学び!とシネマ
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(c) Sigma Films Limited/ BBC 2011
最近見た2本のおすすめ映画、まずは「ワンナイト、ワンラブ」(グラッシィ配給)。
昔、「手錠のままの脱獄」という映画があった。特殊な状況での人種差別を描いた、スタンリー・クレイマー監督の傑作だった。囚人護送車が事故を起こし、白人のトニー・カーティスと黒人のシドニー・ポワチエが、手錠に繋がれたまま脱走してしまう。ふたりの囚人は、お互いの肌の色に憎しみを抱いている。しかし、手錠に繋がれているため、行動をともにせざるを得ない。やがて、ふたりの間には以前とは異なる感情が芽生えてくる、といった映画だった。
「ワンナイト、ワンラブ」は、この「手錠のままの脱獄」と似たシチュエーションだが、舞台は、イギリスのスコットランドで開催されている最大級のロック・フェスティバル。ロック・シンガーのアダム(ルーク・トレダウェイ)は、女性だけのパンクバンドのモレロ(ナタリア・テナ)と、ささいなことから喧嘩となる。ふたりは、通りがかった警備員から、仲良くしろと言われ、手錠をかけられてしまう。
身勝手なアダムに、気の強いモレロだ。いがみあっているふたりだから、話は合わない。なんとか手錠を外そうと、いろいろ努力をするが、うまくいかない。アダムにはガールフレンドが、モレロにはボーイフレンドがいる。バンド仲間たちも加わっての大騒動になる。やがて、モレロのバンドの出番が近づいてくる。仕方なく、手錠に繋がれたまま、アダムは、モレロのバンドと同じステージに立つことになる。
映画は、実際のロック・フェスティバルの開催中に撮影しているので、ドキュメンタリー・タッチ。実際のステージでのロックが聞こえている。まるで、フェスティバルの現場にいるかのように、現実とフィクションが一体になっていく。ステージが始まる。モレロたちの演奏に、アダムが加わる。それがまた、たいへんな盛り上がりを見せる。もちろん、ふたりの手錠は繋がったまま。そして、さらにいろいろな事件が起こる。やがて、アダムとモレロには、今までとは違う感情が芽生えてくる。
制限された状況でのドラマ展開が、スピーディ。困難に直面しながらも、音楽を介してのふたりの感情の変化が、巧みに捉えられる。ロック音楽に詳しくなくても、じゅうぶんに楽しめる映画だ。

(c)Twin Triumph Productions, LLC
もう1本はドキュメントの「ミラクルツインズ」(アップリンク配給)。日本ではあまり知られていないが、子供の遺伝性の難病に嚢胞性線維症(CF)がある。粘度の高い分泌物のせいで、肺や膵臓の機能を著しく低下させるという難病だ。医学の進歩で、なんとか延命は図れるが、決定的な治療は臓器移植しかない。
一卵性双生児のアナベル・万里子とイサベル・百合子は、1972年、ロサンゼルス生まれ。父はドイツ人、母は日本人である。ふたりは、生まれつき、肺の嚢胞性線維症で、幼いころから、何度も何度も入退院を繰り返していた。しかし、ふたりは厳しい闘病生活に耐え、なんとか大学を卒業する。アナベルは遺伝カウンセラーとしてスタンフォード大学病院に勤務、イサベルは、ソーシャルワーカーとして、アナベルと同じ病院に務める。
治療には、臓器移植しか方法はない。臓器提供者が現れるまで、手術を待つしかない。イサベルは結婚するが、いつ肺機能が低下するかは分からない。2000年、アナベルの肺機能が低下、なんとか両肺の移植手術を受ける。イサベルもまた、2004年、移植手術を受ける。
映画は、アナベルとイサベルの幼い頃からの闘病生活と、その周辺を丹念に描く。ふたりは、常に呼吸困難である。常に病院での生活である。臓器提供を受けるまで、死と向き合って、手術を待ち続ける生活である。
しかし、ふたりはくじけない。ひたすら、生き抜こうと考える。そして、見事に生き延びる。
臓器移植をめぐっての考え方は、アメリカと日本では、いささか異なっている。臓器を提供することについては、日本ではなかなか浸透していない。脳死か心臓停止かの死の定義についても、日本では考え方はさまざまだ。映画は、臓器提供や臓器移植についての、幅広い理解を訴えるが、果たして、日本ではどのような展開になるのか、まだまだ議論が続くことと思う。
健康保険証の裏面を見てみた。「脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植の為に臓器を提供します」とあり、「心臓が停止した死後に限り、移植の為に臓器を提供します」ともある。どちらが「死後」なのか、明確ではない。臓器提供を承知したとしても、提供したくない臓器が選べることになっている。心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球、である。眼球だけは提供するとした友人がいるが、日本全体では、臓器提供を承知する人は、まだまだ絶対数が少ないという。
映画は、ことさら、臓器移植を訴えたりはしない。ふたりの、ひたすらに生きていく気力、姿勢が示される。アメリカでは、手術費用など、経済的に困っている場合でも、救済基金のプログラムが用意されていたりの道は開かれている。静かな表現だが、ふたりの肯定的な生き方に、ときめく。
映画「ワンナイト、ワンラブ」と「ミラクルツインズ」は、人生の困難に対して、どう対処するかの生き方を問いかけている。つまりは、与えられた人生をどう生きていくか、ということだろう。まだまだ、映画から学ぶことは多い。
『ワンナイト、ワンラブ 』渋谷シネクイント
ほか全国順次公開中
『ミラクルツインズ』2012年11月10日(土)より、渋谷アップリンク
ほか全国順次公開
■『ワンナイト、ワンラブ』
監督:デヴィッド・マッケンジー
プロデューサー:ジリアン・ベリー
撮影監督:ガイルズ・ナットゲンズ
音楽監督:ユージン・ケリー
出演:ルーク・トレダウェイ、ナタリア・テナ、マシュー・ベイントン、アラステア・マッケンジー、ルタ・ゲドミンタス、ソフィー・ウー
2011年/イギリス/82分
配給:グラッシィ
■『ミラクルツインズ』公式Webサイト
監督:マーク・スモロウィッツ
出演:イサベル・ステンツェル・バーン、アナベル・ステンツェル
2011年/アメリカ・日本/94分/英語・日本語
原題:The Power of Two
配給・宣伝:アップリンク