小学校 道徳

2026.05.28 <No.061>

「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」 ―「本音」と「本気」を大切にした道徳授業(第4学年)

北海道別海町立上西春別小学校 教諭 井手隆太

「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」 ―「本音」と「本気」を大切にした道徳授業(第4学年)

1.はじめに

 私はこれまで計14校の教壇に立ち、自作を含め100以上の教材で500人近い子どもたちと道徳の時間を共にしてきました。その中で私が大切にしているのが、「本音」と「本気」です。
 子どもたちの「本音」に寄り添う:道徳の時間は、単なる「正解の確認作業」ではありません。きれいごとを疑い、「どうしてそう思うの?」と問い返すことで、迷いながら絞り出される言葉の中にこそ子どもたちの「本音」が宿っています。教師が肩の力を抜き、子どもたちの言葉に寄り添うことで、教室は安心して本音をさらけ出せる場へと変わります。
 波及する教師の「本気」:教師自身が本気で行動する姿を見せることも重要です。私が初めて教材を作ったのは、冬のマラソン大会がきっかけでした。マラソンの練習を見学してばかりの子どもたちに対し、飛び込み競技の玉井陸斗選手の映像(わずか2秒の演技のために毎日6時間の猛練習を積む姿)を見せ、子どもたちと「なぜ、こんなに頑張れるのか」を考えました。さらに私は玉井選手本人へ手紙を書き、いただいたお返事を授業で紹介したところ、子どもたちは自ら校庭へ走り出し練習に励むようになりました。「先生も本気だったから」という気付きが、教師と子どもの心を一つにしたのです。
 今回は「本音」と「本気」を大切にして行った教材作成と授業実践についてご報告します。

2.実践報告

 小学4年生(22名)のクラスで、神奈川県の小学5年生の体操選手・木川裕太さんをゲストティーチャーに招いた授業実践

(1)本実践の経緯(教材文「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」の作成)

 神奈川県横須賀市の体操クラブを見学する機会があり、そこで出会ったのが小学5年生の体操選手である木川裕太さんでした。コーチの励ましを受けながら、手の痛みに負けず、つり輪の技に何度も挑む裕太さんの姿が、糖蜜をかけて少しずつ大きくなる「金平糖」のようだと感じた私は、このときの体験をもとに「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」の教材文を作成しました。
 その後、全国大会での裕太さんの競技を観戦する機会を得ました。彼は最初の種目(あん馬)で最下位(72位)となりながらも、直後のつり輪で暫定1位の得点を出し、最終的にはつり輪で3位に入賞しました。このときの彼の心境や決意、覚悟を裕太さん本人と子どもたちとで一緒に考えたいと思い、学校にお招きしました。

(2)授業展開(全4時間)

1時間目(道徳):裕太さんと直接会う前に自作の教材文「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」を用いて授業を行いました。あえてタイトルの「こんぺいとう」の意味には触れず、子どもたち自身に解釈の余地を残しました。裕太さんの体操に打ち込む姿勢について、子どもたちは自分には真似できないと感じたり、逆に自身の打ち込む競技に置き換えて熱弁したりと、深く思考を巡らせていました。

「ゆうたくんとたくろうさんのこんぺいとう」

≪あらすじ≫
 暑い夏の日、小さな体操クラブで、ゆうたくんはコーチのたくろうさんの熱心な指導のもと、吊り輪や鉄棒などの体操の練習に励んでいます。ゆうたくんは何度も落ちてはすぐに立ち上がり、悔しさや痛みに耐えるような表情を見せながらも懸命に練習を重ねていきます。
 そのひたむきな姿を見守る「僕」は、「自分はひとつのことをこんなに積み上げたことがあっただろうか」と自身の人生を振り返るほど心を打たれます。そして、ゆうたくんの努力の積み重ねを、小さなザラメの粒に糖蜜をかけてできる「こんぺいとう」に重ね合わせます。

2・3時間目(体育):裕太さんが神奈川県から北海道まで来校しました。彼が美しい技を披露し、手押し車や倒立などの練習を共に行うと、体育館は競技会場のような熱気に包まれていました。子どもたちは自らアドバイスを求め、前のめりになっていきました。

4時間目(道徳):裕太さんを囲んで円のかたちになり、彼の「気持ち」や「心境」を深掘りする授業を行いました。裕太さんから話を聞くだけの学習にならないよう、子どもたち自身が彼の立場に立って考えたり、問いを投げかけたりして、裕太さん本人との対話を通して学びを深めました。

  • 内容項目
    A[希望と勇気、努力と強い意志]
  • 主題名
    やり抜く強い意志
  • ねらい
    小学5年生の体操選手・木川裕太さんの全国大会での体験について、本人と語り合うことを通して、自己決定に支えられた強い意志の在り方に気付き、自分が決めた目標に向かってやり抜こうとする道徳的実践意欲を育む。

教師の問い

児童と裕太君の対話の深まり

72位から1位という出来事をどう捉えるか。

裕太さん自身が「滅多に起こらないこと」と客観視したうえで、「奇跡を引き寄せる」可能性を感じていた。

応援があれば頑張れるのか。

周囲の声(外的要因)はブーストにはなるが、根本には「頑張ろうとする自分」(内的要因)がある。応援=元気球と表現していた。

なぜ努力し続けられるのか。

才能ではなく「(5年前に)自分でやると決めた」という自己決定が、5年間の継続を可能にした。楽しさを感じる自分の心に従った。

結果をどう総括し、未来に繋げるか。

自分のことではあるが、「たぶん納得」と表現していた。対話の中では悔しさはありながらも、足りない部分(あん馬等)を具体的に見据え、「自ら納得できる結果」のために向上する意志を語ってくれた。

3.おわりに

 遠距離の児童をゲストティーチャーに招いた本実践は、再現が難しい面もあります。しかし、ゲストティーチャーの活用に限らず、教科書を活用する場合であっても、目の前の子どもたちに合わせたオーダーメイドな授業を意識することが大切だと考えます。その期待も込め、本実践記録を残しました。
 教師の「本気」は、必ず子どもたちに伝わります。だからこそ、教師もまた教材を通じて自分自身の生き方を問い続けなければなりません。これからも、子どもたちが安心して「本音」を出し合い、何かに「本気」になれる授業を追求し続けていきたいと考えています。