高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974 色彩の復活
2024.11.14
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.078>
没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974 色彩の復活
香月泰男美術館

没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974
ポスター
 香月泰男美術館は香月泰男が制作した油彩画、素描画、そして廃材を利用して作られた「おもちゃ」と呼ばれるオブジェなど多岐にわたる作品を収蔵、展示している美術館です。今回は約1年をかけて行われる、「没後50年 香月泰男展」より、香月泰男の色彩表現に注目する第三期の展示と、教科書に掲載されている素描《皿の上のリンゴ》ついて、学芸員の丸尾いとさんにお話を伺いました。

――香月泰男美術館では2024年3月から1年を通して「没後50年 香月泰男展」を行っています。1年間を通してどのような展示を行うのでしょうか。合わせて10月から始まる「第三期1966→1974」展の注目ポイントを教えてください。

丸尾:香月泰男は年代によって作風が変化した画家です。変化の過程を多くの作品を通して見ていただくために、転換期を迎えたおおよその年代ごとに紹介する展覧会としました。
 第一期の1931~1954年は、香月が画家を目指した東京美術学校時代から、戦争・抑留体験を経て自分のスタイルを模索する時代です。第二期の1955年~1965年は、日本画に使う顔料を油絵具に混ぜる、黒に木炭を混ぜるなど試行錯誤を重ね、独自のマチエールをつかみ、黒い絵に変化した時代を紹介しました。
 第三期では、黒い絵に色彩が戻りはじめた1966年から最晩年の1974年までの作品を紹介しています。ワンポイントのように原色を使い描かれたモチーフは、背景の黒とのコントラストでより際立ちます。晩年、毎年のように海外に出かけては、鮮やかな色使いで旅先の風景を描いています。年を追うごとに色彩を封印した黒の世界から解放されたような変化が見どころです。

《一九六九.七.二〇の月星》1969年

――「没後50年 香月泰男展」第三期では、「色彩の復活」をテーマに絵画やオブジェなど様々な作品を展示します。その中でも特に子ども達に紹介したい作品があれば、教えてください。

丸尾:香月泰男は画家ですが、人形や動物などのオブジェ(立体物)もつくりました。オブジェ制作について香月は “作りながらその人間の生活を想い動物たちの一生を想像して見改める” と述べています。このことは、見たものしか描かなかった香月の、対象を想い慈しみ描く画家としての姿勢に通じるものがあります。
 今日 “おもちゃ” と呼ばれ、多くの人に親しまれているオブジェを、香月は廃材を利用して制作しました。ひとつひとつのパーツの元は何だったのかを想像しながら見てください。

《花売り娘》1969年

――教科書では香月泰男の《皿の上のリンゴ》を掲載し、リンゴの構造や質感をとらえる香月泰男の素描表現について紹介しています。香月泰男美術館では、2025年1月から「香月泰男のデッサン・素描展」を開催予定です。今後の展覧会で見られる、香月泰男のデッサンや素描の注目ポイントを教えてください。

丸尾:“デッサン・素描するとは、ものを触覚を通して知る方法である” と香月は述べています。実際、描く対象を知ろうとするかのように、風景、動植物から日々の食卓にのぼる食材、海外旅行先の観光名所からホテルの部屋まで多くのデッサンや素描を描きました。
 香月の特徴の一つは、墨を使った素描です。背景に墨を引き、そこに水彩やクレヨンを使って描くと、背景の薄暗さが手伝ってモチーフがより鮮やかに見えてきます。また、クレヨンは水分を含んだ墨をはじくため、独特の表現が生まれます。このあたりにも注目して見てください。

《皿の上のリンゴ》1951年

展覧会情報

■『没後50年 香月泰男展 第三期1966→1974』
会期:2024年10月11日(金)~2025年1月13日(月・祝)
会場:香月泰男美術館
公式サイト:https://kazukiyasuo.com/
定休日:火曜日(火曜日が祝日の場合は開館、翌平日休館、年末年始(12/29-1/3))
観覧料:一般:500円(400円) 小中学生:200円(150円) 未就学児:無料
※( )内は20名以上の団体料金

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和5年度版「高校生の美術2」p19.
    皿の上のリンゴ[鉛筆・画用紙/26.8×38.9cm]
    1951 香月泰男美術館蔵
    香月泰男[山口県・1911~74]