図工力(※1)を発揮して活動している(と編集部が感じた)企業などを訪問し、働く方々のお話を聞きながら、図画工作や美術を学ぶ意義を捉え直すシリーズの第2回目。
今回の「図工な企業」は、株式会社愉快(ゆかい)。生活介護・就労継続支援(B型)施設、studio COOCA(スタジオ クーカ)を運営している企業です。「どうやって食うか?」を旗印に、創作活動を前面に出し、ギャラリーでの積極的な発表・販売や企業とのライセンス契約を行ったりしながら就労支援を提供しつつ、さまざまな障がいを抱える方々が「自分を生かすこと、社会で生きること」を考える場所となっています。施設長の関根祥平さんに、studio COOCAの活動と株式会社愉快が目指すものについて聞きました。
◎お話を聞いた図工な人々
- 関根 祥平さん(株式会社愉快 代表取締役、studio COOCA 施設長)

課題は「新しい可能性」と捉える
関根:studio COOCAのいちばんの特徴は、ここで何をするのか先に決めず、まず利用者の方と面談をして、その方が何をしたいかというところから始めることです。利用する曜日は決まっていますが、本人のペースで活動を始めて、本人のペースで終わっていい。
――「何をするか」を決めていくときに、関根さんが意識していることはありますか?
関根:とことんポジティブにその人を見て、捉え直すことです。
うちに、段ボールの封をしている透明なテープをはがして、ひたすら三角形に折る方がいるんです。彼は、誰かが注意されていると自分事として捉えてしまったり、大きな声に反応してパニックになってしまったりして、その集団にいられなくなってしまうことが度々あったようで。以前から保護者の方がアートに可能性を感じていらして、居場所を探して最近うちに来たんです。
で、三角形がそこら中に生まれるんですね。「これ、どうする?」ってなりますよね。ぼくは、そういうのになんか燃えちゃう(笑)。できれば、そのまま、彼のこだわりのいちばん強いところを生かしたくて、つくった三角形をひたすら段ボール板に貼ってもらうことをぼくから提案しました。
三角形の段ボールを並べて作品にする試み。まだ模索中。
――その提案に対して、彼は?
関根:「うん、やる」って、意外とすんなりOKしてくれたんですよね。「え、やってくれるんだ!?」みたいな(笑)。
苦手なことを無理やりやらされるのではなく、好きなことをやって、それを受け入れられている状況では、わりとスムーズに対話できるような気がしています。頭ごなしに「それはだめ」っていうことに対するリアクションが問題行動として現れてきちゃうのかなって。
強いこだわりや問題行動に対して、その施設での共同的な営みを保つことが難しいと判断されると、その行為を禁止したり施設の利用を制限したりする方向になるケースが多いのではないかと思います。
ぼくたちは、こだわりの行為を通して出てきたものに注目して、アウトプットする中で、そこに収益性を見出すことができるということを示し続けていくことで、その人の居場所を守る。あくまで福祉施設っていう機能を最大限に生かすというか。
鉛筆を最後まで使い切らないと気が済まないとか、芯を尖らせるために削りまくっちゃうとか。こだわりっていうのは、個を表現する創作活動においては絶対に必要な要素なんです。
常に新しい課題は新しい可能性を示唆してくれるものって捉えています。積極的にはみ出す人に出会えたら「きたー! これだー!」ってなる(笑)。絶対、うちに必要な人であり、社会を変えていくヒントをくれる人だって思う。
小さくなった色鉛筆で表すことにこだわり、創作活動する方の鉛筆入れ。
(作品はこちらからご覧いただけます⇒ https://www.studio-cooca.com/reonahirai
)
ここが図工力!
☞ はみ出した「こだわり」を捉え直す。
作品を価値付け、その人の居場所をつくる
――障がいを抱えた方々が食べていくことと創作活動を結び付けたのは、どのような経緯からでしょうか。
関根:段ボールなどをずっとちぎっている人がいて、それは具体的な生産活動ではないけど、単純にその人の行為自体がすごくかっこいいって思って、そこに可能性を感じたっていうのが始まりです。
それは30年以上前にぼくの父が考えていたことですが、当時の就労支援はボールペンや箱を組み立てたりするというのがメインで、選択肢があまりなかった。そこで父はstudio COOCAの前身となる「工房絵(こうぼうかい)」を開き、そこにデザイン室を置きました。studio COOCAはデザイン室のメンバーが中心になり立ち上げたので、ある種アート、デザインに特化した形で始まりました。
――その当時、利用者や保護者の方の反応は?
関根:全く理解は得られていなかったそうです。保護者の方も、できれば子どもには企業に就職してほしいと思っている方がほとんどで。「そもそもアートって何?」っていう雰囲気の中で立場を勝ち取っていくために、都内で展示をするなど、積極的に発表を続けてきました。
ただ作品って、それで生計を立てていくほどには、簡単に売れないんです。日本ではそもそもアートを買って部屋に飾る、あるいはコレクションするという文化は根付いていないと思うし、どこまでいっても好き嫌いの世界なので。社会に訴えかける上で展示は有効だけど、それが生産活動、持続的に売れることにつながるっていうのは、なかなかなくて。結局、海外から来た人が買ってくみたいな。それでもまず「自分たちがつくった作品が売れるんだ」ということから本人と周囲の意識を変えていかなければ活動が認められなかった30年前の状況があります。
そういう当時の状況を越えて、この活動をさらに広げていくためにオリジナルグッズの販売を福祉施設のバザーの範囲だけでなく、雑貨屋や有名デパートへの卸なども含めて、studio COOCA開設当初(15年前)から行ってきました。あとは企業の商品デザインに使ってもらって、デザイン使用料を工賃に還元していくといった取り組みを続けています。
studio COOCA内のギャラリー兼ショップ
福祉の中でも「福祉×アート」っていうジャンルができつつある気がしていて、グッズをどう販売していくかなどの道筋は何となく見えてきてはいます。ただ、福祉があんまりアート化して、プロダクト化していくのは、それはそれで危惧しているところです。一つのルートができちゃうと、そこに従事できない人の受け皿はどうなるんだろうって。「福祉とは何か?」という視点に立って考えないといけないと思います。
――創作活動が収益に結び付くことを、作者ご本人はうれしいと受け止められていますか。
関根:人それぞれです。つくったあとに作品がどうなるか興味ない人もいれば、お金が入ったときに「欲しいものが買える!」といって初めて喜ぶ人もいる。
どちらかというと、本人のためには、周囲(社会)の偏見をまず取り払っていかなきゃいけなくて、そっちにアプローチしているんです。いちばんそばで支えてくれている人たちの眼差しを変えていくというか。「この人、すごいじゃん!」って思ってもらえたらなって。
――他者が価値を認めて、初めて我が子の作品や行為を認められる?
関根:全員がそういうわけではないですが、やっぱりうれしいと思うはずです。銀座などで展示して海外の人とか作品を買ってくれて、保護者の方も「あー、捨てるようなものじゃなかったんだ」って思えるようになる。「この作品、すごいですよ」って言ってくれる人が必要です。
言葉で素晴らしいって言われることも大事で、その先には、やっぱり作品を買ってくれるとか、商品デザインに採用されるとか、言葉以上に認められている感があるというか、社会にその人が存在しているっていうのを視覚的にも認識できるのがすごく大きいんじゃないかと思っています。
だから「絵を入れる額からつくる」など見せ方にこだわり、「素晴らしい!」って思ってもらえる状況をつくって、創作物に価値を見出し、価値を付けていくという活動でもあります。
作品をよりよく見せるために、スタッフが工夫して展示に向けて準備している。
(作品はこちらからご覧いただけます⇒ https://www.studio-cooca.com/kentarooomi
)
ここが図工力!
☞ 「こだわり」から生まれた価値が他者に認められて、その人の思いが生きてくる。そのための工夫は惜しまない。
ただ、創作物を「売ること」だけに寄ってしまうと冷たい世界になっちゃう。そういう意味では施設での活動は絵画表現だけじゃないという視点をもつというのも大切だと思っています。一方向に寄ると、結局、そこに寄れない人を排除してしまうことになるのではないか。うちでは音楽やヨガをやったり、晴れた日に畑に足を運んだり、手をとめて休む時間もあるし、物思いに耽る、創作に向き合う時間もある。そういう幅が必要だと思っています。
「立ち止まって、考えて、自分で選ぶ」という豊かな時間
関根:何かしらの生産活動を通して収入を得て食うことにつなげるのは重要だと思っていますが、ぼくがいちばん大切だと思っているのは「考える」ということです。
「どうやって食うか」って考えられるっていうのは、ものすごく豊かなこと。
studio COOCAの名前の由来は、「どうやって食うか」からきています。現代社会の生活の中で「どうやって食うか」って立ち止まって考えることは難しい。仕事を休むなり、あるいは進路を変えるなりでもしないと、日々の忙しさの中で忘れてしまう。家賃や生活費を稼ぎだすのでほとんど精一杯。
障がいを抱えて育つ人の多くは、特別支援学校などを出てすぐに社会に出なきゃいけないんです。大学進学や専門学校、生活訓練施設という選択肢もあるけど、場所も限られているし、金銭面の条件とかいろいろ出てきて、大半の人が18歳で社会に出ざるを得ない。そこで不適応を起こして、うつ病とか適応障がいと判断されたり、引きこもってしまったりすることもある。
ぼくは大学時代に自分の生きる道とか全然分かってなくて、ある種のモラトリアム期間というか、社会に出る前にいろんなアルバイトをしながら、経験を通して考える時間があった。モラトリアム期が用意されていない人に、うちは福祉施設として、そういう機能をもたせることができるんじゃないかと思っています。
――ちょっと立ち止まるっていう時間って、全ての人の人生にあったら有意義ですね。
関根:そうだと思います。
どうやって食うかっていうのを、ここで立ち止まって考える。ここでの経験を通して、自分で選んでいく。ここは通過点でもいいし、生涯の居場所になってもいい。
大げさな話、20年のモラトリアム期があってもいいと思うんです。成長するスピードはみんな違う。スローペースな人だっていると思う。じっくり、その人のペースで人生を探っていくっていうのもありなんじゃないでしょうか。だから、そういう人たちのために「どうやって食うか」を考える場所として存在している。そこを大切にしたい。
ここが図工力!
☞ 実体験を通して、自分で考える、自分で選ぶ。そのための場所と時間を保障することが大切。
多様性は、自分自身を受け入れることから始まる
――最後に、関根さんにとって「多様性を認め合う」とはどういうことかお聞かせください。
関根:それは他人に求めることじゃなくて、自分の中にいろんな自分がいることをまず認めることかなって思います。
例えば、ぼくは「大人である」「男性である」「施設の管理者である」とかそういう外枠の肩書があって、でも実は頑張れる日と頑張れない日があって、苦手なこと得意なこと、好きなこと嫌いなこともある。まずは自分の中にあるいろいろな要素を受け入れないと、人を受け入れるのは無理。
ぼくも含め、自分自身を知るのはそんな簡単なことではないと思います。客観的に俯瞰的に自分を見つめるって難しいですよね。鏡を見ているときだって、かっこつけてますよ、絶対。不意に撮られた自分の写真を見ると、「え、こんな顔だったっけ?」ってなるし(笑)。性格とかもそう。自分ができないことを認めるのってけっこうしんどいけど、それをまずは気づいて、受け入れようって思うことが大切。
――苦手なことを受け入れるのは難しいことですよね。
関根:順番としては、苦手を受け入れる前に「自分のここは誰にも負けない」とか「自分はこれが好きだ」とか、自分の得意な部分を受け入れること(気づくこと)が先かもしれない。
大好きなマカロンを紙粘土でつくったり、すごろくをつくったり。
段ボールや紙の端材で動物園をつくったり、電車のスタンプをつくって訪問者が塗り絵を楽しめるようにしたり。
自分の好きなことを思う存分やっていい時間が1週間のうちに1時間でもあれば、そしてそのことを受け入れてくれる人が自分の周りに一人でもいてくれれば、人生がだいぶ楽になると思います。
もちろんその人が置かれている状況でやむを得ないことは多々ありますが、「自分の好き」やこだわりが問題行動と捉えられて制限されるのか、個性と捉えて「まずはとことんやってみよう」って言ってもらえるのかで、全然違うと思う。それが受け入れられたら、苦手なこととかはどっちでもよくなるのかもしれない。
だから、大切なのは環境ですよ。家になければ学校、学校になければ他の第三の場所とか、そういう関わりの支援や理解が社会に必要だと思います。
取材後記
studio COOCAに入った途端、利用者の方々が楽しげに迎え入れ、作品のことを聞くとうれしそうに語ってくださいました。関根さんのお話を聞いて、自分の好きを生かし生かされる環境は人を豊かにすることを学ぶと同時に、自分自身との向き合い方について考えさせられる取材でした。