学び!とシネマ

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ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝
2019.10.23
学び!とシネマ <Vol.163>
ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2018- 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

 画家ファン・ゴッホを題材にした映画作品は多い。1853年、オランダに生まれたゴッホは、亡くなるまでの10年ほどの短い期間で、多くの作品を残す。生前に売れた絵はわずか1枚という。画家としての高い評価は、ごく一部の人のみ。ゴッホは、自ら耳を切り落とす。1890年、わずか37歳で、ピストル自殺する。
 ゴッホの画家としての圧倒的な名声は、死後ずいぶん経ってからである。映画の題材になるのは、それだけ、ゴッホの人生がドラマチックだからだろう。
 このほど公開されるのは「ゴッホとへレーネの森」(アルバトロス・フィルム配給)というドキュメンタリー映画で、「クレラー=ミュラー美術館の至宝」という副題がついている。
 タイトルになっているヘレーネ・クレラー=ミュラーは、オランダの資産家で、無名のまま亡くなったゴッホの作品と出会い、約300点を収集した女性だ。
 初めてゴッホの絵のことを知ったのは、ヴィンセント・ミネリ監督の「炎の人 ゴッホ」という映画だった。カーク・ダグラスがゴッホに扮し、ゴーギャン役で、アンソニー・クインが出ていた。この映画を見て、ゴッホとゴーギャンに親交があったことを知った。
 また、全8話からなる黒澤明監督の「夢」の第5話「鴉」には、映画監督のマーティン・スコセッシが、ゴッホに扮していた。
 さらに、直接、ゴッホとは関係ないけれど、「世界で一番ゴッホを描いた男」という中国映画があった。広東省ダーフェンの「油画村」で、ゴッホの複製画を20年にわたって描いている男が、本物のゴッホの絵を見たくて、オランダに行こうとするドキュメンタリーだ。
©2018- 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved これは未見だが、もとはBBCのテレビ映像で、ロバート・アルトマンが監督した「ゴッホ」もある。ティム・ロスが案内役を務めている。
 つい最近だが、全編アニメーションで、ゴッホの人生を描いた映画があった。「ゴッホ~最期の手紙~」で、ゴッホの絵を模写する世界じゅうの画家125人が結集し、その原画約6万枚から構成された力作だった。
 また、この11月8日から公開になるが、ウィレム・デフォーがゴッホに扮した映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」を見た。これまた、恵まれなかったゴッホの画業と、晩年の暮らしぶりを精緻に描いた力作だった。
 「ゴッホとへレーネの森」は、へレーネ・クレラー=ミュラーが、どのようにゴッホの作品と出会い、惚れ込み、コレクションし、ついに、1938年、オランダの森のなかに「クレラー=ミュラー美術館」を創設するまでを描いている。ゴッホ作品はもちろん、生前、ゴッホと会うことのなかったへレーネの人生への賛辞に満ちている。
 へレーネは、「妻か修道女のように、ファン・ゴッホに生涯を捧げた」。また、へレーネの伝記作家は言う。「へレーネはゴッホと同様に手紙を書き続けた。3000通以上よ」。「ゴッホは皆が喜ぶ作品を描こうとしたのではない。人間の魂の深淵に触れようとしていた」。「へレーネの収集品は、死後に評価された。ファン・ゴッホと同じだ」。現在のクレラー=ミュラー美術館館長の女性は言う。「へレーネは人生をかけて収集し、一大コレクションを遺した」。作った美術館に、「生前に会うことのなかった2人は、今そこで共にいる」。「今は世界中から作品展示の依頼が来る」。
©2018- 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved へレーネは、資産家には希有な、ゴッホ同様の質素な暮らしぶりだったらしい。とにかく、ゴッホの作品に魅せられ、その人生をゴッホ作品のコレクションに捧げた。
 ゴッホは生前、スポンサーだった弟のテオをはじめ、多くの手紙を書いている。へレーネもまた、多くの手紙を遺している。全編のナレーションを担当するのは、映画「人間の値打ち」や、「歓びのトスカーナ」などに出ていたイタリアの女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキで、ハスキーだが、しっとりとしたナレーションで、ゴッホとへレーネの手紙を朗読する。
 本来、絵は見る人の感性によって、評価は異なる。それぞれ、好き嫌いがある。作品を見て、心を打ち、いいなあと思うのは、作品そのものではなく、鑑賞する側の人間の内面、感性だろう。ゴッホの作品が、これだけ多くの人を魅了するのは、恵まれなかった境遇でも、絵として表現する情熱を決して忘れなかったからだろう。
 たまたま、10月11日から、上野の森美術館で「ゴッホ展」が開催されている。来年の1月25日からは兵庫県立美術館でも開催されるので、ぜひ見てみたいと思っている。
 「糸杉」、「ひまわり」、「星月夜」、「自画像」、「タンギー爺さん」、「夜のカフェテラス」など、いずれも燃えるようなゴッホの表現が大好きだ。これからも、さまざまな形で、ゴッホは語り継がれ。その画業は、表現され続けると思う。

2019年10月25日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』公式Webサイト

案内人:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
監督:ジョヴァンニ・ピスカーリア
脚本:マッテオ・モネタ
美術史コンサルタント:マルコ・ゴルディン
音楽:レモ・アンツォヴィーノ
英題:VAN GOGH – OF WHEAT FIELDS AND CLOUDED SKIES
2018年/イタリア映画/伊語・仏語・英語/ビスタ/5.1ch/90分
協力:オランダ政府観光局
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

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