学び!と美術

学び!と美術

【対談】図画工作・美術は「第4の学力」?
2015.10.13
学び!と美術 <Vol.38>
【対談】図画工作・美術は「第4の学力」?
NPO法人アートリンク 宮島さおり氏
奥村 高明(おくむら・たかあき)

今回は、美術教育に厳しい見方をしている友人、NPO法人アートリンク 宮島さおり氏(※1)と著者の対談です。

1.第4の学力?

著者「図画工作・美術は『第4の学力』だと思うんだよね。」
宮島「それどういう意味?」
著者「学校教育法上では、『学力』を構成する三つの要素として①知識・技能、②思考力、表現力等③主体的な学習態度と示しているでしょう?」
宮島「うん、あれ学力論争を終わらせちゃったんでしょ?」
著者「そう、当時、百家争鳴の現場にいたからね。それが終結していく様子はダイナミックだったよ(※2)。でも、それ以上に教育課程上とても意味があることなんだ。すべての教科がここに帰結することが明確になったからね。もう自分たちの教科だけが大事という姿勢はとれなくなったわけ。」
宮島「各教科バラバラに学力を語っていたわけね。図画工作・美術の人で言えば、『美術は特別だ』みたいな雰囲気あるよね。難解さを有り難がるというか『分かってたまるか』みたいな。」
著者「まあ、それは失礼でしょう(笑)。それに、その主張は大事だと思うんだよね。それが『第4の学力』という部分にも関わるんだけど。」
宮島「よくわかんないな。第一、あなた自身が『図画工作・美術で学力が上がる』って言ってきた人じゃない。」
著者「うん。普通の人々が思っている以上に、図画工作・美術は論理的で高度な思考活動だと言いたかったわけ。<vol.04><vol.05>あたりかな。だって、子どもをじっと見ているとすごいことやっているわけじゃない。それを代弁したかったんだ。最近<vol.28>も書いたけど、『子どもをなめんなよ』みたいな……(笑)。」
宮島「でも、最近は学力に貢献しているっていう美術関係の本も出るようになったし、役割は終わったんじゃない?」
著者「そうであれば、うれしいんだけど……。学力や教育課程で語りきれないものがあるという姿勢は持っていないとね。それはプライドみたいなもので、無くなると大事にしてきたことも一緒になくなっちゃう。」
宮島「それが『第4の学力』なの?」

2.教科こそが育てる力

著者「う~ん……、子どもたちが実践しているプロセスを見れば、表現も鑑賞も、見事に現代的な学力向上に寄与している、それは多くの人が言うようになってきたと思うんだ。でも、図画工作・美術はそれだけじゃない。中教審の『論点整理』も、『この力はこの教科等においてこそ身につくのだといった、各教科等を学ぶ本質的な意義を捉え直していく』という言い方をしているよね。いわば教科固有の学力で、それは三つの学力や教育課程に内包されるのだろうけど、そこを超える性質はあると思うんだよ、どの教科もね。そこを見失ったら教科の意味はないかなと。」
宮島「どの教科もね。数学も国語も。」
著者「うん、これからは、そこを見つけていく作業が大切になってくると思うよ。子どもたちを見れば、『唯一の正答』がない多様な状況の中で、自分らしい作品や美術作品の意味や価値をつくりだす。同時に、かけがえのない自分や他者、環境、世界などをつくりだしている。『生きるをつくる』っていうか……、それは実感としてあるんだけど。それを教育に使える言葉にしようとしたときに……、何という言葉がいいのかなあ。」
宮島「ほら、また難しいことを言う。」
著者「う~ん、もう少し説明してみるか。」

3.創造性?

著者「ちょっと喩えがよくないけど、知識も思考力もある銀行員が、どこかの会社や旅館を再建するために派遣されても、成功する人と、そうでない人が出るわけでしょう?逆に、有名大学でなくとも、次々と問題を解決して地域起こしに成功する人は現実的にいるわけじゃない。」
宮島「まあね。」
著者「文字通り①知識・技能②思考力・判断力・表現力等③主体的な学習態度の3つを高度に身につけた人だけが社会で成功するわけではないよね。結局成功する人って、何か違う力を持っているわけでしょう。」
宮島「それって運とか人脈とかじゃないの?」
著者「また、身もふたもないことを……(苦笑)。あえて言えば、ものごとを再構築したり、新たな価値を生み出したりする『創造性』!」
宮島「出た、『創造性』。その言葉、もう美術のオリジナリティじゃないし。」
著者「うん、最近は成功したビジネスマンも『創造性を磨かないとダメだ』って言うんだよ。法的にも平成18年改正の教育基本法前文に『創造性を備えた人間性』って使われているし、今回の中教審の論点整理でも、図画工作・美術で言っていた『新たな価値を見つけ出す』とか書かれている。でも全部、図画工作・美術で使っていた言葉なんだよ。」
宮島「それ、我田引水すぎる。」
著者「ごめん、ごめん(笑)。」

4.直観力、感性、責任感…?

著者「じゃあ『知識技能や思考・判断・表現を統合的に動かし、自己を取り巻く世界の部分と全体を関係的に把握し、直観的に自分の進むべき方向を見つける能力』ってどう?」
宮島「ますます分かんない。」
著者「知的な駆動力というか、瞬時の直観力っていうか……。直観ってさ、山勘じゃなくって、自分の論理性を一瞬で統合して判断する力だと思うんだよね。」
宮島「まあ、それで命を救ったとかね、危機を脱したとか。」
著者「後から考えれば聡明な判断だったということなんだけど。でも、それは脳の高度な働きじゃないかなと。」
宮島「脳ねえ……、怪しい匂いがする。」
著者「うん、脳は分からないことの方が多すぎる。でも、環境との相互行為で変化する唯一の臓器であることは間違いないよね。」
宮島「確かに、胃腸が『本を読んだら次の日変化しちゃった』ってことはない(笑)。」
著者「アルツハイマー病に対して美術鑑賞が有効という実践もあるんだよ。環境との相互行為で成立している脳を覚醒するのが図画工作・美術というか……、知識や技能、思考力に、全身の感覚まで統合的に働かせる力というか、環境と脳をつなぎ合わせて一気に働かせる力!」
宮島「それ何も言っていないのと同じじゃない。」
著者「そうだね(笑)。脳科学者の小泉英明先生は『問題を発見して解決する力を身につけるために芸術は欠かせない。だから、海外の研究所の中心には音楽や美術を鑑賞できる施設が配置されていることが多い』と言ってるね(※3)。芸術的な感性は科学には欠かせないらしい。」
宮島「今度は『感性』と来たか~。」
著者「友人の社長はね『美術できる人は安心できる。彼らは自分の水準を下げない。最後まで仕事をやり遂げる』って言うよ。つくり遂げる責任感ってのは育つかも。」
宮島「なんでもありってわけね。」
著者「相変わらず厳しいなあ(笑)。」

5.結論は…これから?

宮島「だって『創造性』とか『感性』とか、言う割にはっきり答えてないじゃない(※4)。」
著者「反省します……。エビデンスが弱いよね。『語り』だけですませてしまっている。明確な評価手法を開発して、データに基づいた分析を行い、能力の相関や成長の構造を明らかにする必要があるだろうな。」
宮島「結局、説得力がないから美術教育の時間数が減った事に対して世論の手助けがないのよ。鑑賞もずいぶん流行っているけど、なんか内側に向かっている感じ。」
著者「そこも問題かな。今、求められているのは単なる教科の充実ではないからね。内側を突き抜けるというか、外側を向いて新しい現場を探すというか……、他教科や学校外も含めてね、そういう挑戦的な実践が必要なんだろうね。もちろん、教科や教育課程を一度脇に置いて、子どもにとっての意味から考える態度は欠かせない。」
宮島「それで結論は?」
著者「それら全ての実践を通して『第4の学力』は見つかるかなと。」
宮島「はいはい、結局、今回の「学び!と美術」は結論なしってことね。」
著者「残念ながら……、結論は、これからだ!(笑)」

 
◆本稿は電子メールのやり取りを対談風にまとめたものです。
 

※1:アートリンクFacebookアートリンクホームページ
※2:平成15年頃、国際的な学力調査結果が軒並みダウンして、学力論争が起きた。
※3:文部科学省「中等教育資料10月号」2006
※4:解説書では教育の道具として使えるように『感性』を限定的に定義している。

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