学び!とシネマ

学び!とシネマ

犬部!
2021.07.19
学び!とシネマ <Vol.184>
犬部!
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2021『犬部!』製作委員会

 篠原哲雄監督の新作「犬部!」(KADOKAWA配給)が公開される。一見、不思議なタイトルだが、映画を見進めるうちに、納得がいく。
 犬や猫だけではなく、生きとし生けるものの命の尊さを、声高ではなく、獣医学を学んだ若者たちの視点から描いた力作だ。実話に基づいているが、フィクションである。映画の基になったのは、2010年に出版された「北里大学獣医学部 犬部!」(片野ゆか・ポプラ社)で、評判をよんで、複数のコミックにもなった。
 篠原監督の作品は、「月とキャベツ」以降、そのほとんどを見ている。幅広い題材を映画化しているが、どの作品にも共通して思うのは、清潔、誠実なこと。
 昨年の暮れ、「シネマDEりんりん」という映画サークルの主催で、篠原監督と1時間ほど話す機会があった。監督がなぜ映画の世界に入ったのかから、助監督を経て監督になったいきさつ、師匠筋になる森田芳光監督の思い出、最新作の状況などを話してくれた。愚問にも、誠実かつ丁寧にご対応をいただき、監督のお人柄がしのばれた。
 新作「犬部!」の舞台は、青森県の十和田市だ。2003年初夏。花井颯太(林遺都)は、十和田獣医科大学で学んでいる。授業が終わるやいなや、颯太はアパートに戻ろうとする。颯太は生来の犬好きで、生まれたての子犬の面倒をみるためだ。
©2021『犬部!』製作委員会 アパートに戻る途中、颯太は傷だらけの犬を保護する。颯太の後輩で、猫好きの佐備川よしみ(大原櫻子)が、子犬を見るために颯太のアパートにやってくる。さらに、颯太の同級生の柴崎涼介(中川大志)もやってきて、颯太の連れ帰った犬の体をきれいにして、ニコと名付ける。持ち主が判明する。ニコは、大学の外科実習用の犬で、やがては解剖される運命だと分かる。
 居場所をつきとめた安室教授(岩松了)と、教授の手伝いをしている秋田智彦(浅香航太)は、逃げ出した犬を連れ戻しに、颯太のアパートにやってくる。いったん、連れ戻されたニコは、再び颯太のアパートに逃げてくる。教授は、帰ろうとしないニコを見て、「我々は、動物の命を救うために獣医学を学んでいる。君は獣医学の世界を変えるかもしれない」と、ニコを颯太に譲渡する。
 「俺は一匹も殺したくない」という颯太は、「犬部」の設立を柴崎たちに打ち明ける。「犬たちを保護して新しい飼い主を見つけること」と颯太。「犬部」は、颯太、よしみ、柴崎、秋田の4人で発足する。
 16年後の2019年晩春。颯太は東京で花井動物病院を開業している。他の犬に噛まれた犬、野良猫の去勢依頼など、どんな動物でも助けることで、颯太の病院は繁盛している。
©2021『犬部!』製作委員会 ある日、颯太を訪ねて、川瀬(田辺桃子)という女性がやってくる。なんでも、十和田市のペットショップで、ペットが増えすぎて、飼育が不可能になっている、という。颯太は、十和田市に向かう。
 秋田は、父親の経営する秋田アニマルクリニックの獣医師になっている。野良猫や野良犬を受け入れられない現実に、心苦しく思っている。また、よしみは、過去のトラウマを抱えながら、伝染病の研究者になっている。
 颯太は、十和田市のペットショップで、ある事件を起こし、逮捕されてしまう。ニュースで知った秋田とよしみは、十和田に駆け付けるが、柴崎の姿はない。
 映画は、「犬部」4名の現在と過去を行きつしつつ、その生き方を描いていく。
 優れた映画監督は、手を変え品を変え、人の生き方を描く。篠原監督も、さまざまな人物の生き方を描いてきたと思う。「犬部!」もまた、ペットの命の尊さを訴えるだけではなく、4人の若者の生き方に寄り添う。
 若い俳優たちが、力のこもった演技を披露する。安室教授役の岩松了は、劇作家、演出家でもあり、達者。出番は少ないが、田中麗奈が顔を見せる。
 さらに安定、円熟した篠原演出をお楽しみください。

2021年7月22日(木・祝)全国ロードショー

『犬部!』公式Webサイト

監督:篠原哲雄
脚本:山田あかね
出演:林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大、田辺桃子、安藤玉恵、しゅはまはるみ、坂東龍汰、田中麗奈、酒向芳、螢雪次朗、岩松了
原案:片野ゆか「北里大学獣医学部 犬部!」(ポプラ社刊)
主題歌:「ライフスコール」Novelbright(UNIVERSAL SIGMA / ZEST)
配給:KADOKAWA