学び!と美術

2026.04.10 <Vol.164>

4月 前任者からの引き継ぎが十分じゃなかったら……~若手先生のための「声かけ&心がけ」事例集~

監修:田中明美、手塚千尋

4月 前任者からの引き継ぎが十分じゃなかったら……~若手先生のための「声かけ&心がけ」事例集~

4月から小学校教諭としての第一歩を踏み出す人、違う学校に異動になった人、担当学年が変わった人……。新しい環境では慣れないことがたくさんあるのに、授業は待ったなし。どんな状況でも子どもの学びを止めないために、また自分自身の成長のために、どのような気持ちをもって臨めばよいかを考えるシリーズ。登場人物といっしょに1年を乗り越えていきましょう。

【登場人物】

フタバ先生 フタバ先生

教師になって3年目、初めての学級担任で6年生を受け持つことに。子どもが大好き。タイパ・コスパがつい気になっちゃう。図工には苦手意識あり。

ヤドリギ先生 ヤドリギ先生

教師歴ウン十年の大ベテラン。図工が専門。ホームセンターめぐりが趣味。

新学期、何から手をつけたらいいの……?

フタバ先生が6年生の担任になって初めての図工の授業。図工は専門外なのに加えて、引き継ぎに十分な時間が取れないまま、前任者が他校へ異動!

あせったフタバ先生。図工が専門でもあるヤドリギ先生に相談しに行きました。

フタバ先生
フタバ
先生

子どもたちがどのような経験を積んできたか分からない状況で学習が始まりそうです。何から手をつけたらいいのでしょうか。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

まずは教科書や図工室にあるものをチェックしてみたらどうかな。そこから最初の図工の授業でどんな活動ができそうかを考えられるよ。

わたしだったら最初は気軽に絵をかいてみる活動にするかな。どの学校にも画用紙はあると思うからね。あとは授業をしながら子どもたちに聞いていけばいい。

フタバ先生
フタバ
先生

子どもに聞く?

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

そう。子どものそばに行っていっぱい聞くようにしているよ。

ヤドリギ先生の新学期最初の授業例

  • 題材:「わたしの図工室」(絵に表す活動)
  • 時数:1~2時間
  • 材料・用具

    教師:画用紙(ハガキ大や長細く切るなど形や大きさを数種類用意 ※基底材の形に表現が引っ張られすぎないように四角形を基本とする)、既習の描画材(クレヨン・パス、ペンなど必要に応じて用意する)
    児童:水彩絵の具セット、筆記用具

  • 活動内容

    図工室で目に入ったもの、好きなところ、気になるところを、これまで使ったことのある用具を使って表す。

【作品例】
左側:「わたしの図工室」でかいたもの
右側:<その後の展開例>かいたものを基にイメージを広げて絵に表した作品

「スケッチ」
「天国まであと」
「みんなのアトリエ」

ヤドリギ先生の視点

  • 題材設定の理由:「なんでも自由にかいていいよ」では困る子どももいるので、「図工室」というテーマを設定します。

    大きな紙ではなく小さな紙に気軽にかくことで身構えずにいろいろな表現が生まれます。
    子どもによって好きな場所や気になるところは違います。子ども同士で作品を見ながら交流し、互いを知っていくことも期待できます。
    図工室にある材料や用具を見たりかいたりしている子どもに「これ使ったことある?」など、これまでの経験を聞きやすいという点もあります。
    めあてや描画材を変えれば、どの学年でもできる題材です。

  • 場の設定:春先なので屋外での活動もよいのですが、新任の場合、まだ子ども一人ひとりを把握できていないときなので、目の届きやすい図工室に限定するのがいいでしょう。
  • 子どもの見方:どれだけ自分で考えて自分でやろうとするかを見ます。そのために、画用紙や描画材も子どもが選べるように準備しておきます。
  • 子どもへの声かけ例:この題材の肝となるのは「かきたいものを見つけ、表し方を自分で選んで決めること」です。それを促すための声かけも大切です。

    「きょうは図工室のものをかくんだけど、何をどうかくかは一人ひとりが自分で考えて決めてね」
    「図工室の『どこを・なにを』『どう切り取って』かくのかな」
    「『どの紙の大きさ』で『何を使ってかく』のがいいかな」

  • 技法や既習の用具についての確認:絵をかいているのを見ながら「○年生のときに、こんなことやったかな」「電動糸のこぎりの絵をかいているね。これ使ったことある?」などリサーチするようにしています。
ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

6年生でも釘を打ったりのこぎりで切ったりすることが十分に身についていない子どもたちもいるかもしれないからね。

聞いてみて「分からない」って言われたら、その可能性大。子どもに経験として残っているのか聞いてみたほうがいいよね。

フタバ先生
フタバ
先生

子どもたちの実態が分かったとしても、それに合わせてもう一回授業計画を考え直すっていうのってハードじゃないですか?

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

例えば6年生で「一枚の板から」をやろうと思っているのに、電動糸のこぎりを使ったことがないってなったら、お試しの時間をつくるとかね。計画を全部変える必要はなくて、「前にやったことがあるかもしれないけど、基本の使い方を一回やってみない?」って提案して予定の活動に1時間だけ追加して調整するっていうこともできるよね。

計画はあくまで計画だから、子どもの様子を見ながら柔軟に授業を進めていけばいいんだよ。

フタバ先生
フタバ
先生

完璧な計画を立ててその通りに進めないといけないって思い込んでいたので、ちょっと安心しました!

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

最初から完璧を目指すと苦しくなるよね。変わっていくことを前提で授業するっていうのでいいと思うよ。変わっていくのは授業であり、子どもたちであり、そして先生自身もね。

今月の心がけ

「まずは子どものそばに行って、子どもの声に耳を傾けよう。」
「最初から完璧を求めなくていい。変わっていけばいいんだから。」

次回は「図工の評価が分からん……」です(6月公開予定)。

「教員養成課程ではこんなこと習ってない…」が溢れる図画工作の教員現場。

独創性も捨てがたいけれど、ピンチは「共創」で乗り越えられます!

今の時代だからこそ、自分の体を通した体験が実感につながります。

自分から動き出して変わることができる今がチャンスです!

田中明美(たなか・あけみ)(写真右)
静岡県富士宮市出身。東京造形大学美術学科Ⅱ類(彫刻科)卒業。埼玉県と東京都の産休代替教職員(小学校、中学校、養護学校、ろう学校)を経て、東京都の図画工作科教員・指導教諭となった。現在、品川区立立会小学校に勤務して20年目、主任教諭。東京都図画工作研究会(都図研)の副会長や第57回都図研城南大会(関東甲信越静地区造形教育連合東京大会)研究局長、品川区の研究部長などを務め、現在は都図研の研究局のアドバイザーとなる。家にはオオバタン(オウム)がおり、オートバイ好き。

手塚千尋(てつか・ちひろ)(写真左)
明治学院大学准教授。美術領域固有の探究のプロセスとSTEM領域の学びの接続点をさぐる研究に従事する。共著に『ABRから始まる探究(2)初等教育編 子どもの表現とアートベース・リサーチの出会い』(学術研究出版社)、『アート学習ハンドブック(学術研究出版社)』がある。