高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「高校美術2」P.35掲載 滋賀県立陶芸の森陶芸館蔵
イギリスの陶芸は、バーナード・リーチの流れを汲む伝統的な壺や皿の形の作品から、1970年代に入り、造形的な陶芸作品へと領域を広げてきました。イギリスの陶芸界では、伝統的なうつわの形が陶芸であるという考え方が主軸にあり、陶土が彫刻素材として認められるのには、他の国に比べて時間を要しました。そのため、前衛的な作家たちはうつわや壺、ティーポットを原形としながら、造形性を高めた芸術としての陶芸を追求してきました。アンガス・サティは、このような新しい動きをリードしてきた代表的作家のひとりです。サティの作品は、造形的な形をしていますが、実用の焼き物であるティーポットの「注ぎ口」、「取っ手」といったパーツを作品に組み込んでいます。それは、実際に使うためではなく、そのパーツを組み込むことで造形をより豊かにし、陶芸であることの必然性を得ようとしているのです。「ハート」では、ティーポットの形は姿を消し、造形的な作品にみずからのイメージの世界を構築しています。この作品は、この頃の作品としてはめずらしく明るい色彩を用い、ほのぼのとした雰囲気をうかがわせるサティの心象風景を表現した作品です。
サティは、自分の作品について次のように記しています。「世の中は全てを機能性だけで評価しようとしている。しかし人生とは、もっと豊かなもののはずだ。私の作品は、こういった風潮に対する反発である。だから私は、しきたり事を見つめながらも、機能性を一切排除しているのだ。」(1)サティの言葉からは、伝統的な発想から新しい陶芸を切り開いていこうとする強い信念が伺えます。
(1)London/Amsterdam: New Art Objects from Britain and Holland, Crafts Council Gallery, Galerie Ra Galerie De Witte Voet, 1988.
(滋賀県立陶芸の森 主任学芸員 三浦弘子)
■滋賀県立陶芸の森 陶芸館
- 所在地 滋賀県甲賀市信楽町勅旨2188-7
- TEL 0748-83-0909
- 休館日 月曜日(4月30日は開館)
<展覧会情報>
- 特別展「陶芸の魅力×アートのドキドキ」
- 2012年3月3日(土)~7月6日(金)
展覧会概要
- ミロやピカソ、岡本太郎、奈良美智ら代表的な芸術家の陶芸作品とアートと結び付いた日本、海外の陶芸家たちの作品約80点を展示します。
<次回展覧会予定>
- 「明治・大正時代の日本陶磁―産業と工芸美術」
- 2012年7月14日(土)~8月26日(日)
その他、詳細は滋賀県立陶芸の森Webサイトでご覧ください。