校務と教務の情報化が一体となる時代へ

電子機器の消耗

 平成22年度に始まった総務省のフューチャースクール推進事業(※1)の実証校の一つで、今も当時と変わらぬICT環境の中、継続的に実践をすすめているある小学校では、当時配備された電子黒板や一人一台情報端末に、ある現象が起き始めている。
 全教室に配備されている電子黒板のうちの数台が、ある日パタッと電源が入らなくなったという。情報端末においても、バッテリー機能の低下や交換も多く発生している。確かに、電子機器にまつわる寿命という“必ず起こりうる問題”が、ICTの先進的な学校現場では起きている。部品の交換、修理などが相次いでいるとのこと。ただし、教員が困っているのは、この動かないという現実よりも、使い慣れている電子黒板での授業イメージや指導計画が出来上がっていて、今さら、従来の黒板だけでは成り立たないと頭を抱えているのである。このことからもICTの実践が定着していることが伺える。とはいえ、平成22年度に開始して5~6年が経過している中、教室という環境は、子供たちが電子機器の周辺を元気いっぱいに生活するし、黒板のチョークなどの埃や塵の影響もあるなど、通常の電化製品よりも消耗が早いのが現実だ。事業予算が無くなった現在、学校側も少ない予算を工面して修理・交換を進めている。こういった問題に共感する実践校も少なくないだろう。

ICT環境と格差

 一方、「教育の情報化」政策が推進されている中、ICT環境整備の内容には、校務用や教育用コンピュータ、校内LAN、校務支援システム、電子黒板などがあり、全国の導入状況の実態では地域格差が生じているのも現実である。このことは前号(Vol.22)で述べた。このICT環境整備は、地方財政措置によるところが大きく、一部の整備だけが進むなど、地域においても、全国的にみても一律の動きがとれていない。学校教材や教科書を中心とした学習材は、学習指導要領をもとに内容を検討し編集され一定の基準を保って全国に供給されている。ICT環境も、いずれの地域や学校で整備が均一にされてこそ、本来の効率化にもつながるというものだろう。

「職員室」と「教室」という関係

 これからの「教育の情報化」を左右するのは、ICT環境整備内容で言われるところの校務支援と教務(授業)支援の二つの領域の一体化ではないだろうか。ICTと言われる以前のアナログの頃から、校務では名簿管理などの手書きによる作業であったり、教材は紙媒体による一方向の活用という別々の扱い方で進んできた。つまり、職員室と教室という別々のフィールドがあり、この二つはそれぞれの領域で業務が行われてきたということだ。校務と教務は一体化できないのだろうか。そもそも、学校における業務は、そのすべてを校務と呼ぶものではないのだろうか。
 実はこの二つの一体化は、ICT環境が推進される中において、俄然注目される。共にデータがデジタル化されることで、あらゆる面で情報が共有化され、再利用再確認ができるなどの効果が発揮される。たとえば、学習記録データに評価の記録が加わって、校務の情報管理につながっていく。
 職員室というフィールドは言わば校務である。教員の業務効率や、情報共有を含めた有効活用の向上を図る校務支援の整備が課題に挙がっている。教室というフィールドは教務である。授業のさまざまな学習スタイルに合わせた各種情報端末や校内LAN、インターネット回線などのインフラやハード面の整備と、教員の指導や児童生徒の学習に活用するデジタル教材などソフト面の整備という課題がある。これらは、双方がリンクし合うことで効果が表れることは、一目瞭然である。これこそ、これからのリアル教育の情報化だ。
 逆に言うと、どちらかの整備が遅れると、せっかくの情報化も効果が低くなるとも言える。ただし、環境は整備しても、実際にそれを使う人が使いこなせるかということも、現実問題として挙げられているようだ。そのために、文部科学省では、教員のICT活用・指導力の向上についても長年継続して推進している。
企業における情報活用については、申すまでもなく研究・開発、営業・販売、総務・経理に至るすべての部門で当然の環境として成立し、そのシステム管理や情報セキュリティ面など、常に最新の環境に対応している。
 同様に考えるならば、職員室も、教室も、そこに在籍する教員をはじめとした全職員と、学習者である児童生徒が存在する一つの「学校」という組織である。ある一面の整備ということでは、中途半端だと言わざるを得ない。
 校務支援で求められるのは、名簿や出席管理、成績処理に始まり、指導要録などの情報管理全般のデジタル化である。いまだに手書きによる作業も残されているという。これらは、日々教室で行われている教員の指導や、学習者の学びが履歴として接点を持ち、さらには評価資料となりこれらのデータがつながりあい、一つのサイクルとして管理運営が実現できる。今後の次期学習指導要領の論点にもなっている、充実したカリキュラムマネジメントへの活用の上でも不可欠なことだろう。
 この校務支援と授業支援という領域が互いに整備されてきた経緯を、今こそ見直して検討すべき時にきたのではないだろうか。

データ活用の時代

 よく言われる話ではあるが、「教材は整備したが電子黒板がない」。その逆で、「ネットワークは整備できたが、そこで扱うソフトウエアが無い」ということでは、鶏が先か卵が先か、である。校内LANなどのネットワークにおいても、校務、教務で使用する端末や回線が違うというし、緊急連絡などの校内放送の回線がさらに別に存在していて、既存のネットワークと新たに開設する回線との混在などを整理されることが望まれる。ひとつの認証で情報活用できる時代である。もっと言うと、スマートフォンなどのモバイル端末一つで、すべてを管理することができても不思議ではない時代である。
 授業で蓄積された学習データや評価データは、児童生徒の一年間であり、過去数年間の学びを振り返る資料として、また、指導者が自らの指導形態の見直しや、指導計画の立案に貢献し、さらに教員の異動、担任替えでのデータ共有など、多くの面で有効的なのは言うまでもない。データ化されることで活用の幅は広がるのだ。その意味において学校は、多くの個人情報があることも注意すべき点だ。情報セキュリティについても一律で整備することが大きな課題であろう。
 ある報道によれば、教員の平均労働時間は13時間だという(※2)。確かに、授業だけではなく、放課後と言われる時間帯の生徒指導、部活動なども含めて業務にかかる教員の労働体制に、前述したようなICT整備を成し遂げることで教員の負担が減ることが本来の効率化だと言えよう。一部だけのデジタル化を推進していたのでは、いつになっても本来の効率化は実現されない。

 2020年(平成32年)告示と言われている新しい学習指導要領が、いま策定へ向けて着々と協議・検討が進められている。「チーム学校」の推進による効果的・効率的な教育力の向上へ向けて、校務・教務が一体化された整備がその一躍を担い、大きな成果を上げることと思われる。かくしてその実態は、校務・教務の“データ活用”という、教育の情報化の新しい局面が始まる一年になりそうな気がしてならない。

(山口 亮)

 

※1:総務省フューチャースクール推進事業(総務省Webサイトより)
※2:「教職員の働き方・労働時間の実態に関する調査」(連合総合生活開発研究所“連合総研”)より

学校教育の情報化、実際のところ、これからどうなる!?

 先日、九州のある地方都市のICT公開授業へ出かけた。移動中に利用した地元の鉄道には学校帰りの高校生が大変多く乗っていたが、ほぼ全員が携帯端末を片手に、音楽やゲーム、ネット検索などをしていた。非常に小さな街でも、都心部とまったく変わらない光景がそこにある。むしろ情報収集や娯楽も、ネット社会の充実で日本各地どこでも同じことなのだろうと実感した。

教育の情報化

 さて、学校における教育の情報化の現状はどうなのか。私たちの生活に駆け足で浸透してくるITの波が、学校現場でも同じように進んでいるのだろうか。
 政府においては、世界最先端IT国家創造宣言、第二期教育振興基本計画、教育再生実行会議などいずれも閣議決定され、その内容には、教育の情報化の推進に関する記述が随所に盛り込まれている。目立つのは、一人一台情報端末配備、電子黒板や無線LANの整備、デジタル教科書・教材の活用、情報活用能力の向上などといったキーワードだ。
 平成22年度に文部科学省では「教育の情報化ビジョン」が策定され、(1)子供たちの情報活用能力の育成、(2)教科指導における情報通信技術の活用、(3)校務の情報化の3つの軸による方向性が示された。具体的な普及状況は、文部科学省が毎年「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」を実施し公表している。
 これら方向性においても、整備状況の実態においても、全国的に普及していることは確かではあるが、児童生徒向けとされる教育用コンピュータや、教校務用コンピュータ、普通教室の校内LAN、あるいは電子黒板などその整備率については、それぞれで差があり、全国の自治体別でみると、整備状況に地域格差が生じていることは否めない。

デジタル教科書の議論

 3つの軸の中でも、「(2)教科指導における情報通信技術の活用」に含まれる、とりわけ「デジタル教科書」という学校教材についてスポットを当ててみたい。
 昨今、教科書のデジタル化で課題と言われているのは、電子書籍のように、情報端末の画面に教科書の紙面がそのまま表示されている方がよいのかが議論の一つにあると思っている。電子化されれば、印刷物では実現できないことが期待されるわけで、たとえば学習効果や機能性、通信を利用した効果、学習記録・履歴による分析や活用など、さまざまな意見が出ている。その時々の技術の進捗にともなって、こうした電子書籍のレベルを超えるような期待が高まることは、何らおかしなことではないだろう。すでに一般社会では、PCの進化にともない、インターネット利用もPC中心だったのが、携帯電話や、スマートフォン、タブレットなどの個人の情報端末にシフトされ、次々に登場する最新機器や技術が、ごく自然に生活に溶け込んでいるのが現実だ。
 そもそも、学校教材のデジタル化は、だいぶ前から始まっていた。それは、マルチメディア教材と呼ばれCD-ROM媒体で提供していた時代からで、すでに15年、いや20年くらい前にさかのぼる。当時の学校現場における技術環境に配慮して開発された教材が次々に発売され、活用されてきた。視聴覚教室だった特別教室が、コンピュータ室という名に変わりつつあった頃だ。

指導者用デジタル教科書という教材

 文部科学省では、前述の「教育の情報化ビジョン」を契機に、21世紀にふさわしい学び・学校というテーマで、本格的な協議や、先行検証が進められている。そこには、ICT環境の普及にしたがって、学校教材の一つとして「指導者用デジタル教科書」の登場したことを書きとどめたい。この教材は、教科書発行会社が教科書に準拠した補完教材として、教科書改訂期に合わせて発売してきた。すでに学校現場への導入も進み、39.4%の導入率が出ている。(H27.3.1現在、全国平均値)
 「指導者用デジタル教科書」の普及の背景には、平成21年度補正予算におけるスクールニューディール政策の中の、学校ICT環境整備や、テレビの地上波デジタル放送化への移行がきっかけで、電子黒板や大型モニターなどの提示用機器が大きく普及・整備されたことが大きい。提示機器の普及に応じて「指導者用デジタル教科書」という教材のニーズが高まったのだ。従来の教材とは違い、教科書そのものが収録されていて提示機器に大きく教科書紙面が映し出され、それを拡大できるという新鮮さがあった。さらに、ペンツールによる書き込み機能とともに、内容に応じた動画・音声などの補足資料となるコンテンツが多く盛り込まれるなど、収録数も多くなり、搭載された機能も含めてそのボリューム感が今後の議論になるであろうことも記しておきたい。

 総務省の「フューチャースクール実証事業」(平成22年度~24年度)や、文部科学省の「学びのイノベーション事業」(平成23年度~25年度)といった、全国の小中学校の実証校を設定して行われた実証研究は、ICT機器を整備し、通信インフラ面と、教材開発・指導開発という両面が関連付けられた大きな取り組みであった。
 特に「学びのイノベーション事業」では、「学習者用デジタル教科書」の開発と実証研究が行われた。ただ、これが授業の中でどのように使われるべきなのか、学校も教師も初めて、開発する側も初めて、想定される学習シーンも従来にはない、などといった状況での議論・協議の真っ只中で、事業期間である第一ステージを終えたといってもよい。実証校のさまざまな環境、教師や児童生徒の実情があった上での検証として、取り組んでみて初めて生まれた課題も多かったはずだ。さらにこの事業により、指導者の視点ではなく、学習者である児童生徒との直接的な関係がクローズアップされる意味でも、新しいスタイルのデジタル教科書が注目され始める。
 事業開始が平成23年度と、すでに5年も前のこと。技術環境は、今よりも当然古い。技術の進歩により、今となっては容易なことでも、当時は実現するのが難しいことも多かった。デジタル教科書を含めた情報化実証研究そのものに対する教育現場への認知度、理解度も広まってきたと思われる。
 そもそも、学校や、教師、児童生徒らには、(ここではあえて言うが)印刷物の教科書があるのにも関わらず、どんな「学習者用デジタル教科書」があると良いのかを、開発者の一員としてよく議論したものである。その結論も出ないまま、作りながらの検証であった。利用者が学習者であったとしても、指導する教師がどのように提示して、子供たちに活用させていくのか、試行錯誤の事業期間であった。利用者も作る方も初めてづくしの中、まだまだ検証が足りない部分もあった。まして、対象の学習者は小学生から中学生の9年間と幅広く、子供の成長著しい期間に利用できるデジタルならではの教材とはどうあるべきか、その議論が満たされているとは言い難い。

検討会議の動き

 今年、ついに文部科学省では「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」が始まった。この会議の運営が初等中等教育局教科書課という教科書管轄の本丸なだけに、周囲の注目度も高い。5月に第1回会議がスタートし、つい先日は第6回目の会議が実施された。この6回までは関係団体らのヒアリングを実施し、検討会議の委員らは、1月以降論点整理へと進め、夏ごろには中間まとめをするという。
 教科書は、学校教育法において文部科学大臣の検定を経た教科用図書として法令化されている。現在、デジタル教科書と言われるものは教科用図書ではない。この会議では、あるゆる面において、従来の教科書と同等とするのかどうかの意見をまとめる会議とのことだ。おそらく結論は、提言なり答申なり、ある結論めいた方向へ進むことだろうし、関連する法案改正への手続きなど準備が進められることだろう。
 デジタル教科書が教科用図書に位置付けられると、現在の教科書のように、全国津々浦々の児童生徒が分け隔てなく使用できることが大前提となる。ということは、誰でも使えることが想定された内容や機能、入手方法、さらに、印刷物の教科書と同様の検定基準をどうとらえるのかなど、課題山積である。はたして、どう収束していくか。この動きを見守りたい。
 教育の情報化の推進には、通信・機器・教材や指導方法などが一体となった動きであって、デジタル教科書だけが一つの動きではないということも当然のことだ。
 新しい年を迎え、これからの学校教育の情報化は、どんな進化をしていくのだろう。

(山口 亮)

RICSにおけるアダプティブラーニング(適応学習)の実現と工夫

立命館守山中学校高等学校の取り組み

 一人ひとりに最適化した学習コンテンツを提供する、アダプティブラーニング(適応学習)が注目され始めています。アダプティブラーニングとは、各生徒の学習進行度に合わせて、適切な問題を適切な方法、タイミングで提供する教育手法のことです。
 電通国際情報サービスの研究開発部門であるオープンイノベーションラボでは、2011年度からICTが教育にもたらすイノベーションの可能性を模索し、研究してきました。中でも、アダプティブラーニングとSNSの併用による学習環境向上に着目し、プロトタイプ作成と実証実験を重ねています。その実践的な取り組みとして、2014年度から、立命館守山中学校高等学校と共にRICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)の開発に取り組み、現在もご利用いただいています。
 RICSは、各生徒の知識レベルに応じた効率的な学習を可能にするアダプティブラーニング機能と、ネオデジタル世代に影響を与える、SNSによるリアルな教師・友人との学び合いの環境を提供するシステムです。RICSには複数の教材会社から提供された問題が登録されており、生徒自身が自学自習用の問題として活用するのはもちろん、教師から生徒へ、授業中の課題、宿題用として、問題を一斉・個別に配布することが出来るようになっています。

アダプティブラーニングとSNSによる学び合い

 試験範囲を復習しようと問題集を開いたものの、1問目から順に解くのは簡単すぎてつまらない。いきなり最後のページを開くと難しすぎてわからない。誰か今の自分にぴったりの問題を教えてほしい―そんな経験は誰にでもあることと思います。それを実現するのがRICSのアダプティブラーニングです。
 知識レベルに応じたアダプティブラーニングでは、生徒一人ひとりの習熟度にあわせて、「学力・理解度」と「学ぶ対象」をシステム上で紐付ける必要があります。RICSでは、生徒の解答状況ログから予想される理解度と、RICSに登録された全問題の内容や難易度を、独自のアルゴリズムで紐付けて、「RICSからのおすすめ」として提示しています。「数学は基本的に得意だけど図形だけは苦手」といった、気がつきにくい単元ごとの得意・不得意にも対応しており、各生徒へのきめ細やか自学自習サポートを実現しています。

 アダプティブラーニングのような効率的な学習教材が用意されていても、ひとりきりで黙々と学習を続けるのは大人でも難しいものです。そこで、RICSでは継続的な学習を支援するための工夫をしています。
前号(Vol.20)でも紹介した学習マップは、生徒のモチベーションアップのための仕組みを盛り込んだ機能です。
 学校では机を並べて勉強している生徒たちも、家ではひとりです。学習マップには、難易度などの問題情報のほか、各問題につけられたコメントや、誰が解答したかなどがわかるSNS機能があります。学習マップを通して、家でも他の生徒の状況がわかることで、「解答前にコメントを読むとどんな問題かわかって良い」「難しい問題を友達が解いているから自分もチャレンジしてみようと思う」と互いに刺激を与え合っているようです。
 また、アダプティブラーニングを提供開始したところ、「勉強がどれくらい進んだのかがわからなくて不安」という声があがりました。そこで、単元ごとに、どれくらい学習が進んだのかを色分けで表示して、ひと目でわかる画面をつくりました。進捗率によって赤、黄色、緑と信号のように変わっていき、単元をマスターしたら金メダルになります。この金メダルが特に好評で、「早く金メダルにしたい」「金色で埋めつくしたい!」と学習を進めるモチベーションになっているようです。

単元をマスターしたら金メダルになる学習マップ

問題ごとにコメントや解答した人がわかるSNS機能

RICS利用ログの分析・活用と今後

 RICSの機能は、アダプティブラーニングによる効率的な学習と、SNSによる学び合いの併用による学習環境の向上という仮説を立てて開発し、運用しています。今後は、蓄積された膨大な利用ログを分析して、各機能の有効性を検証するほか、生徒の学習傾向を把握・分析して学習指導に役立てていくこともできるのではないかと考えています。
 アダプティブラーニングで効率よく知識を身につけ、知識を活用し、グローバル人材として必要とされる課題解決力をアクティブ・ラーニングで習得する、そんな教育・学習スタイルがこれからのスタンダードになるのではないでしょうか。より短期間で深い知識を習得できるよう、さまざまな教材会社や学年、さらには教科や校種の垣根を超えて、生徒一人ひとりの学びに最適な一問を提示できるようなシステムの構築を目指していきたいと考えています。
 オープンイノベーションラボでは、RICSを通じてICTを活用した教育の可能性を検証するべく、立命館守山中学校高等学校と共に2016年度も継続してRICSを運用していく予定です。

 

河野 碧(こうの みどり)
株式会社 電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ所属。
2015年度よりRICS開発プロジェクトに参加、検証およびUIデザインに従事。保護者用スマートフォン向け画面や学習マップのデザインを手掛ける。

RICSの取り組み紹介ico_link

グローバル人材とアクティブ・ラーニング

1.大学が求めるグローバル人材と連携して(附属校の特色を生かして)

 文部科学省は、平成26年12月22日に発表した中央教育審議会答申において、2020年度より実施される新しい大学入試のあり方について指針を示した。
 この答申においてこれからの時代の大学入試では、従来型の知識の再生を一点刻みで問う選抜方法ではなく、各大学で策定したアドミッションポリシーに基づく、「小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書」などの多元的な評価尺度が必要であるとしている。
 今後のグローバル社会で活躍するには、単に知識を有するだけではなく協働して課題にチャレンジし解決することのできる能力が求められるためである。
 筆者が勤務する立命館守山中学校高等学校は90%以上の生徒が立命館大学へ進学する附属校であり、立命館大学がめざすグローバル人材の育成という視点に基づいた資質・能力を育成する使命を有する。児童・生徒がいかに協働して能動的に学修し、どのような「結果」を出したかが求められ、アクティブ・ラーニングは、そのための学習方法におけるキーワードである。
 筆者らは、アクティブ・ラーニングとは、現行の学習指導要領で重視されている「言語活動」を、ICT活用によってさらに主体的・協働的にそのよさを促進するものであるととらえ、次の教育課程(社会に開かれた教育課程)を視野に入れて新しい「習得」の学習方法について模索してきた。そのひとつが2014年度より始めたRICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)と名付けた新しいシステムである。

2.能動的な自学自習のための学習プラットホーム、RICSについて

(画像1)ログイン画面

 本校では、2014年度より一人1台のiPadを持ち(BYOD=Bring your own device) 、学習ツールとしての活用を開始した。その中で、アクティブ・ラーニングにつながる学習ツールとしてRICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)と名付けた独自のシステムを使用している。
 RICSは、ISID(電通国際情報サービス)とともに開発をすすめているデジタル問題集である。デジタル問題集や学習のためのソフトウェアは多く市販されているが、学習者が「飽きてしまう」ということが一つの課題となっている。
 RICSでは、その対策として、生徒が興味を持って能動的に取り組めるように「学習マップ」機能を有している(画像2)。RICS内の課題をタイル状に一覧で示し、生徒各自が取り組んだ量ごとに色別表示される。またその課題に取り組んだ人数なども表示される。生徒は、多くのタイルを、100%達成を示す金色にするべく努力している。この学習マップのタイルの色を変えていくことが生徒にとって嬉しいようで、それも積極的に取り組む要因のひとつになっている。
 生徒は、授業の中で問題を解く場面でもRICSを用いており、とくに英語科では「RICSすごろく」と銘打ち、保護者にも見てもらいながらRICS内の課題を通して生徒の復習に活用している。
また、学校から与えられた課題以外でも、生徒が学校以外の時間に自主的に行う自宅学習においてRICSを使用している。その際、有効なのがピアラーニングのためのSNS機能であり、問題単位で生徒及び教師がコメントを書き込むことができる仕組みとなっている。これにより、教師と生徒、あるいは生徒同士が学習コンテンツを介して繋がることができ、「誰が課題を解けたのか」「何人が取り組んだのか」「どの課題を誰が評価・推奨しているか」といった情報が見え、また分からない部分を、教師や他の生徒に質問・相談しながら取り組むことも可能となっている。
 ネット環境の充実によりいつどこにいてもリアルタイムで友人たちと繋がっていることが当然という意識を持っているデジタルネイティブ世代の生徒たちは、この機能をうまく活用している(画像3)。
 「ネット上において、広告の99%はスルーするが、友人からのすすめは90%信用する」とされるデジタルネイティブ世代の生徒たちにとって、友人からの推奨問題は、問題選択のひとつの指針となるようである。今後、このようなネット上における協働作業を活用したアクティブ・ラーニングという手法も、広がっていくのではないだろうか。
 RICSは、SNS機能の他にアクティブ・ラーニングにつながるもう一つの機能として、生徒一人ひとりの能力や学習進捗状況に応じて、適した課題が自動的に提案されるアダプティブラーニング(適応学習)機能を有している。その詳細については、次号で紹介する。

(画像2)学習マップ画面

(画像3)RICS内での協働学習・学びあい

 

木村 慶太(きむら けいた)
立命館守山中学校技術科教諭。奈良県の公立中学校に22年間勤務後、現任校に赴任して8年目。前任校にいたときから、国際理解教育と教科教育を関連づけた実践を行ってきた。その中には、ICTを活用したものも多い。10年間にわたり現在も、国立民族学博物館館外研究員としてその実践研究を継続している。
博物館との連携による国際理解教育の実践は、「第5回ちゅうでん教育大賞」を、また現任校におけるICTを活用した国際理解教育は、「第1回ICT夢コンテスト奨励賞」を受賞している。
立命館守山へのタブレット導入、及び新システムRICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)の導入に貢献した。

デジタルネイティブ世代とアクティブ・ラーニング(その2)

1.アクティブ・ラーニングで求められる倫理的、社会的能力の育成

 2015年8月26日教育課程企画特別部会は論点整理を行い、次期改訂の視点として、「子供たちが『何を知っているか』だけではなく、『知っていることを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか』ということであり、知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力や人間性など情意・態度等に関わるものの全てを、いかに総合的に育んでいくかということである」として、新しい学習指導要領におけるアクティブ・ラーニングの重要性を改めて示した。
 またアクティブ・ラーニング(課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学び)については、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等が列記されており、実践者の自由なアイデアを求めている。アクティブ・ラーニングの指導方法を一定の型にはめることで、教育の質の改善のための取組が、狭い意味での授業の方法や技術の改善に終始するのではないかといった懸念からである。
 ここで改めて文部科学省が示したアクティブ・ラーニングの定義について確認すると、「学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」とある。案外見過ごしがちであるが、倫理的、社会的能力育成の視点が、アクティブ・ラーニングによって教育の質そのものを改善していこうとする趣旨からすると最も重要な観点ととらえたい。

2.ネオ・デジタルネイティブの特性を生かしたアクティブ・ラーニングの実践

 そこで保育士、幼稚園、小学校教員をめざす学生を対象としたアクティブ・ラーニングの実践について報告する。アクティブ・ラーニングは、能動的な学びが基本であるため学生が取り組む意義を実感できる学習の状況の設定が何より重要である。さらに倫理的、社会的な能力に留意するとなると、学習者のよさを生かすことが基本となる。ネオ・デジタルネイティブ世代である大学生は、映像の目利きであり、iPad等のタブレット端末を使いこなしている。何より大学で幼児教育、教育におけるデジタルの可能性について最新の知識と技能を学んでいる。そこでその活動そのものを、教員研修の一環とするという発想で臨んだ。結果、子どもたち、先生方、学生のみんなが学び合える場となった。
 授業名は、「マルチメディア教材論」で履修学生は3年生60名。幼児教育におけるデジタルの可能性を、iPadを活用する実演を通して提案する。それに対して各グループ(学生は1班3~4人)についた幼稚園の先生方から個別に指導を受けるという流れである。学生は、自作のプログラミンによるオープニング、iPad用デジタル導入教材、保育アプリの活用、活動の振り返りムービーの作成実演など30分間の実演を行った。その様子は同日のNHK首都圏ネットワークや各種メディアにも採りあげられ学生にも大きな自信となった。実演は、幼稚園の先生方にとっては教員研修の一環である。学生にとっては、自分たちも研修の講師であるというプライドが、倫理的な取り組み姿勢を促進した。「自分は高校の時強いクラブに所属していましたが、幼稚園での実演当日は準備して自信をもって試合に臨んだ時のような気持ちの高まりがありました」との学生の自己評価が印象的であった。目指す人物像、教師像の視点から発想し、それにふさわしい資質・能力を要求しても人材は育たない。自分たちでもそこそこできるんじゃないか、自分たちも新しい教育をつくれるかも、という手ごたえを実感できる場を提供したい。ネオ・デジタルネイティブとアクティブ・ラーニングの接点をひとつ発見した気持ちである。

越谷ICT授業づくり研究会(文教大学)

幼稚園ミニ実演(越谷市私立まつざわ幼稚園)

地元の先生方との勉強会や幼稚園でのミニ実演で新しく作ったデジタル教材のクオリティを高めます。

子どもたち、先生方、学生のみんなが学び合える場となったiPad実演(集合写真:越谷市私立大袋幼稚園)

 

今田 晃一(いまだ こういち)
文教大学 教育学部 教授 (兼)文教大学教育研究所所長
1959年生まれ。神戸大学大学院教育学研究科修士課程修了後、大阪府公立中学校教諭(技術科)、大阪教育大学教育学部附属池田中学校教諭、大阪府教育委員会指導主事を経て、2002年度より文教大学教育学部心理教育課程に着任。専門は、教育方法、教育工学、授業づくり(学術博士:神戸大学)。文部科学省ICT活用教育アドバイザー。平成9年度松下視聴覚教育研究賞文部大臣賞受賞。文部科学省検定教科書著者(技術科・情報科)。

デジタルネイティブ世代とアクティブ・ラーニング(その1)

1.デジタルネイティブ世代の特徴

 デジタルネイティブ世代。学生時代からインターネットやパソコンなどのデジタル環境が当たり前のものとして存在し、特別に意識することなくデジタル機器を自身の手足のように自在に使いこなしている人々のことをデジタルネイティブと呼ぶ。日本ではおおよそ1976年前後からの世代が該当するとされている。
 橋元良明氏(東京大学教授、社会心理学者)は、電通との大規模な共同研究をもとに、デジタルネイティブを76世代(1976年前後に生まれた若者)、86世代、96世代と大きく3つに分類し、その特性を示した(『ネオ・デジタルネイティブの誕生』ダイヤモンド社,2010)。参考までに、下記に橋本氏による各世代の特徴を簡潔に記す。
 76世代は、パソコンによるインターネットリテラシーが高く、パソコンをベースとして情報を縦横無尽に収集し、コミュニケーション活動を行う。自分の価値観、信念を重視し、他人や情報に影響されず自分らしい生き方をする(自分流)。
 86世代は、携帯によるインターネットリテラシーが高く、携帯をベースとして情報を収集し、コミュニケーション活動を行う。社会との調和、他人との調和を重んじる。自分だけの考えや価値を貫き通すのはカッコ悪いと感じている(調和型)。
 96世代は、ユビキタスにモバイルネットを駆使して動画情報を自在に操る。機械的親和性が高く、感覚主義、快楽原理の傾向がある。言葉より映像、音楽を重視し、映像処理優先脳(朝から晩まで頭の中が動画漬け)に切り替わっている感がある。社会への信頼は高く、つながり志向、私生活中心主義の傾向がある。
 このようにユビキタスな映像処理優先脳を持つ現在20歳前後のネオ・デジタルネイティブ世代の学生が今後確実に増加していくであろうという予兆は、大学教員として日々実感しているところである。

【タブレット端末を使いこなすネオ・デジタルネイティブ世代】

学生のファシリテーター役としての潜在的能力は高い(タブレット端末を媒体として)

動画を駆使したiPad用デジタル教材づくりはお手のものである

2.大学生の生徒化とアクティブ・ラーニング

 先日ゼミの4年生の学生に、4年間で大学の授業をどれぐらい休んだかと聞いたところ、「授業は4年間、全授業、一度も遅刻も休んだこともありません」という回答を得た。この学生のように大学生の皆勤賞はさすがに珍しいが、きちんと授業に出席し、部活やサークルなどの学生同士の人間関係も大切にし、大学生活に満足している学生も少なくない。学生たちの授業への出席率の高さ、真面目さ、従順さをさして、「大学生の生徒化」としてよく教職員間で話題になる。これは今までの文科省がすすめてきた大学改革、各大学の努力の成果でもある。
 一方、読書などの自主的な勉強時間の激減や海外留学などの大学外の様々なダイナミックな体験からの学びが少なくなっていることが課題とされている。
 ただ、これだけ授業に毎時間出席し、日々まじめに課題をこなしている学生に対して、さらに自主的に、ダイナミックに学べというのは酷である。やはり大学の授業の中で、ネオ・デジタルネイティブ世代の特性、よさを生かした魅力的なアクティブ・ラーニングを実践し、見本を示すことが、教員養成系の大学における教員の使命であろう。次号では、筆者の大学におけるアクティブ・ラーニングについて報告する。

 

今田 晃一(いまだ こういち)
文教大学 教育学部 教授 (兼)文教大学教育研究所所長
1959年生まれ。神戸大学大学院教育学研究科修士課程修了後、大阪府公立中学校教諭(技術科)、大阪教育大学教育学部附属池田中学校教諭、大阪府教育委員会指導主事を経て、2002年度より文教大学教育学部心理教育課程に着任。専門は、教育方法、教育工学、授業づくり(学術博士:神戸大学)。文部科学省ICT活用教育アドバイザー。平成9年度松下視聴覚教育研究賞文部大臣賞受賞。文部科学省検定教科書著者(技術科・情報科)。

3年8ヶ月

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 震災後から描き始めている4作目の漫画が完成しました。

 私の思いは、震災後の福島の状況を風化させないことだけにあり、私は福島県人として、この活動を続けていく義務があると思っています。

 2014年11月、写真家の中筋純さんと浪江方面へでかけるチャンスをいただきました。震災後、私は、それらの場所へ行くことができませんでした。今回、実際に目で見て感じたことがたくさんありました。その時の思いや、避難されている方々の思いなどを想像してできたのが、今回の漫画です。避難されている想いは、まだまだ遠い物だと思いますが、心を込めて描きました。福島には、まだまだ帰宅できないところがたくさんあります。いろいろな方に福島に関心を持っていただけると助かります。

 私の漫画は、「福島の真実!」を描いているわけではありません。風化させずに、そして希望のある作品(フィクション)にしようと常に思っています。

 この漫画は、いろいろな方の協力によって製本されております。この場をお借りして感謝申し上げます。

 今回も手に取っていただきありがとうございます。

 また、最後まで読んでいただきありがとうございます。

 そして、また来年お目にかかれたらうれしく思います。

読み物プラスVol.14「奥羽行進曲」
読み物プラスVol.01「NOT YET OVER-あどけない瞳に映るもの-」
学び!トピックス Vol.32「福島の先生が3.11後を漫画に。」

「特別の教科 道徳」の設置と学校が対応する課題

1.道徳の「教科化」の経緯

 平成2年以降、いじめ問題が社会の関心事となる中で、公共の精神や集団生活の向上には欠かせない規範意識の希薄化した事象が数多く指摘されてきた。そうした社会状況の下で、まず改正教育基本法(平成18年12月22日)が成立し、「教育の目的は人格の完成を目指す点にあること」を従前の教育基本法でいう「人格(個人的人格、社会的人格、職業的人格)の陶冶にある」と確認した。これを受けて教育再生実行会議第一次提言(平成25年2月26日)が出され、道徳の「教科化」が示されたことを端緒として、道徳教育の充実に関する懇談会報告(平成25年12月26日)、続いて中央教育審議会初等中等教育分科会が「道徳教育専門部会審議のまとめ」(平成26年9月19日)を公表し、中央教育審議会答申(平成26年10月21日)を経て「特別の教科 道徳」となる。さらに一気呵成に中学校学習指導要領の一部改正(平成27年3月27日)が告示され、現行学習指導要領との対照が明らかになると、学校関係者の一部からは「なぜ、道徳が、特別の教科になるのか」といった声が聞かれるようになる。その不安を深読みすると、特別活動や総合的な学習の時間と同じ領域の扱いでよいとの懸念である。それは昭和33年に「第3章 道徳」が創設されて以降、今日に至る間も「第1章 総則 道徳」との線引きが不透明なことに遠因があると推察できる。加えて、中学校における「特別の教科 道徳」は移行措置を経て、平成31年4月、「道徳科」の授業開始となるスケジュールが策定されている。

2.なぜ、教科なのか

 「なぜ、教科なのか」である。それは中学校学習指導要領にみる「第2章 各教科」(各教科を担当するには教科担任制を敷く中学校にあっては教科免許が必要)ではなく、学級担任を中心としながらも学級担任が責任をもって学習指導できるように「特別の教科」として位置づけ、人格の完成を目指すために必要な道徳的諸価値を真正面から取り上げて、道徳授業をきちんと指導できるようにしたためである。道徳教育は、学校教育全体を通じて、生徒の心身の発達段階や社会とのかかわりの広がりなどの実態と指導上の諸課題を踏まえながら、道徳性(人間としてのよさ)を養うことを目標としている。
 そのため、道徳教育における指導内容について、今後は小・中・高等学校の各段階に共通する内容の連続性を重視し、「生徒の自立心や自律性」「生命を尊重する態度の育成に必要な基本的な生活習慣」「規範意識」「公平公正」「自然愛護」などの人間関係を築く力や「協力協調」といった社会参画への意欲や態度、「伝統や文化」を尊重する態度を意図的・計画的に身につけさせていく問題解決的な学習の指導としてのアクティブ・ラーニング(*)が大切になるであろう。

*アクティブ・ラーニング
 教員による講義形式の授業ではなく、生徒自らの思考で明日を生きるために必要な問題や課題を発見し、その解決に必要な手段や方法を考え、実践する中で検討を加え、成果として発表することで、論理的な思考力や課題設定力・問題解決力を「学修」させていく指導法である。
 国際教員指導環境調査(TALIS・平成25年)結果においても「日本の教員は生徒の多様な学びの必要性を認識しているが、多様な実践は国際的にみて低い」と指摘している。

3.道徳性の育成

 学校教育全体で取り組む道徳教育の要(かなめ)としての「特別の教科 道徳」では、各教育活動で行われる学習指導が、学校の教育活動全体に波及し、生きて働くようにしなければならない。すなわち、「今日よりも明日に向けてよくなろうとする態度(道徳的実践力)」の育成が道徳授業の目標なのである。それは健全な自尊感情をもって主体的・自律的に生きようとする中で、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を発揮し、また、集団や社会の一員として、その発展に貢献しようとする傾向性のことでもある。
 改正教育基本法の趣旨を踏まえた平成20年7月の中学校学習指導要領の改訂では、変化の激しい社会にあっても他の人と協調しながら自律的に社会生活を送る上で必要な「『生きる力』としての実践的な力(正義感、寛容、自己抑制力)」や、美しいものや自然に感動する心などの「柔らかで豊かな人間性」の育成を図るのが人格の完成を目指す「心の教育」であり、その基盤を養うことが道徳教育であるとしている。
 次代を担う生徒達が自ら学ぶ意欲をもち、未来への夢や目標を抱き、自らを律しつつ、自己責任を果たし、自己の利益だけでなく社会や公共のために自分は何をなしうるかを考え実践する、道徳性を育むことが道徳教育の方向なのである。

4.実践的活動を教材とする「道徳科」授業

 総合的な学習の時間の創設以降、中学校での実践的活動の内容は身近な人権問題、福祉問題から、教育、文化、スポーツ、環境、保健医療、国際交流・協力、情報化、平和の促進、地域振興に至るまで、幅広い活動として理解されるようになった。ここに、未来の実践的活動の主役となる生徒への支援が欠かせない、道徳教育の役割がある。しかし、学校は社会貢献に向けての発想を豊かにする情報発信と道徳授業を以下に留意し推進する必要があると考える。実践的活動は、今からできることを探す学習であるため、「人、もの、資金」が「いない、足りない」ために「できない、検討中である」では不可である。最初は地味でも続けて行うことで輝いてくるのが実践的活動であり、できることから実行してみることが大切なのである。活動しながらその途中で、生徒が自らの行為を視野狭窄から客観視へと変化できるように、「道徳科」授業での多様な指導法を積極的に導入していくのである。「資料を読み、感想を発表させ、教師が説話する」だけで実践的活動をまとめれば、負の効果を生むことにもなりかねない。だからこそ、社会貢献に向けた実践活動の基盤づくりとしての、道徳授業の指導法の工夫と改善が問われるのである。教師は、「生徒の心に実践的活動の意義にかかわる何を補充・深化・統合したのか」そして「いかに生徒とかかわり授業を推進したのか」といった評価の態度をもって生徒の道徳性を養うのである。

 

→この記事が掲載されている「『特別の教科 道徳』ポイント解説資料」全編は、当サイトの機関誌・教育情報「どうとくのひろば」にて公開中です!

未来に輝く子どもたち

 家族で遠方へ出かけたときにいつも思うことがあります。それは震災から4年が経ち、震災の記憶が薄れていくのだろうと感じています。福島県では、毎日のテレビニュース番組で各地域の放射線量が報道され、仮設の住宅に多くの方が避難生活を送っています。また、本校がある場所は福島第一原子力発電所から30キロにあり、隣接する地域(居住制限区域)の4つの小学校が、本校の校庭に仮設校舎を建て同じ敷地内でともに生活を送っています。そのような中で、子どもたちは後ろを向くことなく、明るく元気に前を向いて一生懸命に頑張っています。
 美術の教員として、子どもたちの感じていることをどのように表現させればいいのか、また、頑張っている姿を保護者や地域の方にどう発信すればよいのかなど、子どもたちや地域の実態を考えて、教材の選定や題材の見直しをしてきました。そのなかで、学校全体として取り組んでいる文化祭にスポットをあてて今年度は取り組みました。
 文化祭は、体育館を会場に様々な発表があります。主に、各学級による合唱コンクールや各学年の総合的な学習の時間の学習成果の発表です。美術科では、授業で制作した作品を校舎内に展示をしますが、それ以外に各学級で文化祭のテーマにあった大きな絵を描いて体育館の壁面に展示するビッグアートコンクールを行います。

 はじめに、文化祭のテーマを生徒会が中心になり、全校生徒から募集します。募集した中から生徒会で話し合いテーマを決定します。今年度のテーマは「挑戦」、サブテーマが「限界の壁を越えるまで」でした。
 つぎに、文化祭テーマをもとに全校生徒で原画を考えました。各学級で互いの原画を見て、テーマにふさわしい原画を選びました。それをもとに各学級の6名の制作係が制作を行いました。

授業内でテーマについて考えて、一人一人が原画を描いた。

 制作は、9月中旬から昼休みの時間や放課後の時間を使いながら行いました。子どもたちに文化祭展示までの制作計画を提示して、各学級の制作委員が互いに制作内容の分担を決めたり、制作手順を確認したりするなど話し合いをしながら進めていきました。

<制作工程>
 ・パネルに、ロール紙をはる。
 ・鉛筆で原画を見ながら下書きする。
 ・ポスターカラーで着色する。

 完成した作品を文化祭前日に体育館へ展示しました。制作委員たちは、自分たちの描いた作品を見て完成させた喜びと達成感に満足していました。また、互いの作品を見て労をねぎらうとともに、同じテーマからのとらえ方の違いや表現方法など、学年の壁を越えて楽しそうに話をしていました。さらに、他の準備をしている生徒たちも足を止めて、絵を見たり、制作委員と制作内容の話している姿がありました。

<左上から1年生、右上が2年生、左下が3年生。各学年4学級の12枚の作品>

 ビッグアートコンクールとしてスタートした企画のため、先生方に審査員になっていただき、文化祭の閉会式前までに審査をしていただきました。どれも力作で先生方も審査に大変苦労されたと聞きました。また、子どもたちが制作をしている段階から、多くの先生方に声をかけていただいたことが励みとなり、今回の力作につながったと感謝しています。
 文化祭には、PTAの方々をはじめ、多くの保護者や地域の方々が来校されていました。少しでも子どもたちが元気に学校生活を送っている姿と成長した姿が伝わればと思いました。
 最後に、震災前からあった文化祭ですが、震災後に再開された文化祭のテーマ「笑顔」「CIRCLE」など、人と人との繋がりや絆をテーマに掲げていましたが、今年度のテーマが大きく変化していることに気づきました。生徒会の子どもたちに、なぜ今年度のテーマが「挑戦」なのか聞いたところ、『今まで様々な方たちに支援や応援をいただいて僕たちは頑張ってこられた。そのお礼の意味を込めて、いろいろなことに挑戦する僕たちの成長した姿を見てほしい』との思いがあったからだそうです。その思いを聞いたときに、言葉に詰まり何も言えず、ただ感動しました。前を向いて頑張ろうとする子どもたちがたくましく思えました。これからも美術教育を通しながら、未来を担う子どもたちを育てていきたいと思います。

奥羽行進曲

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 2014年12月、新作の漫画が製本されてきました。3作目になります。

 私の思いは、震災後の福島の状況を風化させないことだけにあります。残念ながら、震災後の福島の出来事はもう昔のことになりつつあるような感じさえあります。

 しかし、私は福島県人として、この活動を続けていく義務があると思っています。そこで、出会ったのが今回の作品です。原作者は、郡山市を拠点として活動を続けている劇団「ユニット ラビッツ」の座長を務める佐藤茂紀さんによるもので、約20分の演劇を見た時、ラストの絵が頭に浮かんできたのです。彼も志を同じく活動しており、私に漫画を描くきっかけを与えてくれた人です。これからも何度かタッグを組んで取り組んでいこうと思っています。

 福島の真実!ということではなく、風化させずに、そして希望のある作品にしようと私は常に思っています。

 今回の作品も、今までとは違った視点でご覧いただけるのではないかと思います。福島には、まだまだ帰宅できないところがたくさんあります。いろいろな方に福島に関心を持っていただけると助かります。

読み物プラスVol.01「NOT YET OVER-あどけない瞳に映るもの-」
学び!トピックス Vol.32「福島の先生が3.11後を漫画に。」