学び!と地理
2026.04.08 <Vol.04>
地理的な見方・考え方を働かせた「B(1)世界各地の人々の生活と環境」の授業① ~「場所」や「人間と自然環境との相互依存関係」に着目した追究
B(1)「世界各地の人々の生活と環境」のねらい
中学校学習指導要領 社会科地理的分野
B(1)世界各地の人々の生活と環境
場所や人間と自然環境との相互依存関係などに着目して,課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識を身に付けること。
(ア)人々の生活は,その生活が営まれる場所の自然及び社会的条件から影響を受けたり,その場所の自然及び社会的条件に影響を与えたりすることを理解すること。
(イ)世界各地における人々の生活やその変容を基に,世界の人々の生活や環境の多様性を理解すること。その際,世界の主な宗教の分布についても理解すること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア)世界各地における人々の生活の特色やその変容の理由を,その生活が営まれる場所の自然及び社会的条件などに着目して多面的・多角的に考察し,表現すること。
(下線部は筆者)
学習指導要領では、B(1)「世界各地の人々の生活と環境」の学習で着目する視点として、「場所」と「人間と自然環境との相互依存関係」が例示されています。この二つの視点に着目してこの中項目で地理的な見方・考え方を働かせるためには、世界の人々の特徴的な生活をもとに、「その背景にはどのような自然及び社会的条件があるだろうか」などの問いを追究する学習活動が考えられます。こうした学習を通して、世界の人々の生活の多様性や、その背景にある気候や宗教といった地理的環境に関する基礎的な知識を習得するとともに、人々の生活と地理的環境とが相互依存関係にあることを具体的な事例をもとに理解することが求められていると言えます。これらは、後続するB(2)「世界の諸地域」の学習の基盤となるものであり、中学校社会科の他分野やその後の学習において地理的条件に着目して考察する際にもいきるものです。
思考力等に関しては、「生活が営まれる場所の自然及び社会的条件に着目して多面的・多角的に考察、表現する」ことが求められています。中・高等学校での地理学習に共通して示されている「位置や分布、場所、人間と自然環境との相互依存関係、空間的相互依存作用、地域などに着目して、多面的・多角的に考察」する力を養うという目標に照らせば、この中項目の学習は、社会的事象の見られる「場所」の地理的「環境」に着目して考察する力を育成する第一歩とも言えそうです。
世界や日本の枠組みを捉える大項目Aの学習を踏まえ、「場所」や「人間と自然環境との相互依存関係」などに着目して考察を進めるこの中項目の学習は、本格的な地理学習のスタートと考えてよいかもしれません。中学校第1学年という発達段階をふまえれば、直接体験することが難しい世界の諸地域やその環境に対する関心を高めるための配慮が必要です。生徒にとって身近な話題を取り上げてそれまでの生活経験を生かしたり、景観写真や動画など魅力的な資料を効果的に活用したりするなどして、学習意欲を喚起しながら、適切な課題を設定して追究する学習過程の工夫が大切です。まずは気候に関する学習のポイントについて考えたいと思います。
気候への着目
次の表は、ある都市の気温と降水量に関するものです。この表を見て生徒はどんな特徴に気づくでしょうか。年平均気温は東京と大きな差はないものの冬は日本ほど寒くならず、夏も日本ほど暑くはないこと、年間の降水量は300㎜程度で東京と比較してかなり少ないこと、日本とは異なり気温の高い時期に降水量が少ない気候であることなどを発見するでしょうか。白地図に候補地を示し、気候分布図を活用しながらどの都市のものか考える活動を取り入れてもよいかもしれません。
この都市は日頃ニュースで取り上げられることも多い、アメリカのロサンゼルスです。四季が明瞭な日本と比較して、生活にどのような特徴や工夫が見られるかを調べさせてみてもよいかもしれません。
なお、下の図は前掲の表を雨温図にしたものですが、表形式と比較することで、気候の特徴を視覚的に捉えやすいという雨温図やハイサーグラフの意義を実感することができるかもしれません。
残念なことに、雨温図やハイサーグラフは、地理学習以外では使用される機会がほとんどなく、読み取りに苦手意識をもつ生徒も少なくないようです。持続可能な社会づくりにとって「人間と自然環境との相互依存関係」という視点は必要不可欠なものです。地域の気候に着目してその特徴を調べる機会を確保し、雨温図などから気温と降水量の特徴という基本的な地理情報を収集する技能を身につけることが重要です。
気候の多様性を実感する学習
自然環境の多様性を捉える上では日本との比較によって具体的に捉えられるような工夫が大切です。例えば、気候区分の熱帯の条件として最寒月の平均気温が18℃以上であることがありますが、これは東京の月平均気温では5月の18.8℃、10月の18.0℃(いずれも気象庁)に相当します。最も寒い月でも東京の5月や10月と同じかそれ以上であるということから、生徒はどのような生活の特徴をイメージするでしょうか。例えば衣服などに着目して具体的に考えてみるとよいと思います。気候区分の基準値を覚える必要はありませんが、日本とは気候の異なる熱帯地域の生活をイメージする上では、こうした対比が有効なのではないかと思います。
また、教科書には各気候帯の代表的な都市の雨温図を東京の雨温図と並べて掲載している例が多いようです。これらを使って東京と対比させて特徴をつかむとともに、繰り返し行うことで読み取りのポイントを理解することが大切です。
なお、気象庁のホームページなどからデータを収集して、身近な地域の雨温図を作って比較してみてもよいでしょう。身近な地域と比較することで違いを一層実感することができるかもしれません。いずれにしても、例えば東京の年平均気温(およそ16℃)や年降水量(およそ1600㎜)など、比較対照できる気候の基礎的なデータを容易に参照できるようにすることが大切です。
自然条件への関心の高まり
先日あるテレビドラマで「イギリスでは誰も傘をささないよ」という台詞を聞き、「英国紳士は傘をささない」という言葉を思い出しました。気象庁のホームページ(https://www.data.jma.go.jp/cpd/monitor/nrmlist/NrmMonth.php?stn=03772)でデータを確認すると、ロンドンでは毎月40~70㎜の降水があることがわかります。ロンドンで1㎜以上の雨が降る日数は東京よりも少し多いようですが、年間の降水量は633㎜と東京の半分以下です。同じ温帯の湿潤な気候に分類されますが、雨の降り方には違いがあるようです。この事例が、生徒の関心を引くかどうかはわかりませんが、身近な事例について実際に調べることが、場所の自然条件への関心につながるのではないかと思います。
この中項目の学習を通じて「そこで見られる人々の生活の特色の背景には、どのような自然条件があるのだろうか」という問いをもてるようになることが、この中項目の一つのゴールイメージといってよいのではないかと思います。そうした状況が実現できれば、気候の分布などの知識がいきてはたらくものになるようにも思われます。場所の自然条件に着目した考察には、自然条件に着目して考えることの意義や自然条件の調べ方の理解が必要です。以降の地理的分野の学習でも繰り返し行うことで、そうした学習の成果として、地理学習以外の場面でも生徒が自ら気候などの場所の自然条件に関する情報を収集する姿が見られることを期待したいと思います。