高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「三等船室」 アルフレッド・スティーグリッツ作
2011.12.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.030>
「三等船室」 アルフレッド・スティーグリッツ作
「高校美術2」P.58掲載 島根県立美術館蔵

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1907

 アルフレッド・スティーグリッツ(1864-1946)は、芸術としての写真を高らかにうたい挙げ、近代写真の父と称されました。1902年に先進的な写真グループ「フォト・セセッション」を結成し、翌年には機関誌『カメラ・ワーク』を創刊。1905年に通称「291」と呼ばれた画廊をニューヨークに開設しました。この機関誌と画廊は写真表現に決定的な影響を及ぼすとともに、ロダン、ピカソなどヨーロッパの前衛美術を紹介し、アメリカにおける近代芸術の出発点ともなりました。
 「三等船室」は、スティーグリッツの代表作であると同時に、近代写真を代表する1点です。1907年にニューヨークからヨーロッパに向かう最新型の船の一等船室に乗り込んだスティーグリッツは、その気取った雰囲気に嫌悪を抱いて三等船室の方へ向かい、この光景を目にしました。「丸い麦わら帽、左に傾いた煙突と右に傾いている階段、鎖の手すりのある真白な橋、階下の男の背中に交差している白いズボン吊」(1)。互いに関連した様々な形と、そこにある人生をしばらく魅せられたように眺め、急いでカメラを取りに行ってただ一枚あったネガに撮影したのが、この写真です。分割された空間に、断片化した様々な形が絡み合い、写真におけるキュビスムと称されました。
 この時スティーグリッツは、写真美学の重要な転換期にいました。撮影から4年後の1911年にはじめて発表したこの写真によって、絵画への追従であったピクトリアリズムと決別して、写真本来のシャープな画像を焼き付けていくストレート・フォトグラフィーへ向かい、写真独自の美学を希求していきました。

(1)Alfred Stieglitz,“How The Steerage Happened”,Twice a Year(8-9),1942, pp.175-178.より訳出。

(島根県立美術館学芸グループ課長 蔦谷典子)

■島根県立美術館ico_link

  • 所在地 島根県松江市袖師町1-5
  • TEL 0852-55-4700
  • 休館日 火曜日、年末年始
    ※ただし企画展の開催日程等にあわせ休館日を変更する場合があります。

<次回展覧会予定>

  • 第58回 日本伝統工芸展 ~人間国宝から新進作家まで~
  • 2011年12月7日(水)~12月25日(日)

<展覧会情報>

  • 新春特別企画 没後40年 伊東深水展
  • 2012年1月2日(月・祝)~2月13日(月)

展覧会概要

  • 美人画家として不動の人気をほこる伊東深水の作品は、今なお華やかな女性像で見る人を魅了します。美人画を代表する作品を世に遺し、いわゆる「深水型美人」として親しまれている、伊東深水の画業を紹介します。

その他、詳細は島根県立美術館Webサイトico_linkでご覧ください。