「総合的な探究の時間」の課題設定(授業とPBL②)

 今回も、ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生の論を軸にして、高校の「総合的な探究の時間」の課題設定について述べていきます。

1.課題設定の苦悩

図1 課題を設定する(本文とは関係ありません) 多くの先生は、「総合的な探究の時間」の“課題の設定”に悩みます。ここでうまくいかないと、生徒の学習活動に後々まで響いていくからです。多くの高校では、入学してきた新入生に4月から課題を設定させようとしますが、生徒も教師も落ち着かないこの時期にうまくいかないことが多いのではないかと思います。
 鈴木先生の所属するふたば未来学園高校では、あえて、教員が入試業務や3年生の受験指導で多忙な前年度の2月頃、教員が探究学習の「種」だけを与えて、教員の手の離れたところで生徒の力でふくらませようとしています。
 またA高校では、高校生活に慣れてきた7月頃に課題の設定を行います。4月からここまで、熟議のあり方、思考ツールの使い方、図書館を利用した情報収集法といった探究に関わるスキル学習を行います。小学校3年生から中学校まで「総合的な学習の時間」を体験してきてはいますが、出身校の状況や個人差によって大きな開きがあります。このような新入生に対して、目的や方法を確認することはとても重要です。加えて、要領を得ない生徒に対して個人的に話をしたり、生徒同士で話し合わせたりすることも必要です。

2.課題を「自分事化」する

 生徒たちが「課題(探究テーマ)」を「自分事化」することは、重要でありながら困難なことでもあります。ふたば未来学園高校では、2022年度の学習指導要領の全面実施に先駆けて、2017年の開校以来、探究学習をカリキュラムマネジメントの柱に位置づけて、実践されてきました。
図2 双葉郡出身者の推移 ふたば未来学園高校は、2011年の東日本大震災にともなって発生した原発事故に傷つけられた地域を復興させる人材を育成することを目的に創設された高校です。開設当時は8割の高校生が地元の双葉郡出身でした。ですから生徒も教員も、探究活動で学びを深めることが将来の復興に結びつくは当然と考えていました。しかし6年が経過した2021年度の入学生は、地元出身が3割までに減少し、また発足当時の教員の多くも他校に異動しています。そうなると、「地域の復興」を当然のものとしてきたこれまでとは大きく異なり、地域の期待とは裏腹に「自分事化」することが極めて困難になってきます。
 このような現状に対して、課題設定時に行われる「体験活動」が鍵になると考えています。
 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総合的な探究の時間編」では、「生徒の興味・関心等に基づく単元の構想」が肝要であることと、そのために「様々な相互作用」が重要であるとし、相互作用の例示として「体験活動」を挙げています。生徒の関心は多様で、影響を受けやすく、時間とともに変わります。そのため、教員が選択して与えた課題が生徒の関心や問題意識に繋がるかどうか疑問です。「小学校学習指導要領(平成29年告示)」では、「活動や体験を重視し、具体的な活動や体験の中で様々な気付きを得て、(中略)気付きの質を高めること」と、「直接関わることや気付いたこと・楽しかったことなどを表現」する活動を大切にすることが期待されています。図3 探究サイクル内の体験活動の位置づけすなわち、図3で示すように体験活動を通して「気付き」、感受性を高め、「表現」したり伝えたりする外部化を通して、具体的な活動と抽象的な思考を繰り返しながら「内省」し、他の場面でも活用可能な思考力へと知識を概念化していくことが体験活動の価値であると捉えることができます。

3.「体験活動」の実践

 二つの実践を紹介しましょう。
 一つは、ふたば未来学園高校の演劇教育です。4月の入学から生徒たちは双葉郡内のバスツアー、地域を舞台に復興に取り組む大人たちへのインタビューを行い、対象となる地域や人々に少しずつフォーカスしながら地域を学んでいきます。その際、単に目にしたことを個人内で省察するだけでなく、グループで対話したり、他のコースをツアーしたクラスメートに自分たちの見てきたこと、感じたことを発表したりすることで、体験を抽象的に概念化していきます。
図4 地域課題を演劇に その後、全国各地の学校や企業で舞台芸術表現を通じたワークショップを行う演劇者集団PAVLICのメンバーと協同で、双葉郡の課題をモチーフにした演劇を通して表現していきます。こうした一連の活動が下地になって、その後行われる探究学習でも生徒たちは自然に地域の課題を自分事としてとらえて学習を展開していきます。
 本校の演劇教育は、当初は原発事故で分断された地域を再度つなげるためのコミュニケーション・スキルを身につけさせる側面が強かったのですが、経年に渡るカリキュラム開発の結果、このように変化していきました。
 また、B高校では「総探」の開始前から、地域の方々と年間を通したソバの栽培を数十年間行ってきました。
 大まかな流れは、1年生の6月末に播種、11月初旬に刈取りし、その後、乾燥、脱穀、そば打ちを行います。このように伝統的な日本の農業体験は現代の生徒たちに新鮮な驚きとなりますが、一方、これだけでは学校教育として行う価値が十分とは言えません。そこで、2年次では、2チームに分かれて探究学習を行っていきます。一方のチームは、ソバ粉を使った新しいレシピの開発、もう一方は新商品を販売する古民家を利用したカフェづくりです。いずれのチームも周囲の先生や地域の人を巻き込みながら、予定調和ではない活動を継続していきました。
 B高校の実践で特に印象的なのは、生徒たちの生き生きとした様子を教員が地域の人たちのインフォーマルな評価からも得ることで、指導を改善したり、教員自身がエンパワメントされたりしたことです。このことから、「総探」では生徒たちの学習と指導する先生の学習が相似形であることを読み取ることができました。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

高校における「総合的な探究の時間」(授業とPBL①)

1.総合的な探究の時間

図1 校外での体験学習 これまで主に学校外でのPBLを取り上げてきました。ここからの数回は、福島県立ふたば未来学園高校(学び!とPBL〈Vol. 1819 〉参照)の鈴木貴人先生にご協力をお願いし、先生の論を軸にして、高校での「総合的な探究の時間」(以下、「総探」)について述べていきます。実態と離れた抽象的な指導法や理論だけを語るのではなく、県内で指導する先生にインタビューした内容や、複数の高校における授業実践の実態に基づいた内容とすることで、明日からの指導に役立たせることができればと考えています。
 「総探」が、高等学校で全面実施されてから8か月が経過しました。しかし、多くの学校では新たに探究学習を設計するといった「立ち上げ」の苦労よりも、これまでの「総合的な学習の時間」をどのように変えるか、「改善」の苦労の方が大きいように感じられます。

2.福島県における探究学習の源流

 福島県における探究学習は3方向の源流があるように考えられます。
 1つは、OECD東北スクール(学び!とPBL〈Vol. 050607080910 〉参照)における子どもたちの成長とそこでの教員の経験です。被災地の課題を解決するために、主体的に課題に関わりながら学ぶ探究学習への期待は震災直後から寄せられており、こうした教育の土台となったのが、OECD東北スクールでした。OECDによると、福島・宮城・岩手3県の被災地の中・高生によってなされたPBLは、「子供たちのやる気、興味、そして想像力に高い価値を見出し」て、「子供たちのやる気を引き出すため、モチベーションを高める効果的な学習法である」と報告されています。同じく、「1.イニシアティブをとり、協力する。2.プロセスから学ぶ。3.将来を考える」ことの3点についてプロジェクトを通して身に付けることが目標とされており、このことは2022年度から全面実施された「総探」で期待されている学びと相似形を成しています。
図2 思考ツールの活用 2つ目の方向は、全国的な探究学習の起源であるスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)、スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)に指定された高校で先行して行われてきた学習です。こうした学校で実践されてきた学習の多くは、PBLではなく、Inquiry Based Learning(探究型学習、以下IBL)に寄った探究学習だったと思います。
 IBLは、自ら問いを立て、問いに対して幅広く調査・研究し、新しい知識を創造し、課題を解決する方策を立てていくことが目的とされています。これまで一部の学校で実践されてきた探究学習が、2018年の学習指導要領からは、「古典探究」や「世界史探究」、「理数探究」といった各教科における「探究」を冠した科目が新設され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」へと名称が変わり内容が一新され、2022年度から全面実施されました。そのためすべての高校で探究学習は一層の注目を集め、そのような学びをデザインする教員の学校を超えた協働についても、関心が寄せられています。
図3 教員間の対話から 3つ目の方向は、これまでの教員の経験に根差した探究学習です。これまで、商業高校、工業高校といった実業高校では、課題研究を3年次のカリキュラムの柱として実践してきました。ある工業高校建築科の課題研究では、子どもたちが理想の家屋を設計し、それをミニチュアで作成しました。その後、作成したミニチュアを付近の大規模商業施設の催事場に展示し、来客の皆様に子どもたち自身でコンセプトや作成過程での工夫や苦労を語ってくれました。課題研究で求められる学習は、現実社会から学ぶこと、子どもたちが体験的に学ぶことなど多くの点で探究学習と相似形の学びが展開されています。
 一方で、想定外を所与のものとする探究学習とは異なり、成果を第一に考えるため、課題研究のタクトは教員に委ねられていて、必ずしも生徒が主体であるとは言い難い現状があります。実業高校の実践は一例に過ぎず、教員がそれまでに実践してきた学習や、学んできた研究やその過程をそのまま子どもたちの学習に移入していること、つまり、各教員の中のメンタルモデルが第3の方向ということができます。
 特にこの教員のメンタルモデルの変容が最も難しく、かつ重要なテーマです。なぜなら、経験の異なる教員個人の見方・考え方を活かしつつ、それを統合しながら知識・技能を横断する思考力を獲得するためのカリキュラム開発が「総探」では期待されており、各学校のグランド・デザインの実現にまで通底するからです。

3.「立ち上げ」よりも「改善」が難しい

図4 校外での体験学習 「総探」は、2008年の学習指導要領の改訂以来継続して打ち出されている「生きる力」の育成に大きく寄与します。しかしながら、これまでの高校は小学校、中学校教員の協働に対して、教員それぞれの個業化が課題でした。
 また、学習指導要領の改訂という外的要因から始まった「総探」なので、第3の方向で述べたように各教員の内発的な動機とは必ずしも符合するとは言い切れません。
 加えて、実践2年目以降は教科を超えて共通言語化するのが難しく、ペーパーテストだけでは評価のできない共通の資質・能力を具体化し、「総探」の成果を教員相互の対話から導き出す「改善」を行う必要があります。例えるなら、1年目の、真っ白なキャンバスに教員の理想とする姿を描いていく「総探」は思い思いに実践できますが、2年目以降、描かれた絵を手直しし「改善」していく方が難しく、これからの「総探」のカリキュラム開発はより難しい局面を迎えることが予想されます。
 今回は「総探」の源流について述べました。次回は探究サイクルの始まりである「課題設定」の実態と課題について述べていきたいと思います。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

コロナ禍でフェスティバルを断行!

1.絶体絶命の高校生フェスティバル

図1 半年ぶりの大学生ミーティング 2020年3月の新型コロナウイルスの蔓延による臨時休校は、福島市チームプロジェクトのすべてを直撃しました。台湾の高校との協働プランも中断となり、3回目となる福島市高校生フェスティバル(以下、高フェス)の存続も極めて難しい状況となりました。
 高フェスの2018年、2019年の実績が認められ、福島市施設との共催も決定し、これまでの苦労が報われたと思われた矢先のことでした。前年度まで支えてくれた主力メンバーが大学受験のために引退、サポートに回り、新しい実行委員体制もまだ築けてはいません。私事ですが、この4月から学長の重責を担うこととなり、これまでのようにプロジェクトに関わることもできなくなります。
図2 学生のいないコロナ禍の大学
 ほぼ、万策尽きたかと思われたときに、思わぬ力を発揮してくれたのは、福島大学の学生たちでした。過年度の中心メンバーも同大学に入学し、コロナで自分たちの入学式すら中止になったにもかかわらず、学内でサポーターを募り、ZOOMで実行委員を集め、福島市施設とのパイプ役となり、情報を共有しました。一定数の学生を集めることも許可制になっていたので、サポーターグループと最初にミーティングを行ったのは、ほぼコロナ禍が始まって半年経った7月下旬のことでした。このような状況下でも、高校生の活動を支援しようとする姿に心を打たれました。プロジェクトにこうした「遊撃隊」は不可欠です。

2.高校生フェスティバル2020

図3 マスク以外は例年通りの準備光景 この年の高フェスは、計画通り進んでいれば、市内屋外の広場から、共催となった市の施設の屋外ワンフロアーを貸し切って開催することとなっていました。これによって雨天や風の心配もなくなり、閉じられた空間の中でこれまでにない盛り上がりが期待されていました。
 しかし、このコロナ禍での屋内はむしろ感染の危険性が増し、市民や高校生の声援などもリスクとなります。この時点では感染源となった施設や組織は、社会から強いバッシングを受けることとなり、「感染を出さないこと」が絶対条件でした。コロナのリスクを抱えてまで高フェス2020を開催する意味はあるのか、本当に迷いました。しかし、夏の期間を通して、施設側と実行委員会が協議を重ね、コロナの感染対策として施設のガイドラインの順守を徹底し、実行委員会も最大の感染対策をすることで、開催を決定しました。「やれない理由を考えるのではなく、どうしたらやれるか知恵を絞る」という、東北スクールの教訓がここでも生きました。

図4 屋内なら屋外でできないことも
 高校生たちは、市の職員に指導を受け、体温測定、アルコール消毒、参加票の記入などのやり方を学び、本番に備えました。ステージは観客席と別室に設定し、ライブ中継することにしました。これにより、演者と観客が直に接することがないため、安全に思い切ったパフォーマンスを行うことができます。
 会場には、ありったけのイルミネーション「希望のヒカリ」を展示することにしました。室内の光をコントロールできるので、昼間からイルミネーションを楽しんでもらうこともできます。以前から課題となっていた、市内高校との連携も2年間の活動によって信頼を得られるようになり、美術作品などの展示物も増えました。

3.新しい高フェスを目指して

図5 実行委員長から檄が飛ぶ 本番を数週間後に控えた土日、前年や前々年とあまり変わりなく──全員がマスクをしていたのと、窓が開放されていたのを除けば──高校生が準備のために大学に集まってきました。高校生や大学生は、コロナ禍の生活にうまく適応していました。むしろ、コロナで直接会えなくなった分、大人や大学生への依存度は減り、自分たちでやらなければという意識の変化も見て取れるほどでした。
 本番の当日を迎えると、高校生たちはコロナ感染防止の最終確認の指導を施設スタッフから受けており、「希望のヒカリ」の組み立てもほぼ終わっていました。

図6 実行委員の決断力に感謝
 高フェス2020が始まると、裏のステージでは一つ演目が終わる度に高校生が床をモップがけして念を押します。会場の施設には映画館も入っており、ちょうど大ヒットしたアニメ映画を見終えた若者たちが、続々と高フェス会場に立ち寄っていきます。つくづく、コロナが明けたところでこの光景を見たかった、そして、よくぞこのコロナ禍で開催を決断してくれた、と誇らしげな気持ちにもなりました。

 福島市高校生フェスティバルはコロナ禍でも2021、2022と続き、最近ではプロジェクションマッピングや街のミニチェア模型などのアトラクションも加わり、運営全体からもさらに高校生の自主性が育っているように感じられます。

「社会づくりの実験」としてのフォーラム

1.生徒たちの意見表明

図1 ISIF2020の様子 生徒国際イノベーションフォーラム2020@online(以下、ISIF2020と略)での「学校のWell-being」の議論で、印象に残った意見を以下に記しておきたいと思います。

【仕事】

  • 探究プロジェクトは、生徒が将来のキャリアについて考える機会をもたらしている。
  • 安定を求める職業選択ではなく、自分のやりたい職業を選べるよう、必要なスキルを身につける必要がある。
  • 勉強のスキルと生活のスキルのよいバランスが保たれている学校を先生と生徒がいっしょに創る。

【収入】

  • 日本では、学校内でお金に関して話すことは一般的にタブー視されている。
  • 多くの生徒が、インターンシップを導入してほしい、起業家を学校に招いてビジネスを始めるワークショップ開催してほしいと考えている。
  • 様々な職業に関して、忙しさや収入などを理解し、生活をリアルにシミュレーションする。これにより日本の相対的貧困率の問題などを学ぶ。またお金の価値を知ってお金を自己管理できるようになる。

【住居】

  • 中庭などの曖昧なスペースは、教室でのストレスから生徒がリラックスできる場所である。偶然に違う学年の生徒たちが出会って友達になれるような場所が必要。
  • 教室での授業をスムーズにし、学校の外ともつながり、授業内外での生徒からの質問に先生が対応する時間を節約するための、安全で安定したインターネット環境が整っている学校がいい。

【ワークライフバランス】

  • コロナ禍の学校で生徒は多くの宿題が出され、コミュニケーションをとることが難しい。
  • 生徒主体の体験型授業(例えば、実体験、授業や教科書で扱ったものを見る、生徒による教え合いをしてアウトプットの機会を持つ、生徒主体でグループでの話し合い)がほしい。

【安全】

  • 幾つかの学校はきちんとした安全対策を行っておらず、生徒の安全を脅かしている。例えば、夜間の授業は女子にとっては安全でない、多くの課外活動により生徒は家に帰るのが遅くなる(例えば夜8時)、ロッカーに施錠ができない、など。
  • 生徒たちは、人間関係においても、人種差別やいじめなどに不安を感じている。
  • 生徒が主体となった環境づくり・生徒が安全な環境づくりに関わっていく。例えばICTを安全を学ぶために活用する。例えば、VRによる避難訓練、詐欺メールのシミュレーション。

図2 未来の学校のキーワードを樹で表した【生活満足度】

  • 生徒たちは先生とのコミュニケーションに困難が生じたり、授業が一方的に教えられていると感じる時にネガティブな感情を持つ。
  • 生徒と教師が平等な立場になれる環境を創ることが必要。
  • テクノロジーを活用する。ゲームで学ぶやる気の向上を図る。他の国とつなぐ。教室の学びとオンラインでの学びの両立、課題(宿題)はオンライン・コンピューターで。教え方もゲームなどを活用してもっと楽しく。

【健康】

  • 生徒たちは、十分に睡眠がとれておらずストレスを感じている。精神的な健康への影響は、肉体的な健康にも悪い影響をあたえていく。ストレスは、先生と生徒間のコミュニケーション不足や誤解による場合もある。
  • フレキシブルな学び、競争を少なくする、記憶する学びを少なくする。
  • 試験や宿題の本質を変える:数字で評価する試験を再考し、質の高い課題やクイズなど、努力・プロセスを評価するものに変えていく。

【市民参加】

  • 生徒の学校での市民としての活動は、校則や行事を組織するときに重要な役割を担う。しかし、何人かの生徒は、生徒の学校での市民としての活動に興味を示さない。
  • 先生には、生徒の話をもっと聞いてほしい。生徒と先生が平等なパートナーとして、オープンで健康的な対話ができるように。

【環境】

  • 生徒たちは、木や花を植えたり、実験的なプロジェクトを通して環境にやさしいキャンペーンを実施したりするなどして、地域コミュニティと関わることで、人々の意識を高めたいと考えている。
  • 学校における「緑の文化」を伴った、環境にやさしい文化づくり。エネルギー効率の良い学校環境づくり。社会への「リアルな影響・インパクト」を目指した、生徒が自分事として取り組む活動を増やす。

図3 2日間の議論を1つの絵にまとめた【教育】

  • 自分たちの思考力を育ててくれる授業が、将来のためには大切である。
  • 生徒を中心にした、生徒主体の学び:a)柔軟なカリキュラム(生徒が何を学ぶかを選択できる)、b)ライフスキルが組み込まれている、c)Eラーニングを活用した柔軟な学びの環境と、ソーシャルメディアの学びの基盤としての活用、d)柔軟で適応性のある校則。
  • 社会問題を解決する組織としての学校(探究)+ 教科の学びの連携。

【コミュニティ】

  • 高校は地域コミュニティによりサポートされ、コミュニティの人々のコメントやアドバイスと関わっていることを認識することが大切である。
  • お互いにコミュニケーションをとるための新しいプラットフォームを構築する。

2.日常性からの「ずらし」

図4 ISIF2020への寄せ書き 予想以上に生徒たちはISIF2020 に思い入れ、その意欲はバーチャルではない、リアルそのものでした。通常とは異なる角度からの議論に、出てくる意見も新鮮でした。日常性からの「ずらし」が、有効に作用したものと考えています。学校文化を突き放す、という意味で今後も活かしていけそうな気がします。全体を通して、ネット上のイベントの典型例をつくることができたのではないかと考えています。
 生徒たちが次の社会の建設者であるなら、学校を含めた教育は、その社会づくりのトレーニング、というよりも実験でなければならないでしょう。「自分たちの世界」をつくるために様々な試行錯誤が許され、それが成功体験となって、初めて「社会づくり」のイメージが形成されるのだと思います。その意味で、このバーチャルなフォーラムは、その「社会づくりの実験」の一つの例を示したと言えます。「学びの対象」ではなく「学びの主体」として、一人ひとりのキャラクターが立ちあがってくること、それがEducation2030が言うところの「エージェンシーAgency」と言えるでしょう。

図5 リアルで贈られたISIF2020の参加証明書

バーチャルな空間でリアルな学びを

1.オンライン上の国際会議

 生徒国際イノベーションフォーラム2020@online(以下、ISIF2020と略)は、世界各地から中高生が参加し、コロナ禍などの課題を共有し、私たちや社会のニーズに応えられる未来の学校とはどのようなものかを、「学校のWell-being(よりよいあり方)」を切り口に話し合う会議です。
 異なる立場の人々が自由にコミュニケーションをとり、アイディアを出し合うために、8月1日から9月30日までの2か月間ウェブサイト上に「広場」をつくり、開催しました。8月11-12日に、フォーラム全体のメインセッションであるライブトークが開催されました。9か国・地域(インドネシア、マレーシア、グアテマラ、香港、台湾、フィリピン、トルコ、ベトナム、日本)から、200名の生徒・学生と100名の教師・関係者が参加しました。「学校のWell-being」を多様な視点で話し合うために、よりよい暮らしの指標として使われているOECDのBetter Life Index(*1)を採り入れ、学習資料(資料1参照 )も準備しました。ISIF2020は、バーチャルな空間であっても、異なる地域からの参加者がリアルに出会い、リアルに学び合い、エージェンシーを共振し合う場となることを目指しました。

ISIF2020のオープニングビデオ

2.会議はバーチャルでも学びはリアルに

 2020年時点で世界は新型コロナウイルスの禍中にあり、学校は長期間にわたって臨時休校となり、それまで「当たり前」に通っていた学校から投げ出された生徒たちであふれかえり、学校の先生たちも経験したことのない混乱にあえいでいました。けれどもこのことが、100年に1度の「学校の当たり前」を突き放したり、教育のイノベーションを考えたりする格好のチャンスであることも事実です。
 ISIF2020は、これまでの実践研究を踏まえ、中高生を中心に、教師や研究者、大学生、教育行政、企業、NPOなどが「平等に」語り合うフォーラムです。海外も含めた各学校の実践や教育活動、そこで感じる生徒や教師の「ホンネ」を持ち寄りながら、新しい学校の「カタチ」を描き出します。このフォーラムのゴールは、2030年の未来の学校の枠組み・指標づくりの第一歩として世界中の生徒と教師で「学校のWell-being」を考え、目の前の学校の変化の可能性と課題を明らかにすることです。常に、「個人のWell-being」と「社会のWell-being」を実現する「学校の姿」とを往復しながら議論しました。
 2020年7月から参加受付が開始され、参加者同士の事前のコミュニケーションのツールとして、Slackが活用されました。自然に語り合える人間関係を構築し、「学校のWell-being」の予習をし、オンラインでの会議に慣れること、またモデレーター(多くは大学生サポーター)の練習も兼ねて、7月末と8月はじめにプレセッションを2回開催しました。
 参加校・参加チームは、相互理解と対話を深めるために、事前に次のような「宿題」の提出を求めました。

  1. 各学校の探究活動の紹介ビデオ、もしくはポスター(PPT等)の提出:これは事前にSlackで、バーチャルポスターセッションとして参加者と共有しました。
  2. 「学校のWell-being」に関しての事前報告書:OECDのBetter Life Indexの11の指標の中から少なくとも3つを選び、今の課題、未来の望むべき姿、そしてそこに向けてどのようなアクションをとるのかを事前に考え、提出してもらいました(資料2参照 )。

3.メインセッションの実際

図1 ISIF2020の様子

 メインセッションでは、「学校のWell-being」について、次のステップで、グループディスカッションが行われました。

  1. 今の学校の現状を分析する:参加者は今の「学校のWell-being」の現状に関して、Better Life Indexの指標ごとに提案された3つの質問に関して議論し、分析を行う。
  2. 未来の学校に向けての新しいアプローチをデザインする:上記1の分析に基づいて、学校に向けての新しいアプローチを模索する。
  3. 戦略を考え予測する:上記2のアプローチを実現するための戦略を話し合う。

 進行役を務めた3人の高校生は、コロナ禍により、今の学校の良い点と悪い点が明らかになっただけでなく、以前はあいまいで見えなかった部分、例えば学校によってオンライン授業が実施されたかどうかなどの格差が生まれたことを問題視し、「私たちは、大人や学校から与えられた環境に疑問を抱くことなく過ごしているだけでは、何も状況はよくならない」と述べました。
 「健康」をディスカッションのテーマに選んだAさんは「ひどい片頭痛に悩まされており、頭痛のときには何も手につかず、宿題にすごく時間がかかり、睡眠時間が削られている。睡眠不足は学校の集中力に影響し、ネガティブなサイクルになってしまう。そのため、学校が健康に与えるネガティブな影響を取り除き、逆に健康を増進させることを考えていきたい」と述べました。
 OECD the Future of Education and Skills 2030(Education2030)のプロジェクトマネージャーである田熊美保氏は、「『学校のWell-being』に関しては、合意された絶対的な回答はない。よって他人と違う意見を持っても、けっして恥ずかしがらないで、皆さんが様々な面で『学校のWell-being』のパイオニアであると認識してほしい。皆さんの経験が大切なのです」と参加者を激励しました。海外の参加者の中には、書字障がいで教師に誤解されている生徒や、自由に探究活動ができない生徒、不登校の生徒らもいました。「新しい学校」とはエリートによる学校ではなく、このような、ややもすれば周辺に置き去りにされがちな事情を抱える人々の意見もしっかり吸収し、むしろこうした声が現在の硬直化した学校を変えるきっかけになると確信しました。

図2 ISIF2020の様子

*1:https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm

コロナ禍の中で「学校とは何か」を考える

1.忍び寄る黒い影

図1 福島市チームのブースに人だかり 「生徒国際イノベーションフォーラム2020」(以下ISIF’20)まで半年と迫った2月、福井大学が中心となって、高校生のワークショップが開催され、これまでネットワークに参加して活動してきた多くの高校生が集まりました。福島チームも参加し、台湾との交流や高校生フェスティバルの発表を中心としたポスターセッションを行ったところ、多くの高校生がブースに集まり、大きな関心を集めることができました。学習会の進行を仕切るなど、福島市チームの活力は際立っていました。しかし、元気だった日常はこれが最後となりました。
図2 生き生きと実践を語る福島市チーム 同じ頃、中国では武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症が世界に拡大し、日本でも感染者が少しずつ報告されるようになっていきました。「ISIF’20が開催される夏までには落ち着くだろう」と高をくくっていたところ、2月末には全国の学校に対して休校要請が、4月には緊急事態宣言が発出されました。人と人が接するあらゆる集まりを自粛することとなり、当然のことながら、イノベーションスクールの福島市チームも対面の会議はできなくなってしまいました。対面のISIF’20をやるかどうかを5月に判断する予定でしたが、「状況的に無理」と4月中に早々に諦めました。

2.オンラインは私たちの強み

 OECD東北スクール以来、私たちのメンバーは広域に散在していることから、否応なしに、SkypeやLINE、Facebookなどのオンラインツールを使ってコミュニケーションを取ってきました。むしろ、お金をかけずに、海外も含めてフラットにコミュニケーションを取ることは重要な課題でした。これまでも普通にZOOMを使っていたので、対面の会議をオンラインに変えても高校生のダメージはそれほどありませんでした。「ZOOMって何、どうやって使うの?」「Slackの使い方がわからない」と慌てふためいている学校現場をよそに、私たちは至って冷静でした。
 ISIF’20は完全オンラインで実施することとなり、実行委員会も、サポーターの募集も全てWebを介して進めることになりました。ホームページを会場にして、ZOOMやSlackをメインツールにして、オンラインでサイン帳も作ろう、すべてがバーチャルだと消えてなくなってしまうから、参加証や記念グッズを作って、リアルに価値を共有しよう、と高校生を中心に、話しはふくらんで行きました。経費がかかるからと参加を見合わせていた海外の仲間も、オンラインなら参加できると、実行委員会にも入ってくれるようになりました。

3.学校のWell-Beingって?

 未来の学校を考える、というのがISIF’20の目的でしたが、生徒たちと話すと自ずと現下のコロナウイルスの話題となり、うちの学校は全員端末を持っているので登校しているのと同じタイムスケジュールで勉強できている、という生徒もいれば、うちは課題を印刷した紙の束が送られてきて1日の生活リズムはひどい状態、という生徒もおり、それぞれの地域の「学校自慢」で大いに盛り上がります。同じ高校生なのにどうしてこうも違うのか。大学進学に大きな差が生じてしまうのではないか。であるなら、学校は本当に全ての生徒にとっていいものなのだろうか。逆に、全ての生徒にとっていい学校とはどのような学校なのだろうか……。

図3 OECDのBetter Life Indexと日本の評価(Educationの評価が高いが本当だろうか?)

 学校をOECDのBetter Life Indexに重ねて議論し、「学校のWell-being」を考えると面白いのではないか、というアイデアが出ました。Better Life Indexは、OECDが定義する、よりよい暮らしの指標で、11の分野(住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランス)について、OECD加盟37カ国とブラジル、ロシア、南アフリカを加え、あわせて40カ国の指標を比較できるようになっています(*1)。学校を生徒たちの暮らしの場として見た場合、教育だけではなく、建物の環境や、生徒や教員らの関係はどうなっているのか、生徒の考えは学校に活かされているのか、勉強や部活動に追いまくられていないのか、等たくさんの疑問が湧いてきます。「所得」にしても、学校はちゃんとお金の稼ぎ方や使い方を教えているのか、「雇用」で言えば、学校は将来の職業に結びつける教育をしているのか、と、話し始めると切りがありません。
 11の指標に沿って参加者でグループを作り、それぞれの内容について国内外から様々な意見を集めると、とても有意義な話し合いになる、と確信しました。コロナ禍の生徒たちのリアルな姿が、ISIF’20の方向性を固めることとなりました。

図4 ISIF’20への参加を呼びかけるフライヤー
※クリック or タップでPDFが開きます。

*1:https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm

何のためのプロジェクトだったのか?

1.「生徒国際イノベーションフォーラム2020」に向けて

図1 ISN(地方創生イノベーションスクール)の研究会の様子 2019年12月、OECD日本イノベーション教育ネットワーク(ISN)に加入している各地の高校生たちが、とある高校に集まりました。定例の研究会の開催と、翌年に予定されている「生徒国際イノベーションフォーラム2020」の実行委員会を結成するためです。すでに開催地の候補も挙がっており、海外から高校生や先生方を招くための会場をこれから決めていきます。
図2 ISN研究会の討論のテーマ 2017年に開催した第1期の「フォーラム」(Vol.28 生徒国際イノベーションフォーラム① を参照)は、生徒自身による「生徒共同宣言 Our Voice in 2017」(Vol.30 生徒国際イノベーションフォーラム③ を参照)を最終目標に設定して、学びを展開しました。それに対して、第2期は、加盟高校が増えたものの、ここまでの取組で「プロジェクト学習の学校への拡大」をめざして、高校生と大人とで研究会を重ねてきましたが、何のための「プロジェクト学習」なのか、全体として何をめざすのか、拡散していました。よって成果発表の中身らしき中身が見当たらず、この「フォーラム」を組み立てながら、中身をつくっていくしかありませんでした。震災からの復興を目的とした「OECD東北スクール」、そこからの学びを全国に広げようとした「地方創生イノベーションスクール2030(第1期)」、そしてその学びをさらに学校に落とし込もうと始めた「地方創生イノベーションスクール2030(第2期)」でしたが、震災からすでに8年も経っており、プロジェクト全体が目的を見失っていたと言わざるを得ません。

2.OECD東北スクールのスピリット

 協力をいただいているOECDの教育スキル局からアナリストが来ており、その場で、大人のコアメンバーで意見交換をしました。「プロジェクトを通して、生徒がどのように成長したのかわからない」「プロジェクトとは無関係に、立派な実践をしている有名高校を集めても意味がない」「本当に必要なのは、地方の、様々な課題を抱えている当たり前の高校が参考になるような実践」「立派な実践のショーケースのようなものだったら、OECDは興味がない」、そして「東北スクールのスピリットがなくなってしまったのではないか?」と、これまで計画通りに進めてきたプロジェクトの、根底を揺さぶるような鋭い意見が出されました。確かに、知らず知らずのうちに、最終的に立派なものを並べればいいという、成果主義・形式主義に陥っていたことを痛感しました。
図3 生徒の言葉がヒントに 「どんな小さな実践でもいい、本当に困っている生徒や教師が一緒になって、課題を解決し、それによって双方が成長した、そんな実践を期待している」と言われ、教育実践の原点に返った思いがしました。私たちの代表の鈴木寬先生は、よく「大人はすぐに立派な形にしたがる、その実はみんな「板挟み」にあい「想定外」で苦労している。その苦労そのものが21世紀の学習だ」と言います。まさにその「板挟み」や「想定外」を乗り越える体験と知恵が必要だったのです。OECDラーニングコンパス(Vol.23 Education 2030と新しいコンピテンシーの定義② 参照)で言えば「変革を起こす力」の中の「対立やジレンマに対処する力(Reconciling tensions & dilemmas)」「責任ある行動をとる力(Taking responsibility)」に該当します。

3.「未来の学校」を考える

図4 OECDのBetter Life Index 後にとても重要になる それでは、何をめざして来年の「フォーラム」を組み立てるか? 参加していた一人の生徒が「未来の学校について、みんなで意見を述べ合うというのはダメですか?」と言ってきました。OECD東北スクールの「生徒大人合同熟議」では「2030年の学校」をテーマに議論しました。また、第1期の「フォーラム」で「共同宣言」をつくりましたが、具体的なアクションにまで至っていません。「それはとても面白いんじゃないか!」ということになり、曖昧ではありますが、漠然とした方向性が見えてきました。
 未来の教育、それも行政や大人ではない、生徒自らが学校や教育のあり方を考えることがとても新鮮で、本質的です。
図5 ISNの研究会はいつも生徒と大人がフラットに議論 終わりの挨拶で次のように述べました。「これから、来年の8月に向けて生徒国際イノベーションフォーラム2020をつくっていきます。世界の学校は様々な問題を抱えており、生徒も先生も苦労しています。OECD東北スクールが大震災からの復興をめざして、生徒と大人が協力して進めたように、これから学校や教育の問題をどうしたら解決できるのか、みんなで考え、どんな小さなことでもいいから実践してみましょう。8月までに立派な実践などしなくてもいい、中途半端でも、問題解決の糸口になればそれで構いません。ここから再起動です!」

 しかしちょうど同じ頃、海の彼方中国から始まった「暗い影」が見る見るうちに世界を覆い始め、私たちのプロジェクトも大きな影響を受けることになるのです。

福島市高校生フェスティバル2019

1.3人からのスタート

図1 前夜祭 イルミネーションに集まる人々 高校生フェスティバル2019を、高校生の言葉でふり返ってみましょう。まずは、副実行委員長の言葉です。この年の実行委員は3人からスタートしました。

 目的が明確になるほど、本当に3人では何もできないと実感し、どうしたら仲間が集まるか本格的に考えました。普段高校生が使うSNS、特にInstagram、LINEに目をつけたところ、最初はとても手こずりましたが、コツをつかんでからはあっという間に3人から8月には40人に、10月には60人以上の規模に増やすことができました。
 8月中旬には企画が大まかに決まってきたのですが、中身をよく見ると目的にフィットしていない企画になっていて8月後半に目的を再確認した後、新しくまた1から企画案を組み立てることになってしまいました。そのために、改めて目的の大切さや、私たちが高校生フェスティバルで何を伝えたいのかをメンバー全員で確認することができました。

2.それぞれの特技を活かして

図2 自分たちで設計し作り上げたロゴ 次は、初参加の工業高校の生徒の言葉です。作図やものづくりが得意な高校生です。

 当初は「材料さえ揃えばすぐにできる」と楽観視していました。ですが実際に作業に移ると、材料が変形しやすい素材で寸法通り行かなかったり、構造上組み立てが難しかったりとなかなか一筋縄では行かず苦戦をすることも多く、その都度先生や大学生の方々からアドバイスや協力を頂き何とか完成にこぎつけることができました。
 高校生フェスティバル前日の試験点灯の際、通りかかった人々がイルミネーションにカメラやスマートフォンを向けている姿を目にし、大きな達成感と喜びを感じました。
 今回は限られた期間の中で0から形にする創造力そして実行力、問題に取り組む解決力、1つのことに対して皆で取り組む団結力、突然のことにも臨機応変に対処できる対応力などオブジェを通して様々な力を身につけることができたと実感しています。また、ものづくりを学ぶ者として作り上げることの難しさだけでなく出来上がった“もの”が人々に与える感動や喜びといった学校の授業だけでは学べない本質的な部分についても大きな学びとなりました。

3.高校生がまちづくりを考える

図3 クラウドファンディングで作ったTシャツ 「高フェス2019」の目玉に位置づけていた「福島市を盛り上げる作戦会議」の責任者の言葉です。彼の本気度には目を見張るものがありました。

 この会議はどのように行っていくかの全体共有がうまくいかず、当日ギリギリまで話し合う状態でした。前日には、当日スムーズに進めることができるように北海道の高校生と一緒に10のFを一つ一つグループ分かれて土台の部分を考えました。ですが、なかなか意見が出ずうまく進みませんでした。しかし、北海道の高校生が福島市に住んでいる私たちにはあまり気づかないことを出してくれて、客観的に物事を考えることが重要だと感じました。「福島市民は優しい」や「過ごしやすい」など、普段当たり前のように生活している私たちには分からないことを教えてもらえた良い機会になりました。
図4 福島市を盛り上げる作戦会議の様子 そうして迎えた当日、実行委員の高校生だけではなく来場していただいた方々にも参加していただき一緒に考えてもらいました。最初は初対面ということや年齢の差のために、話すことを躊躇ってしまうこともありました。しかし、時間が経ち、話が盛り上がってくると、意見の交換も活発になり、とても中身の深い話し合いとなりました。その中で出た意見をいくつか紹介します。
Future…若者が自信や誇りを持てる街
Fun…自分も相手も楽しめるようなイベントがある街
Favorites…「田舎っぽさ」と「都会っぽさ」のバランスが取れた街
Fresh…残すベき考え方と若者の新しい考えを融合させた街

4.実行委員長の総括

図5 台風19号と大震災を関連付ける 最後が、実行委員長の総括です。このプロジェクトに中学生の時から参加し、5年間もこのチームを支えてきました。

 今年も「福島市高校生フェスティバル2019」が無事に開催されました。今回は、台風19号によって被害を受けた地域も多く、開催自体が危ぶまれましたが、こんな状況だからこそ高校生のみなぎるパワーを福島に届けたいという思いから開催に踏み切りました。フェスティバル開催に際して、当日に「あなたたちが福島を担ってくれれば未来は明るいね!」と言われたり、今年から始めたクラウドファンディングで「ネット環境がないのだが、どうにかしてあなたたちを応援したい」と言われたりととても感動し温かい気持ちでいっぱいになりました。あの1日は本当にあっという間でした。あれほどに長い時間を費やして考えた企画も、惜しいと思うほどに一瞬で過ぎ去っていきました。たとえ外から見てそれが「未完成」であっても、私たち自身が最後まで本気(ガチ)でやり遂げられたことは、私たち一人ひとりにとって大きな自信になりました。
図6 高校生のパフォーマンスに大きな期待 この活動で得られる経験は、机に向かって一生懸命に勉強したことと同じくらい、あるいはそれより大事なものだと私は感じています。未だにこの活動を自分の言葉で一言で相手に伝えられないのは難点ですが、私がこれまで約5年間にわたって携わってきた、続けてきた意味がここにあります。たしかに、みんな同じ授業をみんな同じように受けて、テストを受けて学力を身につけ、進学して、順調に人生を歩んでいくことも立派なことかもしれません。しかしその中で、自分が本当にやりたいと思って受ける授業、やりたいと思ってやったこと、自分で考えて失敗を恐れることなく挑戦すること、そのための仲間と出会うことができる機会はどれほどあるでしょうか。自分から進んでその機会を見つけなければ、それに出会うことは、私を含め現代の高校生にとってそれほど多くはないのかもしれません。私はこの活動を通して、自分のやりたいことを見つけ、仲間と出会い、それに挑戦し、大きく成長しました。この活動が本当に素晴らしいからこそ、より多くの人が携わり私たちを超える感動を味わってくれる人が増えることを願っています。

図7 今年も札幌の高校生がラストを飾る 実行委員の中には、不登校でずっと学校に行っていない生徒も何人かいます。彼らは、ここでなら自分らしさを発揮できると、終始がんばってくれました。それを学校側も理解し応援し、高校生フェスティバルの活動が少しずつ市民や行政にも受け入れられた証だと思います。

台風19号、こんな時だからこそ!

1.進化する高フェス

図1 実行委員募集のポスター 昨年の高校生フェスティバル(高フェス)の成功体験を過信して、スタート段階で大きく出遅れてしまいましたが、遅ればせながらも動き出せば、前年の反省などを活かしたFCN(福島市を創る高校生ネットワーク)チームの動きには目を見張るものがありました。
●コアメンバーたちは、自分の高校の先生方と交渉して、実行委員募集のポスターを貼らせてもらったり、ビラを配布したりしました。「前年度の高校生フェスティバルを見て、こんなこと自分でもやりたいと思っていた」といった高校生が実行委員をやりたいと、あちこちの高校から集まってきました。特にコアメンバーの所属する高校からはまとまった数の希望者が集まり、頼もしい限りでした。
●市内高校からの参加演目も増え、高校生たちの探究活動のブースも新たに加わりました。中でも市内のラーメン店をインタビューして回ったポスター発表は圧巻でした。

図2 探究活動ブースのポスター

●昨年同様、札幌新陽高校から参加してもらうことになり、台湾の立人高級中學の生徒からメッセージももらい、外国語のできる帰国子女の実行委員が日本語に訳してポスターを作りました。
図3 FCNロゴのオブジェ●工業高校の生徒たちは、こんなオブジェを作って会場に飾りたいと、設計図を書いてきました。予算や手間や飾り方などを総合的に考え、「FCN」のロゴを立体的なイルミネーションとして制作することになりました。前年の球体のイルミネーションを一歩前に進めた形となりました。
●市内300人の高校生に独自にアンケート調査を行い、どうして大学に進学するときに福島県を離れてしまうのか、その理由を明らかにしました。
●前年、東京の高校生たちと一緒に行ったワークショップ「高校生の社会参加についての熟議」は、今年は「10のFを実現するための作戦会議」に発展させ、すべて生徒の考えで進めることになりました。「10のF」とは、昨年ロゴを作るときに考えた、理想の福島市を形容したFから始まる10のキーワードのことです。これを実現するために、高校生は何ができるのか、というその「アクションプラン」を考える、というものです。これはかなり困難が予想されるため、事前に何度かメンバー内でリハーサルを行いました。

図4 高校生300人のアンケート図5 アクションプランづくりのリハ

2.台風19号直撃!

 そのようなときでした。フェスティバル直前の10月12日に上陸した台風19号が猛威を振るい、福島県内で30人の死者も出るほどの被害がもたらされました。福島市の中央部を流れる阿武隈川も氾濫し、市内でも大きな被害が出ました。
図6 洪水に飲み込まれた近隣の町 フェスティバルを開催するかどうかの判断が迫られ、急遽コアメンバーが集まり議論しました。その結果、このようなときだからこそむしろ若者ががんばっている姿を市民に見せることが大切、実行委員から復旧ボランティアを派遣し、募金活動も行うことで理解してもらうということになりました。「できない理由を並べ立てるのではなく、どうしたらできるようになるか知恵を絞る」という東北スクールの教訓がここでも活かされました。高フェスの会場には次のようなメッセージを掲げることになりました。

台風19号で被災された方への募金のお願い
 この度台風19号によって被害を受けられた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
 10月12日に関東・東北地方を中心に、台風19号が多大なる被害を及ぼしました。この台風で亡くなった人は、福島県で30人、宮城県で19人、神奈川県で14人、栃木県と群馬県でそれぞれ4人、長野県で3人、岩手県、茨城県、埼玉県でそれぞれ2人、東京都、千葉県、静岡県、兵庫県でそれぞれ1人となっています。(……)

こんな状況下でなぜ「高フェス」を開催したか
 いまだ完全に復旧しているところは少なく、ライフラインや住宅浸水や交通機関に被害が残っているところは多いです。そんな中でこの「福島市高校生フェスティバル」を開いていいのかどうか、私たちは真剣に議論しました。その結果、むしろこんな時だからこそ、私たち高校生の若く、力強いパワーで1人でも多くの人に元気を与えたい!という強い思いで、開催を決断しました。

私たちの力でできること──災害ボランティアに参加して
図7 高フェス中止か、決行か 今月20日、私たちのメンバーが福島市でも被害があった、郷野目に災害ボランティアに行きました。1週間以上経つ今でも、川から流れてきた泥が残っているところ、浸水した家がそのままのところがたくさん残っていました。
 ボランティアには、なんといっても体力が必要だということを実感しました。何度はいてもなくならない泥には本当に心が折れそうでした。
 このボランティアを通し3つのことを学びました。
 ①他人事ではなく自分事に捉えるべきということ。(……)自分には何ができるか考え、行動に移すことが大切です。年齢に関係なく、今ここにいるあなたが動き出すことで、同時に動かされる人が必ずいることでしょう。その小さな輪が広がればやがて大きな輪となり、それは大きなパワーとなります。
 ②備えあれば憂いなしであるということ。(……)きっと今回の災害は、3.11の経験から、各家庭で非常持ち出し袋の準備など長期的な準備、お風呂に水を貯めるなどの短期間でできた準備ができた人は多かったのではないでしょうか。(……)
 ③1人1人が回りでどのような被害を受けているのか知るということ。(……)

「よそ者」の視点

1.高フェス、実行委員3人

 さて、話を時系列に戻しましょう。
 2018年10月、福島市の高校生チームは、見事に「福島市高校生フェスティバル2018」を成功させ、2019年3月の台湾・立人高級中學の学園祭へ、同年4月には「愛知県高校生フェスティバル」への参加も果たし、何もかもが順調に運んでいるように見えていました。
 2019年4月に新年度が始まり、昨年度高校生フェスティバルの成功をつかんだ3年生は、受験のため第一線を退き、新2年生に後を託しました。大人から見れば、一年目の活動を一緒に組み立ててきたのだから、新メンバーにかなりの部分を任せても大丈夫だろうと、高をくくっていました。
図1 新しいメンバーで会議 けれども、6月になっても具体的な動きが見えず、どうなっているのか気になり、久々に顔を出しました。すると、メンバーは前年度のまま、というよりも新しい顔ぶれはなく、中心でがんばっていた高校生3人だけになっていました。何があったのか、と尋ねると「やる気のある人は実行委員に残って」と言ったら、多くのメンバーがやめていった、というのです。高校生は、一般的に部活動のノリで同質性や団結力を強要してしまい、結果的に排他的になってしまうことが多々あります。それが部活動やサークルのように基盤がしっかりしていればいいのかも知れませんが、このFCN(福島市の高校生チーム)のように危うい基盤の上で活動しているケースでは、多様性こそが大切であり、コアメンバーはともかく、義理で協力してくれるメンバーも「ありがたく」協力してもらうことが必要です。裾野を広げるという意味で、「やる気のある人」に限定してしまえば、空中分解が起きてしまうことは容易に想像できます。

2.議論の無限ループ

図2 無限ループに陥らないように…… また、彼らはもう2ヶ月以上高校生フェスティバルの目的を議論し続けています。「昨年立ち上げたときに決めたんじゃなかったの?」と聞くと、それが全然ピンときておらず、自分たち3人でつくり直す、というのです。高校生フェスティバルの形だけ受け継いで実行するよりはいいのかも知れませんが、目的の議論を聞いているとまさに無限ループで、目的が決まらないから、新しい実行委員のメンバーを募集できない、そうしている間に打ち合わせに参加する高校生もどんどん減っていく、という状態だったのです。
 大人の論理で動かすのもどうかと思い、前年度の実行委員長らにも入ってもらい、議論を進めました。「実際にやらなければならない全体像がわかれば、今何をしなければならないのかわかるはず、やれることから具体的に動き出す。」「立派なことを考えても、賛同してくる高校生はどれだけいるか。自分たちで集まって楽しいことやろうよ、から始まっていいんじゃないの?」と、私が言いたかったことを、そのまま伝えてくれました。やっぱり苦労すると大人になるんだな、ととても頼もしく感じました。
 何はともあれ、興味のある人に集まってもらう、高校の先生にも働きかける、市内でいろいろな活動をやっている高校生にも声をかける、など、高校生の伝手をたどって人集めをすることが決まりました。

3.凝り固まらないように壊す

図3 常に新しい人たちと出会う 私は大学の授業でも15年ほど、PBLとも言える学習活動を続けてきました(<Vol.03>PBLのはじまり②、参照)。上記のような問題は、大学生の間でも毎年起こったことを思い出しました。先輩たちの苦労を横目に見ながら、自分たちの代になれば好きなことができると思い、実際にやってみたら「思い」だけが強すぎて空回り、という問題です。このことは、「自分たちのことは、他人に頼らず、自分たちで責任を持ってやり遂げたい」という肯定的な面もあります。これを私たちは「世代の自治」と呼んでいます。他方で、問題の解決は、異世代とともに、多様性の中で解決していくべき、というのが今日のトレンドです。
図4 東京の高校生や大学生たちと議論 内輪で閉じた空間をつくることは、高校生や学生だけでなく、日本人の特長かも知れません。その中で完結することをやるのであればいいのですが、対象が不特定多数であったり、社会全体であったりした場合、それが内輪ウケに見えてしまったり、偏狭な考え方の押しつけになってしまうことがよくあります。
 災害復興に必要な者は「若者、よそ者、馬鹿者」と言われましたが、「よそ者」の視点が常に必要と言えます。OECD東北スクールの時も、あえて東京や奈良のメンバーを加えたり、フランスの若者とコンタクトをとったりしました。活動を長期にわたって展開するためには、トリックスターのように、常に凝り固まらないように壊す人が必要なのかも知れません。