学び!と公民
2026.04.20 <Vol.05>
社会科で消費者教育を学ぶ意義
1.はじめに
公民的分野の学習で馴染みの深い法教育、経済教育、消費者教育、主権者教育、租税教育。このうち一つだけ、他と異なる教育があります。それは何でしょうか。
正解は消費者教育です。消費者教育のみ法律名になっており、他の教育は法律名には入っていません。正式名称は「消費者教育の推進に関する法律」(平成二十四年法律第六十一号)、略称が「消費者教育推進法」です。
ただし誤解がないように。だからといって、他の教育より上位にある、と言いたいわけではありません。本稿では、社会科で消費者教育の「学び!」を深めることが要請されている、いやむしろ消費者教育のめざすところが社会科教育に近づいてきている点について、法律の変遷に沿って述べたいと思います。
2.消費者保護基本法―保護される対象としての消費者―
日本で消費者教育という言葉が本格的に登場したのは高度経済成長期と言われています。森永ヒ素ミルク事件(1955)、カネミ油症事件(1968)などの消費者問題が多発する事態を受け、1968年に消費者保護の立場から消費者保護基本法が制定・施行されました。同時期には各地に消費生活センターが誕生し、1970年には国民生活センターが発足しました。このうち消費生活センターでは、消費者相談を受けるばかりではなく「騙されない消費者」になるための啓発事業、消費者教育が展開されたのです。
消費者保護基本法では、国や地方公共団体に対して、消費者の保護に関する施策を策定・実施する責務が課されました。家庭科、社会科の学習指導要領(解説)に消費者保護の内容が入ってきたのはこの頃からです。ただし、1960年代から80年代にかけての消費者教育は、家庭科や技術・家庭科(家庭分野)での学習が中心でした。
3.消費者基本法―消費者の自立の支援をめざして―
高度経済成長が終わりを迎えた後、無限連鎖講(ねずみ講)、連鎖販売取引(マルチ商法)、霊感商法、キャッチセールスなどの被害が相次ぐようになりました。そこで、国は割賦販売法を改正してクーリング・オフ条項を加えたり訪問販売法を制定したりして、消費者保護政策を推し進めました。しかし、1990年代後半からの規制緩和、金融システム改革(日本版金融ビッグバン)により、商品先物取引などのデリバティブ取引、仕組預金や仕組債などの複雑な金融商品など、元本保証のないハイリスク商品の売買が気軽にできるようになりました。そこで、新たな手口での消費者被害の発生を防ぐために、「自立した消費者/賢い消費者」を育てることが学校教育に強く期待されるようになってきたのです。
こうした中、2004年に消費者保護基本法が消費者基本法へと全面改正され、消費者の権利の尊重と消費者の自立支援を消費者政策の基本とすることになりました。平成20(2008)年版学習指導要領で、社会科において法や金融、消費者に関する学習の充実が図られたのは、このような社会的要請によるものでした。ただし、まだ「消費者教育は社会科ではなく家庭科で実施を」といった感は否めませんでした。
4.消費者教育推進法―消費者市民の育成をめざして―
2012年に、消費者教育推進法が制定されました。同法では、消費者教育の目標を、個人の消費生活の向上のみならず公正で持続可能な社会の実現に向けたエシカル消費などを実践する「消費者市民」の育成とされました。法律に定められた「消費者市民」の概念は、社会科で育成をめざす「公民」に包含される部分が大きく、社会科は、家庭科に加えて消費者教育を担う中核的な教科になったと言えるかもしれません。
このことに関連して、「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編」には、次のような記述があり、示唆に富みます。
消費者の保護…の意義を理解することについては,(中略)また,消費者も自らの利益の擁護及び増進のために自立した消費者になることとともに,個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ,自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して,公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画することが期待されていることや,どのような消費者行政が行われているのかということについて理解できるようにすることを意味している。
(筆者が付した下線部は、消費者教育推進法第2条2項「消費者市民社会の定義」が引用されたもの)
公民的分野の授業では、教科書にも記載のある、商品選択のめやすとなるマークであるエコマーク、国際フェアトレード認証ラベルなどを事例として扱うことで、自ずと消費者市民としての自覚が涵養され、かつ社会科の目標の一つである「よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度」が育まれることが期待されます。
【参考文献】
- 拙稿「消費者問題の歴史と展開」日本消費者教育学会関東支部監修・神山久美他編『新しい消費者教育 第3版―これからの消費生活を考える―』慶應義塾大学出版会、2026年
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』東洋館出版社、2018年