学び!と道徳

学び!と道徳

道徳授業、こんなのも、あり?!
2017.03.07
学び!と道徳 <Vol.05>
道徳授業、こんなのも、あり?!
大原 龍一(おおはら・りゅういち)

 先回の第4号において、特質を押さえた道徳の授業について少し述べました。小学校では、道徳科の完全実施まであと1年ほどとなりました。このところ色々なところでいわゆる「新しい道徳科の授業」に関する実践を散見します。表題にも挙げましたが、「こんな道徳授業があっていいの?」と思われるほど、さまざまな実践事例が報告されているのも状態です。
 そうした状況の中で、少しばかり道徳教育の研究に携わってきた者として、危惧観と危機感を感じざるを得ません。「教科化なんでもあり」の機運の中で、「もう手遅れ…」になってしまわないように、問題点を洗い出しそれを考えておこうと思います。
 事例を挙げてお話いたします。

1.「小学校第4学年 道徳・特別活動」の実践事例(注1)

 本事例は、道徳と特別活動(おそらく、学級活動)という2領域を合体させた単元構成です。
(1)単元名 「いじめをなくそう」
(2)単元を通して身に付ける力

いじめをなくすために行動しようとする態度

(3)指導計画(4時間扱い)

①第1時
【本時】

ア.「道徳」 相互理解・寛容
イ.<いじめのない楽しいクラスにしよう>
ウ.自分の周りでいじめが起こったとき、どのように行動するかを考える。

②第2時

ア.「道徳」 個性の伸長
イ.<その人らしさをさがそう>
ウ.いじめを生まないためには、互いの「その人らしさ」を受け入れ、認め合うことが大切であることに気付く。

③第3時

ア.「特別活動」
イ.<コミュニケーション力を高めよう>
ウ.言葉で伝えることに加え、相手の動きや表情をよく見て、相手が話したいことを知ることの大切さを学ぶ。

④第4時

ア.「特別活動」
イ.<気持ちのコントロールをしよう>
ウ.いらいらするなど「嫌な気持ち」になったときの心の変化について知るとともに、具体的な対処方法を学ぶ。

(4)本時の指導(道徳)
①【本時で身に付ける力】自分の周りでいじめが起こった時の対応を考えることができる。
②学習指導過程

ア.導入

○課題を把握する。

いじめをなくすためにどう行動するか考えよう

イ.展開

◎教材を視聴し、話し合う。
教材(いじめを傍観してしまった14人の子供たちが、何もできなかったことについて、一人ずつ言い訳をしていく内容。)
○周囲で見ている子の気持ちを考える。
★登場人物のいじめを傍観している15人目になったつもりで考える。
○いじめられている子の気持ちを考える。
★傍観者の心情を十分に考えた上で被害者の視点に転換することで、いじめられている子の心の痛みへの気付きを促す。

◎自分自身がどうするか話し合う。
○同じ場面に居合わせたとき、どのように行動したいかを考え、話し合う。
★2~3人のグループで考えを共有し、それぞれの発表を基にして議論につなげる。
○学習を振り返り、考えをまとめる。
★議論の後、いじめをなくすためにどのように行動するか、自分の考えを書くように伝える。

ウ.まとめ

○絵本の読み聞かせを聴く。
★自分や友達、それぞれのよさを認め、受け入れることの大切さを印象付け、第2時につなげる。

2.この事例から感じたこと、思ったこと

 本事例は、何があっても「いじめは許さない!そして、させない!」という強い決意と信念を感じる実践であることに、まずは敬意を払います。いじめることは、「弱いものをいじめてはなりませぬ」と言う会津藩校の「日新館」の教え(什の掟)を引き合いに出すまでもなく、何があっても許されることではありません。「ならぬことは、ならぬ」のです。
 ただ、道徳の授業実践として見た場合いくつかの疑問を感じます。今回は私の素朴な疑問を記すに留めておきます。
(1)道徳の時間(道徳科)と他教科等とで単元構成をすること。それと同時に、道徳の時間の本来の役割である「補充、深化、統合」について。
(2)単元の目標「いじめをなくすために行動しようとする態度」における「態度」と道徳の時間で育てる道徳的実践力の「態度」との整合性。
(3)本時の主題である「イ.いじめのない楽しいクラスにしよう」は道徳の主題ではなく、特別活動「学級活動」の主題でではないだろうか。また、本時のねらいである 「ウ.自分の周りでいじめが起こったとき、どのように行動するかを考える。」が道徳の時間のねらいたり得るだろうか。道徳の時間では、あくまでも「内面的資質である道徳的実践力(道徳科では使わなくなるが)」であります。
(4)上記と重なるが、「どのように行動するか」すなわち、「行動の仕方を見出すこと」が道徳の時間となってよいのでしょうか。
(5)道徳の時間、いや、他の学習においても「いじめを傍観している15人目になったつもり」をやらせてよいものだろうか。あえていじめの傍観者に(むりやり)ならせることに疑問を感じるのは私だけでしょうか。
(6)「自分の周りでいじめが起こったとき、どのように行動するかを自分のこととして捉え、考えている」が評価規準となっている!道徳の時間において、具体的な行動の仕方を評価するのでしょうか。

3.次回、私の見解を述べます

 これをお読みになられた方はどのように感じられましたでしょうか。次回は、私が抱いた疑問を基にして、私の見解を述べさせていただきたいと思います。いよいよこの連載も終盤を迎えます。もう少しおつきあいをお願いいたします。

 

注1:実践事例については、「平成28年2月 東京都多摩地区教育推進委員会第21次計画報告書」より引用させていただきました。

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