学び!と算数

2026.10.05 <Vol.01>

思考・表現とコミュニケーションとの関係

小山 正孝(こやま・まさたか)

思考・表現とコミュニケーションとの関係

連載タイトルに込めた思い

 この「学び!と算数」連載タイトルのAIはArtificial Intelligenceの省略形で「人工知能」、HIはHuman Intelligenceの省略形で「人知」を意味します。そして“Ai”は、英語ではなく日本語の「愛」です。AI(人工知能)が急速に発展し、社会や生活に広く浸透してくるAI時代だからこそ、算数の学びには人間の“Ai”(愛)とHI(人知)が強く求められる、との思いが込められています。全6回の連載をとおして、このような筆者の思いをより具体的に示して、読者の皆様と共有できれば幸いです。

 第1回は、算数の学びにおける思考・表現とコミュニケーションとの関係についてです。

1.ダーツ問題 ― 考え、表現し、伝え合いましょう! ―

 このことを、筆者がつくった「ダーツ問題」(図1)を用いて考えてみたいと思います。まず読者自身で、この問題を解いてみてください。

図1 ダーツ問題 図1 ダーツ問題

[問1]の意図

 問1は、図1の上図のような9分割され得点が書かれたダーツ板に、4本のダーツ矢が当たった場合の得点の合計を問うものです。「合計は55点です」と、小学校1年の子どもたちでもたし算の学習をしていれば答えられるでしょう。

 確かに答えは1つですが、ここで終わらずに、教師が子どもたちに「どうして55になるのですか」や「どのようにたし算の計算をしましたか」と問うと、子どもたちはどのように反応するでしょうか。いくつかの異なった回答があるでしょう。このように、問1のような4つの数の和を求める単純な問いでも、その取り扱い方や教師の発問の工夫で、算数の本質につながる豊かな学習やその評価になると思います。

[問2]の意図

 次の問2は、問1を「逆」にして、得点の合計が55点になるようにするには、4本のダーツ矢をダーツ板のどこに当てたらよいかを問うものです。この問2を解くには少し時間が必要です。問2にはいろいろな答えがあるからです。このように、問1の問い方を逆にするだけで、正答が多様になり、子どもたちの意欲的な取り組みを促すことができるでしょう。

 そして、子どもたちが自力解決する時間を確保した後、ペアになり、どのような答えが見つかったかを共有したり、どのように考えて答えを見つけたかを相手に説明したりする機会をもつとよいです。それは、本当に合計点が55点になるかを確かめ、どのように考えて答えを見つけたか(例えば、合計の55を20と35に分けて考えるなど)を知ることができ、自分一人では見つけることのできなかった答えや考え方があることに気付くことができるからです。

[問3]の意図

 問3は、図1の上図のダーツ板から10点の所を取り除いた下図のような8分割されたダーツ板に変更した場合に、問2と同じことを問うものです。子どもたちにこの問3を提示すると、問2と同様に合計が55点になる4本のダーツ矢の当て方を探そうとするでしょう。しかし、しばらくすると子どもたちの中から「なかなか答えが見つからない!」「答えはあるのかな?」という声が聞こえてくることでしょう。子どもたちはそれまでの算数学習で「問題の答えは、あるもの」と強く思っているからです。「なぜ、答えが見つからないのだろうか」という問題意識が生まれる瞬間です。この問3はそのような疑問をもつ瞬間を期待してつくっています。

2.思考・表現とコミュニケーションとの関係

 図2は、複数の子どもの間でのコミュニケーションを単純化し、2人の子どもA、Bがそれぞれ言語を用いて問題について思考し表現する様子〈縦の関係〉と、言語を用いて互いに自分の考えを表現し伝え合うコミュニケーションの様子〈横の関係〉を表したものです。

図2 思考・表現とコミュニケーションとの関係 図2 思考・表現とコミュニケーションとの関係

 この図2について、留意すべき点が2つあります。「ダーツ問題」を一例として、以下を読んでください。

 第一は、個々の子どもが問題を解決する際にも重視すべき言語活動があるということです。図2の〈縦の関係〉に表されているように、個々の子どもは既有の知識・技能や数学的な見方・考え方、経験などを活用して問題を解決しようとします。そのとき、言語(数学的な表現)を用いて考え、それを表現したり見直したりすることで、考えを進めたり修正したりしてさらに表現していくという一連の言語活動が見られます。

 第二は、図2の〈横の関係〉に表されているように、複数の子どもが各自の考えを説明したり、互いに表現し伝え合ったりするという言語活動についてです。子どもが問題を解決する際の表現は自分自身に分かればよいともいえますが、自分の考えを相手に伝える際には、相手意識をもって自分の考えが相手に伝わるように、分かりやすく筋道立てて表現しなければなりません。また、相手から伝えられた表現を解釈して相手の考えを読み取ろうとする姿勢が大切です。

 算数科授業においてペア・トークや小集団、教室全体での話し合いなどのコミュニケーション活動が多く取り入れられていますが、それが図2の〈表層〉での「表現」のやり取りだけに終始せず、〈深層〉での「思考」のやり取りを大切にしたいものです。なぜなら、算数科における数学的なコミュニケーションの真価は、図2の〈表層〉での「数学的な表現」のやり取りを通して、〈深層〉での「数学的な思考」を共有し、広げたり深めたりすることにあると考えるからです。