学び!とシネマ

学び!とシネマ

12か月の未来図
2019.04.04
学び!とシネマ <Vol.157>
12か月の未来図
二井 康雄(ふたい・やすお)

©ATELIER DE PRODUCTION – SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017

 フランスのパリ郊外、なにかと問題のあるバルバラ中学校に、1年間の期限で、新しい先生フランソワ・フーコー(ドゥニ・ボダリデス)が、赴任してくる。貧困な移民たちの子弟が多く、勉強はあまり出来ない。さまざまな人種からなる生徒たちは、反抗的で、先生への敬意などは示さない。
 映画「12か月の未来図」(アルバトロス・フィルム配給)は、フランソワ先生と、反抗的な生徒たちとの触れあいから、「教育とは何か」をじっくりと考えさせてくれる。教育とは、教え方ひとつ。さまざまな方法論があると思うが、映画で描かれるフランソワ先生は、はじめは高圧的だったが、とにもかくにも、親身になって生徒たちに寄り添おうとする。
 もともと、フランソワは、パリきってのエリート高校で、国語を教えている。父親はピエール・フーコーという著名な作家で、妹も彫金作家として活躍している。フランソワは、父の新著のサイン会で、国民教育省の女性に、ふと持論を漏らす。「問題のある学校には、ベテランの教師を派遣すべきだ」と。その女性は、教育の困難校問題を担当している。
 すぐさま、フランソワは、国民教育省でのランチに誘われる。女性大臣まで登場して、フランソワは、問題のある中学校に、1年間だけの出向を引き受けざるをえなくなる。
 いろんな国からの移民の子弟が多く、教室では騒々しく、反抗的で、教師への敬意などは、ない。若い先生は、問題児は指導評議会にかけて退学させればいいと思っている。フランソワは、生徒たちのレベルを知ろうと、書取りのテストをするが、惨憺たる成績だ。
©ATELIER DE PRODUCTION – SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017 フランソワは、いろんな国からの生徒たちの複雑な名前を、覚えきれない。夜中、生徒たちの名前を必死で覚える。
 セドゥ(アブドゥライエ・ディアロ)という問題児がいる。なにかと問題を起こして、教師の間では、退学候補のひとりだ。母親が病気のせいか、学校でも何かと不安定な様子のセドゥを、フランソワは気遣う。
 過去の経験などは通用しない。どうすれば、生徒たちの意識が変わるのか、フランソワは悩む。フランソワは、丸ごと一冊、ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」を読ませ、「悪から善への歩み」などと説き、小説の成立背景を議論させる。アーネスト・ヘミングウェイのたった6語の小説「For sale : baby shoes, never worn」(「売ります。赤ん坊の靴。未使用」)を教え、その感想を発表させる。
 生徒たちの意識が少しずつ、変化を見せ始める。国語だけでなく、いろんな教科の成績がよくなり始める。同僚からは「カンニングでは」と疑われるほどの向上ぶりだ。
 成績のあがったご褒美に、みんなを連れてベルサイユ宮殿に遠足に行くことになる。ここで、問題児のセドゥが、とんでもないトラブルを起こしてしまう。果たして……。
 生徒たちは、フランスの中学3年生で、日本では、中学2年にあたる。ちょうど、おとなへのとば口で、なにかと難しい年頃だ。エリートの高校生たちに、皮肉を言って指導していた今までとまったく異なる環境だ。だが、フランソワは、悩みながらも、一歩二歩、踏み出していく。やがて、フランソワの奮闘ぶりに、同僚の女性教師も好意を示し始める。やがて、空からは、雪が降ってくる。
©ATELIER DE PRODUCTION – SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017 深刻な状況設定の映画だが、悲惨さは微塵もない。むしろ、コメディタッチ、子どもたちの一挙一動、おとなとのふれあいなど、笑えるシーンが多く、爽やかな余韻を残す。また、いじめを隠し通す日本の中学校とちがって、問題校とはいえ、フランスの中学校のありようから学ぶべきは多々。学校の本質は、決して、杓子定規ではないことが、よく分かる。
 フランソワに扮したのはドゥニ・ポダリデス。「コメディ・フランセーズ」の座員で、アルベール・カミュの同名小説を映画化した「最初の人間」では、主人公ジャックに、リセへの道を開いたベルナール先生役で出演していた。また、数々の舞台の演出を手がける、著名な演出家だ。監督、脚本は、もとフォトジャーナリストのオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル。ドキュメンタリーかと思えるほど、子どもたちの演技がのびのびして、自然だ。また、フランソワを、まるで立派な先生として描いていないところが、とてもいい。ことあるごとに妹に相談したり、婚約者がいる同僚に淡い恋心を覚えたりの、一喜一憂する、まことに人くさい教師役を割り振る。
 問題児セドゥの行動に、ドキドキハラハラ、笑っているうちに、エンドロール。メリー・ホプキンの唄う「悲しき天使」が流れるころには、思わず、こみあげてくるものがある。
 日本の中学生はもちろん、少なくとも、「学校の先生」は、ぜひ見ていただきたい映画だ。

2019年4月6日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー!

『12か月の未来図』公式Webサイト

監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
出演:ドゥニ・ポダリデス、レア・ドリュッケール
2017年/フランス/フランス語/107分/シネスコ/5.1ch/原題:Les Grands Esprits/英題:The Teacher/日本語字幕:岩辺いずみ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

Positive SSL