学び!とシネマ
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(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.
もう6年ほど前になるが、フランスのシルヴァン・ショメ監督のアニメーション映画「ベルヴィル・ランデブー」を見た。自転車好きの孫を訓練して、ツール・ド・フランスに出場させたおばあちゃんが主人公。レースの最中に孫がマフィアに誘拐される。おばあちゃんは、三つ子のおばあちゃんたちといっしょに、愛する孫を救いだそうとする。いささかデフォルメされた映像表現ながら、ほのぼの感たっぷり。マフィアを追いかけるシーンなど、ユーモアと洒落っ気のあるアニメーションであった。
そのシルヴァン・ショメの新作が「イリュージョニスト」(クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館配給)。前作「ベルヴィル・ランデブー」のタッチとちがって、老手品師と少女のふれ合いを、美しく切なく、老いと若さ、そして時代の変遷を、しっとりと描いていく。
テレビが普及、ロック音楽が世界にあふれようとする1959年のパリ。かつては人気があったと思われる手品師のタチシェフは、今では場末のバーで手品を見せている。スカーフを使って、帽子からウサギを取り出す手品などは、もはや時代遅れ。
やがて、パリから逃れるように、タチシェフは、スコットランドの離れ小島にたどり着く。やっと電気が点灯したばかりの田舎町のバーで、タチシェフは手品を披露する。それでも、素朴な町の人たちは、帽子から電球を取り出すタチシェフの手品に、喝采を送る。
バーで働く、身寄りのない貧しい少女アリスは、タチシェフの手品に感動、夢を叶えてくれる魔法使いと思ってしまう。なんと、島を離れるタチシェフの後を追いかけていく。
心やさしいタチシェフは、アリスから、自分の生き別れになった娘の面影を見いだす。ふたりは、エジンバラにたどり着く。そして、言葉の通じないふたりの共同生活がはじまる。
アリスはタチシェフの世話をして、タチシェフはアリスの望むものを、魔法のように取り出しては、プレゼントする。そのようなことが永遠に続くわけはない。
時代は変わってゆく。タチシェフの財布の中身は少なくなっていく。そんなとき、すっかり成長したアリスは、恋をする。そして、ふたりは…。
カットカットの映像が、ゆったりと暖かく、優しい。アメリカ製の飛び出してくるアニメーションとは対極の静謐さである。
原作は、映画「ぼくの伯父さん」や「プレイタイム」の監督ジャック・タチの残した脚本に基づく。老いてゆく手品師と、成長しつつある少女とのふれ合いを、詩情豊かに描いた本作は、人生には輝かしい未来もあるけれど、多くの時間を生きた人生もあることを伝えて、哀切極まる。
2011年3月26日(土)より
TOHOシネマズ六本木ヒルズ
ほか全国ロードショー
■「イリュージョニスト」
監督・脚色・キャラクターデザイン:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
美術監督:ビアーネ・ハンセン
作曲・ビジュアルエフェクト:ジャン=ピエール・ブシェ
デジタルスーパーバイザー:キャンベル・マカリスター
2010年/イギリス=フランス/カラー/1:1,85ビスタ/ドルビーデジタル・DTS/80分
原題:L’Illusionniste(英題:THE ILLUSIONIST)
配給:クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館
提供:クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館、スタジオジブリ、日本テレビ、ディズニー