学び!と共生社会

学び!と共生社会

オンライン教育とインクルーシブ教育
2021.06.25
学び!と共生社会 <Vol.17>
オンライン教育とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 新型コロナウイルスの感染拡大は、学校教育にも混乱と新しい様式をもたらしました。2020年2月27日に発出された内閣総理大臣による学校の休業要請から始まって、学校に登校しての教育機会が制限される状況がしばらく続きました。他方、こうした状況下で、多くの学校でオンライン教育が行われるようになり、文部科学省も「感染症拡大時や災害時などの「非常時」に児童生徒が学校に行けない場合、自宅でのオンライン学習を特例の授業として認める」通知を発出しています。(*1)
 これまでの数回にわたって、インクルーシブ教育におけるICT活用の意義について記してきましたが、その延長として、今回は新型コロナウイルス感染拡大から普及することになったオンライン教育について考えてみたいと思います。
 休業が続く中で、全国各地の学校でオンライン授業や動画コンテンツを使った学習の取り組みが実施されてきました。集中力を維持しにくい、健康を害する心配があるなどの課題が指摘されながらも、特別支援教育の分野でも積極的に取り組まれるようになりました。さまざまな課題があることを踏まえたうえで、オンライン教育には、十分活用の意義があることが認められてきたからだと思われます。独立行政法人日本特別支援教育総合研究所のインクルDB(インクルーシブ教育システム構築データベース)(*2)には、その実践のグッドプラクティス事例が集約されていて、実際にどのような取り組みがなされてきているのかを知ることができます。
 ただし、ここに紹介されているのは特別支援学校の実践例のみです。「本ページでは、全国の特別支援学校の取組の一部を掲載します。特別支援学校をはじめ、特別支援学級、通級による指導等、様々な学習や生活の場で参考になるような情報を紹介しています。」とあるように、通常の小学校や中学校でも役立つ情報はあるのですが、一方通行の感は免れません。
 インクルーシブ教育システム構築においては、小中学校の通常学級に在籍するさまざまなニーズのある児童生徒一人ひとりの学びへのアクセスの保障、あるいは、デメリットとされている課題を乗り越えるという観点からもオンライン教育の実践について情報交換や交流することがより必要になってきます。通常の学級に在籍しているものの集団活動での同調行動が苦手な児童生徒、生活リズムが不安定な児童生徒、外国籍で日本語を十分習得するに至っていない等の児童生徒にとっては、個別に対応して一人一人の学びを保障することで学習しやすくなり、指導する側も対応しやすくなるなどのメリットがあります。こうしたことがオンラインによる授業では、よりやりやすくなります。
 小川・野口(2021)(*3)は、オンライン教育をコロナ禍の状況下における緊急措置という側面で終わらせるのではなく、オンライン教育を必要とする児童生徒に対して「当たり前」に提供される選択肢の一つになって欲しいということから、米国におけるカリキュラム修正範囲の分類に基づき、オンライン教育の可能性についてインクルーシブ教育の観点から解説しています。「インクルーシブ教育システムにおいて、可能な限り同じ場で学ぶことを目指しつつ、一人ひとりの学びへのアクセスを保障していくためにオンライン教育は十分に活用できる」ものであり、そのためにも、オンライン教育を充実させるためのシステム開発と実践事例の蓄積・整理の両輪からの研究が必要であることを強調しています。小中学校における実践が蓄積され、情報共有や情報交換が進められていくことを期待したいと思います。

*1:感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_00015.html
*2:インクルDB:学校における遠隔授業や動画配信、新型コロナウイルス感染症予防の取組
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=117
*3:小川 修史、 野口晃菜(2021).インクルーシブ教育の観点に基づくオンライン教育の可能性.教育システム情報学会誌, 38(1), 16-23.
https://www.jsise.org/journal/journal_jp/pdf/vol_038/380101.pdf