学び!と数学

2026.09.07 <Vol.01>

次期学習指導要領改訂に向けての期待

下村 治(しもむら・おさむ)

次期学習指導要領改訂に向けての期待

はじめまして

 「学び!と数学」を担当します下村治です。現在は、公立の高等学校で通級による指導を本務としていますが、大学の教職課程では、数学科教員養成にかかわる非常勤講師もしています。
 私は、理学部数学科を卒業して、すぐに私立の中学校・高等学校で数学科の教員として仕事をしましたが、公立学校に着任したあと、人事の関係で特別支援教育にも足を踏み入れました。結果として、自身の数学に対する教育観についても大きな変換があり、軸足は数学教育という領域に間違いなく固定され、もう片方は様々な方向に踏み出せる自由度をもつに至りました。

 かつての私の数学教育観は、“数学アスリート育成”ともいえそうな、知識・技能の効率的な伝達のようなものだったと反省しています。しかし、現在は数学教育を“お勉強”から“学び!”に変えられるよう日々考えています。
 このコーナーを担当させていただくというお話をいただいたとき、近年私が取り組んでいること、考えていることを評価していただいたようで大変うれしく思いました。ぜひ、数学が人生の学びになるということを、お伝えできればと思います。

次期学習指導要領改訂に向けての期待

 初回の原稿はこれからの執筆に関する方向性をお示ししようと思って、日々生徒に伝えていることを一旦は書き上げました。しかし、8月4日、文部科学省から、次期学習指導要領改訂に向けて、各ワーキンググループの取りまとめ案が出されました。
 なんとタイムリーな!
 というわけで、慌てて書き直しています。(締め切りまであと5日!!)

図1 学習指導要領改訂の大きな方向性とは? 出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20260202-mxt-kyoiku-000047088_11.pdf) 図1 学習指導要領改訂の大きな方向性とは?
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20260202-mxt-kyoiku-000047088_11.pdf

 昨年9月に出された「論点整理」によれば、今後の検討の基盤となる考え方として、「生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育む」とされています。
 非常に素敵な文章だなと思いました。自分自身をずっとずっとアップデートしていくんだ、それは多様な他者と協力することで得られるんだ、その結果、自分もみんなも幸せになってそれがずっと続くんだ。そんな子どもたちを、教育の力でつくっていくんだ。そんなふうに読めます。
 「自らの人生を舵取りすることができる」
 これが「学び!」の向こう側にあるものだということに改めて気付かされます。

 今回、私が注目したのは、高等学校・数学Ⅰに含まれる「数学ガイダンス」です。
 人生を舵取りしようと思ったときに、航海図がないとどこに進んでよいのかわかりません。従来の学習では、なぜこの学習に取り組まなければならないのかわからないまま、教科書にあるから、とか、入試によく出るからといった理由で何も考えることなく高等学校の難しい数学に挑まなければならない生徒が多数いました。生徒が言う言葉で私が最も嫌いなのは、「数学苦手だからブンケー!」です。教科の得意不得意で自分の人生の舵を切ってしまうのはもったいないですし、必要な努力はしてもらいたいとも思います。

図2 「数学ガイダンス(仮)」に含まれる要素のイメージ(議論用たたき台) 出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20251222-mext_kyoiku01-000046464_02.pdf) 図2 「数学ガイダンス(仮)」に含まれる要素のイメージ(議論用たたき台)
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20251222-mext_kyoiku01-000046464_02.pdf

 「数学ガイダンス」に含まれる要素のたたき台とされているのは、

  1. 数学の全体像
  2. 数学と社会・仕事との関係
  3. 学びのつながり

といったもののようです。まだ議論の余地はたくさんあると思いますが、学びの指針が示されるのは非常に良いことだと思います。

 私が教員養成で大切にしているのは、丁寧に教えられる先生ではなく、子ども自身の気付きを引き出せる先生を育てることです。丁寧に教えて繰り返し練習すれば、一定の成果は得られますが、自分の人生を舵取りする力にはならないと思います。先生方は限られた時間の中でたくさんのことを指導したいので、気持ちはわかりますが……。
 もちろん何もないところからの気付きは難しいですから、必要な情報は丁寧に与えなければなりません。この「数学ガイダンス」がどのように機能するか。ちょっとワクワクしているところです。