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効率化とデータ活用 編
【特集】ICT教育 NEXT 06

電子機器の消耗
平成22年度に始まった総務省のフューチャースクール推進事業(※1)の実証校の一つで、今も当時と変わらぬICT環境の中、継続的に実践をすすめているある小学校では、当時配備された電子黒板や一人一台情報端末に、ある現象が起き始めている。
全教室に配備されている電子黒板のうちの数台が、ある日パタッと電源が入らなくなったという。情報端末においても、バッテリー機能の低下や交換も多く発生している。確かに、電子機器にまつわる寿命という“必ず起こりうる問題”が、ICTの先進的な学校現場では起きている。部品の交換、修理などが相次いでいるとのこと。ただし、教員が困っているのは、この動かないという現実よりも、使い慣れている電子黒板での授業イメージや指導計画が出来上がっていて、今さら、従来の黒板だけでは成り立たないと頭を抱えているのである。このことからもICTの実践が定着していることが伺える。とはいえ、平成22年度に開始して5~6年が経過している中、教室という環境は、子供たちが電子機器の周辺を元気いっぱいに生活するし、黒板のチョークなどの埃や塵の影響もあるなど、通常の電化製品よりも消耗が早いのが現実だ。事業予算が無くなった現在、学校側も少ない予算を工面して修理・交換を進めている。こういった問題に共感する実践校も少なくないだろう。
ICT環境と格差
一方、「教育の情報化」政策が推進されている中、ICT環境整備の内容には、校務用や教育用コンピュータ、校内LAN、校務支援システム、電子黒板などがあり、全国の導入状況の実態では地域格差が生じているのも現実である。このことは前号(Vol.22)で述べた。このICT環境整備は、地方財政措置によるところが大きく、一部の整備だけが進むなど、地域においても、全国的にみても一律の動きがとれていない。学校教材や教科書を中心とした学習材は、学習指導要領をもとに内容を検討し編集され一定の基準を保って全国に供給されている。ICT環境も、いずれの地域や学校で整備が均一にされてこそ、本来の効率化にもつながるというものだろう。
「職員室」と「教室」という関係
これからの「教育の情報化」を左右するのは、ICT環境整備内容で言われるところの校務支援と教務(授業)支援の二つの領域の一体化ではないだろうか。ICTと言われる以前のアナログの頃から、校務では名簿管理などの手書きによる作業であったり、教材は紙媒体による一方向の活用という別々の扱い方で進んできた。つまり、職員室と教室という別々のフィールドがあり、この二つはそれぞれの領域で業務が行われてきたということだ。校務と教務は一体化できないのだろうか。そもそも、学校における業務は、そのすべてを校務と呼ぶものではないのだろうか。
実はこの二つの一体化は、ICT環境が推進される中において、俄然注目される。共にデータがデジタル化されることで、あらゆる面で情報が共有化され、再利用再確認ができるなどの効果が発揮される。たとえば、学習記録データに評価の記録が加わって、校務の情報管理につながっていく。
職員室というフィールドは言わば校務である。教員の業務効率や、情報共有を含めた有効活用の向上を図る校務支援の整備が課題に挙がっている。教室というフィールドは教務である。授業のさまざまな学習スタイルに合わせた各種情報端末や校内LAN、インターネット回線などのインフラやハード面の整備と、教員の指導や児童生徒の学習に活用するデジタル教材などソフト面の整備という課題がある。これらは、双方がリンクし合うことで効果が表れることは、一目瞭然である。これこそ、これからのリアル教育の情報化だ。
逆に言うと、どちらかの整備が遅れると、せっかくの情報化も効果が低くなるとも言える。ただし、環境は整備しても、実際にそれを使う人が使いこなせるかということも、現実問題として挙げられているようだ。そのために、文部科学省では、教員のICT活用・指導力の向上についても長年継続して推進している。
企業における情報活用については、申すまでもなく研究・開発、営業・販売、総務・経理に至るすべての部門で当然の環境として成立し、そのシステム管理や情報セキュリティ面など、常に最新の環境に対応している。
同様に考えるならば、職員室も、教室も、そこに在籍する教員をはじめとした全職員と、学習者である児童生徒が存在する一つの「学校」という組織である。ある一面の整備ということでは、中途半端だと言わざるを得ない。
校務支援で求められるのは、名簿や出席管理、成績処理に始まり、指導要録などの情報管理全般のデジタル化である。いまだに手書きによる作業も残されているという。これらは、日々教室で行われている教員の指導や、学習者の学びが履歴として接点を持ち、さらには評価資料となりこれらのデータがつながりあい、一つのサイクルとして管理運営が実現できる。今後の次期学習指導要領の論点にもなっている、充実したカリキュラムマネジメントへの活用の上でも不可欠なことだろう。
この校務支援と授業支援という領域が互いに整備されてきた経緯を、今こそ見直して検討すべき時にきたのではないだろうか。
データ活用の時代
よく言われる話ではあるが、「教材は整備したが電子黒板がない」。その逆で、「ネットワークは整備できたが、そこで扱うソフトウエアが無い」ということでは、鶏が先か卵が先か、である。校内LANなどのネットワークにおいても、校務、教務で使用する端末や回線が違うというし、緊急連絡などの校内放送の回線がさらに別に存在していて、既存のネットワークと新たに開設する回線との混在などを整理されることが望まれる。ひとつの認証で情報活用できる時代である。もっと言うと、スマートフォンなどのモバイル端末一つで、すべてを管理することができても不思議ではない時代である。
授業で蓄積された学習データや評価データは、児童生徒の一年間であり、過去数年間の学びを振り返る資料として、また、指導者が自らの指導形態の見直しや、指導計画の立案に貢献し、さらに教員の異動、担任替えでのデータ共有など、多くの面で有効的なのは言うまでもない。データ化されることで活用の幅は広がるのだ。その意味において学校は、多くの個人情報があることも注意すべき点だ。情報セキュリティについても一律で整備することが大きな課題であろう。
ある報道によれば、教員の平均労働時間は13時間だという(※2)。確かに、授業だけではなく、放課後と言われる時間帯の生徒指導、部活動なども含めて業務にかかる教員の労働体制に、前述したようなICT整備を成し遂げることで教員の負担が減ることが本来の効率化だと言えよう。一部だけのデジタル化を推進していたのでは、いつになっても本来の効率化は実現されない。
2020年(平成32年)告示と言われている新しい学習指導要領が、いま策定へ向けて着々と協議・検討が進められている。「チーム学校」の推進による効果的・効率的な教育力の向上へ向けて、校務・教務が一体化された整備がその一躍を担い、大きな成果を上げることと思われる。かくしてその実態は、校務・教務の“データ活用”という、教育の情報化の新しい局面が始まる一年になりそうな気がしてならない。
(山口 亮)
※1:総務省フューチャースクール推進事業(総務省Webサイトより)
※2:「教職員の働き方・労働時間の実態に関する調査」(連合総合生活開発研究所“連合総研”)より