教育現場での生成AIの活用 第3回 ~画像で楽しむ~

 さあ、第3回目の連載を始めましょう。楽しんでいただけてますでしょうか。興味を持って、生成AIのニュースは、ご覧になっていらっしゃるでしょうか。生成AIの進化は凄まじいですね。毎日のように性能が更新されたとか、新しいサービスができたなどという情報が流れています。
 この連載は、入門を意識していますのでそこには触れませんが、ぜひ、最新ニュースのチェックもおすすめします。

 生成AIによる画像について2回ほど書いてきました。もう一回だけ書いてみます。それは、画像の分析です。今までは、指示の言葉で画像を描きました。指示の言葉を、絵の具のついた絵筆にして、書いたと言っていいでしょう。
 今回は、逆をやります。画像を文字にします。つまり、画像情報を文字情報に変換します。非連続型テキストと、連続型テキストに変えるという言い方もできるかもしれません。

管理栄養士登場

 例えば、皆さんのスマホの中にある食事の写真を使いましょう。それをChatGPTに読み込ませます。

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『質問』このお弁当のカロリーと栄養を計算してまとめてください。
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ChatGPT-4による回答例(*1)

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このお弁当には、小鮎(アユ)と炊き込みご飯が入っていますね。こちらのお弁当のカロリーと栄養素を概算してみましょう。

小鮎(アユ):

  • アユ4尾の重さは約80g(1尾20gとして)。
  • アユのカロリーは、100gあたり約110kcalです。
  • タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル(特にカルシウムとビタミンA)が豊富です。

炊き込みご飯:

  • お米の量はおおよそ200g(炊き上がり)。
  • ご飯200gのカロリーは約280kcal。
  • 炭水化物が主で、ごく少量のタンパク質も含まれます。

合計カロリーと栄養素:

  • アユのカロリー:約88kcal(80g)
  • ご飯のカロリー: 約280kcal(200g)
  • 合計カロリー:約368kcal

主な栄養素:

  • タンパク質:アユからのタンパク質が主で、合計で約18g
  • 脂質:アユは脂がのっている時期によりますが、おおよそ5-10g
  • 炭水化物:ご飯から約60g
  • ミネラルとビタミン:アユからカルシウムとビタミンAが豊富

このお弁当は栄養バランスが良く、特にカルシウムとビタミンAの摂取に良い選択です。カロリーも適度で、ダイエット中でも取り入れやすい内容です。
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 このように細かく分析してくれます。つまり、ある意味、専属の管理栄養士のような働きをしてくれるということです。写真だけでも結構やってくれます。つまり、食材と分量を入れなくとも大体のものは計算されてくるということです。
 他にも、もう少し使い方を工夫してみると…

  1. 朝ごはん、昼ごはんの写真を撮り、年齢、性別、体重を入れて「夕ご飯を提案して」というと、朝、昼に食べたものの内容を踏まえて、栄養バランスを考慮したおすすめメニューを提案してくれます。
  2. 年齢、性別、体重を入れて「2ヶ月後に2キロ痩せたい。それに合わせた基礎的な食事のメニューを提案して」というと、基本的な1日のメニュー例を提案してくれます。
  3. 冷蔵庫にある食材を並べて、写真を撮ります。「この食材から、料理を提案して」と尋ねると、画像に写した食材から作ることのできるメニューを提案してくれます。賞味期限の迫っているものを並べるといいと思います(^^)。

 など、色々なことが相談できますよ。

占い師登場

 画像情報を読み込ませて、分析させて、言葉で出力する。この雛形を使うと、占い師にもなれるわけです。そうです、手相です。
 私が、これを閃いたのは、大学に向かう車の中でした。慌ててコンビニの駐車場に車を停めて、お茶を買って、一息ついて落ち着いてから、自分の手の写真をスマホで撮って、スマホに入っているChatGPTのアプリで「この写真の手相を見て」と指示をしました。
 いやあ、感動でしたよ。本当に占ってくれるのですから。手のひらの写真と占いの結果は個人情報ですので、ここには載せません(^^)。載せませんが、ぜひお試しください(*2)。生成AIは、基本的に、悪いことは言いません。良いことだけを言います。生命線、知能線、感情線ぐらいの占いはしてくれますし、良いことだけ言ってくれます。
 そしたら、もう一つありますよね。思いつきますか?人相です。これもやりました。また、手相と人相を一緒にしてやりました。なかなかでしたよ。
 ただ、一方で思いました。(勝手にやられてもなあ)と。顔の写真さえあれば、人相を見られてしまうわけです。これからは、「勝手に自分の個人情報を分析されない権利」というのも必要になってくるかもしれませんね。

 今回は、教育のことには触れませんでした。(さて、これ、教育ではどう使ったらいいだろうか?)と皆さんに問いを立てて、試していただきたいからです。
 生成AIは、自分で問いを立てて、打ち込まないと始まりません。主体的なまなびです。ぜひ、何かの画像情報を使って、教育でやってみてください。
 続く。

*1:ここでは、ChatGPT利用の成果をわかりやすく説明するために、何度かやりとりした結果を便宜的に載せています。生成AIはその性質上、同じプロンプトを入力しても都度異なる回答が生成されますので、ぜひ試してみてください。
*2:ChatGPTに入力したデータを学習させないようにしたい場合は、オプトアウトを設定することができます。この設定をすることで、ChatGPTに入力したデータを学習・記録させないようにすることができます。

池田 修(いけだ おさむ)
京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校の国語科教員を経て現職。「学級を楽しく経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」をテーマに研究・教育を行う。著書は『作文指導を変える つまづきの本質から迫る実践法』、『子供の「困った発言」に5秒で返す 教師の「切り返し」』(明治図書)など多数。文部科学省学校DX戦略アドバイザー。生成AI教育的活用の研究開発に取り組む。

教育現場での生成AIの活用 第2回 ~イラストで楽しむ~

 みなさんこんにちは。
 京都橘大学発達教育学部の池田修です。生成AIの連載は2回目になりました。1回目でご案内した画像生成は楽しんでいただけましたでしょうか?人にもよるのですが、このお絵かきは、ハマる方はかなりハマります。私も結構ハマりました。
 今回も画像生成をやりましょう。画像生成の楽しみ方を、ご案内しましょう。

画像生成の活用

 生成AIは、OpenAIのChatGPT-4か、MicrosoftのEDGEというブラウザーにある、Copilotの「より創造的モード」を使いましょう。

1.自分の書いた文章をイラストにする

 *読者の皆さんの中には、学級通信を書いたり、企画書を書いたり、プレゼンテーションをされる方は多くいるかと思います。その文章にイラストを入れる場合、今はどのようにしているでしょうか?著作権フリーのイラストから、書いてある文章に合っているものを探してはめ込むということをしているのではないでしょうか。これ、結構大変ですよね。
 パラダイムシフトしましょう。探すのではなく、作るのです。その文章にぴったりのイラストを生成AIに描いてもらいましょう。*

 ということで、*から*の間にある文章を生成AIで絵にしてもらったのが、上のイラストです(*1)
 出てきたものをベースにして、自分のイメージに合うものを作ります。描かせます。私は学会の発表のプレゼンテーションの文言をイラストにしてもらったことがあります。なかなか優秀ですよ。

2.物語の登場人物をイラストにする

 「文章を描く」の延長ともいえますが、小説で描かれた登場人物をイラストにすることもできます。
 「授業で生成AIを活用する」という点でいえば、描かれたイラストを題材にクイズにしても楽しいですね。
 たとえば「国語の教科書に出てくる物語や小説の登場人物の絵を描きましょう。その絵を見て、多くの人が当てることができた作品を優秀作品にしましょう」というように。
 次のイラストは、私が国語の教科書にある、とある作品のクライマックスシーンを描いたものです。さて、何の作品でしょうか。誰を描いているのでしょうか。どの場面でしょうか。答えは、この文章の最後にあります(^^)。

3.音楽のイメージをイラストにする

 音楽もイラストにしてくれます。これをクイズにして遊んでも楽しいです。「このイラストは、誰の何という曲を描いたものでしょうか?」という問いです。
 クラシックの有名な曲をイラストにします。著作権が切れている作曲家の作品がいいと思います。例えば、「ショパンのノクターンの絵を描いて」というと、次のような絵を描きます。

 ただし、第1回にも書きましたが、ここでもAnchoringの問題を回避する必要があります。人間は、最初に見た情報を正しい情報だと思い込む脳の癖ですね。ですので、1枚だけ描かせておしまいにするのではなく、複数枚を描かせて、その中から自分のイメージに合っているものを選びます。描くのが簡単になった今、頭を使う場所は描くことではなく、選ぶことに移動したと考えても良いでしょう。
 Copilotであれば、4枚の絵を同時に描いてくれます。ChatGPT-4のデフォルトでは2枚です。このような絵から自分のイメージに合うものを選んで、作品とします。
 「ショパンのノクターンの絵を描いて」だけでも、このレベルの絵は描いてしまいます。ですが、ここに自分が解釈したノクターンの世界を「言葉」で書き加えていくと、そこには生成AIを活用する人の世界観が表現されることになるでしょう。
 私たちは、言葉を筆にして絵を描けるようになったのです。
 言葉が豊かであればあるほど、生成AIはその能力を発揮することになります。
 私は2023年の1月にChatGPTに出会い、このことを直感的に理解しました。そして、「あ、これは国語の先生のお仕事だ」と思い、ChatGPTにのめり込んでいったのでした。

 あれ?既定の文字数になりました。まだまだお伝えしたいことはあるんですけど(^^)。
 では、この「イラストで楽しむ」は第3回にも続きます。

「2.物語の登場人物をイラストにする」の答え
森鴎外作『高瀬舟』の登場人物の喜助。婆さんが行ってしまった後、「それから年寄衆がお出になつて、役場へ連れて行かれますまで、わたくしは剃刀を傍に置いて、目を半分あいた儘死んでゐる弟の顏を見詰めてゐたのでございます。」(*2)のシーンです。

*1:生成AIはその性質上、全く同じプロンプトを入力しても都度異なる回答が生成されます。
*2:青空文庫 森鴎外著『高瀬舟』より引用
https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/691_15352.html

池田 修(いけだ おさむ)
京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校の国語科教員を経て現職。「学級を楽しく経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」をテーマに研究・教育を行う。著書は『作文指導を変える つまづきの本質から迫る実践法』、『子供の「困った発言」に5秒で返す 教師の「切り返し」』(明治図書)など多数。文部科学省学校DX戦略アドバイザー。生成AI教育的活用の研究開発に取り組む。

教育現場での生成AIの活用 第1回 ~生成AIに触れてみる~

 みなさんこんにちは。
 京都橘大学 発達教育学部の池田修と申します。これから隔月で、「教育現場での生成AIの活用」というテーマで連載をすることになりました。よろしくお願いします。
 大学では、国語の授業の作り方などの授業を担当しています。その私がこの連載をお引き受けしたのは、実はICTと国語の授業づくりは非常に親和性が高いと考えているからなのです。また、2021年末に世の中に登場した、ChatGPTをはじめとする生成AI。これも実は国語の教師のお仕事だろうと考えています。その理由については、この連載の中でのちのち触れることとして、まずはみなさんにやっていただきたいことがあります。
 連載一回目は、「生成AIに触れてみる」ことにしたいと思います。

生成AIに触れてみる

 先ず、次のプロンプトをコピペして、生成AIに入れてみましょう。そうですね、Microsoft Edgeというブラウザから使用できるMicrosoft Copilot(マイクロソフト コパイロット)(*1)の「より創造的に」モードを使ってみてください。画像のように紫色の画面になると思います。

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パブリックドメインになった1928年のミッキーマウスが、日本の京都で和服を着て街中を散歩している絵を描いてください。
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 どうでしょうか?何かそれらしい絵が「生成」されたのではないでしょうか?(*2)他にも、みなさんが持っているアイディアで、絵を生成することが可能です。あれこれ遊んでみてください。

実際に作成した画像の一例

 次に、文章を生成してみましょう。保護者会の案内を生成させましょうか。同じく、以下のプロンプトとをコピペして、生成AIに入れてみてください。

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京都橘小学校の、保護者に向けた校長からの授業参観の案内文を書いてください。日付は、2024年7月5日です。時間は、9:00から12:00の間です。
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 どうでしょうか?ダミーの時間割なども加えられた案内文が提示されたのではないでしょうか。これで少し、生成AIとは何かご理解いただけたでしょうか?

実際に作成した案内文の一例

生成AIを使うときに注意すること

 著作権や人権を大事にして使うというのは、当然のことかと思います。しかし、実はすでに生成AI側で、著作権や人権を侵害する可能性のあるものは、生成しないように学習済みの膨大な語彙は訓練されています。このことから、著作権や人権への配慮は大切なことですが、問題になるような結果が生成されるケースは少ないと私は理解しています。
 注意することは以下の二つです。

  • Hallucination(ハルシネーション)問題
  • Anchoring(アンカリング)問題

です。
 まず、Hallucination問題。
 生成されたものを見て、(この内容は、事実と違う!)と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そうです。生成AIが生成する文章は、あくまでもドラフト(下書き)です。このドラフトを元にして、正確な情報に修正を加えながら、仕上げていく必要があるのです。
 生成AIは、正解のデータベースを持っていて、そこから正解を引っ張り出してくるものではありません。学習済みの膨大な語彙から、確率的に正しいと思われるものを選んで、文章に仕立てます。生成するわけです。
 その結果、確率的に正しくとも、内容的には間違っているものが提示されることがあります。これをHallucinationと言います。このHallucinationを減らすための工夫は色々と考えられていますが、それでも、現状では完全に無くすことは難しいと思われます。Hallucinationは避けられないという前提で、生成されたドラフトを磨き上げるということを、基本として使う必要があります。
 次に、Anchoring問題。
 人間の脳には、最初に見た情報を正しい情報だと思い込む癖があります。認知バイアスの一つです。これがAnchoringです。
 生成AIで生成された文章は、誤字脱字はなく読みやすい文章で提示されます。その際、一つしか生成を求めないと、その最初のものを良いものだと思い込んでしまい、それを採用してしまいます。しかし、これは危険です。
 特に、人によって主義や主張が分かれる文章を生成させるとき、一つの文章だけを生成させ、それを元に仕上げるのには無理があります。こんな時は、どうすればいいのか?私が勧めているのが、最初から「3つ提示してください」としてしまえばいいのです。
 こうしておけば、ユーザーは、その3つのうちからいいものを一つ主体的に選ぶことになります。Anchoring問題を回避することができます。

 まず第一回では生成AIがどのようなものか、その特徴と注意点についてお話しました。これらを踏まえて、どんどん使ってみることを強くお勧めします。
 では、また。

*1:Microsoft Copilot(マイクロソフト コパイロット)は、Microsoftによって開発された検索エンジン型のチャットボットで、生成AIの一種です。Microsoft Edge上では「Ctrl+Shift+.(ピリオド)」などで開くことができます。
*2:ミッキーマウス(1928年公開『蒸気船ウイリー』などの短編映画に登場したものに限る)は、著作権が切れ、2024年1月1日からパブリックドメインになったことから、こうして生成AIで生成することが可能になりました。

池田 修(いけだ おさむ)
京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校の国語科教員を経て現職。「学級を楽しく経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」をテーマに研究・教育を行う。著書は『作文指導を変える つまづきの本質から迫る実践法』、『子供の「困った発言」に5秒で返す 教師の「切り返し」』(明治図書)など多数。文部科学省学校DX戦略アドバイザー。生成AI教育的活用の研究開発に取り組む。

主体的・対話的に深く学ぶために 第8回 〜主体的・対話的に深く学ぶために〜

学習者の主体性とは

 これまで、学習者が主体性を発揮して学ぶ授業はどのようにすれば実現するのかということについて考えてきました。そして、このような授業を実現するために、情報活用・思考・自己調整のスキルを育成すること。そして、それらのスキルを発揮して学ぶことができる単元を構想し、授業を行うことを提案してきました。

図1 学習者の主体性

 学習指導要領には、学習者の主体性と関連して「主体的・対話的で深い学び」について示されています。このような学びを実現するためには、図1のように、主体的に学びを進める場面と対話的に学びを進める場面が設定された授業を実施する必要があります。ここで言う「主体的な学び」を実現する上で大切な力が自己調整スキル、「対話的な学び」を実現する上で重要となる力が情報活用スキル・思考スキルです。そして、これらのスキルを発揮しながら学ぶ上で、学習者が学習過程を把握するために学習計画を作成したり、自らの学習を確認・調節するために振り返りの時間を設定し、メタ認知をすることができるようにしたりする必要があると考えます。加えて、このような学びは単発で行っても効果はありません。図2のように、様々な教科・領域に波及させていくことで、子どもたちが主体性を発揮して学ぶことができるのです。

図2 主体性を発揮して学ぶ学習モデル(AK-Learning)
https://youtu.be/OJWJ3HG5qcc

主体性を発揮する学びのその後

 学習者が主体性を発揮して学ぶということは、人生そのものをより良くすることに繋がると考えます。例えば、学校教育の中で自己調整スキルを身につけることができた人は、就職した後も、仕事の段取りを考えながら仕事に取り組むことでしょう。そして、どのように仕事をすれば効率良く仕事が進むのかを考え、働き方を変えていくはずです。効率良く働くことができるようになれば、日常生活の中で自分の好きなことや挑戦したいことに取り組む時間を捻出することができます。これこそ、豊かに幸せにいるということではないでしょうか。また、自己調整スキルに加え、学校教育の中で情報活用スキルも高まっていたとします。すると、コンピュータを始めとする多様な情報機器を活用して短時間でうまく情報を集めたり、まとめたりすることができます。さらに、会社内の上司や同僚、または取引先の方々と上手くコミュニケーションを取り、協働的に仕事を進めることができるでしょう。さらに、これに加えて思考スキルも高まっていたとすると、受け手に伝わりやすい文章を書いたり、プレゼンテーションをしたりすることができたり、仕事がうまく進まないことの原因を冷静に考え、解決したりすることができます。このように仕事をすることができれば、きっと自らの仕事にやりがいを感じながら楽しく働くことができるのではないでしょうか。

 もちろん、これらのスキルが高まっているからと言って、その後の人生が全てうまくいくわけではありません。ただ、主体性を発揮して学べるということは、主体性を発揮して働ける、主体となって遊べる、主体的に楽しめるということにつながります。そのような力は、様々な困難に打ち勝ち、自らの力で人生を切り開いていく力であると考えます。
 これからの日本を、そして世界を担う子どもたちが、楽しくやりがいを持って新しい世の中を創造していくためにも、主体性の原動力となる学習スキルを育成し、それらを発揮する授業が広がり、発展していくことを願っています。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型: 自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

主体的・対話的に深く学ぶために 第7回 〜自己調整プロセス、スキルを軸とした単元・授業づくり〜

学習者が自らの学習を調整しようとする単元・授業を設計・実施するために

 学習者が自らの学習を調整しようとする単元・授業づくりをするにはどのようなことが大切なのでしょうか。このことについては第4回で触れたように、「見通す」「実行する」「振り返る」フェーズの中で、セルフラーニングカードを使いながら自己調整スキルを育成したり、それらのスキルを発揮しながら学ぶことができるように授業・単元を設計したりする必要があると考えます。
 しかし、授業者として授業を進めていると、「子どもたちが自己調整をすることができる授業になっていたのか?」「子どもたちは自ら学習を調整しようとしていたのか?」ということを評価したり、見取ったりすることが困難です。そこで、設計・実施した授業が自己調整学習になり得たのかを評価するために作成した「自己調整学習授業チェックリスト」を紹介します。

自己調整学習授業チェックリスト

 表1が「自己調整学習授業チェックリスト」です。このチェックリストでは、Schunk and Zimmermanが示した自己調整の段階と下位プロセス(1998)から日本の授業に援用しやすいと考えられる項目を抽出し、それらを学校現場に合った文言にして示しました。本チェックリストに挙げられた項目をもとに授業を確認することで、実施した授業が自己調整学習になり得ているのかを確認することができます。また、授業を計画した際に項目に当てはまる活動がどの程度あるのかを確認することで、これから行う授業・単元において学習者が学習を調整する場面・活動がどの程度あるのかを明らかにすることもできます。

表1 自己調整学習授業チェックリスト

 しかし、1時間の授業で全ての項目にチェックが入ることは難しいことです。したがって、授業設計をする際には、1時間1時間を分断して授業を考えるのではなく、単元を通して授業を計画し、1つの単元の中で、チェックリストの項目に当てはまる活動をできるだけ多く設定することができるように単元設計を工夫していくことが自己調整学習を実現する良い方法ではないかと考えます。

自己調整学習チェックリストの応用

 「自己調整学習チェックリスト」は教師が授業を設計したり、振り返ったりする際に活用するためだけのリストではありません。本リストを子どもたちに配付することが、自己調整学習を実現する上で効果的な手立てになると考えます。例えば、単元の学習を見通す活動(見通すフェーズ)に取り組む際に、子どもたちがこのチェックリストを確認すれば、自然と学習をうまく実行することができるかを検討したり、学習の最後に創り上げるもの(ゴール)を予想したりすることができると考えます。また、学習目標の達成に向けて学習を進めている際(実行するフェーズ)に、このリストを確認すれば、残り時間を意識したり、学習が上手く進んでいないと感じたときに他者に相談したりすることができると考えます。学習を振り返る活動(振り返るフェーズ)においても同様で、本リストを参照することで、自然と自らの学習を振り返り、次の授業に活かすことを考えることにつながります。
 ただ、本リストを子どもたちに配付するだけではこのようなことは起こりません。リストの配付直後は、本リストを参照する時間を授業内に確保し、教師の指示のもとで子どもたち自身が本リストと照らし合わせながら、自らの学習の進捗を確認する必要があります。また、子どもたちが確認するためのリストも表1のままでは、チェック項目を理解したり、自らの学習を確認したりすることが難しいことから、子どもたちの実態にあわせてチェックする項目の量を減らしたり、文言を子どもたちにとってわかり易い表現に改変したりして配付する必要があると考えます。
 そして、リストを配付してすぐに子どもたちが自己調整学習者になれるわけではありません。大切なことは、子どもたちがうまくチェックすることができなくても、これらの項目の意味を根気強く伝え、何度も繰り返しチェックする機会を設定することが、子どもたちのメタ認知する力を高め、引いては自己調整学習を実現させることにつながるのだと思います。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型: 自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • SCHUNK、D.H and ZIMMERMAN、B.J(1998)Self-Regulated Learning ―From Teaching to Self-Reflective Practice―. The Guilford Press

【本チェックリストについての解説動画】

主体的・対話的に深く学ぶために 第6回 ~探究プロセス、情報活用スキル・思考スキルを軸とした単元・授業づくり~

 児童・生徒が主体的・対話的に学ぶには、情報活用スキルや思考スキルを発揮して学ぶ授業を構想する必要があります。情報活用スキルや思考スキルを発揮して学ぶ授業とは、教師が教室の前に立ち、発問したり板書したりする時間をできるだけ短くし、子どもたちが自立して学ぶ授業形態が基盤になります。このように子どもたちが、自立して学ぶ環境が確保されることで、子どもたちが情報活用スキルや思考スキルを発揮しなければならい状況を創り出すことができると考えます。

表1 学習プロセスと学習スキル

 しかし、子どもたちが情報活用スキルや思考スキルを発揮する授業を構想すると言ってもそれがどのような授業であるのかはある程度の枠組みながければ、構想することができません。そこで、子どもたちが学習スキルを発揮する学習プロセスとして、探究プロセスと単元縦断型プロセスを紹介します。探究プロセスとはご承知の通り「課題設定、情報収集、整理・分析、まとめ・表現」のプロセスであり「総合的な学習の時間」において基本となるプロセスとして示されています。私は、このプロセスが総合的な学習の時間だけでなく、各教科の学習においても適用されることが重要であると考えています。なぜなら、このようなプロセスで学ぶことを子どもたちが理解し、実行することで学習の主体者となり、自ら学習スキルを発揮して、学びを進めていくことができると考えるからです。しかし、各教科の授業を探究プロセスで進めると、どうしてもそれぞれの教科で身に着けなければならない知識及び技能が十分に定着しないという悩みに陥ってしまいます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。それは、おそらく子どもたちがその教科・それぞれの授業で扱う情報を多面的に見ることができなくなるからではないかと感じています。教師が主体となって授業を進めていた際は、教科の目標達成に向かう情報を子どもたちに提示するとともに、その情報を多面的に見て、考えを深めることができるような発問をし、理解を深めていました。しかし、子どもが主体となって授業を進めると、課題に対する「答え」を探して、その「答え」が見つかれば課題が解決したと勘違いし、その教科で深めるべき知識や技能が十分に定着しないままに、授業を終えてしまうことになってしまうのだと思います。したがって、子どもたちが主体として学ぶ上で、探究プロセスを基本としながら、そのプロセスの中に、「本時の課題の達成に向けた情報を収集するプロセス」「収集した情報を整理し、理解するプロセス」さらに「整理した情報を、教科の見方・考え方を働かせながら多面的に見るプロセス」が組み込まれる必要があるのではないかと考えます。
 そのような考えから導き出したのが、探究プロセスを細分化して創り出した単元縦断型プロセスです。単元縦断型プロセスは、表1のように探究プロセスを9つのプロセスに分割し、それぞれのプロセスで発揮する情報活用スキルと思考スキルを明らかにしています。単元縦断型プロセスを基に授業を構想することにより、子どもたちは課題が単元を縦断する学習を体験することができます。課題が単元を縦断する授業では、子どもたちが単元の授業を通して課題を意識し、追究して学ぶ必要があります。このように課題を常に意識して、課題の解決に向かおうとする中で、子どもたちは自然に学習スキルを発揮して主体的に学びを深めていくことができるのです。
 単元縦断型プロセスについて詳しく説明すると、ここには書ききれませんので、これらのプロセスを解説した動画のリンクを以下に貼ります。単元づくりの参考になれば幸いです。

単元縦断型プロセス

  1. 問いを見出す
  2. 解決策を考える
  3. 情報を収集する
  4. 情報を関連づける
  5. 情報を吟味する
  6. 考えをつくる
  7. 新たな価値を創造する
  8. 創造した価値を発信する
  9. 単元の学習を振り返る

単元縦断型授業についての再生リスト

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型: 自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 木村明憲『主体性を育む学びの型: 自己調整、探求のスキルを高めるプロセス』さくら社、2022

主体的・対話的に深く学ぶために 第5回 ~スキルを発揮して学ぶ単元・授業づくり~

 これまで、子どもたちが主体的・対話的で深く学ぶ上で、情報活用・思考・自己調整といったスキルを育成することの重要性について述べてきました。今回からの後半4回の連載では、子どもたちがそれらのスキルを習得した後、スキルを発揮して学ぶためにどのような授業を行う必要があるのかについて、書き進めて行きます。

図1 学習スキルの育成と発揮

学習スキルの育成と発揮のプロセス

 図1は学習スキルの育成・発揮過程について整理した図です。学習スキルを育成するとは、子どもたちが習得しようとしているスキルを意識して学習に取り組んでいる状況であると考えます。また、子どもたちが主体的にスキルを発揮して学ぶ状況は、学習活動の中で無意識にスキルを発揮し、学びを進めている状況であると考えます。
 このような定義のもとに子どもたちのスキルを育成するには、まず、「(子どもたちが)スキルを身につける必要性を感じる」必要性があると考えます。例えば、タブレットPCを活用する上でタイピングスキルを高めることは非常に重要なことです。しかし、学習者である子どもたち自身が、「タイピングが早くなることが学習する上でとても大切なことである」という必要性を感じなければ、スキルは向上しにくいということです。次に、「身につけるべきスキルが何かを理解する」ことです。先程のタイピングを例に挙げるとすると、タイピングにおいて身につけるべきスキルとは、キーボードのどこに何のキーがあるのかの知識と、文字入力を行う上でのローマ字についての知識、そして、入力した文章を頭の中でローマ字に変換し、適切な文字のキーを素早く押していくという技能であると考えます。このように高めたいスキルがどのような要素になっているのかを考えることで、身につけたいスキルについて理解することができると考えます。そして、最後に「身につけたいスキルを意識して実行する」さらに「スキルを意識して何度も繰り返し練習する」ことです。何事も「これでよいのか」「この方法でうまくなるのか」ということを意識(メタ認知)しながら取り組まなければ、卓越したスキルは形成されません。このように意識をしながら様々な教科・領域で身につけたい・高めたいスキルを繰り返し経験することがスキルを育成する上で非常に重要なことなのです。
 教師は、子どもたちのスキルを育成するために、指導・支援を行います。それと同時に、子どもたちがスキルを発揮して学ぶために、そのように学ぶことができるような単元・授業を構想することが重要になってきます。スキルを発揮して学ぶことができる単元・授業とは、子どもたちが自ら自己調整的・探究的に学ぶことであると考えます。表1は、子どもたちが学習スキルを発揮しながら主体的に学びを進めるプロセスを整理した表です。この表では、子どもたちがスキルを発揮しながら主体的に学ぶプロセスを「自己調整」のプロセスと「探究」のプロセスとして整理しました。教師がこのようなプロセスをもとに単元・授業を構想することにより、子どもたちはそれぞれのプロセスで、習得したスキルを発揮して主体的に学びを進めていくことができるのだと考えます。

表1 スキルを発揮して学ぶ学習プロセス

 表上段の自己調整は、自己調整学習の理論を基に、「見通す(予見)」「実行する(遂行)」「振り返る(内省)」のプロセス を示しています。このプロセスは単元のプロセスであるとともに、1時間の授業のプロセスでもあります。自己調整学習とは、自分自身や自らの学習をメタ認知しながら、スキルを発揮して学ぶ学習です。そのため、表に示している通り、単元のような長期の学習も、1時間の授業のような短期の学習も、子どもたちがこのようなプロセスでスキルを発揮し、学習を調整していくことができると考えます。
 表下段の探究は、学習指導要領に示されている探究プロセス「課題の設定」「整理・分析」「まとめ・表現」 です。総合的な学習の時間においては、探究プロセスを基に学習を進めることが最適であると考えます。ただ、教科学習において子どもたちが探究的に学ぶためには、探究プロセスを細分化し、教科の見方・考え方を働かせながら学ぶ、場面を設定する必要があります。そのような視点から考え出したプロセスが「単元縦断型プロセス」 です。子どもたちは、「探究・単元縦断型プロセス」で構想された単元で学ぶことで、情報活用スキルや思考スキルを発揮して主体的・対話的で深く学ぶ授業が実現するのです。
 これらのプロセスを複合して単元・授業を構想することにより、図1にあるように、まず同じ教科、他教科でスキルを発揮して学ぶことができるようになり、次に、委員会やクラブ活動などその他の学校での学びでスキルを発揮することができるようになる。そして、学校や家庭での日常生活においてスキルを発揮して、生活することができるようになるのです。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型: 自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 木村明憲『主体性を育む学びの型: 自己調整、探求のスキルを高めるプロセス』さくら社、2022

主体的・対話的に深く学ぶために 第4回 ~学習を調整するためのスキルを鍛える~

主体的に学習に取り組む態度

 2017年告示の学習指導要領では、資質・能力の三本柱として「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」が示されました。その中で、「学びに向かう力・人間性等」は、「主体的に学習に取り組む態度」として「観点別評価を通じて見取ることができる部分」と「個人内評価を通じて見取ることができる部分」があると示されています。さらに、これらの評価の在り方について「粘り強い取組を行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」で評価される必要があると示されています(文部科学省 2019)。ここで示された、「自らの学習を調整しようとする側面」については、SCHUNK and ZIMMARMAN(1998)が示した自己調整学習の考え方が参考になります。SCHUNK and ZIMMARMAN(1998)は、自己調整学習のフェーズを3段階で示しています。これを学校現場に馴染む言葉に置き換えると、「見通す」「実行する」「振り返る」と表現できると考えます。ここでは、これらのフェーズで子どもたちが発揮する自己調整スキルを明らかにした上で、子どもたちの自己調整スキルの育成と発揮について考えていきたいと思います。

図1 自己調整学習者を育てるセルフラーニングカード

子どもたちが自己調整学習者になるために

 図1は、子どもたちが自己調整学習者になるために作成した「セルフラーニングカード(YouTubeでの解説) 」です。このカードは、自己調整学習のフェーズ(大きなまとまり)を左端に「見通す」「実行する」「振り返る」と示しています。そして、それらのフェーズをプロセス(少し小さなまとまり)として「目標」「計画」「確認」「調節」「評価」「帰属」「適用」と示しています。これらはプロセスであるとともに、そのプロセスで学習者が発揮するスキルであると考えます。このような自己調整学習の流れを1時間の授業や単元に当てはめ、日常の教科学習の中で意識していくことで、子どもたちは少しずつ調整することの意味を理解し、主体的に学習を調整する自己調整学習者へと成長していくのです。

自己調整学習のプロセスとスキル

 「見通す」フェーズのはじめは「目標」のプロセスです。ここでは子どもたちは「目標設定スキル」を発揮して学びます。「目標設定スキル」とは、課題を基にこれから学ぶ学習の問いを導き出す力であると考えます。これから実行する授業や単元の問いを導き出し、学習目標を明確にすることで、その授業・単元でどのようなことに取り組めばよいかということが明らかになるのです。「セルフラーニングカード」では、問いを導き出すための例として、「問いを広げる」「問いを順序立てる」「問いをしぼる」の3つのステップと、それらのステップで考えを深めるための支援となるシンキングツールを示しています。次に、「見通す」フェーズの次のプロセスである「計画」のプロセスについてです。ここでは、学習の計画を立て、その後の学習の見通しを具体的にします。「セルフラーニングカード」では、学習計画表(レギュレイトフォーム)を例にあげて示していますが、学習目標をTo doリストにまとめたり、タブレットPCのカレンダーに学習の予定を入力したりすることも学習を調整する上で効果的な方法であると考えます。

 次に、「実行する」フェーズでは、「見通す」フェーズで明らかにした目標や計画を基に、自らの学習をメタ認知し、学習を確認したり、調節したりします。図2は、Nelson & Narens(1994)に筆者(木村)が加筆したメタ認知過程と認知過程の図です。

図2 メタ認知過程と認知過程

 この図の通り、「実行する」プロセスでは、子どもたちが学習を進めながら、時おり対象レベルからメタレベルにあがり、自らの学習活動をモニタリング(確認)することが大切であると考えます。確認する際は、実行している活動が「目標からズレていないか?」「学習方法は適切か?」「残りの学習時間で課題が解決し、目標が達成するのか?」の3ステップで確認します。そのような確認を通して、目標からのズレや方法が不適切であると感じたり、残りの学習時間で課題が解決しないと感じたりした際に学習のコントロール(調節)を行うのです。このように、「実行する」フェーズで学習を確認したり、調節したりすることは直ぐにできるものではありません。図3のようなフローチャートを配付し、確認タイムをつくるなどして、学習を確認したり、調節したりする活動をくり返し経験し、これらのスキルを高めていくことが大切です。

図3 学習調整フローチャート

 最後に「振り返る」フェーズでは、これまで行ってきた学習を「評価」し、なぜそのような結果になったのかの理由を考えます。このように評価の理由を考えることを「帰属」と言います。そして、評価や帰属したことによって明らかになった学習の成果や課題を次の時間や今後の学習にどのように活かす(「適用」)ことができるのかを考えるのです。「セルフラーニングカード」では、「評価」のプロセスを課題・目標と結果を比較し、「うまくいったこと(成果)」「うまくいかなかったこと(課題)」を明らかにすることを提案しています。このような視点で振り返りを記述すると、「内容」についての振り返りと「方法」についての振り返りが記述されます。これまでは「内容」についての振り返りが重要視されてきましたが、子どもたちが自ら学びを進めていく力を高めるためには、「方法」について振り返ることも大切なことです。次に、「帰属」のプロセスでは、うまくいったこと・うまくいかなかったことの理由や原因を考えます。「なぜ、うまくいったのか」「なぜ、うまくいかなかったのか」ということを考えることにより、次の授業・学習は「どのように取り組めばよいのか」「何を頑張ればよいのか」という、今後の学習目標の候補を見出すことができるのです。これらをリスト化(表1)しておくと、目標を設定する際にこれまでの学習の成果や課題を基に目標を立てることができます。最後に「適用」のプロセスです。ここでは、今後の学習、次の授業で活かせるところを考えたり、具体的に活かすことを決めたり、活かす場面を考えたりします。活かせることを考えるのは、表1の「活かせるところ」の枠のように、「うまくいったこと」「うまくいった理由」を基に考えると具体的な活かせる場面を思い浮かべることができるのではないでしょうか。このプロセスは、本時の学習の振り返りと、次の授業・学習をつなげる非常に重要なプロセスなのです。

表1 学習振り返りリスト例

子どもたちが自己調整学習者になるための指導

 提案した「セルフラーニングカード」は、カードに示されたプロセスやスキルを子どもたちが意識して学ぶことにより、自己調整プロセスを理解したりスキルを習得したりすることにつながると考えています。したがって、カードを配付するだけでは効果はありません。また、カードを基に2、3回実践を実施しても効果は見られないでしょう。大切なことは、様々な教科・単元で、子どもたちが「学習を調整している」という意識をもって、活動に取り組むことです。能力は、習得したい力を意識化し、何度も繰り返し経験することで身についていきます。情報活用スキルや思考スキルとともに、子どもたちの自己調整スキルを高め、主体的に学習を自己調整する指導が広がることを期待します。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領
  • 文部科学省(2019)児童生徒の学習評価の在り方について(報告)
  • SCHUNK、D.H and ZIMMERMAN、B.J(1998)Self-Regulated Learning ―From Teaching to Self-Reflective Practice―. The Guilford Press
  • 自己調整学習研究会 編『 自己調整学習:理論と実践の新たな展開へ』北大路書房、2012

【参考動画】

※執筆者・木村先生よりお知らせ
上記の内容に関連した書籍が2023年2月上旬刊行予定です。
『自己調整学習〜主体的な学習者を育む方法と実践〜』明治図書

主体的・対話的に深く学ぶために 第3回 ~考えるためのスキルを鍛える~

思考スキルとシンキングツール

 子どもたちが主体的に学びを進めたり、他者と協働して学びを深めたりする上で、考えるためのスキル(思考スキル)を鍛える必要があります。泰山ほか(2014)は、教科共通の思考スキルとして19のスキルを挙げています。また、黒上(2017)は、15の思考スキルを挙げ、それらの思考スキルとシンキングツールとの対応を明らかにした上で、シンキングツールを活用してどのように思考スキルを育成していけばよいかについて提案しています。さらに、小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編(文部科学省2017)は、思考スキルを「考えるための技法」と呼び、10の技法を例示しています。このように、子どもたちが主体的に考えを深めたり、広げたりするためには『考えるためのスキル』である思考スキルを高めていくことが重要なのです。

シンキングツールの活用が思考スキルを高める

 黒上(2017)が提案するように、思考スキルを高める上で、シンキングツールを活用することが効果的であると考えます。しかし、「シンキングツールを活用していれば思考スキルが高まる。」というものではありません。思考スキルが高まり子どもたちが主体的に考えを深めたり広げたりする理想の姿は、課題や目標を解決・達成するために発揮する思考スキルが何かを理解した上で、適切なシンキングツールを選択して学習を進めている姿であると考えます。このように子どもたちが自らシンキングツールを選択するためには、思考スキルとシンキングツールの関係を理解し、シンキングツールの活用方法を習得している必要があるのです。このような指導は、容易なことではありません。なぜなら、指導者が全てのシンキングツールの活用方法と思考スキルとの関係を把握し、シンキングツールの活用方法を理解しなければならないからです。そこで私は、これらのことを子どもたちに指導しやすくするために、情報活用スキルカードに思考スキルとシンキングツールの対応表を掲載することにしました(図1)。子どもたちがこのような対応表を常に携帯することにより、思考スキルとシンキングツールの対応を指導しやすくなります。子どもたちも常に思考スキルやシンキングツールを目にすることで、これらが身近なものになっていくことでしょう。また、課題や目標を解決・達成するための思考スキルを示し、子どもたちが表を見ながら適切なシンキングツールを選択するような学習活動を行うこともできるようになります。つまり、情報活用スキルカードがあることで、子どもたちはそのカードを手がかりに思考スキルとシンキングツールの対応を理解し、自ら選択して活用することができる足がかりになるのです。

図1 情報活用スキルカードと思考スキル・シンキングツール
情報活用スキルカードのダウンロードはこちらから

スキルの指導は、意識をして繰り返す

 私は、子どもたちがシンキングツールを闇雲に活用しても思考スキルは高まらないと考えています。思考スキルを高めるためには、思考スキルとシンキングツールの関係を理解し、「比較するためにベン図を使っている」「構造化するためにピラミッドチャートを使う」といったように、何のためにシンキングツールを活用しているのかを意識しながら繰り返し活用することが大切なのです。スキルを高める上で「意識をしながら繰り返す」ということは鉄則です。これはスポーツを例にあげれば明白かと思います。どのようなスポーツでもどのように練習すればうまくなるのか、スキルが高まるのかを考え、指導者のアドバイスや他者のプレーを頭に浮かべながら改善すべき点を意識して繰り返し練習することで少しずつうまくプレーすることができるようになります。これは、学習におけるスキルも同じであり、思考スキルにおいても言えることです。

シンキングツールの指導は「助走」「習得」「活用」

図2 シンキングツールの指導ステップ

 このようなことを踏まえた上で、子どもたちの思考スキルを高めるためのシンキングツールの指導段階として「助走→習得→活用」の3ステップを提案します(図2)。まず、シンキングツール指導の「助走」は、情報活用スキルカードなどの、思考スキルとシンキングツールの対応がわかる教材を子どもたちに配付することです。このような教材が配付されると、多くの子どもたちがシンキングツールに興味を示すことでしょう。そして、シンキングツールの使い方を予想し、授業や家庭学習などで使ってみる子も出てくるのではないでしょうか。シンキングツール指導の「助走」段階は、子どもたちのシンキングツールに対する興味を高め、それらの図を子どもたちの身近な存在にしていくことです。
 次に「習得」段階です。「習得」段階では、教科・領域の授業の中でシンキングツールと思考スキルについてしっかりと指導します。指導すべきことは、

  • 活用するシンキングツールと思考スキルの関係
  • シンキングツールのどこに何を書くのか
  • シンキングツールを使うとどのようなことが起こるのか、わかるのか
  • シンキングツールに書いた後、どうするのか

の4点です。このような指導を教科・領域の文脈に合うように行っていくことで、子どもたちはシンキングツールについての理解を深めていきます。
 最後にシンキングツールの「活用」段階です。「活用」段階では、様々な教科・領域の授業、クラブや委員会活動、家庭での自主学習など様々な場面で思考スキルを意識しながらシンキングツールを活用していきます。このように様々な場面で活用することにより、シンキングツールを教科横断的に活用することができるようにあり、様々な場面で思考スキルを発揮して学ぶことができるようになるのです。

思考スキルを高めるThink Training

図3 思考力を高めるThink Training
詳細はこちらへ

 思考スキルを育成するために作成したもう一つの教材としてThink Trainingがあります(図3)。これらは、シンキングツールを活用して思考スキルを高めるための教材です。この教材に取り組むことで、シンキングツールと思考スキルの関係や、シンキングツールのどこに何を書けばよいのかということを理解することができます。練習問題となっていますので、学校での帯時間や家庭学習で活用するのが効果的です。この教材に取り組むことで、「これは、ピラミッドチャートが使えませんか」「私は、フィッシュボーンチャートで整理できると思います」といった声が子どもたちからあがるようになるでしょう。図4、5はThink Trainingに掲載されている教材例です。写真を変えることで授業内容に合った教材に加工することもできます。子どもたちの思考力を育成するための一助となれば幸いです。

図4 多面的に見て考えを深めるThink Training

図5 考えを広げ、問いを導き出すThink Training

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 泰山裕、小島亜華里、黒上晴夫(2014)「体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討 : 学習指導要領とその解説の分析から」『日本教育工学会論文誌』37巻第4号、p375-386
  • 黒上晴夫(2017)「初等中等教育におけるシンキングツールの活用」『情報の科学と技術』67巻10号、p521-526
  • 文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』

主体的・対話的に深く学ぶために 第2回 〜情報活用スキルを視覚化する〜

 情報活用能力の知識及び技能を高めるということは、子どもたちが情報活用スキルを身につけることであると考えます。情報活用スキルとは、タブレットPCなどのICTを使いこなすことができる力であるとともに、情報そのものを集めたり、整理したり、まとめたり、伝えたりする力でもあります。このようなスキルを高めることにより、子どもたちはそのようなスキルを発揮して自ら課題を解決し、主体的に学ぶことができるようになるのです。

情報活用スキルを習得するには

 それでは、情報活用スキルを身につけるにはどのような指導・支援が必要なのでしょうか。情報活用スキルなどのスキルは、スキルを発揮して学ぶ経験をすればするほど高まり、短時間で多くの情報を効率よく処理することができるようになります。これは、武道や茶道、スポーツなどと同様で何度も繰り返して練習することが能力を高める上で重要なことなのです。つまり、情報活用スキルを高めるために情報を活用する活動を授業や家庭学習で何度も経験することが大切だということです。
 しかし、これまでの授業においても子どもたちは、情報を活用する活動をほぼ毎時間、何度も経験しています。にもかかわらず、子どもたちの情報活用スキルは必ずしも高いとは言い切れません。それはなぜなのでしょうか。その理由は、子どもたちが情報活用スキルを十分に認知しておらず、学習中に情報活用スキルを発揮することが意識されていないことにあると考えます。このことはとても大切なことで、何事も繰り返すだけでは上手くならず、うまくなる・できるようになることを意識して練習するからスキルが身につき高まっていくのです。

情報活用スキルの視覚化

 そこで、子どもたちが情報活用スキルを意識化するために考えたことが、情報活用スキルの視覚化でした(図1)。

図1 情報活用スキルカード
※クリック or タップでPDFが開きます。

 学校では、学期の終わりに教科学習の成果を通知票で視覚化して、子どもたちや保護者に知らせています。子どもたちは、通知票に視覚化されることによって、「国語はできた」「算数はいまいちだった」という判断ができ、「次の学期は算数を頑張ろう」といった目標設定ができるのです。私は、子どもたちが主体的に学ぶことが重要視されている今日においては、教科だけでなく情報活用スキルも視覚化すべきであると考えます。
 私が小学校で教鞭をとっていたときは、情報活用スキルを一覧表にまとめた「情報活用スキルカード」を子どもたちに配付し、情報活用スキルを視覚化していました(図1)。このカードでは、探究的な学習過程を「集める」「整理する」「まとめる」「伝える」と表現し、それぞれの過程で情報活用スキルを発揮して学ぶ学習活動を示しています。また、チェック欄を設け、子どもたちが経験した活動を記録することができるようになっており、自らの情報活用スキルを視覚化することができます。私は、このカードを授業や家庭での自主学習の際に参照したり、経験した活動を記録したりするように指導し、子どもたちは自ら情報活用スキルを意識しながら学習を進め、スキルを高めていました。
 情報活用スキルカードを活用して学習を進めることで、子どもたちは授業はもちろん家庭での自主学習においても創意工夫をしながら、主体的に学ぶ姿が見られるようになりました。図2は、情報活用スキルカードを活用した自主学習への取り組み方をまとめたサイトです。

図2 情報活用スキルカードを活用した自主学習を提案するサイト Self-Study

 このサイトには、子どもたちが情報活用スキルを発揮し、探究的に取り組んだ自主学習ノートの静止画を掲載しています。探究的に学ぶ際のヒントになると思います。情報活用スキルを発揮する授業、家庭学習を実現するために、ご活用いただけたら幸いです。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領
  • 木村明憲(2021)主体性を育む学びの型、さくら社

【参考情報】

【本稿について、さらに深めたい方は以下に解説動画を掲載しておりますのでご視聴下さい。】