学び!と道徳2

学び!と道徳2

道徳教育の内容
2018.02.09
学び!と道徳2 <Vol.04>
道徳教育の内容
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 新年あけましておめでとうございます。皆様はどのようなお正月を迎えられたでしょうか? 我が家では大みそかに長男夫婦が初孫を連れて泊まりに来て、家族全員でにぎやかに新年を祝いました。お屠蘇も1歳の孫から最年長の私へと歳の順にいただき、みんなの健康と長寿を願いました。しかし、元旦の夜、孫が急に具合が悪くなり、あわてて休日診療所についていくとロタウイルスでした。自分の子どもの時もこのようなことがしばしばあったことを思い出し、子育ての大変さを思い出しました。親の子どもに対する慈愛、家族が育む家族愛、そして、健康の大切さを感じる正月でした。
 さて、1月21日に、道子、真理、響が所属しているMOS(早稲田大学道徳教育研究会)の主催で「中学校道徳教育セミナー」が早稲田大学で行われました。畿央大学大学院の島恒生先生の講演と二つの事例発表や、参加者全員がグループを作って道徳の授業の方法や評価などについて意見交換をして、話し合いました。道子、真理、響たちMOSのメンバーは、話し合いの司会や発表者としてとても頑張っていました。詳しいことは次回紹介したいと思います。

1 道徳教育と内容項目

「今日は、道徳教育の内容について考えてみましょう。中学校学習指導要領(平成29年3月31日告示)の「第3章 特別の教科 道徳 第2 内容」では『学校教育活動全体を通じて行う道徳教育の要である道徳科においては、以下に示す項目について扱う。』として、4つの視点と22の内容項目を挙げています。この内容項目とはどのようなものでしょうか?」
「学習指導要領に定められているのだから、先生は道徳科で生徒にしっかり教えなければいけない内容だと思います。」
真理「そうかな? それでは道徳的価値を押し付けることになるのではないかな?」
「中学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳編」には、『教師と生徒が人間としてのよりよい生き方を求め、共に考え、共に語り合い、その実行に努めるための共通の課題である。』とあります。つまり内容項目は、教師が教え込むものではなく、生徒が主体的に人間としての生き方を考え、よりよく生きる力を育む上で必要とされる道徳的価値を含んだ内容です。」
道子「生徒が考え、判断するための拠り所のようなものだと考えればよいですね。」

内容項目一覧表(クリックでPDFが開きます)

「右の表は、新学習指導要領に定められた小学校・中学校の内容項目を一覧にした表です。現行のものと比べて変わったところがわかりますか?」
「1~4の視点がA~Dの視点に変わっている。」
道子「視点の順番が入れ替わっている。」
「なかなか良い視点に気付きましたね。道徳科では1~4をA~Dに改め、1の視点をAの視点に、2の視点の『他の人』を『人』に改めBの視点に、そして、3の視点に『生命や』を加えてDの視点とし、4の視点をCの視点としています。これは、四つの視点が『自分自身』から『人』、『集団や社会』、『自然や崇高なもの』へと対象が広がるほうが生徒にとって理解しやすいと考えています。では、内容項目で変わったところはありますか?」
真理「各内容項目に標語が付きました。」
「内容項目内に含まれている重要な道徳的価値が分かりやすくなりましたね! ほかにありませんか?」
「中学校では、『思いやり』と『感謝』が一つになっています。」
「思いやりに対する感謝ということで統合されましたが、感謝には、『多くの人々に支えられて今の自分があるこということに感謝すること』もあることを忘れないでください。」
真理「『友情』と『男女の敬愛』が一つになっています。」
「これは男女の友情もあるし、LGBTのように多様な性が存在していることを踏まえて統合されたようです。」
道子「『集団生活の充実』と『より良い学校生活』が一つになっています。」
「生徒にとって一番身近な集団生活は学校生活なので一つにしています。しかし、生徒は学校以外にもいろいろな集団に所属していますので、集団生活の基本はしっかりと押さえておいて下さい。」
「『自然愛護』と『感動、畏敬の念』に分けている。」
「これは小学校の内容にあわせて分割されました。新しい内容項目は、自然の素晴らしさへの感動と東日本大震災などで経験した人間の力を超える自然への畏れを内容にしています。」

2 内容項目間のつながり

「次に小学校の内容項目とのかかわりについて考えてみましょう。中学校の内容項目数は24から22に減りましたが、小学校では1,2年生は16から19に、3,4年生は18から20に増えています。どうして増えたのでしょうか?」
「小学校でも道徳教育が重視されているということかな。」
真理「情報化が進み、人と直接話す機会が少ない子どもに会話の場を提供するためかな。」
道子「教科化の理由とされているいじめ問題とグローバル化です。」
「そうですね! いじめを防止するために『公正、公平、社会正義』『個性の伸長』『相互理解、寛容』を小学生のうちから学べるようにし、グローバル化への対応として『国際理解、国際親善』を増やしています。」
「『個性の伸長』、『公正、公平、社会正義』、『国際理解、国際親善』の内容項目は、小学1年生から中学3年生までの9年間学ぶことになる! これって押し付けているみたいになるのでは?」
「響君の指摘はとても大切なポイントですね。中学校学習指導要領の「総則 第2 教育課程の編成 4 学校段階間の接続」には、『(1)小学校学習指導要領を踏まえ、小学校教育までの学習の成果が中学校教育に円滑に接続され、義務教育段階の終わりまでに育成することを目指す資質・能力を、生徒が確実に身に付けることができるよう工夫すること。特に、義務教育学校、小学校連携型中学校及び小学校併設型中学校においては、義務教育9年間を見通した計画的かつ継続的な教育課程を編成すること。』とあります。また、「第3章 特別の教科 道徳 第3 指導計画の作成と内容の取扱い」では『1 各学校においては、(一部省略)道徳科の年間指導計画を作成するものとする。なお、作成に当たっては、第2に示す内容項目について、各学年において全て取り上げることとする。その際、生徒や学校の実態に応じ、3学年間を見通した重点的な指導や内容項目間の関連を密にした指導、一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を行うものとする。』とあります。内容項目は道徳性を育成するために児童生徒の発達段階を考慮して系統的に編成されています。その中には、同じ内容をらせん階段のように毎年繰り返すことにより深めていくスパイラルな指導(図1)、樹木の枝のように内容が広がり発展していくもの(図2)、複数の内容が蜘蛛の巣(ウェブ)のようにかかわりをもっているもの(図3)があります。一つの内容項目だけに視点を当てて指導するのではなく、内容項目間のつながりも考慮して指導することが求められます。」

図1

図2

図3

道子「岡田先生、『3年間を見通した重点的な指導や(中略)複数の時間で扱う指導』とはどのようなことですか?」
「年間35時間ある授業で22の内容項目をすべて実施しますが、残りの13時間に何をすればよいかカリキュラムマネジメントすることが大切です。中学1年生ではAの視点『自分自身』やBの視点『人』からはじめ、中学2年生、3年生と学年が進むにつれてCの視点『集団や社会』やDの視点『生命や自然、崇高なもの』へと視野を広げていくように指導していくことも考えられます。また、いじめ問題への対策としては、いじめに関する内容項目を1年間に何度か実施するということも考えられます。」
「残りの13時間は、生徒の発達の段階や実態を考え、指導計画を立てるということですね。」

 第4回目はいかがでしたでしょうか? 次回は「中学校道徳教育セミナー」の報告と道徳科について考えていきたいと思います。ご期待ください。