「印象派を超えて ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」

 本展覧会は、単に点で描かれた作品を紹介するのではなく、「分割主義」という理念に着目しています。スーラは、純粋色の点で描く「分割主義」という手法を考案し、色の組み合わせがもたらす視覚的効果を探求しました。こうして色彩は、何かを再現するための手段であることを超えて、独立した一つの表現へと自立していったのです。純粋色へと「色を分割する」という新たな発想には、20世紀に隆盛する抽象絵画の萌芽が秘められていました。本展は、色という観点で、スーラからゴッホ、そしてモンドリアンまでを検証するという、美術史的にも重要かつ、斬新なコンセプトに基づいています。
 今回の展覧会には、ゴッホがアルルに移った1888年以降の作品も何点か出品されています。中でも最も有名な作品が「種まく人」です。ミレーの「種まく人」にインスピレーションを受けて描かれたこの作品は、厚い絵具で丹念に塗り込められ、色彩の強烈な力にあふれています。
 印象派にせよスーラにせよ、その目的の一つは、光をいかに表現するかにありました。しかしゴッホの場合、光を目に見えるように表現するというよりは、むしろ艶やかな光を放つ絵具そのものの力が前面に押し出されています。
 「種まく人」でも、黄色に緑を散りばめて塗られた太陽と、オレンジ色と青色の絵具を力強く敷き詰めた地面の表現が、ことさら私たちの眼を惹きます。一つ一つ、ぐいぐいと力強く置かれた青とオレンジは、補色の関係にあります。その強烈な効果は、ゴッホの激しい感情のうねりをダイレクトに私たちに伝えています。「種まく人」以外の出品作においても、黄色と青、赤と緑など、補色あるいは補色に近い関係にある色彩の対比が、実に効果的に用いられています。
 ゴッホの絵画は、絵具が放つ艶やかな効果が大きな特徴であり、実物から得られる印象は圧倒的です。

(国立新美術館 主任研究員 長屋光枝)

<展覧会情報>

  • 「印象派を超えて―点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」
  • 2013年10月4日(金)~12月23日(月・祝) 企画展示室1E

展覧会概要

  • 本展は、純粋色へと色を分割する「分割主義」という理念に着目して、スーラからゴッホ、そしてモンドリアンまでを検証するという、美術史的にも重要で斬新なコンセプトに基づいています。色の力に魅了され、その魅力を伝えようと奮闘した画家たちの作品約90点を通して、色そのものが有する豊穣な世界を追求します。

国立新美術館ico_link

  • 所在地 東京都港区六本木7-22-2
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 毎週火曜日(祝日又は振替休日に当たる場合は開館し、翌平日休館)/年末年始(2013年12月24日~2014年1月7日)

<次回展覧会予定>

  • 未来を担う美術家たち 16th DOMANI・明日展
  • 2013年12月14日(土)~2014年1月26日(日)
    毎週火曜日および2013年12月24日(火)~2014年1月7日(火) は年末年始メンテナンス休館

その他、詳細は国立新美術館ico_linkでご覧ください。

三菱一号館美術館名品選2013 ― 近代への眼差し 印象派と世紀末美術

 19世紀末のパリは、成熟する都市の大衆文化とともに版画芸術が花開いた時代であり、多くの画家=版画家たちが互いに影響し合いながら、様々な技法とスタイルによる個性豊かなオリジナル版画を生み出していきました。とりわけ石版画(リトグラフ)技法は、画家自身が描いた線を石の板にそのまま写し取って大量に複製できるため、芸術作品をより身近なものにしました。パリの歓楽街モンマルトルのダンス・ホール「ムーラン・ルージュ」のポスターや、「ジャヌ・アヴリル」「メイ・ベルフォール」など、モンマルトルのスターたちを宣伝するポスターを制作したアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、浮世絵から影響を受けた大胆な構図と色使い、簡潔かつ斬新なデザイン性によって、それまで広告に過ぎなかったポスターを芸術の域にまで高めていると言えます。

 ロートレックと同様にパリに生きる人々を主題にしつつ、よりフラットで均一な色の面の効果をさらに追求したのが、フェリックス・ヴァロットンの木版画でしょう。スイスで生まれ、パリで活動したヴァロットンは、ナビ派の画家の一人に数えられますが、その木版画は白と黒のみを用いた独特のスタイルを有しています。ヴァロットンの木版画には、彼特有の風刺的なユーモアが存在すると同時に、現代のわれわれが見ても色あせないデザインセンスが感じられます。このほかにも、ナビ派のピエール・ボナールやモーリス・ドニ、象徴主義のオディロン・ルドンら19世紀末の重要な作家たちによる版画コレクションからは、当時の版画芸術の興隆と広がりを見て取ることができるでしょう。

(三菱一号館美術館 学芸員 杉山菜穂子)

 

<展覧会情報>

  • 三菱一号館美術館名品選2013 ― 近代への眼差し 印象派と世紀末美術
  • 2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)

展覧会概要

  • ルノワールら印象派、そしてルドン、ロートレック、ヴァロットン。19世紀末パリを中心に、美術史上大きな変革期を生きた29人の画家たちの、夢と理想、自由の輝きに満ちた149点の三菱一号館美術館所蔵品を展覧します。

三菱一号館美術館ico_link

  • 所在地 東京都千代田区丸の内2-6-2
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜休館(但し、祝日の場合は開館し、翌火曜休館/12月24日は18時まで開館)/12月28日(土)~2014年1月1日(水・祝)

<次回展覧会予定>

  • ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義1860-1900
  • 2014年1月30日(木)~5月6日(火・祝)

その他、詳細は三菱一号館美術館Webサイトico_linkでご覧ください。

釈迦十大弟子

 「釈迦十大弟子」は釈迦の十人の弟子に普賢菩薩、文殊菩薩を加えた12の人物を六曲一双屏風に貼り込んだ作品です。1939年に制作し翌年国画会展に出品、1941年に洋画の新進画家に与えられる佐分賞を受賞しました。
 「わだば(私は)ゴッホになる」と、油絵画家を目指して、1924年に青森から上京した棟方は、展覧会で見た川上澄生(1895-1972)の版画にひかれ、やがて自らも版画の制作を始めます。1936年、長編詩を彫り込んだ板画絵巻「大和し美し」で頭角を現し、1938年には第2回文部省美術展覧会(新文展)に「勝鬘譜善知鳥版画曼荼羅(しょうまんふうとうはんがまんだら)」を出品、版画として初の特選を受賞しました。「釈迦十大弟子」も同時期のものです。白と黒の面の対比によって構成された切り絵のような作風で、美しさと力強さを兼ね備えています。
 板木には朴の木を用いており、上から下まで、また横幅もいっぱいに使って制作しています。両面を使用しているので板木は全部で6枚あります。普賢菩薩、文殊菩薩を彫り込んだ一枚は戦火で焼失してしまい1948年に作り直されました。
 戦後、新たに摺った作品を1955年、第3回サンパウロ・ビエンナーレに出品し最高賞を受賞、さらに翌1956年の第28回ヴェネツィア・ビエンナーレでは国際版画大賞を獲得、いずれも日本人初の受賞という快挙を成し遂げました。
 棟方は板の持つ性質を大事にしたい、板の魂を彫り起こすのだという想いから1942年以降、自らの版画を「板画」と呼び表しました。釈迦十大弟子も「板木のもっている力を無駄にせず、むきでるような方法をたてよう」と想いを込めて制作した力作です。

(棟方志功記念館 学芸員 天内敬子)

 

棟方志功記念館ico_link

  • 所在地 青森市松原2丁目1番2号
  • TEL 017-777-4567
  • 休館日 月曜日(祝日及びねぶた期間の8/2~8/7は開館)

<展覧会情報>

  • 秋の展示-「四季の彩り-花鳥風月を描く」
  • 2013年9月10日(火)~12月8日(日)

展覧会概要

  • 棟方の手掛けた四季折々の風物の板画を紹介。「柳緑花紅頌」「大原頌」、倭画「青森頌春夏秋冬図」をはじめ、十二ヶ月の四季の風物、四季を詠んだ短歌を題材に描いた作品を展示します。

<次回展覧会予定>

  • 冬の展示-「海の旅、山の旅-東海道棟方板画と信州油絵シリーズ」
  • 2013年12月10日(火)~2014年3月16 日(日)

その他、詳細は棟方志功記念館Webサイトico_linkでご覧ください。


現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス展

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アントニオ・ロペス「グラン・ビア」 油彩/キャンヴァス/93.5×90.5㎝/1974-81
(C)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
B0274

 アントニオ・ロペスは1960年頃からマドリードという都市そのものを絵画におさめるようになります。それらの絵画は、13歳の時に故郷を離れ首都に住み着いてから、長年日常生活を送る中で生まれた、マドリードに対するロペスの深い愛情が反映されたものでしょう。ある時は高層ビルの屋上からの俯瞰視点であったり、ある時は地上からの低い視点であったりと、さまざまな角度から見た都市景観作品を生み出していきました。
 本作はマドリードの目抜き通りであるグラン・ビアを描いた作品です。1974年夏のある日、ロペスは友人とともにこの地点を訪れ、早朝の太陽の光がビル群に反射して輝く光景に深く魅了されました。その美しい光を捉えるために、毎年夏になると朝6:30には現地へと向かい、同じ場所にイーゼルを立て、約20分間の制作を7年もの間続けました。刻々と移り変わる光はロペスに約20分間の制作しか許さなかったのです。
 本作はあまり大きい作品でないにも関わらず、画面左奥の消失点から通りに沿って建つビル群、そして手前のアスファルト道路まで、曲線を描きながらこちらに迫り来るようなダイナミックな展開を見せます。現実を描写したにも関わらず、そうとは思えないほど硬質で冷たい世界を創造したロペス芸術の金字塔と言える作品です。
 本展では、美術学校時代の初期作品から近作までの64点の作品により、ロペス芸術を包括的に紹介します。日本では細密描写を基にしたリアリズム作家と目されがちですが、彼の作品はそれに留まらない壮大な芸術観を秘めています。写真とは全く異なる人間の眼に忠実なリアリズムを体現することのできるアントニオ・ロペスは、スペインのみならず現存する作家の中でも最大の巨匠と言えるでしょう。

(長崎県美術館学芸員 森園 敦)

<展覧会情報>

■長崎県美術館ico_link

  • 所在地 長崎市出島町2-1
  • TEL 095-833-2110
  • 休館日 第2、第4月曜日(休日・祝日の場合は翌火曜日)

展覧会概要

  • スペイン現代美術の最重要作家アントニオ・ロペス(1936- )の日本初となる回顧展を開催します。彼が制作する油彩、素描、彫刻の各ジャンルから代表作64点を、「家族」「故郷」など7つの章に分け、わかりやすく紹介します。
  • 巡回:岩手県立美術館 2013年9月7日(土)~10月27日(日)

<次回展覧会予定>

  • 京都清水寺成就院奉納襖絵 中島潔「生命の無常と輝き」展
  • 2013年10月5日(土)~11月17日(日)

その他、詳細は長崎県美術館公式Webサイトico_linkでご覧ください。


空想の建築―ピラネージから野又穫へ―

アクリル/キャンヴァス/226.5×162cm/2005年 個人蔵 東京オペラシティ アートギャラリー寄託

アクリル/キャンヴァス/226.5×162cm/2005年 個人蔵 東京オペラシティ アートギャラリー寄託

 高さ634mの東京スカイツリーが完成して1年、多くの人々が訪れています。アラブ首長国連邦の都市ドバイでは、総高828mもの超高層ビルが2010年に完成し話題になりました。どちらも雲を突く高さの建造物です。人はより高くをめざし技術の粋を集め、こうした高層のタワーやビルを競い合うようにして造ってきました。
 高い塔や建物には実は長い歴史があります。旧約聖書には「バベルの塔」という建造物が登場します。世界中が同じ言語で話していた時代、人々は「天まで届く塔のある町を建て、有名になろう」(新共同訳聖書、創世記11:4)としました。神はそれを見て、人間が逆らい勝手なことをしないために、互いの言葉が聞き分けられないようにしました。言語が異なり意思が伝わらなくなったため塔の建設は途中で放棄され、民は世界中に散らばっていったといいます。「バベルの塔」は言語の多様性から生じる不和、異文化の衝突、さらには巨大な建造物が崩壊してゆく脆さをあらわすものとみなされます。
 「バベル(Babel)」をタイトルに持つこの作品でも、縦2mを超える大画面に天にも届きそうな建造物が描かれています。画面下部には船やテント状の小屋が細々と描きこまれ、中景にも建物らしきものが並びます。こうした画面下部と対比することで、中央に屹立する白亜の建造物が巨大かつ超高層であることが強調されています。大都市の一部のようにも見えますが人の姿はありません。いにしえのバベルの塔のように、この建物も建設途中で放棄されてしまったのでしょうか。建物の壁面をたどると、所々に見慣れない文字でネオンサインのようなものが取り付けられていることに気づきます。いったいどこの国の言葉なのでしょうか。そもそもここにはどんな人々が住み、どんな意図でこんな巨大な建造物を作ろうと思ったのか…この謎めいた世界を想像力で肉付けしてゆくのはこの作品を見るあなたにほかなりません。一貫して空想の建築をテーマに描き続けている野又穫の力作です。

(町田市立国際版画美術館 佐川美智子)

■町田市立国際版画美術館ico_link

  • 所在地 東京都町田市原町田4-28-1 
  • TEL 042-726-2771/0860
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日休館)

<展覧会情報>

  • 空想の建築―ピラネージから野又穫へ―
  • 2013年4月13日(土)~6月16日(日)

展覧会概要

  • 本展ではヨーロッパの古い版画から現代美術へ、時空をも飛び越える<空想の建築群>を展示し、世界を空想の建築というかたちで目に見えるものにしようとした人々の系譜をご紹介します。

<次回展覧会予定>

  • シリーズ<現代の作家> 
    反骨の画家 利根山光人展―バイタリティーを求めて―
  • 2013年6月22日(土)~8月4日(日)

その他、詳細は町田市立国際版画美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


LOVE展:アートにみる愛のかたち―シャガールから草間彌生、初音ミクまで

「LOVE展の展示風景」 両親|油彩/キャンヴァス/182.9×182.9cm/1977 (C)DAVID HOCKNEY COLLCTION TATE, LONDON D0226

「LOVE展:アートにみる愛のかたち」の展示風景(森美術館)
両親|油彩/キャンヴァス/182.9×182.9cm/1977
(C)DAVID HOCKNEY COLLECTION TATE, LONDON
D0226

 現在、六本木ヒルズ・森美術館の開館10周年記念展が開催中です。人間の根源的な心の働きである愛をテーマに集められた、古今東西の多彩な作品が「愛ってなに?」「恋するふたり」「愛を失うとき」「家族と愛」「広がる愛」の5つのセクションに区分されて展示されています。
 ホックニーの『両親』は「家族と愛」セクションにあります。長年連れ添った両親の、何気ない日常の一瞬を、愛情あふれる眼差しで描き出した作品です。ホックニーは自分に近しい人をモデルとした作品を数多く描いており、これ以前にも父親を描いた作品が幾つか存在します。また、この作品は母親の入院をきっかけにして制作されたものです。
 作品を見てみましょう。母親は作者であるホックニーをまっすぐに見据えていますが、父親は目を落として手許にある本を眺めています。この本は『Art and Photography』(エアロン・シャーフ著)という本だと言われています。ホックニーは絵画制作に写真を導入しており、この作品のためにも60枚以上ものカラー写真を撮影しています。写真撮影によって構図を決め、個々の人物を観察して制作にあたったのです。作品に描き込まれている本には,そういった写真を基にした絵画制作のヒントが記されていたのかもしれません。また、両親の間に置かれたカートの下段にはホックニーが青年期に影響を受けた『失われた時を求めて』(マルセル・プルースト著)のペーパーバックや、絵画技法を研究した18世紀の画家シャルダンの画集が置かれています。
 この作品には、両親に対する愛情のみならず、ホックニーに影響を与えたものなども描き込まれているのです。

(編集部)

<展覧会情報>

  • LOVE展:アートにみる愛のかたち―シャガールから草間彌生、初音ミクまで
  • 2013年4月26日(金)~9月1日(日)

展覧会概要

  • 愛をテーマに時代や地域を超えて選ばれた、美術史を彩る名作、意欲的な新作を含む約200点を通して、複雑で変化に富んだ愛の諸相を考察できます。絵画、立体、彫刻、インスタレーション、映像メディア表現、パフォーマンスなど多彩な表現を一度に体験できるのも特徴です。 

■森美術館ico_link

  • 所在地 東京都港区六本木6?10?1 六本木ヒルズ森タワー53F
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 会期中は無休

<次回展覧会予定>

  • 「アウト・オブ・ダウト展 ― 来るべき風景のために(六本木クロッシング2013)」
  • 2013年9月21日(日)~2014年1月13日(月)

その他、詳細は森美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


伊勢物語絵巻

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

 伊勢物語絵として伝わっている着彩画の中で、この作品は制作時期が最も早く、鎌倉時代後期(13世紀末から14世紀初め)で、物語の7段分を含んでいます。
 質の高い顔料や金銀の装飾を用いた伝統的なやまと絵で、伊勢物語の雅(みやび)の世界を表しているのが大きな特徴です。しかし、この絵巻は、それだけに止まらない見所を備えています。
 掲載場面は、伊勢物語第41段「洗ひ張り」にあたり、豊かな男と貧しい男に嫁いだ姉妹の話です。貧しい男に嫁いだ妹が、自分の夫が朝廷で着る大切な衣服の袍(ほう)を正月に備えて洗ったのですが、仕事に慣れておらず破いてしまいます。それを苦にして泣いているのを姉の夫が同情し、義兄妹の縁を詠んだ歌を添えて義理の妹に新しい袍を贈った、という温かな心情を語る場面です。
 絵を構成するのは、建物と菜園などの屋外風景で、建物は、やや高い視点から天井や屋根を取り除いた吹抜屋台(ふきぬきやたい)の手法を用いて描かれています。建物と菜園の間には赤く色付いた柿の実をついばむメジロが、画面右上には着物を洗濯する洗い張りの情景として、洗った布を竹棒で張り延ばして乾かす伸子張り(しんしばり)の一部が見えています。
 この絵は該当する伊勢物語の内容を直接的には表さず、話しのポイントとなる着物を洗う行為を、伸子張りによって暗示的に示しているのです。雅な世界を田園風景に置き換えたり、白と青2色の暖簾(のれん)が風に揺れ、菜園は青々するなど物語の情景とやや相違しているのですが、絵師はこのようにあえて紛らわしくして伊勢物語への探求心をくすぐる仕掛けを作っていると解釈すると、絵巻の魅力はさらに増していきます。こうした表現が随所に盛り込まれているのがこの作品の大きな特徴なのです。なお、この作品は国の重要文化財に指定されています。

(和泉市久保惣記念美術館館長 河田昌之)

■和泉市久保惣記念美術館ico_link

  • 所在地 大阪府和泉市内田町3丁目6‐12
  • TEL 0725-54-0001
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝・休日の場合はその翌日)

<展覧会情報>

  • 古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-
  • 2013年4月7日(月)~5月26日(日)

展覧会概要

  • 上記の日程で、和泉市久保惣記念美術館が所蔵する国宝・重要文化財を中心にご紹介する特別陳列「古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-」を開催します。「伊勢物語絵巻」は前期展示(4月7日~4月29日)で展示予定です。

<次回展覧会予定>

  • 常設展「北斎・広重の名所と風景-日本を巡る-」
  • 2013年6月28日(土)~7月28日(日)

その他、詳細は和泉市久保惣記念美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


瀬戸内国際芸術祭2013

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瀬戸内国際芸術祭2013(春)開催ポスター

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レアンドロ・エルリッヒ「美しく捨てられて」

 瀬戸内国際芸術祭は3年に一度開催されるアートトリエンナーレ。第2回目となる今回は香川県西部の5島(沙弥島・本島・高見島・粟島・伊吹島)を加えた全12の島々等を舞台に開催。さらに、会期を春・夏・秋の3期に分け、日本の四季の美しさもアピールします。
 従来、美術はホワイトキューブと呼ばれる世界中どこでも同じ白い壁の空間で、作品自体に目を向けるように展示されてきました。これとは異なって、瀬戸内国際芸術祭では、島々に展開するアートは作品が設置された景観の魅力を際立たせ、その土地の文化に目を向けさせてくれます。瀬戸内海は、日本で最初の国立公園として指定された地域です。静かな内海が作り出す景観は美しく、観光資源として素晴らしいものです。しかし実際には、過疎化や産業廃棄物の問題など、島はそれぞれに問題を抱えています。アートやデザインを通して、なぜこの地を選んで人々は暮らしてきたのかという土地の記憶、人々の暮らしや文化を見直し、世界の課題を考えるきっかけとすることが目指されているのです。
 「美しく捨てられて」(高松市)のレアンドロ・エルリッヒは「スイミング・プール」(金沢21世紀美術館)などでも知られるアーティストで、高松市東部の観光地・屋島山頂の、廃止になったケーブルカーの山上駅を作品にし、再び息を吹き込みます。また、夏に公開される横尾忠則(アーティスト)と永山祐子(建築家)による「豊島横尾館」(豊島)や、香川県内の中学生が参加した「オニノコ 瓦プロジェクト」(女木島)など、形式もさまざまな作品が新しく発表されます。
 ポスターなどのコミュニケーションデザインも見どころの一つです。ポスターは季節ごとに色が変わり、ひるがえる旗によって瀬戸内海の風の気持ちよさと四季の変化を表現します。多くのアートが展開される芸術祭のポスターは、それ自体が特別な主張をすることはなくシンプルなデザインで、来場者を心地よく迎えてくれます。

(編集部)

<瀬戸内国際芸術祭情報>

  • 瀬戸内国際芸術祭2013ico_link
  • 春:2013年3月20日(水)~4月21日(日)
    夏:2013年7月20日(土)~9月1日(日)
    秋:2013年10月5日(土)~11月4日(月)
  • 会場 直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島、高松港・宇野港周辺

芸術祭概要

  • 前回芸術祭から大幅に規模を拡大し、23の国と地域から約210組のアーティストが参加、全12の島々を舞台に作品を展開します。新しく加わった5島のうち、沙弥島は春、伊吹島は夏、高見島・本島・粟島は主に秋に作品が展示されます。

■瀬戸内国際芸術祭実行委員会事務局ico_link

  • 所在地 高松市サンポート1番1号 高松港旅客ターミナルビル6階
  • TEL 087-813-0741(平日)
  • FAX 087-813-0743
  • 総合インフォメーション
    TEL 087-813-2244(土日祝)

その他、詳細は瀬戸内国際芸術祭2013Webサイトico_linkでご覧ください。


「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」

白象黒牛図屏風

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長沢芦雪「白象黒牛図屏風」紙本墨画/六曲一双/各155.3×359.0cm/18世紀末頃

 江戸時代後期の京都では多彩な画家たちが輩出し、それぞれに個性的な画風を競い合いました。錦小路の青物問屋の主人・伊藤若冲(1716-1800)によるマス目描きの作品などはその最たるものですが、長沢芦雪(1754-1799)の絵も驚くべき内容を備えています。この画家は、写生画の一大潮流を築いた円山応挙(1733-1795)の高弟で、奇想の画家として知られる人物です。記録によれば、芦雪には顕微鏡で観察した蚤を屏風いっぱいに描いた作品もあったと言います。一寸四方の極小画面に五百羅漢を収めてしまった銅版画のような作品も最近、数10年ぶりに再発見・公開され、大きな話題となりました。こんな意表を突く作品を好んで描いた芦雪の代表作として知られるのが、今回展示されるこの屏風です。
 寝そべった姿でも、屏風からはみ出してしまうほど大きく描かれた象と牛。たぶん実物大を意識したものでしょう。よく見ると、白象の背には黒い2羽のカラスが止まり、黒牛の腹の前には白い子犬が1匹ちょこんと座っています。大小と黒白、好奇心旺盛なカラスと無邪気な子犬、置かれた位置も含め、ここに描かれたすべてが対照を際立たせるために存在しているわけです。ユーモラスこの上ない表現は、江戸絵画の開いた地平の広大さをも教えてくれることでしょう。
 今回の展覧会は、東日本大震災の惨状に心を痛められた米国在住のプライス夫妻による、「東北の人々に美しいものをお見せしたい」「次代を担う子どもたちの勇気を喚起したい」との思いから実現したものです。被災地を思い訪れること、それが復興に向けての大きな力となります。ぜひこの機会にお出かけください。

(仙台市博物館主幹兼学芸室長 内山淳一)

<展覧会情報>

  • 東日本大震災復興支援
    「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」

    2013年3月1日(金)~5月6日(月・振休)
    巡回:岩手県立美術館 2013年5月18日(土)~2013年7月15日(月・祝)
    巡回:福島県立美術館 2013年7月27日(土)~2013年9月23日(月・祝)
  • 休室日:月曜日(3月11日、4月29日、5月6日は開館)

展覧会概要

  • 伊藤若冲の作品をはじめ、長沢芦雪や酒井抱一・鈴木其一など江戸絵画の世界的コレクターとして知られるプライス氏のコレクションから、10数点の初公開作品を含む選りすぐりの優品100点で構成されます。仙台市博物館を皮切りに岩手県立美術館、福島県立美術館の被災地3県を巡回します。

■仙台市博物館ico_link

  • 所在地 仙台市青葉区川内26番地<仙台城三の丸跡>
  • TEL 022-225-3074

その他、詳細は仙台市博物館Webサイトico_linkでご覧ください。


「自画像(ベレー帽)」 黒田清輝作

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油彩/板/36×25.3cm/1897

 黒田清輝31歳の自画像であるこの作品には、いかにもフランス帰りの芸術家らしい風貌が表現されています。黒田は明治を代表する洋画家の一人で、近年も彼の作品がテレビCMに使われるなど、今なお高い人気を誇ります。「近代洋画の父」と呼ばれるほどの成功を収めた黒田ですが、画家としてのスタートは、意外にも多難なものでした。
 黒田は明治17年、17歳でフランスに留学しましたが、当初は元老院(当時の立法機関)議官であった父親の意向により法律の勉強をさせられていました。パリで画家や画学生らと接するうちに美術の道を目指すようになりますが、父親の許しを得られず、しばらくは日本にいる父を説得しながら法律と美術の勉強を並行せざるをえませんでした。
 「天性ノ好ム処ニ基キ断然画学修業ト決心仕候(=自分の気持ちに正直に、どうしても絵の修業をすると決意いたしました)」と父に宣言し、ようやく画家修行に専念した黒田は、パリ近郊の風光明媚なグレー村を拠点に数々の優れた作品を描きました。グレーで出会い、黒田のモデルを務めたマリアとの恋愛を巡っては、のちに親友の久米桂一郎が「(黒田が)妙なことを言って……狂人のようになっていた」と語っているところをみると、深い悩みを経験したようです。
 帰国後、30歳代前半の黒田は、得意とする人物描写の腕前を大いに発揮して「湖畔」「昔語り」「智・感・情」などの大作を次々に発表しました。この自画像に描かれているのは、悩み迷う青年期の面影を残しながら、いよいよ念願の画家として開花しつつある姿と言えるでしょう。

(久米美術館 学芸員 梶田里佳)

■久米美術館ico_link

  • 所在地 東京都品川区上大崎2-25-5 久米ビル8階
  • TEL 03-3491-1510
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日休館)、年末年始、展示替え期間

<展覧会情報>

  • 企画展「久米桂一郎・黒田清輝と東京美術学校の教え子たち」展
  • 2013年1月10日(木)~2月24日(日)

展覧会概要

  • 久米桂一郎と黒田清輝は共にフランス留学から帰国後、東京美術学校(現・東京藝術大学)に新設された西洋画科で指導にあたりました。今回の展示は、久米・黒田と、彼らの指導を受けた作家による絵画・彫刻作品を併せて鑑賞できる恒例の展覧会です。

<次回展覧会予定>

  • 久米美術館 常設展 I
  • 2013年3月12日(火)~4月21日(日)

その他、詳細は久米美術館Webサイトico_linkでご覧ください。