学び!と道徳2

学び!と道徳2

道徳科の評価①
2018.05.28
学び!と道徳2 <Vol.08>
道徳科の評価①
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 ゴールデンウィークが過ぎ、学校も本来の姿を取り戻す5月ですが、5月病といわれるように体調を崩して学習や仕事がうまくいかなくなる人が現れてくる時期でもあります。
 次のグラフは福島県教育委員会が不登校生徒数と復帰生徒数を月ごとに集計したものです。5月に不登校生徒が急激に増加することがわかります。4月は新しい学校や学級で緊張しながら頑張ってきた生徒が、ゴールデンウィークでほっと一息つくとともに今までの精神的な疲れや肉体的な疲労が噴き出て体調を崩すのでしょう。頑張りすぎてバーンアウトしないように本人自身が心がけることが大切ですが、周りの人が配慮してあげることも重要です。
 私が教諭時代に担当した母子家庭の女子生徒は、学校では熱心に授業に取り組み、クラスの学級委員に推薦されて頑張り、家庭ではキャリアウーマンとして働くお母さんをお手伝いして支えていました。しかし、中学2年生のゴールデンウィークに二人で沖縄に旅行して、青い空と海を眺めているうちに急に学校に戻りたくなくなり、不登校になりました。
 担任として生徒の立派な行動ばかり見ていて、心の中に抱えている悩みや苦しみに気づいてサポートしてあげられなかったことを今でも後悔しています。
 今回からは、道徳科の評価について学んでいこうと思います。道徳が特別の教科となり、見えない心をどのようにして評価するのか、評価をどうやって子供や保護者に通知するのかなど評価の在り方が大きな課題となっていると思います。
 新学習指導要領の評価観も押さえて、道徳科の評価の在り方について考えていきたいと思いますので、先生方の課題解決の糸口としていただければ幸いです。

1 形成的評価

「今回からは道徳科の評価について考えていきましょう。まず皆さんは評価と聞くとどのようなことを思い浮かべますか?」
真理「成績かな。」
「通知表の成績。5、4、3、2、1と母の怖い顔です。」
「響君は勉強をさぼっていたの? 通知表の成績は評定といいますが、大学生に評価のイメージを聞くとほとんどの学生が評価を成績と答えますね。近年、アメリカやイギリスなどでは評価についての研究や実践が盛んに行われています。その新しい評価観では、評価には『診断的評価(diagnostic assessment)』『形成的評価(formative assessment)』『総括的評価(summative assessment)』の三つの評価があるといわれています。診断的評価は、入学や学年当初などに、生徒の学力実態や生活体験、興味や関心、どの程度の知識や技能を持っているかなどを事前に把握する評価です。RPDCAのPlan(指導計画)を立てる前に行うResearch(学術調査)に当たるものです。」
真理「積み重ね教科といわれる数学科では、中学1年生の入学時期に小学校の算数のテストを実施して、1年生の学力を分析してその後の指導方法の参考にすることがありますが、それが診断的評価ですね。」
「そうですね! 診断的評価は学習前に実施する評価であることがポイントです。これに対して、学習後に実施する評価を総括的評価と言います。学習のねらいとすることが身についているか、学習の到達度を把握するものです。この評価を基につけられたものが、皆さんが思っている成績(評定)に当たるものです。」
道子「すると形成的評価とは学習中に行われる評価ということですか?」
「形成的評価は授業内の学習活動が意図したとおりの成果をあげているか確認し、成果をあげていないときは指導計画や指導方法の変更を行い、授業を改善していくための評価です。PDCAサイクルのCheck(評価)に当たるものであり、『指導と評価の一体化』を図るために行われる評価とも考えてよいでしょう。しかし、最近になりこの形成的評価がassessment for learning 『学習のための評価』と英訳されるようになりました。その理由は、形成的評価は教師にとっては授業の改善に取り組むための評価であるとともに、生徒自身が学習を改善するための評価でもあるという考えからです。この考えは新学習指導要領改訂の指針となった中央教育審議会答申の『第9章 何が身に付いたか-学習評価の充実-』の中で『学習評価は、学校における教育活動に関し、子供たちの学習状況を評価するものである。「子供たちにどういった力が身に付いたか」という学習の成果を的確に捉え、教員が指導の改善を図るとともに、子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには、この学習評価の在り方が極めて重要であり、教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性を持った形で改善を進めることが求められる。』と述べられています。」
道子「新学習指導要領の『主体的・対話的で深い学び』の主体的な学びとは、子供たちが自ら学ぶことですね。」
「そうです。主体的な学びを推進していくためには、学習の主体者である子供たち自身が自らの学びを評価していくことが大切です。答申の『評価に当たっての留意点等』には『評価の観点のうち「主体的に学習に取り組む態度」については、学習前の診断的評価のみで判断したり、挙手の回数やノートの取り方などの形式的な活動で評価したりするものではない。子供たちが自ら学習の目標を持ち、進め方を見直しながら学習を進め、その過程を評価して新たな学習につなげるといった、学習に関する自己調整を行いながら、粘り強く知識・技能を獲得したり思考・判断・表現しようとしたりしているかどうかという、意思的な側面を捉えて評価することが求められる。』とあります。子供たちが自ら学ぶために行う評価であり、そのためには評価活動が学習活動の一つとなる assessment as learning 『学習としての評価』、さらには子供たちの『学びと評価の一体化』が今後求められると思います。」

2 道徳科の評価の在り方

「次に道徳科の評価の在り方について考えていきましょう。響君、新学習指導要領には評価はどのようにすると書かれていますか?」
「『第3 指導計画の作成と内容の取扱いの4』に『生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすように努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。』とあります。この評価は『指導に生かす』とあるので、授業者つまり先生が授業改善のために行う形成的評価を意味しているのではないかと思います。」
「そうですね。道徳科における生徒の学習状況や道徳性の成長は、先生の指導によって変わってきますので、授業の評価に基づいて指導計画や指導方法を改善することが求められます。このこと以外にもこの文面からいくつか大切なことを読み取ることができます。その一つは、生徒の道徳性が学期や年間を通してどれだけ成長したかを把握することが求められていることです。生徒の成長は一人一人違います。つまり、他の生徒と比較するのではなく、生徒一人一人がいかに成長したかを積極的に受け止めて、認め励ます個人内評価が大切であることを示しています。また、継続的に把握するということは一時間ごとの評価ではなく、学習活動全体を通して見取り評価するということも表しています。このことは、授業は内容項目を主題として行われていますが、その内容項目ごとに評価するのではなく、大くくりなまとまりとして評価することが求められています。」
真理「岡田先生。もし、授業を通してある道徳的価値への理解が深まり、その道徳的価値を基に自分の生き方について考えるようになった生徒がいたらどのように評価しますか?」
「道徳的価値はよりよく生きるための基盤であり、人格の形成に関わるものですから、そのような場合には、特に顕著な成長として具体的に評価するべきでしょう。」
「なるほど! 数値などによる評価は行わない理由が少しわかったような気がします。僕は数値などで評価しない理由を高校受験などの進路資料として道徳科の評価を使用しないためだと今まで思っていました。成長を評価するには、54321やABCなどではなく、成長の状況を具体的に記述しなければ、何がどのように成長したのかよくわかりませんね。しかし、生徒一人一人の成長を具体的に記述するのは大変だなー。文章を書くことが苦手な僕はコピペ(コピーしてペーストすること)したくなる。」
真理「コピーはだめよ! 生徒は一人一人違うのだから。」
「……。」
「道徳科の評価は、生徒の人格に関する評価であるので、受験の資料にするようなことはあってはならないことです。それではもう一つの形成的評価、生徒自身が自分の学習を振り返り、学びを改善する評価について見てみましょう。このことについては学習指導要領には書かれていますか?」
道子「第3の2 指導に当たって配慮することの(3)に『生徒が自ら道徳性を養う中で、自らを振り返って成長を実感したり、これからの課題や目標を見付けたりすることができるよう工夫すること。』が、生徒の学習評価だと思います。」
「そうですね。生徒が自ら自分の成長を振り返る、つまり自己の成長を評価するという学習者の評価が述べられています。」
真理「自らを振り返るとは、冷静にかつ客観的に自分を見つめ、自分の状況を理解し、メタ認知を深めることだと思います。しかし、このことはとても難しいことだと思います。どのようにすればよいでしょうか?」
「大人になっても自己理解ができない人が確かにいますね! 次回は、『先生は生徒の成長をどのように捉えるか? 生徒は自分の成長をどのように捉えるか?』について議論をしたいと思いますので、考えてきてください。」
「宿題ですか?」
「主体的な学びです。」

 第8回はいかがでしたでしょうか? 今回は評価についての理論や新学習指導要領の考え方について述べましたので、次回は実際に評価をどのように行うか実践的な内容について考えていきたいと思います。ご期待ください。

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