連載休止のお知らせ

いつも「高校教科書×美術館」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
このたび「高校教科書×美術館」は、諸般の事情によりNo.078をもって連載を休止することになりました。
楽しみにしてくださっていた皆さま、誠に申し訳ございません。
今後の予定は未定となっておりますが、何か進展がありましたらこちらのページでお知らせいたします。
何卒ご理解いただきますようよろしくお願い申し上げます。

教科書づくりで受け継がれてきた「思い」 ~過去の教科書を振り返って~

今回は、日本文教出版の70年以上にわたる図画工作科教科書の歴史を振り返ります。変わったこと、変わらないこと、そして、これからの教科書づくりで大切にしたいことを考えます。

◎話す人

  • K(図画工作科教科書の元編集担当)
  • N(図画工作科教科書の編集担当)
  • U(「学び!と美術」Vol.149担当)

表紙で伝えたかったこと

U:初めに、歴代教科書の表紙を見ながらお話ししたいと思っています。初期の教科書は現在のA4判とは判型も異なり、児童作品の扱い方も違っていますね。昭和38年度版は、シンプルでおしゃれな印象です。

昭和38年度版教科書。上下巻に分かれず、学年ごとだった。

K:児童作品を切り抜いてデザインしていますね。2年生は1年生より色を使っているとか、3年生のモチーフは身近なものから外に向かっているなとか、5年生は工場だから社会とのつながりですね。学年が上がるにつれて、子どもの興味関心の対象が広がっていくことを意識してモチーフを選んでいることが感じられます。
N:そもそも横長だったんですね。自分が子どものころに使っていたものや、入社したときにはすでに縦長でしたので、初めて見たときには驚きました。サイズも小さいですし。
U:初期はA5判でした。A5判からB5判(昭和55年度版)になって、A4判変型(平成23年度版)を経てA4判(令和2年度版)になっています。

判型のうつり変わり(昭和38年度版、昭和55年度版、平成23年度版、令和2年度版)。

K:昭和48年度版では、写真を複数ならべています。

昭和48年度版教科書(1・3・5年)。

N:作家作品も、けっこう載せていますね。
K:5年生、6年生はそうですね。作家作品の鑑賞。日本美術、西洋美術があって……。
N:あとは身の回りのものとか、お花、動物、昆虫……。
U:それと、子どもの作品。
K:子どもの作品と作家作品の割合は、学年によってかなり変えている。教科書の中で取り上げている要素からピックアップして見せているんでしょうね。平成8年度版の表紙は、全体の流れの中で印象が違いますよね。コンセプトが「子どもの造形宇宙」だから。
N:子どもの造形宇宙って、どんなイメージですか?
K:一人の子どもが、いろいろなものを発想するよねってことを表したかったんです。

平成8年度版教科書(1・3・5年)。

プロセスの重要性を伝える情景写真

U:いろいろな発想を大切にする題材を扱っていたということでしょうか。
K:そういう見せ方にしたということかな。例えば、この立体のページと工作のページは、どちらも教科書の題材を考えるときに大切にしていたキーワードである「材・行・想(材料・行為・想像)」の行為からの活動です。立体の「のせて みると」という題材は、最初に何をつくるか考えるのではなく、粘土をたたいたり丸めたりという行為をした上で何を発想できるかという流れになっています。工作の「おと みつけ、おと づくり」も同じで、さまざまな材料で音を出し、何を発想するか。プロセスの中で子どもがどういう発想をして、表現していくかが大事ということを見せたかったんです。
N:今は「図工は過程に学びがある」というのは共通理解されていますが、当時はどうだったのですか。
K:まだまだ作品主義が強い時代でしたね。プロセスの重要性を伝えるために必要だったのが、「情景写真(=子どもの活動風景の写真)」です。今だったら、こんなふうに教科書に情景写真が載っているのは当たり前だと思いますが、当時は「分からない」と言われることもありました。
N:当時はそれぐらい、新しい見せ方だったってことですよね。
K:「なんでこの写真がいるの?」「これより児童作品なんじゃないの?」って。多くの人に言われました。
N:でも一方で、「これが大事」という先生もいらっしゃったということですよね。
K:「この場面がないと、この題材をやる意味がない」と強くおっしゃって、ここには絶対に情景写真が必要だと考える先生もいらっしゃいました。でも、情景写真の意味がうまく伝わらない。
U:それでも、このあと、だんだん情景写真が増えているのは、どうしてでしょうか。
K:情景写真で子どもの姿を見せること自体を否定されたわけではないということでしょうね。これよりも前、昭和50年代に「造形遊び」が入ってきたことで、子どもたちの活動情景を載せることに違和感がなくなったというのはあるかなと思います。その傾向があって、さらに子どもが行っている活動の価値を伝えるために、子どもがどういう活動をしているのかが分かる写真を載せたわけです。そこから増えたのかなという気はしますね。
N:平成8年度版って、転機の改訂なんですね。

「造形遊び」をどう位置づけるか

N:造形遊びへの思い入れというのは、日文の図工の教科書でずっと強くありますよね。
K:日文としては、図工の領域・分野としての「造形遊び」の誕生にかかわった先生方を著者に迎えて、「造形遊びとは?」というところから何度も議論を重ねながら教科書をつくってきました。もともとなかった分野なので、学習指導要領で示された当初は分かりにくい部分もありました。例えば木片の大小を考えながら並べていく、並べながら、ああしたい、こうしたいと発展させていく……というのなら分かる。でも、この活動(共同でかいている様子=平成元年度版教科書)の意味やねらいを理解するのが難しい。
N:子どもたちがみんなで、地面にチョークでクジラをかいていますね。
K:そう。「これは絵のページじゃないの?」ってなりませんか。
N:確かに、一見すると絵に表す活動のように捉えられそうです。
U:目次を見ると、これは造形遊びと絵の両方の題材になっているんです。今では考えられないのですが、平成元年度版では、「造形遊びと絵」、「造形遊びと工作」が一つの題材の中に混ざっているような状態でした。
K:このころって、移行期……「造形遊び」をどう扱うのかを、著者の間でも何度も議論しました。造形遊びは最初、「造形的な遊び」といわれて、子どもの自然発生的な遊びの中から出てくるような造形活動として出てきた。それを教科書の中で位置づけようとすると、教科の体系から考えたときにうまくいかない。だから絵や工作につながる造形遊びならいいだろうと、教科書の中では複合的な扱いにしたということです。
N:例えば「立体」の題材でも、針金を手で曲げたりねじったりしながら考える……というように、造形遊び的な要素が含まれますもんね。こういう見せ方をしていた時代もあったんですね。

子どもの「思い」を大切にしていく

N:Kさんが編集担当をしていた頃の先生方は、図工の教科書づくりでどんなことを大切にされていましたか。
K:子どもの「思い」を大切にしていくと。それは強く言っていたかな。
N:今も大切にしていることですね。そのころから言われはじめたんでしょうか。
K:うーん。ずっと前から意識としてはあったけど、ようやく言語化されたということだと思います。例えばこの作品(お風呂で子どもが父親の背中を流している様子=昭和61年度版教科書)なんかは……。
N:いい絵ですね。
K:いい絵だと思うよね。それはやっぱり子どもの思いがあるから。
N:ああ、そうですね。お父さんが好きなんだろうな。
K:「楽しいとか嬉しいとかが、よく表されている絵だよね」とか。そういう会話というのは、いつの時代も当たり前のようにあるわけです。
N:会話というのは、先生との間や編集者どうしで、ということですね。
K:そう。たくさんの作品の中から選んでいく中で「これ、いい絵だよね」という話は出てきますよね。そういう時間は、著者と編集者の間でいつも共有していました。
U:先生方と編集者が「いい絵だ」と思う作品は共通していたということでしょうか。
K:そうですね。
U:ということは、みんなに「思い」が伝わってきたということなんですよね。
N:だから今、Kさんは私に「やっぱりいい絵だと思うよね」って、聞いたんですね。
K:そう、そう。
N:確かに、昔の子どもたちだし、選んでいる人も違うのに、教科書の、どの作品を見ても「いいな」「好きだな」と感じます。自分とは違う時代を生きていた子どもたちや先生と「思い」がつながったみたいに感じられて、うれしいです。
K:そのへんがもしかしたら、続いてきていることなのかもしれないね。著者の絵のみかた、会議のときに話されていたことは、僕の中にもあるし、それを引き継いだ著者の先生方がいて。そこから新陳代謝があって、編集メンバーは新しくなっていくけれども、しっかりと引き継がれているところはあるかなと思います。
N:関わってくださった先生方、編集部もそうですけども、脈々とこう。教科書づくりの過程で、実際に子どもの作品を目の前にしてたくさん話し合っていたから、それこそ「思い」が引き継がれたんだろうなと思います。

子どもの話が聞こえてくる作品

N:Kさんから見て、先生方が選ばれているいい作品の共通する点、方向性みたいなものって、ありましたか。
K:子どもがお話ししたいことがいっぱいあるんじゃないかな、と思える絵かな。
N:お話ししたいことがいっぱいありそうな絵、ありますよね(笑)。
K:ありますね(笑)。
N:以前、ある著者の先生が「子どもがいっぱいしゃべっている絵がいい絵です。けれど先生の声ばかりが聞こえてくる絵を見かけることがあります」という表現をされていたんです。子どもの「思い」を見取る大切さは、著者の先生どうしでも受け継がれたんだろうなと思いました。そうやって図工の世界ができているなと感じます。
K:言葉にすると、抽象的な「子どもの話がいっぱい聞こえてくる」というような表現にしかならない。私も最初からたくさんのお話が聞こえてきたわけではなくて、教科書編集にかかわる中でたくさんの子どもの作品に出会ううちに、だんだん聞こえるようになってきたんだと感じます。だから、子どもと接している人だったら分かるんじゃないかと、僕は期待しているんです。やっぱり作品の奥には子どもがいるので、作品を通して子どもを見ることができれば、図工の授業はもっと楽しくて素敵な時間になっていくんじゃないかと思います。

新年のご挨拶にかえて

 本年1月1日に発生した令和6年能登半島地震により、犠牲となられた方々に心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。被災地の皆様の安全と一日も早い復興をお祈りいたします。

 みなさま、旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 令和5年、日本文教出版・秀学社はpurposeを公開しました。

 purposeは一般的には「目的」などと訳されますが、ビジネス用語としては「存在意義」という意味で使われるようです。日文・秀学社では「私たちの志」としています。それは、このようなものです。

 ここは「学び!と美術」ですので、図画工作科や美術科に引き寄せてお話しします。

 図画工作科や美術科では材料に触れたり、対象と出会ったりして、心が動くことから学びが始まります。

 そんな心の動きから生まれた一人ひとりの「思い」や「願い」が大切にされ、今までの自分自身や、学級や学校、地域と混ざり合って新たな意味や価値が生みだされていくような学びの時間。

 これが、私たちの提供したい図画工作科や美術科の時間です。

令和6度版教科書『図画工作5・6下p.6-7』

 まさに「心が動く、その先へ」誘うことができるような教科書をつくることが、私たちの「存在意義」なのだと思います。

 実は、昨年秋には、ロゴマーク、ロゴタイプも更新しました。

 ロゴマークには「モーションロゴ」というものもあります。

 日文のNとBの文字に重ねられたイメージは、つながろうとする手と手、贈り合い受け取り合う手と手です。

 互いにつながり、「思い」や「願い」を贈り合うことに喜びを感じられるような子どもたちがいれば、世界は豊かに混ざり合い、きっとカラフルですてきなものになると思います。私たち自身もまた、子どもたちや先生方、保護者の皆さんとつながり、「思い」や「願い」を贈り合える存在になりたいと考えています。

 教科書や教材にできることは限られているかもしれませんが、子どもの学びに常に寄り添い「心が動く、そのそばで」、ともにカラフルな未来を育みたい。それが、今年も変わらぬ、私たちの志です。

 皆様にとって、本年もより混ざり合うカラフルな一年になることをお祈り申し上げます。

 ※本記事は令和6年度板小学校図画工作科内容解説資料として扱われます。

授業にお役立ち!⑥ まとめ活動が好きになる!表現物を工夫した授業〜総合表現物編〜

(1)さまざまな要素表現物でテーマに迫る総合表現物

筆者 本連載では社会科で多用されるまとめ活動の表現物を要素表現物(レポートや新聞といった総合表現物を構成する要素にもなる表現物)と総合表現物(文章といくつかの要素表現物で構成される総合的な表現物)の2つに大別していました。そして前回は要素表現物を下のような4タイプに分けて、さまざまなタイプの要素表現物を組み合わせる必要性について考察しました。

  • Aタイプ:意味固定的で個別言及的な要素表現物
    例「○○年の姫路市のれんこん出荷量は○○トン」のような確定的な(意味固定的)、個々の事実(個別言及的)について述べる表現物
  • Bタイプ:意味流動的で個別言及的な要素表現物
    例「姫路市のれんこん農家・高田さんのれんこん作り物語」のように児童によって情報の取捨選択などが異なる(意味流動的)、高田さんという個人に注目した(個別言及的)表現物
  • Cタイプ:意味固定的で全体包括的な要素表現物
    例「姫路市でれんこん作りが盛んな理由」のような概念的な観点から(全体包括的)、分析的、論理的(意味固定的)に説明する表現物
  • Dタイプ:意味流動的で全体包括的な要素表現物
    例「姫路市のれんこんをPRするためのキャッチコピーやシンボル」のような姫路市のれんこん作りのようすや特徴から(全体包括的)、児童それぞれの印象など(意味流動的)を象徴する表現物

 今回は4タイプ全ての要素表現物を含めて作成することも可能な総合表現物の典型例として学習新聞を取り上げて作成ポイントを考えたいと思います。

(2)総合表現物の作成ポイント

 学習新聞は、読者を想定して模造紙やA3といった用紙の大きさを決め、限られた紙幅のなかで学習成果を一覧にする総合表現物です。前回紹介したA~Dタイプの要素表現物を記事にした時の見出しを作成し、学習新聞の形式にしたものが右の図になります。小学校高学年ぐらいまでの社会科学習で繰り返し作成してきた要素表現物を応用し、各タイプの記事が作成できると思います。
 学習新聞に限らず、総合表現物を作成する際のポイントを2点挙げたいと思います。

①キーワードが入った見出し
 記事の本文を先に書き、そこからキーワードを抽出して見出しとする場合もありますが、記事の本文を書き出せない児童には見出しから作成させたり、見出しとなるキーワードを挙げさせたりしてから、記事本文を書かせてみるのもよいと思います。
 また新聞記事では一番伝えたいことや結論が見出しとなることが多く、作成例でも「土地と歴史にヒミツ」という袖見出しをつけました。しかし学習新聞の場合は、主見出し「なぜ姫路でれんこん作りさかん?」のように問いだけを見出しとしても不自然ではなく、児童が記事を書く方向性を明確にすることもできます。

②何行もの文章に匹敵する図や写真・イラスト
 文章にすると何行にもなる内容を1枚の写真や図が明確に伝えてくれることがあります。社会科教科書に掲載されているものを参考に、右のような図や表を作成したり、人の表情や動きのある写真を撮影したりして、読者がパッとみて惹きつけられる総合表現物をめざすとよいでしょう。

(3)これからの社会科の総合表現物

 総合表現物の典型例として学習新聞を取り上げましたが、近年では社会科と総合的な学習の時間の学習を連動させ、プレゼンテーションソフトやWebページを用いた総合表現物の作成に取り組む事例も多く見かけるようになりました。これからも学校の教育活動での表現形態は多様になっていくと思われます。しかし社会科学習の前提となる社会の事実を踏まえる重要性は忘れず、要素表現物に多様なタイプがあったことも念頭におきながら新しい総合表現物に挑戦してもらえればと思います。児童たちと先生が一緒に試行錯誤や吟味して表現物を練り上げる社会科授業に多く出会えるのを楽しみにしています。

日本の諸地域/中部地方(第2学年)

1.単元名・教材名

単元名:中部地方―活発な産業を支える人々の暮らし
教材名:活発な産業を支える人々の暮らし① 工業の発展と地域の変化

2.単元の目標

(1)中部地方の産業が地域に果たす役割やその動向が、交通網の整備や外国との関係によって変化していることを理解することができる。【知識・技能】

(2)人と自然とのかかわりや地域どうしのつながりに着目して考え、中部地方の産業の課題に対して多面的・多角的に考察し、その変容を捉えることができる。【思考・判断・表現】

(3)中部地方の自然環境、人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心をもち、地域的特色を意欲的に追究することができる。【主体的に学習に取り組む態度】

3.評価規準

知識・技能

思考・判断・表現

主体的に学習に取り組む態度

中部地方について、自然環境や人口、産業などの特色を大まかに捉えている。

中部地方について、産業を中核とした考察の仕方を基に地域的特色を理解し、その知識を身に付けている。

中部地方の地域的特色を、産業を中核とした考察の仕方を基に多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している。

中部地方の産業の地域的な違いについて、地形や気候などの自然的条件と、交通網や外国との関係など社会的条件との両面から考察して、各地域の特色を捉えている。

中部地方の自然環境や人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心を持ち、設定した追究テーマを基に地域的特色を意欲的に追求している。

4.指導にあたって

(1)単元について

中学校学習指導要領(地理的分野)
C 日本の様々な地域
(3)日本の諸地域

次の①から⑤までの考察の仕方を基にして,空間的相互依存作用や地域などに着目して,主題を設けて課題を追究したり解決したりする活動を通して,以下のア及びイの事項を身に付けることができるよう指導する。

①自然環境を中核とした考察の仕方
②人口や都市・村落を中核とした考察の仕方
③産業を中核とした考察の仕方
④交通や通信を中核とした考察の仕方
⑤その他の事象を中核とした考察の仕方

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア)幾つかに区分した日本のそれぞれの地域について,その地域的特色や地域の課題を理解すること。
(イ)①から⑤までの考察の仕方で取り上げた特色ある事象と,それに関連する他の事象や,そこで生ずる課題を理解すること。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)日本の諸地域において,それぞれ①から⑤までで扱う中核となる事象の成立条件を,地域の広がりや地域内の結び付き,人々の対応などに着目して,他の事象やそこで生ずる課題と有機的に関連付けて多面的・多角的に考察し,表現すること。

(太字・下線は筆者による)

 以上のことを基に、今回取り扱う中部地方では、中部地方の盛んな産業を、自然環境、歴史、交通網、文化的背景などの多様な視点から捉えることで、地域によって特色のある産業に対する関心を高める。また、産業と地理的条件の関係性を考察し、その地域に根付いた産業の必然性を見いだすことで、地理的な見方・考え方を養っていきたい。

(2)題材のねらい、達成に向けた指導計画の構想
 本単元は、中部地方の産業が地域に果たす役割やその動向が、交通網の整備や外国との関係によって変化していることを理解させることをねらう。その際、中部地方の地域的特色について、東海、中央高地、北陸の各地域の違いを、自然的条件と社会的条件の両面から考察して捉えさせる。中部地方の自然環境、人口、産業などの特色について概観する中で、特に東海、中央高地、北陸の各地域の産業に関心をもち、設定した追究テーマを基に地域的特色を意欲的に追究する。
 設定したテーマは、次のようなものである。「北陸地方でお米の生産が盛んなのはなぜだろう。」、「北陸地方の農業で稲作が有名なのはなぜだろう。」、「中央高地で果樹栽培や高原野菜の栽培が盛んなのはなぜだろう。」、「中央高地で精密な機械がつくられているのはなぜだろう。」、「二輪車の製造が多いのはなぜだろう。」、「静岡で茶の栽培が盛んなのはなぜだろう。」、「東海地方で施設園芸農業が盛んなのはなぜだろう。」
 また、本時では、北陸地方の伝統工業と地場産業について、品物ごとに分かれて調べ活動を行い、お互いが調べたことを教え合い、北陸の産業に共通する地理的条件を見つけ出したい。調べたことや教え合ったことをワークシートに記入しておくことで、調べたことを整理して、知識として定着させたい。授業では、すべての生徒が見通しを持って学習ができるように、本時の課題や本時や活動の流れを黒板に明確に示す。さらに、仲間との意見交換を通して、多面的・多角的な見方を基に授業のまとめを記述することができるように、個人学習の場面とグループ学習の場面を分けて設定する。
 さらに、主体的・対話的で深い学びの姿を可視化するために、新潟県立教育センター作成の「主体的・対話的で深い学び実践ハンドブック」中のNITS【実現したい子どもの姿】ピクトグラムを取り入れた。

5.題材指導と評価の計画(5時間 本時4/5)

時間

主な学習内容

学習目標

評価規準

1

1 中部地方の自然環境と人々のかかわり
(p208~209)
・「日本の屋根」のある中部地方
・三つの地域の気候の特色

・地図帳を使って、中部地方の地形の様子とその交通への影響を捉える。
・中部地方を三つの地域に分けて、その気候の特色の違いを雨温図から捉え、その理由を地形などと関連付けて捉える。

・中部地方の自然環境の特色と、東海、北陸、中央高地の気候的な違いを、地図や雨温図を使って読み取っている。(知識・技能)
・中部地方の地域による気候の違いを、地形などの自然環境と関連付けて理解している。(知識・技能)

1

2 日本を支える工業の中心地,東海
(p210~211)
・自動車工業の盛んな東海
・なぜ東海の工業が発展したのか
・自動車工業の課題

・東海で各種の近代工業が発展し、変容した理由を理解する。
・東海の産業の変容と課題、その解決方法について考察する。

・東海の工業の特色を、自然的条件や社会的条件と関連づけて多面的に考察して捉えている。(思考・判断・表現)
・中部地方の産業について意欲的に追究している。(主体的に学習に取り組む態度)

1

3 交通網の整備による中央高地の産業の変化
(p212~213)
・地形や気候に適応した特色のある農業
・中央高地の工業の変化
・リゾート地としての発展

・中央高地の産業が発展し、変容した理由を理解する。
・中央高地の工業の様子を示す写真やグラフなどから中央高地の産業の姿を捉える。

・中央高地の農業の特色を、自然環境の特色や交通の発達などを示す資料と関連づけて読み取っている。(知識・技能)
・中央高地の産業の特色を、自然的条件や社会的条件と関連づけて多面的に考察し、捉えている。(思考・判断・表現)

1
本時

4 自然環境からみた北陸の農業や工業
(p214~215)
・水田単作の米作り
・伝統産業・地場産業の課題と取り組み
・日本の電力を支えてきた中部地方

・自然環境のほか、社会的条件やその変化を表す資料から、中央高地、東海、北陸各地域の農業の特色を捉える。
・北陸の地場産業の変容と課題、その解決方法について考察する。

・写真や農業生産額のグラフから北陸の農業や工業の特色と各農家の工夫と努力を読み取っている。(知識・技能)
・中部地方の地場産業の課題に対して多面的・多角的に考察し、その変容を捉えている。(思考・判断・表現)

1

5 消費地と結びつく農業・漁業の戦略
(p216~217)
・静岡県の茶の生産と消費地との結びつき
・温暖な気候と交通網を生かした園芸農業
・焼津港の漁業と消費地との結びつき

・東海の農業や漁業について、他地域との結びつきに着目する。
・東海で、特色のある農業や漁業が発展した理由を考え、理解する。

・東海で特色のある農業や漁業が発展した理由を、自然環境、交通網の整備の面から理解し、説明している。(知識・技能)
・中部地方の地域的特色について、他の消費地との結びつきに着目して、自分なりに工夫して、地図や図表を適切に活用して理解している。(知識・技能)

6.本時の指導(本時4時間/全5時間)

(1)本時のねらい

北陸地方の工業を、気候と歴史的背景から考察することを通して、北陸地方に根付いた産業の特色を見いだす。【思考・表現・判断】

三条市で作業工具の製作所を営む兼古さんと交流することで、職人の意匠に触れ、身近な地場産業に関心を持つ。【主体的に学習に取り組む態度】

(2)読解力育成を踏まえた指導のポイント
本時の展開では、以下の読解力を育成するための手立てを講じる。

「推論」…三条の鍛冶に関する資料を読み、三条市で鍛冶産業が盛んになった背景には、多発する洪水などの気候条件が関わっていることを捉える。さらに、北陸地方の他の地域でも、同様に気候条件が産業に関わっていることをあげて、気候条件が北陸地方の産業に影響を与えていることを説明できるようにする。

(3)本時の展開

時間

○学習活動 ・予想される反応

●教師の支援 ※評価

導入
(5分)

○金物・洋食器の写真を見せ、どこで生産されているものか探す。
・両方とも北陸地方(三条市と燕市)で盛んに作られている品物だ。
○前時をふりかえり、東海の工業との違いを問う。
・東海は自動車の生産が盛んだが、三条市と燕市で盛んな品物が金属製品なのはなぜ?

●実物も用いて教材に注目を集める。

●必要に応じてヒントを出す。

展開①
(17分)

○本時の課題を提示する。

北陸地方の三条市・燕市で金物・洋食器の生産が盛んなのはなぜだろう?

○いつから、どのようなきっかけで金属産業が盛んになったのか考える。
・100年くらい?もっと昔から?
・スプーンは洋食に使うから明治以降?

●燕市のスプーンはいつから作られるようになったのか発問する。

○個人で、どちらかの品物について調べてワークシートに記入する。
・スプーンは江戸時代の和釘作りで培った金属加工の技術が活かされているようだ。

●資料から探すことが難しい生徒には、助言や問答など机間指導をする。
※資料を読み取ることができる。(知識・技能)

○調べたことを班内で共有し合い、共通している地理的条件を見つける。
・どれも、雪や雨がたくさん降る北陸ならではのものだ。

※調べたことを班のメンバーに説明できる。(思考・判断・表現)

展開②
(18分)

○Zoomによる配信で、三条市で地場産業に携わっている兼古耕一さん(株式会社兼古製作所社長)から、話を聞く。
・使いやすいドライバーなどの工具には、職人さんの努力や工夫が深く関わっていたのか。
○話を聞いて、兼古耕一さんに質問する。

●Zoomによる配信の準備をする。
※話を聞き、資料で調べたことと重ね合わせて考えることができる。(主体的に学習に取り組む態度)

※積極的に質問する。(主体的に学習に取り組む態度)

まとめ
(10分)

○北陸地方の産業は冬の豪雪や秋の多雨といった気候条件に大きな影響を受けていることを、具体例を挙げて説明する。
・北陸の産業は、冬に雪が多く降ることや、秋に降水量が多いことが影響している。例えば、三条の金物は、冬に家の中でできる副業としてはじまり、職人の情熱によってよいものを作り続ける地場産業に発展した。

●北陸地方の地場産業を紹介する。
●助言や問答など机間指導をする。
※北陸の産業の特色について、自分の言葉でまとめることができる。(思考・判断・表現)
【推論】
複数の地場産業から、その成立過程は気候条件に影響を受けていることを捉え、説明することができる。

7.ワークシート

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8.資料プリント

○北陸地方の工業①「三条市・燕市の工業」

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○北陸地方の工業②「福井県鯖江市のメガネフレーム」

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コロナから学んだこと

(※2021年5月執筆)

 新型コロナの感染が落ち着いたように思いましたが、変異種がまた全国的に流行し始め、各地で非常事態宣言やまん延防止等重点措置が出されています。そのような中、皆様はいかがお過ごしでしょうか。今回の流行は10代の子どもにも感染が広がっているようですので、ご注意ください。
 私が勤務する早稲田大学は、昨年はいち早く全授業をオンラインで実施することになり、その対応に右往左往していました。今年は7割の授業は対面で実施することになり、感染の恐怖におびえながら授業を実施しています。
『肥後国海中の怪(アマビエの図)』
(京都大学附属図書館所蔵)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000122/explanation/amabie
 人間はペスト・天然痘・結核などの感染症に対して、昔は無力でどうすることもできず、ただ神に祈って病気退散を願っていました。しかし、科学の進歩とともに病原菌に打ち勝つ方法を開発して、感染症を克服してきました。いつ感染するか心配しながら新型コロナウイルスとともに生活する「Withコロナ」はこりごりです。早く新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬が開発され、平癒されることを多くの人々が願っていると思います。
 さて、そのような状況において中断されていた「学び!と道徳2」をこの度再開することになりました。今回も「早稲田大学道徳教育研究会MOS」の3人(道子、真理、響)に参加してもらい、ともに考えながら進めていきますのでご期待ください。

1 全体道徳

「昨年はオンライン授業で皆さんと対面で話したり、学んだりすることができませんでしたが、今年は授業とともにMOSなどの活動も対面で行うことができるようになりました。また、楽しく道徳を学んでいきましょう。」
道子、真理、響「よろしくお願いします。」
「皆さんは学年や学校全体で道徳の授業を受けたことがありますか。」
「3年生の時、校長先生が授業をしてくれました。」
「どんな内容でしたか。」
「高校受験を前に目標に向かって頑張ることの大切さ、『克己』がテーマでした。校長先生のお話を緊張して聞いていたので内容はあまり覚えていません。」
真理「眠っていたのでは……。」
「校長先生の前では眠れません!」
「昨年の9月、ある中学校で頼まれ全生徒に道徳の授業をすることになりました。しかし、コロナで全校生徒が集まって授業をすることは、危険だということで、学年ごとに授業を行いました。授業のテーマは『新型コロナウイルスから学んだこと』で、コロナ患者に対する思いやりや医療従事者への感謝をねらいにしました。

 授業は私から一方的に話をするだけではなく生徒たちに質問を投げかけ発言を促して、コミュニケーションを取るようにして、生徒たちが主体的に授業に参加するような雰囲気づくりに心がけました。また、生徒たちが発言しやすいように座席が扇型になるような工夫もしました。時には先生方の意見も聞いてみました。」
「全体の中で生徒は発言しましたか。恥ずかしがって発言しないのでは……。」
「初めは恥ずかしがっていましたが、授業が進むにつれて運動会のクラス対抗競技のように発言するようになりました。」
道子「私も先生の授業を受けてみたいな。」

2 利己と利他

「授業はまず、コロナの感染防止のために『自粛』ということが叫ばれましたが、自粛とはどのようなことであるか聞いてみました。」
「自粛は、自ら進んで行いや態度を慎むことです。」
「それでは新型コロナウイルスの対応で、私たちはなぜ行動を自粛するのでしょうか。」
「コロナにかかりたくない、死にたくない、コロナにかかると入院して自由がなくなる、部活動に参加できなくなる、学校に行けなくなるなどです。」
真理「自分がかかって祖父母にうつしたくない、家族に心配をかけたくない、コロナを広めたくない、人に迷惑をかけたくない、自分のために学校が休みにしたくないなどです。」
「響君と真理さんの自粛の理由には違いがありますが、わかりますか。」
道子「響君の自粛は、自分のために自粛することで、真理さんの自粛は他の人のために自粛することだと思います。」
岡山県「ダメ!コロナ差別」啓発キャンペーン「そうですね。自分の利益のために行動することを『利己』といい、他者や社会の利益のために行動することを『利他』といいます。今回の新型コロナウイルスの流行とともに利他的な考えや行動が注目され始めています。その事例として、わが身への感染を恐れず新型コロナウイルスの治療に携わる医療従事者がいます。しかし一方ではコロナ患者と同様に医療従事者に対する差別や偏見の問題があります。患者を救うために働いている人々を差別するのでしょうか。」
真理「医療従事者はコロナに感染しているかもしれない。もし感染していたらうつされるのでそばに来るなという利己的な考えの現れだと思います。」
「そういえばコロナ患者が入院している看護婦さんの子どもが保育園で預かりを拒まれたというニュースがあった。」
「皆さんは『自粛警察』という言葉を聞いたことがありますか。」
真理「遅くまで開いている飲食店を取り締まる自警団のような活動のことです。」
「なぜそのようなことをするのでしょうか。」
真理「コロナ感染を広げないためにという利他的な考えからだと思います。」
「そうかな? コロナが流行したら自分も感染するから取り締まるという利己的な考えではないかな。」
「利己と利他は対義語のように見えます。しかし、『自粛警察』のようにコロナの無い社会を作るという一見すると利他的な行動には、自分だけはコロナに罹りたくないという利己的な考えが潜んでいます。」
道子「人間には利己と利他の両面を持つということですね。」
「そうですね、人間には自分のことばかり考え行動するような利己的な面と他者のために行動するような利他的な面があります。道徳教育を通して利他的な心を育てたいですね。」

3 共感と感謝

「それでは医療従事者は差別や偏見を受けながらも、なぜ自分が感染してしまうような危険を冒してまで利他的な行動をするのでしょうか。」
「医療従事者としての使命感や責任感からだと思います。」
真理「苦しんでいる患者を放ってはおけない、助けたいという思いからだと思います。」
道子「人間愛ではないかな……。」
横山令奈様 提供「授業では最後にコロナ患者の治療に奔走する医療従事者の行動について考えさせました。そのために医療従事者が働く病院の屋上でヴァイオリンを演奏する横山令奈さんの動画を見せました。横山さんはヴァイオリンの勉強のためにイタリアのクレモアに留学し、現在は演奏家として活動するとともに、クレモアを代表するヴァイオリニストとして市の観光プロモーションにも参加しています。コロナが大流行してクレモアの町全体が静まりかえっている時、観光協会からヴァイオリンの演奏で皆を励まして欲しいと頼まれ、市の許可を得た上で、大聖堂の鐘楼で演奏しました。その演奏を偶然通りかかった病院関係者が聴き、病院でも演奏して欲しいと頼まれ急遽実施したそうです。」
「その演奏をYouTubeで見ました。コロナ患者を収容するテントを眼下に見ながら演奏する横山さんを見つめる医療従事者たちの姿と演奏したモリコーネの『ガブリエルのオーボエ』がとても感動的でした。」
「演奏の様子を実際に授業で見せると、中学生たちも食い入るように真剣に聞いていて、中には涙ぐむ生徒もいました。音楽が持つ力を改めて再認識しました。響君、立派な音楽の先生になってください。
 視聴後、中心発問『横山さんはどんな思いで演奏を引き受け、ヴァイオリンを弾いていたのだろうか』に対して、ワークシートに自分の考えを記入させてから意見の共有をしました。皆さんは、生徒たちがどんな意見を発表したと思いますか。」
「医療従事者に対するお礼、感謝です。」
真理「医療従事者への応援もあると思います。」
道子「医療従事者の行動に対する共感と自分も互いに助け合い苦難を乗り越えていきたいという考えだと思います。」
「その他に医療従事者の行為に対する感動、差別や偏見をなくしたいという思い、早くコロナが収束して欲しいなど多様な意見がワークシートに書かれていました。学年全体で行う道徳の授業では参加者が一体となって考え、発表者の意見を真剣に聞いているように感じました。皆さんも一度挑戦してみてください。」
道子「先生のように上手にファシリテートできるか心配です。」
「先生が話すのではなく、生徒の考えを引き出すようにしていけばいいと思います。」
「難しい!」
「そのことは次回の勉強にしましょう。」

 コロナ禍で対面の授業をすることが難しい中、学年の生徒・先生が一堂に集まって授業をする機会を与えていただいた学校・校長先生に感謝します。生徒みんなが同じテーマを考え、互いの意見を共有しながら道徳性を深めていく授業の素晴らしさを痛感しました。
 コロナの流行のために、経済の停滞、医療の崩壊、福祉の破綻など様々な社会問題が起こっています。デュルケムが提唱するように社会学の視点から道徳教育を考えることも忘れてはならないと実感しています。