ポスト・コロナ時代の教育 ‘ESD for 2030’からの示唆 ~その1~

「変化に向かうまたとない好機」

 にわかに起きた新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された世界のあり様をふり返り、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏は次のように語っています。

コロナ前の世界は瀕死の状態でした。地球温暖化や経済格差は悪化する一方で、人工知能(AI)によって失業した人々が職を求めて列をなしていた。私たちはコロナ前の誤った世界に戻してはならず、新しい世界をつくらなければなりません。政治指導者がまずやるべきは、コロナ前の世界に決して戻さないと誓うことです。今は変化に向かうまたとない好機です。(The Asahi Shimbun Globe. No. 231. 2020年7月5日)

 「瀕死の状態」をもたらした「誤った世界」とは常軌を逸したグローバル化が生み出した格差社会や気候変動に翻弄される社会です。こうした社会を支えてきた価値観の形成に大きな影響を及ぼしてきたのは教育ですから、教育にとっても「変化に向かうまたとない好機」であると言えましょう。
 ところが、ウィズ・コロナのいま、全国で夏休みを返上してまで授業や宿題で学習の遅れを取り戻す必要性が連呼され、多くの先生に焦りが見られるようになりました。もちろん、こうした努力は学力保障という意味においては重要かもしれません。ただ、制度内での努力だけでなく制度そのものを見直す努力、すなわち旧来の制度内での変化ではなく制度や枠組み自体の変化が求められているのではないでしょうか。
 今、問われなくてはならないのは、従来の就学(通学)主義、管理主義、形式主義、成果主義、評価主義、能力主義、教科主義、年齢主義、そしてこれらを支えてきた「学校文化」です。今月そして来月と、新型コロナウイルスの発生とほぼ同時期に産み落とされた国際的な教育枠組みである‘ESD for 2030’に注目し、従来の「学校文化」もしくは学校の「当たり前」を捉え直してみたいと思います。

古くて新しい課題

 ユネスコはユヌス氏と同様の危機感をつとに示していました。『教育の再考(Rethinking Education)』などのレポートには随所に行き過ぎた経済成長優先の開発のあり方への警鐘が鳴らされています(*1)
 このレポートでは「学習の4本柱」、すなわち「知るための学び」「為すための学び」「共に生きるための学び」「存在を深めるための学び」から成る学習の4類型の中でもグローバル化の時代においては特に「共に生きるための学び」と「存在を深めるための学び」が重要であり、今こそ「ヒューマニスティック・アプローチ」が重要であると主張されています。中でも「存在を深めるための学び(Learning to be)」は現代社会が常軌を逸脱した方向に向かおうとする時の警鐘としてしばしば登場してきた概念です。
 1972年に刊行されたLearning to Be: The World of Education Today and Tomorrow(邦訳『未来の学習』)で知られるようになった「存在を深めるための学び」の理解にはエーリッヒ・フロム著『生きるということ』(原題:To Have or To Be)が参考になるでしょう。「持つ様式」と「ある様式」は人間の二つの基本的な存在様式であり、前者は近代化を推し進め、グローバル化を下支えする消費社会を形成してきました。他方、後者は人がモノとして扱われたり処理されたりする消費社会の様式とは異なり、「世界との真正な結びつき」が築かれていくのに不可欠な様式です。
 こうした「ヒューマニスティック・アプローチ」の系譜は、グローバル化の荒波の中でもユネスコの諸事業を通して1970年代以後も連綿と受け継がれており、ESDの文脈においても見出させます。次号で詳しく紹介する‘ESD for 2030’のキーワードはまさにその延長線上に位置付けられ、ポスト・コロナの時代においてはいっそう示唆に富むメッセージとなって立ち現れています。

*1:『教育の再考(Rethinking Education)』(文部科学省仮訳)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/07/09/1359574_05.pdf

ミャンマーにおける持続可能な開発のための教育(ESD)の道 ―持続可能な環境を目指すローカルビジネスの力―

 現在、持続可能な開発のための教育(以下、ESD)はアジア諸国でも注目され、教育を通して持続可能な社会を目指そうとする動きが加速しています。その認識は教育関係者だけでなく、政府関係者や研究者、事業家などにも広がっています。人々がようやく地球や社会の持続可能性に目を向け始めたのではないでしょうか。
 ESDは人間の考え方や行動を持続可能な未来を見据えたものへと変容させ、一人ひとりが多文化を尊重ながらも気候変動や生物多様性の損失などの問題解決に携わる、変化の担い手(change agent)を育みます。
 読者の皆さんはミャンマーという国はご存知でしょうか。人口が約5,400万人の途上国です。途上国ですので経済、教育、健康などの分野で他の国と比べると発展は遅れています。しかし、そのような国でもESDに関する動きが見られるようになりました。例えば、教師にESDについてのワークショップを行なったり、ザガイ大学がESDに関する意識調査を行なって研究をしたりしています。135の民族が暮らすミャンマーでは文化の多様性を尊重することはとても重要ですが、それは決してたやすいことではありません。ここに、ミャンマーでESDを推進することの重要性を見出すことができるでしょう。
 持続可能な社会に向けた人間の知識、スキル、価値観の変容にとって教育という視点はとても重要ですが、ミャンマーにおける教育の視点は学校教育だけに留まりません。子どもたちの中退率は、小学校でも約19% 近くあるため、学校教育だけではなくノンフォーマル教育も重要なのです。
 そこで重要な役割を果たしているのは、気候変動や地球温暖化などに関心をもち、環境教育を実践しようとしているローカル・ビジネスやボランティア活動です。現在ミャンマーでも環境問題に意識を向ける若者や事業家は増えています。その若者たちは、中退した子どもたちにリサイクル商品で創作した商品をマーケットで販売できるようになるまでサポートを行うボランティア・グループやNGO、NPOなども運営しています。
 また、持続可能な環境に向き合うビジネスも増えました。たとえば、レジ袋の代わりに紙袋を使うお店、リサイクルで作ったアクセサリーを販売するマーケットもできました。
 持続可能な環境に向き合うビジネスの1つにHLA DAY(ラディ)というローカルビジネスがあります。HLA DAYは職人の生活をサポートするための仕組みがあり、経済的な支援事業のトレーニングとともに、持続可能性に価値をおいた市場を提供する会社です。職人の多くは、障害をもつ人々や社会的に排除された人々、貧困の克服に苦労している人々などです。また、HIV患者やゲイの人々が集うマイノリティの人々もいます。HLA DAYはそのような人たちに教育や雇用の機会を提供しています。
 HLA DAYには約60のアーティスト・グループがあり、約700人のスタッフがいます。職人のニーズ、関心、アイデアがHLA DAY活動の中核です。優れた商品づくりは、彼らの仕事の誇りでもあります。商品を通して、彼らは困 っている人々のコミュニティに大きな力を与え、彼らの生活を変えることに寄与しています。過去数年にわたって、彼らは経済的な事業のモデルを設計し、機会を創出し、生み出すことに成功してきました。
 HLA DAYの製品はすべてミャンマー人によって作られています。彼らは地元の素材を調達し、使用することに誇りを持っています。また、持続可能性を促進するパートナーシップの構築にも注力しています。たとえば、織物担当のスタッフと協力して織工から直接購入する生産者を奨励したり、再生可能なプラスチック素材の使用など、環境の持続可能性に焦点を当てたグループと協力したりしています。また、オーガニックのコーヒー、ジャム、蜂蜜などの食物も販売しています。社員にもお客様さんにも環境への意識を啓発するようなビジネスは持続可能な社会になるために役立つと言えるでしょう。
 私たちは持続可能な社会への長い道のりを歩み始めたばかりですが、人々が一緒に力を合わせれば、一歩ずつ確実によりよい未来へ近づくことができると筆者は信じています。

【参考文献】
HLA DAYホームページ
https://www.hladaymyanmar.org/artisanstory/golden-queens
UNESCO Bangkok (2017): Training in Education for Sustainable Development Reaches 400 Teachers in Myanmar
https://bangkok.unesco.org/content/training-education-sustainable-development-reaches-400-teachers-myanmar

持続可能な開発のための教育(ESD)とは ―「祈りのこけし」に込められた想い―

「祈りのこけし」と緒方さんからのメッセージ

あなたはこのこけしにどのような表情を描きますか。
そして、どのように生きて、どのような社会を描きますか。

 いま世界は経済活動を牽引してきた大都市を中心に新型コロナウィルス(COVID-19)による未曾有の危機に直面しています。この危機は私たちに何を語りかけているのでしょうか。そして、このような時代にどのような教育が求められているのでしょうか。

「実生の森」がある「エコパーク水俣」から望む不知火海

 私たち永田研究室は2月下旬に水俣を訪問しました。冬が終わり、菜の花が咲き誇り、甘夏みかんがたわわに実る、いのちが芽吹き春の訪れを感じる季節でした。
 日本は戦後復興の中で急速な経済成長を遂げ、物質的な豊かさを享受してきた一方で、環境破壊、家族や地域文化の分断、そして社会の対立構造を生み出しました。その歪みは、あらゆる生き物の「いのちの叫び」として水俣の地で巻き起こりました。水俣病はグローバル化の波が押し寄せ、いのちや人々の健康よりも経済成長を優先する社会構造のゆがみから生じた問題だとされています。
 水俣病の原因は、日本窒素肥料(のちに「チッソ」)の水俣工場による排水に含まれていたメチル水銀です。1930年代から無処理の排水が水俣湾に排出され、1950年代には貝類の減少、魚や猫の変死が多発。その被害は人間へと及びました。1968年に政府が水俣病を公害病と認定してから半世紀以上が経ったいまも訴訟が続き、差別や補償をめぐる問題が終わっていません。

 私たちは語り部、緒方正実さんのお話を伺う機会を与えていただきました。緒方さんの語りにはESDの本質、教育のあり方、ひいては生きる意味を問う深甚なるメッセージが込められています。
 緒方さんは建具店を経営する傍ら語り部として12年間活動しています。過去の問題ではない今も続く水俣病問題を「人間は正直に生きる」という信念を貫き語り続けている緒方さんの言葉は、心の奥深く魂に響きわたり、その言葉と出合った人々の心に刻まれていきます。「人間は正直に生きる」この言葉は水俣病による差別や偏見を恐れ、逃げ続けてきた38年間に終わりを告げ、水俣病と向かい合う決心を与えてくれた言葉です。緒方さんの生き方そのものでもあります。道のりは険しいものでした。水俣病の認定申請で棄却通知を受け、自らの存在を消されたことに涙し、人間としての尊厳を踏みにじられる計り知れない苦しみを受けます。しかしその苦しみに対する怒りや憤りのまなざしは、許し感謝することへと転換します。前例がないなら自らの手で前例をつくればいい、人を変えるのではなく、自分が努力すること、正直に向き合うことの重要性を説きます。
 「私」という一人の人間存在を証明していくように、緒方さんはこの世に生を受けた人間、無念にもこの世に生を受けられなかった人間、そしてすべての生き物たちに祈りを捧げながら「いのちの大切さ」と「二度と水俣病のような悲劇が繰り返されないよう」願いを込めて、「実生の森」の木の枝からこけしを彫り、語り続けています。水俣湾を埋め立てて作られた「実生の森」の海底には、メチル水銀によって汚染された数多くのいのちが眠っています。教訓と再生のシンボルにしたいという市民の強い願いによって「実生の森」は生まれました。水俣では、壊れてしまった人と人との関係、自然と人との関係に対し、対話と協働を通じて再びつなぎ合わせる取り組みを「もやい直し」と名付けています。「祈りのこけし」には顔が描かれていません。こけしを受け取った人が自らの手で描くよう委ねられています。

 ESDとは、いのちを問いの中心に据えた教育と捉えることができるでしょう。このような教育には相互に関わり合いおかげさまで存在している実感を抱きながら、いのちの尊厳を重んじ、環境および人間関係の調和がもたらされる学びの場が必要となります。
 緒方さんの語りにあるまなざしの転換から導かれる自らの手で前例をつくる姿勢は、近年ESDにおいて重視されている「自分自身と社会を変容させることを学ぶ(Learning to transform oneself and society)」と共鳴します。こけしに顔を描いていくように自らの手で社会を創り、「もやい直し」のように分断からつながりへと紡ぎなおし、過去の教訓と未来の希望とともに今を生きていく教育が求められています。

【参考文献】
緒方正実(2016)『水俣・女島の海に生きる―わが闘病と認定の半生』世織書房

スリランカの小学校におけるESDワークショップ ―ゴミ・アート作品づくりを通したSELの実践―

 「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」
 2020年2月、スリランカ中部のペラデニヤ郊外にある小村の小学校の校舎にこんな問いが響き渡り、子どもたちの屈托のない笑顔が真剣な眼差しへと一変しました。
 私たちの研究室では、スリランカにおける「公立学校を拠点とした資源循環型コミュニティのモデル形成事業」が独立行政法人国際協力機構(JICA)による草の根技術協力事業(草の根協力支援型)として採択され、具体的な可能性を現地で探ることとなりました。プロジェクトではゴミ問題の解決に向けた「変化の担い手」となる「グリーン・ユース」を育み、公立の小学校が持続可能な社会のモデルになるように支援することが目指されます。グリーン・ユースを育む「楽しい学び」のデザインには慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の大川恵子教授の研究室にご協力をいただき、プロジェクトを進めています。
 先日、このプロジェクトを本格的に始動させるための事前準備として、筆者らはスリランカに足を運びました。その際、村の小学生を対象に「ゴミの一生涯」を考えるワークショップを地元のペラデニヤ大学大学院およびKMDの大学院生と協働で行いました。
ゴミの分別を考える子どもたち はじめに6人ほどのグループに分かれて学校敷地内のゴミ拾い。プラスチック製のお菓子の包装やビニール袋、紙類、葉っぱや木の枝、大きい空き缶など、子どもたちはありとあらゆるゴミを求めて、学校中を駆け巡ります。その結果、筆者たちの予想をはるかに超える量のゴミが集まりました。
 次に拾ってきたゴミの分別作業。「生ゴミ」「紙」「プラスチック」の3種類について説明をし、それぞれに分別をしました。中には、3種の分別に当てはまらないゴミもあり、議論をする場面も見受けられました。続いて、分別をしたゴミの中から気になるゴミ、またはお気に入りのゴミをグループで1つ選び、そのゴミの一生を考えるワークに移ります。
子どもたちが制作した作品とワークシート 各グループに1枚、選んだゴミにインタビューをするためのワークシートが配られます。ワークシートには、ゴミの名前、年齢や出身、子どもたちが拾った場所にいた理由、将来の夢を問う5つの質問を準備しました。子どもたちはゴミをワークシートの中心に置き、〈ゴミの声〉に耳を傾け、仲間と共にワイワイガヤガヤと対話をしながらワークシートを埋めていきます。
 今度はゴミに命を吹き込みます。目玉をつけると、「ゴミ」は「キャラクター」に生まれ変わりました。制作に励んでいるとき、子どもたちはゴミに目をつけたことによって命が宿ったことを感じ取ったのか、画用紙や紙粘土を使い鼻や口、手足までをも夢中になって作っている姿が印象的でした。
 興味深いことに、完成したキャラクターの多くは、悲しい顔をしていたり、涙を流していたりしました。これは子どもたちがゴミの感情にまで思いを馳せていたということの現れと捉えることもできるでしょう。
作品を手にする子どもたち ワークショップの最後には冒頭にあるように、「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」と子どもたちに問いかけました。子どもたちも、また我々もそれぞれがこの問いと向き合い、次回集ったときにお互いの考えを共有することを約束しました。
 近年、ユネスコが刊行するESD関連の資料でもSEL(社会性と情動の学習)が強調されるようになりました。今回のワークショップでの学びは、地球規模課題にもつながるゴミという問題について知識だけでなく情動を駆使して表現し、それを仲間と共有した学びであったといえます。知識に加えて情動でも世界を捉える学びは地球規模課題が深刻化する現代社会において、ことさらその重要性が帯びてくるでしょう。

英国シューマッハー・カレッジにおける教育 ~持続可能な暮らし方を学ぶ~

シューマッハー・カレッジのメインエントランス 英国南部の町、トットネスにシューマッハー・カレッジという教育機関があります。修士課程とショートコース、園芸の研修を開講しており、持続可能な社会の構築につながる学びを実践しています。その学びは「3H」、つまりHead(頭)、Hand(手)、Heart(心)の原則によって支えられています。知識を学ぶだけではなく、実体験と知識を統合させることをめざしているのです。筆者は、昨年の11月に開講された「ガンディーとグローバル化」というショートコースに参加しました。
 このコースの講師の一人は、シューマッハー・カレッジの創立者の一人であるサティシュ・クマール先生でした。サティシュ先生はガンディーに影響を受けて平和や環境のための活動家となった方です。そのため、コースではガンディーの非暴力の原則をサティシュ先生とのトークセッションで学ぶことが中心でした。セッションでは、ガンディーの唱えた原則について学び、そこからグローバル化した世界を問いなおして皆で話し合いました。このように、学ぶテーマについて問いと応答によって深めていくことが「3H」の原則にあるHeadの学びだといえます。
「ディープタイム・ウォーク」の様子 サティシュ先生のトークセッションに加えて、ゲストの先生によるワークショップやフィールドワークも受けました。1つ目は、人間の想像力の可能性を実感しながら学ぶことができるワークショップでした。2つ目に、「ディープタイム・ウォーク」という、地球が誕生してから現在までの時間の長さをカレッジ周辺の自然のなかを歩いて体感するワークを体験しました。どちらも実体験を通して学ぶワークですが、トークセッションはこれらのワークを受けて内容を発展させていくので、Headの学びを実体験と統合する試みがなされていることがわかります。
 シューマッハー・カレッジの実体験を通した学びで特徴的なものがHandの学びです。カレッジには農園があり、学生は園芸をしたり、そこで採れた野菜を使って健康的な食事をつくったりします。掃除も行い、いわゆる家事を自分たちで担います。自らの手を使ってこれらの家事を皆で分担することで、身のまわりの環境や他者、自分をケアすることを学ぶのです。
ある日の昼食 第3にHeartの学びに焦点を当てていきます。Heartの学びはカレッジの学び全体に内在化されています。例えば、上記に述べた2つのワークでは想像力のもつ可能性への希望や、地球への畏敬、環境破壊への痛みを感じました。これらのワークとセッションを往還させることで、Headの学びで得た知識にも感情が伴うようになりました。Handの学びでも、実際に行うことで他者と身のまわりの環境、自分自身をケアすることの大切さを実感できました。また、今回はカレッジの皆が集い、各々が抱えている問いなどを何でも語り合う場が設けられたため、仲間との心のつながりがより確かなものとなったと感じます。朝に行われる瞑想もHeartの学びの一環でしょう。
 シューマッハー・カレッジで学んだことは持続可能な暮らし方です。セッションやワークを通して人間が他者、自然と非暴力的に生きていく知恵を実感として得る。家事を通して自分と他者、自然を含めた環境のケアをする。この学びのサイクルのなかで同じ時間を過ごしている仲間たちと深く語り合うまでの仲となる。そして、自分の心とも丁寧に向き合っていく。このように自然と他者と自分自身を気づかいながら互いの関係性を再構築し、ともに生きていくことが、持続可能な暮らし方だといえるでしょう。そこで得た関係性は自分が今後生きていくうえでの土台となります。その土台が、カレッジを離れた後でも持続可能な暮らしを営み、希望ある未来を紡げるように学生たちを支えているのだと筆者は信じています。

参考文献:
シューマッハー・カレッジのホームページ(https://www.schumachercollege.org.uk/
サティシュ先生の世界観については、先生のご著作『君あり、故に我あり』(2005年、講談社)に詳しいです。

アフリカの砂漠でサスティナブルライフ:地球にやさしいESD

NaDEETの外観 アフリカ南部のナミビアにある砂漠の環境教育施設であるNaDEET(Namib Desert Environmental Education Trustナミブ砂漠環境教育基金)は、2018年にユネスコ/日本ESD賞を受賞した団体です。2002年にNPOとしてスタートし、2003年より環境教育施設としてナミビア国内の小中学生、教員、地域住民などを対象に環境教育の学びの場を提供しています。活動は、国内のみならず、海外の大学ともつながりながら、持続可能な社会の構築について実践的な学びを支えてきました。例えば、小学生や教員を対象にしたプログラムには、エネルギー・水・ゴミなど資源問題、生物多様性、光害(ひかりがい)などのワークがあります。
水の使用量の測定の様子 2019年9月に聖心女子大学・教育学科開講のスタディツアーで、筆者はNaDEETを訪問しました。NaDEETでは、「教えていることは、自ら実践する!」というモットーのもと、高床式の小屋に寝泊りしながら、サスティナブルライフを体験する中で学びました。NaDEETのシャワーや洗面台には、水道の蛇口はなく、使う分の水はタンクから、必要な分を自分で運んで使います。黒く塗られた容器の中で、日光によって温められた温水も使用できます。使った分量は記録し、一日の使用量をふりかえり、有限の資源をどのように使ったらよいか自ら考える時間となりました。また、太陽光を利用したソーラクッカーやソーラーオーブンでピザやパンも作りました。
ソーラクッカーとソーラーオーブン エネルギーの授業では、SDGs7(持続可能な開発目標7)に掲げられている「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」という目標の内容を踏まえながら、開発途上国の一般の市民たちの暮らしを事例に挙げながら、エネルギーの入手や貧困問題などについて学びました。
 ゴミ問題については、滞在中に出たゴミを全て分類し、極力再利用していく方法を探りました。紙ごみを、水で溶かし着火剤として再利用する体験も印象的でした。
 生物多様性をテーマにした屋外ワークでは、実際に動植物を観察したり手で触れたりしながら、砂漠の生き物の生態を学びました。過酷な砂漠環境で生き延びるために、動植物には様々な工夫が見られました。例えば、蒸散を防ぐための小さな葉や捕食を防ぐ棘、直射日光を反射するための白い枝、日中の暑さから身を守るため甲羅から白いワックスを出すトキトキ虫などが見られました。はじめは、虫に悲鳴を上げていた学生たちもワークが始まると、虫を探したり、手にのせたり、すっかり虫と友達になっている姿はとても印象的でした。
 星空観察のワークでは、産業の発達により、自然のリズムと相反する形で光が使われ、暗い夜が侵食されている実態を知りました。人工的な夜の光は、その土地に住む生き物の生体リズムを狂わせます。NaDEETのある自然保護地区は、国際ダークスカイ協会(IDA)からアフリカ大陸で一番初めに国際ダークスカイ地域(星空保護区)として認定されました。それは、光害の影響を考慮し、暗く美しい夜空を保護・保存するための優れた取り組みが評価されたためです。日没後、NaDEETでは、屋外での電灯など明かりの使用が控えられています。しかし、近隣のホテルの光が明るすぎるため、NaDEETは地域に対しても光害についての啓発と対話を今も続けています。この地域では80kmほど先にあるホテルの光が、肉眼で見えることにとても驚きましたが、このような努力で守られてきたナミブ砂漠の星空には、言葉が追いつかないほど圧倒されました。月が出ている時間は、月光が非常に強いため、星の印象はそこまで強くないのですが、月が沈んだ午前3時頃に見上げた満点の星空の迫力に思わず息を飲み、畏怖の念を覚えたことは今も忘れられません。
 最後に、NaDEETを創設したビクトリア・ケディングさんの小学生の娘さんの言葉を紹介します。
 「サステナビリティとは、母なる地球にやさしくすること。もらった分と同じ量を自然に返すこと。」

チャールズ皇太子提唱の「ハーモニー原則」と教育 ~不確実性の時代における希望への営み~

ダンフリーハウス 読者の皆さんは英国王室のチャールズ皇太子が「ハーモニー」と呼ばれている原則を提唱していることをご存知でしょうか。
 2019年10月26日~29日、この原則に魅せられたビジネス、医療、建築、農業、教育関係の専門家36人がスコットランドのダンフリーズ・ハウスという古い館に集い、文字どおり膝を付き合わせて地球の未来について話し合いました。ダンフリーズ・ハウスは王室が所有する2,200エーカーもの広大な土地にあり、そこでは「ハーモニー原則」に則った教育プログラムや有機農業などをチャールズ皇太子の財団が営んでいます。
ダンフリーハウスで「ハーモニー教育」を講義するダン校長先生 筆者は、この会議に招待され、トンボ帰りではありましたが、一連の討議に参加し、他の国々や国際機関からの参加者と一緒に皇太子に進言する機会を与えていただけました。参加してみて分かったのは、気候変動の影響で今、アクションを起こさなければ次世代は不可逆的な事態に見舞われるという認識を共有している専門家の集いであったということでした。参加者の誰もがこの10年が勝負であると捉えていたのです。なかには後戻りできなくなる転換点(ティッピングポイント)は近づいており、この5年くらいが勝負だと主張する人もいました。一部の科学者を除いて、ここまでの危機感を抱く日本人では決して多くないのではないでしょうか。
 集った人々にはもう一つ共通している点がありました。それは、教育に可能性を見出し、最も有効な「ツール」であると捉えていることでした。しかも、気候変動に関する知識を教えるのでなく、地球規模の温暖化を引き起こしてきたような教育、すなわち地球資源を犠牲のもとに物質的な豊かさを追い求めるような価値観や知識・技能を培ってきた教育のあり方を根底から変えねばならないという信念をもつ専門家たちでした。
タペストリーの間で皇太子を待つ専門家たち 晩餐会で親睦を深めた後、タペストリーの間で筆者を含めた10人がチャールズ皇太子に進言をする機会が与えられました。そこでの議論で希望を託された教育のひとつがESD(持続可能な開発のための教育)でした。折しも2030年に向けた‘ESD for 2030’(持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて)がユネスコ総会及び国連総会で決議される直前であり、SDGs(持続可能な開発目標)を実現するための教育の重要性が際立った会議でもありました。
 「国連の10年」として2005年に始まった当初のESDには、学校などの組織全体を持続可能な未来に向けて再編するという大胆な構想が描かれていました。ところが、実際には旧態依然たる制度内での試みにとどまる実践が少なくなかったと言えます。これを「ESDの矮小化」もしくは「ESDの断片化」と筆者は呼んできました。最近、SDGsでも同様の傾向が散見されるのではないでしょうか。
 こうした懸念に対してダンフリーハウスでの最後のセッションでは、チャールズ皇太子の提唱する「ハーモニー原則」こそ、持続可能な社会に向けて私たちの日常に変容を根幹からもたらすものであり、農業や建築のみならず教育でも本格的に英国内外で広められるべきであるという結論に達しました。
 話はトントン拍子に進み、この会議に参加していたリチャード・ダン氏(元アシュレイ小学校校長)が来日し、本年3月6日と7日に7つの「ハーモニー原則」をどう学校や地域で実践し得るのかについてセミナーを開催する運びとなりました(詳細は下記URLを参照)。なお、チャールズ皇太子の財団の支援によって翻訳され、印刷・製本過程で二酸化炭素の排出を極力抑えて作られた教師用ガイドブック『ハーモニー:私たちの世界の新たな見方と学び方』も当日、お披露目される予定です。

■ESD for 2030 のエッセンス 持続可能な未来を実現する6つのハーモニー原則
https://www.u-sacred-heart.ac.jp/event/20200122/2933/