学び!とシネマ
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(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC
長くて、不思議なタイトルだ。何がうるさくて、何が近いのか。どのような意味なのかを考えながら、映画を見ていた。
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(ワーナー・ブラザース映画配給)は、2001年のニューヨーク、9・11同時多発テロで父親を亡くした11歳の少年オスカーの物語。
オスカー(トーマス・ホーン)は、ブランコなど怖いものがたくさんあり、周囲にうまくとけ込めない繊細な少年だ。
オスカーは、父のトーマス(トム・ハンクス)が大好き。父と過ごす時間をかけがえのないものと思っている。父は、そんな息子のために、調査探検ゲームを考え出す。たとえば、「20世紀に共通する物探し」とか、昔、ニューヨークにあった「6番目の区を証明する物探し」といったゲームである。
9・11の事件で、父が亡くなる。
1年が経過する。オスカーはまだ、父が死んだことに納得がいかない日々を過ごしている。ふと、オスカーは、父のクローゼットから1通の封筒を見つける。「ブラック」と書かれた封筒には、鍵が一つ入っていた。オスカーは、きっとこれは、父の仕掛けた調査探検ゲームだ、ブラックという人を訪ねあてて鍵の秘密を解明すれば、父の残した何らかのメッセージに行き着くのではないか、と思い込む。
オスカーは、電話帳でブラックの名前を探す。ニューヨークには、ブラックという名前は472人もいる。オスカーは、綿密な計画を立てて、一人一人訪ね始める。
母(サンドラ・ブロック)は悲しみに暮れている。「出かける」としか言わないオスカーは、母との関係もうまく行かなくなっている。
何人ものブラックさんたちは、オスカーの話に聞き入り、励ましてくれるが、鍵の秘密は解明できないままである。
オスカーの祖母(ゾーイ・コールドウェル)は、近所に住んでいる。ある日、オスカーは、祖母の家にいる間借り人の老人(マックス・フォン・シドー)に出会う。間借り人は口がきけないため、オスカーとは筆談で話す。間借り人は、オスカーのブラックさん探しに同行を申し出る。
「やってみないと分からない」、「怖さを乗り越えて進め」と言っていた父の言葉を、オスカーは思い出す。オスカーと間借り人の、ブラックさん探しの「旅」が続く。
はたして、オスカーは、鍵の秘密を探り当てることができるのだろうか?
オスカーの視点からではあるが、多くのことが描かれる。オスカーは、母や祖母には言えない秘密を抱えている。そして、オスカーの行動を通して、9・11後のニューヨークの縮図が浮かび上がる。オスカーの出会う、多くの人たちの人生さえも。
監督のスティーブン・ダルドリーが撮った長編映画は、これまでに「リトル・ダンサー」、「めぐりあう時間たち」、「愛を読むひと」の3本だが、いずれもアカデミー賞の監督賞にノミネートされた。4本目となる本作は、今年のアカデミー賞では、監督賞のノミネートは果たせなかったが、作品賞、助演男優賞(マックス・フォン・シドー)にノミネートされている。
オスカーに扮するトーマス・ホーンは、高い知能があるが、広汎性発達障害の疑いもある少年役を熱演する。
大人であっても、かけがえのない人や物を失うことは、辛いことだろう。まして、オスカーは、まだ少年である。辛い経験の少ない若い人は多いと思うが、長い人生、いつか、どこかで、誰しもが辛い体験を持つはずだ。
どんなに辛くても、何を信じ、どう行動すればいいのか。映画は、何がうるさくて、何が近いのかを考えることで、前に進む勇気を与えてくれる。怖がっていたブランコを、オスカーはついに一人で漕げるようになるのだから。
2012年2月18日(土)より、丸の内ピカデリー
ほか全国ロードショー
■「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」公式Webサイト
原作:ジョナサン・サフラン・フォア
監督:スティーヴン・ダルドリー
製作:スコット・ルーディン
脚本:エリック・ロス
撮影監督:クリス・メンゲス
美術:K.K.バレット
衣装:アン・ロス
出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、マックス・フォン・シドー、バイオラ・ディビス、ジョン・グッドマン、ジェフリー・ライト、ゾーイ・コールドウェル
2011年/アメリカ/129分
原題:Extremely Loud and Incredibly Close
配給:ワーナー・ブラザース映画