学び!とシネマ

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バベルの学校
2015.01.30
学び!とシネマ <Vol.107>
バベルの学校
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)pyramidefilms

 パリ10区にあるグランジェ・オ・ベール中学校。ここには、世界各国からフランスにやってきた子供たちがフランス語を集中的に学ぶ、適応クラスがある。年齢は11歳から15歳、日本でいうと中学生の年齢である。もとの国籍はまちまち。リビア、ウクライナ、中国、スリランカ、モーリタニア、ベラルーシ、ベネズエラ、ブラジル、セネガル、チリ、ルーマニア、セルビア、イギリス、ギニア、モロッコ等々20ヶ国におよぶ。人種が違えば、言葉も違うし、宗教も違い、風俗習慣も異なる。担任は、女性のブリジット・セルヴォニ先生。
 ドキュメンタリー映画「バベルの学校」(ユナイテッドピープル配給)は、この中学校の適応クラス24名の1年間を綴っていく。生徒たちには、さまざまな家庭の事情がある。政治的に亡命した両親がいる生徒、母国の過酷な風習に耐えられなかった生徒、少しでもいい暮らしをと移民してきた家族など、それぞれ事情が違っている。

(c)pyramidefilms

 授業の最初は、各国語で「こんにちわ」を言う。叔母と姪との親子面接が始まる。映像には出ていない彼女の母親は、読み書きができないが、娘の将来を真剣に考えている。母親の新しいパートナーとあまりフランス語で話さない、ボリビア生まれでチリ育ちの男の子は、母国語のスペイン語を忘れないようにと、言い訳をする。口数の少ない中国の女の子は、先生からもっと話すように言われる。みんなで映画を撮り始める。フランスにやってきたそれぞれの理由や、将来の夢を語り、それをカメラに収めていく。映画のコンクールがあって、そこに参加するつもりである。
 セルビアの男の子は、母親がユダヤ人で、ネオナチのひどい迫害から逃れてきた。ギニアの女の子は、生理が始まる年齢になると、自分の意志とは関係なく強制的に結婚させられる。モーリタニアの女の子は、パパの親戚から虐待を受け、ママのいるパリに逃れてきた。

(c)pyramidefilms

 自分の大事にしているものを紹介し合う授業がある。モロッコの男の子は、コーラン。ボーイスカウトの制服を着たイスラム教の女の子は、スカーフ。聖書をあげる女の子もいる。そこから生徒たちは、宗教をめぐる討論を展開する。アイルランドではカトリックとプロテスタントが戦っている、と発言する子もいる。先生は生徒たちを尊重し、自由に討論させる。
 生徒たちの多くの疑問が、フランス語のカードになって貼られる。なぜみんな同じ言葉を話さないのか? 神様はいる? なぜ大統領や王様が必要なのか? なぜ人間は動物を殺すのか? 悪魔はいるの? 地獄はあるの? 自分の宗教を信じるべきなの? なぜ金持ちは貧乏人にお金をあげないの? 生徒たちの問いに、おとなたちは、きちんと答えるべきだろう。
 映画のタイトルの「バベル」とは、旧約聖書の創世記の11章に出てくる「バベルの塔」である。ノアの洪水の後、ノアの子孫は、あちこちに散らばる。みんな同じ言葉を話している。シンアルの平野に住み着いた人たちは、自らの力を誇示しようと、神の作った石と漆喰ではなく、煉瓦を焼き、アスファルトで高い塔を作りだす。神が塔を見て言う。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」。奢りたかぶる人間への、神からの鉄槌と思う。
 「バベルの学校」の生徒たちは、言葉の違い、宗教の違い、人種の違い、習慣の違いなどを、違いとして認め合い、互いに尊重することを学んでいく。生徒たちの作った映画のコンクールが始まる。結果は?
 いまの世界のありようは、一部だけではあると思うが、異常である。憎しみと暴力に満ちている地域がある。報復の連鎖は、憎しみを増幅するだけである。「バベルの学校」を見ていると、テロリストや、テロリストと呼ぶ人たちも含めて、おとなたちの身勝手さが際立ってくる。インタビューに答えたセルヴォニ先生は言う。「生徒の話をよく聞くこと。生徒を励ますこと。生徒の価値を引き出し、自信を持たせること」。教育の根っこ、基本と思う。世界の異常な現実をみるまでもなく、教育の抱える課題は、まだまだ多い。
 監督は女流のジュリー・ベルトゥチェリ。「やさしい嘘」や「パパの木」といった劇映画を撮っている。いずれも、「命とは何か」を問いかけている。あわせてご覧いただくと、監督の希求する世界が伝わってくるはずだ。

2015年1月31日(土)より新宿武蔵野館(モーニングショー)ico_link渋谷アップリンクico_linkほか全国順次ロードショー!

『バベルの学校』公式Webサイトico_link

監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
編集:ジョジアンヌ・ザルドーヤ
オリジナル音楽:オリヴィエ・ダヴィオー
サウンド:ステファン・ブエ、ベンジャミン・ボベー
ミキサー:オリヴィエ・グエナー
制作:Les Films du Poisson、Sampek Productions
共同制作:ARTE France Cinema
配給:ユナイテッドピープル
原題: La Cour de Babel
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
フランス/2013年/フランス語/89分/1.85:1/カラー/5.1ch/ドキュメンタリー
文部科学省特別選定 社会教育(教養) 青年向き
文部科学省選定  社会教育(教養)成人向き
2015年1月15日選定
フランス版・アカデミー賞「セザール賞」2015
最優秀ドキュメンタリー ノミネート作品

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