いつも「高校教科書×美術館」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
このたび「高校教科書×美術館」は、諸般の事情によりNo.078をもって連載を休止することになりました。
楽しみにしてくださっていた皆さま、誠に申し訳ございません。
今後の予定は未定となっておりますが、何か進展がありましたらこちらのページでお知らせいたします。
何卒ご理解いただきますようよろしくお願い申し上げます。
「高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸)」カテゴリーアーカイブ
没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974 色彩の復活
没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974
ポスター 香月泰男美術館は香月泰男が制作した油彩画、素描画、そして廃材を利用して作られた「おもちゃ」と呼ばれるオブジェなど多岐にわたる作品を収蔵、展示している美術館です。今回は約1年をかけて行われる、「没後50年 香月泰男展」より、香月泰男の色彩表現に注目する第三期の展示と、教科書に掲載されている素描《皿の上のリンゴ》ついて、学芸員の丸尾いとさんにお話を伺いました。
第一期の1931~1954年は、香月が画家を目指した東京美術学校時代から、戦争・抑留体験を経て自分のスタイルを模索する時代です。第二期の1955年~1965年は、日本画に使う顔料を油絵具に混ぜる、黒に木炭を混ぜるなど試行錯誤を重ね、独自のマチエールをつかみ、黒い絵に変化した時代を紹介しました。
第三期では、黒い絵に色彩が戻りはじめた1966年から最晩年の1974年までの作品を紹介しています。ワンポイントのように原色を使い描かれたモチーフは、背景の黒とのコントラストでより際立ちます。晩年、毎年のように海外に出かけては、鮮やかな色使いで旅先の風景を描いています。年を追うごとに色彩を封印した黒の世界から解放されたような変化が見どころです。
《一九六九.七.二〇の月星》1969年
今日 “おもちゃ” と呼ばれ、多くの人に親しまれているオブジェを、香月は廃材を利用して制作しました。ひとつひとつのパーツの元は何だったのかを想像しながら見てください。
《花売り娘》1969年
香月の特徴の一つは、墨を使った素描です。背景に墨を引き、そこに水彩やクレヨンを使って描くと、背景の薄暗さが手伝ってモチーフがより鮮やかに見えてきます。また、クレヨンは水分を含んだ墨をはじくため、独特の表現が生まれます。このあたりにも注目して見てください。
《皿の上のリンゴ》1951年
展覧会情報
会期:2024年10月11日(金)~2025年1月13日(月・祝)
会場:香月泰男美術館
公式サイト:https://kazukiyasuo.com/
定休日:火曜日(火曜日が祝日の場合は開館、翌平日休館、年末年始(12/29-1/3))
観覧料:一般:500円(400円) 小中学生:200円(150円) 未就学児:無料
※( )内は20名以上の団体料金
- 令和5年度版「高校生の美術2」p19.
皿の上のリンゴ[鉛筆・画用紙/26.8×38.9cm]
1951 香月泰男美術館蔵
香月泰男[山口県・1911~74]
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
photo Kanemoto Rintaro 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」は、2000年から続く世界最大級の国際芸術祭です。新潟の大地で作家や地域の方々が一緒になって作る芸術祭は、人を魅了し、世界中から多くの人が訪れるそうです。今回は芸術祭スタッフで、作品制作の担当をしている長津さんに、教科書にも掲載している関口光太郎さんの作品をはじめ、芸術祭の注目ポイントについてお話をうかがいました。
関口さんが芸術祭の下見に来られたのは、年末でした。大地の芸術祭の開催地は2~3mも積雪する豪雪地です。雪がふりしきる中、関口さんは「除雪車が格好いいなと思って、気になっているんです」とおっしゃっていました。その言葉をきっかけに、除雪車のオペレーターや、展示会場である奴奈川キャンパスの近くに住む地域の方のもとに訪れました。
「なぜ奴奈川という地名になったのか」と問いかけたところ、地域の方は作品の主題になった「奴奈川姫伝説」のお話を聞かせてくれました。そこから関口さんが考えたテーマは「いやな求婚者から、除雪しながら逃げる奴奈川姫」でした。作家担当者である私自身、芸術祭開催地の越後妻有で生まれ育ったのですが、地域の伝承と雪国の技術が面白く組み合わさるなんて考えもしませんでした。その後、地域の皆さんには制作のお手伝いもしていただき、作品の完成を大変喜んでくださいました。
もう1つ注目ポイントをあげるならば、作品に体験要素が組み込まれていることです。《除雪式奴奈川姫》が展示されている奴奈川キャンパスは、「子ども五感体験美術館」をテーマに作品を展示しており、「木」、「光」、「音」といった要素を体験していただける施設です。その中でも《除雪式奴奈川姫》は、「紙」を体験できる部屋として位置付けられています。本作品は、雪の表現として大量の新聞紙を床に敷き詰めました。来場者はそこに潜ったり、駆け回ったりしながら、新聞紙の「豪雪」を楽しみます。さらに会場内には、関口さんが普段から愛用しているメーカーのガムテープが置かれ、来場者は「新聞紙×ガムテープ」の作品を制作することができます。会場には、奴奈川姫を先導する鹿も一緒に展示されているのですが、それは地元の小中学生約120名と一緒に制作したものです。
関口光太郎《除雪式奴奈川姫》2024年
Photo by Nakamura Osamu
前回の芸術祭は2022年、感染症に細心の注意を払いながら開催しました。その時は準備期間も含めて移動や交流が制限されていましたが、今回はその反動もあってか、地域のあちこちで作家の活発なリサーチが行われました。地域の皆さんはそれに勇気づけられ、張り切って作品のお手伝いや、お客さんのおもてなしをしてくださります。海外からも多くの方が越後妻有を訪れますが「言葉は通じなくても、何を言っているのか分かるんだねえ」と、空き家を改修した作品兼レストランで働くお母さんが教えてくれたのが印象的でした。全国的に進行する高齢化は越後妻有も例外ではありません。芸術祭によって普段よりも多くの方が足を運び、たくさんの地域資源の価値が見直されることで生まれた化学反応は、「地域が元気になる」ということでした。
Photo by Nogawa Kasane
大地の芸術祭は第1回の開幕から4半世紀が経過しますが、今も変わらずたくさんの人の手と、想いによって開催することができています。大地の芸術祭のロゴマークは黄色の逆三角形のかたちで、「自然」、「芸術」、「人」という越後妻有のアートフィールドそのものを表しています。芸術祭にお越しの際には、ロゴマークの意味でもある、作品が、人が、里山が、元気いっぱいに一丸となって皆様をお迎えする様子を存分にお楽しみください。
大地の芸術祭 ロゴマーク
大地の芸術祭の作品の多くは、越後妻有地域(新潟県十日町市・津南町)の壮大な自然環境と、そこで暮らす人々の営みから学びを得て制作されています。トリエンナーレの会期中は地域のあちこちで作家やスタッフが活躍していますので、作品鑑賞はもちろんですが、皆さんだけの体験を通して芸術祭を楽しんでいただきたいと思います。公式サポーター「こへび隊」の活動に参加するのもお勧めです。
地域内での交流を経ると、地域のそこかしこが美しく、作品ではないものまでアートであると思えるようになってきます。
美術館の均質な空間では体験しえない「大地」を味わってみてください。
大地の運動会
Photo by Nakamura Osamu
展覧会情報
会期:2024年7月13日(土)~11月10日(日)
会場:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760㎢
公式サイト:https://www.echigo-tsumari.jp/
定休日:火曜日、水曜日
観覧料:作品鑑賞パスポートや作品ごとの個別鑑賞券などご用意しています。
備考:企画展や作品の特別開館、イベントなど詳細日時は内容によって異なります。
- 令和4年度版「高校生の美術1」p65.
サンダーストーム・チャイルド[新聞・ガムテープ/315×240×470cm]
関口光太郎[群馬県・1983~]
浜口陽三と波多野華涯 ―匂い立つ黒と黒―
浜口陽三と波多野華涯 ―匂い立つ黒と黒―
ポスター ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションは、銅版画家の浜口陽三の作品を主に収蔵・展示する美術館です。夏の企画展「浜口陽三と波多野華涯 ―匂い立つ黒と黒―」では、教科書にも掲載されている、浜口陽三の《西瓜》を見ることができます。作品の魅力や、展覧会の注目ポイントについて、主任学芸員の神林菜穂子さんにお話をうかがいました。
《西瓜》の黒や赤の色彩を、手触りを楽しむように見てください。特に黒い部分、背景はただの暗闇ではなく、静けさや柔らかさを感じさせる、深い黒です。目を凝らして見ると、上から三分の一のところに、もっと濃い帯状の黒があるのが見えてくると思います。これは何でしょう。西瓜を浮かび上がらせるような黒い闇の中には、こまかな光が満ちています。浜口の作品は多くの油絵のように主題や主張があって訴えかけるのではなく、一つの世界を見せていると思ってください。
銅版画の中でも、メゾチントは深みのある表現です。見る人がその世界に入り、自由に感じ取って下さい。浜口の作品を見ている皆様が感じ取れるものは、見えているものだけではありません。静けさや時のとまったような雰囲気など、どこか感覚的なものもあります。そして、黒なのにあたたかみがあり、落ち着けて、穏やかな感覚をもたらします。
メゾチントの表現は繊細すぎるため、印刷ではお伝えしきれない部分もあります。実際の作品に近づいて見ると、彫るためにかけた時間が波長のように体で感じ取れる、そのような作品です。
浜口陽三《西瓜》 1981年 カラーメゾチント 23.3×54.1cm
Watermelon Color Mezzotint
浜口陽三《ういきょう》 1958年 メゾチント 29.3×44.0cm
Fennel Mezzotint
波多野華涯 《蘭竹図屏風》 六曲一双 大正13年/1924年 紙本銀地墨画 各168.0×374.4cm
みやじまの宿 岩惣 所蔵 右隻 蘭図
波多野華涯 《蘭竹図屏風》 六曲一双 大正13年/1924年 紙本銀地墨画 各168.0×374.4cm
みやじまの宿 岩惣 所蔵 左隻 竹図
自分が選んだ作品を、自分だけの感覚や想像力で味わってください。浜口が表現する、静かで落ち着いた時の流れを感じることが出来るでしょう。
浜口陽三 《14のさくらんぼ》 1966年 カラーメゾチント 52.3×24.4cm
Fourteen Cherries Color Mezzotint
展覧会情報
会期:2024年6月11日(火)~8月18日(日)
会場:ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション
公式サイト:https://www.yamasa.com/musee/
休館日:月曜日、(ただし7/15,8/12は開館)、7/16(火)、8/13(火)
開館時間:11:00~17:00(土日祝は10:00~)、最終入館16:30
(ナイトミュージアム)会期中の第1・3金曜日は20:00まで開館、最終入館19:30(6/21,7/5,7/19,8/2,8/16)
観覧料:大人:600円 大学・高校生:400円 中学生以下無料
- 令和5年度版「高校生の美術2」p31.
西瓜[カラーメゾチント/24×55cm]
1981 ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション蔵[東京都]
浜口陽三[和歌山県・1909~2000]
北日本新聞創刊140周年記念 エッシャー 不思議のヒミツ
北日本新聞創刊140周年記念
「エッシャー 不思議のヒミツ」展 ポスター 富山県美術館は国内外有数のコレクションを所有し、アートとデザインを紹介する美術館です。今回は企画展、コレクション展それぞれの見どころや注目作品について、担当の学芸員の方々にお話を伺いました。
「エッシャー 不思議のヒミツ」展において、《描く手》や《昼と夜》はどのように紹介していますか?展覧会の特徴とともに教えてください。
《描く手》は、二次元(平面)で描かれているものが、三次元(立体)のようにみえる面白さがある作品です。紙から手が浮き出てもう一方の手を描くというユニークなアイデアが見どころです。見る人が自然とこの作品世界にひきこまれるように、エッシャーは、画鋲で貼られた何気ない紙や、手が飛び出してきたのを強調するように手の影を濃く描くなど、工夫を凝らしています。エッシャーは独特な視点でありえない風景を表現しています。
《昼と夜》は、オランダの広大な田園地帯を鳥たちが飛んでいる作品です。一つの形が次第に別の形へと変化していく、メタモルフォーゼの技法を駆使し、画面中央を境目に、左側は昼間に飛ぶ黒い鳥、一方右側は夜に飛ぶ白い鳥が描かれています。本作はエッシャーの作品の中でも、代表的な作品の一つです。
《描く手》1948年制作 リトグラフMaurits Collection, Italy
All M.C.Escher works © 2024 The M.C.Escher Company, Baarn, The Netherlands.
All rights reserved mcescher.com
《昼と夜》1938年制作 木版 Maurits Collection, Italy
All M.C.Escher works © 2024 The M.C.Escher Company, Baarn, The Netherlands.
All rights reserved mcescher.com
黄色い下地に、赤、青、グレーなどの絵の具が塗られ、その上から黒いエナメル塗料の線が、網のように画面を覆います。一見、無秩序のように見えますが、エナメル塗料は画面から大きくはみ出すことはなく、画面構成が意識されていることがうかがえます。作者のポロックは、抽象表現主義という動向を代表する画家で、床に広げたキャンバスに、絵の具を垂らす「ポーリング」と呼ばれる技法を用いて抽象絵画に新境地を開きました。本作からはその初期の試行錯誤が伺えます。
《無題》1946年[メゾナイト板・油絵具・エナメル・新聞コラージュ 60.5×48cm]
ジャクスン・ポロック[アメリカ・1912~56年]
台座から棒のようなものが立ち上がっています。近くで見ると、頭部や両腕、足を確認することができ、人の姿が表されていることがわかります。ジャコメッティは、キュビスムやシュルレアリスムの影響を受けた後、細長く引き伸ばされた人物像を制作しました。モデルを見つめれば見つめるほど対象の細部しか見えなくなり、全体を見るためにはモデルを後退させなくてはならないという葛藤のなかで、消え入りそうなほど小さな人物像を制作しました。
《裸婦立像》1950年頃[ブロンズ・着色 21.0×7.2×5cm]
アルベルト・ジャコメッティ[スイス・1901~66年]
2024年は富山県美術館が3年に一度開催しているポスターの国際公募展「世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)」が開催される年であることから、これまでのIPT入選作の中から音楽にまつわるポスターを展示しました。
そこには、誰もが名前を知っているようなミュージシャンのコンサートや、レコード、CDの発売告知もあれば、音楽の教科書に顔と名前の出ているような音楽家のイメージを、デザイナーが自身のグラフィック作品として表現した作品、レコードジャケットのデザインを多く手掛けたデザイナーが制作したポスターなどがあります。あらゆる切り口から、音楽を視覚的に表現することについて様々な方に興味を抱いてもらえるような構成を意識しました。
デザイン・コレクション展第1期
「プレイバックIPT!:音楽」展示風景
展覧会情報
会期:2024年4月27日(土)~6月30日(日)
会場:富山県美術館 展示室2、3、4
公式サイト:https://tad-toyama.jp/exhibition-event/18109
休館日:毎週水曜日
開館時間:9:00~18:00(入館は17:30まで)
観覧料:一般:1,500円(1,200円) 大学生:1,000円(800円) 高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
- 令和4年度版「高校生の美術1」p44.
昼と夜[木版・紙/39×68cm]
1938 M.C.エッシャー[オランダ・1898~1972] - 令和5年度版「高校生の美術2」p20.
描く手[リトグラフ・紙/28.4×33.4cm]
1948 M.C.エッシャー
特別展 雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―
特別展「雪舟伝説」メインビジュアル 京都国立博物館では2024年4月13日から5月26日まで、特別展『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』を開催しています。展覧会では教科書でも掲載している《秋冬山水図・冬景図》をはじめ、様々な作品を見ることができます。
今回は保存修理指導室長の福士雄也さんに、展覧会の見どころやオススメの作品についてお話をうかがいました。
この作品が教科書に掲載されているのは、雪舟が室町時代を代表する画家の一人であり、その雪舟の代表作であるからでしょう。展覧会でも、多くの人が雪舟の絵としてまず思い浮かべるであろう作品として、冒頭でご紹介しています。かつては京都の曼殊院に伝来した作品で、江戸時代の画家たちにもそれなりに知られていたものだったようです。実際、この作品に見られるような墨の使い方や力強い線描、画面の構図法など、いかにも雪舟らしい表現を取り入れて、新しい作品を生み出した画家は少なくありません。後世に影響を与えた作品としてもとても重要なのです。


国宝 秋冬山水図 雪舟筆
東京国立博物館蔵 室町時代(15世紀) 通期展示
では、雪舟はなぜこれほどまで高く評価されているのでしょうか。もちろん、作品が優れているというのも理由の一つです。しかし、画家(作家)に対する評価は決してそれだけで形成されるものではなく、雪舟とその作品に対して歴史的に積み重ねられてきた評価の上に、今日の高い評価があるのです。別の言い方をすれば、そうした評価の歴史を抜きに雪舟の作品だけを見ても、なぜこれほどの高い評価が与えられているのかを十分に理解することは困難なのです。
本展は、主に近世(桃山~江戸時代)における雪舟受容、つまり後世の画家たちが雪舟作品をどのように評価し取り入れてきたのかをたどることで、今日の雪舟評価がどのように形成されてきたのかを検証することを目的としています。「雪舟だからすごい」のではなく、「なぜ雪舟はすごい(とされている)のか」を考える、そういう展覧会です。
後世の画家たちは、さまざまなやり方で雪舟の作品を学び、自作に取り入れています。多様な画家たちが多様な仕方で繰り広げる雪舟受容が、本展の注目ポイントです。
重要文化財 四季花鳥図屏風 雪舟筆
京都国立博物館蔵 室町時代(15世紀) 通期展示
竹梅双鶴図 伊藤若冲筆
東京・出光美術館蔵 江戸時代(18世紀) 4/30~5/26展示
もやもやとした墨の広がりによって山水を描いた作品で、雪舟の水墨技法が遺憾なく発揮されています。しかしそれ以上に、この絵の上の部分には雪舟自筆の長い文章が書かれており、いわば雪舟の肉声を伝えているところが重要です。雪舟が中国(明)に渡ったこと、彼の地で二人の画家に絵を学んだこと、日本での雪舟の師である如拙・周文の偉大さを改めて思い知ったことなど、これほど多くの情報を室町時代の画家自身が書き残した事例はありません。遠い過去の時代を生きた画家が、少し身近に感じられるのではないでしょうか。
国宝 破墨山水図 雪舟等楊筆 雪舟自序・月翁周鏡ら六僧賛
東京国立博物館蔵 室町時代・明応4年(1495)
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp
)
江戸時代中期、18世紀に活躍した曾我蕭白の作品です。蕭白というと奇抜で個性的な画風で知られ、この作品も富士山の奇妙な形や三保松原に虹がかかる様子など、幻想的な風景表現となっています。しかし、この作品の構図は伝雪舟筆《富士三保清見寺図》(永青文庫蔵)という作品を踏襲したもの。個性的であるということは闇雲に奇をてらうことではなく、真摯に古典と向き合いそこから学ぶ中で生まれるものだということを教えてくれます。歴史や古典を学ぶことは、新しいものを生み出すためにも必要なのです。


富士三保図屏風 曾我蕭白筆
滋賀・MIHO MUSEUM蔵 江戸時代(18世紀) 通期展示
展覧会情報
会期:2024年4月13日(土)~5月26日(日)
[主な展示替]
前期展示:2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)
後期展示:2024年5月8日(水)~5月26日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
会場:京都国立博物館 平成知新館
公式サイト:https://sesshu2024.exhn.jp/
休館日:月曜日
※2024年4月29日(月・祝)から5月6日(月・休)までは続けて開館し、5月7日(火)を休館とします。
開館時間:9:00~17:30(入館は17:00まで)
観覧料:一般:1,800円(1,600円) 大学生:1,200円(1,000円) 高校生:700円(500円)
※( )内は前売料金・20名以上の団体料金です。
- 令和4年度版「高校生の美術1」p40.
秋冬山水図 ・冬景図(国宝・二幅のうち一幅)[紙本墨画/47.7×30.2cm]
15世紀末~16世紀初 東京国立博物館蔵
雪舟等楊[1420~1506]
第6回 やまはくセレクション展
須川埋没林の化石木(館蔵) 山形県立博物館には、教科書にも掲載中の「縄文の女神」と呼ばれる土偶が展示されています。他にも山形県の自然や歴史、くらしについてなど、多岐にわたるテーマを取り扱っています。今回は「第6回 やまはくセレクション展」を中心に、山形県立博物館の魅力について、担当の学芸員の方にお話を伺いました。
一般的に土偶はムラの祭祀に使われたとされ、妊娠をした女性像を表しているものがほとんどです。本品も同じく、胸やお腹の形状から妊産婦を表現したものと思われます。高さは45㎝もあり、完形土偶の中で一番の大きさを誇ります。さらに、八頭身美人と称されるように均整のとれた形は見る人を魅了してやみません。今まで大英博物館など海外での展覧会にも多く出品されています。
本品は、縄文中期の東北南部で出土する土偶に典型的な「出尻形」の形態を成しています。特徴ですが、まずおかっぱ頭には頭頂部に2つ、後頭部に4つの穿孔があります。また顔面の表現はありません。胸部はW字で表現され、そこからへその窪みまで正中線があります。腰部には幾何学的な文様が施され、中央部に五角形の区画が見られます。脚部は角錐状に安定的で、前後に横長の沈線がひかれています。足裏には焼きむらを抑えるために抉りが見られます。
ある工業デザイナーは、お尻の曲線から直線的な脚部への流れは、現在の車のデザインにも通じると評価しています。また、現代アート作品の中には本品のオマージュも作られています。発掘から30年たった今でも、多方面の分野の方々から注目されています。
国宝・縄文の女神(西ノ前遺跡出土土偶)
本館では、県のなりたちから現代にいたる自然と人々との営みとその変遷を、自然と人文に分けて、地学・植物・動物・考古・歴史・民俗の各部門をとおして紹介しています。
山形県立博物館では、所蔵する国宝土偶「縄文の女神」を第2展示室内の国宝展示室にて常設で展示しております。土偶の全身を全周で見られるように展示しております。展示台の照明には、山形県産の有機EL照明を採用しています。また目に見えない部分ですが、展示台自体が地震対応構造になっております。
三島通庸佩刀(館蔵)
そこで、山形県立博物館では3月2日(土)から5月12日(日)まで、地学・植物・動物・考古・歴史・民俗・教育の7つの分野から厳選した資料を展示する「第6回 やまはくセレクション展」を開催いたします。
本展では7つの分野の担当者がそれぞれテーマを設けて展示して、ハイイロオオカミやギンケイ、カモシカなど様々な動物のはく製、三島通庸ゆかりの佩刀、須川で発見された化石木など、今まさに大注目の資料をご覧いただけます。
さらに、大好評いただいた昨年のプライム企画展「高等女学校と実科高等女学校―青春の学びと生活―」に関連して、江戸時代の女子教育に使われた教科書、ドラマで注目を集めた牧野富太郎博士も収集に関わった山形大学農学部の植物標本なども展示されます。
この春は山形県内の自然や歴史のまだあまり知られていない一面について、新発見も再発見もできる山形県立博物館に来てみてください。
ハイイロオオカミ(動物・新収蔵)
キツネヤナギ(新収蔵・展示予定)
展覧会情報
会期:2024年3月2日(土)~5月12日(日)
会場:山形県立博物館
公式サイト:https://www.yamagata-museum.jp/
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)年末/年始(12月28日~1月4日)
開場時間:9時~16時30分(入場は16時まで)
観覧料:一般300円 学生150円 高校生以下無料
- 令和4年度版「高校生の美術1」p56.
土偶[土/高さ45cm 肩幅16.8cm]紀元前3,000~紀元前2,000
山形県立博物館蔵
サインのない絵画 きらめく原石たち
神戸市立小磯記念美術館 外観 神戸市立小磯記念美術館は、小磯良平の油彩・素描・版画など約2000点を取り扱う個人記念美術館です。今回はコレクション企画展示「サインのない絵画 きらめく原石たち」を中心に、美術館の特徴やおすすめの作品について、学芸員の多田羅珠希さんにお話をうかがいました。
美術館の中庭では、移築・復元された小磯良平のアトリエを見学いただけます。異人館風の淡いグリーンの窓枠が爽やかなアトリエの室内には、パレット、絵具やイーゼルなど実際に使用されていた画材や、西洋人形、ヴァイオリンなど絵のモチーフとなったものを展示しています。小磯がどういった空間で作品を生み出していたかを感じていただけます。
移築・復元された小磯良平のアトリエ
《休息する踊り子》も「サインのない絵画」のひとつです。腰掛けるバレリーナを、鉛筆で描いた作品です。モデルとなっている女性は、実際は踊りを専門とする方ではありませんが、チュチュを着装し、つま先を開いたバレリーナらしいポーズをとっています。
1930年代から小磯はバレリーナをモチーフとするようになり、画業を代表する作品も数多く描かれました。本作は、バレリーナを繰り返し描く中で生み出された素描のひとつでしょう。チュチュの柔らかさと、目元や腕の力強さを表現する筆致の強弱が見事です。
小磯良平《休息する踊り子》1939年
幼い娘たちは、おそろいのカーディガンを身に付け、並んで立っています。姉は軽く首を傾けてこちらに視線をやり、妹は壁にもたれて本に目を落としています。華やかな背景の模様は、壁紙ではなく、小磯が気に入っていた布をかけました。
めったに自分の作品を褒めない小磯が、本作の事は「よくできた」と認めていました。愛情を込めて家族の姿を描き留めた、唯一無二の作品です。
小磯良平《二人の少女》1946年
展覧会情報
会期:2024年2月17日(土)~3月31日(日)
会場:神戸市立小磯記念美術館
公式サイト:https://www.city.kobe.lg.jp/kanko/bunka/bunkashisetsu/koisogallery/
休館日:月曜日(月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
開場時間:10時~17時(入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般200円 大学生100円 高校生以下無料
- 令和5年度版「高校生の美術2」p18.
休息する踊り子[鉛筆・紙/37.3×27.8cm]
1939 神戸市立小磯記念美術館蔵[兵庫県]
小磯良平[兵庫県・1903~88]
ガウディとサグラダ・ファミリア展
サグラダ・ファミリア聖堂、2023年1月撮影
© Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família 名古屋市美術館は伊勢湾周辺地帯の「郷土の美術」をはじめ、近現代の様々な美術を取り扱う美術館です。今回は「ガウディとサグラダ・ファミリア展」を担当した学芸員の久保田舞美さんに展覧会の魅力や、名古屋市美術館の活動についてお話を伺いました。
サグラダ・ファミリア聖堂内観
© Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família
《サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型》2001-02年、制作: サグラダ・ファミリア聖堂模型室、西武文理大学
©西武文理大学/photo: 後藤真樹
展覧会情報
会期:2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)
会場:名古屋市美術館
公式サイト:https://gaudi2023-24.jp/
問い合わせ:052-212-0001
休館日:月曜日(1月8日[月・祝]、2月12日[月・休]は開館)
開場時間:9時30分~17時、2月23日を除く金曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1800円 大学・高校生1000円 中学生以下無料
- 令和4年度版「高校生の美術1」p90-91.
作家探究 アントニ・ガウディ
中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館
中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 外観 中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館は、近現代の彫刻作品を取り扱う美術館です。常設展示では、教科書に掲載している柳原義達の《道標 鳩》を見ることができます。今回は館長の北嶋迪子さんに美術館で扱う作品や、教育普及活動についてお話をお伺いしました。
中原悌二郎の作品をはじめ、悌二郎に大きな影響を与えたオーギュスト・ロダン、荻原守衛、悌二郎の親友であった石井鶴三、堀進二、悌二郎の影響を受けて彫刻家となった加藤顕清の作品などのほか、悌二郎の業績を広く知ってもらい日本の彫刻界の発展に貢献する目的で昭和45(1970)年に旭川市が設けた「中原悌二郎賞」の歴代受賞者や地域ゆかりの作家による作品を収蔵しています。
悌二郎は32年の生涯の中で25点の作品を制作しましたが、自分の作品に厳しい目を持ち気に入らない作品は自ら壊すなどしたため、現存する作品はわずか12点です。当館では代表作である「若きカフカス人」をはじめ、この12点全てをご覧いただくことができます。
中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 内観
当館で展示している《道標 鳩》は、第5回中原悌二郎賞に選ばれた作品です。ハトの臆病そうに小首を傾け周囲をうかがうしぐさや、たくましい生活感。ふくよかな体、力強く太い足、そして愛くるしいまなざし。これらから日々ハトと接している柳原の、生きものたちに対する愛が感じられます。
羽毛に見られる質感の表現技法とともに、作品に表れている作者のモチーフに対する深い洞察や愛情も魅力の一つとしてぜひ鑑賞いただきたいと思います。
柳原義達《道標 鳩》
また、学校と連携した取り組みとしては、市内の小中学校において1校につき1か月間程度、当館の所蔵作品を学校に展示する彫刻巡回展示を行っています。巡回展示では、美術館では普段触れることができない彫刻を実際に触ることができるほか、当館職員と彫刻に詳しい市内の美術教員が展示校に直接出向き、児童、生徒に展示している作品を観察して感じたことを言い合ってもらったり、作品に触れて質感や重さを体験してもらったりする出前授業を実施しており、鑑賞のおもしろさや彫刻に対する興味関心を深めてもらう機会を設けています。
美術館情報
住所:〒070-0875 北海道旭川市春光5条7丁目
公式サイト:https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/sculpture/
問い合わせ:0166-46-6277
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始(12月30日から1月4日)
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
観覧料:一般450円、高校生300円、中学生以下無料
- 令和4年度版「高校生の美術1」p59.
道標 鳩[ブロンズ/41×27.5×52cm] 1973
中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館蔵[北海道]
柳原義達[山口県・1910~2004]