自分たちの学びを人々の幸せに(子ども・学校とPBL⑤)

 鹿又悟先生による報告の5回目は、前号で紹介したきゅうり栽培の活動でお世話になった農家や飲食店にさらに貢献する方向へと展開した活動を紹介します。

1.「学校×農家×飲食店」プロジェクト大作戦

 「まだ、お世話になった人にできることないかな?」
 コロナ禍での地域に根差した学びの中で、無事にきゅうりも生産し、寄付することもでき、これで一段落と思いきや、この一人の声によって、子どもたちの心に再び火が付きました。お世話になった農家や飲食店に、さらに貢献する活動へと展開していきます。
 子どもたちは「もっと農家や飲食店へ貢献できることはないか」と考え、一人ひとりの中で、それぞれやりたいことが膨らんでいきました。
 「農家さんは一人で大きい畑をやっていると言ったから、手伝うことはできないかな。」
 「夏はきゅうり、冬はネギを生産しているって言ってたよね。」
 「小学生が考えたメニューを飲食店で提供できないかな。」
 「お客さん集まりそうだよね。」
 「農家さんの育てている野菜を飲食店で提供できないかな。」
 まずは農家の方に子どもたちのこれらの考えを伝えたところ、子どもたちの手伝いは大歓迎という返事をもらい、農家が直接野菜を出荷している飲食店があることも教えてもらいました。

2.子どもたちの思いに地域が応える

図1 料理の試作 きゅうり栽培でお世話になった農家は冬の時期はネギをつくるので、ネギの収穫を手伝い、そのネギを使ってメニューを作成する流れになりました。
 農家が直接野菜を出荷している飲食店にも子どもたちの思いを伝えたところ、またもや予想以上の反応が返ってきました。
 「とてもいい活動ですね。是非、ネギのフルコースをつくりましょう! そして、お店で子どもたちが働いてお客さんに振る舞うのはいかがですか?」
 当時コロナ禍の中、飲食店も苦戦していたにもかかわらず、子どもたちのために温かく協力していただける飲食店の熱い思いに感動しました。
 飲食店の意向を伝えると、子どもたちの意欲はさらに加速していきます。ネギのフルコースのメニューを考えている最中も、
「おいしそう。」
「つくってみたい。」
「メインはグラタンもいいし、パスタも好きな人が多いから喜びそうだよね。」
と、お客さんのことを考えたり、楽しんだりしている子どもたちばかりでした。フルコースの中で「ネギのデザート」のアイデアが全く出てこなかったため、そこは「プロの腕前を」ということで、飲食店の方にお願いしました。
 飲食店のプロの料理人が学校に来て、子どもたちと料理を試作し、最終決定する時間をつくりました。実際に、自分たちで考えたメニューを自分たちの手で料理することで、おいしさを実感しました。飲食店は子どもたちが考えたメニューをすべて採用してくれました。

3.自分たちで生み出した人々の幸せ

 しかし、新型コロナウィルスの感染が拡大し、福島県でもまん延防止等重点措置が取られたため、ネギの収穫、飲食店での職業体験は予定より1か月遅れることになります。前に、きゅうりで得た売り上げを寄付した際(Vol.65参照)にメディアの方に取材してもらっていたこともあり、「自分たちの活動をたくさんの人に知ってもらいたい!」という声があがりました。

図2 プレスリリース

 「自分たちでメディア向けの広告をつくろうか」と私が提案すると、子どもたちは乗り気になったので国語の「書く」単元を活用し、一人ひとりがプレスリリースを作成しました。それを市役所の記者クラブで発表したり、ファックスを新聞各社、テレビ局等に流したりしました。
 ネギ収穫当日は、親子で合同収穫体験を行いました。収穫の仕方を農家さんから教わり、収穫したネギを束ねて、軽トラックいっぱいに集めました。実際に体験した子どもたちは、
「予想以上に疲れた」
「毎日、一人で収穫を行っている農家さんがすごい」
などの感想を持ちました。

図3 ネギの収穫

 また、飲食店のスタッフに学校に来てもらい、飲食店での接客の仕方を教わりました。立つ姿勢、「いらっしゃいませ」の言い方、お辞儀の仕方など、職業体験だけでなく、社会人になっても役に立つ学習でした。
図4 接客の授業 いよいよ飲食店での職業体験当日。完全予約制にした2部制の入れ替えで店は満席状態でした。オーダーを取る子ども、料理を提供する子ども、厨房の中でドリンクを入れる子ども、料理を盛り付ける子ども、などそれぞれの役割をこなしました。子どもたちは最初緊張しながらも、お客さんの期待に応えるためにも、笑顔で接客していました。プレスリリースのおかげもあって、テレビ局や新聞社からの取材も来ました。
 このような一連の学習は、子どもたちの声を尊重したこと、それに加えて外部で協力してくださった方々のコラボレーションから生まれたものです。子どもたちは、以下のような感想を述べていました。
 「実際に働いて飲食店のイメージが変わった。アルバイトや将来働くのもいいと思った。」
 「ぼくたちが作ったメニューが出されていたことにびっくりだし、さらに体験できたことに驚いた。この経験を大人になっても生かしたい。」
 「接客の大変さ、姿勢、話し方を学んだ。今後の人生で役立つことを学べてとてもうれしかった。」
 「飲食店、農家の方々に貢献することだったのに、もっとたくさんの人が幸せになった気がする。たくさんの人の力を借りるとすごいことが起こることが分かった。自分が大人になったら、今回みたいにたくさんの人と協力して幸せにしたいと思った。」

図5 飲食店での職業体験

 子どもたちの「問い」を大事にすること、そして、「人」との出会いを大事していくこと、この二つで探究のプロセスは右肩上がりとなり、探究課題から自分の在り方を見つめ、自分の生き方を考えることができるようになっていきます。そして、社会への視野の幅も広げ、今後自分がどう在りたいかだけでなく、様々な人たちとどう繋がっていきたいかを考えるきっかけとなりました。まさにこれは、ESD(持続可能な開発のための教育:Education for Sustainable Development)であると考えます。今回の実践が必ずしもすべての子どもにすぐに影響を及ぼしたわけではありません。ただ、教師が子どもたちに場やきっかけを与え、「種まき」をしなければ、子どもたち同士で影響し合うこともありません。芽がいつ出るかは、子どもによって異なります。いま、「種まき」をしておけば、いつか、子どもたちにとっての明るい未来づくりに繋がると考えています。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

コロナ禍の下で学ぶ子どもたち(子ども・学校とPBL④)

 鹿又悟先生による報告の4回目は、1ヶ月遅れでスタートした2020年度の学校生活で、どのような学習活動を行ったのかを紹介します。新型コロナウィルスに大きく影響を受けた学校でも、子どもたちの学びが止まることはありません。現実の社会をそのまま教材にして、今まで以上により地域に根差した活動をしていこうという実践でした。

1.経験を学びへ

写真1 新型コロナウィルスとSDGs 白方小は、2020年度が始まった週から5月17日まで臨時休業となり、5月中旬になってやっと教育活動が再開されました。
写真2 アマビエ様
 最初の総合的な学習の時間の中で、子どもたちに付箋を使ってコロナ禍とSDGsを考えさせると、経済・教育・福祉・健康・平和など様々な点で新型コロナウィルスの影響が関係していることがわかります。
 図画工作科の時間には、新型コロナウィルスに関連して、日本に伝わる疫病に関する妖怪「アマビエ様」を教材としてとりあげました。国語科の提案書・短歌を書く単元においても、新型コロナウィルス感染対策に関することを書く子どもがいました。このように、新型コロナウィルスを軸とした学びが各教科で続きました。

2.コロナ禍で地域に根差した学び

 2020年度の総合的な学習の時間では、約2か月間の臨時休業を通じて感じた、「新型コロナウィルス」と「地域愛」、「共生社会」をキーワードにして学習を展開したいと考えました。当初の教師側のねらいは、

人との関わりの中で生きていることを知り、自分たちも社会の一員として携わることを考えることができる。
自分たちの住んでいる地域を見直し、地域に対して行動することができる。

の2点でした。
 新型コロナウィルスの影響は、子どもたち自身への影響もそうですが、メディアで取り上げられていた、飲食店の相次ぐ休業や農家への影響、医療従事者のひっ迫した現状が大きいと子どもたちは感じていました。ここからは、子どもたちの問いと行動がスパイラルに動いていきます。
 まず、子どもたちは、
「飲食店を助けたい。」
「最先端で活躍している医療関係者を励ましたい。」
「でも、どうやって助ける?」という問いに出会います。
「募金してお金を集めよう。」
「それじゃあ、自分たちでではなく、他の人のお金だよね。」
「んじゃあ、何か自分たちで何か作って売るのは。」
「須賀川と言ったらきゅうりだよね。おじいちゃん、おばあちゃんも家で作ってる!」
 須賀川市は名産のきゅうり(夏秋の出荷量全国1位)、自分たちの経験から地域の特産いわせきゅうりを育てる方向へと決定しました。
写真3 地域ボランティアと畑作り
 次に子どもたちの前に立ちはだかったのは、学校にきゅうりを栽培する道具がない、という問題です。
 「家に道具があまっていると思うから、じいちゃんに聞いてくるよ。」、「うちのばあちゃん、畑作るとき来てくれるって!」という形で、活動は地域の方々の協力へと広がっていきました。学校園にきゅうりの支柱を建てたり、畑を耕したりする際に、子どもの祖父母がボランティアとして来校し、一緒に作業をすることができました。
写真4 いわせきゅうりの栽培
 子どもたちは、栽培して実ったきゅうりを売る活動へと動き出します。子どもたちが売る相手に選んだのは、意外にも飲食店でした。理由を聞くと、「飲食店ならたくさんの人に食べてもらえるから」と言います。栽培していくうちに、自分たちのきゅうりをたくさん人に食べてもらいたいという思いが増してきたのです。
 本格的にきゅうりを栽培するために「きゅうりを販売しているプロの農家さんに聞きたい」となり、農家の方に来ていただき、栽培するポイント、農家の仕事、農家の方の栽培への思いなどについて教えていただきました。
 「売るときの値段ってどうやって決めるのだろう」というので、JAの方に来ていただき、どのようにして価格が決まるのか、需要と供給のバランスなど、経済を交えた内容を教えてもらいました。子どもたちに価格の決め方を聞くと、
「素人だから、安くしよう。」
「小学生が作るレアなきゅうりだから少し高くてもいいのではないか。」
などと、それぞれ主張していました。結局、両意見の折衷案で決定した価格は「1本32円」でした。

3.きゅうりの活動で得た学び

写真5 お店に飾ったポスター 須賀川市の飲食店組合に子どもたちが栽培したきゅうりを買い取ってもらい、自分たちが栽培したきゅうりが料理に含まれていることをポスターにまとめ、それを店に飾っていただきました。子どもたちは須賀川市とコロナ病棟を扱っている病院にきゅうりで得た売り上げを寄付することができました。
 一連の子どもたちの取り組みから、当初のねらいに次の2点、

身近なきゅうり(夏の生産量日本1位)・福島の食材への新たな気づきを得て、地域の大切さの再発見し、地域へ愛情を育てることができる。
農家の働き方や働くことの意味、そして食に携わる人たちの野菜に対する愛情を消費者としてどう向き合えばいいのか考えることができる。

の、貴重な学習内容が加わりました。
 今回の「新型コロナウィルス」を軸とした総合的な学習の時間は、たくさんの方々の協力で授業を成り立たせることができました。その発端となったのは、子どもたちの「問い」の連続です。問いを解決するために、専門家と繋がり、生の声を聞くことで、次々と課題を解決し、また新たな問いにぶつかり、行動へ移すことができました。学校の外の人々との繋がりは人生においても大変重要なことです。たくさんの人に支えられ人々は生きており、皆が共に支え合っていることを子どもたちは実感することができました。
 最後に、この学習を通しての子どもたちの感想を紹介します。

  • 自分たちが行った活動は、自分たちだけでは行うことができなかった。たくさんの人に協力してもらったおかげでできたことだった。この思いは忘れないだろう。
  • きゅうりの毎日の水やりがこんなに大変だとは思わなかった。だけど、たくさんの人に届けて食べてもらうことができてうれしかった。
  • 農家の人の話を聞いて、ぼくも〇〇さんのような農家になりたいと思った。
  • きゅうりを育てた経験から、うちのおばあちゃんの畑の手伝いをもっとしようと感じた。将来農家という職業もいいかなと感じた。
  • 最初は小学生のわたしたちが寄付するなんてできないかもしれないと感じていた。それが、学習が進んでいくにつれて、現実になっていった。いろんな人と繋がることですごいことができるということや、人と繋がることの大切さを知ることができた。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

ビデオレターから生まれる友情(子ども・学校とPBL③)

 鹿又悟先生による報告の3回目は、2019年度のビデオレターによる交流実践を紹介します。

1.SDGsと米の学習

 年度が替わり、新しく第5学年の担任となりました。今年度から新たに探究サイクルのそれぞれのゴールを分かりやすく示すために、SDGs(「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」)の視点も学習に採り入れました。この実践の流れは、表1のとおりです。

表1 SDGsを採り入れた授業実践

段階

関連あるSDGs

内容

課題設定

田植え体験を行い、田んぼに関する疑問を深めたい。

情報の収集

水路から水の大切さを知らせたい。

稲作に使う機械の発達について知らせたい。

米を加工して作られたものについて知らせたい。

米の歴史について知らせたい。

お茶碗一杯分はお米何粒かなど、お米の大切さを知らせたい。

まとめ・発信

ネパールと交流し、日本との米文化の同異点について知り、今後の関係性を保ちたい。

学習全体のゴール

白方と外国の米作りと食文化はどう違うのだろうか?

 子どもたちは、白方小とネパールとの交流から、「自分たちの米作りについて紹介したい!」「日本とネパールでの米文化の違いって何か、知りたい!」というゴールを自分たちで決め、進めていきました。
 子どもたちの興味関心に沿って、グループに分かれ情報収集を行いました。その中でも印象的だった、探究し合う子どもの姿を紹介します。
図1 長さを測り田んぼの面積を考える A君は「一枚の田んぼから何粒のお米ができているのだろう。」という問いを抱きました。まず田んぼの縦、横の長さを測り、面積を計算しました。次に、稲と稲の間隔を測り、単位面積当たりの稲の数を求めました。農家の方へのインタビューで一本の稲に米が何粒できるかを知り、それを基にこの田んぼ全体で何粒できるという計算へと展開していきました。
図2 給食の1杯は米何粒か考える また、「給食のお茶碗一杯分のお米はいったい何粒なのだろう。」という問いを持った子どもたちは、別の活動を始めます。一杯分すべてのお米の粒を数えるのは困難だと感じた子どもたちは、一杯分の10分の1の重さの米粒の数を数え、10倍するというアイデアを自分たちで思いつき、計算しました。
 こうした子どもたちの姿は、教科の既習事項を生かして、協働的に探究することができるようになったことを示しています。

2.ビデオレターから見える日本とネパール

 前年度のビデオレター交流の課題として、他者意識が弱かったと感じていました。それは、作成する前段階においてネパールで暮らす人々の様子がイメージしにくい面があったからです。そのために、この年も法政大学の坂本旬先生に協力をいただき、これまで相手から贈られたビデオレターを見て、日本とネパールの子どもたちが互いに何を伝えたいのか、そして、それはどこから読み取ることができるのか、という授業を行いました。
 日本の子どもたちもネパールの子どもたちも、いずれも真剣なまなざしで相手から贈られたビデオレターに見入っていました。前のめりになってジーっと映像を見つめる姿が、とても印象的でした。子どもたちはビデオレターに詰め込まれている情報をあらゆる角度から探し出しました。

「小学校の周りには電線があるのに、なぜ電気が通っていないんだろう。」
「学校の中には明かりがなく、暗いんだね。」
「日本の学校より小さくて、1階建てなんだ。」
「学校はトタン屋根でできているんだ。僕たちの学校と違うな。」
「白方小の上の学年が贈った楽器のお礼のビデオレターだね。」

 などの言葉が聞かれました。実際ネパールの山間部の学校は、四方がトタン張りの校舎、通学路も険しく危険で、子どもたちの生活水準も大きく異なります。ややもすると、相違点ばかりが目立つビデオですが、ネパールの子どもたちも懸命に白方小の子どもたちにメッセージを伝えようとします。

「楽器を届けてくれてありがとう。素敵な楽器だね。笛を吹いてみるね。」
「ネパールのダンスを披露するね。」
「私たちが普段食べている料理を作るよ。」
「僕たちの学校の周りを紹介するね。」
「私たちの田んぼや畑、飼育している牛を紹介するね。」

 言語が異なる者同士でもビデオレターの交流を通して、友情にも似た親近感がどんどん湧いてくるのが伝わってきました。

3.ビデオレターの成果

図3 ネパールからのビデオレターを観賞 ビデオレターの制作に夢中になると、他者に伝えるという意識が薄らぎ、自己満足に陥ってしまいがちになります。仲間内ではない、自分たちとは異なる他者に伝えるということがこのビデオレターの実践では最も重要です。子どもたちはネパールのビデオレターを見ることで、自分たちの環境と異なる部分を知ると同時に、共通の部分にも気づきます。こうすることで、ネパールの子どもたちとの距離感がだんだん近くなっていったことが分かりました。「ネパールの子は~かな。」「ネパールでは、~だろう。」のような言葉が会話の中に増えてきたからです。
 自分たちが作成するビデオレターを同じ視点で相手は見ていることに気づき、映像から様々な情報を読み取ると、文化や言語は異なっても友好関係が生まれてくると理解することができたのです。そして、それは当初想定していたよりも遥かに大きなものでした。
 友好関係の深まりは、以下のような子どもたちの感想から読み取ることができます。

「自分の地域の再認識ができたこと。また、交流した国の文化・郷土を知ることで、自分たちの生活と比較して考えることができた。」
「人との関わりを大切にすることを学んだ。(学級も、外国の人も)」
「自分の国と相手の国・地域の環境の違いを知ることができた。」
「自分たちの暮らしを当たり前だと思ってはいけない。裕福な暮らしをしているという認識。」
「もっとたくさんのことでネパールの人たちと関わり合いたい。」
「実際にネパールに行って会ってみたい。」
「直接会って友だちになりたい。会ってないけど、友だちのような感じになった。」

 ビデオレター作成において、子どもたちは異国の友だちとの交流を通じて、一つのテーマから様々なベクトルを描くとともに、自他のビデオレターを思考し続けることで、様々な明るい未来を見出すことになると考えます。オンラインで繋がるだけではなく、苦労しながらビデオレターを協働で制作する過程にこそ、価値があります。「どんなメッセージを相手に届けたいのか。」「相手はどんなメッセージを届けたいのか。」など双方向のやり取りから、ビデオレターには子どもたちの様々な思考や想いが込められているのだと考えます。

ビデオレターによる国際交流(子ども・学校とPBL②)

 福島県須賀川市立白方小学校(以下、「白方小」)の鹿又悟先生による報告の2回目は、先生が2018年度に担任した6年生の実践を中心に紹介していきます。

1.ネパールとの交流

 白方小とネパールの小学校間でビデオレター交流を行うきっかけとなったのは、白方小が2011年の東日本大震災で、ネパールの山間部にある小学校が2015年4月のネパール地震で、それぞれ被災したことです。「子どもたち同士で励まし合うことになるのでは」と、ESDの指導をいただいていた法政大学の坂本旬先生の仲介により、2015年11月からネパールの小学校とのビデオレター交換の実践が始まりました。それから数年にもわたってネパールとのビデオレター交流が、白方小の高学年における伝統として引き継がれてきました。鹿又先生は、2018年からビデオレター交流を指導しています。
図1 田植えの様子
 2018年に鹿又先生が担任した6年生21名は、5年生の時からネパールとのビデオレターによる交流を行っていました。ネパールと日本は米文化という共通点があるので、米についての学習を行いました。子どもたちが5年生だった2017年は、白方小周辺の放射線のために田んぼで稲を育てることができなかったので、衣装ケースに植えるなど工夫を凝らしながら稲作に挑戦してきました。6年生になった2018年には、地域の方々の協力も得て実際の田んぼで米作りができるようになりました。

2.ビデオレターの取り組み

 白方小の総合的な学習の時間の流れは、「つかむ」「調べる」「まとめる」「発信、行動する」の四つの段階に分かれています。
 ビデオレターの作成は、自分たちの調べたことを分かりやすく表現し、発信する力を身につけること、さらには外国との交流を通してお互いの文化を理解・尊重し合うことをねらいとしています。外国語科と関連付けて学習を進めたり、ジェスチャーや写真・動画等を用いて自分の思いを伝えたりすることで表現力を高めることができます。ネパールへ向けたメッセージをビデオレターで表現するために、子どもたちは学級やグループで協力しながら分かりやすい表現方法を考えたり、自分たちが生活している白方の文化を世界へ広げるという思い(ビジョン)をまとめたりします。
 子どもたちは、自分の関心のあるテーマを決めて、グループに分かれて構想を練り、情報の収集からタブレット端末を使ったビデオレターの撮影・編集へと進んでいきます。各グループのテーマは表1の通りで、前期・後期にそれぞれビデオレターを作成しました。

表1 各グループのビデオレターのテーマ

前 期

後 期

・田んぼの土や生き物(生物)

・白方での米(伝統)

・田んぼの利用方法(多様性)

・日本の米の利用(文化)

・1年の流れ(気候)

・給食での米料理(食育)

・米の出荷(経済)

・外国の米料理(国際理解)

・田んぼの特徴(環境)

 子どもたちは、田んぼに何度も足を運び、ネパールの人たちに伝えたい、自慢したいという観点でテーマを考えたり、そのテーマについての情報を集めたりしました。情報資源が身近にあるので、必要なことをすぐに調査したり、確認したりすることができます。
 グループで作成しているビデオレターは、いずれも、子どもたち自身で情報を選定し、作成(絵コンテ・撮影・編集)し(図2)、他のグループとの対話をもとに構成し直し、最初から最後まで子どもたちがタブレット端末を操作し、自分たちの手で制作しています。
 前期と後期では、各グループのテーマに変化が見られました。前期は、自分たちの身近な疑問点を調べたり、紹介したりするテーマだったのに対して、後期は、「ネパールの給食はどんなのかな」、「ネパールの家庭料理は何だろう」など問いが生まれ、調べていくうちに自分たちの生活には様々な国の食生活が取り入れられていることに気づいていったのです。さらに、前期のビデオレターの内容は紹介だけでしたが、後期の内容には相手への質問が含まれ、「このことについて教えてほしい、知りたい」という思いが溢れる内容になっていました。これらは、子どもたちの中で、他者意識が生まれてきているのだと考えられます。

3.学習の深まり

 計画を練る時や立ち止まって考え直す時、子どもたちはワールドカフェ(図3)など十分に対話できる環境で友だちの意見をもらいXチャート(図4)やYチャート(図5)などの思考ツールを使いました。他のグループから付箋に考えを書いてもらい、気づかなかった視点などのアドバイスをもらうことができました。アドバイスをした子どもたちも参考になる部分を自分のグループに持ち帰り、活用している様子が見られました。

図2 絵コンテ図3 ワールドカフェの様子

図4 Xチャート図5 Yチャート

 子どもたちは、ネパールの子どもたちに向けて「Hello,I’m 〇〇. I like ~.」という簡単な自己紹介を行いました。
 また、本校の授業に協力していただいている東洋学園大学の坂本ひとみ先生の指導で、英語でかっぱ巻き調理実習も行いました(須賀川市は、夏秋キュウリの産地として日本トップクラスの生産量を誇ります)(図6)。子どもたちは、坂本ひとみ先生の英語の言葉や手元にある英文の資料(図7)を見て、かっぱ巻きを作りました。それを法政大学の坂本先生に撮影していただき、ビデオレターの一部に付け加えました。子どもたちは、ネパールの子どもたちに自分たちの地元の名産を紹介するのと同時に、調理という体験から英語に触れ、理解することができました。この調理実習や英語による自己紹介は、すべての子どもたちが意欲的に外国語を学ぶきっかけとなりました。

図6 英語でかっぱ巻き調理実習図7 かっぱ巻き作りの英文レシピ

 ビデオレター交流は作成すること自体が活動のゴールではありません。子どもたちの感想から、ビデオレターが目標を実現するツールとして、自分を振り返り、文化を再認識し、価値観の形成することに繋がるなど、様々な学習効果を生み出すことが分かります。
 現在はGIGAスクール構想で、子どもたちは一人1台タブレット端末を持っており、このような動画作成が簡単にできる時代です。映像表現を通じて相手に自分の思いを伝えることも、思考、判断、表現力の育成において効果的な一つの方法だと考えます。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

白方小学校のESD(子ども・学校とPBL①)

 Vol.57から前号Vol.61まで、ふたば未来学園高校を中心に、高校におけるPBLを授業との関連で述べてきました。今回から数回にわたって、鹿又悟先生(現福島大学大学院人間発達文化研究科)の報告による小学校の実践を通して、子ども・学校とPBLについて考えていきたいと思います。

1.東日本大震災と白方小学校

 福島県須賀川市立白方小学校(以下、「白方小」)は、福島県の中央部にある須賀川市の西部に位置します。田園地帯の中に立ち、近くには里山もあり、豊かな自然に恵まれています。また、校地内には農村公園や学校農園、ビオトープ等があり、東日本大震災前は生活科や理科の観察学習、総合的な学習の時間の環境学習をユニークに展開していました。
図1 白方小学校上空からの様子 2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県内の学校の教育活動は、程度や期間の差こそあれ、大きな制約を受けることになります。白方小では2014年の夏、ようやく校地内の全面除染が終了し、3年ぶりに正常な教育活動が可能になりました。
 当時、ほとんどの屋外活動ができず、登下校時も含めて様々な制限がある中、子どもたちは毎日元気に登校し、一生懸命に学習活動を続けていました。そのような中だからこそ、現状をしっかり見つめ、未来を切り拓くたくましい児童を育てたいと考え、ユネスコスクールへの加盟を目指しました。これまでの教育活動をESD(持続可能な開発のための教育:Education for Sustainable Development)の視点から見直すとともに、制限された状況の中でも、日常的に実践できるESDを追求していきたいと考え、実践を進めていきました。
 2015年5月にユネスコスクールに加盟することができ、以来、福島県内のESDの拠点の一つとして大きな役割を担ってきました。

2.白方小のホールスクールアプローチ

 ESDのホールスクールアプローチは、学校内での教育内容やカリキュラムの方向付けだけでなく、学校外の連携先団体や地域の人材の協力を得ながら、学校に関わるすべての人々が持続可能性について学び合うことができるようにするための考え方、手法です。あらゆる機会を通して持続可能性を実現する学校へと変革し続けていくことが重要となります。
 白方小では、このホールスクールアプローチを進めるにあたって、学校教育を四つの側面(「学校の運営」、「教室内外の学び」、「設備と環境」、「地域との連携」)から見つめ直し、中心となる「ビジョン」に向けて一体的に進めていくことが大切と考え、以下のような体系化されたシートを作成しました。周辺には、それぞれの側面に関連する内容を配置し、学校内外が一体的に運営されている全体像が見えるように工夫されています。

図2 白方小のホールスクールアプローチ・デザインシート

3.ESDカレンダーの作成と年間を見通した授業づくり

 「ESDカレンダー」は、ユネスコスクールの先進校である江東区立東雲小学校で開発された年間指導計画です。これを参考に白方小でも作成し、これによりひと目で、いつの時期に、どのような視点を持って、どのような学びを、どのような教科・領域と関連付けて取り組むのかが、だれにでも分かる年間指導計画にすることができました。
 ESDカレンダーの作成では、教科・領域間の関連に担任が意識を持つこと、そして、どのようにつなげると児童の実践的な態度に結びつくのか、実践を重ねながら修正していくことが必要だと考えます。各担任は、5月末までに1年間の見通しを立て、日々修正を加えながら年度末に完成を迎えるような形でESDカレンダーを作成しています。
 鹿又先生が着任した最初の年は、どの単元とどの単元をどのようにつなげていけばいいのか、どんな関係性があるのかよく分からなかったといいます。しかし同じブロックの先生とESDカレンダーを中心に話し合うことで、年間を通して軸となる学習活動と教科のつながりを理解することができるようになりました。「この単元とこの単元は関係性がある」、「この国語の書くことは、発信に活用できる」、「社会のこの単元は環境とつながっていく」と実感を持てるようになり、子どもたちも授業の中で、「あ!これは、社会のこの単元に関係してるね。」などと、教師が声を発するより早く気づく児童も出てきました。

図3 白方小のESDカレンダー

4.育てたいスキル

 各ブロックの発達段階、学習事項に応じた「育てたいスキル」の一覧表を作成し、その学年の子どもたちにどんなスキルを体験させたいのか、どの程度身についたかを把握できるようにしています。年度末には育てたいスキルを見直し、修正を行っています。
 評価は、毎回の授業で振り返りを集約し、ポートフォリオ評価を行っています。

図4 白方小で育てたいスキル

5.総合的な学習の時間の実践

 総合的な学習(探究)の時間では、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という探究のプロセスがスパイラルに連続し、その連続が右肩上がりに高まっていくことが重要です。活動で終わってしまうのではなく、何のための学びなのか、どのような「資質・能力」が育つのかという視点から、プロセスのゴールを明確にする必要があります。
 特に、子どもたちがどのような概念を形成するかという、認識の高まりをゴールとして描いておくことが大切だと思います。

図5 学習の発展概念図

 子どもたちの学習で、鹿又先生は以下の2点を大事にしています。1点目は子どもたちの「問い」です。学習しながら抱く「問い」を大事にすることで、自分事として探究し続けることができます。2点目は、「人」との出会いです。出会う・出会わせる「人」を誰にするか、どの場面にするかは、単元を構成していく中で重要な部分になります。この探究のプロセスを何度か行い右肩上がりとなれば、学習した探究課題から自分の在り方を見つめ、自分の生き方を考えることができるようになると考えています。
 白方小のこれまでのESDの実践を振り返ると、大きく三つの取り組みを挙げることができます。最初の実践としては、ビオトープの学習です。
 トンボ研究家のご指導をいただきながら、子どもたちはビオトープの小川でオニヤンマの産卵から羽化までを自らの目で観察し感動を味わいました。これをもとに、トンボの不思議や特徴、オニヤンマの短い一生、オニヤンマの生活、そしてオニヤンマの歴史へと視野を広げ、探究活動が深まっていきます。そしてトンボの絶滅の危機にも気づき、その原因が私たち人間の生活にあることを知り、自分たちの生活だけを考えるのではなく、すべての生き物の共存を願うようになります。子どもたちは、ここ白方の水の流れを守っていくことの大切さを学び、自分たちにできそうなことを考え、学習したことを発信していきます。
 これらの学習で培われた環境に関する関心は、その後の学習や児童会活動にも広がっていきました。
 これ以外の取り組みは、次号以降でご紹介します。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

授業研究の同僚・協働性(授業とPBL⑤)

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の最終回です。最後は「教科×探究」として取り組んだ数学の授業実践について紹介していきます。

1.高校教員の同僚・協働性

 教員免許更新制が廃止され、現職教育の在り方は転換期を迎え、同時に、ICTを活用し地域を越えた教員同士が協働で学び合うようになりました。自律的に実践知を重ねる授業研究が、コロナ禍で失われた教員相互の対話の代替手段となるのではないかと考えました。
図1 ふたば未来学園高校の授業の様子 「OECD国際教員指導環境調査」(TALIS)によれば、「他の教員の授業を見学し、感想を述べることを行っていない」と回答した日本の教員の割合は他の37参加国と比較して低く、わが国では校内の授業研究が広く行われていることを示しています。しかし、ある県教委による調査では、小学校の研修機会が21回であるのに対して、高校ではわずかに4.5回しかありません。
 高校は授業時間が長く、部活動や課外・検定指導もあるため、放課後の研修時間がとれないのが原因です。しかしそれ以上に、中・高校は教科担任制であるため、個々の教員も、管理職も含めて組織的に協働で授業研究を行う必要性を感じていないことが根本原因だと思います。
 このような高校で「総合的な探究の時間」が始まり、教員が協働し実践をデザインしていく必要性が新たに生じました。探究学習を指導する上で、素地となる同僚・協働性はこれまで以上に重要であると同時に、それを育むチャンスとも考えました。

2.事前検討会の過程

 具体的にはオンラインで、90分程度の事前検討会を、全国の数学の先生方7名と3回行いました。当初はオンラインをデメリットと捉えていましたが、むしろ参加する教員の融通をつけやすいメリットとなりました。
 また、授業者がデザインした授業を他の先生が参観・事後検討するのではなく、授業デザインから協働で考えるスタイルを採用しました。自分たちが授業を通して、どのような資質・能力を生徒に獲得して欲しいのかという目的(研究テーマ)設定では、7名の思いだけではなく、学習指導要領を通して日本や未来の社会が要請するカリキュラムの方向性も意識しました。その結果、獲得したい資質・能力を「身近な事象を柔軟に粘り強く考え、過程を振り返り、表現できる力」、研究テーマを「数学的に考える力を育成する授業とは」に決めました。
図2 ふたば未来学園中学校の授業の様子 次に、研究テーマを達成するために取り入れたのが、京都大学・西岡加名恵先生が紹介し研究している「逆向き設計」です。逆向き設計は、単元を通して育成したい生徒の姿から授業を構想していくのですが、そのために横断的に資質・能力の活用を必要とするパフォーマンス課題を設定し、その評価にはルーブリックを用います。こうした方法は、生徒側の当事者意識を涵養するためにも有効な実践でした。単元を通して、どういった資質・能力の育成を目指していくのかを明らかにすることは、実践による「生徒の成長と教員の指導」、いわば学習の「裏と表」の両面から精緻に捉えられるからです。

3.授業の実際

 実践では、数学Ⅰ「数と式・集合と命題」(5時間)の単元を設定しました。実践のまとめとなる研究授業は、単元末に、これまでの知識を普段の生活に活用できているか、パフォーマンス課題を通して測る授業としました。具体的には、グループで下記に示したパフォーマンス課題に取り組み、他チームの回答と比較していく授業を設計しました。

予選トーナメントを勝ち抜いた上位4チームでリーグ戦が行われ、各チーム残り1試合を残した時点での勝ち点の合計は、以下の通りでした。

順位

学校名

勝ち点の合計

1

X高校

15

2

Z高校

14

3

F高校

13

4

Y高校

12

〈ルール〉

勝ったチームには「3点」、負けたチームには「0点」、引き分けの場合には両チームに「1点」加点される。
最終戦を終えて、1位の勝ち点が同点であった場合には両チーム優勝とする。
最終戦は、X高校 対 Y高校、Z高校 対 F高校で行う。

問題 このときF高校が優勝するための条件を考えてみましょう。

 全国各地の教員と事前検討会ができたことの利点は以下の2点です。
 1点目は、それぞれの教員が勤務する学校や生徒が多様なので、自校の生徒の姿に縛られない教材や指導方法を考案できたことです。普段は、必然的に目前の生徒の姿から逆算して授業を設計していますが、そうしたマインドセットを崩せたことは普段よりも多様な教員との協働があったからだと思います。
 2点目は、オンラインの事前検討会を終え、研究授業までの期間や研究授業後に勤務校の先生方と授業について対話できたことです。つまり、オンラインでの授業検討で教材観についての課題が焦点化されたことで、校内の教員間では主に指導観に絞った教材研究を行うことができました。
 授業では、これまで数学の授業に対して今一つ前向きさに欠けていた運動部の男子生徒が課題で示された内容を身近なものと捉え意欲的に学習に取り組もうとしたり、課題で設定されたルールを理解することに壁を感じたスポーツ経験の少ない女子生徒を、他の生徒がサポートしたりする様子が見られました。その後、個人の学習場面を経て、協働学習に移行すると、生徒たちがそれぞれの意見を積極的に発言し、合意形成していく様子が見られました。
図3 ふたば未来学園の演劇施設 授業は「個別学習」と「協働学習」の場面を階層的に設定しました。中には個別学習の時点から「もう無理、考えられない」と漏らす生徒もいましたが、導入場面でルーブリックを用いた自己評価を取り入れたことで、個々が学習に責任を持ち自律的に粘り強く考えていくことが内発されたようでした。
 最後に今回の授業について、生徒にヒアリングしました。生徒たちにとって目新しい授業と予想していたのですが、観点別評価は中学時代にすでに経験していたことが分かりました。つまり、生徒たちにとっては、中学までと比較して、総括評価するだけの高校の学習の方が奇異に映っていたのではないかと考えられました。

4.おわりに

図4 ふたば未来学園の地域との交流スペース 複数の教員が研究授業を通して研究テーマに取り組むことで、互いの価値観を共有し、自分自身の内省につながりました。加えて、授業者のみの視点からは捉えることのできなかった事柄を、事前検討や実際の授業を通して獲得したことは貴重な経験になりました。
 こうして、5回の連載を通して自身の4年に及ぶ実践を振り返ると、条件を満たす一つだけの解は存在しないながらも、それを求める過程を丁寧に紡いでいくことが重要なことにあらためて気が付きました。連載を通して述べてきたように、教員相互の対話は勿論ですが、「対話が答えで良いのか?」と、常に前提から問い直すことも大切だと思いました。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

クロス・カリキュラムの授業(授業とPBL④)

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の4回目です。今回と次回の2回にわたって、「総合的な探究の時間」の探究学習から派生した教科横断の学びを紹介します。今回は「教科×教科」のクロス・カリキュラムの実践を紹介していきます。

1.教科横断的な学び

 ふたば未来学園高校では、開校した2015年当初から探究活動を軸としたコンピテンシーベースの教育を展開してきました。年数を重ね徐々にアクティブ・ラーニングの認知度こそ高まってはいたものの、いざ探究学習となると「えっ!本当にできるの?」、「総合的な学習の時間と同じような変遷を辿るのでは?(2つ目のLHRとなってしまい期待した効果が得られないのではないか?担当者だけの過度な負担となってしまわないか?)」といった声が外部はもちろん、同僚の中にもありました。しかし、すでに偏差値の向上だけを目的とする教育には戻れないことは明らかです。それは、教員が実際に探究学習を通して、生徒の成長を目の当たりにしたとき、本来求められている思考力・判断力等の育成につながる教育が「何」であるかを実感したからです。
図1 総合的な探究の時間の授業風景 探究学習の過程では2つの課題が生じました。一つは「コンピテンシーベースの教育に寄りすぎていて、これまで丁寧に行われてきた知識を獲得するための学びが疎かになっているのではないか?」という指摘です。もう一つは、生徒が協働学習を尊重するあまり、ディスカッションの方法ばかりに気を取られ、「学習内容を関連付けて、汎用的な知識に高められていないのではないか?」ということです。
 こうしたコンピテンシーベースの教育を従来の学校教育に取り入れるためには、教員同士の同僚・協働性(*1)がとても重要であると考えました。つまり、子どもを軸とした教員同士の“対話“です。

2.数学で身近な社会問題を分析する

 地歴・公民科のS先生と鈴木先生には、「現代的なテーマを教科学習で扱えないか」という共通の問題意識があり、2018年度に高校2年生を対象に、全3時間のクロス・カリキュラムの授業を実践することになりました。普段探究学習には主体的に取り組むのに、教科学習にはなかなか意欲的になれない生徒、探究学習に授業の学びを生かせない生徒がいたからです。それらの原因は、教科学習の学びと身の回りの社会とが結びついていないからではないかという仮説がありました。そこで、授業のテーマを「数学で身近な社会問題を分析する」とし、最後の3時間目の授業では、グループごとに分析に基づいて身近な地域の課題解決の提案を行わせることにしました。
図2 総合的な探究の時間の授業風景 単なるイベントで終わってしまわないように、授業に入る前に到達目標と評価基準を明確化し、授業にルーブリック評価を取り入れることにしました。「地域の課題を捉えようと探究学習を通して学んでいるか」、「他地域や海外のことも考えることのできる汎用性を持ち合わせているか」、「数学的な見方・考え方を取り入れて事物を考察できているか」といった到達目標と5段階の評価基準を設定しました。
 授業の1時間目ではS先生が、北海道のY市の人口は、1960年の107,972人をピークに減少を続け、2010年には10,922人と急激な人口減少・少子高齢化が進んでいることなどの講義をしました。その際、S先生はA3用紙に予め記された特徴的な数字をどんどん紹介し、黒板に掲示していく紙芝居形式で授業を展開しました。こうした効果的な教授法を体験的に学べることもクロス・カリキュラムならではだと思います。
図3 総合的な探究の時間の授業風景 2時間目には、双葉郡の人口の変遷から、人口減少に対する解決策を模索し、続く3時間目の授業で発表してもらいました。印象的だったのは、教科で培った知識が、私たちの想定を超えて有機的につながっていたことです。人口の変化を分析する際には、数学Ⅰ・「データの分析」で学んだ知識が活用されると想定しました。しかしあるチームは、ディスカッションで人口の変化に演繹性を見いだし、数学B・「数列」(等比数列)で表せるのではないかという仮説を立て、計算してみると、実際の人口と近似した値を求められることがわかりました。これまで現実の事象は複雑な変数で統制されていて、高校で学ぶ数学だけでは明らかにできないという思い込みがあったのですが、生徒だけでなく、教員も実際に活用できることを実感しました。
 一方、いくつかの課題も残りました。その一つは、クロス・カリキュラムは教員にとっても想定外の学びにつながるチャレンジであったために、実践した教員は学べても、それを言語化して他の教員と共有できなかったことです。そこで翌年度からは、教員でグループを組み、体験的に実践していったことで、更に様々な効果を蓄積することができました。

3.コロナ禍でのクロス・カリキュラム

 2019年度は今回取り上げた「地歴・公民科×数学」だけでなく、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等これまでの私たちの社会生活を起因とした様々な問題に迫ろうと、学校全体で取り組みました。しかし、2020年2月のコロナ禍以降、教員同士が対面で話し合うことが難しくなったり、互いの教室を参観することが憚られたりしたため、学校全体の取り組みは弱まってしまいました。
 一方で、2021年度にはコロナ禍で生まれたオンラインでのつながりを生かし、他校の先生と教科横断の学びを実践するきっかけとなりました。同じ学校に勤める教員同士だと発想が似てしまいがちですが、こうした経験を通してより多様な先生と対話することで、これまでにはない示唆を得ることができました。こうして得られた知見を再度校内での授業実践に活かせば、より高度な授業実践も可能になるのではないでしょうか。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

*1:教員相互の信頼関係と義務感を重視する「同僚性」と、2000年代以降の説明責任とその成果を重視する「協働性」といった2面を合わせて、同僚・協働性とする。

ルーブリック評価(授業とPBL③)

1.教員の当事者意識

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の3回目です。前回に引き続き、「総合的な探究の時間」の「課題の設定」に着目したいと思います。前回は生徒の「自分事化」の問題を取り上げましたが、今回は 教員の「自分事化」に迫りたいと思います。
図1 ふたば未来学園の学習活動の様子 学校で一つのことに全教員が共通認識で取り組む場面は多くはありませんが、生徒の興味によって多様な展開が想定され、きめ細やかに生徒の学びを伴走していくことが求められている「総探」では、関係するすべての先生と対話を重ね、「当事者意識」を持って実践を行うことが必須です。しかし、多忙化が叫ばれて久しい現在の学校現場では、十分なコミュニケーションがとれないのが実情です。
 中堅の進学校であるY高校では当初、係教員であるA先生によってスクール・ポリシーと紐づけ「総探」の目標を定めました。A先生を中心に、カリキュラム・マネジメントの柱として目標を設定しただけでなく、学校や生徒の実態も鑑み、「総探」に関わる教員間で対話し、学習指導要領で示された学びの目指す方向、昨今の社会で期待される子どもたちの姿、さらには自校の生徒に目指して欲しい「理想の姿」等、様々な意見が交わされました。その結果、「本校生は目的意識が低い」など共通理解が生まれ、「協働性」や「レジリエンス」を重視することにしました。
 しかし、「総探」が開始されると、B先生からは生徒の社会問題についての「知識」不足が語られたり、C先生からは探究学習の「深まり」が指摘されたりするなど、「協働性」などのマインドセットを重視していたにも関わらず、社会的な「知識」の不足が求められるように変わってしまいました。
図2 ふたば未来学園の学習活動の様子 当初設定した目標が変わることは、生徒の実態から探究学習をリ・デザインしていくことにつながるので、より生徒の実態にあった学習が展開していくことも期待されます。しかし、対話的に導かれた「総探」の目標がどうして変容してしまったのでしょうか?
 「総探」で、こうした混乱が起きてしまうと、指導する教員は勿論、学習する生徒も先行きの不透明さから活動が活性化していかないことがあります。こうした課題に対して、教員と生徒の目線合わせために、ふたば未来学園で展開してきたのが、ルーブリック評価です。

2.生徒と評価指標を共有するルーブリック

 ふたば未来学園では、2015年の開校時、生徒の実態などを踏まえ、目指す生徒像や、そうした生徒を育成するために必要な資質・能力について、30名弱しかいなかった全教員で話し合いました。震災により地域に暮らしていた住民が避難したり、逆に復興支援のために新たな人流ができたりと、地域の人々が多様になってきたことから、他者への「寛容性」等、11項目の資質・能力を挙げました。ここまでの過程は、Y高校と同一なのですが、ふたば未来学園では、その後、こうして抽出された資質・能力を言語化し、段階(レベル)に分け、学習者である生徒ともルーブリックを通して共有していきました。
図3 学習活動のメモ 例えば、ルーブリック評価では、「寛容性」といった可視化されにくい資質・能力を一定程度、公平かつ定量的に評価することが可能になります。一方で、学習者が自己評価することが多いので、妥当性や信頼性だけでなく、生徒がより良い評価者であることも求められます。また、共通理解を図ったり、結果を次の指導のために活用したりと、適切な運用には随時注意を払っていく必要もあります。
 ペーパーテストでは生徒に評価基準を秘匿しているので、ルーブリック評価はこれまでの評価とは相いれない一面があります。しかし、生徒が予め評価基準を知っていることは学習の目標となるので、内省を習慣化する「メタ認知」にもつながります。このように自分自身を振り返る力を自律的に育てていくことは、生徒の主体性にもつながるので、とても大切なことです。
 更に、ルーブリックは、学習する生徒と指導する教員との間で探究学習の目標を共有するだけでなく、指導する教員間でも目標を共通理解することになるので、教員間で生じるズレをなくす効果もあるのです。

3.ルーブリック評価の実践例

図4 ふたば未来学園の学習活動の様子 ルーブリックの作成は容易ではありませんが、現在では、ふたば未来学園をはじめ、様々な学校で情報を開示しているので、それを参考にすると良いと思います(URL:https://futabamiraigakuen-h.fcs.ed.jp/学校紹介/page_20210619005448)。また、作成されたルーブリックは、どうやって生徒や先生間で“共有”していくか、年々変化していく資質能力を組み込んで“改善”していくかといった課題もあります。このことはふたば未来学園でも例外ではありません。開校当初8割が双葉郡出身者で占められていた生徒が、6年後にはほぼ半減しました。同時に、開校時から勤める教員もごく僅かとなり、当初考えられた資質・能力と現在の生徒の姿では離れていきますし、教員間の共有も弱まってしまいます。そういった運営面に関する課題に対して、ふたば未来学園で取り組んだ改善策の一つを紹介します。
 開校時は年度終了時に生徒がどの程度、資質・能力を伸ばしてきたか検証する、いわゆる「総括的評価」としてルーブリック評価をおこなっていましたが、2019年からは、生徒一人ひとりにフィードバックし、その先の目標設定等に活かすよう「形成的評価」として利用することを目標にルーブリック面談を導入しました。手法としては、ゼミを担当する教員2~3人で分担して、生徒と1対1で面談します。一人の生徒当たり30分前後の時間を要するので、手間がかかりますが、学習の調整やメタ認知能力を育てるだけでなく、担当する教員との距離も近づくため、概ね好意的に捉えられています。
 具体的には、ルーブリックの各項目についてその評価理由を生徒に説明してもらいながら、レベルの再確認を行い、それを選んだ根拠、自己評価などを聞いていきます。教師の見取りと、生徒本人の認識とがあまりにも乖離している場合には修正することもありますが、おおむね一致します。学習にフィードバックすることがポイントなので、今後どんなところを伸ばしたいのか、新たな目標設定といった次につながる評価をします。また、どの先生もできるだけ同じ目線で面談ができるように、実際に面談をシミュレートしている場面の動画を共有したり、留意点(対話的に関わることを意識しましょう、等)を丁寧に伝えたりもしました。
図5 ふたば未来学園の学習活動の様子 ただし、ルーブリック面談が改善のゴールではないことを補足しておきます。ふたば未来学園では、ルーブリック評価のデータを個人別に整理する(カルテの作成)ことで、より生徒がルーブリック評価を目標として活用できるように促すなど、更に活用と共有が展開していけるように考えられています。このように、それぞれの学校で、実情に合わせて改善を継続していくことが、「総探」を恒常的にブーストしていくには大切なのだと思います。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

「総合的な探究の時間」の課題設定(授業とPBL②)

 今回も、ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生の論を軸にして、高校の「総合的な探究の時間」の課題設定について述べていきます。

1.課題設定の苦悩

図1 課題を設定する(本文とは関係ありません) 多くの先生は、「総合的な探究の時間」の“課題の設定”に悩みます。ここでうまくいかないと、生徒の学習活動に後々まで響いていくからです。多くの高校では、入学してきた新入生に4月から課題を設定させようとしますが、生徒も教師も落ち着かないこの時期にうまくいかないことが多いのではないかと思います。
 鈴木先生の所属するふたば未来学園高校では、あえて、教員が入試業務や3年生の受験指導で多忙な前年度の2月頃、教員が探究学習の「種」だけを与えて、教員の手の離れたところで生徒の力でふくらませようとしています。
 またA高校では、高校生活に慣れてきた7月頃に課題の設定を行います。4月からここまで、熟議のあり方、思考ツールの使い方、図書館を利用した情報収集法といった探究に関わるスキル学習を行います。小学校3年生から中学校まで「総合的な学習の時間」を体験してきてはいますが、出身校の状況や個人差によって大きな開きがあります。このような新入生に対して、目的や方法を確認することはとても重要です。加えて、要領を得ない生徒に対して個人的に話をしたり、生徒同士で話し合わせたりすることも必要です。

2.課題を「自分事化」する

 生徒たちが「課題(探究テーマ)」を「自分事化」することは、重要でありながら困難なことでもあります。ふたば未来学園高校では、2022年度の学習指導要領の全面実施に先駆けて、2017年の開校以来、探究学習をカリキュラムマネジメントの柱に位置づけて、実践されてきました。
図2 双葉郡出身者の推移 ふたば未来学園高校は、2011年の東日本大震災にともなって発生した原発事故に傷つけられた地域を復興させる人材を育成することを目的に創設された高校です。開設当時は8割の高校生が地元の双葉郡出身でした。ですから生徒も教員も、探究活動で学びを深めることが将来の復興に結びつくは当然と考えていました。しかし6年が経過した2021年度の入学生は、地元出身が3割までに減少し、また発足当時の教員の多くも他校に異動しています。そうなると、「地域の復興」を当然のものとしてきたこれまでとは大きく異なり、地域の期待とは裏腹に「自分事化」することが極めて困難になってきます。
 このような現状に対して、課題設定時に行われる「体験活動」が鍵になると考えています。
 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総合的な探究の時間編」では、「生徒の興味・関心等に基づく単元の構想」が肝要であることと、そのために「様々な相互作用」が重要であるとし、相互作用の例示として「体験活動」を挙げています。生徒の関心は多様で、影響を受けやすく、時間とともに変わります。そのため、教員が選択して与えた課題が生徒の関心や問題意識に繋がるかどうか疑問です。「小学校学習指導要領(平成29年告示)」では、「活動や体験を重視し、具体的な活動や体験の中で様々な気付きを得て、(中略)気付きの質を高めること」と、「直接関わることや気付いたこと・楽しかったことなどを表現」する活動を大切にすることが期待されています。図3 探究サイクル内の体験活動の位置づけすなわち、図3で示すように体験活動を通して「気付き」、感受性を高め、「表現」したり伝えたりする外部化を通して、具体的な活動と抽象的な思考を繰り返しながら「内省」し、他の場面でも活用可能な思考力へと知識を概念化していくことが体験活動の価値であると捉えることができます。

3.「体験活動」の実践

 二つの実践を紹介しましょう。
 一つは、ふたば未来学園高校の演劇教育です。4月の入学から生徒たちは双葉郡内のバスツアー、地域を舞台に復興に取り組む大人たちへのインタビューを行い、対象となる地域や人々に少しずつフォーカスしながら地域を学んでいきます。その際、単に目にしたことを個人内で省察するだけでなく、グループで対話したり、他のコースをツアーしたクラスメートに自分たちの見てきたこと、感じたことを発表したりすることで、体験を抽象的に概念化していきます。
図4 地域課題を演劇に その後、全国各地の学校や企業で舞台芸術表現を通じたワークショップを行う演劇者集団PAVLICのメンバーと協同で、双葉郡の課題をモチーフにした演劇を通して表現していきます。こうした一連の活動が下地になって、その後行われる探究学習でも生徒たちは自然に地域の課題を自分事としてとらえて学習を展開していきます。
 本校の演劇教育は、当初は原発事故で分断された地域を再度つなげるためのコミュニケーション・スキルを身につけさせる側面が強かったのですが、経年に渡るカリキュラム開発の結果、このように変化していきました。
 また、B高校では「総探」の開始前から、地域の方々と年間を通したソバの栽培を数十年間行ってきました。
 大まかな流れは、1年生の6月末に播種、11月初旬に刈取りし、その後、乾燥、脱穀、そば打ちを行います。このように伝統的な日本の農業体験は現代の生徒たちに新鮮な驚きとなりますが、一方、これだけでは学校教育として行う価値が十分とは言えません。そこで、2年次では、2チームに分かれて探究学習を行っていきます。一方のチームは、ソバ粉を使った新しいレシピの開発、もう一方は新商品を販売する古民家を利用したカフェづくりです。いずれのチームも周囲の先生や地域の人を巻き込みながら、予定調和ではない活動を継続していきました。
 B高校の実践で特に印象的なのは、生徒たちの生き生きとした様子を教員が地域の人たちのインフォーマルな評価からも得ることで、指導を改善したり、教員自身がエンパワメントされたりしたことです。このことから、「総探」では生徒たちの学習と指導する先生の学習が相似形であることを読み取ることができました。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

高校における「総合的な探究の時間」(授業とPBL①)

1.総合的な探究の時間

図1 校外での体験学習 これまで主に学校外でのPBLを取り上げてきました。ここからの数回は、福島県立ふたば未来学園高校(学び!とPBL〈Vol. 1819 〉参照)の鈴木貴人先生にご協力をお願いし、先生の論を軸にして、高校での「総合的な探究の時間」(以下、「総探」)について述べていきます。実態と離れた抽象的な指導法や理論だけを語るのではなく、県内で指導する先生にインタビューした内容や、複数の高校における授業実践の実態に基づいた内容とすることで、明日からの指導に役立たせることができればと考えています。
 「総探」が、高等学校で全面実施されてから8か月が経過しました。しかし、多くの学校では新たに探究学習を設計するといった「立ち上げ」の苦労よりも、これまでの「総合的な学習の時間」をどのように変えるか、「改善」の苦労の方が大きいように感じられます。

2.福島県における探究学習の源流

 福島県における探究学習は3方向の源流があるように考えられます。
 1つは、OECD東北スクール(学び!とPBL〈Vol. 050607080910 〉参照)における子どもたちの成長とそこでの教員の経験です。被災地の課題を解決するために、主体的に課題に関わりながら学ぶ探究学習への期待は震災直後から寄せられており、こうした教育の土台となったのが、OECD東北スクールでした。OECDによると、福島・宮城・岩手3県の被災地の中・高生によってなされたPBLは、「子供たちのやる気、興味、そして想像力に高い価値を見出し」て、「子供たちのやる気を引き出すため、モチベーションを高める効果的な学習法である」と報告されています。同じく、「1.イニシアティブをとり、協力する。2.プロセスから学ぶ。3.将来を考える」ことの3点についてプロジェクトを通して身に付けることが目標とされており、このことは2022年度から全面実施された「総探」で期待されている学びと相似形を成しています。
図2 思考ツールの活用 2つ目の方向は、全国的な探究学習の起源であるスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)、スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)に指定された高校で先行して行われてきた学習です。こうした学校で実践されてきた学習の多くは、PBLではなく、Inquiry Based Learning(探究型学習、以下IBL)に寄った探究学習だったと思います。
 IBLは、自ら問いを立て、問いに対して幅広く調査・研究し、新しい知識を創造し、課題を解決する方策を立てていくことが目的とされています。これまで一部の学校で実践されてきた探究学習が、2018年の学習指導要領からは、「古典探究」や「世界史探究」、「理数探究」といった各教科における「探究」を冠した科目が新設され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」へと名称が変わり内容が一新され、2022年度から全面実施されました。そのためすべての高校で探究学習は一層の注目を集め、そのような学びをデザインする教員の学校を超えた協働についても、関心が寄せられています。
図3 教員間の対話から 3つ目の方向は、これまでの教員の経験に根差した探究学習です。これまで、商業高校、工業高校といった実業高校では、課題研究を3年次のカリキュラムの柱として実践してきました。ある工業高校建築科の課題研究では、子どもたちが理想の家屋を設計し、それをミニチュアで作成しました。その後、作成したミニチュアを付近の大規模商業施設の催事場に展示し、来客の皆様に子どもたち自身でコンセプトや作成過程での工夫や苦労を語ってくれました。課題研究で求められる学習は、現実社会から学ぶこと、子どもたちが体験的に学ぶことなど多くの点で探究学習と相似形の学びが展開されています。
 一方で、想定外を所与のものとする探究学習とは異なり、成果を第一に考えるため、課題研究のタクトは教員に委ねられていて、必ずしも生徒が主体であるとは言い難い現状があります。実業高校の実践は一例に過ぎず、教員がそれまでに実践してきた学習や、学んできた研究やその過程をそのまま子どもたちの学習に移入していること、つまり、各教員の中のメンタルモデルが第3の方向ということができます。
 特にこの教員のメンタルモデルの変容が最も難しく、かつ重要なテーマです。なぜなら、経験の異なる教員個人の見方・考え方を活かしつつ、それを統合しながら知識・技能を横断する思考力を獲得するためのカリキュラム開発が「総探」では期待されており、各学校のグランド・デザインの実現にまで通底するからです。

3.「立ち上げ」よりも「改善」が難しい

図4 校外での体験学習 「総探」は、2008年の学習指導要領の改訂以来継続して打ち出されている「生きる力」の育成に大きく寄与します。しかしながら、これまでの高校は小学校、中学校教員の協働に対して、教員それぞれの個業化が課題でした。
 また、学習指導要領の改訂という外的要因から始まった「総探」なので、第3の方向で述べたように各教員の内発的な動機とは必ずしも符合するとは言い切れません。
 加えて、実践2年目以降は教科を超えて共通言語化するのが難しく、ペーパーテストだけでは評価のできない共通の資質・能力を具体化し、「総探」の成果を教員相互の対話から導き出す「改善」を行う必要があります。例えるなら、1年目の、真っ白なキャンバスに教員の理想とする姿を描いていく「総探」は思い思いに実践できますが、2年目以降、描かれた絵を手直しし「改善」していく方が難しく、これからの「総探」のカリキュラム開発はより難しい局面を迎えることが予想されます。
 今回は「総探」の源流について述べました。次回は探究サイクルの始まりである「課題設定」の実態と課題について述べていきたいと思います。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)