・政治家・企業・NGO等の研究者や実践者らが参加しています。2003年当初は年に一度開催されていましたが、2007年の第4回目以降は2年に一度開催されています。

表1:WEECのこれまでの開催日程およびテーマ

学校を超えたソーシャル・ラーニングとしての
ホールスクールアプローチ

 本会議では「気候危機の時代に橋を架ける」をメインテーマとし、環境教育やESDなど持続可能性に関する教育に通底する理論や実践が発表され、各分科会の発表後には発表者およびその発表を聴講している参加者との議論の時間が設けられました。
 特に「ESDの10年」後のGAPにおいて展開されてきたホール・インスティテューション・アプローチ(ホールスクールアプローチ:WSA)が本会議の13を超える分科会(*1)の一つのトピックとして設定され、実践および研究の双方で議論されていた点は注目に値します。国際的に標準化されつつあるWSAからは日本の実践でも参考になる知見が得られるでしょう。具体的には、ESDにおけるソーシャル・ラーニングの論客であるA. ウォルスによる基調講演にて紹介された以下の6つの要素は批判的にESD実践を考察する上で有効な視点となるでしょう(図1)。5つの要素(教育学と学習、カリキュラム、制度上における実践、地域とのつながり、キャパシティ・ビルディング)が花びらのように中心にあるビジョン、エートス、リーダーシップ、協調によって支えられています。

図1:持続可能性に向けたホールスクールアプローチの6つの要素
出典:A. ウォルスの基調講演およびホームページより抜粋

 6つの要素に関する詳細は下記の通りです(表2)。これらの考案された図表は、表2にある5つの問いを参考に、教師および生徒との対話を重ねながらビジョンやエートスなど学校の中核に据えられる在りたい姿を描き、5つの要素の視点を用いて自身の学校を振り返り、持続可能な学校および学校を超えた地域づくりに取り組むツールとしても活用できるでしょう。

表2:ホールスクールアプローチの具体的内容
出典:基調講演をもとに筆者作成

 今回は多くの講演と発表の中から一つの実践研究を紹介しました。その他にも5日間の会議では、気候危機の時代における複雑性を伴った課題を前に、限定的で閉ざされた学びや教育に対し、開かれた学びや教育へと働きかける研究や実践の重要性が指摘され、学ぶことと生きることが重なり合い、ともに社会を創造する橋渡し役となる教育について議論されました。また、環境教育の論客であるデイビッド W. オーが「環境教育は民主主義の復活と改善のための教育であり、持続可能性と社会正義の原則が組み込まれている」と言及されたように、これまで環境教育で蓄積されてきた知見から学び、新たな実践と理論を創造することが求められていると言えます。ホールスクールアプローチを通して、自己と他者(社会)との関係性に橋が架かる教育的営みを実践してみませんか。

【参照URL】

*1:本会議の初日はこれまで環境教育やESDなど持続可能性に関する教育分野の研究を牽引してきた研究者の基調講演から始まり、2日目以降は気候変動教育、場に根差した教育(Place-based Education)、就学前教育、環境シティズンシップのための教育、人新世時代における環境教育、アート・倫理・環境教育、持続可能性のための行動コンピテンシーおよびキー・コンピテンシー、環境および持続可能性に向けたホールスクールアプローチ、野外環境教育、持続可能な大学、ビジネスセクターと環境教育、地域における変容的超越的学習、ノンフォーマルにおける環境教育など13を超える分科会が実施されました。

ESDと気候変動教育(その10) ユネスコの報告書から読みとく気候変動教育の課題

図1 出典:UNESCO(2021a) 『すべての学校を気候変動に備える: 各国はいかに気候変動の課題を教育に統合しているか』(Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education)という気候変動教育の報告書が、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にてユネスコより公表されました(図1)。これまでにも触れてきたように(「学び!とESD」Vol. 24 25 )、この報告書では、気候変動教育の様々な現状と課題が明らかにされています。
 本号では、報告書が伝える気候変動教育の現在、カリキュラムと教え手の備えの、2つの観点から紹介します。

気候変動教育を、全ての国の、全ての学年、全ての学習分野の中核に

 気候変動に関する知識、スキル、価値観、そしてアクションは、学習の分野や学年を超えて、カリキュラムに組み込まれることが必要です。上記の報告書が最初に伝えているのは、調査した100か国のナショナル・カリキュラム(学習指導要領)のうち、気候変動について言及しているのは53%だということです。またナショナル・カリキュラムのうちの40%については、言及はあってもその度合いが最小限だと評価されています。
 気候変動に関する内容の地域差についても報告があります。図2が示すように、オセアニアやサハラ以南のアフリカといった気候変動の影響を受けやすい地域の国々は、その内容を広く盛り込んでいます。一方で、二酸化炭素(CO2)を多く排出し気候変動の原因に強く加担している国々は、大きく遅れを取っていることも明らかになりました。

図2 各地域のナショナル・カリキュラムに気候変動の内容はどの程度含まれているか
出典:UNESCO(2021a)Figure3

 さらに、気候変動教育が行われるのは初等・中等教育が中心であり、TVET(技術・職業教育・訓練)、高等教育、教員養成ではさして見受けられない傾向も分かりました。
 ちなみに、今回の報告書に日本への個別の言及はありませんが、この報告書が土台としている別の調査(UNESCO 2021b,p.33)は、文部科学省の計画や学習指導要領で使われている環境問題関連の用語から、日本の環境教育を評価しています。具体的には、「環境」「持続可能性」「生物多様性」「気候変動」に関わる用語を抽出し、抽出された用語全体を100%とした場合に各分野の用語がどの程度の割合で登場するかを明らかにしています。例えば「環境」分野では「環境(environmental)」、「エコシステム(ecosystem)」などの用語が、「気候変動」分野では、「温室(greenhouse)」、「地球温暖化(global warming)」、「気候変動(climate change)」などの用語が取り上げられました。この調査の結果によると、日本は「環境」に関わる用語が79%である一方、「生物多様性」は14%、「持続可能性」は7%であり、「気候変動」は0%です。日本はSDGsや環境問題を取り扱う中で、気候変動への比重が極めて小さいと評価されたことになります。

気候変動教育への教師の備え

 報告書では、教師へのアンケートの結果、95%近くが気候変動を教えることの重要性を認めているものの、それを教えることに自信がある教師は40%に満たないことが明らかになりました。さらに、身近な地域への影響を説明できると考える教師の割合は、約3分の1に留まります。また、気候変動の知識(認知的側面)を教える自信のある教師は40%いる一方で、行動的側面(例えば、どのように自分のカーボンフットプリントを減らすか)を説明できるのは約20%であるという結果も出ています。
 気候変動を教えられないのは、適切な教え方を知らないこと、どの科目で教えたら良いのか分からないこと、このテーマを教える時間が無いこと、必要な知識やスキルが無いことなどが要因のようです。実際に、気候変動や持続可能なライフスタイルに関する教員養成や教員研修を受けたという回答は、半数強(55%)で、学校に気候アクションを起こす計画があるという回答は、半数を満たしていません。
 このような課題を踏まえると、気候変動教育を全ての教科、全ての教員養成・教員研修に組み込み、学校全体で取り組むために、知識や効果的な教授法、ツールを提供する必要があります。また、アクションに重きを置いた学習への取り組みも重要です。

これからの気候変動教育に向けて

 以上のことを踏まえ、これからの気候変動教育に向けて次のような提案を報告書は提示しています。

  • 気候変動教育を、すべての国でカリキュラムの中核に据えること。
  • 気候変動の問題に最も責任のある国に関してはその国の教育課程で気候変動の内容に焦点をより当てること。
  • 気候変動教育をあらゆる学年、あらゆる学習分野に組み込むこと。
  • 教師が気候変動を教えられるように備えること。(*)
  • 頭も心も身体もバランスよく重視した形で気候変動教育を行うこと。
  • 気候変動教育を各国の政策やプログラムの多様な側面に織り込むこと。
  • 文部科学省と環境省が気候変動教育を推進するために協力すること。

 日本のESDや気候変動教育の取り組むべき課題を共有し、対話を重ねていくうえで、今回の報告書は世界の現状を踏まえた様々なヒントを与えてくれると言えるでしょう。

*英国の若者たちは政府に対してこの要請をつとにしている。詳細は次を参照。
https://climate-empowerment.com/globaltrend/若者による政府への要請文/

【参考文献】

  • UNESCO(2021a)Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education.
  • UNESCO(2021b)Learn for our planet: a global review of how environmental issues are integrated in education.

ESDと気候変動教育(その9) 本格化する気候変動教育

 2021年11月に開催された第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(以下、COP26)では各国の首脳や著名人が登壇する場面か、グレタ・トゥーンベリさんらの若者が会場周辺の街をデモする様子がメディアで頻繁に取り上げられていました。しかし、前号(「学び!とESD」Vol. 25)で「気候アクションのための教育(Teaching for Climate Action)」についてお伝えしたように、世界中の学校の先生たちも教育で何ができるのかをアピールした国際会議でもあったことは注目に値します。今回は、メディアにはほとんど取り上げられなかったけれども、ESDにとってもこの上なく重要な、もう一つの教育イベントについてお伝えします。

格上げされた教育セッション

 COP26は環境保護のドキュメンタリー作家として世界的に知られるデイビッド・アッテンボロー氏の他、ボリス・ジョンソン英首相はじめ各国の首脳や大統領が登壇し、華々しく開催されましたが、教育についても本格的に議論されました。これまでは教育はどちらかというと脇役で、議論の場もメイン会場ではなくサイドイベントでした。26回目にして初めて教育大臣と環境大臣が一堂に会する画期的なセッションがメイン会場で開かれたのは画期的な出来事でした。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)として初めて教育をテーマにしたセッションが本会議の一環として組まれ、開催地である英国のグラスゴーに対面で集った環境大臣らのみならず教育をつかさどる大臣もオンラインで繋がり、合同のセッションが設けられたのです。
 これは、主に環境担当の大臣らが参加するCOPでの審議の結果はなかなか教育政策・施策に反映されないという積年の課題を打開しようとする刷新的な前進だと言えます。こうした出来事の背景には、ユネスコ/日本ESD賞の受賞者など、ESDを牽引してきた活動家がお膳立てをしたという力学が働いており、ESDが果たす歴史的な役割も垣間見られると言えます。

注目されたイタリアの教育改革

 「明日のために共に:教育と気候アクション」と名付けられた上記のセッションは英国政府及びイタリア政府、ユネスコが主催し、さらには気候変動に関する若者中心の活動組織であるMock COP26及びユース・フォー・クライメートも参画しました。全体の司会を務めたのは「国連ESDの10年」時代からESDの国際的な推進役を担ってきた論客のダニエラ・ティルベリー氏(ジブラルタル大学)です。英国およびイタリアの教育大臣のスピーチで始まり、日本を含めた各国の気候変動施策の紹介を行うパネル・ディスカッションも開かれました。
 最初の登壇者であるナディム・ザハウィ教育大臣(英国)は、COP26の開催地であるグラスゴーでしくじったら、まだ生まれていない子どもたちから残念な結果として評価されるであろう、というジョンソン首相の開会式での言葉を引用し、気温上昇を1.5度以下に抑えて希望につなぐには教育が重要な役割を担っていることを強調しました。ちなみに、COP26では、バルバドスのミア・モトリー首相が温暖化の上昇を抑えるための「1.5℃目標は生き延びるために必要であり、2℃目標はもはや死刑宣告である」と表現して話題になりました。

イタリアのビアンキ教育大臣

 各国の大臣やメディアが注目したのは、イタリア政府を代表して登壇した教育大臣、パトリツィオ・ビアンキ氏でした。彼は義務教育段階のすべての学年に気候変動を教え、知識・行動・構造・機会という観点から学校を再生していくというラディカルな改革について熱弁をふるったのです。これは単に気候変動について教える単元を設けるという次元を超えて、気候危機の時代には学校教育は根幹から変わらなくてはならないという意思表明であり、ナショナル・カリキュラムに気候変動教育を本格的に統合していく試みとしてESD関係者にも注目されています。
 続いて、ユネスコのステファニア・ジャニーニ教育担当事務局次長は「教育こそ最も力強い武器である」というネルソン・マンデラの言葉を引き、現代ほど人間と地球へのケアが求められている時代はなく、そのために教育を根本から変革していく必要性を「ESD for 2030ベルリン大会」(「学び!とESD」Vol.18)の成果を強調しつつ訴えました。

ユネスコのジャニーニ事務局次長

気候変動に関する意思決定に若者を!

 終盤の登壇者として注目されたのが若者代表として気候変動教育の重要性を訴えたフィービ・ハンソンさん(20歳のランカスター大学学部生)でした。彼女は力強く「理科や地理で気候変動を教えたと言うのは危険極まりないメッセージ。全ての若者が問題解決の一部とならなくてはならないのであり、気候変動はあらゆる科目に織り込まれるべき」と訴えました。気候変動教育は理科(科学)教育に留まらず、学校での教育活動全般に浸透されるべき総合的かつ統合的な教育であるという認識はイギリス等の若者にも支持されるに至り、ホールスクール・アプローチ(「学び!とESD」Vol.202122)は国連をこえて、次世代にも支持されるに至っています。

各国の大臣に語りかけるP. ハンソンさん

 さらにMock COP26から各国の教育大臣への要求として次の3点が伝えられました。

  • 先生が自信をもって気候変動について教えられるようにすること
  • 「若者のために」気候変動教育を推進するのではなく、彼(女)らと共に、そして若者を通じて推進すること
  • カリキュラム全体に気候変動教育を統合すること

 ハンソンさんは「すべての生徒が持続可能性を心得た若者にならなくてはならない」という力強いメッセージでスピーチを締めくくりました。グレタさんが気候変動対策の不十分さを訴えるためにスウェーデンの国会前で1人で座り込みをしてから3年半近くになりますが、気づけば、グレタさん以外にも希望をもたらす若者が世界中に現れ、希望に向けた活動を展開し続けています。気候変動に関する意思決定を未来の当事者である若者抜きで行うことは時代遅れとなったと言えましょう。

ESDと気候変動教育(その8) 気候変動アクションに挑む日本の先生たち

気候変動を教えたい、でもどうやって…?

 気候危機が深刻化するにつれ、教育への期待が世界的に高まりを見せています。日本でも2021年6月2日には文部科学省総合教育政策局長・同省書中教育局長及び環境省総合環境政策統括官の連名による「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について」が全国の教育委員会に通知され、脱炭素社会の実現に向けて気候変動をはじめとした「地球環境問題」に学校が本格的に取り組むことが喫緊の課題として共有されるに至りました。
 しかし、地球温暖化が深刻化する中、気候変動のような地球規模課題にいかにして教師が日常で挑むかについては各国共通の課題と言えます。前号(「学び!とESD」Vol.24)でも取り上げた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)でユネスコが公表した気候変動教育の現状と課題を示した報告書『すべての学校を気候変動に備えさせる:各国はいかに気候変動問題を教育に統合しているか』(Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education)によれば、95%の教師が気候変動を教えることの重要性を認めているものの、それを教えることに自信がある教師は4割に満たないこと、また約4割が気候変動を知識として教えられると考える一方で、いかにアクションを起こすべきかを説明できる教師は5分の1ほどであることが明らかになっています(UNESCO, 2021)。

地球規模課題に挑む日本の先生たち

 上記のような課題に挑むべく、日本を含めた世界中の教師たちが気候変動に対して教室や学校全体でアクションを起こすことに2021年の7月から11月までチャレンジしました。以下に、現場の先生による現場の先生のためのデジタル・プラットフォームを国境を越えて形成した「気候アクションのための教育(Teaching for Climate Action)」事業について紹介します。
 これはCOP26に合わせて立ち上げた国際事業で、世界中の教師が自作のビデオ作品を国際的に共有し、気候変動教育の必要性と可能性を示した事業でした。主催団体は、OECD、UNESCO、世界最大級の教員ネットワークであるエデュケーション・インターナショナルの3組織です。
 この事業の立ち上げ時に、筆者は日本国内の先生たちを応援し、各国の動画を評価し、国際イベントで知見を共有する役割を担うようにOECD事務局から依頼され、まずは日本の教師たちに参加を呼びかけました。結果、表1の10人の先生から参加の意向が表明され、日本からは7本の動画がOECD事務局に届けられ、英語のキャプションが付されて世界に向けて公開されました。

教師

実践校

ビデオ表題

山藤旅聞、
山本崇雄

新渡戸文化中学校・高等学校

Equipping Students to Build a Stronger and Sustainable Future

鈴木陽子、
花川智子、
松本恭子

東京都目黒区立五本木小学校

Helping Students Connect with the Earth and Find Beauty in Soil

棚橋乾

東京都多摩市立連光寺小学校

Finding Innovative Climate Solutions through Experimentation

平澤香織

横浜市立東高等学校

Teaching for Climate Action beyond Classroom Walls

藤野明彦

東京都立上水高等学校、
東京都立杉並総合高等学校

Building Collaboration and Partnerships for Climate Action

前園兼作

横浜市立日枝小学校

Exploring the Local Environment to Nurture Appreciation for Nature

茂木正浩

東京都大田区立相生小学校

School Cleaning Initiative Using Traditional Methods

表1 「気候アクションのための教育」事業に挑んだ日本の教師と学校

 作品を見ると、気候変動教育とひとことで言っても、アクションの内容は実に多様です。太陽光やヤギの糞等を基にした多様な自然エネルギーを作り、駅前のイルミネーションを灯したアクション、土(アース)をテーマに美術作品を制作し地球(アース)について子どもたちと深く思考し表現したアクション、化粧品のパッケージ・デザインを高校生が考えて地元の企業と協働したアクションなど、実にさまざまでした(図1参照)。

図1 気候アクションの領域
出典:筆者作成

 具体的には、温暖化の問題解決につながるような学校活動をビデオに撮り、5分程度のビデオ作品に仕上げて共有することにより、気候変動の時代においても希望の営みを創っていくことが目指される国際事業です。参加者は母語で収録し、OECDが英語のテロップをビデオに付けてくれました。
 上記のようにアクションは多様性に富んでいますが、大半のアクションに共通しているのは、いずれも未来世代が主体であること、子どもたちが知識及び情動面で深く学んでいること、地球規模課題と自分とがつながっている実感を持てていること、地球規模課題の深刻さは認識している一方で仲間との共同作業を通して希望がもたらされていることなどが挙げられます。
 いわばCOP26の前哨戦(プレイベント)として3回にわたり、各国の優れた気候アクションをオンラインで紹介する「カンバセーション」というイベントが開かれたのですが、日本からは棚橋乾先生の多摩市立連光寺小学校での実践が選ばれ、日本発の気候アクションの知恵が世界中の先生に届けられました。さらにCOP26期間中に開かれた教育セッションでは、今回集められた秀逸な実践動画がさらに編集されて流され、多くの反響を呼んでいました。その中には横浜市立日枝小学校の前園兼作先生の作成した動画が世界中の先生方をエンパワーする作品として共有されました。
 いつの間にか希望を語りづらくなった時代と言われますが、ともすれば地球規模課題に無力感を感じてしまう教師および生徒が、自分たちのライフスタイルや衣食住に関するアクションを通して共に変容を遂げていることの意義は決して少なくないと言えましょう。

世界中の気候アクションに関するビデオが紹介されているプラットフォーム
出典:Global Teaching Insights(OECD)ホームページ

【参考文献・URL】
UNESCO(2021)Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education.